PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<黄泉桎梏>外出た瞬間\(^o^)/

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●風強すぎてお亡くなり?

「なんで!? なにが起きてるんだよ!!!」

 文月は絶叫した。
 シレンツィオについて水着に着替えて、さあこれからって時に、横殴りの雨がふりだしたら誰でもそうなる。
 説明しておこう。彼の名は文月、黒影 鬼灯 (p3p007949)が配下、忍集団「暦」における、みんなの弟枠である。戒律に厳しい暦の、さらにその一軍であることから、彼の実力の高さは伺い知れる。仕事となれば鬼になれるし、頭領こと鬼灯とその奥方、章姫のためなら修羅にもなれる。が、そんな彼にも年相応の顔があった。
 つまり、シレンツィオまでリゾートに来ておいて、ホテルに缶詰なんぞごめんだという顔が。
「天気はさあ、さすがに、どうしようもないよ文月」
 双子の兄の葉月が、慰めにかかる。見た目は葉月とそっくりで、銀の髪だけが違う。誰が呼んだか金銀双子。文月と揃いのショート丈水着w着て、これまたおそろいの浮き輪を持っている。彼にしてはえらいはしゃぎようである。つまり、内心残念がっているのは火を見るよりあきらかだった。
 むぷ~とぶんむくれている文月の頭を、ちいさなちいさな手がなでた。
「こんな嵐の中で遊ぶと風邪を引いてしまわないかしら? 文月さんがげんきいっぱいなのは知っているけれど、やっぱり心配なのだわ」
 鬼灯の腕の中から手を伸ばしているのは、いとけなき聖母、暦が女神と仰ぐ生き人形、章姫その人だ。
「はいっ! 奥方、俺は大丈夫です! 部屋で遊びましょう! まりつきでもかるたでもなんでも!」
「殊勝な心がけだ、文月」
 ころっと態度を変えた文月に、ぼそりとつぶやいたは弥生。奥方だいすき過ぎて崇拝しちゃってる暦がひとり。トラップが大得意。趣味は、きれいなもの集め。同僚の手とか目玉とか。そういうやつである。
「俺たちはそれでかまやしないが、孤児院の子どもたちがなんていうかな?」
 暦の筆頭、としておこう、如月が腕を組む。
「いえ、僕らは、はい、残念だとかちっとも思ってないです」
「ベネラー殿、へたな嘘はよすんだ」
 あっさりと見抜かれた【孤児院最年長】ベネラー (p3n000140)はうなだれた。その頭をわしわしと長月がなでる。
「おっさん、この子らまーたいい子いい子でいるつもりやで。せっかく武器商人殿が世話してくれたシレンツィオ行きリゾート旅行。無駄にする気はあらへんよな?」
「無論だ」
 短く返事をした鬼灯は、とはいえ、と神無月と目配せをかわしあう。神無月はさっとパンフレットをとりだした。
「このホテル、カヌレ・ベイ・サンズの館内案内図でございます。頭領、まずは施設内でどう遊ぶかを検討されたほうがよろしいかと」
「どんなものがあるのぉ?」
 ひょいとのぞきこんだアーリア・スピリッツ (p3p004400)。銀月香がふわりと舞う。パレオに包まれたふともものむっちり具合がまぶしい。
「えーと、カジノ、これはお子さま向けじゃないわね。バーもあるのね。おねーさん的にはうれしいけど、これも子ども向けじゃあないわね。カフェ、うーん、ひと泳ぎした後ならわかるけど、いきなりまったりモードってのもわんぱくざかりのお子様にはつらいでしょーしぃ」
「ホテル内でかくれんぼ、なんて考えたけれど、ほかの客の迷惑になるな。んー、タクシーで名所巡りが関の山か?」
 口元を覆うは伏見 行人 (p3p000858)。けれど窓を見た視線が自分で自分の発言に異を唱えている。ぐわんぐわん揺れるヤシの木がみえたからだ。
「やっぱりなしだな。タクシーじゃ吹き飛んじまうかも」
「常山の土を持参すれば良かったな。みんなでカジキマグロ叩きをして気を紛らわすこともできたのに」
 アーマデル・アル・アマル (p3p008599)も思案顔。水無月もつられて顎をつまむ。ナナシがその肩で(特別な許可をもらっています)思慮深げなまなざしを窓の外へ送っている。
「こ、ここまできて……嵐だなんて……」
 誰よりもショックを受けているのは、誰であろう、流星 (p3p008041)だった。まるで墨を流したようにまっくらな海と空に絶望のうめきをあげる。
「奥方とおそろいの水着を新調して、今日という日へ臨んだのに……嵐……どうして? さっきまでピーカンの空だったではないですか」
「南国の天候は変わりやすいからな。それに、スコールが長引いているだけかもしれん。少し待てば晴れ目も見えるだろう」
「いや、それはないね」
 水無月の弁に一石が投じられる。一同がざわつき、同時にそのモノへ顔を向けた。
 オールドスタイルの革張りソファでくつろぐ武器商人 (p3p001107)の目元は、銀糸の前髪で隠れて見えない。だが、そのモノが持つ異様な雰囲気は誰もが感じ取っていた。
「我(アタシ)のお気に入り、この天気をどう見る?」
【魔法使いの弟子】リリコ (p3n000096)は、黒雲をじっと見つめ、やがて武器商人の隣へ座った。
「……人為的なものを感じる」
「及第点をあげよう、リリコ。こいつは外法の仕業だ」
「この嵐を呼んでいる輩がいる、と?」
「そのとおりだよ、皐月の旦那。といっても……」
 武器商人は天井を眺めた。
「今回は深刻にとらえなくていい。『今回は』ね」
「おあそびモードでかまわない、と?」
「うん、そうだねぇ。気負わず気楽にいっちゃえばいいさ」
 サービスです。と、運ばれてきたコーヒーを、武器商人は悠然と味わっている。
「とりあえず嵐がおさまるまで様子見するゥ?」
「そうだね、ホテル代だってただじゃないんだし、屋上の室内プールにでもいこうか。サウナとかドリンクバーとかジャズバンドの生演奏とか、色々あるみたいだよ」
 みんなのオカンこと霜月が水を向けると、会計担当の睦月がうなずいた。
「そうねぇ、せっかくみんなして水着に着替えたのに、また服へ戻るってのも腹立つものね」
「へー、全天候型ドーム付きプールね。今日はたまたま練達の技術をテストしてるのか」
 アーリアと行人がうなずきあう。
「せっかく着たんだし、およぎてー、およごーぜ」
「そーだそーだー」
「チナナはオトナにプールサイドでリラックスするでちよ」
 ユリックの言葉にザスがいつもどおりの調子でのっかり、チナナはマイペースに宣言している。孤児院の院長ことシスターイザベラは、飾り気のない紺色のワンピースの上からだぼっとしたパーカーを羽織っていた。
「鬼灯さん、武器商人さん、アーリアさん、行人さん、アーマデルさん、流星さん、皆さん、本日はお招きありがとうございます」
「堅苦しい挨拶は抜きにしてくれ、シスター。この休暇はただでさえ魔種に狙われて遊べない子供たちの息抜きもたしかに兼ねているが、元はと言えば俺が章殿と遊びたい、暦も遊ばせてやりたい。それだけの話なのだから」
「部下の皆さんを思いやる鬼灯さんの心根に神のご加護がありますよう」
 シスターは十字を切り、おだやかに微笑んだ。
「それじゃ、最上階へレッツゴーだよ」
 今日もカワイイビキニを着ているロロフォイが、パレオをひらめかせて走り出した。
「廊下を走っちゃだめでしょ!」
 さっそくミョールに怒られている。


 屋上には、なぜか誰も居なかった。
 プールにはぷかぷかと青いりんごが浮いている。ドリンクバーのカウンターや、ジャズバンドがいたらしいステージにも、意味深な青リンゴが置いてある。星型の焼印を押されたやつが。無人の空間は奇妙に静かで、嵐がドームを打つ音が静寂を際立たせている。ただひとり、ここにいる銀の瞳の青年を除いて。
「くあ~~~、温水ジャグジー効く~~~~~!」
「……なにやってるんだ、アーノルド」
 アーマデルはなかば呆然としながら青年へ向かって声をかけた。すっごく見覚えのある姿だったからだ。師走と卯月がどこからともなく取り出した大盾で孤児院の子どもたちをガードする。アーノルドはこともなげに言った。
「なにって見ての通りプールを楽しんでいるんだけど?」
「ヒヒ、キミ、現時点で一本しかリプレイ来てないのに、働きすぎじゃァないかい?」
「るっせーやい。神の国は世界滅んだあとだから、福利厚生がマジクソ1000%なんだよ」
「そうまでして何故神の国のために戦うんだ?」
 アーマデルが素朴な疑問をぶつける。アーノルドは真面目な顔して考え込み始めた。
「……なんでだろ、ほんっとなんでだろ、給料は現物支給だし未来はないし昇進はないに等しいし」
「アイデンティティクラッシュしかけてるよ、アーノルドの旦那」
「まあいいや」
 しゃくり。
 アーノルドは行儀悪くりんごをかじった。
 水着だけだったその姿が、鎧をまとったいつもの格好に変わる。アーノルドはばさりとマントを翻した。
「べつにたいした理由じゃないよ。難易度ノーマルは戦闘を挟む必要があって! カジュアルに殴れるのが僕だけだったというわけさ!」
「ぶっちゃけすぎだよアーノルドの旦那」
「ラミリオンに来てほしかった?」
「さすがにそれは御免被るね」
 流星が外を眺める。激しい風雨がドームの上を滑っていくせいで、景色が歪んで見える。
「もしや、この天候、『帳』のせいか!?」
「御名答」
 しゃくしゃく。りんごをかじり終わったアーノルドが、そのへんに芯を放り投げる。
「ここに居た人々はどうしたんだ?」
 行人がこれまたどこからともなく武器を取り出した。アーノルドがめんどくさそうに答える。
「局地的階層越権処理を施したよ」
「はあ? おねーさんたちにわかるように説明して?」
 アーリアの香が強くなる。攻撃的なまでのトップノートが香る。アーノルドはさらにめんどくさそうに顔をしかめた。
「りんごに変えちゃった」
「!」
 章姫が息を呑み、鬼灯が冷たい視線をアーノルドへやる。
「『帳』の効果を借りて、超越的な力を行使した、というわけか?」
「そうそう。わかってるじゃん」
 アーノルドが手近なリンゴへ手を伸ばす。その手を弥生のクナイがはたいた。
「いったぁい。まあいいや。僕もね、休暇できたんだ。さすがにシナリオ三本同時並行は働きすぎだからね! だからここで事を構える気、かるく、しかないよ。祝勝会、どこいくか決めといたほうがいーんじゃない?」
 周りの温度が急激に下がっていく。初夏のシレンツィオだというのに、冷気が漂ってくる。
「かるく、ね」
 鬼灯が目を細めた。あなたは手元に武器を召喚した。来いと念じる。それだけでよかった。

GMコメント

みどりです! ご指名ありがとうございました!
なんかシリアスな感じのOPですけど、やることは「暦」のみなさんと孤児院の子どもたちと遊ぼう! です。名声は便宜的に天義と豊穣へ入ります。

ところでアーノルドくんが納品されました。枢真のえるILに大感謝です!GMは仕様上FL出せないので、ここでしか叫べない愛、あなたへ届け!

●シレンツィオ・リゾート
 かつて絶望の青と呼ばれた海域において、決戦の場となった島です。
 現在は豊穣・海洋の貿易拠点として急速に発展し、半ばリゾート地の姿を見せています。
 多くの海洋・豊穣の富裕層や商人がバカンスに利用しています。また、二国の貿易に強くかかわる鉄帝国人や、幻想の裕福な貴族なども、様々な思惑でこの地に姿を現すことがあります。
 住民同士のささやかなトラブルこそあれど、大きな事件は発生しておらず、平和なリゾート地として、今は多くの金を生み出す重要都市となっています。
 https://rev1.reversion.jp/page/sirenzio

●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
 この海域では乙姫メーア・ディーネーの力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。また、専用携行品も使用できます。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●EX
開放してあります。
が。
このシナリオでは少なくとも暦さんたちと章姫さまは確実に出てきます。特に金銀双子よせ刺さること、文月、葉月はよくでてきます。PCさんも負けず劣らず関係者バンバン出してくれるとにぎやかになってさらにお得。

●NPC かかわってもかかわらなくてもいいですが、かかわったほうが何かと楽しいでしょう。
『暦』
 鬼灯さんの関係者で戦闘能力があります。鬼灯さんの妻である人形、章姫さまを敬愛しています。

 会計係でピアニストの苦労人かわいい、睦月さん
 なんでもできるし無茶振りバッチコイな、如月さん
 普通に不穏だけどさりげにいいやつ、弥生さん
 ガードの固いおっとりさんで桜餅に目がない、卯月さん
 心優しき不殺の人なのにプリンセス呼ばわりされてる、皐月さん
 相棒鷹ナナシと戦場を駆ける隠してるつもりド甘党、水無月さん
 金銀双子の金色の方連撃は任せろ双子よせ刺さる、文月さん
 金銀双子の銀色の方弟の世話は任せろ双子よせ刺さる、葉月さん
 頭領をおっさん呼ばわりできる唯一の傑物、長月さん
 バリバリ神秘系霊視もできちゃうぐう有能、神無月さん
 みんな大好き母上で狙撃の腕はピカイチの、霜月さん
 根暗くんと見せかけてスペック最高値更新中の、師走さん

 非常に多才で個性に富んだ方々です。前半ではアーノルドくんと戦っており、後半ではPCさんたちと共に行動します。プレで指定するだけで呼び出すことが可能です。
 各キャラの詳細は鬼灯さんとこのアルバムをご参照ください(投げっぱジャーマン)。

『孤児院』 みどりのGMページにフレーバーが載っています。現在鬼灯さんちにまるっと居候中です。名無しの魔種に狙われていてなかなか遊べないので、リゾートでうっぷんばらしをするつもりのようです。
 男『孤児院最年長』ベネラー (p3n000140) なんか呪われてて魔種に狙われてるなう
 男ユリック やんちゃ
 女『魔法使いの弟子』リリコ(p3n000096)
 女ミョール 一途
 男ザス 能天気
 ×女セレーデ さびしがりや→討伐
 男ロロフォイ 男の娘
 女チナナ ふてぶてしい
 院長イザベラ くいしんぼう

「やること」について
前半・後半・最後から、最低でも3つを選択してください。
俺はこれもこれもやりたいね! という方は、プレへ番号を記入してください。可能な限り合わせます。


やること・前半
 以下の選択肢の中から行動をざっくり選択して下さい。アーノルドくんが引くと同時に、りんごに変えられた人々は元へ戻ります。

【1】アーノルドくんと手合わせ
暦はこっちです。PCみんなして観戦してても暦が戦ってくれます。

【2】それをつまみに飲む
孤児院の子どもたちはこっちです。未成年はノンアル。


やること・後半
暦の訓練へつきあってください。孤児院の子も参加します。
以下の選択肢の中から行動をサクサク選択して下さい。

【1】色水水鉄砲で陣取りゲーム
ホワイトタイガービーチで、胸に色水が当たったらリタイア! 霜月の射撃の腕に注意だ!

【2】水風船あてっこで回避を上げろ
カヌレ・ベイ・サンズ屋上プールで、金銀双子は超避けるぞ!

【3】本気かくれんぼ
フェデリア自然記念公園で、鬼は水無月! 空から来るぞ!


やること・最後
 以下の選択肢の中から行動を勢いで選択して下さい。

【1】アジアン・カフェ『漣』で飲食を楽しむ
だれかさんがゲスト出演するかも?

【2】大事な人と一緒にコンテュール・ビーチの夕日をながめる
あまりの美しさに親密度もぐっと上昇……

  • <黄泉桎梏>外出た瞬間\(^o^)/完了
  • シレンツィオでかるく戦闘して遊びまくるおはなし
  • GM名赤白みどり
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年07月15日 22時15分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
冬越 弾正(p3p007105)
終音
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
流星(p3p008041)
水無月の名代
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
郷田 京(p3p009529)
ハイテンションガール

リプレイ

●楽しいっ! 私が!
「所で林檎にするの、なんか意味ある??」
『恋揺れる天華』零・K・メルヴィル(p3p000277)の真っ当な質問へ、アーノルドはめんどくさそうに答えた。
「逃げ回られると面倒じゃん? どうせ皆殺しにするのに」
「やることえげつねぇんだよ! あんなメッタなこと言ってギャグっぽい雰囲気だそうとしても、俺はごまかされないからな!?」
「ちぇ」
「ちぇってなんだ! ちぇって!」
 叫ぶ零の後ろで、両のこめかみを揉んでいるのは『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)。まだシラフだ。今日は。自慢の髪の毛は藤色のままだ。
「……ちょっと待ってね、今状況把握してるから」
 人差し指でこめかみをぐりぐり。ツボが刺激されてきもちいいなあなんてアーリアは思う。だが、それよりなにより状況把握だ。認めたくない、認めたくはないが……。
「えーとシレンツィオで」
 アーリアは周りを見渡した。どこもかしこも青リンゴだらけだ。歩道に、窓際に、ひだまりに、木陰に、プールサイドのビーチチェアにも、青リンゴ。あれがぜんぶ元人間。
「神の国の権能で」
 アーリアはぐるーっと見回して、アーノルドを振り返った。不機嫌そうな銀の瞳がアーリアを映す。
「そこの君は遂行者で」
 アーノルドがこくんとうなずいた。右肩にあるモノクロの星の意匠は、彼の聖痕だろう。黙って立ってりゃ凛々しいと言ってもいい。黙っていれば、だが。アーリアは怪訝な顔のまま続けた。
「福利厚生の未充実な職場に嫌気がさして外回り行ってきますって言っておさぼりってことでいい?」
「さささ、さぼってないよ。い、今だって帳をおろしてるだろ? 神はあまねくこの世の事象を把握しておられるんだから、サボりなんて考え付きもしないよ」
「あら意外と動揺が顔に出るタイプ」
「うるさいな。おまえも青リンゴにしてやろうか?」
「お酒飲めなくなるのはちょっとねぇ」
「酒は悪魔の水だ」
「あれ、もしかして下戸?」
 アーノルドはさらに不機嫌になった。
「そんなことないし? ワインなんて最近飲んでないよな、水だよ、水。それよりそこのフライだ」
「私の出番はもっとあとのはずですが?」
 勘解由小路・ミケランジェロことミケくんはいきなり指名されて驚愕した。背景に点描が舞い散り、薔薇が咲き乱れる。王子様なのでそのくらいのエフェクトは日常茶飯事だ。
「さっきからおいしそうな匂いをぷんぷんさせるなよ、フライドチキン。よだれでてくるじゃん、じゅる……」
「私は健鶏国王家と血を同じくするただのウォーカーなのですが。あとパリッとしてません。もこもこのふかふかなだけです」
「ねえ、あれ、おいしいよね?」
「うん、おいしい」
 アーノルドの問いへ、そこだけはおもわず素直になるアーリア。
「はんぶんこしない? 縦に叩き割るからさ。まかせといて、均等になるように斬るから」
「だからやることがいちいちえぐい」
 零はさっきからずっとドン引きしている。
「というかアーノルド、お前さ……もう転職すべきでは?」
「しないよ。僕は選ばれた神の使徒だから」
「こんなことしててその発想が浮かぶならもう転職しかないと思うんだけれど??? オラクル無くても、お前の未来がまずい事が容易に想像がつくし……」
「う」
「なんなら仕事先、真面目に一緒に探すぞ? 労働はいいぞ。お金は稼げるし、自己実現もできる。考えることを放棄した負け組の流言に踊らされるなよ? 孤独は死へ至る病なんだぞ? ある程度の所属意識は精神の安定に必要なんだ」
「しょ、所属意識なら充分僕の神から頂いてるよ! そりゃ、ろくでもないことやってんなあと、僕自身思わなくもないけど、これもおしごとだからね!」
「うん、転職しましょっか、君」
 アーリアの冷静な一言に、アーノルドは逆上した。手の中の銀の長剣が輝き、冷気が巻き起こる。
「するわけないだろ!!! 神の使徒なめんなよ!?!?!」
「だって、ねえ……?」
 アーリアはちらりと隣を見て……人選間違ったかなっておもった。そこにいたのは『アーマデルを右に』冬越 弾正(p3p007105)。言わずと知れたカルト教団、イーゼラー教信徒だったからだ。弾正は眉間を抑えると、深みのあるええ声をだした。
「フッ……分かるぞアーノルド。どうしてカルト教団って福利厚生マジクソ1000%なんだろうな」
 あ、ちょっと話がわかるかなってアーリアは期待した。
「それでも俺は教団を抜けられない。いや、抜け出さないんだ!」
 やっぱだめかーってアーリアは思った。弾正は日頃の不満に火がついたかのごとく言い募る。
「人件費、削れないなら、まず福利。信者を洗脳していい様に使う魂胆なのだろうが、やばい宗教だと自覚がある信者にとってはただ劣悪な労働環境! もらえたとして子供の小遣い! 手弁当は当然! それどころかカネを吸われる始末! 一日タダ働きをしてなんかええことした気になったところを狙う連帯感の罠! 承認欲求の虜となったが最後、ぜったいに抜けられない蟻地獄! わかっているんだ! それでも! なお! 俺は!」
 弾正は顔を覆う。
「気づいてしまったんだ、最近。それでも何故、俺達が教団を抜け出さないのか。それは――DV夫を捨てられない奥方と同じ心理現象だ!」
「それは共依存だろ? 僕の神はこっちのことなんかなーんにも気を使っちゃくれないから共依存ですらないね!」
「だめじゃん?」
「だめでは?」
 弾正に続いて『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)まで声に出ちゃった。声に出して読みたいジャパニーズラングイッジ。なんか昔三色ボールペンを引きながら資料を読み込めとかなんとかそういう本が出てましたけど、そんなちんたらしたことしてるひまがあったらさっさと通読、精読、熟読と三回読んだほうがいいと思うんですよ。というかタイトルだけで中身をぜんぶ説明しちゃってるのに、よくも一冊出せたもんだと思いました。まる。さておき。
 錬は皮肉げに口を歪めたままアーノルドを見やった。
「信仰のやりがい搾取とか紛う事なきクソ過ぎて笑えるレベルだなぁ」
「そんなことないし。天義とかよりまだマシだし」
「比べる対象がもう間違ってると思うんだよなぁ。なに? アンタもこの世をまるっとリンバス・シティ化したいわけ?」
「だからそういってるじゃん」
「いい大人が頬をふくらませるな、見苦しい」
「じゃあどういう顔をすればいいわけ?」
「すねるな。いい大人が。……リンバス・シティは、ゼノグロシアンが大量発生して大変なことになってるんだ。この世が全部異言語に侵略されちゃかなわない。そんな未来はごめんこうむるね」
「君ごときが何を言おうと、未来は僕の神によって征服されるんだってば。これはもう決定事項なの。わっかんないかなあ、わっかんないよなあ。君みたいに信仰の薄い、うすっぺらい人生を送ってるやつにはさ」
「お、言ってくれたな? 誰の人生がうすっぺらいって?」
 拳を平手へ叩きつける錬。アーノルドもこたえてにらみつける。
 剣呑な雰囲気を全く気にしていないのは、『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)だ。真面目な顔のまま、ふしぎそうな声をだす。
「カルト教団はブラックな労働環境なのだな、まあ……自業自得というヤツじゃないか? 自分から好きこのんで所属しているわけだろう? 自己責任と言うやつでは?」
「なにその上から目線。殺すよ。だいたい君のダーリンだってそうじゃん」
「弾正のところはな……。福利厚生マジクソスタイリッシュツアーだからな……。あ、いいこと考えたぞ、弾正?」
「どうしたアーマデル」
 どちゃくそ真面目な顔で爆弾発言をするタイプの人間というものは、一定数居る。彼彼女らに共通しているのは、あくまで善意で言っているということだ。ところでこんな格言を聞いたことはないだろうか、地獄への道は善意で敷き詰められている。そしてアーマデルもまた、善意で爆弾発言をするタイプだった。彼は言い放った。
「……いっそ、てっぺんにのぼりつめて改革するのはどうか、人事部の暗殺なら手を貸すぞ」
「しなくていいしなくていいしなくていい。依頼でもないのにアーマデルのその手が血で汚れるのは、悪夢でしかない」
「そうか、いい案だと思ったのだが」
「古来よりクーデターが成功した例はない。軍が実権握ったあとは、だいたいめちゃくちゃな統治をして国が潰れるんだ。俺は、まだ、いちおう、イーゼラー教に恩義を感じているから、そういうことにはなってほしくない」
「そうか……いい案だと思ったのだが……」
 耳のたれた子犬みたいなアーマデルの様子に、弾正はキュンと来た。キュンときたが、それでもなおさすがに、人事部の暗殺をさせるわけにはいかない。弾正は心を鬼にして話題を変えることに決めた。
「アーマデルが属していた教団は、はたしてどうだった?」
「よくぞ聞いてくれた」
 アーマデルはいきなり、郷土愛を語り始める市長の声に変わった。
「うちは超絶ホワイトだとも!」(以下、映像はイメージです)
 ばっと手を横へ突き出すアーマデル。
「まず制服支給!」(洗っても取れない血が染み付いた、使い古しのぼろきれみたいな暗殺者の衣装)
「食堂無料!」(ふかした芋に見えるなにかを、もそもそと食する幼いアーマデル)
「社宅完備!」(一畳くらいしかない部屋が並ぶなか、茣蓙を引いて寝苦しそうな人々の姿)
「俺のような素質の足らない者も、ある程度まで到達できる、懇切丁寧な育成!」(地獄のような特訓メニュー、次々と使い潰されていく人々、洗脳じみた指導の数々、走り回る技官の姿)
「揺り籠から墓場まで、むしろ死後の安息まで手厚くカバー!」(共同墓地という名のただの穴、死屍累々、腐敗した肉をハゲタカがついばんでいる図)
 アーマデルは満足そうに拳を握った。
「……完璧だな」
「えっ、僕のほうがマシじゃん?」
「何を言うアーノルド、俺の教団は精魂込めて俺を生かして、育ててくれたんだが?」
「それはたまたま君が生き残ったってだけだろ?」
「人の大切な出自を、悪く言うものではない」
 そう言ったのは、片腕に愛くるしい人形(防水スプレー済み)を抱いた『やさしき愛妻家』黒影 鬼灯(p3p007949)。隣に立つは『水無月の名代』流星(p3p008041)、威圧するように腕組みをしているが、章姫とおそろいのセーラーワンピが愛らしくっていまいち雰囲気にのりきれていない。
「アーノルド」
 鬼灯はひたとアーノルドを見据えた。アーノルドは顎を突き出し、横柄な態度でそれを受ける。
「初対面だが――確実に言えることがある、お前……」
 しばし沈黙が外を覆う帳のように落ちた。暴風雨の音を聞きながら、鬼灯は静かな声を押し出す。
「友達、いないだろ?」
「うっせ、バーカバーカバーカ!」
「かおまっか」
「信仰があるもん! 平気だもん!」
「くやしいのうくやしいのう?」
「(ピー)さんが(ピー)してくれたから近日中に(ピー)なシナリオが出るよ! 友達いないわけじゃないからな!」
「メッタなことを言うもんじゃない。だから友達いないんだ、お前」
 冷気がさらに激しくなる。アーノルドは剣をかまえた。明らかな敵対行為に、流星が割って入る。
「奥方殿、師匠、ここはこの流星が。俺はこれでも暦が一員にして特異運命座標がはしくれ! 遂行者ごときに好きにさせはしない!」
「うわ、アーマデルと別方向で生真面目なのが出たな」
 眉をしかめるアーノルドにかまわず、流星は平手を胸へ押し当てた。かわいい。
「見るがいい! 奥方殿とおそろいのこの水着! そしてたのしいたのしい水無月殿との隠れ鬼! 貴重な時間、邪魔させてなるものか……! 暦が部下、水無月班所属、流星、推して参る!」
「結局私怨じゃん」
「聞こえませーん! 敵の言葉へ耳を貸すなど三流のすること、一流の忍は任務の遂行のみを考える! それに、そっちにやる気はなくとも、俺にはあります!」
 言うが早いか、流星は風雅と黒綺羅星を抜き放った。胸の前でクロスさせ、迎撃の構えに入る。
「日頃の鍛錬の成果をお見せするだけでなく、戦場を共に出来る機会を与えてくれた点だけは感謝してやろう。すなわち、もう退場の時間だ! ……お覚悟!」
 錬も自慢の式符を呼び出す。五行占陣の準備も万端だ。
「帳があるなら遠慮なくやってしまおう。シレンツィオでのバカンスをより楽しむための運動と行こうか!」
「あー……」
『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は大きな肩を落とすと、水泳帽をかぶったままの頭をボリボリかいた。
「遂行者にしちゃ、ずいぶん毛色が変わってんな。えーと……」
「アーノルド」
「そうさな、アーノルド。ひとまず手合わせ。よろしく頼まぁ!」
 豪快にいつもの笑いを放つと、ゴリョウの全身を光が覆った。エルフ鋼の輝きだ。駆動泉鎧の戦化粧を終えたゴリョウは、火焔盾をどんと床へ打ち付け、籠手に鎧われた利き手を握り込んだ。
「言っておく、俺は、固いぜ?」
「ふぅん」
 アーノルドは余裕の表情を崩さない。銀の剣が舞い、美しい軌跡を描いた。刃先からこぼれ出るは星の輝き。冷気をまとって。
「僕は、強いよ?」

「なーんかシリアスぶっちゃんてんねー」
「ねぇー?」
『ハイテンションガール』郷田 京(p3p009529)と『闇之雲』武器商人(p3p001107)はプールサイドのバーに居た。カウンターに立つのは武器商人、対して、京は孤児院の子どもたちと一緒に席についていて、ストローをくわえたままぷいぷい揺らしている。
「別に戦わなくていいんだったら、それでいいじゃんね~?」
「ねぇー?」
 京は大きく伸びをして叫んだ。
「アタシはパ〜ス! こっちで酒飲んでるから好きにやってちょーだいな! 派手にやれやれー、あっはっはー! 見応えあるやつお願いねー!」
「郷田の方はアルコールをおのぞみかい?」
「もっちろん! 去年で成人したしね! 飲まなきゃ損ってやつよ~。そのうえ今日はあのサヨナキドリのテッペンみずからシェイカーを振ってくれるってんだから、これはかぶりつきで見なきゃね」
「ヒヒ、お言葉いたみいるよ。キミがそれを望むなら、我(アタシ)は期待に応えよう」
 武器商人はシェイカーを天上へ向かって放り投げた。続いて瓶を二本。なにかのリキュールとレモンジュースが、空中でシェイカーへ注ぎ込まれていく。背中側でシェイカーを受けとった武器商人はゆるりとターン。二本の瓶をあいた方の手でキャッチ。それを薔薇の花のように京の前へ並べると、グレナデンシロップの小瓶を跳ね上げる。鼻歌を歌いながら落ちてきた小瓶を受け止めれば、反動でシロップがシェイカーへ降り落ちる。一式用意してのけた武器商人は、慣れた手付きでシェイカーを振った。
「いいねえ~、魔法みたい」
「今日は使ってないよ、いまのところね」
 ヒヒと、謎めいた笑み。武器商人の目元は雨露の糸に隠れて見えないが、やさしい光を宿しているのだろうことはわかった。京は興味深く、氷を満たしたグラスへ注がれる液体を見つめた。くるっとひとまぜ、ステアしてできあがり。武器商人は顔を傾けた。前髪の間から上機嫌な目元がのぞいている。
「郷田の方へは、アプリコットクーラーを」
「いただきまーす!」
 京は一口飲むと、頬へ手を当てた。
「ん~おいち♪、ごくごく飲めるね、これ」
「気に入っていただけたようでうれしいよ」
「おかわりしてもオッケー?」
「当然、我(アタシ)は応えよう」
「じゃあね! 7杯くらい作っといて! まずは軽くね!」
「ヒヒ、健啖家だねぇ。つまみはいらないかい? ローストビーフを用意できるよ」
「肉!?」
 横からユリックが食いついた。
「ベーコン巻きカマンベールチーズの、オーブン焼きもあるよ?」
「肉にすべきかチーズにすべきか……くそう、武器商人のにーちゃん、究極の二択を迫るじゃねーか」
 京はきょとんとしている。
「両方食べればいいじゃんね?」
「ヒヒ、郷田の方らしいね。ユリックもそれでいいかい?」
「しょーがねーな、それで手打ちにしてやんよ」
 ユリックの頭を撫でた武器商人は、あのきれいな顔で、孤児院の子どもたちへ微笑みかけた。
「なにが飲みたい? かわいいコたち」
 とたんにわいわいと騒がしくなる。
「京のねーちゃんと同じのがいい!」
「ばかじゃないのザス、あれはお酒よ? あたしたちはノンアルに決まってるじゃない」
「チナナはねー、あれがいいでち、なんか、お姫様みたいな名前のやつがいいでち」
 武器商人がふわりと笑みを変える。
「シンデレラだね、おませな女の子にはちょうどいい。ロロフォイ、キミのぶんも作ってあげよう」
「うん! シンデレラだなんてカワイイ名前のがあるんだね、ボクも飲んでみたい!」
 武器商人はまたも愛嬌たっぷりの仕草で、シンデレラを作り出した。供されるグラスに、チナナとロロフォイは歓声を上げる。たいしてしぶい顔をしているのはユリックだ。
「武器商人のにーちゃん、こいつはちょっと量が少ないぜ、もっと多いのをくれよ。ベネラーもそう思うだろ?」
「え? いや、僕は別に。いただけるならなんでもいいけど……」
「っかー! もっと欲かいていこーぜ!? なんのために生きてるんだよお前は! もうちょっと男気見せろや!」
「男らしさと欲深いことは関連性が薄いように思う。それに、強欲は七罪じゃないか」
「あーもう、ああ言えばこう言う、こう言えばああ言う! くちだけはへらねーよな、お前って!」
「はいはいケンカしないよー。おーら、ガキどもー、この京おねーちゃんの膝の上で観戦するかー?」
 えっ、と男の子たちは、ロロフォイを除いて固まった。
「ほらほら、遠慮すんな、おねーちゃんパワフルだから無問題よー、あっはっはー! おいでおいでー! んー、ロロフォイっつったけ、カワイイかっこしてるじゃん」
「……うん」
 ごくりとロロフォイは京の胸を凝視している。
「おっぱいさわってみてもいい?」
「なんだーこのマセガキー? コレは予約済みなんだよ」
「だめか、だめだよね、ごめんね」
「理由あんのか? いってみ?」
「ボクね、背が伸びたら、オトナの女の人のカワイイも着てみたいんだ。そのためにはおむねが必要かなって」
「あー、なるほど、女装の参考にしたいわけね! そういうことなら触ってよし! ひともみだけだぞ~!」
 ロロフォイは礼を言うと、慎重に両手を京の胸へ添わせた。
「すごい! ハリがあるのにふっかふか!」
「あとで水着になるから、そのときじっくり観察していいからね?」
「ありがとう、京さん!」
「ヒヒヒ、元気なコたちへはサマーディライトを捧げよう。夏の喜び、味わっておくれ」
 機嫌よくローストビーフとノンアルカクテルをぐいぐいぐびぐびいきだした男の子たちの隣、すみっこの席でその子は静かに座っていた。大きなリボンがうれしそうにゆらゆら揺れている。
「楽しんでいるかね、我(アタシ)のかわいい弟子」
 リリコはかすかにうなずいた。目元がゆるく弧を描いている。
「おまえはすぐ遠慮するから我(アタシ)は心配だよ」
「……そんなことないわ。私の銀の月といっしょで、とっても、うれしい」
「おまえへはこれを捧げよう」
 音もなく置かれたカクテルグラスには、桃色がかった白。
「……これは?」
「アリス」
「……どうしてこれを?」
「さァ、どうしてだろうね。我(アタシ)にもわからないさァ。運命はどう転がるか、わからないものねぇ」
「……なんであれ、銀の月が私へ作ってくれた。それだけで、とっても、胸がいっぱいよ」
 リリコ、とだけ呼ばれるその少女は、ほんのりと微笑んだ。

●新作水着! お披露目前納品です! 残念! 私がな!(血の涙)
「ぶはっ!」
 プールへ蹴落とされたアーノルドは、水をくぐってイレギュラーズとは反対側のサイドから顔を出した。
「窒息状態で水に落ちると、息継ぎも大変だろう?」
 蹴落とした本人、アーマデルの涼しい声に、アーノルドは顔を歪めた。
「もう一戦いくか!? 殴り愛では負け知らずだぞ俺は! ウェルカム・竜宮!」
 弾正が吠える。錬も式符をうちわ代わりに己を仰いでいる。
「休暇気分で来るには場所が悪かったな」
 きょときょとしているのは零だ。
「流石にこれでいいだろ……え、良いよな? 師匠?」
「そこを判断できるようになったら加点してあげる」
 武器商人は弟子の健闘に楽しそうにしていた。京もぱちぱちと拍手をする。
「アーノルドだっけ、『ボクは強いよ、とか』ふいてたわりには、終始おされてたじゃん。ゴリョウさんも越えられなかったしぃ?」
「……今日は本気じゃないから」
「捨て台詞まで付いてるじゃん。自分からケンカ売ったくせに」
 けらけら笑う京から、アーノルドは鬼灯へ視線を移した。
「暦の頭領、か」
「うちの部下の顔、覚えてくれたか?」
「ああ覚えたね、忌々しいね。特にそこの必中使ってくるやつとか、大嫌いだよ」
「母上のことか?」
「え、女なの?」
「そう呼ばれてるだけなんだけどねェ。ナマ言うおくちには鉛玉ぶっこんじゃおうかなァ」
 危険な笑みの霜月をどうどうとなだめた鬼灯は、舞台は終幕だ、と告げた。
「転職希望は何時でも受け付けてるわよぉ。ミケランジェロランドで風船配る余生もいいものよぉ?」
「やだよ、そんなふぬけた余生」
「掃除は終わった。ゴミは消えろ」
 言い捨てた流星からは本気のオーラ。ゴリョウはエルフ鋼の拘束を解いた。水着姿のオークが現れる。うきうきと水中眼鏡を装備した彼は、にかっと笑った。
「なんならいっしょに泳いでいくか?」
「やだっつってんだろ。なかよしこよしやりにきたわけじゃないんだから」
 アーノルドはプールからあがると、冷気の霧をまとった。
「さすがにこれだけの数の差を前にすると、僕も手こずる。手数だな……僕に足りないのは。よくわかった」
 吐き出した息は白い。アーノルドはそのままかき消えた。
「じゃ、またね」
 一時の冷気が退くと、ゴリョウは準備体操をした。
「よーし、それじゃ、遊ぶかあー!」

●ホワイトタイガービーチ
「うおっと!」
 ギフトで瞬間的に体面積を減らしたゴリョウは、短く口笛を吹いた。
「いまのを避けるとは、やるねェ、ゴリョウちゃん」
「こっちこそいきなり奥の手を使わせられて厳しいぜ、霜月の姐さん! ぶはははっ!」
 笑いながら砂浜へ撒かれた色水を上書きし、陣地を侵略していく。頑強で余裕な戦車が突撃する、突撃する。
「おらああああっ! 真っ向勝負だこららあああああ!」
「ギフト使うのもありなのかィ!?」
「運も実力なら、ギフトも力のうちだあ!」
 ゴリョウは叫びながらも思考を止めない。
(霜月の姐さんは正確に的である胸を狙ってくる。逆にいやぁ、狙いがわかりやすいってことだ。ならば勝算はある!)
 太い腕で霜月から発射された色水をさばく。突き出した肘で受け、太い腕で散らす。次々と打ち込まれる色水鉄砲。ゴリョウは雄叫びを上げた。
(攻撃の間隔が短くなってんな! 狙撃手は距離つめられんのに弱ぇ! いつもの調子じゃいかねぇことを教えてやるぜ!)
 もしこれが実戦なら、どこまでいけば重症か。ゴリョウは自分が受けたであろうダメージを見越して動く。回避はしない。手の甲で払い除けたライムグリーンの色水。続けて打ち込まれたそれを半身になって受け流す。
「どれだけしのげるかがタンクの勝負どころだあ!」
「くっ!」
 霜月があとずさる。あきらかに不利へ追い込まれている。遮蔽物も地の利もない状況、そして相手はタンクとしてその名を轟かせるゴリョウ、行動は前進あるのみ。相性が悪すぎるのだ。
「おらっしゃあああ!」
 ゴリョウが霜月へ飛びかかった。巨体が宙を舞う。
「は? うわあああっ!」
 どすーん。砂埃を上げて、ゴリョウは霜月を下敷きにした。そして手にしていた水鉄砲の銃口を、ちょいと霜月の胸へ当てる。
「降参だよォ、ゴリョウちゃん」
 霜月は楽しそうだった。

●フェデリア自然記念公園
 さっきから空中を歩いているのは流星だ。相手は師匠。極めて慎重に道を行く。移動しているのは、隠れ場を特定されないためだ。おそらくその程度のことは、師匠のほうもしているだろう。
「玄」
 相棒が降りてきたので、流星は木陰に隠れたまま顔を上げた。
「そうか、ナナシ殿は北西に」
 空から来るとわかっていれば、こちらも手を打つだけの話だ。影のある場所を選び、足跡を残さないよう歩んでいく。流星は目を細め、捜索者の思考をトレスする。こちらが玄と共に警戒にあたっているのは先刻承知のことだろう。だとしたら、状況は互角。こちらが師匠を先に見つけ出すことも可能だ。では師匠ならどう動くか。
 流星はナナシを木陰からうかがった。翼が鳴っている……。隠密に通じているはずの鷹が、音を立てて飛んでいる。そのことが流星の意識へ、釣り針のように引っかかった。
(ナナシ殿は囮だ!)
 はさみうちがくる。流星は走り出した。同時に、影も動いた。これまで気配を殺していた影が。流星は脇のしげみへ飛びこみ、姿勢を低くして這う。しげみを抜けると同時に跳躍。水無月の背を視認する。
「鬼の首、もらった!」
 飛びかかろうとして、流星は静止した。
「あと一歩だったな」
 流星の眉間に、太い指が一本、置かれている。触れるか触れないかのそれが、流星を押し留めていた。いくさであれば致命傷だ。
「参りました、師匠」
 清々しい笑顔を浮かべた流星は、食事までの散歩へ師匠を誘った。玄と勝と柴犬、ナナシと師匠。師弟は今日も仲がいい。
「さて、一日の締めに甘味でもつつきたいところ……」
「流星がそういうなら付き合わなくもない」
 まだ隠してるつもりの師匠に、流星はくすりと笑みをこぼした。

●カヌレ・ベイ・サンズ屋上プール
「ドーモ、文月=サン、葉月=サン、冬越弾正です」
「ドーモ、弾正=サン。俺ら双子にかなうとおもってんの? この勝負いただいたね」
「ドーモ、皆=サン。悪いけど、すでに勝ち確、かなって……」
「ほー、文月、葉月、お前ら、誰に指導してもらったのか忘れてるのか?」
「「げえっ、如月ぃ!?」」
 金銀双子の声がハモった。名指しされた方は顎へ指先を添え、嗜虐的な笑みを浮かべる。
「今日は、たっぷり、再指導、だなあ?」
「ひいい、如月が頭領側につくなんて聞いてないよぉ!」
「だ、だいじょぶだ文月、俺がいる……! いざとなったら盾にしていい!」
「そんなことできるもんか葉月のばかー! 俺たちはずっといっしょだろ!?」
「うんうん、仲良きことは美しきかな」
「……如月は笑ってる時が一番怖いよな」
「……そうだな、葉月」
 如月が手にしているのは、いつもの鉄球ではない。すいかみたいなペイントがされたビーチボールに、ビニール製の鎖がついたものだ。とつぜん始まった暦たちオールスターズとイレギュラーズの豪華演習に、立ち見が出るほど観客が集まっている。如月は鎖を掲げて観衆へ答えてみせた。大歓声が湧く。
「フロア沸かしてんじゃねーよ! 如月のやつっ!」
「……なんなんだろうな、あの存在感」
 金銀双子はきゃんきゃん言っているが、如月はどうどうとしたものでゆるぎもしない。
「和むが、そうそう油断もしてられないな。もっとも勝ちを譲る気は、こちらとてさらさらないがな。そうだろう?」
 錬は孤児院の子どもたちの背中を軽く叩いた。それぞれにそれぞれの喝采を叫ぶ子どもたちはやる気だ。
(やっぱりこどもってなんだかんだで、かわいい)
 錬は相好を崩し、水風船を子どもたちへ配っていく。
「見ててね錬さん、もうバカスカ当てちゃうから!」
 しっかり弾丸を握りしめたミョールの目はランランと輝かいていた。
 フロアがさらに熱気に包まれた。モデルウォークで歩いてくるのは、黒ビキニに着替えた京だ。投げキスを飛ばすたびに、黄色い、あるいは野太い歓喜の声があがる。
「どーよ、このパーペキボディにサイキョー装備! これならいくら水風船当てられて濡れてもヘーキ!」
「ずるいぜ!」
「あっはっはーユリックだっけ。これがオトナの知恵ってもんよ! 見たか!」
「お姉さんも水着なんだけどねぇ。詳細が書けないのが本当に残念だと誰かさんが嘆いているわぁ。はいそれじゃあ気を取り直して訓練しましょうかぁ」
 アーリアが皐月の胸ぐらをつかみあげた。
「ど、どうされた、姫」
「おらっ! 暦のみんなも見てるだけで暑いんだから、顔はいいけど水着着なさい水着! ええい見てる方が暑いって言ってるでしょ!!」
「お、おまちを」
「特に皐月ちゃんは暦一良いボディしてるんだから、見せなきゃもったいないでしょ! キレてるとこさらしちゃいなさいよぉ!」
「せめて! せめて更衣室へ行かせて……!」
「脱げー!」
「更衣室ー!」
「アーリア殿は一杯ひっかけておられるのでございましょうか?」
 いぶかしがる神無月へ、柳生達郎がにっこり笑いかける。
「いえ、シラフでござる。だいじょうぶでござる、何も問題はございません。ところで神無月殿、一枚よろしいでござるか?」
「チェキとかいうものでございますね」
「はいっ!」
「やれやれどうしてこんなものを……」
 達郎は神無月の自撮りサイン入りチェキを手に入れた。たぶんレアリティはエンシェント級だ。さりげにピースしてる神無月なんて、なかなか拝めるものではない。達郎はちゃくちゃくと暦たちのチェキを集めていく。
(神棚に飾る準備はできてございまする!)
 忍者オタクの当主がため、ホックホクでスキップしている達郎。彼を横目でながめ、そろそろ頃合いかと、鬼灯は腕の中の章姫を抱き直した。
「さて、文月、葉月、皆」
 頭領の声かけに、暦たちは姿勢を正した。
「これは、訓練だ。わかっているな? おもいっきり楽しめ」
「「はい、頭領!」」
「んー、良い返事だ。それでは、始めるか」
「よしっ、平蜘蛛、水風船MODE!」
 シャキンシャキン、シュカカッ! 平蜘蛛が変形する。六本もの脚が突き出て、その先端で水風船が作られていく。
「ドーモ、実況の卯月です」
「ドーモ、解説の師走です……。俺なんかに解説が務まるんだろうか……。大役だ……。すでにしんどい……」
「皆=サン、師走のメンタルケアは私がやってますのでご安心ください。で、師走、平蜘蛛水風船MODEとはなんでしょう?」
「あれは水風船を作り直すタイムラグを帳消しにする機能だ……」
「つまり、エンドレスで攻撃できる、と?」
「……そう、なるな」
 これには金銀双子も目をむいた。
「ずるっ! ずるいぞそれ!」
「そーだそーだ!」
「はははは! 修行には理不尽がつきものだ! 先攻はもらったぁ!」
 攻撃は弾正からはじまった。しょっぱなから乱戦だ。
(いっしょうけんめいな弾正、かわいいね……!)
 さりげなく影へ潜んでいるのはアーマデル。暗殺者としてのスキルがこんなところで役に立つとは思わなかった。向こうでは冬夜の裔が、なんで俺までって顔してカメラをかまえている。酒蔵の聖女はすでにできあがっていた。
(配置も完璧! これで撮影し放題……はっ、つい弾正へ見入ってしまった! 弾正がかわいいのがいけない!)
 かわいいは最強だ。全肯定だ。ましてやそれがいとしい相手ならなおのこと。
(弾正、暦の写真集め、俺も協力するぞ)
 とびっきりのショットを撮影できれば、めちゃくちゃ喜ばれるかもしれない。しっぽがあったらぶんぶんふりまわしてる感じで。想像するだけで、アーマデルは含み笑い。
「やられっぱなしでいられるかー! いくぞ葉月!」
「わかってる文月! こっちも連撃モードだ!」
(双子が反撃! そのショット、貰ったぁ!)
 カシャリ! パシャパシャパシャパシャパシャパシャ!
 満を持して押したシャッター。練達産のカメラの連射機能、だが。
(なっ! 弾正が射線上に……!)
 確定ロールは時に、輝く。弾正のケツばっか撮影したアーマデルと冬夜の裔は、あとで、そういう趣味なのか? と、マジなトーンで聞かれたと言う。
 そして確定ロールをしかけているものは、ここにもいた。
「アーリア殿」
「なぁに? 弥生さん?」
 アーリアは濡れた髪をかきあげた。常人ならばそれだけでのぼせあがること確実な色香。にも関わらず、弥生はスンってしてる。
「俺は、女性が苦手だ」
「知ってるわぁ」
 アーリアはチャーミングなウインクをしてみせた。そして自分の体へ視線を這わせる。
「……んもう、弥生さんのせいでびしょびしょ、ひどいわぁ?」
 ねえ、そう思わない? 蠱惑的なささやきと共に弥生へ近づく。
「俺にとって、奥方、以外の、女性、など」
「など?」
「油虫同然」
「そこまで言うんだぁ」
 胸元へ顔を寄せる。豊満な胸がもっちりと弥生の体へ……。
「うっふふ、ドキドキしてるのね、弥生さん」
「……」
「固まってるわ。はい、実況~解説~あとよろしく~」
「はい、卯月です。これはいったいどういうことでしょうか、師走」
「……トラウマとアーリア殿の魅力と奥方への忠誠心。三すくみ状態だ」
「となると、どうなるのでしょうか? 今後の予測は?」
「……爆発する」
「「はあ?」」
 誰もが唖然としたところへ、どごーん。火柱が立った。ストレスに耐えきれなくなった弥生が、携帯している火薬へ火をつけたのだ。
「ひっどおい! 弥生さん、そこまですることないじゃない!」
 まっくろに煤けているアーリアが、くってりした弥生を抱き起こしている。第二波がくる。皆が逃走を開始しようとしたその時。
「汚物は洗浄だあああああ!」
 零の声が響き渡った。
「術式オールグリーン! モード・スレイプニル・レイイングダウン! ディアノイマン・セット・コンプリート!」
「おっと、零選手、まさかの奇襲ですね。運搬性能を駆使した水風船爆撃。これは金銀双子も避ける暇がありません」
「……非戦と付与によるコンボ、芸術点が高い」
「はっ! 師匠の前でへたなとこみせると、修行がヤバイことになるからな!」
「なかなかしょっぱい理由ですね」
「……師匠が師匠だからな」
「なんとでもいえー! 見てますかー、師匠ー! 連休は嫁さんと遊びに行きたいんで、修行免除してくださ……あれ?」
 零はつい空中へ止まって下を見た。孤児院の子供たちがビート板の盾をかざしていた。その後ろにゆるりと立つは、師匠であるところの武器商人だ。
「いい戦法だ、魔術の構築もしっかりしている。空中戦ならもう少し回避が高ければ安心ってラインだね」
 口調とは裏腹に、目にはいたずらっぽい光。
「やっておしまい、子供たち」
 零へむかい、雨あられと投げつけられる水風船。
「何が起きているのでしょう、師走」
「……武器商人殿の広域俯瞰とハイテレパスによる、孤児院の子どもたちの連続攻撃だ」
「そして回避が減衰したところへ」
「……奥方のご登場だ」
「いくのだわー」
 章姫はえいってぶどうのつぶくらいの水風船を投げた。見事に顔面へ当たったそれ。零は、プールへ墜落した。水柱の手前で、人形のご満悦な笑顔。

●うちあげ『漣』
「かぼちゃ! 私かぼちゃ大好きなのだわ! ありがとうなのだわ!」
「ぶははははっ! くいねぇくいねぇ! お嬢ちゃんには専用のドールサイズ濃厚かぼちゃ餅とサンカヤーファクトーンだ! アイスの蓮華茶とかあうぜ!」
「おいしいのだわー!」
「よかったな、章殿」
 鬼灯は優しい目で大切な妻を見つめている。それにしても……。ちらりとゴリョウへ視線を投げかける。ゴリョウは料理する手を止めず、表情だけ変えた。
「気になるよな? だよな? 俺のライブキッチンより俺の格好の方が気になるよな?」
「だいじょうぶだ、そんなことはない」
「なんでひらがななんだよぉっ!」
 店長がサラッと通り過ぎていく。
「このカフェのコンセプトなんだよ、上司がいうんだから絶対だよね?」
「もちろん覚悟してこの場へ立ったわけだから、是非もねぇ。が、な? いったいどの層向けなんだ? アラフォーオークのスケスケアオザイとかさぁ!」
「俺だって着てるから……勘弁な」
 零が頬を染めたままうつむく。こっぱずかしい。が、着ねばなるまいや。すべて受けて立った者として!
 アオザイはいい。きれこみから肌がチラ見えするのがいい。それだけではない。この店は、何度も書いているとおり、シフォン生地で作られた、スッケスケのDSKBアオザイなのだ。
 そんなすてきな格好を、かたや筋骨隆々なオークがまとい、精力的に鉄板焼きをしている。汗が輝き、雄の魅力あふれるその姿に、奥様方が釘付けだ。汗で張り付くアオザイがまたEROI。わかってないのはゴリョウのほうである。
 零も零だ、引き締まった若い肉体を見せつけるかのような格好に、黄色い(一部わりとガチ目な野太い)声があがっている。
「バインミー食べたい人!」
 零が声を上げると、いっしょに手もあがる。最近は調理にも力を割くようになってきた。ただギフトだけに頼っていたあの頃の零とはちがう。いまは一国一城の主なのだ。
「具はまかしときな零! ノエル! ちったぁ手伝え!」
「えー? つかれたよー」
 これまでこっそり、個人の子供たちの護衛に徹していたのだ。しかもゴリョウのライブキッチンだ。ノエルとしては、腰を落ち着けて心ゆくまで鑑賞したい。
「せめて食材を運んでくれ!」
「んー、まあそのくらいならやる」
 間近でゴリョウが見れるなら、ノエルとしてはどちらでもいいのだ。にへっと笑ったノエルは、新鮮な食材をゴリョウへ届けていく。
 一方で。
「ふかふかもふもふなのだわ! とっても可愛いのだわ!」
「恐縮です」
 どうみてもパリッとあがったフライドチキンが、章姫にこうべを垂れる図はシュールだった。なお、やっぱりふかふかでもふもふらしい。
「ミケくんはシレンツィオの皆へも、ミケランジェロランドの安くておいしい安心安全なチキンを振る舞いたいのよね?」
「そのとおりです、領主殿」
 アーリアの髪はカクテルによってオーロラのように色を変えている。
「出張店舗ね!」
「おや、そいつは我(アタシ)も噛みたいね。ミケランジェロランドのチキンの質の高さは知っているとも」
 リリコのいれた東方美人茶は、せっかくの香りが少し損なわれている。それに、若干渋い。それでも以前に比べれば、上達したものだと武器商人はかわいい弟子の頭を撫でた。リリコの大きなリボンが、躍るようにふわふわ揺れた。
「いい機会だ。零」
「なんですか師匠」
「零は呈茶のエキスパートでもあったろう? 孤児院のコたちに烏龍茶の飲み比べをさせてごらん」
「逆説的に俺の手腕が問われるわけですね。わかりました。やります!」
 武器商人はおだやかにうなずいた。子供たちはきゃあきゃあとお互いの飲んだ茶のおいしさを自慢しあっている。零としても、茶を供した者として鼻が高かった。
「ここってカフェバー? カフェバーでいいのかしら?」
「郷田の方はまだ飲み足りないようだね」
「当然っしょ! おさけっ! お酒ちょうだいなっ! あと料理じゃんじゃーん!」
「にーく!」
 にーく! 京にあわせて、孤児院の子たちも声をだす。
「さーかな!」
 さーかな!
「おやさいー!」
 しーん。
「あれぇ~? おやさい嫌いなこが多いのかな? 好き嫌いは良くないぞガキンチョども! 食べないとでっかくなれないぞー、あっはっはー!」
 たくさん食べて、たくさん遊んで、たくさん寝て、おおきくおなり。京は慈愛に満ちた瞳になると、次の瞬間にはなにも考えていないかのように大皿の料理を平らげた。
「うん、ナシゴレンは鉄板だな。ガイパッキン、ガイヤーンと、パッタイもあるのか。いま作っているそれはなんだ?」
 おいしそうに口へ運ぶ錬へ、ゴリョウは笑みを深くした。
「ココナツオイルのチーズオムレツ、こっちはグリーンカレーのホイル焼きだ!」
 ゴリョウはほっと掛け声をかけてオムレツをひっくり返した。空を飛んだオムレツが錬の皿へ着地する。
「いただきますっ」
「その一言、じつに俺のやる気をくすぐるぜ!」
「たっぷり英気を養って、神の国の胡散臭い連中へ備えないといけないからな」
「ぶはははっ! ちがいねぇ!」
 そこへ流星と水無月が入ってきた。さっそくゴリョウから受け取った、かぼちゃ餅とサンカヤーファクトーンをぱくついている。
 流星は神妙な顔で、章姫の前に立った。
「どうしたの、流星さん。緊張して」
 心臓がバクバクしている。戦場でも師匠へも背を向けることがなかった流星が、いまだけは逃げ出したい。
「奥方殿、いえ……章姫殿、と、これからはお呼びしてもよろしいでしょうか……?」
「もちろんなのだわー、流星!」
「はわっ! 呼び捨て!? いけません章姫殿、俺ごときにそんな! ん?『さん』は敬称だから、はずして呼び捨てのほうがいいのか? ん?」
「せっかくの奥方の好意だ、受け取っておけ、流星」
 師匠がぼそりとつぶやいた。
「ありがとうございます、章姫殿! 俺、ウェイトレスします!」
 さらりとスケスケアオザイにお色直しした流星。胸はきちんとサラシを巻いているのでセーフだ。
(章姫殿といっきに親密度が上がった気がする……!)
 唇の橋が笑みで歪むのを、流星は抑えきれなかった。

●コンテュール・ビーチ
「そろそろだぞ、アーマデル」
「そうか」
 つっけんどんな中にも、アーマデルの横顔にはやわらかさがあった。弾正はそれを感じるだけで幸福を味わう。ふたりは手を繋いで、浜辺の流木へ座っていた。
「見事な夕日だ……」
「俺にはよくわからないが、夕日は赤いものではないのか」
「それだけじゃないんだ。ここからは……が、見えるんだ」
 強い風が吹いて、弾正の言の葉をさらっていった。アーマデルはまぶたをなかばとじて風をやり過ごし、弾正の言の葉の残響を探す。
「今日は、触手が上陸してくる危険はない、のだよな?」
「中の人が書くとガチの成人向けになり叱られが発生する。よって、このリプレイが納品されているとうことは、触手はありえない」
「メッタなことを言うもんじゃない、弾正。それに……」
 アーマデルは恥ずかしげに目を伏せた。
「万一があれば俺が……俺が弾正を守る……」
「アーマデル……」
 ふたりの顔が、ゆっくりと近づいていく。あとすこしで唇が触れ合うという時、地平線の向こうで太陽が輝きを変えた。
「アーマデル! ほら!」
「おお」
 アーマデルは感動をあらわにするすべを知らない。だから、このグリーンフラッシュの美しさも、弾正に伝える方法を知らない。だが、あの緑の太陽は、アーマデルの心へ、消えない思い出となって刻みついた。アーマデルは弾正の肩へ頭をあずけたまま、夕日をながめた。すでに緑は消え、元の色に戻っている。けれど弾正と一緒に見たことを、きっとこの先、何度でも思い出すだろう。あの不思議な輝きとともに……。


「そういや、長月は?」
「さっき出かけるって言ってたのだわ?」
「え、章殿、なにそれどういうこと?」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでしたー!

たのしいっ! 私が!!!

おつきあいいただき、誠にありがとうございました。それじゃ、通常モードに戻りましょうかねー。けっけっけ。

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