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シナリオ詳細

Prelude to Oblivion
Prelude to Oblivion

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 わたし達の幸いは、全て忘却の彼方とし神の愛を受け入れることである。
 その川は誰の前にも幸いとして等しく訪れる。

 滅び行く者はなく、救いは約束される。
 富も御印も、それらの無価値な物は流転へ誘われるのだ。

 ガライヤの人々は愚かにも水を拒み、命を隠した。
 対して善きリラミアの人々は裁きを受け入れた。
 あなた方は幸いである。

               ――アラト書リラミア人への手紙 第二章三節


 白亜の都フォン・ルーベルグの中心には、数々の歴史ある聖堂が建ち並んでいる。
 その一つ。サン・サヴァラン大聖堂は一般信徒の立ち入りが禁じられた、文字通りの聖域であった。
 天義聖銃士隊(セイクリッド・マスケティア)に護られる大礼拝堂に踏み入ることが出来るのは、特別な儀式でもない限り通常は司教以上の聖職者に限られている。

 故に、そこに巨大なモノリス『レーテー石』が鎮座している事を知るものは少ない。
 表面には天義全ての生者、裏に全ての死者の名が、まるで輝くように浮かび上がっている 
 古の聖者が命と引き換えに授かった可能性の奇跡らしく、その役割は生きとし生ける者の魂の行く末を見守ることだとされていた。
 では古い魂はどこへ逝くのか。聖典によれば魂は命のランタンに乗り、冥府にて天秤の裁きを受けると言う。
 その後多くの魂は全ての記憶を忘れ、再び新たな命として流転するとされていた。
 もっともレーテー石を見た異世界出身の聖職者は『ログが吐き出されている』等と表現したが、さておき。

 このレーテー石について、このところ奇妙な話が聞かれている。
 名が消えず、焼け焦げたような跡が残るのだと。
 聖職者達は『魂が裁きから逃げ出した』と密やかに噂していたのだった。

 ――そんな折。
 レーテー石を取り巻くように設置された豪奢な階段、通じる足場の上を枢機卿――アストリアが歩く。
 目にとまる輝きの明滅。
 名がちらちらと瞬いている。
 枢機卿は喉の奥で笑うと、一人の死者の名を細い指でなで上げた。
 俄に光が強くなり名が消える。残るのは焼け焦げた染みだ。

 アストリアは振り返る。
 居並ぶ聖職者達は、アストリアへ向け驚きの視線を集中させていた。
 この日、この場所には司教の他、司祭や助祭、聖騎士等。通常立ち入りを許されぬ者達も大いに含まれている。
「諸君、聖霊の導きに耳を澄ませよ」
 聖職者達が呻く。
 アストリアが語る。
 レテの川を渡ることなく、この世界に戻ってきた人々は『月光人形』となり、それぞれの役目を果たそうとしているのだと。
 あまねく神の御声を届けよと。
 聖職者はそれを庇護下に置き、神のご意志を護るのだ。

 説法は続いている。
 天義では一部の聖職者達が、愚かにも魔種の誘いに屈している。
 愚かにもまた勇者たるローレットまでをも利用し、魔種を打ち破る刃たらん天義を滅ぼそうと企てているのだと。
 我等は勇者の名を貶めんとする『ロストレインの不正義』に隠された陰謀を暴かねばならない。

「来たるべき日。裏切り者には、必ずや断罪の刃を振り下ろすべし」
 アストリアが声を張り上げる。
 聖職者達は押し黙り、額を押さえる。
 幾人かうずくまった者も居る。
 皆、頭の中に聖なる声が聞こえていた。

「祈れ。信仰を研ぎ澄ませ。神が正義を望まれる!」

 ――神が正義を望まれる!

 ――――神が正義を望まれるッ!!


 ローレットの隅、ほの暗い場所に待っていたのは情報屋の『黒猫の』ショウ(p3n000005)。そしてフードを目深に被った偉丈夫であった。
 男の名はギデオン・エルセリオ。
 以前、月光人形事件で共闘し、イレギュラーズに救われた聖騎士だ。この日は輝かしい聖騎士の鎧姿ではなく、まるで巡礼者のような出で立ちをしている。
 ギデオンは頭を深々と下げ、その節は世話になったと告げた。
 とはいえ単に礼を言いに来たという訳でもあるまい。

 しばしの静寂。
「皆様に、内密な話があるのです」
 意を決したようにギデオンは打ち明ける。
 この依頼は天義の聖騎士団長レオパル・ド・ティゲール、並びに法王シェアキム・ロッド・フォン・フェネスト六世からの密命であると。
 聖騎士が見せたのは両名による直筆の署名だ。
 この書類の存在自体にとてつもないリスクがあろう。
 ローレットは短い時間の中で、それほどまで信用されたということか。

「この依頼に正義はあれど、名誉はありません……まずはご承知置き願いたい」
 そんな前置きから語られたのは、あまりに物々しい内容だった。

 曰く。
 天義で暗躍している黒幕の正体が掴めかかっているのだと。
 その名は王宮執政官エルベルト・アブレウ、そしてアストリア枢機卿の両名だ。
 中でもアストリアが魔種であるというのは、イレギュラーズ達がもたらした重要な情報であった。
 他にも謎の占い師の噂など事件の背景には不明点が多いが、この点と点を線で結びたい。
 まずギデオンはそのように語った。

 話に耳を傾ける『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)が生唾を飲み込む。
 あまりに危険な話であるからだ。
 むしろ聞いてしまった事そのものに、若干の後悔すら浮かぶ。
 ともあれイレギュラーズ達はギデオンに続きを促した。

 依頼内容自体は単純ではあった。
 サン・サヴァラン大聖堂に忍び込むこと。
 そして何らかの重大な情報を得ること。例えば『証拠品』を盗み出すことである。

 イレギュラーズ達はギデオンと共に、サン・サヴァラン大聖堂に潜入する。
 もちろん地図は与えられる。
 そして潜入や脱出は法王派やレオパル派の人物によって手引きされるようだ。

 問題はこのサン・サヴァラン大聖堂はアストリア枢機卿子飼いの私兵『天義聖銃士隊』が警護していることだ。
 かなり強力な兵達だと言う。
 大聖堂に座すモーリー・ブラパット司教はアストリア派の聖職者で、そもそも大聖堂自体がアストリアの私物のように扱われているという話だ。
 そしてイレギュラーズがもたらした情報として、アストリア枢機卿は魔種(デモニア)である。
 更には魔物を操るという報告があるのだ。
 危険性は大きい。

「もしかしたら……」
 ギデオンはこの依頼に参加したイレギュラーズに指名手配がかかる可能性があると述べる。
 アストリアにせよ、モーリーにせよ天義の高位聖職者である。今だ歴とした公人なのだ。
「え……」
 無論そうなったとしても法王や聖騎士団、そこに味方してくれる者達と接する分には心配はいらない。
 だが誰が敵の派閥なのか、完全にはつかめていない以上は、今後大きなリスクがあるだろう。
 とはいえ魔種絡みの事件解決は『イレギュラーズの本業』だ。
 無下に断る訳にも行かないが――

 気になるのはレオパルや法王がどうしているかという点だ。
 ギデオンが言うには、どちらも関連する重大な案件に携わっているという。
 おそらくその件についても、ローレットへ依頼が持ち込まれる筈だ。

「どうかご助力いただきたい!」
 そう言うと聖騎士は目深なフードを払い、頭を深々と下げたのだった。

GMコメント

 pipiです。
 敵の拠点ぽい所です。
 格好良く潜入して、戦闘なんかして、証拠品をぶんどって、とんずらしましょう。

 機転とノリと創意工夫。そして最後は戦闘力で頑張ってみて下さい。

●重要:同時参加不可
 当シナリオは『燃える聖典アイコン』のシナリオとの同時参加が不可となります。
 『正直者の絞首台』『The dead of justice』『Detective eyes』『Prelude to Oblivion』にはどれか一つしか参加できません。ご注意ください。

●目的
 キャラクター視点での目的は、大聖堂に潜入し一連の事件に関する重大な情報、出来れば具体的な物証を掴むことです。

 メタ情報ですが『石版状の暗号情報記憶媒体』が存在します。これを手に入れましょう。
 タブレットコンピュータぐらいのサイズです。
 もちろんこれの他、それ以外の情報や証拠があれば得ても良いでしょう。

 またこれもメタ情報ですが、今回アストリア枢機卿は不在です。
 これらのメタ情報は、もちろん相談やプレイングに盛り込んでいただいて構いません。

●作戦
 月のない夜。天義首都の中心部にある大聖堂です。
 冒頭の後、だいぶ時間が経過しています。
 既に集められていた大量の聖職者達、及びアストリア枢機卿は居ません。

 今回ご都合主義ですが、地図と案内人があるということで、『窓から人気の無い廊下に上手く潜入出来た』ものとして扱います。

 事前に怪しいと目星がつけられているのは『大礼拝堂と予備室』『執務室』『寝室』の三部屋です。
 証拠はこのうちどこかを探索することで発見出来ます。
 どのように探すのかは皆さん次第です。

 移動や探索の効率によって、かかる時間が変動します。
 アイディアや非戦スキル、役割分担等で工夫してみて下さい。

 探索中に、見回りの兵や魔物と遭遇する可能性があります。
 少人数であるほど見つかりにくく、戦闘になった場合はリスクがあります。
 やり過ごすか倒すか、皆さん次第です。

 しかしながら戦闘の完全回避には、相当な工夫が必要だと考えていただいて結構です。
 ある程度の戦闘を前提とするのをおすすめします。

●ロケーション
 ものすごく広くてデカいです。
 皆さんはマップがあり、また詳しいという程ではないでしょうが案内人(ギデオン)が居ます。

 非常にメタ的な視点なのですが。
 このシナリオでは『分からない所はプレイングであると言い張る』ことで、『実はそうだった』として扱います。

 例えば会議室があるとは書かれていませんが『会議室のほうに走る』と書けば、会議室があり、そこへ向かって走れます。
 またロッカーがあるとは書かれていませんが『ロッカーに隠れます』と書けば、隠れられるロッカーがあり隠れられます。
 しかし『異次元の扉』であるとか、あまりに不自然なものはありませんので、ご注意下さい。
 良い感じの具合の発想力で勝負です。

 以下、マップの詳細です。

 まず、どこへ行くにも廊下から入ります。
 それぞれの部屋に、いつ何が居て、何をしているかは、調べるなり突入なりしなければ分かりません。

『大礼拝堂と予備室』
 件の『レーテー石』があります。ものすごくデカいです。今回パクるやつじゃありません。

 薄暗く、ランプが灯っています。
 最奥にレーテー石。手前に巨大な祭壇。手前には多くのベンチがあります。

 予備室には様々な儀式に使用する道具などがあります。

『執務室』
 大きな机の他、雑多な道具や書棚などがあります。

『寝室』
 廊下から侵入出来ます。ベッドやらなにやらがあります。

●敵
 どこにいるのか不明です。ランダムエンカウントです。

『モーリー・ブラパット司教』
 豊満な胸元をタイトな法衣に包んだ妙齢の女司教です。
 アストリア派。見栄っ張りな性格で黒い噂も絶えません。
 能力は一切不明です。おそらく神秘系の攻撃や回復を行います。

『天義聖銃士隊(セイクリッド・マスケティア)』数は不明です。
 アストリア枢機卿の私兵です。
 戦闘能力は高いとされています。細剣と銃で武装しています。

『魔物』数は不明です。
 おそらく居ます。
 弱くはないはずです。

●同行NPC
『トファラの聖騎士』ギデオン・エルセリオ
 実力ある聖騎士のおじさんです。
 イレギュラーズを心から信頼しています。

 シナリオ『トファラの聖騎士』に居ますが、ご存じなくても大丈夫です。
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/1586
 格闘、ブロッキングバッシュ、ノーギルティ、ブレイクフィアー、保護結界(非戦)

『冒険者』アルテナ・フォルテ
 皆さんの仲間です。物神両面型前衛。
 活性化スキル:格闘、キュアイービル、マジックミサイル、魔力撃、こんなこともあろうかと!(非戦)

●アストリア枢機卿
 上にも記載しましたが、今回は不在です。
 武力、財力、権力を好むひどい性格です。
 魔種です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報については完全に信用出来ます。
 しかし不明点もまた大きいです。

●Danger!!!
 本シナリオに参加確定した場合、王宮執政官エルベルト・アブレウ、並びにアストリア枢機卿から『指名手配』される可能性があります。

  • Prelude to OblivionLv:8以上完了
  • GM名pipi
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年06月21日 21時40分
  • 参加人数 10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
死を呼ぶドクター
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
シグ・ローデッド(p3p000483)
『知識』の魔剣
ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)
暗躍する義賊さん
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
月光人形に安らかな眠りを
銀(p3p005055)
ツェペシュ
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
折れ羽の鴉
ハッピー・クラッカー(p3p006706)
爆音クイックシルバー

リプレイ


 ――フォン・ルーベルグ
 白き都。
 そこに住む人々は清廉を旨とし、破邪の意思を心に抱いているとされる。

 心に神を。
 それは苦難に耐え、鉄の精神を宿す柱足り得る。
 なれば『信仰とは即ち力』である――

(……けれど)
 黒き法衣を纏う異界の聖者『だった』者。『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)はその広い廊下。大理石の床に降り立つと仲間達へと視線を送る。

 この夜。そんな無謬の街に大きな異変が起きていた。
 大元の発端は死者が黄泉還るという一つの噂。
 そして継続中の月光人形事件を経て。
 聖職者、聖騎士、貴族――市民達。様々な人々が各々の意思を胸に動き始めた夜のことだった。

 市街の往来、ゴミ一つ落ちていない筈の大通りでは聖騎士と銃士が睨み合い、時に剣戟を交えている。
 街角では得体の知れない怪物が散見され、ローレットの冒険者が撃退している。
 不可思議な事に。怪物を聖獣と呼び保護、使役しているのは天義が誇る枢機卿の配下である。

 もっともそれは彼女、アリシスにとっては驚くに値しない。
 ついこの間、アリシス自身が枢機卿アストリアと交戦し、相手が魔種であることを直接知っていたのである。
(綿に染みる水の如く、汚れた信仰は容易く心を蝕む毒ともなる)
 この国の闇は――国家中枢に魔種が紛れ込む程――深い。
 多くの聖職者や銃士達が、信仰の名の下にアストリアに従っているであろうことを、その結果として『原罪の呼び声』の影響下にあることを、アリシスは看破していた。

 一行は、ひとまず近くに誰も居ないことを確認し、互いに目配せする。
 事前の情報通り、警戒が薄い場所のようだ。

「アストリアは居ないか」
 これも予測に寄れば。その可能性が高い。
『次の機会まで待てよ?』
 静かに怒りを湛える『穢翼の死神』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)を、彼女の豊かな胸を飾る十字がなだめる。
 彼女もまたアリシス等と共にアストリアと交戦している。絡み合う陰謀の中で友を護りながら、アストリアが剥き出しにした邪悪な本性を目の当たりにしていた。
 今回ティア達の目標がアストリアの討伐ではないことは歯がゆかろうが、無論承知も覚悟も出来てのこと。
 来たるべき日の必殺を決意して、依頼に臨んでいる。

 一行が侵入したサン・サヴァラン大聖堂は、天義中心に位置する文字通りの聖域であり、アストリア枢機卿が私物のように扱っているとされる。
 言わば敵の本拠地、その一つだ。
 依頼内容は魔種である枢機卿アストリアと王宮執政官アブレウの繋がりを暴くこと。その証拠品を盗み出すことである。
 派手なことに参加出来て嬉しいとは、『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)の言だが。それもその筈、この依頼は隠密と言えど、重大な責任がある。
 何せ敵は国家中枢に巣くう魔種であり、依頼元はそれに相対する天義中央筋。それも聖騎士団長と天義国王。つまりは国家からの密命なのである。
 天義にとっては如何ともしがたい内容ではあろうが、ランドウェラから見れば大物案件そのものと言える。
 彼自身このどうしようもなく鬱屈した国には含む心境もあるのだが。それを差し引いたとて柄にもなく注力したい、そしてすべきである案件ではあろう。
「周囲に何か、そう。感情はないみたいだよ」
 ランドウェラの言葉に一行が頷く。感情探知。『焦り』か『怒り』か。そんな所でよかろうか。
 いろいろ試す中で『たまたま当たれば気配を感じる』といった程度の意味合いかもしれないが、今回の場合は有効に働きそうだ。

 一同は慎重に歩を進める。
「地図によれば、あちらでござろう」
 隠密と言えば『要注意人物』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)には適任となろう。この日、覆面で顔を隠す彼女は正しく『忍びの技術』を持つ者なのだ。
 撤退後に合流を可能とするルート、逃走ルート、大聖堂の構造そのものは、既に頭へとたたき込んである。
 しかしそんな咲耶が背負う称号は、市街で銃士や怪物と交戦した折にマークされての物。これは別箇所から潜入する仲間達の内幾人かも同様である。
 一行は隠密行動の他、交戦、場合によってはその際あえての名乗りも作戦の主軸に据えていた。

 無論、まず見つからなければそれに越したことはない。咲耶はすぐさま印――隠形之印・常世隠を結ぶ。
 アリシスの指先。ふわりと留まった夜行蝶に彼女は小声で命じると、そっと解き放つ。
 こうして『Aチーム』は蝶を先導に、大礼拝堂へと慎重に歩みを進め始めた。


 扉はない。オイルランプの明かりが室内に薄明かりを投げかけている。
 影をなぞるように『暗躍する義賊さん』ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)が室内にそっと踏み込んだ。
 彼女の能力『Invisible shadow』は屋内の影に居る限り、その気配を完全に遮断する。
 屋内の潜入調査であれば――ルルリアは無敵だ。
 耳を動かし目を凝らして、大丈夫。この部屋に人の気配は感じない。
「誰も居ないみたいですっ」
 ほとんど聞こえないほど小さな声で、彼女は仲間に呼びかける。
「ありがとっ」
 こちらも表情や勢いとは裏腹の消え入りそうな声で『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)が応じた。

 彼女等『Cチーム』が侵入したのは、事前の情報で怪しいとされる三カ所の一つ『執務室』である。
 おそらくこの大聖堂本来の主であり、アストリアの配下でもある司教が管理する部屋だ。
 ルルリアの手招きに頷いた、『要注意人物』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)もまた、一匹の小さな蝙蝠と共にその部屋へと足を踏み入れる。
 彼女もまた件の『要注意人物』であり、美貌を仮面に隠している。
 手に握る剣は最愛のパートナー『『知識』の魔剣』シグ・ローデッド(p3p000483)が能力『フェイズ・ソード』により変化した姿だ。
 潜入となれば一緒に行動する人数が少なければ少ないほど、敵に見つかるリスクは小さくなる。
 しかしそれは安全性の低下と引き換えだ。
 作戦を決める中で、一行はチームを三つに分割することを選んだ。
 そうした中でも各々出来うる限り、見つからぬように行動している。

 ――正義はあれど名誉はない。
 この依頼をローレットへ持ち込んだ『トファラの聖騎士』ギデオン・エルセリオが述べた言葉を、レイチェルは思い返していた。
 大聖堂の執務室ともなれば、この宗教国家における中枢にも近い。
 夜間に許可無く潜入するなど間違いなく大罪だ。平時であればそれこそ即刻指名手配されてもおかしくはない。
 だが『指名手配が怖くて義賊など出来はしない』とルルリアは笑ってのけていた。
「枢機卿の悪事、暴いてやろうじゃねぇか」
 レイチェルの言葉に頷く他の面々も同感であろう。
 さてたった一つの入り口。その外を眷属(こうもり)に見張らせ、レイチェルは室内の温度を読み取る。
 熱源は一行、オイルランプ。ほんの僅かに、執務室の椅子だ。
「あの椅子。『さっきまで居ました』って感じだな」
「ではそちらを調べてみるかね?」
「そうしようぜ」
 レイチェルとシグはまずマホガニーの執務机に取りかかった。

「じゃあルルはこっちを調べてみますね」
 ルルリアが指さしたのは棚だ。初めは鍵のある場所から。
 音を聞き、構造を看破し、針金を取り出し――ほんの数秒でカチリと開く。解錠はお手の物だ。
「え、なに。これは」
 アルテナが眉をひそめる。
「お酒……ですかねっ」
 いかにも上等そうな瓶に琥珀色の液体が湛えられている。何本あるのだろうか。
 これはこれで不正義感が溢れる感じだが、調査一発目はハズレのようだ。
「気を取り直して。次いっちゃいましょー」
「うんうんっ」

「こっちもいかにも『不正義品』って感じだ」
「どうしたのかね?」
「あー、いや。シグは見なくていいぜ」
「情報は些細な事でも網羅しておきたいのだがね」
「だからこれはいいって」
 引き出しに戻したのは練達の書籍。雑誌。お手軽サイズアップで曲線を着こなす。夏の最新モテセオリー。
 なんというか、とってもしょうもないものだった。
 ブラパットだけに!
 ともあれ一先ず。この引き出しもハズレのようだ。

 次は――
 執務机には他にもいくつか引き出しがある。
 ルルリア達は鍵付きの棚もあれば、巻物棚や本棚も残されていたが。

「シっ……」
 レイチェルが指を仮面の口元に当てた。
 蝙蝠が彼女に伝えてくれたのは――


 こちら『Bチーム』の面々は寝室の調査を開始している。
 メンバーは聖騎士、ヴァンパイア、輝煌枝、騒音幽霊という、かなり異色の取り合わせだ。

 真剣極まる眼差しの『爆音クイックシルバー』ハッピー・クラッカー(p3p006706)はこの夜、多大な努力を必要としていた。
 口のマスクには大きなバツ印。
 何せ彼女は『Quicksilver』。
 静謐の維持……そういうアレ。もうなんというか、超苦手分野だ。よく頑張っている。
 この任務が終わったら存分にフラストレーションを解放してほしい。フラグか!

「かたじけない」
 我慢に我慢を重ねているであろうハッピーに、ギデオンが謝意を伝える。
「いいっていいって、よゆーよゆー。すっげーんだぜ、静かにだって出来ちゃう、だって幽霊だもん!」
 信じられるだろうか。エクスクラメーションが一つしか付いていないんだぜ。
 冗談はさておき。大聖堂は広く、外では散発的な交戦の音が響いている。
 これ以下の静けさを求めては、彼女でなくとも意思の疎通に問題が生じよう。一行のやり取りは敵に勘づかれる程のものではなかった。
 部屋への侵入はムスティスラーフの透視により、大変スムーズに運んだ。
 また『要注意人物』銀(p3p005055)の眷属による偵察も功を奏し、ここまで敵をやり過ごすことに成功している。
 隠密任務の適正もメンバー同士の相性も、一見すこぶる悪そうにも感じられるが。その実、他のチーム同様に極めて良好であるところが面白い。

 今のところ見つけられたものは衣類やアクセサリ、酒、水瓶。化粧品。口に出すのも憚られるような物の他、銃器や弾薬といったいくらかの武器類。それから金品だ。
 寝室はやはり生活空間なだけあり、非常に雑多なようだ。
 時間は――ハッピーが時計を確認する。ポーズは午前一時十七分。壁を見れば分かるとかは些末なことは可愛いからいいのだ。潜入からは既に二十分ほど経過している。
 さておき。他チームとの集合は二時間後と決めている。、成果は未だゼロに近いが、まだまだ余裕はある。
 一行はそのまま探索を続けることにした。

 ふと押し黙る依頼者ギデオンの視線を感じ、『<不正義>を知る者』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)は彼の肩へ大きな手のひらを乗せる。
「背負い込むものじゃないさ」
 ギデオンが振り返る。隆々とした偉丈夫と、体格は逞しいが小柄な老人ムスティスラーフ。しかしギデオンの目に小柄な彼がずいぶん大きく見えていた。
「あなた方をまた巻き込んでしまった」
 ギデオンはここに来る前、極秘の潜入調査などという名誉無き仕事だと述べた。敵は国家中枢に属する大物で、指名手配というリスクもあり得る。
 むしろ建前だけで述べるのであれば、やっていることは犯罪に近い。
 ギデオンはリスクが大きな依頼である事を気にかけているのだろうが。
「下らん事を気に病むな」
 しかし銀は即座に一蹴する。声音こそ彼らしく鋭いものだが、そこに真摯な想いがあることをギデオンは知っている。
 銀とムスティスラーフ、そしてギデオンは、本件を含む一連の事案、その発端となった月光人形事件で作戦を共にしていた。
 月光人形となった聖騎士ギデオンの妻をあるべき場所へ還すという仕事であり、ギデオンにとって二人は命の恩人であり、また家族を亡くした痛みを分かち合う友でもあった。
 ギデオンは謹厳実直たることを己に課し続け、聖騎士であることに人生を捧げている無骨な男だ。
 妖艶にして優美な銀と比べれば、似ても似つかぬどころか対照的とすら感じるが、その実どちらも寡黙で情が厚い。
 名誉。指名手配。そんな物、知ったことではない。友が頭を下げたから。ただそれだけの理由で銀はここに居るのだ。
 それはムスティスラーフにとっても同じ事。指名手配如きで壊れる絆ではないのだ。
「こんなにも心強いものとは思わなかった」
 ぽつりと漏らしたギデオンの頬が、不意にゆがむ。
 余人が見れば、真意は測りかねるであろう。
 だが二人には理解出来る。
 この聖騎士は、はにかんだのだ。笑えるようになったのは、心に傷を持つ彼にとって大きな前進であろうから。

 一行はそのまま探索を続けていた。
 もうじき潜入から一時間近くになろうとしていたが。

「ベッドの下に何かあるみたいだね」
 ムスティスラーフの言葉に、ハッピーがするりと入り込む。

「ねーねー、なんぞこれ。ちょっとガチ目にすっげぇぞ!」


 炸裂。
 明滅する光。
 銃撃の乾いた音が響く中、数名の銃士が執務室の前を足早に駆けてゆく。

「行ったみたいだぜ」
「いい感じですっ」
 市街地での交戦は激化しており、大聖堂を警備する銃士達も駆り出されているようだ。
 情報では交戦が前提という事だったが、状況の切迫が意外な効能をもたらしていた。
「油断は禁物ではあるが、この分ではあちらも手一杯のようだ」

 ルルリアが抱えているのは鍵のかかった巻物棚にあった羊皮紙のスクロールで、金銭的な契約の書類である。
 金のやり取りは寄付や喜捨、施しといった用語で分かりにくくなっているが、情報を掘れば黒になるであろうものが多い。

「こっちは、なんだこりゃ」
 出てくる出てくる。
 儀式に使用するはずの聖血に幻想南部の高級ワイン、それも年代物を多量に使用する意味は薄かろう。
 天義のそれ用の修道院から仕入れているものもある以上、掘ればおかしな情報は出そうだ。
「そっちはどうだ?」
「海洋のギルド。購入品はおそらく弾薬だな。取引相手は海賊だろう」
 レイチェルの問いに、シグは一枚の種類を示す。
 サン・サヴァラン大聖堂は、少なくとも多量の武器を購入しているようだ。
 天義聖銃士隊は枢機卿の私兵であるが、その装備は私費で賄われていることになっている。
 そもそもこの大聖堂は司教座を戴き、管理しているのはモーリー司教である。天義の具体的な命令系統は定かでないが、アストリア枢機卿は上役ではあれど部外者と言えば部外者と思える。
 何を白とし、何を黒とするかは天義が国家として判断する事項ではあるのだが。
 国家宗教施設の資金や物品が個人の私兵に直接流れているというのは、間違いなく後ろ暗い情報であろう。

「これは薬の商人さんって感じじゃないですね」
 ルルリアが見つけた書面。相手は一見してラサの商会には見えるが、品目が怪しすぎる。おそらく違法薬物か。
「こっちもお酒ってエリクサーなの?」
「百薬の長つうても、それでもかなりアレだな」
 アルテナが見つけたのはエリクサーの購入に見えるが、相手は明らかに幻想の酒屋だ。先ほどの棚にあった高級酒であろう。
 出納関連の書類は、見て分かるだけでも使途不明金が散見され、そうでなくともおかしなものも多い。

 不必要な日用雑貨、交際費、果ては武器。
「ルートの洗浄すらしていないとは、お粗末なものだな」
 しかしずいぶんと真っ当に整った書類である。天義らしいといえば天義らしいのだが。
 妙な几帳面さが仇となり、一方での杜撰な情報管理の姿勢を浮き彫りにしていた。

 これが国家中枢とは恐れ入る限りだが。
 シグはため息一つ。
 逆に言えば、法や税の力がここには及んでいないということ。
 そういった意味でも、ここは聖域だということだ。

「見てくれ」
「これは――」
 黒だ。
 数枚の照らし合わせると数字や日付が一致する。
 そして魔術を嗜む者なら、内容は理解出来る。
 サン・サヴァラン大聖堂は王宮執政官アブレウから資金とルートの提供を受け、得体の知れない怪物を召喚するための触媒を間接的に購入しアストリアに提供している。
 一行は頷き合う。
 ひとまずの成果だ。
 他にもいくらかの書類を選別し、各々は確保した。
 潜入開始から一時間以上が経過している。
 これで背後関係は洗うことが出来る。直接的なルートを洗うことも出来るかもしれず、そうでなくとも事件解決後に役立つ事だろう。
 この国の闇はアストリア一人の問題ではないのだ。

 棚の奥に手を伸ばすルルリアの尻尾がピンと張り詰めている。
 もう少し、もう少し。
 足をぱたぱたとさせながら、どうにか身体を滑り込ませるようにするが。
 ダメだ。もう少しだけ届かない。
 尻尾を下げたルルリアが棚から這いだし、一行へと振り返る。
「ちょっといいですか?」
「どうしたの?」
「この奥の鍵を開けたのですがっ、その奥までちょっと届かなくて」
「やってみていい?」
「どうぞっ」
 アルテナも近づき腕を伸ばすが、どうにも胸の辺りがつかえてしまう。
「ん~~! ごめんなさい……私もダメみたい」
「あー……」
 アルテナに無理なのであれば、モーリーは噂の体格で一体どうやってこの場所を使えると言うのか。言うのか。
「俺が取ろう」
 名乗りを上げたシグが壁をすり抜け手にしたのは数枚の羊皮紙だ。
「こりゃ……愉快な地図だなァ」
 一目見たレイチェルは仮面の向こうにある美しい顔、その口元に獰猛な笑みを浮かべる。
 実に不可思議なことが書かれた地図だ。

 どうして。この大聖堂から王宮に向け、集団を移動させるシミュレートをする必要があろう。
 どうして。聖騎士団の行動を予測する必要があろう。
 どうして。その際に聖騎士団とぶつかる必要があろう。
 どうして。移動しながら宮殿の要所に人員を配置してゆく必要があろう。
 どうして。それと同時に、貴族か何かの邸宅を保護する必要があろう。
 どうして。そこから何者かを街の外に脱出させるルートを選定する必要があろう。
 どうして。街の外からやってきた集団と、大聖堂から王宮を目指す集団を合流させる必要があろう。

 どうして――その答えは明白だ。

「アブレウの邸宅だぜ。ここ」
「なるほどな」
 おそらくこれは『作戦行動のシミュレート』だ。
「繋がりどころの話じゃないですね」
 絶対に持ち帰るべき情報だ。
「シグ。頼んだぜ」
「まあ、いいだろう」
 地図を仕舞い込む。
 後は定刻まで、更なる情報を集めておきたい所だが――
「シッ」
 顔を上げたレイチェルが仲間に目配せする。
「近づいてくる」
 にわかに緊張が走った。

 ――おい、誰か居るのか!?

 ――どうした。

 複数の靴音が響く。
 徐々に大きくなってくる。

 一行は選択に迫られていた。


 翼が風を切り。
 ランドウェラの頬、その真横を過ぎる。
 紙一重に、だが彼は薄く笑み。
 花開く悪意の霧に、二体の怪物が苦悶の叫びを上げる。
「困ったね……」
 声を出されてしまったが。
『ティア、右だ』
「分かってる。崩折れよ、頭を垂れて眼を閉ざせ」
 あと一つ。
「拙者にお任せを」
 咲耶の鋭い蹴撃がガーゴイルの岩肌に突き刺さり、そのまま打ち砕いた。
「これで全部かな」
 ランドウェラにアリシスとティアが頷いた。

 大礼拝堂に向かった『Aチーム』一行の足下には、岩と怪物の死骸が転げている。
 あらかたの敵を片付け、一同はようやくひと息ついた。
『ガーゴイルか』
「こっちは聖獣(インプ)。街に居たのと同じ」
『この場を守る必要があるということだ』
「気づかれてはいないみたいだよ」
 かなり大きな音を立てた筈だが、人の気配は感じない。
「外の戦いが影響しているのでしょうね」

 とにかく探索せねばなるまい。
『単純な仕掛けだったな』
 鋼糸が引かれれば鐘が鳴る。警報装置だ。切ってしまうだけで良い。そして罠があった以上は何か重要なものがありそうだ。
 大礼拝堂の予備室にはそういった罠が仕掛けられており、これはティアの機転で突破することが出来ていた。
 こうして一行は先ほどの短い交戦の後に予備室を調査したのだが、見つけられた怪しい物は今のところ小さな鍵だけである。
「どこに使うんでしょうね」
 そう言いながら、ランドウェラは祭壇に視線を送る。
「資料室にはないようですから」
 アリシスも頷いた。
 後は大礼拝堂やそこにある祭壇、そしてそこに鎮座する巨大なモノリス『レーテー石』を調査する心算だ。

「なるほど――」
 階段を昇り、レーテー石を観察していたアリシスが、一人ごちる。
 彼女の視線が感じる膨大な魔力は――おそらくそれが『伝説級のアーティファクト』であることを告げていた。
 緑に輝く名。表は天義の市民達。裏は死者達との噂もあるが。
 彼女が睨む先、名の一つが明滅した後に、ふと掻き消える。
 残された焼き後は――何の意味を持つのか。

「鍵穴ですね」
 ビンゴ。ランドウェラがのぞき込んだ祭壇の下に、丁度鍵穴が入る場所がある。
「開けさせるよ」
『罠はどうだ?』
「ないみたいだけど」
 念のため、ティアは悪霊に命じ鍵を開けさせた。
「押してみよう」
 ランドウェラの提案で、ティアは悪霊に祭壇を押させる。

 音もなく――重い祭壇がゆっくりと移動する。
「本でござる」
 咲耶が手に取ったのは古めかしい装飾を帯びた、一冊の書であった。
 本の名は『赤き血潮の書』とある。
「赤き血。なにやら物騒でござるね」
 赤い表紙には古い文字でそのように書かれており、中央に一輪の白い薔薇が描かれていた

 アリシスは古文書を受け取り、開いた。
 著者の名は、後に聖人とされたベルナード修道博士。

 ――我が茨冠を戴き、赤き血潮を流せ。
 血と涙は白き浄潔の薔薇を花開かせ、我が目はレテ川の彼方へ導くべき存在を詳らかとする。
 全ての死者をレテの水へと導き、エンピレオへ至る道しるべとなろう。

「至天の白薔薇――……ですか」
 なにぶん古い本だ。
 いたるところが寓話や教条に満ちており、正確な解読にはいくらかの時間を必要そうだ。
 だが流し見た限り、おそらくこのレーテー石は、聖者と死者の名を羅列させるためだけの代物ではない。
 レーテー石――いまや『エンピレオの薔薇』と呼ぶほうが正確であろうか――の表面に掘られた楔様の名は輝いており、なでると全ての文字が滑るように移動する。
 練達で扱われるタブレットコンピュータを巨大にしたような作りだ。
 だがディスプレイというよりも物理であり。物理というよりは魔法的な仕掛けではあるのだが。

 アリシスはページをめくる。
 おそらくアストリア枢機卿は、これを本来の目的では使用していない。
 単に保有しておきたいのかもしれないが。

 本に書かれているのは月光を頼りに、レテの水を拒んだ者達の事らしい。
 それを導く者、そして不死者との戦いの記録。

「月光人形ってのと、関わりがあるのかな」
「聖都の噂では、名が焼き消える時、魂が逃げ出すと聞いたでござる」
 ランドウェラと咲耶の呟きに、アリシスが瞳を細める。
「そのようです」
 焼き消えた名は月光人形の出現を、それからアンデッドの感知も可能でありそうな――
 ひょっとしたらそれもアストリアの目的か。たとえば何らかの『時期』を知るような。
 ともかく読み進める。

 ――水を拒んだ月光の使徒は、死者を引き連れ災厄をもたらす。
 それは『煉獄篇第五冠強欲』ベアトリーチェ・ラ・レーテ。
 其は、かの魔女の手より命炎を取り戻し、在るべき至天へと導く――

 一同に緊張が走る。
「――いつの書物にござるか」
 途方もない昔の本である筈だ。
「強欲の魔種。その親玉との、交戦記録ってとこかな?」
 ランドウェラの推測は、おそらく当たっている。
「そうなのでしょうね」
「あとは……」
『ああ。このレーテー石とやらの、取り扱い説明書のようだ』

 ともかく持ち帰る他ないが。
 短い時間で解読出来た事もいくらかある。

 おそらくこの巨大なレーテー石は、『エンピレオの白薔薇』と言う『伝説級のアーティファクト』だ。
 推測するに、言わば対アンデッド、対強欲の親玉用の大規模な防衛システムである。
 最大の用途は、超広域に対するレーダー機能により全ての月光人形とアンデッドを把握、監視。情報を味方と共有する。
「そしてこの『浄潔』……」
 推測するに、ある程度の打撃能力も有すると思われる。

 起動方法には何らかのキーが必要と思われるが。
 それは未だ明らかではない。

 この書は少なくとも、目的の代物。即ちアストリア枢機卿とアブレウ王宮執政官を繋ぐ証拠品ではなかった。

 だが。
 或いはこれは。
 それどころではなく。

 ――途方もない書物なのではないか。

 これを強欲の魔種であるアストリア枢機卿が確保していたという事実は何を示すのか。
 一体何のために。

 探索開始一時間半が過ぎようとしていた。
 正確な解読には多少の時間を要する筈だ。この場では危険過ぎる。
 そろそろ切り上げ、仲間達との合流を考慮しなければならない。


 ハッピーが掲げたものは、プレート状の何かだった。

「お手柄だな」
 銀が見る限り、明らかに魔法的な品物である。
「危険なのでは」
「ちょっとヤバみ深いかなって思う!」
 逡巡するギデオンではあるが。
「危険が怖くて幽霊が務まるかっての!」
 そもそもハッピーは、それを既に手に取っている。

「花だよ花。ハッピーな感じじゃない?」
 傾けた際に、石版に浮かび上がったのは白い薔薇の文様と、『白き薔薇の書』という字。
 光る文字が板上をつらつらと這い回り、そこに現れたのは。
「通信記録……」
 だが、機能はそれだけでもなさそうだ。
「天義のものだとすると、ギデオンさんはなんだか分かる感じかな?」
「いや、これは私には見当も付かない」
「そりゃそうだよねえ」
 ムスティスラーフの問いは、ダメ元だ。後でアリシスあたりに解析させるのが良かろうか。
「検討は付かないとなると、やはりそういう代物なのだろう」
 銀の述べた通り、これが何かに使用する端末のようなものだとは分かるが、具体的な使用方法には解析が必要そうである。
 とにかく持ち帰るべきものだ。

「こんな所かな。拍子抜けするほどスムーズだったね」
「ああ……無論それに越したことはなかろうが」
 銀の索敵、ムスティスラーフの透視、ハッピーの透過という取り合わせは、最も時間がかかったであろう寝室の探索を極めて容易な物とした。
「帰るか? 帰っちゃうのか? マジかー。よし。それなら合流だ!」

 かくして――。

 寝室を後にした一行は、慎重に帰路を歩んでいる。
 時間はもうじき二時間が経過しようとしていた。

 ――

 ――――

 傾いた月は、尖塔の影に隠れていた。
 回廊を走り、影を渡り。
 イレギュラーズ達は中庭を駆ける。

 外では未だ銃声と剣戟の音が響いていた。

「見つけてやったぜ、いろいろとな」
 仮面を外したレイチェルが笑い、シグが懐から数枚の地図を見せた。
 ルルリアやアルテナもいくつかのスクロールを持っている。
「おや。お待たせしちゃったね。こっちもだよ」
「話さなきゃいけない情報がある」
 ランドウェラに促されたアリシスが、手に持つ書を一行に示した。
「ほう……」
 銀が振り返り、ハッピーが取り出した石版には、同じ文様が描かれていた。
「……同じ意匠ですね」

「アマリリスの情報はなかったけど」
「ならばそれは、枢機卿の計画に含まれていなかったという事でござろうか」
 ティアに咲耶が答えた。
 ならば枢機卿がロストレイン家の不正義を吹聴したことは、一体何のつもりなのか。
「陽動――にござろうか」
 ここで敵がそんな時間稼ぎをすることに何の意味があるのだろう。だが恐るべき予感がする。

 今回おそらく各々は、それぞれ驚くべき情報を得ている。
 皆の確信に満ちた口ぶりが、それを予感させていた。

「皆様のお陰です……」
「何。まだ早いさ」

 ならば。

 急ごう。
 まずはローレットへ戻らねばなるまい。

「次に逢う時は――殺すから」
 魔種アストリア枢機卿。
『ああ』

 一同はサン・サヴァラン大聖堂を後にする。
 今はまだ誰も知るまい。
 レーテー石。眠れる『エンピレオの薔薇』の表面、刻まれた死者達の名が突如、赤く強く輝き始めた事を。

 結局の所。
 枢機卿アストリアと王宮執政官は、イレギュラーズ一行を指名手配することが出来なかった。
 事態は風雲急を告げ、既にそれどころではなくなっていたのである。

成否

成功

MVP

アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン

状態異常

なし

あとがき

依頼お疲れ様でした。

大変スムーズな探索だったと思います。
クエストの影響はありますが、それでも被害が全くないとは思いませんでした。

MVPは戦略的クリティカルヒットへ。

それではまた、皆さんとお会いできる日を願って。pipiでした。

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