【団長室】とミミズが這ったような字が書いた看板が貼ってあるレンガ造りの簡素な建物。

中は割と広く、シックなローテーブルに客をもてなす為のソファが真中に鎮座。
壁には本棚があり、混沌中で集められた音楽関係の本が置かれている。

淡い月光のさす窓辺には、いつも作曲をする為に置かれた机。その上には彼が人生を捧げ人生を謳うために書き記された音階だらけの羊皮紙と、夜空のように黒く、蒼く揺らめくインクが置かれている。

奥へ続く扉の先には、仮面が並べられた部屋。そして楽器が並べられた部屋がある。

(はぁああ……とクソでかい溜息を吐きながら近付いてきて)

「本来はね、銀の月は人の子の感情や記憶如きじゃどうともならないわ。存在スケール……容量が規格外だもの。でも、此処じゃ世界の法則の所為で普通の人間よりはずっと多いとはいえ、かなり制限が入ってる。だから銀の月はあんたの感情を自分の中へ移す時、上手い事圧縮した状態でしまってたのね。でも今回はそのまま自分の中へしまわざるを得なくて、しかも自分の中でそのまま処理しなくちゃいけなくなった……から、要するに消化不良とか食あたりの類よ、これ」

んん……つまり、本来ならば可能な事でも…混沌肯定で…規制が入って…呪いを処理しきれないって…事……?(難しい言葉にんんん、と唸って。)

「ええと、猫のあたしも表現が難しいのだけど。そう、本来は普通に処理できる物が、今回は処理しきれないの。でも、要は魔力をたくさん渡してあげれば処理が追いつくわ」(ぴょんと灰猫が跳ぶと、灰色の緩いウェーブがかかった髪の美女がそこにいる)

んん……!?ロザ、リィ………?(急に現れた美女に驚いて)

「なぁに？なに目を白黒させてるのよ。変化くらい魔術師じゃなくったってできるでしょ。ほら、どきなさいな」(まだ、僅かに唸り声をあげるソレに手を伸ばし)

いや、ん…そうだが……はい…。(大人しくそこを退いて)

「よろしい」

(手早く灰猫がソレの上にのしかかり、口移しで魔力を譲渡し始めた)

んん…!?(思わず顔を自身の翼で覆い隠す。だいぶん慣れてきたつもりだったが他人同士のものを見るのは流石に慣れない。)

(口移しの合間にジロリと小鳥を見て)「ちょっと。交尾するわけでも無いんだから恥ずかしがらないでくれる？」

こっ…！！！んんん…いや、だって…。（慣れてないんだから仕方ないじゃないか…とチラリと覗いて）

「(にひ、と灰猫が妖艶に笑って) あら、まだなの？なんなら今度可愛がってあげましょうか？……ん、あら、銀の月、」

(ソレが灰猫の腕を引っ張ったかと思うと、頭を抱え込んで)

「んーーーーーーーーーー！？」

(あなたはソレの眷属なので、ソレが灰猫からえげつない量の魔力を根こそぎ奪ってるのがなんとなく察せる)

んんんんん………。(あぁ、あれ相当魔力食べてる…ディープ過ぎて見てられない…と再度顔を覆った)

……ン、ご馳走さま。

(くたっと猫に戻った灰猫を抱えてソレが身を起こす。軽く頭は振っているが苦鳴などは上げていない)

も……もう、戻った……?(大丈夫…?と二重の意味で翼の隙間から声をかける)

んんー……腹は若干空いてるがまあよかろ。おいで、小鳥。

ん……でも、ロザリィ大丈夫…?(隣へ歩いて行って。商人の腕に抱かれたぐったりしているロザリィを見て心配して。)

なに、魔力を急激に失って伸びただけだし、暫くすれば起きるだろう。
(ソファーのクッションに灰猫を寝かせてやって)

ほら。
(小鳥へ向かって両手を広げる)

そ、そう…か…?

ん…。(伸びてるロザリィを横目に、再度商人の腕の中へ)

(しっかり小鳥を抱いて)

それじゃあ返すから、気を遣らないようにお気をつけ。

(そう言うと、ぞろりと小鳥の中へ這入りこみ、感情やトラウマを噛み砕いた後の記憶を返す)

ん…分かった…。(めをつぶると、戻ってくる感情とトラウマ、苦しい過去をゆっくりゆっくり思い出して。しかし、先のように取り乱したりはなく。眉を顰めてはいるが過去の事、終わった事として処理しているようだ。)

ン。確かに、返したよ。(流石にちょっと疲れたね、と呟くと小鳥を抱いたままソファーに倒れこむ)

ん……ありがと、うわわっ…!!!(そのまま商人と共に倒れる。もふもふの毛があるためそこまで衝撃を感じなかっただろう。)

うン、悪くない。キミの羽根は心地が良いね。(先程まで他者の感情、他者の記憶で苦しんでいたのが嘘の様に上機嫌で小鳥の羽根に顔を埋める)

んん…そう、か…?ん…でも、商人がそう言ってくれるなら……嬉しい…。(ヨタカも先程までトラウマで苦しんでいたはずの顔から苦痛は薄まっており。顔を埋めて上機嫌な商人にホッとし、少し微笑んでまた髪の毛を梳いてやる。)

(ふふ、といつもより柔らかな笑い声が漏れでて、小鳥へ頭を擦りつけた) 返した事で生じた苦痛とか、後、その他に不安とか無かろうね？(無邪気に小鳥の中を探そうと存在を這わせながら)

んん…特に今の所…違和感は…ないよ…。(比較的内面は穏やかなようだ。それより商人と共に居れて幸福で満ちているようだ。)

(許容の範囲内だと判断して特に何もせずに、嘴へ親から子へ贈る類の口付けを送って) そうかぃ、それなら重畳だとも。

ん……ありがとう……ごめん、苦しかった…だろう…?(ふわふわと微笑んで。労わるように背を優しく撫でて)

(少しくすぐったそうに身動ぎして) ……ああ、そうだね、そうだった。幾年ぶりに「苦しかった」のだろう。(責める口ぶりでは決してなくて、懐かしさを含んだ様な口調で) とはいえ謝る必要は無いよ。それが起こることはわかっていたし、多少時間はかかったろうがロザリィの魔力が供給されずともたいらげることはできたからね。

んん……そう、だったのか…?（にしてはロザリィの魔力を根こそぎ吸ってたけど……と驚いて。）

あァ。ロザリィの言う通り魔力があればそれだけ速く終わるのは間違いないし、今回の悪戯の意趣返しに根こそぎ奪いはしたがね。(くつくつ、可笑しそうに笑い)

な、なるほど……。（やり返したのか…まぁ、それだけの事されたものな…と、頭の中で自分に言い聞かせて。）

意図にノってあげてもいいかなァとも思ったのだけど。ある種の腕比べだし、其処は教えた身としては大人気なく……ね？(くすくす)

んんん……お互いに…大人気ないな…。（俺って唯上手くロザリィに利用されただけでは…?と少し苦笑して肩を竦める。）

あながち間違ってはいないだろう。4割はキミへの興味、6割は我(アタシ)狙い、ってところかねぇ。(もふ、とまた顔を埋める)

んん…出来れば…興味を持たないで欲しいな…。（商人を狙うのはなんで？何かしたの？と髪の毛を耳に掛けてやりながら問い。）

ロザリィは嫌い？(銀の髪へ触れて耳にかけてやると、髪の合間からとろりと蕩けた濃い紫の瞳が覗く) さて、あれかな。研究成果盗んだせいとか。

んん…嫌いではないが…。（少し苦手になったかも…とモゴモゴ言い。トロリと溶けた瞳に細い指を這わせて撫でてやり。）何を…盗んだんだ…。（それは怒るだろうに…と溜息をついて。）

あれはあれで可愛いコなのだけどね。(撫でられると、ふふ、と童の様に甘やかに、心地よさげに目を細めて息を吐く) 眷属の儀。もともと我(アタシ)が作る眷属は、あのコが提唱したのさ。

商人からすれば…だろうけど…俺は少し…彼女が恐くなったよ…。（先ほどの事を思い出してブルリと震えて。不快じゃななそうなので続けて頬も撫でて。）んん…そうだった…のか…。（少し驚いて。瞳の中の瞳孔がキュルキュルと大きくなり。）

まァ、むべなるかな。あのコはちょっとサディストだからね。(さらりと白い肌の上を小鳥の指が滑る。嫌がる様子もなく好きにさせ) そう、そう。その理論だけ借りて、キミの様な眷属を作ったんだ。ちゃんと作り込んだわけでもないから元のものとだいぶ違うし、戻し方なんてのも無いけどね。(くすくす)

んん…サディストの域を……越えてる…。(あれはマゾヒストとの同意があってこそ成り立つものと聞いたぞと首を横に振って。まつ毛長いな、と瞳を見て。)そういう事だったのか…。作り込まないのは……元に戻す必要も無いから…?

そぉ？許容する我(アタシ)はマゾヒストなんだろうか。(けら、けら。髪と同じ色の睫毛に縁取られた、何かを甘く煮詰めた様な瞳が小鳥を視返す) 大変だもの。ミックスジュースからオレンジだけ取り出す様なものだよ。それにそう。元に戻す必要もないと、わかってしまった。

許容してると…言うか……あまり相手にしてないと言うか…。(だから余計つっかかってくるのでは…?と首を傾げて。キラキラしているなぁと見つめて。)んん…元に戻さずとも…商人の元から…離れないから…?(それとも離さないつもり…?)

おや、相手にしてないなんて事は無いのだが。気の無い様に見えたかな。(から、からと笑ってたその瞳を不意に伏せて) 逆さ。眷属にしても、いつか居なくなるから。我(アタシ)の生に引きずられていても魂の摩滅で終わりがやって来るのなら、元に戻す方法を探す必要もあるまい。

んん…全てそうでは無いかもしれないが…。本人に聞いてみればいい…じゃないか…。(あぁ、綺麗な瞳が見えなくなった。少し残念そうにして。)……商人は…何人もそうやって…大事な人や…眷属も…見送ってきた…?(また見たいな、とでも言うように頬は撫で続けて。)

そうだね、今度聞いてみるとしよう。ン？ああ。大事な人……かはわからないけど。ニンゲンならたくさん見送ったよ。それから役目を終えた竜も、死にたがりの不死者も、人間に殺された精霊も。……トモダチも。たくさん、たくさん。

……。(見送る側と言うのは、やはり辛いし寂しいのだ。幼い頃に体験しているから分かる。なにも言わず、そっと商人の頭を撫でた。)

いいよ。もう慣れた。(ふるりと首を振って)

んん…寂しい事…思い出させてしまった…。慣れるはずなんて…ないよ…。辛いものは辛い、寂しいものは寂しいって…思っていい…。(ごめん、と謝って。)