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ギルドスレッド

未来超仰天実験室

未来人作業室の日常ピックアップ

堆い木製の荷箱が迷宮の壁の如く聳える倉庫内。
その一画には、砂利で舗装された足元に敷かれたブルーシート。
最低限の家具とよくわからないガラクタが我が物顔で領有権を主張している。
女っ気はない。かけらもない。
だってしょうがないじゃない未来人だもの。

【概要】
・未来人の作業スペースです
・来客は好きにせえや畜生がっ!!

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『ハナチャン』殿。
いや、先日改めて名乗られたのだったな。ヨハナ。

ヨハナよ。
下手の考え休むに似たりと申すが、お主の場合休んだ方がマシじゃな。
お主は、“書かねば”と思うておる。
それは嬉しいが、間違うておる。
我は、まずそれを正したいのじゃ。

つまり、我がなぜここに今日来たかという話じゃ。
お主の知らぬあれを教えよう。
我の知らぬあれのことを聞こう。
……姉のことを好いていてくれたお主が、“書きたい”と思うまで、我は繰言にも付き合うてやる。

じゃから、まずは、我を見よ。
(その呼び方が)

休む、休むとは。
いえ、いえ、いえいえ、いえいえいえいえ!休んではいられませんよ!
ええ、だってこうしている間に一分一秒、世界が未来へ向けて動いてるんですからね!
気を抜けば過去へと置いてけぼりにされるんですから、人類はとどまり続けるために常に全力疾走しなければならないわけじゃあないですか!
ええそうですとも、そうですとも!
それは紛れもない事実なんですからヨハナも常に進まなきゃいけないわけですよ!
ヨハナ自身が人類である限りね!はい!

(なにかのスイッチを入れたように、極端な『躁』を演出させた。)

(「カタラァナさんといえばですね」と、作業机から羊皮紙の束を持ってきた)

御覧ください!最近は詩人から吟を収集してましてね!
昼はカフェー、夜は酒場を中心に集めてるんですけども……
……やや!ご安心くださいヨハナこれでじゅうななさいの4年目です!
夜のお店を訪問するぶんには全く問題ありません!
ですがですがお酒にはまだ触れたことなくってですね!
なんていうか未来人としてのパブリックイメージといいますか、酔った勢いで禁足事項的なあれやこれやをうっかり喋っちゃうと、ただただヨハナが困るだけじゃあないですか!
いやまぁヨハナの言を本気になさる人なんてそうそういないことはヨハナ自身一番わかってるんですけどもね?
ですけどお酒に興味ないわけじゃあなくってやっぱり宴会の場でジョッキを掲げてグワハハハハみたいなそういう乱痴気を愉しめたらいいななんて思ったりもするんですよ!
それとも最近の女子の間では親密な相手としっとりした時間を過ごしたいというのが主流なんですかね?
いやはや、まだまだ色気が足りないなーと思う次第で……ええ、それで吟ですよ!
御覧くださいな近頃は『絶望の青』にまつわる吟が大変多く手ですね!
このページからこのページまでずっとですよ!すごいと思いませんか?
竜を討滅する武勇伝も活躍した人の数だけあってですね!
特に!特に『モスカの巫女が竜の攻撃をしずめた』という話が大人気でしてね!
いやぁすごいですよ!やはり未来へと続く歴史に刻まれた一大イベントですよ!
いまこうしているうちに吟をもとに新しい吟が作られているに違いありませんね!
そうですとも!
いままさにこうしている間にもヨハナ達の戦いは!
事実と脚色を織り交ぜて美談や英雄譚として製造されつづけている!
何も知らない人の耳にも届いていつしかおとぎ話のひとつになりはてていってるんです!
大量生産は文明の発展具合を示す指標のひとつですね!
それが、いつかどれかが忘れ去られてはいて捨てるようなコンテンツになったとしても!
この方たちがなにも知らなかったとしても!
(そう、一気にまくし立ててから、ぶつりと言葉を切るように長い息をひとつ吐いて……)

……………や。
すいません、ちょっとエキサイトしすぎました。
やっぱり最近のヨハナはどうも安定性を欠くようで……ええ、はい、休ませたほうがいいんですかね。
厭か?

(泣き言ならばまだ付き合う気もある。
弱音ならばまだ聞き入れる余裕もある。
だが、その矛盾は暴かねばならなかった)

お主の言いように従えば、良きことではないか。
例えお主らの、我らの……
我(カタラァナ)の物語が真実ではなく陳腐に成り果てようとも、それが公益となるのならば良いではないか。
真実ならずとも、人に希望を与える物語ではないか。

が、お主はそれを“厭だ”と言うておるぞ。
…………イヤ、イヤとは?

(鍋の中の液体が湯立ち始めるくらいの。たっぷりの間があった。)

まさか、そんなこと、一言も、言って、ないじゃ、ないですか。

ええ、だってそうじゃないです?
多くの人に夢を与える素晴らしい話だなと思いましたよ。
作る側も歌う側も経済的に潤いますし。
それに伴い盛り場はさらなる活気をみせてくれますから。
ええ、昨今は悪いお話も多かったですし。尚更。

ですから。ええ。
これは功利主義にみてもなにも悪いことないじゃないですか。
巡り巡って遍く人の助けになるなら、なにも悪いことないじゃないですか。
ええ、ですから、ですから、カタラァナさんのことは
……ええいさっきから、大人しく聞いて居ればベラベラと。

(ぐらぐらと沸き立つ鍋の上を通って腕が少女の胸倉を掴む。
引き寄せて、ごちんと額を突き合せた。
下から吹き上げる蒸気の熱量よりも尚沸き立つ顔はまっすぐヨハナの顔を見て、瞳はぐらぐらと怒りに沸いている)

黙れ!! 黙れ!!
我は“未来人”と話しておるのではない!!!
貴様と!!! ヨハナ・ゲールマン・ハラタと話をしておるのじゃ!!!
だから言え!!! 言ってしまえ!!!
それで貴様の何か大事な矜持が崩れようと言ってしまえ!!!
ほら!! 言わんか!!! その程度か!!!
客観に頼らねば主観も出来んのか!!!
我(カタラァナ)が待ち望み、焦がれ、ついに手放してまで守った未来というものはそんなに脆弱か!!!
何とか言うたらどうじゃ!!!
ヨハナが代わりに死ねばよかったのではないかな、と。
そうすればお約束守れたじゃないですか。
そのような……っ!!!

……じゃが、わかる……
……我とて思ってしまった。

あれではなく、我が代わりになれたら……と。
あなたがそれを仰るべきじゃないでしょう。
皆さんの命は未来につながる大事なもので、ヨハナの目的はそれを無事につなげる事なんですから。
ええ、ですから。その役目はヨハナの役目であるべきですよ。
あの日、あの時、あの瞬間。
たとえなにがあってもカタラァナさんを止めるべきだったんですよ。
奇蹟とか、心情とか、主義とか、そういったもの全てを差し置いてでも。
でなければダメじゃないですか。
そうでなくっちゃ、どうやってヨハナの訴える未来にカタラァナさんが続くんです?
安寧の未来にいるべきは、ヨハナじゃなくてそっちじゃないですか。
ですからヨハナはそうならないよう、最大限努力をするべきだったんですよ。
ですが実際はそうはなりませんでした。
戦いの最中意識を失い、そういった肝心なことができなかったじゃないですか。
ええ、わかってますよ。わかってますとも。
こういった未来への積み重ねは、犠牲なしに成立するものじゃありません。
いままで積み重ねた犠牲を無駄にしないためのさらなる犠牲。
それが理解できないほど幼稚じゃあないんです。
事実、喪われた命の多くは、必要なものでした。確かなものです。
否定しようがありませんよね。
じゃあなんでその犠牲がヨハナじゃないんです?
必要で正しい事で、未来という前へ進むために必要なものなら、考えに逆らうこの思いは?
クレマァダさんだって、ヨハナではなくカタラァナさんが帰ってこれば。
帰ってきたならば、そうであったならば嬉しかったでしょう?
数多くの方々がそう言った結末を迎えたように「そういう犠牲」として迎えるでしょう?
犠牲犠牲と、括って言うな!!
あの場で……もし、もしの話をしよう。
もし我があの場に居れば、我(カタラァナ)の代わりが出来得たのは我(クレマァダ)のみじゃ!!
そしてそれは、連綿と継いできた歌と信仰あればこそじゃ!!
だが、そうであって尚!! ……我に、あれの代わりが出来たとは思えぬ!!

必要かどうかで語るな!!!
必要だからだなんて、そんな合理的な思考であれが死ぬと思うな!!!
あれが……我(カタラァナ)が……お姉ちゃんが……
カタラァナが死んだのは、幼稚極まりなく、身勝手な願いの果てじゃ!!!
『自分はどうなってもいいから、世界だってどうでもいいから、大好きな人に笑っていて欲しい』という、稚拙極まりない、こどもが夢枕に話す御伽話の類じゃ!!!

だのに貴様はなぜそうなのじゃ!!!

なぜ貴様はなぜそう己を数にいれようとせぬ!!!
己の心を無いものとする!!!
ヨハナ・ゲールマン・ハラタ。
我がどう思うかなど、どうして意味がある。
我はずっと、同じことを聞いておるのじゃ。

お主は、どう、思っているのじゃ。
カタラァナが、死んだことを。
(きゅっと口を噤む)(視線が視界の端をなぞる)
(回想する)(自身の今の状態と照合する)(適切な言語を探して)
(これが「是」とは言い難い、という考えが言葉を止める)

(思考がくしゃりとしわだらけになって、考えが緩慢になる)

(それでもどうにか、こうにか、なにかを思っていることのひとつでも言語化しようとしている)


………えと………その……へん、へんかもしれません、けど。
はい、あまり、…その、常識的考えではない、ですから………。


一緒にセッションができないんだな、て。


……そう、思いました。
なんじゃ……お主。
ちゃんと、“悲しい”のではないか。
…………悲しい、とは。これは悔恨ではないですか。
悲しいと呼ぶには、あまりに情緒的ではないのでは?
阿呆じゃなあ。お主は。
人の心というのがそう劇的でばかりあるものかよ。
あれがしたかった。
これをしたかった。
彼女はどんな顔をしただろう?
自分はどんな顔をしただろう?

……ひとつずつ確かめて行くのじゃ。
訪れるはずだった未来を。
そしてその全てがもう、なにひとつほんとうにはならないのだと気付いてしまえば。

機械的に確かめてみよ。ヨハナ・ゲールマン・ハラタ。
きっとお主の心は、"悲しい"に辿り着くさ。
ですが、これ以上もこれ以前も堂々巡りを続けることが。
そのことがヨハナにとってよくないことも理解しています。
そうすることでヨハナがちゃんと前に進めるようになるなら、やるべきですよね。
…………この形容しがたいなにかにラベルをつけて。
自分の中の感情を整理できたとして。できたとしても。
それでも終わってしまったことは変わらないですし。
ただ、ただ、いつも繰り返す自問自答の延長線に過ぎないものだったとしても。
ただ、ただ、来るはずだった未来に思い馳せる無為であるとしても。
…………………………………………………。

……………それでも…それでも、何の展望も抱けないよりはずっといいです。
……ここしばらく真白なままの予定帖よりは、ずっといいはずです。
…書いては消してを繰り返す原稿からも、逃れられるなら、その方がいいです。

いいと、おもいます。たぶん。
さてな。何がいいのかは我にもわからん。
ひょっとしたらここで、何も見出せぬヨハナとして寝かしておくのが世界の為、ということもあるかも知れん。……たとえ話じゃぞ?

じゃがそれでも。
我(カタラァナ)は、そんな面白くないお主を見たらきっと哀しむ。
笑いながら哀しむ。

(笑うことはできなくても、多分いちばん柔らかい表情で、ヨハナの頬を触ると)

じゃから……だから。
僕(カタラァナ)のために泣いて、ハナちゃん。

(幼いころは全てが同じだった。
いつからこんなに違ってしまったのだろうと思いながら、がんばって幼いあのころを思い出して、その頃のように振舞った)
………泣く、のは。それは、よく、わかんないです。
感情の昂ぶりとか、痛みに対する反射とか。
そういうものだというのはわかります、わかりますけども、そういうことじゃないですので。

……はい、その、不器用で申し訳ありません。
……そういうもので済まして、楽になるものじゃぞ。
だのにお主は。

不器用というよりは……
お主は、欠けておるな。
本当に、色々なものが欠けておる。
まるで、何も知らない幼子のように。
……可哀想に。
(思わず、目の前の娘の頭を抱きしめて、頭を撫でてやりたくなるくらいに。)
(悲しいとは。
 なぜなら自分はこの場所でこうしていられる以上、満たされてしかるべきで。
 実際に自分は満たされてあるので、なにかを悲しむ余地などないのである。
 けれどそれは、多くの人間が持つ当たり前の感情として存在すると認識しているし、理解もしている。
 それでも自分自身の共感能力のなさも含め、『そういうものだ』と考えていた。
 感情の性感帯の鈍さも含め、そういった個性として存在しうると考えていた。

 だが、可哀想とは。
 それは同情を誘うような様相。
 それは不幸な立場にある存在。
 それは弱さを備えた人間。
 そういった人物に向ける言葉であって、それが自分に向けられるものなのだとは未だかつて一度も考えたことがなかった。
 なぜなら先述した通り、自分は満たされてあるべき存在であり、哀れまれる要素などなにひとつ考え付かないからであって。
 よしんば自分が本当に悲劇に対する性感帯を持っていたとして、自分が本当に悲しんでいたとしても、それが憐憫を誘うに値するとは到底考えられないからだ。)
(とても奇妙な言葉だった。
 奇妙な言葉だったので、なにがどうしてそうなるのか考える。)

(同情が、同じ境遇にある立場の者への共感であるなら。
 そうであるなら、クレマァダは自分と同じような何かを見出したのだろうか。
 ……否。そうではない。
 クレマァダは彼女自身がもっており、周囲の人間が当たり前に持っていて然るべき、悲しみへの性感帯以前のものについての言及をし、それを憐れんでいるのであって。
 そして自分はそれがなんなのかも、なぜ哀れまれるかも理解をしていないのである。)
(ならば、その人間的欠落が、思と考の堂々巡りの擦れ違いでは。
 そう思う、そう思うよりも先に……)

……どうして?
クレマァダさんのほうが、ずっと、ずっと、可哀想じゃないですか。

(ずっと近くにある人を失くした人が、なぜ自分の感情を差し置いてそう説くのか。
 仮に自分が悲しみを思ったとしても、より大きく悲しむであろう側の人が、どうして自分に対して同情を思ったのか。
 やはりその答えに思い至らず、自分はそう返した。)

(世辞や気休めをかけるにしては、この人を怒りの感情を強く持っていると、そういう人だと思った。
 だからそれはあなたがかける言葉ではないのではと、そう思った。)

(だって自分はあなたになにもできていないからだ。)
どうしてとな。
そこまで足りぬのか。お主は。
……あのな。可哀想に比べようなどあるものかよ。
そも己一人が抱えるものだというのに。
(蔑みではないが、嘆息はした。
 そして言葉を慎重に選ぶ。
 察して貰おうとする“大人の会話”を止め、分かってもらおうと腐心する“子への対話”へと気持ちを切り替えた)
我は祭司……祀りごとを司る者よ。
なれば色々なヒトを知っておる。
色々な人から祈りを受け、またそれをかみ砕いて伝えるのが仕事じゃったからな。
なればこそ、我だから言える。
可哀想なのじゃ。お主は。

ヨハナ、……ゲールマン・ハラタ。
お主は、囚われて居る。
己のあるべきに囚われて、あるべきから逸れた感情を排除しておる。
……じゃが、どれほど否定しようと、どれほど些細であろうと、生まれたものは無に出来ぬ。
生まれたものを無にした、生まれてもおらぬ者に対して我は怒る気力すら持たぬわ。
……それがたまらなく可哀想なのじゃ。
(哀れみの対象となっているのは、要素ではなく自分の構造そのものだった。
 彼女の言い分によれば自身の構造が、性感帯から受ける刺激を認知しないのだという。
 なるほど、それは確かに、哀れであるのかもしれない。
 それは愚かだと思った。

 逆説的に。
 自分の構造様式を無視した思考、あるいは構造を排さねば、自分は哀れなままなのだということだ。
 それは……それは、ひどく、受け入れがたいものに思えた。
 それを為してしまうということは……構造とは…自分のアイデンティティとは……)
そんなでは、前にも後ろにも進めなくなっておるのじゃろうな……ああ、いい、いい、無理に応えんでいい。
おいで、一緒に考えよう。
(立ち上がった。
 有無を言わさず、手を握った。
 引っ張って立たせた。

 片手にヨハナ、片手に彼女が腰かけていた木箱を掴むと、自分の方にがしがし引っ張っていく)
(途中で何かガラクタを蹴っ飛ばして、痛ったぁ!! と叫び、ぷりぷりと怒りながら木箱を自分の横にくっつけると、そこにヨハナを座らせた。
……握った手はそのまま。)
……我は間違いなく、お主は悲しんでおると思う。
じゃがお主はそれを発散するのを拒んでおる。
感情のありなしではなく、それを発散することを……

であれば、やり方を変えよう。
通常のやり方でなくてよい。
たとえ少しばっかし我に対して失礼であってもよい。
“まとも”に哀しめなくたって良い。
……お主は、どうしたら、その気持ちを認めることが出来る?

(じっと目を見て、話した)
(また視線が視界の端をせわしくなぞる。)

(それはなにかを思い出そうとするときにあらわれる、人間の特有のそれで。記憶の中にある五感を手繰る動きと。大きな人に叱られているときの子供のような焦りを含んでいるような動きとが混じっている。)

(まともとは。まともでないとは。)

(そもまともに哀しむ方法を知らない自分がどうすればまともでない方法を見つけられるのか。推測と憶測と実践と事実の積み木細工で形成された自分が、どうすればそのような機微を導き出すことができるのか。)

(推測する…憶測する…事実を振り返る… 考える。『自分はいったい何者なのか』という問いに直面した時と同じくらいに、考えを進める。思い起こす。)
(チェロ、と言われて握っていた手を触れ、硬くなった指に触れてみる。
確かにそこには、積み重ねたものがあった。ならば、そこに迫るものは真なのだろうとも思った。
でも、叱っているわけではないので、追い詰めたくはない。
拒まれないようにそっと、手を引いて隣に座って寄り添った)

……チェロを弾きながら、お主はどう……
いや。チェロを弾くと、お主はどうなる?
回顧、できるんです。
記憶特有の脚色が混ざっているかもしれませんが、そうしていない時よりも明瞭に、かつ克明に。
カタラァナさんを思い浮かべることができるんです。
弦を順序だてて弾くように順番に、旋律の速度で。
そうしている間に感情は、集中であって興奮ではない、躁とはかけ離れたある種の状態へ、ゆっくり、ゆっくり、ゆっくりと収束を示そうとしていて。
であるのにひとたび集中を切らそうとしてしまうと、指先は弦の上を滑り落ちてしまう様相を示します。
一連の工程を終えたころには……… … … ……虚無ではないなにかがあります。
よくない状態だと判断しました。

ですが思っているほうのヨハナはどこか脅迫観念めくように、それを試みるようでもあります。
(なるほど。
今までのアプローチを間違っていたのは、どうやら我の方だったか。
内心、クレマァダはそう想った。
相手を“人だと思って話していた”。
違う。
“これ”は、“そういう機能”だ。
“それ”が、何の因果か人の顔と人の生理現象を持って生まれて来てしまったものだ。
そう――我が半身のように。
姉は歌だった。
歌だったから、歌で意志を伝えた。
我が、歌を人にした。
なら、これには何で意志を伝えればよい。
さしあたっては――因数分解か)

うん。
……瞑想に近い状態じゃな。
興奮は、雑多な情報を全てその身に受ける。濁流の中で、己の求めるものことを拾い上げるのはとても難しいことじゃ。
じゃから、瞑想をする。
モスカでは、武術でも音楽でも、魔術でも祈祷でも、まずは己を零にするべく努めるところから始める。
五感を閉じ、思念を閉じ、ただ意念にてその身を導く。
さすれば、夢想の果てに我(カタラァナ)の音楽の、その一端に触れることも出来得るじゃろう。技術ではなく、心という意味ではな。
まさか、独力で瞬間とはいえそこまで至れるとは驚きじゃが。

……しかしそれは、大変な集中を必要とする行為じゃ。
よくないというのは、それじゃ。
戻ってこれなくなる。
いや、それだけならよい。
そのままでは、想念は色あせて行く。
なぜか? 自明のことじゃ。
己のすべて、余計なものを閉じる――言い換えれば、そこに至るにあたって、己の持ちうる全てをそこに注ぎ込むということ。
閉じるばかりでは力は衰え、思い出は色褪せ、燿きは地に落ちる。

求めれども、求めてはならぬ。
一瞬そこに触れたならば……またそこに触れるようにならねばならぬのじゃ。
また、戻ってこられれば、またそこには……きっと、カタラァナが居る。

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