シナリオ詳細
<黄昏崩壊>黒雫の染み
オープニング
●
雷鳴と共に蒼穹の空が真っ黒に染まる。
地面は錯乱したように浮き上がり、暴風に煽られ地に叩きつけられた。
染み出した黒い影の隙間に見えるのは『女神の欠片』の淡い光。
風光明媚であったヘスペリデスは黒嵐に飲み込まれたのだ。
「何なのさ!? この変なの!」
響き渡る『白翼竜』フェザークレスの声が『灰鳴竜』ジルヴィルムの耳にも届く。
突如として現れた黒い影にフェザークレスも気が動転しているのだろう。
竜達の安寧の地ヘスペリデス。そこは竜たちにとって心安まる場所であった。
それが黒嵐に飲まれたのだ。少年竜が困惑するのも無理は無い。
「このような影如きに我ら竜が遅れを取るものか……!」
ジルヴィルムは纏わり付く黒い影を払い、フェザークレスに向き直る。
「問題無いな? フェザークレス」
「うん……でも、数が多いや。それにあの大きいの……」
フェザークレスは一際大きい黒い影を見上げた。
それは集束するように形を変えていく。
ジルヴィルムにとって忘れるはずも無い特徴的な角。しなやかな体躯と尻尾。
「あ……」
姉上と言いかけてジルヴィルムは口を噤む。
その瞬間、黒い影――レムレース・ドラゴンから鏡面の粒子が広がった。
光を反射しながら拡大する魔法は、レムレース・ドラゴンのフィールドだろう。
無数に飛び散った鏡にジルヴィルムの横顔が反射する。
「……な、ければよかった」
フィールドの中に響く声は、何かを訴えるように耳にこびりついた。
「何か言ってる? ねえ、ジルヴィルム、こいつ何か言ってるよ」
フェザークレスは耳を澄ませてフィールドの中に響く声を聞こうとする。
レムレース・ドラゴンの声を遮るようにジルヴィルムは叫んだ。
「聞くんじゃ無いフェザークレス! これは怨嗟の声だ。お前は外に出て周りの敵を倒せ!」
「なんで? こんなの僕達がいれば一瞬で終わるでしょ?」
「いいから! 早く!」
何かを焦るような、見た事も無いジルヴィルムの剣幕に、フェザークレスは息を飲む。
ジルヴィルムがこんなにも取り乱すのなら、素直に従った方がいいのだろう。
「わ、分かったよ。周りの敵からやっつけてくる」
フィールドを出る瞬間フェザークレスの耳元で『生まなければ良かった』と誰かの声がした。
●
フェザークレスが映し鏡のフィールドの外へ出る瞬間に、イレギュラーズはその歪みに飲まれた。
気付けば目の前に黒い影を纏ったドラゴンが居る。
「あれは何でしょう?」
ニル(p3p009185)は荒れ狂う映し鏡のフィールドでジルヴィルムと対峙する影を見つめた。
「おそらく、あれが『女神の欠片』から生まれたレムレース・ドラゴンだろう」
地面の揺れに蹌踉けたニルを灰耀(カイヤ)が支える。
「失せろ人間ども。踏み潰しても知らんぞ」
レムレース・ドラゴンの攻撃を弾き返した『灰鳴竜』ジルヴィルムは苛立ちを露わにした。
以前会った彼とは少し様子が違うようだとシラス(p3p004421)は眉を寄せる。
何処か冷静さを欠いているような、そんな気がするのだ。
「出て行けと言われても、出られない」
シラスの言葉に舌打ちをしたジルヴィルムは此方を一瞥する。
「せいぜい足掻くことだな。俺は手助けなどしてやらん。死ぬのはお前達が此処へ入ってきたからだ」
ジルヴィルムが対峙するレムレース・ドラゴンとは反対側、つまりイレギュラーズの左方にもう一体の影が出現する。それは無数に散らばる鏡の中から現れたように見えた。
「――生まなければよかった」
レムレース・ドラゴンから……否、フィールド全体から声が響く。
「この声は何でしょう」
ユーフォニー(p3p010323)は耳を塞ぎたくなる衝動に駆られた。
心臓がどくどくと鼓動を早め、今すぐにでも逃げ出したくなるような恐怖が身体を覆う。
「生まなければよかった」
再びフィールドの中に忌々しそうな声が響いた。
「人間などに絆されて、六竜の威厳も無い。あんな出来損ないのために私は死ななければならなかった」
その声を振り払うようにジルヴィルムはレムレース・ドラゴンに爪を突き立てる。
「黙れ、だまれ!」
――姉上がそんな事言うはずない。生まなければよかったなどと。
「これ以上、穢すことは許さない!」
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は精神を侵食される嫌悪感に拳を握る。
「これはジルヴィルムが受けてる精神攻撃なのかな?」
「ええ、彼を蝕む怨嗟の声は私達にも降りかかるみたいです。皆さん気をしっかり持て……」
ギリリと唇を噛んだウィール・グレスは苦しげに眉を寄せた。
元はフェザークレスを称える剣として創られたウィールは、それを否定するような精神汚染に酷く弱いのだろう。特にフェザークレスを生み出した母竜『エルフリス』を模した者の言葉は、ウィールにとって存在の根幹を揺るがすものに思えた。ウィールを支えたヴェルグリーズ(p3p008566)は震える彼の肩を強く握る。
「この声を止めるためにも、早くあの黒いドラゴンを倒さないとね」
「はい……」
ウィールとヴェルグリーズはじくじくと痛む『心』を奮い立たせ、レムレース・ドラゴンを睨み付けた。
- <黄昏崩壊>黒雫の染み完了
- GM名もみじ
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年06月30日 22時21分
- 参加人数10/10人
- 相談6日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●
黒き怨嗟の声が映し鏡のフィールドの中に響き渡る。
鏡が乱反射して織りなす世界は、そこはかとない恐怖を与えるものだ。
『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)はギリリと唇をかみしめる。
――生まなければよかった。
マリエッタの耳にこびりついて離れない声。
これが『灰鳴竜』ジルヴィルムの中にある、ほんの僅かな負の感情なのだろう。
不安と悲しみを纏ったその声に耳を傾けるほど、己自身の中に嫌な感情が流れ込んで来る。
「余程の間、ずっとずっと抱えてきたのでしょう。だからこそ……それを止めなければいけません」
気を抜けばマリエッタの心も怨嗟の声に飲まれそうになる。
血濡れた罪の、失った過去。救いたいと思い、しかし救えなかった後悔。
奇跡に頼ろうとした自分の弱さ――
己自身だからこそよく分かる。自分がどんな言葉に惑わされてしまうのか。
「産まなければよかった? フェザークレス殿のことかな?」
『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は耳を塞ぎたくなるような声に眉を寄せる。
精神汚染の戯言。されど聞き捨てならないものだろう。
隣を見ればウィール・グレスも苦しげな表情を浮かべていた。
元は『白翼竜』フェザークレスを讃えた剣であったというウィールはこういった声に弱い。
早急に対処しなければウィールの精神が壊れてしまう危険があるとヴェルグリーズは顔を顰めた。
「ウィール殿にはフェザークレス殿の状況を確認していてもらいたいんだ。ジルヴィルム殿と同じように俺もこれをフェザークレス殿に聞かせたくはない」
「はい。私も聞かせたくありません……こんな声」
フェザークレスは素直だからこそ、こういった怨嗟の声を背負ってしまう。心に傷を負ってしまう。
「だからフェザークレス殿がこのフィールドの中に入ろうとしてきたら、どうか引き留めておいてほしい。
キミ自身も辛そうだから戦闘はほどほどに。フェザークレス殿をここに入れないことに集中しておいてくれるかな」
「分かりました」
静かに頷いたウィールに「くれぐれも無理しないように」とヴェルグリーズは微笑む。
「怨嗟の声を延々と聞かせ続けるなんて……随分と意地が悪いみたい」
『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)の銀の髪が割れた鏡に反射した。
身体中に纏わり付く重苦しい怨嗟に唇を引き結ぶスティア。
「でもこんな声に負けるようじゃ救いたい者も救えないよね、絶対に負けるもんかー!!」
スティアの張った声に『夜砕き』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は顔を上げる。
「む、この重い気配、気を抜けば此方も飲まれかねぬ」
四方から聞こえる声は否が応でも咲耶達の精神を疲弊させるものだ。
レムレース・ドラゴンがあの『暖かな気配の欠片』から出現したものとは到底信じられないけれど。
「まずはこの事態を収めねばな」
咲耶の言葉に『蒼空の眼』ルクト・ナード(p3p007354)は頷く。
――生まれるべきではなかった、生き延びるべきではなかった。
ルクトにとって幾度となく繰り返された問答だ。今更振り返ろうとも思わない。
彼女を産んだ親は子であるルクトを捨て、育ててくれた師匠は彼女を庇って死んだ。その事実は変えようのないもの。されど、今の自分が必要だと言ってくれる人が居る。
「……今を生きる理由など、それさえあれば十分だ」
深呼吸をしたルクトは怨嗟を振り払うように大切な人の顔を思い浮かべた。
悲しい声、苦しい叫びが『あたたかな声』ニル(p3p009185)の耳に届く。
「……生まなければよかった、なんて言わないでください」
心が軋んで苦しいとニルは瞳を伏せた。
「ニルはかなしいのがきらいです。だから、早くおわらせないと!」
耐えるようにぎゅうと杖を握り締める。この杖を握っていると「大丈夫」だと誰かが言ってくれるような気がするから。
ニルは結界の外にいる小鳥を見上げる。
どうやらこの結界はファミリアーが途絶されることはないようだ。
「フェザークレス様の様子をおねがい……」
ニルよりずっと強い竜ではある。けれど、それは心配しない理由にはならない。
どうか、このフェザークレスを傷つける怨嗟の声が届きませんようにとニルは願うのだ。
『頂点捕食者』ロロン・ラプス(p3p007992)は己の内に入り込まんとする精神汚染を詳細に分析する。
表層に走る思考の波は細分化され、ロロン・ラプスという個体に最適化された記号で深部へと伝わる。
――胸襟開示、ロロン・ラプスの情緒形成を加速します。
――自己定義、ロロン・ラプスは星と人を食べる怪物である。
――自己否定、ボクはヒトを食べたくない。
――再定義。拒否(エラー)、罪業(エラー)、後悔(エラー)、使命(エラー)、責任(エラー)。
――矛盾命題、願望器が自己保全以外の欲望を抱いてはならない。
膨大なエラーの前には外部からの精神汚染など取るに足らないものだろう。
なぜなら内側に抱える自己矛盾は途方もない時間を思考し、エラーを吐き出している。
ましてや、未だこの身に託された原初の願いは果たされていないのだから。
『青の疾風譚』ライオリット・ベンダバール(p3p010380)は鏡映しのフィールドを注意深く見渡した。
女神の欠片が目視できないかと思ったからだ。
「やっぱり、見当たらないっスね。あのレムレース・ドラゴンを倒さないといけないのかもっス」
ライオリットは向こう側に見えるもう一体のレムレース・ドラゴンを見遣る。
互角以上に戦っているように見えるとライオリットは『竜剣』シラス(p3p004421)に振り返った。
「ジルヴィルムが戦いで後れを取るとは思えない。手出しは無用だろう」
「そうっスね。まずはこっちっス」
「ああ……俺達でレムレース・ドラゴンの片方をを倒す」
深呼吸をした『相賀の弟子』ユーフォニー(p3p010323)は青い瞳を上げる。
「負けません、絶対に――!」
ユーフォニーの言葉と共に仲間が「応」と声を上げた。
●
ライオリットが自己強化を行う背後で術式を練り上げるのはユーフォニーだ。
並の魔術師が時間を掛けて組み上げる魔法陣を一斉に展開する。
光の粒子が織りなす極彩色の魔法陣は拡大し、エルフリスを包み込んだ。
仲間を巻き込まないこの初手にユーフォニーは最大火力を解き放つ。
万華鏡の中に映し出されるのはヘスペリデスで見た景色の彩り。
美しく咲き誇る花色。瑞々しい草木の緑。時間と共に変わる空の色。
―ユーフォニーの瞳に映るヘスペリデスの空気に溶けた無数の音の色。
其れ等が映し鏡のフィールドに乱反射する。ユーフォニーが紡ぎ出す色彩と鏡光が戦場を覆い尽くした。
この景色がジルヴィルムにもとどきますように。
誰ひとり怨嗟の声に飲まれないように。ユーフォニーは強い希望を魔法に込める。
眩い光は戦場に輝きレムレース・ドラゴンの黒い影の動きを止めた。
同時に空中を舞う大きな鏡がひとつバキリと割れる。
レムレース・ドラゴンが張った結界といえど、越えられぬ壁ではない。
仲間で力を合わせれば目の前の困難も突破出来るとユーフォニーは確信する。
「一気に行きましょう!」
レムレース・ドラゴンの前に出たスティアは壁のように立ち塞がる敵に気を引き締めた。
何度目かの攻撃の応酬で理解した。強力なバッドステータス耐性があるのだろう。
「流石はドラゴンというだけあるね」
「ああ……でもそれも想定してる。フォローは任せろ!」
何度もドラゴンやそれに匹敵する敵と戦ってきたシラス達は次善策を講じている。
それは幾重にも積み重ねて来た実戦経験に基づくものだ。
天才なんかじゃなかった。
文字通り泥水を啜って生きてきたシラスにとって、能力のあるものは憧れと嫉妬の対象だった。
到底その高みには昇れないものだと子供の頃は思って居たのだ。
母親が自分を省みる事なんてなかったし、兄は道を外し、それをシラスは刺したのだ。
スラムに流れ、イレギュラーズになってからも重ねた大小の悪事。
其れ等がシラスの脳内を汚染するように流れ込んでくる。
けれど、そんなもの――
「見飽きてるんだよ」
闇霧を引き裂くシラスの拳がレムレース・ドラゴンの胴を穿った。
地鳴りのようにうめき声を上げながら震える巨体。
おかしな精神汚染などなくとも、考えなかった日なんてない。
いまさら動揺なんてしないと、シラスは更に拳を重ねる。
スティアを援護するように剣を振るうのはヴェルグリーズである。
怒りによる引きつけが難しいとはいえ、エルフリスとて絶対的な耐性を持っているわけではない。
狙いを引き受けるのは仲間を守る事にも繋がる。
エルフリスの鋭い爪を真正面から受け止めたヴェルグリーズは強力な怨嗟の声を浴びた。
それはヴェルグリーズ自身がただ一つの剣だった頃の無念の言葉に変わる。
振ってくれる者が居なければ、その身体は動かすことさえ出来ない『物』である。
心を寄せた主を助ける事も出来ずただ、見ていることしか出来なかった。
――死にたくない。
そう小さく呟いた主の声を覚えている。
――助けて欲しい。
死に際に、それでも生きたいと希望を持っていたが故に、絶望の中で死んで行った者が居る。
――どうしてこんなことに。
無念と怨嗟。道半ばで果てることの悔しさをヴェルグリーズは知っている。
全ては過ぎ去った過去だ。けれど、怨嗟の声として聞こえてくるということは少なからずヴェルグリーズの中に後悔があるのだろう。其れ等を要らないものだと斬り捨てる事は出来なかった。
「ごめん、ね……でも俺は」
惑わされて、今此処で潰えてしまえば。過去の主達を覚えている者が居なくなってしまう。
ただ、無念の中で死んでいった主達をヴェルグリーズは忘れてはならないのだから。
その記憶まで未来に紡がなければならないのだ。
「こんな所で折れたりはしないよ」
嘗て主だった者達のため。大切な家族のため。ヴェルグリーズは強い意志を瞳に宿す。
レムレース・ドラゴンの爪で軋む身体に歯を食いしばり、固い皮膚に刃を突き立てた。
「嫌な精神攻撃でござるな。ならばもはや遠慮はいるまい、そのお命頂戴致す」
咲耶は刀を閃かせ、レムレース・ドラゴンの懐に入り込む。
エルフリスに近づくにつれ咲耶の身体を怨嗟が苛んだ。眉を寄せ苦痛に歪む咲耶の顔。
落ち着く為に吐いた息は重苦しく、悪寒が背筋を這い上がる。
「……っ」
脳裏に過るのは吸血鬼の少女を止める事が出来なかったこと。
それに続く悲劇を思い返して心が乱れる。
――あの時、拙者が不覚を取らなければ悲劇は避けられたのではないか?
そんな風に思ってしまうのだ。
過去の後悔と共にその時に着けられた烙印が疼く。
意味は無いと知りながらそれでも、咲耶は考えずにはいられないのだろう。
無念が澱みとなって咲耶を縛り付ける。
それでも、身体は思考と切り離されたように攻撃を繰り返した。
握られた指に籠る力は。どうにも出来なかった怒りを孕んでいるのだろう。
ルクトはレムレース・ドラゴンの硬い皮膚に紫電を帯びた光弾を放つ。
エルフリスの右肩を焼いた雷撃を見遣りルクトは僅かに瞳を伏せた。
人と共に在ろうとする事も、人を観察する事も個々の自由であろう。
それらについてルクト自身が口を出す必要も感じないし、無理に接し方を変える必要も無いのだ。
されど、戦場に響き渡る怨嗟は違う。これは生き方を否定するもの。
「……耳障りな声だ。早々に、そして確実に仕留るとしよう」
とはいえ、レムレース・ドラゴンは言って聞くような相手ではないだろう。
これはジルヴィルムの中にある負の感情を具現化したもの。紛い物だ。
殴って聞かせる意味も無いとルクトは首を振る。ジルヴィルムには後で言って聞かせるとしても。
「この紛い物は少々私としてもぶっ飛ばさないと気が済まないな」
「ま、そうだよねー」
ルクトの言葉にロロンはぽよよんと転がりながら頷く。
戦場に響く精神汚染は思考の隅で処理しておくとして、ロロンはレムレース・ドラゴンへ顔を上げた。
「まだ回復は間に合ってそうだね」
スティアが効率良く回復を入れてくれるお陰で仲間の体力も想定よりは減っていない。
「じゃあ、僕はこっちかな」
戦場を素早くぴょんぴょん駆け抜けるロロンはエルフリスの足下へ突き進む。
ロロンを踏み潰そうと足を上げたエルフリス。
その瞬間ロロンの身体は四方に広がる。水色の粘度のある液体がエルフリスにビタリと張り付いた。
接着面には無数の術式演算が広がり魔力が限界値を突破した瞬間、外へと押し出される。
轟音と共に爆発したロロンにエルフリスも重心を傾がせた。
「鏡は気になりますよね」
ニルとマリエッタはレムレース・ドラゴンの周りを飛んでいる鏡を諸共に破壊する。
イレギュラーズの力を以てすれば、鏡を壊すのは容易いものであろう。
「あれを壊したらどうなるんだ?」
灰耀(カイヤ)の問いかけにニルは首を振った。
「分かりません。でも攻撃が弱くなるか、戦いにくくなるかを見極め無ければいけないです」
「なるほど。取れる手段は幾らでも試せば良いってことか……、っ!?」
キラリと光る鏡の乱反射がカイヤの目の前に弾ける。
一瞬の事で目を眩ませたカイヤを支えたのはスティアだ。
「カイヤさん、大丈夫?」
「ああ、問題無い。油断したな、すまない」
「ううん。ドラゴン相手だし無理も無いよ」
怪我をしたカイヤの傷を一瞬の内に癒すスティア。
戦場へくまなく気を配っていたスティアだからこそ、カイヤの怪我にも一早く対応できた。
「やはり鏡を壊せば、その分だけ反射が鋭利になる可能性がありますね」
マリエッタの推測通り、威力は下がってもより広く拡散されるのだろう。
ふう、とマリエッタは深呼吸をする。
目の前に広がるのは見慣れた血塗れの風景。己が救えなかった人達の姿。
その口から発せられるのは恨みの言葉だろう。マリエッタは唇をかみしめる。
「彼らは、誇り高く……そして、素晴らしい生き方をしていた。だから魔女は血を奪ったんです。輝かしく生きた者達が……誇り高き竜が、貴方の生き様がこれ以上穢されぬ様、私が解き放ちます!」
マリエッタの周りに広がる血の魔法陣は魔力を収縮させ、レムレース・ドラゴンを絡め取った。
拮抗する力に加勢するのはライオリットだ。
浮き上がった岩の塊を足場にして飛び上がるライオリット。
竜種の精神すら揺さぶる強力な精神攻撃だ。自分自身も気を引き締めなければとライオリットは強い意志で心を平常心に保つよう心がける。
「みんな気をしっかり持つっス! どんどん行くっスよ!」
ライオリットの力強い励ましは仲間の心に染み渡った。
駆け抜けるライオリットのしなやかな四肢は、その大きな身体からは想像も出来ない程の速力を持ってレムレース・ドラゴンに肉薄する。
ライオリットの持つ翠と碧の二つの刃がレムレース・ドラゴンの硬い皮膚に裂傷を与えた。
どろりと吹き出すのは血ではなく、粘度の高い光の瘴気だ。
「むむ! 気を付けろ!」
危険を察知したライオリットは一気に後ろへ跳躍し、吹き出した眩い瘴気を躱す。
それは散らばった鏡に乱反射してイレギュラーズに降り注いだ。
●
レムレース・ドラゴンから強い光の瘴気が漂う。
強力な怨嗟の声が戦場に響き渡り、結界の中に居る者達を消し去らんとする眩い光線が降り注いだ。
――生まなければよかった。こんな弱小の六竜なんて見るに堪えない。
「黙れ、影の分際で……! 姉上がそのような事を言うものか!」
胸に傷を負い、血を流すジルヴィルムが視界に入った。
ジルヴィルムが精彩を欠いているとシラスは眉を寄せる。
戦闘に関して手出しはしない。シラスはジルヴィルムにそう言っていた。
けれど今のジルヴィルムは以前落ち着いて自分達の話を聞いた彼らしくないとシラスは思う。
レムレース・ドラゴンの思考を読み取れば状況を深く理解する事が出来るだろうか。
危険だと承知の上で、シラスはレムレース・ドラゴンの思考に入り込む。
脳裏に浮かぶ無数の記憶。
ジルヴィルムとエルフリスの別れと、フェザークレスの誕生。
そこに嬉しさと、一抹の悲しさがあったこと。
フェザークレスを育てていく上で、抱かずには居られない、ジルヴィルム自身のほんの僅かな負の感情。
レムレース・ドラゴンの言葉はジルヴィルムの心を写しているのだろう。
だったら、と。シラスは声を張り上げる。
「あれが偽りのない自分の心だとしても、そんなものはただの側面だ」
シラスの言葉はジルヴィルムの耳にも届いた。
「フェザークレスは本当のアンタを見失ったりしないぜ、もっと信じてやれよ!」
「は……人の子に諭されるとはな。このレムレース・ドラゴンの声は俺によく効くようだ」
ジルヴィルムの心を読み取っているからこそ、その言葉の強さも計りしれないのだろう。
「オレ達はフェザークレスの母親のことは当然知らないっス」
ライオリットは苦しんでいるジルヴィルムの助けになればと声を張り上げる。
「でも、子供を産んだことを恨めしく言うような竜ではないことはジルヴィルム自身がよくわかっていることっス。だからこそ、怒りや悲しみにのまれたら相手の思う壺っス」
ジルヴィルムがエルフリスと過ごした日々、フェザークレスを育てた苦悩と喜び。
その美しき思い出の時間をこんな紛い物が穢して騙っていいものではない。
「フェザークレスはこれからまだまだいろいろなものを見て成長していく。母親もきっとそれを望んでいるはずっス。だから、こんなところで潰させちゃ絶対にだめっス!!」
ライオリットの言葉がジルヴィルムの耳朶を打つ。
弱い人の子がこんなにも励ましの言葉を投げかけてくれているのだ。
「キミがフェザークレスに向ける愛情は本物だと俺は思う。そんなまがい物の竜の言うことに耳を傾ける必要なんてない」
ヴェルグリーズは剣を閃かせレムレース・ドラゴンを切り裂く。
吹き出す光輝にその身が焦がされようとも、ヴェルグリーズは言葉を止めない。
「キミはキミの姉上と今を生きるフェザークレスを大事にすることだけ考えていればいい。
キミが二人と結んだ絆は確かなものだ、そしてそれはキミだけものだ!
そんな外からの声に惑わされる程やわなものじゃない!」
剣であった自分にだって、心から大切だと思える家族が出来たのだ。
惑わされるな。その絆は何よりも強い繋がりなのだからとヴェルグリーズは叫ぶ。
光の粒子を弾き返し、ヴェルグリーズは剣を突き立てた。
――生まなければよかった。
再びジルヴィルムの戦場に怨嗟の声が響き渡る。どろどろと木霊する嫌な声だ。
「はっ、戯言を! 親が『生まなければ良かった』などと本心から望むものか!」
咲耶はその聞くに堪えない言葉を斬り捨てる。
「気をしっかり持たれよ、ジルヴィルム殿! お主の姉はその様な事を申さぬでござろう?」
「ああ。姉上はこんな悪辣なことは言わない」
この呪いの声はジルヴィルムの不安から来るものなのかもしれないと咲耶は考えた。
亡くなってしまった姉の子を育てる上で、言葉には出さない感情の揺れ。
子供に寄り添うが故に、出てくる不安と負の感情は分からなくもない。
されど、ジルヴィルムがフェザークレスに注いできた愛情まで否定させてなるものか。
「親がどう考えようと子は自然と己の道を歩むものでござる。
その成長を信じて見届けるのも育てる者の役目。そろそろこの死合いも終わりにいたそう!!」
咲耶はその強い意思を刃に乗せる。レムレース・ドラゴンの傷を抉る一手だ。
彼女の声はジルヴィルムの胸に勇気を灯す。
「どんな人だって悪い感情を持ったりすることはあると思う。
それでも自分と折り合いをつけて上手くやっていくしかないよね」
スティアは大事なのは思いやりだとジルヴィルムに叫ぶ。
「後は自分を許してあげることも大事かな? 中には追い詰め過ぎる人達もいたりするからね。だからそんなに苦しまなくても大丈夫! 私が許してあげるよ」
明るいスティアの声にジルヴィルムの心は少しずつ上を向いた。
「やってしまった過去は取り消せないけど、これからの行動は変えられるから……もし悔やむようなことをしてしまっているならこれからの行動で取り返せばいいんじゃないかなーって思う。聖職者からの有り難い言葉だからご利益があるはず!」
ふ、とジルヴィルムが微笑んだ。スティアの明るさは昏い戦場の灯火であるのだろう。
「ニルたちを苦しめる声も光景も、鏡にうつったマボロシ。
向けられる憎悪に足がすくんでもホンモノじゃない、のです!」
今、ここにあるものを見て、聞いてほしいとニルは訴える。
「ジルヴィルム様はフェザークレス様のことが大切で。フェザークレス様もジルヴィルム様のことが大切で
だから、きっと。フェザークレス様のお母様だってこんなこと言わないはず」
ニルの中に流れ込んで来る『憶えている』かぎりの悲しいこと。
――伸ばした手が届かなかったこと
魔種の手から救い出したかった、まもれなかったひとたち。
悲しかった。苦しかった。その思いがニルの心を締め付ける。
「ぅ、う」
苦しげに眉を寄せるニルの背をそっとカイヤが支えた。
「大丈夫か?」
「はい……」
これ以上無くしたくない。だから全力を込める。
ニルにはそれしかできないのだから。
「生まれてきたから、ここにいるから。出会えて、話ができて、一緒にいられる。
それは弱さなんかじゃないはずです。そう、ニルは思うから」
一緒に居たいから惑わせないで、苦しめないで。
ニルは強く強く願い。ありったけの魔力を杖に込める。
全身全霊をかけた魔力をレムレース・ドラゴンに打ち付けた。
マリエッタは眉を寄せて心の中に響く自分自身と向き合っていた。
自分が決めた行いを貫く為に、自分が魔女だと言い聞かせてきたのだ。
魔女であることも、自身が血塗られた存在であることも。
それを背負い、沢山の人を傷付け進んでいる。
『――それを否定されることを恐れている?』
マリエッタの耳元で不吉な声がした。己の内から湧き出るもの。自分を罰する声。
『本当はとても弱いくせに。諦めてしまえば楽になるでしょう?』
「いいえ、いいえ! 私には罪があります。背負うべきものです。私は弱くあってはならない」
輝きを奪ってしまった人達の為にも。其れ等の上を歩いて行くと決めたのだから。
「今の私をイヴァーノさんが見たら恨むでしょうか」
マリエッタの言葉に返る声は無いけれど。
レムレース・ドラゴンへと手を掲げるマリエッタの周囲には魔法陣が浮かび上がる。
「けど……それでも前に進むと私は決めてるんです!」
解き放たれる魔力の奔流は大鎌となりて、エルフリスの左翼を切り裂いた。
ルクトはレムレース・ドラゴンを睨み付ける。
彼女や仲間が叩きつけた攻撃は功を奏して、断続的なダメージを刻んでいた。
どれ程相手が丈夫であろうと関係無い。たとえ小さな攻撃でもそれが重なれば大きな傷となる。
諦めなければ竜の幻影さえ倒してみせる。
それが人間の凄さだとルクトは確信している。
ルクトの身体に装着された砲門が次々に広がり、レムレース・ドラゴンを捉えた。
「……全部持ってけ、最大火力だ」
放たれる渾身の一撃はレムレース・ドラゴンの傷を更に大きなものにする。
悲鳴をあげるようにのた打つエルフリスは反撃の為に光の翼を広げた。
されどルクト達が蓄積した傷がその威力を半減させている。
「やっちゃいましょう今井さん!」
「ええ、分かりました」
ユーフォニーの傍に居た万能遠距離攻撃係長『今井さん』が手を大きく広げる。
それに連動して宙へ舞うのは名刺に書類、色鉛筆三角定規バインダー。
「ライフルや他の武器もありますよ」
「いっぱいいっぱいやっちゃいましょう!」
一見コミカルに見えるユーフォニーの攻撃にジルヴィルムも呆気に取られた。
ほんの一瞬でも。呆れ笑いでも構わないとユーフォニーは胸を張る。
「呆れ笑いでも笑うことは負の感情への特効薬なんですから!」
「ああ……そうだな人の子よ」
――何度でも言う。
ユーフォニーは輝きを帯びた瞳で目の前の黒き影へ声を張り上げた。
「覇竜が大好きでこの地に生きる全てが大切だから。竜種のみなさんと護りたいの、絶対。
人と竜を繋ぐ架け橋としての願いも込められた場所。ベルゼーさんの想い、失わせるものか!!」
ユーフォニーの背後から迫り上がる粘度の高い液体。
ロロンはレムレース・ドラゴンの身体に絡みついた。
「そろそろ、終わりにしないとねえ」
ロロンの魔力の回転は更に加速しレムレース・ドラゴンの身体を破壊する。
駆け抜けるは竜の剣。
シラスの拳はエルフリスの胴を内側から砕くもの。
「これで――!!」
終わりだと、シラスは拳を突き入れた。
●
映し鏡のフィールドが粉々になって消えていく。
きらきらと舞い落ちる鏡の破片は地表に着く前に幻影となって霧散した。
呆気なく、ちりぢりになった光の欠片を見上げ咲耶とライオリットはほっと胸を撫で下ろす。
ヴェルグリーズはウィールに「お疲れ様」と背を叩いた。
安心してへたり込んだニルをカイヤが抱き上げ肩車に乗せる。
結界が無くなったのに気付いたフェザークレスはジルヴィルムの元へ勢い良く飛んでくる。
「ジルヴィルム!」
「……フェザークレス、大丈夫か?」
「僕は大丈夫だよ」
死んではいないとほっと胸を撫で下ろすフェザークレスを見つめるのはロロンだ。
――フェザークレスは『そっち』を選択出来たんだね。
ロロンは何方かと言えばジルヴィルム寄りの考えなのだ。
けれど、白翼竜はより過酷な方を選んだ。傷付いてしまうけれど前を向いたその若さが眩しいとロロンは思ってしまうのだ。
竜というものは強い割に過保護(やさしいの)だとロロンは考える。
力の差が激しい種族だからなのか、執着心が強いのか、冠位暴食があの性格だからなのか。
だから、少しだけ寂しさを覚えてしまった。
ここにロロンの同類は居なかったから。
学べることがあったのか、分からなかったけれど。
「……なんとなくキミたちの種族の強い繋がりに羨望を覚えるよ」
ロロンは心配そうにジルヴィルムに寄り添うフェザークレスを見守る。
「ジルは苦戦してたの? そんなに強かったなら助けに入ったのに……こんなボロボロになって」
ジルヴィルムの痛ましそうな胸の傷をフェザークレスは見つめた。
「あのドラゴンは何だったの? ジルにこんな傷を負わせるなんて!」
真っ黒なレムレース・ドラゴンを思い出し、憤慨するフェザークレス。
このままではフェザークレスにとってエルフリスは悪い者として記憶に刻まれてしまう。
スティアとユーフォニーはそれだけはあってはならないと顔を見合わせる。
降り注ぐ鏡の粒子はまだエルフリスの姿を写している。
嘘でも幻でもいい。フェザークレスに母の声を届けられたら――
それは勝手な願いなのかもしれない。けれど、スティアが実際に母の声を聞けて良かったと思ったから。
それがたとえ月光人形だったとしても母と話しを出来たのは大切な思い出だった。
ユーフォニーは同じ気持ちだとスティアに頷く。
「ジルヴィルムさん、エルフリスさんの姿だけを強く強く思い浮かべて欲しいです」
「え……?」
視線をユーフォニーに向けたジルヴィルムは数度瞳を瞬かせた。
まだ鏡の粒子が残っている今なら、ジルヴィルムの持つドラゴンの力とユーフォニーの力を合わせればフェザークレスに母エルフリスの姿を見せてやることができる。大切な人のことは誰だって知りたいはずだというユーフォニーの意図をジルヴィルムもくみ取った。
「お前達の願いは分かった。俺の力と記憶を貸そう」
「ありがとうごいざいます!」
「ジルヴィルム?」
きょとんと首を傾げるフェザークレスの頭を撫でるジルヴィルム。
スティアとユーフォニーの願いをジルヴィルムが紡ぐ。
ほんの一時の優しい幻影がフェザークレスの前に現れた。
今は亡き母竜エルフリスの白銀の翼が大きく広がる。
大きな翼でフェザークレスを抱きしめるエルフリス。
それはジルヴィルムの記憶から取り出された『願望』であるのだろう。
エルフリスが生きていれば、きっとフェザークレスを優しく抱きしめる。そんな願望。
けれど、本物であるか無いかは関係無い。そうならない事を誰にも証明なんて出来ないのだから。
子を慈しむ母の愛を誰が否定できようか。
『フェザークレス……愛しい我が子。こんなにも大きくなって、母は嬉しいですよ』
「……母上?」
初めて見る母竜の姿にフェザークレスは目を見開く。
目の前の竜が自分の母親なのだと確証は無い。けれど、同じ形の角が竜の頭にはあった。
それだけで、彼女が自分の母なのだと分かる。
エルフリスの大きな身体にしがみついたフェザークレス。
涙を流す所なんて他人に見られたくは無いのに。どうしたって溢れる雫が止まらない。
これが幻であることもフェザークレスは分かっている。
けれど、幼子のように白翼竜は咽び泣いた。
エルフリスの大きな翼に包まれながら。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。
無事にレムレース・ドラゴンを退けることができました。
MVPは熱意がこもったプレイングだった方へ。
ご参加ありがとうございました。
GMコメント
もみじです。お話は難しいですがレムレース・ドラゴンを倒せば大丈夫です。
●目的
・レムレース・ドラゴンの討伐
●ロケーション
風光明媚なヘスペリデスですが現在は異様な光景になっています。
石などが崩壊し宙を漂っています。天空も荒れ狂ってしまっている状態です。
イレギュラーズはレムレース・ドラゴンが作り出した映し鏡のフィールドの中に閉じ込められてしまいます。
中には『灰鳴竜』ジルヴィルム、外には『白翼竜』フェザークレスが居ます。
フェザークレスとジルヴィルムであればレムレース・ドラゴンなど難なく倒せてしまうでしょう。
しかし、ジルヴィルムはフィールドからフェザークレスを追い出します。
その代わり近くに居たイレギュラーズが中に閉じ込められてしまいました。
●敵
○『レムレース・ドラゴン』エルフリス
ジルヴィルムの姉、フェザークレスの母、将星種の竜を模しています。
本物ではありません。これはジルヴィルムの負の感情を『女神の欠片』が読み取ったものです。
全身は影に覆われており真っ黒です。
映し鏡のフィールドを作り出しイレギュラーズを閉じ込めました。
フィールド内に響く声は、怨嗟を孕みます。
映し鏡のフィールドなので二体居ます。
イレギュラーズはレムレース・ドラゴンの片方を相手取ります。
もう片方はジルヴィルムが対峙します。
ジルヴィルムの後悔や僅かな負の感情を読み取ったレムレース・ドラゴンは、生前には絶対言わないであろう『人間に絆されるような、こんな弱々しい六竜になるなんて、生まなければよかった』というような事を言い続けます。それはジルヴィルムの心の中だけにある僅かな負の感情です。
だからこそ、フェザークレスには聞かせたくありませんでした。
イレギュラーズにもその怨嗟の声は届きます。
特別なフィールドステータスに精神汚染があります。
目を塞ぎたくなるような陰惨な出来事が脳内に送り込まれます。
それは過去のトラウマだったり、これまでの戦場だったり、誰かの無念だったりします。
特に響いてくるのはジルヴィルムを呪う声です。
感情を揺さぶられ、苦痛に顔を歪めたり、泣きそうになったりするでしょう。
ダメージや数値的BSは無いです。
物理的な攻撃もとても強いです。
爪や牙での攻撃に加え、割れた鏡を反射させ高威力の光を放ちます。
●中立
近くで竜達がレムレース・ドラゴンと戦っています。
イレギュラーズを手助けする事はありませんが、攻撃をしてくることもありません。
ただ、こちらから攻撃を仕掛けた場合は、反撃されるでしょう。
○『灰鳴竜』ジルヴィルム
将星種『レグルス』であり、『白翼竜』フェザークレスの兄貴分です。
フェザークレスの母竜は将星種であり、ジルヴィルムの姉でした。つまり叔父甥の関係です。
将星種の母竜は天帝種であるフェザークレスを生んだ時に死亡しました。
卵から還る前からフェザークレスの世話を焼いており、親でもあり兄弟でもあります。
ベルゼーの事を尊敬しており、人間に絆されているフェザークレスを窘めています。
人間を知る事は大切であるが必要以上に近づいてはならないと忠告しました。
映し鏡のフィールドの中で戦っています。
『レムレース・ドラゴン』エルフリスの怨嗟の言葉に精神を蝕まれています。
強い精神汚染ですが、将星種であるジルヴィルムはそれに耐えています。
○『白翼竜』フェザークレス
天帝種『バシレウス』の六竜のひとり。
練達を襲撃した竜のひとりです。
慕っているベルゼーに言われるまま練達の人々を攻撃しました。
子供故の素直さだったのでしょう。
その幼さと素直さは欠点でもあります。
六竜でありながら人間に絆されたとジルヴィルムに叱責されてしまいました。
感謝と親離れしたい気持ちと反抗期が重なって複雑な思いを抱いています。
映し鏡のフィールドの『外』で他のレムレース・ドラゴンと戦っています。
フィールドの中に居るジルヴィルムを心配しています。
けれど、ジルヴィルムに近づくなと言われているので周りの敵を相手しています。
フィールドの中の『レムレース・ドラゴン』エルフリスの怨嗟の声は聞こえないようです。
フェザークレスは母竜の姿を知りません。
●味方
○灰耀(カイヤ)
灰家の耀。亜竜集落『クレステア』に住んでいる。村長の息子。
フェザークレスと交流のあった祖先灰蓮(カイレン)に瓜二つ。
面倒見が良く冷静沈着な兄貴分だが、時折やんちゃな所がある。
自分の身は自分で守れる程度には戦えます。
○ウィール・グレス
刀や剣の逸話が交ざり具現化した伝承の精霊。属性は風。
元はクレステアの鍛冶師が打った剣でした。
フェザークレスの美しさと強さを讃える為に作られた剣なので、彼を貶すと刃が飛んでくるらしい。
最近は温厚になったとか。
自分の身は自分で守れる程度には戦えます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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