シナリオ詳細
<黄昏の園>いつつぼしの縁
オープニング
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――いつつぼし島に行きたい? うぅむ、今は着いていってやれんからの……。
危険を感じたらすぐ逃げるんじゃぞ、解ったな?
案じて眉を寄せる瑛・天籟(p3n000247)の承諾をもぎ取って、オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)はひとり、お外同好会の子たちの秘密基地『いつつぼし島』へと向かった。
(私の勘が会っているのなら――)
先日、オデットはピュニシオンの森でひとりの女性と出会った。
白に近い水色の角と水のような美しい髪を持つその女性は、ひとりで森の中を――亜竜たちに恐れながら悠々と歩んでいた。間違いなく『竜種』であろう。
初めて会ったその女性はオデットに何かを感じていた。『何か』……そう考えて思い起こせるのは、ひとつだけ。
オデットはいつつぼし島の泉へと降り立つ。中央に祠の建つ泉は清らかさを保っており、空気もどことなく正常な気がする。
オデットが来たことに喜びを顕にする下級精霊たちを愛おしく思いながら、オデットは中央の泉へとたくさんのお供えをする。
リンゴ、クッキー、はちみつキャンディ、クリーム入りのマフィン。
「あとそれから、りんごジュース」
『あら?』
よし、と頷いたオデットの声に、知らない女性の声が重なった。
オデットの背後から現れたのだろう。浮かび上がった女性が、逆さまになってオデットの顔を覗き込む。
「わ!」
『まあ、まあ、まあ。あなた、母に会われまして?』
「母? ……あなたは精霊、よね?」
『ええ、お嬢さん。……人の子は、こういう時はどうするのだったかしら。ご挨拶……そう、ご挨拶をするのね?
ごきげんよう、泉を綺麗にしてくれた人のお嬢さん。私はペリ・ハマイイム』
周囲の精霊たちに何やら教わったのだろう、島が浮かんでから人を見ていなかったものだからと頬に手を当て、水の上級精霊『ペリ・ハマイイム』は微笑んだ。
●
――いつつぼし島で上級精霊に会った。
そう聞いた天籟は、バキリと煎餅を噛み砕いた。人に友好的な上級精霊が居るのならば、島の安全度も少し上がる。夏になったら水遊びに子どもたちを連れて行っても良いかもしれない。
「なるほどのぅ、竜種を母と称した水精霊か」
「祠の御神体? が、竜に纏わるもののようね」
たぶんだけれどと口にしたオデットに、だから機嫌を損ねなかったのかと天籟は独りごちた。竜種に会って怪我もせず帰ってきたと聞いて天籟は酷く驚いたものだ。縁が出来ていたことにようやっと胸を撫で下ろす。
「あの竜種にもまた会いたいわ」
「……来るなと言われたんじゃろ」
「でも会いたいんだもの」
勿論、ピュニシオンの森にひとりで行く許可は出せないし、森で待っていたとしてもあの女性が現れるとも限らない。
――ならば、竜種の居るところに行けばいい。
「竜種からの協力要請があったと聞いたわ」
「耳が早いのー。……まあええんじゃけど」
煎餅の最後の一欠片を咀嚼してから、天籟が懐から巻物を取り出した。
ペイトとローレットの架け橋も担う天籟はローレットからの情報も得ている。
「ぬしも聞き及んでいるのならば話は早い。『花護竜』テロニュクスと『魔種』白堊から『ベルゼー・グラトニオスの苦しみを少しでも和らげるため』の協力要請があった。『ヘスペリデス』へ向かい、『女神の欠片』を探してほしい」
ヘスペリデス――それはピュニシオンの森の先にある人の文明を真似、ベルゼーが竜種と人の架け橋となるべく作り上げた竜種の里だ。
人の営みを真似して作った遺跡は不格好。
咲く花はデザストルの特有の名も知らぬ花。
――この場所はいつかは滅びに向かう。
そう告げたのはテロニュクス。
テロニュクスは願った。
――あの方の苦しみが長く続きませんように。
白堊は言っていた。
――ベルゼー・グラトニオスという人はあなたたちを傷付けたくはない。
だから、人の子が傷つけられなくて済むように――ベルゼーの心を守るために、御守りとなるものを探すのだ、と。
「それはな……正式名称は解らんが、『女神の欠片』というものじゃ」
女神の欠片は様々な形をしているらしい。
テロニュクスと白堊がどこまで本当の事を言っているかは解らないが、天籟は信じみても良いのではないかと思っている。
「ピュニシオンの森は木々があるが、ヘスペリデスは開けておるそうじゃ」
そこもやはり、前人未踏の地。
くれぐれも気をつけて――必ず生きて帰ってきておくれと、小さな亜竜種は眉を下げるのだった。
- <黄昏の園>いつつぼしの縁完了
- GM名壱花
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年05月15日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談9日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
――さがしものを するのなら 空をおよげるわたしは 有利でしょう。
そう言ってふわふわと浮かんでいた『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)だったが――
「あああ! 皆様 ごめんなさいですの!」
隠れられる木々もないこの開けた地で浮かぶなど、亜竜たちをおびき寄せることにしかならない。探索を目的とするならば、出来るだけ亜竜に見つからぬように気をつけ、体力を温存して行うものであるはずなのだが――イレギュラーズたちは初っ端から空飛ぶ亜竜たちの襲撃を受けていた。
「いやぁ上空から丸見えとかおっかないね」
「そうだね、隠れられる場所もあまりないし……」
ケイオスタイドを放った『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)の後方からノリアを癒やした『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が同意を示し、隙無くサッと辺りを見渡した。
風光明媚なこの地に広がるのは、広大な花畑だ。建築物らしきものも幾つか見られるが、その多くは亜竜が根城にしているようだと小鳥を飛ばして調べた『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が言っていた。
「このまま、少しあちらへ移動しよう」
「そうね、ここだと……他の亜竜たちの気もたってしまうわ」
生物の息づく音が聞こえてこないかを確認した『誰が為に』天之空・ミーナ(p3p005003)が指をさし、オディールが教えてくれた卵を守る亜竜からももっと距離を置きたいと『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)が頷く。範囲攻撃では様々な物を巻き込みかねず、巻き込まれなかったとしても彼らは気が気ではないだろう。
移動するのは、悪いことではない。敵がバラバラと散っているよりは、追わせて直線、或いは纏まった状態で攻撃したほうが効率的だ。
「……見つからぬよう、気をつけていこう」
ギャアギャアと鳴き喚くワイバーンは騒がしく、それに寄せ付けられた亜竜たちも倒した頃、顎に伝った汗を拭った『優穏の聲』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)がそう言った。探索開始早々体力が削られてしまったのは痛手だが。しかし、悪いことばかりでもない。空が静かになった。この近辺の捜索は落ち着いて行えそうだ。
「危ないかどうかは解りそうにないな」
精霊たちの殆どは下級精霊だから、感情しか解らない。しかし此処に在る彼等にとって亜竜が彷徨いていることは極一般的なことで、ワイバーンたちが暴れている時くらいにしか恐怖を感じなかった。ラサでの一件により仮反転状態の『影編み』リースヒース(p3p009207)は慣れぬ四足で草を踏み、ふむと視線を巡らせた。
「それじゃあ好きなところとかはないかな」
アレクシアも草花や精霊に声を掛けてみる。『女神の欠片』についても尋ねてみたが、竜種も多く集う場所だ。この地には『不思議』が溢れていて、目ぼしい反応はなかった。けれども楽しいや好きということなら別だ。幾つもの楽しげな気配を目にしたオデットとゲオルグ、アレクシア、リースヒースは顔を合わせ――一等反応が多い精霊たちが示す方角へ向かうこととした。
「ん。泉があるな」
「泉!?」
「泉か」
草を透視したミーナの視界に入った煌めきを伝えればオデットの声が跳ね、広域俯瞰から捉えたゲオルグもサングラスの下で瞳を眇める。ふたりの脳内に同時に浮かんだのは先日会ったばかりの竜種の姿だろう。
それに、精霊たちがあの日同様に泉を好んでいるようだ。もしかしたらという気持ちが、オデットの胸で膨らんだ。
逸る気持ちを押さえ、泉へと向かう。
警戒はするに越したことはない。何せ泉は花畑よりも開けている。
水飲み場としている亜竜たちも多くいることだろう。
――しかし。
「この泉、少し違う?」
「うん、私もそう思った」
水を飲んでいる亜竜も居なかったため泉に近付き、焔が小鳥で空の警戒を怠らずに水を覗き込む。もっと濁った水があるかと思えば、透明な水に元気な魚が泳ぎ、泉の周囲にも亜竜の排泄物といった彼等の痕跡がない。
「女神の欠片がありそう、か」
異なる世界の女神たるミーナでも女神の欠片というものの見当もつかない。それはきっとテロニュクスたちの通称であるとアレクシアも思っており、何らかの力なのだろう。
「お水が とても きれいですの」
水が綺麗だと、ノリアも嬉しくなる。けれども『怖いお魚』が居ないかどうかのチェックだけは怠らない。唐突にがぶりとしっぽを食べられてはたまらないから。
「祠とかは――なさそうね」
周囲を全員で確認し、無くてもいいかと妖精印の林檎ジュースをオデットが取り出した。
「誰か、管理している者が居るのかもしれないな」
「美味そうだね、それ」
「ああ、供え物に持ってきた」
焼き菓子を取り出したゲオルグの手元をルーキスが覗き込む。可愛いねこちゃんの顔をした焼き菓子たちだが――実はゲオルグの手作りだ。
泉周りの探索をし、女神の欠片は無さそうかな? と思い始めた頃だった。
香りが漂うように、濃厚な水の気配が突如漂った。
(……! まさか、本当に!?)
会えればいいなと思っていた。会いたい、と思っていた。
一度感じたことのある気配にオデットが直ぐ様周囲へと視線を向ければ、少し離れた宙へと不自然に水が集まり始めている。
(――彼女だ)
同時に気が付いたゲオルグは素早く仲間たちに警告をしようとする。ゲオルグとオデットの勘が正しく、今現れんとしているのがふたりが先日会った『彼女』ならば、いくつか注意が必要となるからだ。
「不敬と取られぬよう――」
みなまで言い切る前に、『其れ』は現れた。
途端、イレギュラーズたちの身体は動かなくなる。まるで水の中に居るような息苦しさと、深海にいるかの如き重圧。いつの間にか空を飛んでいた亜竜たちの姿も見えなくなっている。
(ああ、やっぱり)
けれども水精霊たちと草花は歓喜し、彼女を――竜種の女を迎え入れる。精霊たちの喜びの感情を拾い、オデットは眩しげに瞳を細めて水が形どった女を見た。
透明感のある水色の髪持つ、美しい女だ。 矢張り先日同様にイレギュラーズたちには視線もくれず、小さく何かを口遊みながら真っ直ぐに泉へと向かう。
ゲオルグとオデットの傍らを通り抜け――
「……嗚呼、人の子等か……」
煩わしそうに溜息をつく。同時に、先日と同様に呼吸が楽になる。女にとっての『ソレ』は、どうにも自然と出ていて普段は気にせぬもののようだ。同種であれば気にするほどでもなく、獣や亜竜避けともなり煩わしさも感じなくなり良いものなのだが――人の子にはそうではないと先日勘付いたため、払うのも早かった。
しかし、涼し気な瞳には僅かな苛立ちが見てとれた。
「折角吾が助言をくれてやったと言うに」
「ご、ごめんなさい。……それでも私はまたあなたに会いたいと思ってしまったの」
「私からも謝ろう。……すまない」
「吾に殺されたいのか?」
その言葉には『そうではなかろう』と『殺させるな』が含まれていると感じ取れる響きであった。竜種からすれば、人など、足を動かせば潰れてしまう儚き存在だ。そして現在の状況からしても会わない方が互いのためであるから、この竜はなるべく人と会いたくはないのだ。
「挨拶を……お許し願えるだろうか」
動けるようになったリースヒースは直ぐ様四足を折り、伏せの体勢を取り頭を垂れた。挨拶を望むルーキス、ミーナ、焔、アレクシアの4名も彼女に倣った。
そんな中、ノリアのみはふよふよと宙を泳いで竜種の女へと近寄っていく。自然界において、弱者が強者の側に身を寄せるのはよくあることだ。相手が大きければ大きいほど、強ければ強いほど、彼らが気にしないことを知っているノリアは、先程の一瞥もくれぬ姿で理解したのだ。邪魔立てしなければ、わざわざ追い払う労力もかけようとはしないだろう、と。
(とても 心地よい 気配がしますの)
触れぬ距離で寄り添えば、感じるのは澄んだ水の気配。先刻の重圧さえなければ、なんと居心地の良い相手なのだろうか。
「お初にお目にかかる。イレギュラーズが一人、天之空・ミーナだ。ミーナと覚えてくれ」
「突然押しかけてごめんなさい。どうしても必要なものがあって、それを探しにきたの。ボクは炎堂焔っていうんだ。あなたのお名前も教えてくれたら嬉しいな」
「ごきげんよう水竜の君、お名前を伺っても?」
ミーナ、焔、ルーキスが口を開き、竜種の女が嘆息をした。礼儀がなっておらず、女が少し気分を害したのがオデットには解った。
もし会った場合にどう接するか。意識の共通が欠けていた。
人間社会でも上位貴族に会った際は、声が掛かって初めて発言の許可が与えられる。顔をあげる許可を与えられ、名前を聞かれたら応える。下の者から名を聞くことが許されるのは、別れ際まで名乗らなかった時だろう。
故に、オデットは一番に気になっているはずなのに、名を尋ねなかった。ゲオルグも失礼のないようにと留意している。リースヒースの在り方は正しく、今なお恭しい礼の姿勢を保っていた。
「顔を上げよ」
名を問う声には応えず、女はリースヒースに声を掛けた。
「吾はメファイル・ハマイイム。其は何と言う」
問われ名を口にしたリースヒースへ良い名だと告げた女――メファイル・ハマイイムはオデットとゲオルグへと視線を向け、ふたりとアレクシアの名も問うと少し間を置いて顎へと指を添えた。
気になったのは、オデットとアレクシアの名だろう。
「確か、人の子は父祖の名もつけておったな。吾にはそのようなものはない」
「メファイル・ハマイイムさんは『メファイル・ハマイイム』でひとつの名前、ということ……?」
「そうだ」
「ではそう呼ばせてもらおう」
親しい間柄で相手が許しているならば略しても問題はなかろうが、そうではない。アレクシアの後にゲオルグがそう告げればメファイル・ハマイイムが顎を引き、止めていた歩を再開する。
『あの腕の鱗……』
『あれが「女神の欠片」……なのかな?』
ミーナがハイテレパスで思念を送ると、同じことを考えていたアレクシアがこくりと頷いた。
マイペースにゆるりと歩むメファイル・ハマイイムの腕に生えた水色の鱗。それから『なんとなく』力を感じるのだ。ミーナが視線を向けて他の仲間たちひとりひとりに確認を取れば、みな不思議と同じように感じているようだ。
メファイル・ハマイイムは旋律めいたものを口遊みながら泉の畔まで歩んでいき、そのすぐ後ろにノリアが鯨に寄り添う小魚のようについて泳ぎ、他のイレギュラーズたちは道を譲ってその姿を見送る。
話をするにも、まず、用があって来たであろう彼女の用事を待つのが一番で、名を尋ねたりするのはその次であるべきはずだったのだ。彼女から目的を尋ねてこない以上、用事が済むのを待つのが道理だ。
「さて」
ただ歌っていたように見えたメファイル・ハマイイムが振り返る。どうやら彼女の用事は終えたらしい。その証拠に泉は輝かんばかりに澄んでおり、水精霊たちの喜びがオデットとゲオルグ、アレクシア、リースヒースの胸中に届いていた。
「此処へは何用か」
発言への許可が降りた。オデットには尋ねたいことがあったが、まずはイレギュラーズたちが何をしに来たのかを告げるべきだろう。
「テロニュクスに言われてベルゼーの為に『女神の欠片』っていうものを探してるんだ」
ルーキスがこの地に訪れた理由を告げた。
「『女神の欠片』を何とする?」
「ベルゼーの心を守るためのお守りを作るための材料にする」
リースヒースの言葉へ、ふむと相槌を打った。
「少し違うように思うが……」
そう口にし、メファイル・ハマイイムは他のイレギュラーズたちに続きを促した。
「私たちはベルゼーさんの苦しみを和らげたいと思っているんだ」
アレクシアは冠位魔種ベルゼーのことを深く知っているわけではない。けれど彼はアレクシアの友人の大切な人だ。そしてそれは、竜種にとっても――。
「助けに、なりたいんだ」
真っ直ぐにメファイル・ハマイイムを見つめ、アレクシアが告げた。
メファイル・ハマイイムもアレクシアを静かに見つめる。彼女の瞳は湖の底のように揺らがない。
「あなたの鱗に宿っているそれ、女神の欠片……であってるかな?」
「そうだ」
隠すこともなく、メファイル・ハマイイムは肯定する。
「なれば、嘘をつく理由もないから単刀直入に言おう。女神の欠片である、メファイル・ハマイイムの鱗が欲しい」
「……メファイル・ハマイイム?」
ミーナの言葉に、メファイル・ハマイイムからの応えが途絶えた。オデットが見上げるが、良いとも駄目だとも返らない。
「……あのね、聞いてもいい?」
「ものによる」
「メファイル・ハマイイムはベルゼーのことをどう思っているの?」
オデットの問いに、またもメファイル・ハマイイムふむと頷いてから暫し時を置いた。
「……食えぬ男だ」
優しく、温厚で。けれども裡に抗いきれぬ宿命を宿している、哀れな男。
(メファイル・ハマイイムは彼の優しさを知っているのね)
矢張り、オデットの瞳には悪いものには映らない。水精霊たちが彼女を案じるように寂しげにし、ノリアもそっとメファイル・ハマイイムを見上げて彼女の表情を伺う。そこに変化はないが、それでもこの竜が何も思っていない訳ではないようだ。
(メファイル・ハマイイムさんも優しい竜なのかも)
ベルゼー同様、彼女のことは知らない。だからこそ知りたいとアレクシアは思い、花唇を開く。
「メファイル・ハマイイムさんにとって、この地は大切な場所? それとも、一時の仮宿くらいの土地?」
「ふむ。……考えてみたことがない」
この地――ヘスペリデスはベルゼーが作った。ニコニコと微笑みながら、あの男は竜種と人との架け橋となろうとしている。
「とある竜はヘスペリデスはいずれ滅びに向かうと言っていた」
「テロニュクスがそう申したと」
「ええ」
「そうか」
メファイル・ハマイイムは瞳を閉ざし、オデットは静かに彼女の次なる言葉を待った。
「ベルゼーさん、苦しむと思うんだ」
「自分を責めるだろう」
焔が続き、ゲオルグも言葉を重ねた。
艶やかな唇が、なればと開く。
「なれば……吾は其れを受け入れる」
「なっ……!」
オデットの口から、驚きが飛び出た。
「どう、して……? 私たち、きっと守って見せる。だから……」
「子等で守れるのなら、我等で守れるだろう」
それが叶わぬのなら、ベルゼーの心と殉死する。
「私は……私自身がどれほど無力なのだとしてもその運命に抗いたい。様々な命の息づくヘスペリデスも犠牲にしたくない」
苦しげにゲオルグが言葉を零すと、初めてメファイル・ハマイイムの眉が寄った。作り物の人形のような美しいかんばせに、人めいた表情がひとまたたき分だけ宿った。
「私達には女神の欠片が必要なのだ。払える対価があるならば払おう」
「子等が差し出せるものなぞ、吾は知らぬ」
交渉をするのならば、イレギュラーズたち側から何が出せるか手の内を明らかにする必要がある。
――具体的な対価を考えてきた者は、いなかった。
「此処に至るだけの実力を示せというなら戦うのもやぶさかではないけど」
「テロニュクスたちに認められたからここにいる、実力を見せろというのなら全力で戦うわ」
「特段見たいとは思わぬ」
そもそもメファイル・ハマイイムは『会おうとするな』と言った竜だ。
彼女の望みをひとつ叶える――竜の望みなど人の身からすれば身に余るほど大きすぎるものが殆どだろうが――と申し出たとしたら、彼女はきっと「吾等竜種に二度と会わぬのなら」と出ただろう。それは此れからのベルゼーに関わらんとするイレギュラーズたちには約せぬ条件となる。
「去れ。――其も」
ノリアに一瞥もくれなかったメファイル・ハマイイムの視線が落ちてくる。深い水底の、穏やかな水色だ。
「儚き者、去れ」
「いつのまにか、ついたものでしょうから、いつのまにか、落ちるのを、待っていますの」
「迷惑だ」
(このひとは――)
メファイル・ハマイイムが揺らした髪が、水と散る。
人を遠ざける。――殺したい訳ではないから。けれどベルゼーが望むのなら、竜たちは人の命を容易く奪うだろう。縁なぞ持たない方が互いのためだ。
迷惑だと口にするが、すぐに重圧を掛けて離す訳では無い。
(なんて優しい竜なの)
断られても尚、オデットはそう思わずにはいられなかった。
――私どうしてもあなたのことが好きだわ。
成否
失敗
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
マスコメにもありますが……戦闘で勝ち取るには「傷をつけれたら欲しい」等の具体的な条件をイレギュラーズ側から提示し、彼女がそれを飲んだ場合でしたが、誰も条件を提示していないため戦闘は発生しませんでした。
お疲れ様でした、イレギュラーズ。
GMコメント
ごきげんよう、壱花です。
此処に記載されていることは全てPL情報です。
●目的
『女神の欠片』確保
●成功条件
同上
●シナリオについて
前半、探索を。『女神の欠片』を探しましょう。
様々な物に宿るとしかテロニュクスたちからは情報を得ていませんが、きっと見れば解るのでしょう。
『ヘスペリデス』の花畑の片隅に、泉があります。水質も綺麗で空気も綺麗。魚は生き生き、下級精霊もルンルン♪しているので、アレ? と思う人もいるかもしれません。女神の欠片のような加護のあるものがありそうな雰囲気です。
後半、泉に『メファイル・ハマイイム』が現れます。
竜種より人間は小さく儚い、力なき存在です。初めましての人への態度は前回のシナリオを参照下さい。前回彼女に会った事がある人に対しては「助言をくれてやったのに」と思います。
此度の『女神の欠片』は彼女の左腕の鱗(人の肌に一部鱗が出ています)の一枚に宿っています。何かちょっと「ん?」みたいな感じに気付けます。判定はHard、生半可なことでは譲っては貰えません。
戦って奪っても良いですが、竜種は魔種よりも強い存在です。一方的に襲いかかれば、次の瞬間に倒れているのはあなた。戦う場合は彼女が飲みそうな条件を着けた上で行うと良いでしょう。勿論、条件次第です。
●フィールド:ヘスペリデス内の花畑
ピュニシオンの森と比べ見晴らしが良いため、上空が開けています。空を飛ぶ亜竜から隠れるのは難しいでしょう。警戒して下さい。
竜種以外にも沢山の亜竜たちが生息しています。彼等の産卵にはこの地が適しているのか、卵を温める姿を見かけるかもしれません。が、卵を守る亜竜は我が子を守るために攻撃的です。
泉付近は安全なようです。亜竜が避ける、もしくは水精霊が好む場所にいけば(他の所へ案内されるかもしれませんが)泉があるかもしれません。
●『揺蕩う水の調べ』メファイル・ハマイイム
将星種(レグルス)級水竜。人形態は美しい女性。竜形態は30mくらいになります。現時点では敵対していませんが、友好的でもありません。基本的に竜は人間に味方することはありません。
機嫌を損ねなければ名前くらいは聞けば教えてくれますが、苗字等はなく上記の名前でひとつの名前です。省略は勝手に愛称をつけることなり、機嫌を損ないます。
彼女は色んな泉を浄化して廻っているようです。責務や趣味……と言うよりも、何百年も生きているので気まぐれに暇潰しで行っています。
害にならなければわざわざ排除しようとも思わないので、精霊たちに好かれています。
●ペリ・ハマイイム
いつつぼし島の泉にいる水の上級精霊です。OPにしか出てきません。
メファイル・ハマイイムの割れ落ちた爪から生まれた精霊ですが、メファイル・ハマイイムは彼女のことを知りません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●EXプレイング
開放してあります。文字数が欲しい時に活用ください。
(今回、関係者さんの同行を希望されても描写されません)
それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。
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