シナリオ詳細
<黄昏崩壊>もう一度、貴方達と遊ぶための今日を
オープニング
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「あぁ……おじ様。もう、もう時間が無いのよ……」
赤く染まった空を見上げ、少女は静かに涙を流す。
引っ張られるように綺麗な翠色の髪が空に向かって揺らめいていた。
「……おじ様、もう、お時間が無いのよ」
翠璃はふるふると頭を振った。
脳裏に浮かぶのは、優しい人達の事。
いつか戦うことになる人達のこと――もっともっと、あの人たちのことを知りたかった。
「う、うぅ……もっと遊びたかったのよ……」
きゅっと拳を握る。
「……うぅん、こんなところで泣いてる場合じゃないのよ!」
ふるると頭を振って、翠璃は空へと舞い上がる。
黄昏の楽園は、滅びに向かっている。
だからきっと、あの人達はここにくる――ローレットの人たちは。
おじ様を助けるために、世界の滅びを阻止するために。
「……何より、お友達が食べられちゃうのは見たくないのよ」
顔を上げて、翠璃は空を翔けた。
●
「……何か来る」
黄昏の楽園は滅びに向かって動き出していた。
冠位暴食の権能は確実に暴走の一途をたどっている。
ベルゼー・グラトニオスを止めんとヘスペリデスを駆け抜けていた最中、シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は何かが羽ばたく音に視線を向けた。
最初に映ったのは、赤い空――そして緑色の何か。
「我らの楽園に踏み入った愚かな虫めが……気に食わぬ――だが」
それは天から降りてきた声だった。厳かな、冷やかな声だった。
直ぐにそれはイレギュラーズの前に姿を見せる。
天へ昇る楽園の痕跡を踏みつぶし、金色の光が2つ、輝いていた。
長い胴体に4本の脚、全身を覆うは緑色の体毛。
「今この場で死に絶えよ。そしてベルゼーの腹の足しとなれ。さすればその愚行を赦そう」
羽毛のような翼を広げ、竜が咆哮を上げた。
「だ、駄目!! その人達を殺しちゃダメなのよ!」
臨戦態勢を取ったその眼前、風と共に遮るように降り立ったのは翠色の衣装を着た少女だった。
角と尻尾は亜竜種を思わせる――けれど、ただの亜竜種が今のヘスペリデスにいるはずもない。
「翠璃くん……!」
目を瞠ったアレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は少女の名前を思わず呼ぶ。
「――塵芥が、何をしているか分かっているか?」
「分かってるのよ、でも。この人達のことを傷つけるのは駄目なのよ……!」
翠璃が顔を上げて竜の顔を見て――小さく息を呑んだ。
「あ、あぁぁ、おま、お前は――どうして、お前が此処にいるのよ!」
刹那、少女が激昂と共に全身から魔力を溢れさせた。
「竜と戦うか、良かろう――後ろの共々消し飛ばしてくれる」
ギンと金色の瞳が輝き、竜が雄叫びをあげる。
「……もう、もう2度と、お前に殺されてたまるか! なのよ!」
そう絶叫する少女の様子は、平静などとは到底言えない。
それは、ベルゼーの暴走に引っ張られているのか――あるいは。
「……もしかして、この竜が翠璃ちゃんが反転した原因?」
炎堂 焔(p3p004727)はそう問うた。
「……確かにこの気性では遭遇すれば殺されかけてもおかしくはなさそうだ」
そう恋屍・愛無(p3p007296)もうなずくもので。
「……そう、『毛棘竜』ペルーダ、私のことを見向きもせずに踏みつぶそうとした竜、なのよ」
それはさながら獣が怒れるように、翠璃は唸り声をあげた。
一触即発の状況において、更なる咆哮が響けば、そこには黒い影があった。
レムレース・ドラゴン――『過剰反応を引き起こした女神の欠片』が竜種に、イレギュラーズに、魔種に敵意を向けるままに降りてくる。
- <黄昏崩壊>もう一度、貴方達と遊ぶための今日を完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年06月30日 21時45分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「急な三つ巴!?」
思わず『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は声をあげていた。
自分達よりも少しばかり前に降り立った魔種の少女と、その向こうにいる竜は一触触発。
(翠璃は放って置けないし、ペルーダは倒してくれそうにもないし……)
「強行突破させてもらうね」
すらりと抜いた愛刀を構える先のレムレースドラゴンが咆哮を上げている。
(竜種……いかにもという感じの相手だけど、気がかりなのは翠璃君の方だね。どうにか落ち着いてもらわないと……)
竜との遭遇経験も多い『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が気にかかるのは唸る翠璃の方。
「落ち着いて翠璃ちゃん! この竜に殺されそうになったなら、怖くて冷静でいられないのはわかるよ。でも、大丈夫」
翠璃の傍らに近づいて『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は翠璃へと声をかける。
「塵芥が何匹増えようと変わらぬ、その通りだ、潔く死ね」
竜が吼えるのを無視して、焔は翠璃へと声をかける。
(『毛棘竜』ペルーダ……あんな奴に消し飛ばされてたまるもんか。それに、翠璃さんも心配だね)
竜の方を見た『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)はそのまま翠璃の方を見た。
(ベルゼー君の影響と因縁を前にして彼女が如何なるか。魔種としての狂気が加速せねばよいが)
翠璃の様子に『ご馳走様でした』恋屍・愛無(p3p007296)が思うのはそこである。
(……何にせよ、今は戦うだけか)
既に翠璃に声をかけているアレクシアたちやレムレースドラゴン、ペルーダと戦況を把握するべく広く視野を確保しながら粘膜を構成していく。
「傲慢な竜よ。強大な敵相手で私は愉しいわ」
ヴァイスドラッヘクロスに身を包み『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)は堂々と笑む。
けれどそれは心のみ、頭は冷静に、眼前の存在は侮れば容易く消し飛ばされる竜なのだから。
「私の名はレイリー=シュタイン、白竜の騎士の竜狩りご覧あれ!」
「――白竜の騎士、だと?」
名乗りを上げたレイリーに、竜の瞳がぎらりと向いた。
「塵芥風情が、竜を、名乗ったか?」
それは『逆鱗に触れた』というべき現象であった。
「なんだか、凄い事になってるけど目の前の敵を叩きのめせば解決! ついでに戦闘経験値もGETよ!」
グローブをキュっと伸ばし、『狐です』長月・イナリ(p3p008096)は愛銃を構え上げる。
(竜種との質の良い戦闘経験を獲得する機会もそうないはず!)
術式を起動して可能性の力を高め、その身が持つ天性の運命力を高めていく。
(本物の竜……あれと真っ向から戦ってみたいですね……いえ、まずは)
驚くほど傲慢な竜を警戒しながらも、内心で『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)はそんなことを持っていた。
眼前に立つ竜種、しかも敵意を剥き出しにされて、ちょっぴり男の子が出かかっていた。
「レムレースドラゴンから、ですね」
気持ちを入れなおして、黒い竜の擬きを見やり、オーロラの結晶刃を作りだす。
●
「一緒に踊りましょ。大丈夫、貴様の動きなど全て児戯だから」
レイリーはヴァイスドラッヘンフリューゲルを構え、愛馬を走らせる。
「塵芥が――良かろう、竜を名乗る愚か者、貴様から消してくれる」
棹立ちになった竜が一気に飛び掛かってくる。
強烈な衝撃が身体を打ち、堅牢なる白竜の守りが微かにみしりと鳴った。
「翠璃君、落ち着いて、大丈夫だから。
私達がいるよ。一緒に戦えば、怖くないんだから!」
アレクシアは翠璃の手を取り声をかけた。
「そうだよ、今はボク達が一緒なんだもん、絶対に負けたりなんかしないよ! だから早くやっつけちゃって、遊びに行こうよ!」
続けて焔が視線は竜から離さず声をかければ。
「……お姉さん達」
少しだけ翠璃の声の色が落ち着き始める。
「そうだよ……僕らも手伝うよ。それに君は魔種だから……奴にそう簡単に負けないし、僕達だって……あんな奴には絶対負けない!」
重ねてそう語り掛けたのは祝音だ。
「落ち着いて下さいとは言いません。闘志はそのまま、ただ思考をクリアに。
この状況を乗り越えるには翠璃さんの力が必要です! どうか今は私達と共に!」
そこへトールが重ねた。
「……そうなのよ、一度生き残ることができたのだから、きっともう一度も出来るはず、なのよ」
そう呟いた翠璃に、アレクシアはひとまず安堵しつつヴィリディフローラに魔力を籠める。
大地に咲くは大輪の花、黒き花弁が開き、開花した花はペルーダとレムレースドラゴンに触れてその運命を侵す。
「翠璃!」
剣を手にレムレースへと向かおうとしていたシキは少女の方へと声をかける。
返事がないのは冷静ではないからというよりも、ペルーダへの警戒か。
「待っててよ、大丈夫だから」
そう理解したシキは少女へと声をかける。
「君は死なない。だって、絶対に私たちが守るから。
『どうしてこんな目に』なんて考えないくらい、それよりもっと楽しいことを私たちと知っていこうよ」
「……うん」
視線を竜から外さず答えた少女に微笑み、シキはそのままレムレースへと斬撃を振るう。
「……私も私の仕事をします!」
トールは改めて胸の鼓動に身を任せる。
どくん、どくんと高鳴る鼓動は緊張――否。羞恥――否。
胸に満ちる感情を言葉にするのなら、それはきっと興奮が一番近いのだろう。
満ちるオーロラエネルギーが熱を帯びて戦場を覆いつくす。
それは竜と戦いたいという男の子らしい感情から来る熱――中てられたレムレース達の咆哮が戦場を劈いた。
「君の相手は僕がやろう」
戦場を舞う竜モドキ、それらの中の1体に愛無は魔眼を向けた。
一瞥したその個体が口元に溢れる影は翠璃の方へ向いている。
絡め取り、縛り上げるような不可視の魔力がレムレースの顔を無理矢理こちらに向ける。
イナリは目標とするべきレムレースドラゴンを中心に捉えて弾丸を撃ち抜いた。
放たれた弾丸に仕込まれた術式が着弾と共に励起されれば、イナリの姿はその個体の眼前にあった。
だがそれで終わりであろうはずはなく。
「カタパルトスタンバイ! 目標をセンターにロック! 予測進路上の障害物クリア!」
確保した射線、イナリは銃口をレムレースドラゴンに向けた。
「――レムレース射出だわ!」
爆ぜた弾丸、爆発的な衝撃を生んだイナリの弾丸はレムレースドラゴンを吹き飛ばしてその向こうにある竜種へと叩きつける。
「邪魔だ、竜を象る愚か者が」
苛立ちと同時、レムレースドラゴンに食らいついたペルーダはそれを大地へと叩きつければ、そのまま踏み抜いた。
耐えきれるはずもなくレムレースが消滅し、女神の欠片が地面に転がった。
「直ぐに貴様らもこうしてくれる」
苛立ちを露わに竜が棹立ちになり、その羽毛のような翼を大きく羽ばたかせた。
レイリーを中心とする広範囲へと放たれる毒針の羽が物理的な攻撃となって叩きつけられる。
「お前みたいな竜なんかに……誰も倒せさせない!」
それを受け切り、祝音は呪符に込めた術式を解放する。
仕込まれた術式は聖歌の音色。
柔らかく穏やかな音色に満ちた響きが攻撃を受けたばかりのイレギュラーズに祝福を与えていく。
祝福の音色が自然治癒能力を大いに高め、傷を瞬く間に癒していく。
●
突っ込んでくる黒竜を思わせる影と対峙するトールは輝剣を真っすぐに構えていた。
AURORAは向かう敵への熱意を反映したように出力を増している。
「――ッ!」
衝撃は苛烈、ぶつかるだけで吹き飛ばされかねない印象を受けざるを得ない。
「皆さんの邪魔はさせません!」
返すように極光の剣が強烈な光を放ち戦場を一閃する。
オーロラが降りるように波打つ軌跡で描いた鮮烈の斬撃がレムレースドラゴンを切り刻む。
美しい閃光を浴びるレムレースドラゴンがそれから逃れんと踊り狂う。
「……あまり捕食する甲斐もなさそうだけど、それより、こうも無差別だとペルーダを攻撃する物だけ選べないのが難点だ」
影を食ったような感覚に小さく呟きをもらしながら愛無は粘膜で出来た触腕を払う。
細く、半透明の触腕が縦横無尽に戦場を翔け抜け、レムレース・ドラゴンたちに食らいつく。
痛みなき触腕はそれらの視線を愛無へと無理矢理に思考誘導するものだ。
「確かに竜からしたら、ボク達なんてちっぽけな存在かもしれない。
それでも、お友達と一緒ならいつもよりずっと強い力が出せるんだ!」
焔はカグツチを構えると、翠璃へと視線を向けた。
「翠ちゃん、タイミングを合わせて! 翠璃ちゃんの風にボクの炎を乗せて、全てを焼き尽くす炎の嵐に!」
「そんな方法があるの?」
驚いた様子を見せた翠璃に頷いて、焔はカグツチを戦場に投擲する。
放たれた槍は裁きの炎となって戦場に降り注ぎ、旋風が戦場に降りる。
裁きの炎は炎を纏う竜巻となって戦場を焼きながらレムレースドラゴンとペルーダを焼きつけていく。
「塵芥が――我ら竜に傷をいれようという愚行、死をもって反省せよ」
苛立ちを露わにペルーダが咆哮を上げる。
「その気位ごとぶち抜いてやる!」
対するシキは一気に跳びこんだ。
振り抜いた瑞刀、美しい軌跡を描いた夜色の斬撃が鋭く竜へと炸裂する。
ふわりとした体毛が暖かくそれを迎えると同時、そこに仕込まれた無数の棘がシキに突き刺さる。
けれどその痛みはペルーダの棘すら掻き消す熱によって打ち消される。
「つぅ――」
竜の爪を盾でいなした余波、砕けた一部が顔に触れるのを気にせず、レイリーは杖を構えた。
穂先に魔力が集束すれば、やがてその形状は剣を象る。
白刃を一閃すれば、強かに竜の身体に傷を刻む。
「アレクシア、少しの間、任せるわ」
レイリーはその様子を見据えながら、ちらりと背後を見やる。
「えぇ、後はお任せて――」
砕けた鎧の下、晒された顔で言えば、応じるようにアレクシアがペルーダの前へと立つ。
「次はその塵芥か。先程からちまちまと花弁を散らせていた個体だな。虫のようにわく連中だ」
「虫かなにかだと思ってるようだけど、そうそう簡単にはやられはしないってところ、見せてあげましょうか!
アレクシアは静かに愛杖に魔力を籠め、釣鐘の花を象る魔法陣をくみ上げた。
濃紫の花弁が散り、ペルーダへと炸裂する。
「ふん、なんだ、こんなものでなんとする!」
鼻で笑った竜の視線がアレクシアに向いていることは明らかで、ならば――
(効果ありってことだね)
「――いただきます」
攻め立ててくるレムレースドラゴンへ、愛無は小さく呟いた。
全身から粘膜を生み出し、作り出した顎がぱかりと大きく開き、レムレースドラゴンたちへと走る。
幾つもの小さな粘膜の顎が連続してレムレースドラゴンへと食らいつき、捕食していく。
それらは外から見れば空間ごと全てを喰らいつくしているようにも見えるだろうか。
「……やはり、あまり味もしないみたいだね」
からりと落ちた女神の欠片を拾い上げて、1つ息を吐きつつも、愛無は油断せず次を捕食するべく粘膜の顎が走り出す。
効力を失う赫焉瞳、その刹那に焔は自らの赫き瞳を開く。
「ふざけた小細工をまた使うか!」
激情に竜が叫ぶ。
「ボク達の炎はまだまだ消えないよ! このまま最後まで一気に燃やしてあげる!」
そのまま一気にカグツチの出力をあげ、焔は槍を振るう。
紅蓮の侵略が戦場を焼き、竜を苛烈に穿っていく。
「みゃー! お前は自慢の翼も使えない……僕がいる限り、僕達は、誰も倒れたりしない!」
祝音はそう言うや術式を籠めた呪符を発動する。
籠められた熾天の願いが天に昇る。
天変の穹を開き浮かび上がるは熾天の宝冠。
煌々と輝く宝冠は眩く輝き強烈な恩寵を下ろし、暖かな帳となって祝福を齎す。
祝福の輝きが大きな傷を受けるレイリーの傷を癒し、積み重なる疲労感を解き放つ。
「私がいる限り誰も倒させないわ」
レイリーは再び前に出た。
「また貴様か――塵芥が」
明らかな苛立ちを見せる竜へレイリーは鎧の下で笑ってみせる。
「私は倒れないのよ! ここは私の戦場(舞台)、私が立ち続ける限り絶対に仲間を倒させない!」
「忌々しい、竜を名乗るのも、竜の前に幾度も立つのも、ふざけた女だ!」
「故に――死ね!!」
激情を露わにした竜が口元に炎を纏う。
放たれた火炎のブレスが目指す先は、レイリーではなかった。
「させない!」
そこへ飛び込んだのはシキだった。
激しく燃え上がる炎がその身を焼く。
「お、お姉さ――」
驚いた様子で翠璃が声を震わせた。
「大丈夫?」
真っ向から炎を浴びたシキは、パンドラの輝きを放ち、振り返り翠璃の様子を見やれば。
「う、うん……お姉さんこそ……どうして、私を……私は、魔種なのよ?
あれに焼かれて死んでも、お姉さん達には……」
「魔種であろうが、君は生きてるんだ。それを今度こそ誰にも否定させたりしないから」
翠璃の言葉を遮るようにシキが言えば、少女はまた驚いて。
「はっ、塵芥同士のなれ合いなど、下らぬものを見せてくれるなよ」
嘲笑と同時、ペルーダが追撃のブレスを放つ。
「――だ、駄目なのよ!」
シキへと向けられたブレスを魔種がかばい、旋風が炎を巻いた。
「ぐぅぅ……」
魔種の周囲を囲んでいた何かが消えていく。
「――お姉さんには、手を出させないのよ」
ペルーダへと伸びる少女の手が震えていることに気付いて、アレクシアはその手を取った。
そのまま目を瞠る翠璃へと視線を合わせ。
「ねえ、まだこないだお話した、本を持ってくるって約束は果たせてないでしょう?
お互いに無事に帰って、またゆっくりお話しましょ! だから、今は無理をしないで!」
「――う、ぅん……ご、ごめんなさいなのよ。そ、それなら、お姉さん達が、やってほしいのよ」
「何を?」
「あいつの逆鱗、きっと、あいつの弱点は、尻尾なのよ」
「教えてくれてありがとう!」
シキは最後の力を振り絞るようにして立ちあがり、瑞刀に魔力を籠めた。
振り払う斬撃が竜の巨体を潜り、遥かな後ろに揺れる尻尾へと駆け抜けた。
「ぐぅ!?」
炸裂した一撃に竜が初めて『背を伸ばして呻く』――それは明らかなる痛みを覚えた証拠。
「敵だけ切り裂け! みゃー!」
それを見逃さず、祝音はペルーダへと駆け抜けた。
猫のように身を屈めてその巨体を一直線に走る。
素早く駆け込んだ小さき少年の手に魔力が揺蕩い、猫の手を描く。
愛らしくもある猫の手が打ち出す一撃は見かけからは想像すらできぬ神滅の掌底。
「ぉぉぉぉぉ」
痛撃に竜が再び唸る。
「どうやら本当にそこに逆鱗があるみたいだわ!」
明確な反応にイナリは銃口をそちらに向けた。
風を切って放たれた弾丸が空間に衝撃波を生みながら戦場を翔け抜けていく。
真っすぐに飛んだ弾丸はイナリの天性の直感もあって正確にその鱗のど真ん中を撃ち抜いた。
「それが分かったのなら、これで斬り落とせるはずです!」
肉薄した状態で後方に立つトールは輝剣の出力を高めていく。煌々と輝く剣はやがて破壊の力を宿す。
ブーストしたオーロラ状の刀身を思いっきり振り下ろす。
対物破壊効果を有する斬撃は避けようのない露出した弱点へと真っすぐに落ちる。
「ぐぅぅあぁぁぁあ!?」
畳みかけた連撃に竜が吼え、尻尾が天へと昇り、大きく打ち付けられる。
特徴的な尻尾の特徴的な鱗が罅入り、剥がれかけた皮膚から血が溢れ出す。
「ぐぅぅぅ……おのれ、おのれおのれおのれ!
次があると思うな、消してやる、消してやるぞ貴様ら!」
尻尾を庇うようにしてペルーダが舞い上がり、去っていく。
「……勝ったみたいね。強敵だったわ」
レイリーはその様子にふと力を抜いた。
「……あぁ、良かった」
ほっと胸を撫でおろした翠璃へと焔は近づいていく。
「翠璃ちゃん、また会えるよね? まだ遊んだりできるんだよね?
ボクの世界の事とか、こっちの世界に来てから見た面白いものとか、知って貰いたいこと、たくさんあるんだ」
ボロボロになった翠璃が目を輝かせた。
「えへへ、それはとっても楽しみなのよ。
そうね……また会えたり……出来たらいいのよ」
ふわりと浮かび上がる。
「今度はお菓子とか用意して、一緒におしゃべりとか、出来るよね……」
「今度は、ゆっくりお話しましょ!」
「……そうね」
アレクシアが重ねるように言えば、少しの沈黙の後、翠璃は微笑んだ。
「また会えるのよ、ばいばい、お姉さん達」
くるりと宙を一回転してそのまま空へと消えていく。
イナリはその様子を横目にペルーダがいた辺りへと歩いていた。
「狐達に解析してもらうのだわ」
こっそり拾い上げた羽毛のような鱗の一部を懐にちゃっかりとしまい込んだ。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
大変お待たせしました、もうしわけありません。お疲れさまでしたイレギュラーズ。
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
●オーダー
【1】『毛棘竜』ペルーダの撃退
●フィールドデータ
崩壊し行くヘスペリデスの一角です。
非常に開けた平野と言えるでしょう。
●エネミーデータ
・『毛棘竜』ペルーダ
長い胴体と強靭な脚、緑色の長い体毛、それと同色の羽毛のような翼が特徴的な竜種。種別は将星種。
一応の成竜ではありますが竜としては非常に若く、その若さが傲慢さに輪をかけています。
皆さんの事をヘスペリデスに踏み入っていた虫と考え、これを機に皆さんを消し飛ばそうとしている様子。
かつてはピュニシオンの森を、現在はヘスペリデスを居所としていました。
竜にしては比較的柔らかめではありますが、
『魔種を友軍としてもなお難易度がHARDになる』敵です。くれぐれもご注意ください。
高いHPと堅牢な守り、何よりもとんでもない高火力を持ちます。
主に巨体を駆使した物理戦闘やブレスによる神秘攻撃が予測されます。
また、長い体毛には有毒の棘が無数に仕込まれています。
この体毛は至近~近接への攻撃に対して【棘】効果を持ちます。
加えて、自身が至近~近接攻撃によるダメージ受ける際、攻撃してきた対象に確率で【猛毒】BSを付与する効果があります。
物理戦闘には【毒】系列、【痺れ】系列、【麻痺】などのBSが予測されます。
ブレスは主に【火炎】系列のBSが予測されます。
回避行動については基本的に行いません。
何故ならイレギュラーズを羽虫程度にしか思っていないからです。
逆に言えば回避された場合、皆さんを脅威と判断したと思われます。
また、竜の例にもれず逆鱗が存在します。位置は不明です。
・レムレース・ドラゴン×10
ヘスペリデスの崩壊に伴い『女神の欠片』が過剰反応して出現させた個体です。
周辺の生物を激しく敵視し、全てヘスペリデスへの攻撃者と捉えているのか無差別に襲い掛かります。
『黒い影で出来た竜』の様な個体達です。
しかし形が竜に似ているだけで竜ではありませんし、実力も竜程ではありません。
ペルーダもイレギュラーズ陣営も問わずあらゆるエネミーを攻撃します。
●友軍データ
・『翠月の暴風』翠璃
非常に強力な魔種です。『無尽蔵な知識欲』を罪とする暴食の魔種。
10代前半と思しき緑髪碧眼、緑の鱗を持つ女の子の亜竜種風。
優しく穏やかな性格です……が、ベルゼーの暴走に釣られているのか、
トラウマが刺激されているのか、明らかに平常心ではありません。
纏う魔力は堅牢な守りを担い、反応速度も高そうな印象があります。
魔力で出来た竜爪での攻撃、風による斬撃での攻撃が確認されています。
ピュニシオンの森に迷い込んだ後ペルーダに遭遇。
『こんなところで死にたくない、どうして私が死ななくちゃいけないの!』という執着が『その理由を知りたい』という知識欲となり反転しました。
その際はなりふり構わず脱兎のごとく全力で逃亡して何とか生き延びました。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
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