PandoraPartyProject
八ツ内・弐津星
この世界はゲームだ。ああ、全くその通りだともさ。
誰も彼もあれもこれもそれも全てが駒・駒・駒。指で摘まんで動かして。弾いて取って弄ぶ。
「――チェック・メイト」
「ちょっと待ってよ、少しは手加減ってものをさァ」
「ハハハ! 挑んで来た側が手加減を所望とは、遠回しに申し上げますが――お恥ずかしくない?」
顎に手を。なんともはや難しい、とばかりに肩をすくめるのは『アンラックセブン』という指名手配犯共が一人――ロストレイ・クルードルだ。対面には彼の『仲間』というべきか『同志』という言うべきか足る男がもう一人いて。
「で、ご用件は?」
「あぁ――うん、まぁ大した事じゃないんだけどね。『遊ばないか』と思ってさ」
「ほぉう遊ぶ? この国で?」
男が興味深そうに眉を動かす、が。同時に大いなる疑問を抱いたのも確かだ。
この国の現状に関してはそれなりに聞き及んでいる。中々に混沌としており、とても平穏などと呼べる状況ではない事を。死者の蘇生、魔種の存在、伴う混乱と嘆きの声。この隙を突けば幾らでも介入の余地などあろう、が。
「この盤面のプレイヤーは『魔種』と『天義』……ああいや、後者の味方として『ローレット』もいますか。ともあれ席は既に埋まっていましょう。今更なんぞやの思考によって介入するのか」
彼らはとても『マトモ』な人物達ではない。
それぞれ己が価値観を抱き、それが平和を甘受する一般的な人々のマトモな観点からすると――『悪』と呼ばれる行為を是とするロクデナシである。が、考え無しの愚か者ではない。
何の楽しみがあるのか。月光人形などという死者が蔓延しつつある、この国に――
「『ソレ』だよ」
瞬間、ロストレイは眼を細めた。
「俺はね、不思議だったんだ。月光人形なんて言う連中がさ」
「ほう?」
「あれは呼び声の媒介品だ――この世の人々を狂気に落とすらしいね。愛しのジャンヌも……あぁまぁ彼女は月光人形とは違う存在に呼ばれたようだけど。ともかくそういう風に狂わせる罠だ」
本来清く、正義に沿って生きている人々を惑わせる存在。
天義における一連の騒動において中核を成した一要素と言えるだろう。
「だけどさ」
あれは。
「『兵隊』にはならないんだよね」
彼らはそれなりの数が確認されている。しかしその規模は膨大と言う程ではなく、騎士団の総数には流石に遠く及ばない。
そもそもが月光人形の戦力はそれぞれがてんでばらばらで統一感も統率もない。
例えば現存する月光人形が全て集まれば騎士団を真正面から撃破できるか?
――無理だ。
「魔種達は何を企んでいる? 嘆きの谷で何をしている?
アストリア猊下様が言っていた聖獣ってのはなんの為のモノだ?
そして――王宮執政官エルベルト・アブレウが求めているモノとは?」
――彼等は何を欲していると推測されるか――
今一度考えてみると良い。
彼らの『最終目的』は何で、それには『何が』必要なのか?
まぁ、猊下と閣下、魔種は成り行き上の味方に近い。そこに価値観の完全一致があるかは知れないが―― 「唆啓は薄々勘付いていただろうね。だから嘆きの谷へ向かったんだ」
「嘆きの谷……あぁ、確か歴史観点に置いて大量の死者が出た地だとか」
ん、おぉ? 待てよ? つまり?
「おっと、興味が出てきたかい? そうさ俺達にとってはこの国がどういう風に転ぼうが正直どうでもいいが、彼らが行おうとしている『転がし方』そのものはちょっと別なのさ」
ロストレイは盤面を整理し直す。キングを配置しクイーンを、ルークをビショップを。
そして大量のポーンを――改めて並べ直して。
「だからさぁ」
一息。
「一緒に楽しまないかい? ちょっと君自身のポーンを借りたくも――思っているんだけどね」
どうかな、Mr.クリーク。
遊戯の才人たる男の口端が――吊り上がった。
この世の邪悪を煮詰めたような、タールのような笑顔だった。
※『期間限定クエスト』が発生しています。
※アストリア枢機卿の部隊に甚大な被害が発生し続けているようです。
※天義市民からローレットへの評判が、激闘を続けるイレギュラーズを中心として飛躍的に高まっているようです。
※聖都フォン・ルーベルグを中心に、様々な思惑と運命が交差しようとしています……