PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<0と1の裏側>囚われた月、嗤う影

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 WCTHS、という組織が練達で暗躍している。
 分解すると、「ウェルネス・クラフト・テクノロジー・ハートフル・ソリューションズ株式会社」となる。ちなみにあくまで本店は別にあるようで、練達にあるのはあくまで“希望ヶ浜支店”である。
 とても胡散臭いとお思いだろう。その通り、非常にキナ臭い組織である。
 “気持ちを変えると自分が変わる、自分が変わると未来が見える”というスローガンのもと、希望ヶ浜支店では表面上はハーブやアロマセットを売っている。

 ――の、だが。

 WCTHSの背後に蠢く影の色は深い。
 世界的な新興カルト宗教が関わっている、という情報が入ってきているのだ、とグレモリー・グレモリー(p3n000074)は言う。

「まあ、この手の組織に怪しい宗教が関わっているのは今に始まった事じゃないんだけどね。此処までなら警察で良いんだけど、なんでわざわざイレギュラーズに頼むかっていうと、“遂行者”と何らかの繋がりがあるんじゃないかって」

 練達に降りかかる災い――“神の国”、その帳の顕現に、まるで示し合わせたかのようにWCTHSの信者が消息を絶っているというのだ。

「タイミングはぴったりだ。疑わないより疑ってかかった方が良い。あと、……あんまり良くないお知らせがある。面子的に知らせておいた方が良いと思うんだけど」

 セレナ・夜月との連絡が取れない。
 グレモリーは淡々と、恐ろしい推測を誘う事実を告げた。



「……う」

 セレナは暗澹とした意識を振り払い、現実を視覚する。
 練達特有のコンクリイト、腕を縛る縄の感触。

「……目が覚めましたか?」

 セレナがゆっくりと顔を上げると、向かい側に誰かが座っていた。
 視界が霞む。ゆるり、と頭を振って改めて見据えると、其処には人好きのする笑顔を浮かべた男が座っている。

「こんにちは、お嬢さん」
「……貴方は?」
「私はWCTHS、希望ヶ浜西支部の支部長をしております、楊と申します。丁寧な応対が出来ずに申し訳ない。ですが貴方の待遇はそうしろと“本部”が仰せですので」
「……女性を縄で椅子に縛り付けるのがまともな応対の仕方って言えるの? 随分と乱暴な扱いじゃない?」
「申し訳ない。ですが私たちも命令には逆らえず。貴方は“何か別のものを追って”この練達に辿り着いた。そして私たちWCTHSの活動に目を付け、探り始めた。そうではありませんか?」
「――……痛い腹を探られた?」
「正確には“探られそうになった”ですな」

 楊と名乗った男は、縛られているセレナを脅威とは見ていないのだろう。
 ゆったりとした様子だ。
 セレナは素早く周囲を見回す。一見普通の応接室に見える。自分が座っているパイプ椅子、楊が座っている皮のソファ。間には机があって……

「取引をしませんかな?」

 楊は周囲を把握したセレナに、タイミングを計って言った。

「――取引?」
「ええ。我々は貴方が求める情報を持っております。正確には、“其の情報がもうすぐ此処に来ます”。貴方は代わりに、我々を護って頂きたい。カルちゃん様の下さった天使にも限界がある。我々はこのままでは――“諸共に殺される”でしょう。奴はそういう、見境のない殺人鬼だ」
「……待って……あなた、誰の話をしているの?」
「おや、お心当たりがない? 彼は名乗っていましたよ。自分は“アルヴァ”だと」



 影は奔る。
 疾風のように。鎌鼬のように。駆けて、切り裂く。一度、二度、三度……生憎薬を塗ってくれる“3匹目”はいない。ただそいつらは切り裂かれて、膝を突くだけだ。
 だけど。

『――ああ、しつっこいなあ』

 生命を奪った手ごたえがない。そいつには無数の切り傷が走っているというのに、まるで無限の体力を持っているかのように立ち上がる。

「……ァ、ウ」
「……ケテ」
「ケテ、タ、ケテ」

 立ち上がる、立ち上がる。
 ああもう。オレは“俺”を知ってる奴を迎えに来ただけなんだけど?
 そいつにさ、いま“俺”が何処でどうしてるかって聞きたいだけなんだけど。――でも、此処まで抵抗されたら“何かある”って勘繰っちゃうよなあ。其のハラワタには、何があるんだろうなあ!

「通りがかりのオレに此処まで警戒するとか、逆にやりすぎだろ……!! ハハッ!!」

 影(オレ)は奔る。
 疾風のように。鎌鼬のように。全てを切り裂き、其の“天使のような姿をした”化け物を、切り刻む。

GMコメント

 こんにちは、奇古譚です。
 今回はカルちゃんポイントの配布はありません。

●目標
 三つ巴を突破せよ

●立地
 練達の希望ヶ浜、西側に位置するビル「WCTHS希望ヶ浜西支部」です。
 既に“量産型天使”たちがうろうろとしていますが、其れを殺戮している影もあります。
 イレギュラーズが此処に立ち入れば、たちまちに三つ巴の完成です。
(セレナ・夜月さんが参加の場合、セレナさんのみビル内部で捕縛された状態からのスタートになります)

●エネミー
 量産型天使xいっぱい
 シャドウ=アルヴァx1

 量産型天使ははちゃめちゃにタフです。
 ちょっとやそっと刃物で撫でたくらいでは死にません。
 其れを只管に切り刻んでいるのは、アルヴァ=ラドスラフの“影”です。彼の目的はこのWCTHS支部の皆殺しです。
 一方でWCTHS支部側は籠城して量産型天使を放つしか対抗策はありません。
 イレギュラーズの最低勝利条件は「セレナ・夜月の救出」です。其の後は最悪、アルヴァの“影”に任せてWCTHS支部を壊滅に追い込んでもいいのかもしれません。


●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。


 此処まで読んで下さりありがとうございました。
 アドリブが多くなる傾向にあります。
 NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
 では、いってらっしゃい。

  • <0と1の裏側>囚われた月、嗤う影完了
  • 影と影と、月。
  • GM名奇古譚
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年07月09日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
結月 沙耶(p3p009126)
怪盗乱麻
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女

リプレイ


「囚われの魔女を、隻眼の犬が助けに行く、か」

 練達、希望ヶ浜。
 其処に降り立つ影がある。『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は遠くにみゆるWCTHS、希望ヶ浜支部――と呼ばれていたビル――を見詰め、呟いた。

「誰が犬だ」

 既に出立の準備は整っている。『焦燥のアンダードッグ』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)は小型ホバーボード「G-ドライブ」の調子を見ながらも、司書――イーリンを睨み付けた。

「あら。可愛い後輩、って言ったのに聞き間違い?」

 くす、とイーリンが笑う。
 そんなやりとりを横目で見ながら、『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は改めて此処に一人足りない人間――『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)を思う。
 恐らくはあのビルの何処かに彼女が囚われているのだろう。
 突入するにはまず、此処からでも見える“天使”の群れを突破し――何処かにいるのだろう“シャドウ=アルヴァ”をかいくぐらなければならない。

「とにかくあのビルに向かって、何が起きてるか調べないとだね!」
「はいでして!」

 『開幕を告げる星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)が頷く。そうして、セレナと自分には何か共鳴するようなものがあるのだと語る。

「だから、ある程度近付けば何か判るはずでして……!」
「――……ジャミングやハッキングの類は感じられないな。連絡がつかないのは単に手段がないのか、別のものに気を取られているのか……」

 『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)が感知能力を用いて周囲を探るけれども、疎通手段を邪魔するような力は行使されていない。其れはイーリンが試みても同じだった。

「……ふむ。だとすると、あの天使たちは攻撃特化か」
「あれをシャドバ氏は一人で相手していると……遠路はるばるよく来たものでスね」

 『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)が、結構な数っスよ、と指差して天使を数える。あ、駄目だ。10を超えた。

「……此処で手をこまねいている訳にはいきません。行きましょう!」

 『相賀の弟子』ユーフォニー(p3p010323)が言う。そうして美咲を戦闘に、一同は天使の元へと走った。

「――美咲」
「何スか、イーリン」
「何手詰めに見える?」
「さあ……少なくとも、カップ麺が伸びるくらいの時間はかかりそうっすね」

 何せ、バカみたいに頑丈って話っスから。



 セレナはきいん、と己の第六感を揺らすものがある事に気付いて、気付かれないように瞬きをした。

 ――セレナさん

 ――セレナさん!

「……!」
「おや、どうかしましたか」
「…いいえ。縄の擦り傷が痛んだだけよ」

 楊に気付かれる訳にはいかない。
 セレナは痛みに顔をゆがめるふりをして、其の共鳴に応える。
 この気配は――ルシアか。ならば他の人間ももうビルの傍へ到着している頃だろう。

「――其れより、取引だけど」
「ええ。“アルヴァ”から我が支部を護って欲しいという」
「……。良いわ、飲んであげる」
「其れはありがたい」
「わたしも彼と会いたかったの。訊きたい事もあったから」
「――何を訊きたいんです?」

 楊は自ら立ち上がり、セレナの縄を解きにかかる。セレナは少々意外に思った。こうも簡単に取引を信じて貰えるとは思わなかったのだ。
 まあ勿論、方便なのだが。

「……何を、か」
「ええ」
「どうして此処に来たのか、とかかしら」

 だからセレナも、此処だけは正直なところを答えた。本当に判らなかったのだ。アルヴァの事を聞きたかっただけ、そうかもしれない。でも、セレナにはそれだけだとは思えなかった。
 このWCTHSに何かあるのだろうか? 其れとも――“戦う事そのものに”意味があるのだろうか?

「まあ、其処までは私が踏み入る事ではありませんな。約束を飲んで貰えて僥倖です」
「……。ねえ、貴方。どうして震えているの?」

 セレナの縄を解く手は、震えていた。
 よく見ると顔色も悪い。

「……死地で震えない人間などいませんよ」
「……逃げないの?」
「逃げられません。逃げれば私は“正しい正義”を享受できなくなる」
「貴方、どうしてそこまで……」
「話は此処までです。さあ、約束を守って下さい、お嬢さん」



 刃同士がぶつかる音が響く。
 其れはアルヴァの強襲であった。アルヴァ=ラドスラフの目標はもとよりシャドウ=アルヴァのみ。

 ――誰かが

 ――奴に情を抱く前に

「オイオイ、何を焦ってんだ? “オレ”」
「焦っている? そう見えるなら其の目はマジで節穴だな。で? 幻想でコソコソした次は、練達で義手でも捜すつもりかい?」

 神速。
 まさにそう言っても良い速度の弾丸がシャドウ=アルヴァへと放たれる。
 シャドウ=アルヴァは其れを手に持っていた粗雑なナイフで弾き、アルヴァに足払いを駆ける。
 アルヴァは素早く下がりながら、一発、二発。弾丸をお見舞いするが、矢張り弾かれてしまう。

「アルヴァさん!!」

 スティアが呼ぶ。
 行け、とアルヴァは叫んだ。

「俺がこいつを抑える! 皆は天使とセレナを!」
「全く」

 イーリンが溜息を吐いた。
 アルヴァはシャドウ=アルヴァへの攻撃を繰り出しながら、戦場を徐々に移動させていく。皆が天使に攻撃する時、手加減しなくてよくなる場所へ。

 イーリンは考える。シャドウ=アルヴァは何を考えているのか。
 アルヴァ=ラドスラフに成り代わりたい? 其れにしては行動が粗雑すぎる。アルヴァの武器を真似ている様子もないし、あちこちを転々としているようにしか見えない。
 明確な目的が、ない?
 ……シャドウ=アルヴァは。

「……別の何者かになろうとしている?」

「セレナさんが動きましたです!」

 イーリンの閃きは、ルシアの声にかき消される。

「セレナさんは解放されまして! ビルの途中で天使と遭遇しまして!」
「セレナさんの色が動いてる……! でも其の周りにも妙な気配がします!」

 ルシアに続けて、ユーフォニーが言う。
 イーリンは閃きを一旦心のポケットにしまって、はあ、と溜息を吐いた。

「美咲、」
「おいっス。行くっスけど……アルヴァさんは」
「良いのよ。あれは放っておいて」

 どの道、撃退が精々でしょう。
 そして“其れで良い”。其れは恐らく、アルヴァも承知済みでしょうから。

「……オトコノコなんだなあ」

 其れは笑っている訳ではなく、単純に感想として。
 美咲はアルヴァが二人、神速の闘いを繰り広げる様を見ながらひとりごちた。



 セレナは階段を駆け下りていく。

「……ケ、テ」
「タ……」
「貴方達に構ってはいられないの!」

 其れに、今はまだ取引の途中。天使たちに手を出す訳にはいかない。
 シャドウに会わなければ。其れか、仲間たちと合流する事の方が先か。駆け下りるセレナの眼前を塞ぐ天使の――腹が炸裂した。

「!」
「セレナさん! 無事っスか」

 美咲だった。
 続けてイーリン、スティア。そしてユーフォニーたちが駆け込んでくる。

「私は大丈夫。――シャドウは?」
「アルヴァと交戦中よ。割り込まない方が良いわ」
「……判った」
「支部長は一番上にいるんスね?」
「ええ。――“シャドウ=アルヴァから此処を護る”という取引はしたけれど……“イレギュラーズから護る”という取引はしていないわ」

 そうセレナが肩を竦め、降りてきた道中にいる天使を振り返る。
 其れは天使というには余りにもグロテスクだ。肉を継ぎ接ぎしたようなそいつが、幸せそうな笑みでセレナたちを見る。

「……タァ」
「殺してやるのが、慈悲だろうな」

 沙耶が最初に。次に美咲が。そうしてイレギュラーズは各々構える。
 さあ、改めて侵攻戦を始めよう。天使を狩って、この塔を駆け上るのだ。



「なあ! 何を焦ってるんだ、“オレ”!」

 幾度目になるだろう。問いを投げながら一気にシャドウ=アルヴァが懐に飛び込んでくる。
 首筋を狙ったナイフの一撃をホバーボードで交わしながら、アルヴァは銃を構える。

「俺が、何に焦ってるって!」

 弾丸を放つ。
 一発。弾かれる。
 二発。肩を掠める。

 影と実体だからだろうか。
 互いに呼吸から攻撃へ移るリズムが判るようになるのは速かった。
 どう攻めて来るのか。どうかわすのか。互いに判ってしまっているから、逆に戦いは長引く事になる。

「オレを倒したいんだろ? 不安なんだろ? 成り代わられるんじゃないかって――怖いよなあ、“オレ”!」
「……ッ!!」

 脇腹を狙った刺突の一撃。
 ホバーボードから飛び降りるように後ろに勢いよくアルヴァは跳んでかわす。ホバーボードは反動で前に出て、そして一気に後ろに戻って来るので其れにまた着地する。

「なあ、“オレ”。皆にホントの事話したのか? 話せないよなあ? お前が本当に怖いのは、成り代わられる事じゃない!」
「……お前こそ! 俺の知り合いに接触して、“存在証明”でもする気かよ!」

 撃つ。弾く。斬る。交わす。
 二人のアルヴァは天使を寄せ付けぬ速さで撃ちあう。
 ハハッ、とシャドウ=アルヴァが笑った。

「存在証明か。そうかもなァ」
「……」
「まあ、オレは別にゆっくりやってもイイんだよ。時間がないのは“オマエの方”だし。……」

 シャドウ=アルヴァが大きく後ろに飛びさがる。
 アルヴァは其れを追う事はしない。シャドウ=アルヴァはナイフを投げ捨てて、ヤメだヤメ、と肩を竦めた。

「向こうではもう合流してるんだろ? じゃあ俺の目的はおしまいだ。此処に居る理由はないから行くわ」
「……何処へ行くんだ」
「……さあ……何処だろうなァ。俺の事を熱心に捜してくれたあの子の所に改めてアイサツするかもな」
「お前に、俺の席は渡さない。見境もなく人を斬るようなお前に」
「……ヘェ。オレに全部おっかぶせてスッキリしやがった奴がよく言うな。まあいいや」

 あとはヨロシクドーゾ。

 シャドウ=アルヴァは後ろ手にひらひらと手を振り、ゆっくりと歩いていたかと思えば――其の姿はまるで風のように、夜闇に紛れて消えていた。

「……」

 アルヴァは強く拳を握り締めると爪先を翻し、仲間の元へ向かう。
 後は“イレギュラーズがWCTHSを壊滅させた”という事実があれば、任務完了だ。



「天穹――!!」

 スティアの魔刃が最後の天使の肉を散らす。

「せッ……!」

 美咲の拳が更に天使の肉を叩き潰す。そうして道は開かれて、其の先に扉があった。

「此処よ!」

 セレナが叫ぶ。
 イレギュラーズ7人は、一気に「支部長室」と書かれた其の扉を叩くように開き――

「……ああ。矢張り、戻ってこられましたか」

 楊はいた。
 構えるでもなく。いや、彼には戦闘能力があるのかも疑わしい。ゆったりと椅子に座って、イレギュラーズを迎えた。
 美咲が一番先頭に立つ。練達をシマとする公職としての意地だ。

「公安当局だ。――協力的でいる限り、手足の爪と骨は保証する」
「其れはありがたいことですな。我らとて、痛い事は出来るだけ避けたい」
「関係者が行方不明になっている。彼らは何処だ?」

 楊はゆっくり頭を振る。
 そうして言った。

「知りません」
「……此処まで倒してきた天使たちが実は信者だった……とかじゃないのか?」

 沙耶が問う。
 其れにも楊は頭を振る。

「いいえ。彼らは“私の部下”です」
「……え?」

 スティアは耳を疑った。
 部下? そういえば此処に来るまでに、この人以外の人間を見かけなかった。

「……どういう事ですか」
「カルちゃん様の思し召しです。正しき正義を抱く我らなら、よき天使になるだろうというお考えですな」
「其の“カルちゃん様”というのは誰だ?」
「本名は存じ上げません。ただ、我らに真の正義を説いて下さった方です。恐らく本部関係の方でしょうな。我らはカルちゃん様のお願いに従い、子どもたちを集めて奉納しましたが……其の返礼がこれでは、あんまりですな」

 ……イーリンとルシアが顔を見合わせる。
 随分とすっきりしない終わりだった。楊は大人しく美咲によって捕縛され、残りの天使たちをイレギュラーズたちは撃破して……そうして、希望ヶ浜の騒がしい一晩は終わった。



「本当に、無事でよかったのです~~~!!」
「ごめんなさい、……無茶しちゃって」

 美咲は公務として楊を当局に引き渡す、と先に去っていった。
 誰もいなくなったビルの傍、朝日に照らされながらルシアがセレナの首に縋りつき、よかったよかったと繰り返している。
 セレナは其れに対して謝るしか出来ない。ゆっくりとそんな二人にユーフォニーが歩み寄る。

「“一人で”行って、こうなった。その勇気と行動力は尊敬します」
「ぅ……」
「でも。見誤って足止めされている間に、一番上のお姉さんは、先に行っちゃうかもですよ?」
「……心配かけてごめんなさい、ユーフォニー。ルシアに、……皆も」

 マリエッタに後で謝らないとね、とセレナは苦笑して。
 ユーフォニーはその答えにうん、と頷くと。

「おかえりなさい。無事でよかったですっ」

 セレナとルシアを二人纏めて抱き締める。
 其の光景をイーリンと沙耶、スティアはは見詰めて。

「……司書さん」
「何?」
「結局、あのシャドウの目的は何だったんでしょう」

 スティアはイーリンに問う。
 イーリンはその答えを閃きとして心のポケットに持っている。
 だが。

「さあ……やっぱり、本物になり替わる事なんじゃないかしら」

 この情報を渡すべきは、……そう。じっと街を見詰めているあの隻眼の犬だろう。
 情報をどう噛み砕くかは彼次第だ。

「影はいつだって、本物について歩くものだもの。本来はね」
「……私が影だったら」

 新しい人生を楽しんで歩みたいものだがな。

 沙耶がぽつり、呟いた。
 イーリンがアルヴァに歩み寄る。其の肩を叩き、閃いた仮説を伝えるために。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

大変お待たせいたしました。
影が本物に成り代わりたい、……とは限らない。
出てくるのは問題ばかりで、解答なんてありゃしない。そんなお話。
ご参加ありがとうございました。

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