PandoraPartyProject

シナリオ詳細

花火にすらなれなかった

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●クソデブ
「は、はひ、はへへ……」
 深い森の奥を、もうどれだけ歩いただろう。男にとってはどうでもよかった。すべて失敗した。失敗した。失敗したのだ。イレギュラーズとかいうもの。それのせいで。
 男の名はラミリオン。豪華だった服はボロボロで、身につけていた宝石はひびわれている。長いひげはめちゃくちゃにもつれ、垢じみた肌をさらに汚らしく見せていた。
 幻想種の美貌と長寿に狂い、奴隷商人に成り上がった。だがつまらないこと(彼にとっては)でイレギュラーズに足を引っ張られ、エルス領を襲撃するも挽回に失敗した。奴隷商人の許可を剥奪され、ただの男に成り下がったラミリオンは、ある怪生物に植え付けられた恐怖と、受け止めるにはあまりに重い現実のあまり、正気を失っていた。
「はへ、ワシはあ、ラミリオン様だぞぉ。金ならあるぅ。金ならあるんだぁ。傭兵をよべえ、奴隷狩りだ、奴隷狩りだぁ」
 先の戦闘で使った転移魔術に導かれた先は、皮肉にも幻想種の住まう深緑だった。そのことにすら気づかず、ラミリオンは樽のように太った体をゆすりながら先へ進む。酔っ払っているかのような足取りで。まるで幾万もの傭兵を従えているかのように、目をギラつかせて。

●邂逅
「にいちゃーん」
「ん?」
 獣道を歩んでいた黒髪の幻想種、ラウランは顔をあげた。
 彼について少々説明せねばなるまい。
 ラウラン・コズミタイドは、かつて魔種トリーシャと契約を交わしたことがある。懸命で賢明なイレギュラーズの知恵と勇気によって助け出された彼は、自分の村を魔種の脅威にさらした罪を償うため、村の用心棒として魔物や得体のしれない輩から人々を守りながら、トリーシャの冥福を祈る日々を送っている。
 そのラウランが、日課となっているトリーシャの墓参りから帰ってきたところを、弟のコーカスに呼び止められた。ラウランはふしぎに思いながらも話を聞くためにすこしかがんで弟と視線を合わせた。
「なんかね、目くらましの結界を越えてきた人間がいるって、大人が騒いでる」
「ほー。そいつぁ珍しい」
 めくらましの結界は、なにかと標的にされがちな深緑の幻想種たちが編み出したものだ。いくつもの、一見するとただの石にしか見えない、森の精霊のよりしろで村を囲み、存在をすっぽりと覆い隠す。音も、匂いも、気配も、すべてなかったことにされ、ただの森林にしか見えなくなる。ついでにいうと、ラウランの村を守る結界には、方向感覚を狂わせる加護もあり、内部からの手引があるとか、侵入者が魔術に熟知しているとか、そういう特段の事情がない限り、破られないはずのものだ。
「じゃ、そいつを見に行ってみるか。コーカス、あぶないから家に帰ってろ」
「うん、にいちゃん。きをつけてね」
「まかせとけって。俺はあのイレギュラーズといっしょに戦った戦士だかんな?」
「うんっ!」
 弟の背を優しく叩いて帰宅を促すと、ラウランは弓と矢をたしかめた。相棒は今日も頼もしい。
 村へ入ると、何人もの村人が広場に集まり、ひそひそと噂話をしていた。
「ああラウランかい? すこし様子を見てきてほしいんだが……」
 年配の女がラウランをみとめるなり、近づいてきた。男たちは弓矢の準備をしている。
「事情は弟から聞いてる。めくらましの結界を越えてきたやつが居るんだってな」
「そうだよお、あたしゃもう怖くて怖くて」
「だいじょうぶだ、俺が行って確かめてくる」
「ごめんねえラウラン、こんな役ばかり押し付けて。たのんだよ?」
「気にすんなよおばちゃん。俺は村の役に立てることが嬉しいんだ」
 ラウランは弓を手に取ると、男たちの先頭にたって森へ分け入っていった。
「こっちか?」
「そうだラウラン、この先だ」
 緊張した声がラウランへ行き先を告げる。
 少し進むと、木の根本に座り込んでいる、樽のように太った男がいた。
「なんだ眠ってやがる」
 ついてきた男の一人が、前へ出る。だが、ラウランはぎょっとして足を止めた。
「逃げるぞ」
「は? どうしてだよ」
「この感覚……」
 トリーシャと契約を交わした彼だからこそ、感知できるものがあった。ぞわぞわと少しずつ心が侵されていくこれ、これは、呼び声、だ。
「魔種だ! 引け! いいから!」
 ラウランが近づこうとする他の男達を制する。だが遅かった。ソイツは目覚めてしまった。
 突風が吹き抜ける。否、衝撃波だ。ラウランは姿勢を低くし、それをやりすごす。そして視界の隅で、ちぎれて空を飛ぶ仲間の首を、見てしまった。
「なぁんだぁ! 男か! 男はダメだぁ! いい値がつかねぇんだぁ!」
 ボロキレのような服をまとい、ひびわれた宝石を身に着けた落ち武者のような男の、その、柘榴のように真っ赤な目。
「へひひ、でも近いな? 近いなぁ? 女子供が居るだろぉ? においがするんだよぉ、甘くってバターみたいな肌の匂いがよぉ」
 太った男のちぎれかけた襟元に、ラウランは見た。干からびてなお、姿かたちを保っているそれは、耳だ。切り落とされた幻想種の耳だ。そんなネックレスを、幾重にも、男は身につけていた。
 あまりのおぞましさに嘔吐しそうな自分を抑え、ラウランは片足を下げて半身になり、軸足へ体重を載せた。
「おい」
 弓を構えながら、ラウランはかろうじて生き残った仲間へ声を駆けた。
「な、なんだ、ラウラン」
「逃げろ。村を空っぽにしとけ。んで、ローレット支部へ全速力でいってこい。ここは俺が食い止める」
 麻痺の矢をつがえ、ラウランは男へ問うた。時間稼ぎのために。
「名前を聞いておこうか、魔種」
「へひっ、へひゃあ、あへへへへ」
「もうまともな思考は残ってないか」
 キリリ、弓が唸る。魔種は頭をふり、両手を前へ突き出し、ゆらゆらゆらめきながらこちらへ向かってくる。
「俺はぁ、ラミリオン様だぞぉ、幻想種、幻想種ぅ、傭兵を呼べぇ、金ならある、幻想種狩りだぁ」
 襲いかかってくるラミリオンを前に、ラウランは矢を放った。

GMコメント

みどりです。やっほーラウランさん、おひさしぶりね。
なんて言ってる状況ではなさそうです。
このシナリオは、それは最後の花火のように、の続きですが、前回を読む必要はありません。

やること
1)傲慢の魔種『狂王』ラミリオンの撃退
2)なるべく、村を破壊しない

●戦場
 ラウランの故郷、カーシャ村、広場。
 広さは60mの円形です。中央に井戸があります。落ちると復帰に3ターンかかります。
 広場を囲むように、木造の家が並んでいます。遮蔽物につかえますが、壊されることもあるので注意。
 ちなみに村から少し行ったところに、魔種トリーシャのお墓があります。

●エネミー
傲慢の魔種『狂王』ラミリオン ✕1
 すっかり頭がおいきあそばされた元奴隷商人ラミリオンです。
 戦闘能力は未知数ですが、広範囲へ斬撃を放ってくるようです。これが物理攻撃だということはわかっています。
 防技、抵抗が高いようです。
 ある程度のダメージを受けると撤退します。

傭兵の亡霊 ✕4(初期数)
 亡霊とありますが、実際にはラミリオンの権能が姿を持ったものであり、霊魂のたぐいではありません。
 ラミリオンが副行動を使用し、一度に2体を召喚します。物中単・移を使用してくることはわかっています。

●友軍 ラウラン・コズミタイド
 アーマデルさんの関係者で、OPにあるとおり、贖罪の日々を、それなりに楽しく過ごしているようです。
 毒・麻痺・回復(HP)の矢を使いこなします。
 戦闘開始時点で、かなりのダメージを追っており、瀕死です。自力で回復できるので、とりあえず守ってあげるといいでしょう。
 また、彼によって、ラミリオンは毒・麻痺を受けた状態で戦闘をスタートします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 花火にすらなれなかった完了
  • 奴隷商人ラミリオンとの因縁シナリオです。ゲストキャラはラウランさん。
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年06月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
エマ・ウィートラント(p3p005065)
Enigma
冬越 弾正(p3p007105)
終音
恋屍・愛無(p3p007296)
神喰い
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)
母になった狼
リスェン・マチダ(p3p010493)
救済の視座

リプレイ


「げはは、はははははっ!」
 哄笑。ラウランは不可視の刃を五感のすべてをフル稼働させ、軌道をつかみ取り、身を翻す。
「っぐ!」
 ふとももに赤い線が走った。激痛、顔を歪め、反射的に体を丸めるラウラン。そのすぐとなりを、地をえぐりながら刃が通り過ぎていく。
「ひーははは、あへへひゃはっ!」
 よだれをこぼしながら一歩前へ進むラミリオン。きたならしいそれがひげを汚していく。
(もう、限界か……けど、村のために、死ねるなら……)
 あきらめかけたラウランのまぶたが閉じそうになる。そのとき、風を切って8つの影がラミリオンとラウランの間へわりこんだ。
「ラウラン殿、待たせたな」
 もうだいじょうぶだと、『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が弓も持てないほど傷ついた肩へ手を添える。
「イシュミル!」
「はいはい、回復支援だね。なにせ私は仕事ができるから、なにをすればいいのかお見通しだよ」
「無茶はするな。あんたは戦闘は専門外だろう」
 さあね、と技官は意味深に笑う。その隣へ、ラウランを守るように『アーマデルを右に』冬越 弾正(p3p007105)が立つ。
「ハムレス以来かもしれないな。こんなにも純粋な殺意で殺せそうな相手というのは」
 拳と平手を打ち合わせる。特徴的な音に交じるノイズを拾い上げ、平蜘蛛が起動する。
「トリーシャの墓も、ラウラン殿たちも守りきる。……弱いままではいられないんだ。愛しい人と共に生きるために!」
 平蜘蛛が輝く。リトルワイバーンが応えていななく。その背へ飛び乗った弾正が天へ拳を突き上げる。頭上にいただく赤いリングが大きく歪み、音波を放った。赤に染め上げられていく村。保護結界の加護。
「なにかと思えばこの前の……やっぱり殺しとけばよかったっすかね?」
『持ち帰る狼』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)が地面へ深くついた靴跡のうえ、不敵に笑う。
「今回は手加減なしでやりにいくっすが。……っと、そーのーまーえーにー、イケメン! いるじゃないっすかー!」
「い、いけ? 俺のこと?」
「名前は!?」
「ラウラン」
「っはー! 名前までイケてるっすね! しかもボロボロになってまで一人でラミリオンの相手を……ここはイレギュラーズとして良いところ見せてやらないとっすね!」
 キャップを被り直し、まるで別人のように凶暴な笑みを見せるウルズ。
「あんたの事はあたしが守ってやるっす、その弓の腕……期待していいんすよね?」
 イシュミルのおかげで調子を取り戻してきたらしいラウランも、つられて笑顔になる。
「まかせてくれ」
「その一言が聞きたかったっす」
「それにしても……」
『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は、本体の鎌でもって義体の首筋をとんとん叩いた。
「奴隷商人が元の魔種かーまあ、可能な限り、殺処分目指さないとね」
 樽のように太った体、棍棒のような腕と足。サイズは視線を滑らせていく。
(あのへんにダメージを与えて、少しでも悪さ出来ないようにしたいね……)
 作戦を練りながら、軽口。
「しかしラウランだっけ。キミ、よく見かけるな。イレギュラーズと縁がありまくるし、もしかしてイレギュラーズになれる素質とか合ったりするかもね……ま、そんなことはさておき」
 ゆっくりと本体をかまえ、冷たい目でラミリオンを眺めやる。
「奴隷商人のなれのはて狩りを始めようか!」
 そのとなりを通り抜け、『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は幻想を呼び出す。福音が銀の雨となってラウランの体へ降り注ぎ、傷を癒やしていく。
「やあお疲れ様、あとは任せて休んでてもいいよ?」
「ありがとう、助かった」
「礼はまだ早いからね。あのブタ野郎から村を守らなきゃ。これからが本番だよ」
 ルーキスはラウランの周りを巡るように一回りし、利き手で印を組んだ。
「さて、やろうか、狂王」
「うるぶぁあああああああ!」
 ラミリオンが雄叫びを上げる。傭兵の亡霊が姿を表す。これこそは狂王の権能。
「やれ! 殺れ! ヤレ! かまわん! 幻想種以外に用はない! べひゃひゃひゃひゃ!」
「んー、奴隷商ごときがいきがっちゃって。キミらの春はとっくに過ぎてるんだけどね。さんざん幻想種の命で肥えてきたんだ。そのツケが戻ってきただけだよ。えーと、ラミ、ラミちゃんでいーや。ラミちゃーん?」
 顔の前で印を組み合わせ、術式を練り上げていくルーキス。
「手加減も手抜きもしないから、せいぜい頑張ってね?」
 ルーキスのすぐ上、木の枝に腰掛けたまま脚をぶらぶらさせているのは、『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)。
「くふふー。何やら面白いことになっておりんすねえ?」
 廓かぶれな口調からは、彼女の感情は一切見て取れない。それは彼女の表情からも、体からも、意識からも。完全無敵なアルカイックスマイルが濃い霧となって彼女の本性を覆い隠している。
「いやなに、別に良いのでごぜーますよ? 我を通した結果なのでありんしょう?」
 くふ、くふふ、くふふふ。不吉なまでの上機嫌がエマの口元を彩っている。
「奴隷商人に成ったはいいが、イレギュラーズに邪魔され、エルス様の領地を襲うも邪魔され、気が狂い、そしてまたそのイレギュラーズに邪魔されると? くふくふくふふ。いや失敬失敬。魔種になったとしても奴隷商人に在り続けようとは、くふ、中々な御仁でありんすなあ?」
 枝から飛び降り、なめらかに着地。まるで猫のように足音は一切しない。
「わっちはその意志を認めんしょう。意志の輝きに貴賎はないのだから」
『救済の視座』リスェン・マチダ(p3p010493)は走り込んだ勢いを殺さず、姿勢を低くして短くターンした。地を掴み、弱き命を導く使命を、おんぼろの杖をかかげる。ふわりとマントが風をはらんでふくらんだ。
「どこまでも醜く、哀れな人ですね。できれば生きて悔い改めてほしい、なんて思っていましたが愚かでした」
 リスェンはちらと周りを見回した。戦場において油断したとも取れる行為だが、それができるだけの力量が彼女に備わりつつあった。攻撃の余波で屋根が吹き飛び、壁が崩れた村の建物。リスェンは胸にチクリと痛みを抱いた。
「……こうなってしまった以上、その命をもって償ってもらうしかなさそうですね。奴隷にされた幻想種さんの無念、絶望。荒事は好きではありませんし、人を傷つけることもできれば避けたいです。ですが、あなたは罪を重ねすぎました」
 杖に光が宿る。決意と、別離の光だ。
「わたしとて、容赦しません」
 リスェンは言い切った。
 ゆっくりと場へ姿を表した『ご馳走様でした』恋屍・愛無(p3p007296)は思考する。
(この魔種。言動から強者への依存が見られるか。恐怖と屈服。追い込む事が、また仇となるかも知らんが、精神的に追い込んで相手の動揺とミスを誘っていくか。動きが単調になって読みやすくなれば抑えも楽だ。フィジカルでは流石に勝てんしな。まったく、ラサと深緑の関係が微妙な時に。これじゃ僕が怒られちまうじゃないか。全く『人間』というモノは壊れやすくて困る)
 面倒そうに首を振り、無防備なまでにその完璧に擬態した肢体をラミリオンのまえにさらす。ラミリオンの動きが止まった。
「……僕のつけてやった疵からは何が生まれた? 何が育った?」
 一歩、愛無が進む。一歩、ラミリオンが退く。
「まさか恐怖だけとは言うまいね? 君が『人間』だというなら証明してくれたまえ。『怪物』を殺し『英雄』となるなら証明してみせろ。『化物』を殺せるのは『人間』だけだ。さぁ、証明してみせてくれたまえ」
 ラミリオンは滝のような汗を流している。愛無は無感動な瞳のまま、告げた。
「でなければ僕がお前を殺すぞ?」


「ぶち殺せぇえええぇぇえ!」
 悲鳴のような咆哮が狂王の口からほとばしる。傭兵の亡霊が瞬時にかまえをとった。
「速いっ!?」
 リスェンが目を見開く。瞬間移動したかのような亡霊ども。リスェンは杖を両手で持ち、ふりおろされた剣をガードする。殺しきれなかった衝撃を受け、リスェンが小さな悲鳴をあげた。すかさずウルズがヴァルキリーオファアーを、ルーキスが幻想福音を唱える。
「リスェン先輩! つぎ来るっすよ、狙われてるっす!」
「くっ……! 負ける、ものですか……!」
「回復手からつぶすのが定石なのはそうなんだけど。だからってこの亡霊ども、よってたかっていじめてきて、ひどいことするもんだ、ラミちゃんの性格が出てるのかな?」
 ルーキスの茶化した口調に、真剣な眼差しが交じる。亡霊の攻撃は思いがけず重い。打ち所が悪ければ、致命傷にもなりそうだ。総攻撃にさらされたリスェン。しかし小さな体をふたつの福音と自らの気合で立て直し、胸へ芽吹いた小さな勇気とともに杖の先でルーンを描いていく。
「あんた、だいじょうぶか!?」
「ふふ、ラウランさん。あなたも。まだ完治はしてませんから、無理はしないでくださいね」
 こんな時でも微笑みを忘れずにいるリスェンが、瞳へ強い光を浮かべ、亡霊どもを見据える。
「この亡霊を好きにさせると、甚大な被害を被るようですね。放ってはおけません」
 杖の先のルーンが黄金の光をはらむ。まるで一日の最初の朝日のような、そんな清廉な輝きが。
「キャロル・C・コーパスを開示します。アルファからオメガ、その範囲において、無限の循環はここへ起きませり。祝福の最大公約数をわたしは知っている。幸福の最大公倍数をわたしは教えられている。シンプルイズエレガント。歌い踊れ数式、君臨せよ解。QEDは遠くとも、わたしはけして諦めない」
 リスェンの周りに次々と0と1が描かれ、広がっていく。自らの傷を癒やしぬいたリスェンは、さらに新たなルーンを描く。
「傭兵の亡霊はわたしがひきつけてみせます。みなさんは攻撃を……! 行って!」
 号令。クェーサーは明るく輝く。気力を満たされた愛無が、亡霊にたかられるリスェンを眺めやり、心配そうに眉をひそめる。
「無理はしてくれるなよ。リスェン君」
(亡霊をすこし甘く見ていたな。まさかこう動かれるとは。リスェン君は回復で手一杯だし、ウルズ君とルーキス君も回復にとられた。……三人がかりでもリスェン君を支え続けるのは骨が折れる)
 愛無は利き手を真横へ水平に突き出し、ゆっくりと人差し指を口元へ当てる。そしてエマと視線を交わす。糸目の向こうの表情は読み取れないが、彼女もまた同じことを考えていることはなんとなくわかった。
「リスェン君が戦闘不能になる前に、速攻戦を仕掛ける。それでも押し通しきれない場合は、ラウラン君とリスェン君を連れて離脱」
「かしこまりんした。現状そうするしかないでやんしょうな。やれやれ、魔種ってのはどこまでもはた迷惑でありんす」
 エマがすっと気配を消す。亡霊がリスェンに集まっているということは、他のイレギュラーズはノーマークということだ。魔種の撃退へ注力できるということでもある。
「魔種」
 愛無はまぶたを中程まで落としたまま、ラミリオンをねめつける。にちり、額が波打ち、第三の目が現れた。
「怒りと廃滅の眼差しを受けるがいい」
 ラミリオンがなにごとかわめく。すさまじい烈風が愛無へ吹きつける。全身へ刀傷が浮き上がるも、愛無はものともしない。
「かかったか? 視えたか? 己の未来が」
「げぇええぇあああああああ!」
「残念だ、僕のくれてやる魔眼の価値もわからないと見た」
 愛無は次々と生み出される亡霊に、眉をしかめた。何度か試行したうえで、ようやくラミリオンをとらえる。
「ようやくだな。もはや逃げられると思うな」
「ひぎゃああああ!」
 防御を攻撃に変えた一撃が炸裂する。
「愛無先輩!」
「愛無君!」
「……僕よりもリスェン君を頼む」
 にちりと体を波打たせ、愛無はこそげとれた自身を覆い隠す。
「腐っても魔種でありんすなあ。おつむのほうはかわいそうでありんすが、攻撃の手はいやなかなかお点前でありんす」
 エマがふっと気配を表した。意識の空白から、とつぜん現れたエマにラミリオンが全身を引きつらせる。好機、それを見逃すエマではない。
「やられっぱなしっつーのもつまらんもんでありんす。反撃の時間としやんしょう」
 弾けるは堕天の輝き。ラミリオンの周囲に召喚されたシールドを、エマは割り砕く。
「天使ってもんはもとは神の兵士でありんすよ。おわかりで? 戦いこそ天使の本来の使命でありんす」
 ラミリオンだけを狙った攻撃。召喚された天使が炎の剣をかかげる。ふりそそぐ炎がラミリオンの肌を焼き焦がす。すえたような不快なにおいがただよった。
 サイズが本体の鎌を大きく振り回し、ラミリオンの攻撃をパリィする。
「異界へと繋げ、氷棺人形!」
 短い呪文によって、義体の妖精体が氷の人形へ変じる。強化を重ねたサイズはさらに攻撃へうってでる。
「そのものは黒きアギト、そのものは魔王。煉獄の底より現われよ、汝を呼ぶ我が名はサイズ、妖精の道具、いびつな奇跡の残骸。我が後悔をくれてやる、魔王よ、むさぼり食えむさぼり食え、飢えたこの心のままに!」
 振り下ろした本体の残像が黒龍へ代わる。ラミリオンの右腕へ食らいつき、食いちぎる。
「ごがあああ、あぎぃびいいい!」
 聞き苦しい悲鳴を上げたラミリオンが大きく体勢を崩した。
「狂王とは笑わせる……ただの精神崩壊した魔種じゃないか……深淵の狂気を知ることなく果てるがいい!」
 吐き捨てるサイズ。愛無の前で無防備な姿を見せるラミリオンへ、近づく影ふたつ。
「アーマデル!」
「応、弾正」
 固い絆で結ばれたふたりの攻撃がラミリオンのシールドを紙のごとく破り深くえぐりぬく。
「あああがああ! 幻想種でもない木っ端どもがあああ! ワシは、俺は、おれおれおれはあああラミリオン様だぞお!」
「はっ! 金ならあるとでも言いたいのか? 笑わせるな、いまの貴様には何もない! あるのは積み重ねた罪のみよ。外道の貴様に蜘蛛糸ほどの慈悲もやるものか!」
「まったくだ。世の中、金があれば大抵の事は何とかなると聞く。だが筋肉の前には無力だ」
 アーマデルはジャミル・タクティールを撃ちながら接近していく。
「金はそれを欲する者と環境が無ければ、こども銀行券に過ぎないのだから。……大丈夫だ安心しろ、お前の残した金は幻想種の安全と幸福の為に広く有効活用されるだろう」
「しゃらくせえあ! 一山いくらのカオスシードがあああ!」
「ウォーカーだ。残念だったな」
 次の瞬間、アーマデルは新たに発生したシールドを叩き割り、デッドリースカイをラミリオンのわきばらへ。あばらのひしゃげる感触を感じ、アーマデルは勝利を確信した。
「俺の故郷には『地獄』のような概念は無く、基本、死ねばやらかしなども纏めて全て清算される。故に『地獄で苦しめ』とは言わん。存在すら消し去ることが最大の刑罰だからな」
 去れ。アーマデルはわきばらへつきささった蛇剣をさらにねじこんだ。
「アーマデルとラウラン殿、そして仲間がねじこんでくれたBS、無駄にはしない!」
 弾正の影が炎となる。八岐大蛇が顕現する。収奪の腕は止まらない。すべて失い、なおも空の玉座へ座り続ける狂王、その身へ攻撃が吸い込まれていく。
「!?」
 ぞわりと背筋に嫌な予感が走り、弾正はアーマデルの腕をつかむと、とびのいた。
「がばあっ!!!」
 ちぎれた右腕が再生されていく。同時に、戦場全域を暴風雨が襲った。リスェンがまわりの亡霊ごと叩き切られ、血を吐く。ウルズが飛び出し、暴風雨のような斬撃から身を挺してリスェンを守った。ルーキスがどくづきながら回復を施している。リスェンは息も絶え絶えだった。だが杖を握る手から力は抜けていない。
「は、はへ。はひひ、無駄、だったなあ。へへ、どいつから殺そうか……」
「待て」
「へひゃ?」
 勝ち誇ったラミリオンが、自分の足を掴む小さな手に反応した。振り払おうとすればするほど、掴む力は強くなる。
「どこへいく? お前は今。僕を怒らせているんだぞ?」
 じゅるりら。異音を立て、地に伏していた愛無が立ち上がる。
「戦いは痛み分けのようだ。だが、な」
 愛無は自分を再形成し、冷えきった瞳にラミリオンを映す。
「言ったはずだ。物わかりの悪い人間は嫌いだと。何処にいても思い出せ。僕の『瞳』を」
「あ、あ、あひ……」
 後ずさるラミリオン、その背が崩れかけた建物にぶつかる。すさまじいまでのプレッシャーが、愛無から放たれていた。
「僕は何度も同じことを言うのが嫌いだ。同じツラを見続けるのも嫌いだ。特にお前のような、害にしかならない輩は」
「けひ……ひ……」
 愛無のプレッシャーは、かろうじて残るラミリオンの理性へ直撃していた。すなわち、絶対的な力量差を感じさせていた。蛇の前の蛙のように、ラミリオンは冷や汗を流し続ける。
「うが、あ、あが、おおあああ!」
 ラミリオンの胸元で、幻想種の耳が一つ弾ける。空間がたわんだ。ラミリオンの姿は消えていた。
「逃げたか。次は何処へ転移したのやら」
 愛無は体から力を抜き、ひとりごちた。
「どこでもいい。何処に居ても、お前を見ているぞ。最早安息など存在しないのだ」

成否

成功

MVP

恋屍・愛無(p3p007296)
神喰い

状態異常

恋屍・愛無(p3p007296)[重傷]
神喰い
リスェン・マチダ(p3p010493)[重傷]
救済の視座

あとがき

おつかれさまでしたー!

ラミリオンへ痛手を背負わせた、と思ったら、おかわりもういっぱい……。
そろそろおくたばりになってほしいところですね。
MVPは因縁へ働きかけた傭兵さんへ。

またのご利用をお待ちしております。

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