PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<カマルへの道程>Hurt And Virtue

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 豪奢なティールームの窓辺は月明かりに照らされ、血のように赤い花が飾られている。
 実のところ比喩でなく、それを吸わせた魔性の薔薇であったが、それはさておき。

 椅子に座した美しい女が、瞳を閉じている。
「――それで?」
 しばしの沈黙の後、女――リリスティーネが尋ねる。
「アスリーヤの件は私の失態にございます、ですのでどうか」
 唇を戦慄かせながら、彼女の侍女にして寵姫であるエルナトが答えた。
 先日、エルナトの部下にあたるアスリーヤという吸血鬼(ヴァンピーア)が、イレギュラーズを相手に敗北したのだ。そして部下のしくじりは、上司の責任という訳だ。
 苛烈な性格の女主人は、失態には必ず屈辱的な罰を下す。
 頭を垂れるエルナトが耳にしたのは、けれど実に意外な言葉だった。
「今日はいいわ、それよりはやく贄を持ちなさい」
「……!?」
 エルナトは訝しんだ。
 罰が言い渡されないとは、どうしたことだろう。
 こんなことは、仕えてから実に初めてのことである。
「聞こえなかったの? はやくなさい」
「いえ、直ちに。では今宵の贄を持ちなさい」
 エルナトが命じると、身体を華奢な金鎖と薄絹のみで飾った少女二人が侍女に連れられてやって来た。
 どちらも虚ろな表情で俯き、手首には血の染みた包帯を巻いていた。
「本日の贄はこちらにございます」
 テーブルランナーに乗った二脚のワイングラスには、赤い液体がほんの少しだけ注がれていた。
 グラスを手にしたリリスティーネは交互にテイスティングすると、片方を無造作に放る。
 床へガラスの破片と赤が飛び散り、鉄さびのような生臭いにおいが広がった。

「それでは『これ』を今宵の食事としましょう」
 合格とされた少女を伴い、リリスティーネが寝所へ向かう。
「ああ、どうか、どうかご慈悲を」
 残された少女は涙をこぼしながら、引き摺られるように下がらされた。
 リリスティーネの食事――吸血の候補は一晩に二人ずつ。美しい少女が宛がわれる。
 合格点とならなかった者は廃棄。
 極度の貧血などによって使い物にならなくなれば、やはり廃棄。
 廃棄――つまり実験材料か、あるいは下位の吸血鬼達に提供される。大抵はそのうち晶獣(キレスファルゥ)となるが、稀に吸血鬼へと覚醒する者も居る。吸血鬼へ転じるのは名誉なこととされていた。

 それはそうと、残されたエルナトは、気が気ではない。
 中庭を見下ろす渡り廊下を歩きながら、彼女は胸を押えた。
 焦燥感が胸の内に爪を立てている。主に見捨てられたような気がしたからだ。
 なぜ主は罰を下さなかったのか。
(まさか、あの男が来たから……!?)
 ここ月の都には先日、ラサの赤犬が招かれていた。
 思えばあの日からではないのか、こんな風になったのは。
「この、役立たず――っ!」
 エルナトは、申し訳なさげな表情で後ろを歩くアスリーヤに向き直ると、その頬を強かに平手打ちした。
 アスリーヤが水晶の涙をぱらぱらと零す。
「……おゆるしください、エルナトさま」
「……」
「やあね、いじめかしら?」
「レディ、これはお見苦しいところを」
 姿を表したのはレディ・スカーレットという客人だ。
 深紅のドレスを纏い、長い銀髪のあどけない少女にも見えるが。無辜なる混沌におけるヴァンピーアならざる吸血鬼、その一人。天義に伝承される色欲の魔種である。
「それはそうとエルナトさん、イレギュラーズが古宮カーマルーマへと到ったというわ」
「……ええ」
「迎え撃つのでしょう。ならば力をお貸ししましょうか?」
「それは……ええ。ならばファティマ・アル=リューラを貸しましょう。来なさい、ファティマ」
「……ん」
 断りかけたエルナトだったが、思い直して承諾した。
 このための剣客なのだから、働いて貰わねばならない。
 本来的には自身も同行したい所ではあったが、侍女長としては為すべき事が山ほどある。
 ともかく念には念を押して子飼いの吸血鬼を付けよう。
 人数は多いに越したことはない。エルナトはもう失敗したくはなかった。
「ん、行く」
 暗闇から現われたのは、えんじ色のドレスの上に夜色のマントを纏う美しい少女だった。
 淡い青緑の髪をしており、耳は幻想種のようにも見えるが、小さく開いた口には二対の牙が見える。
「これはこれは、ではファティマ。私共で参りましょう」
「ん、わかった。ファティマ手伝うね」
「こちらは『アレ』の成長も兼ねて、だけれど」
「あれ?」
「『天使様』よ。許可は得ているから安心なさいな」
 二人を見送ったエルナトは、いくつもあるリリスティーネの寝所、その一つを睨み付ける。
「それから――覚悟なさい、アスリーヤ」
 その表情は、ひどく暗いものだった。


 夢の都ネフェルスト――その冒険者ギルド・ローレットの支部。
 顔を揃えたイレギュラーズは、今後の作戦について話し合っていた。

「要するに吸血鬼の仕業だったってことだよ!」
 ローレットの情報屋、『舞文新聞記者』瓦 讀賣が胸を張る。
 紅血晶が市場に出回る中で、突如としてネフェルストを襲ったのは、竜を模したチグハグの合成獣『晶竜(キレスアッライル)』などの怪物、そして吸血鬼であった。
 襲撃を退けたイレギュラーズではあったが、ラサの実質的指導者であった『赤犬』ディルク・レイス・エッフェンベルグが行方知らずになった事により、決定権を有する者を一人欠いてしまった実情だ。
 敵の手中に収まるような男ではないが、エルス・ティーネ(p3p007325)達、目撃者の報告では、『女王』即ちリリスティーネと共に姿を消したという。そしてリリスティーネはエルスの義妹でありながら、しかして殺すべき不倶戴天なのだ。
 紅血晶が何なのか、晶竜がどこからやってきたのか。無数の落とし物を辿り、『凶』ハウザー達はとある遺跡へと辿り着く。その名は『古宮カーマルーマ』。かつては夜の祭祀と呼ばれ、死と再生を司る儀式が行われていたとされる場所である。
 遺跡の中にはいくつかの転移陣が存在していた。
 そして転移先に広がっていたのは、世にも不可思議な『月の王国』――敵の本拠地だったのだ。

「乗り込むしかないんじゃない?」
「確かに、敵の本拠地と思われるのだから」
 アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)の端的な結論に、リースヒース(p3p009207)が頷いた。
「他に方法はないでしょうね」
 エルスもまた続ける。
「浚われた少女達も気がかりだ」
 クロバ・フユツキ(p3p000145)の言葉通り、月の都には幻想種達が浚われていると思われる。
「それに晶竜――」
 クロバは、おそらくなんらかの『錬金術』によって産み出された怪物だと考えていた。
 思い起こされるのは、妖精郷の出来事だ。
 クロバの父クオンは、タータリクスという錬金術師と共に妖精郷へ大きな被害をもたらした。
 そんなタータリクスが師事したという『アカデミア』の『博士』なる存在、その関与もある。
 とはいえ行方知れずとなっているクオンの気配は、今回の事件には感じないのだが。はてさて。

「他にも一つ気になる情報があるのよね」
 そう言ったのは長月・イナリ(p3p008096)だった。
 情報源については述べなかったが、さておき。どうやら最近、とある吸血鬼伝説の主役がラサへ姿を表したというのだ。その名は――
「――レディ・スカーレット?」
 アンナが愛らしい眉をひそめた。
 それは天義における伝承の一つ、一度は聖女に列せられ、のちに異端と廃された存在のことだ。
 アンナも知る、ティベリアという街を滅ぼした吸血鬼の伝承である。
 ラサを騒がせている吸血鬼(ヴァンピーア)とは出自が異なり、おそらく魔種であろう。
「あと深緑にも現われた『クレイドル』っていう個体も連れてるみたい」
 讀賣がそう続けた。
 機械鎧のような存在で、中で何かを『育んでいる』というが。
 得体の知れない何かが関与しているのは間違いない。

 さて個々の事情は様々だが、なさねばならないことは一つだ。
 先のアンナの言葉通りに、敵本拠地へ向かうため、道中を切り拓かねばならない。
「迷惑をかけるわね……けれど、行きましょう」
 ――月の王国へ。

GMコメント

 pipiです。
 月を戴く砂漠の宮へ。
 乗り込むために、まずは道中を切り拓きましょう。

●目的
 敵の撃破または撃退

●フィールド
 転移先の不思議な空間。
 おおよそ夜の砂漠です。
 非常に広く、殺風景。
 月のため明るさは十分です。
 月齢は有明月のはずですが、この空間では満月です。
 エルスさんが影響を受けるか、どの程度受けるかはご当人にお任せします。

●敵
『吸血鬼』ファティマ・アル=リューラ
 おそらく元幻想種の吸血鬼です。
 月の王国の吸血鬼です。血は花びらとなり、水晶の涙を流します。
 魔力の大鎌による攻撃、魔術攻撃、コウモリの群れ化、霧化などが可能と思われます。

『魔種』レディ・スカーレット
 天義の伝承に記された吸血鬼のはずです。こちらは色欲の魔種。
 剣技と魔術を非常に高い次元で行使するはずです。
 無関係なはずですが、なぜここに居るのか。

『クレイドル四号機』
 レディ・スカーレットが連れた、鎧のような存在です。
 浮遊し、月光を集め威力の高い魔力砲を放ちます。命中が高く、非常に頑丈です。

『晶獣』サン・エクラ×8
 小さな犬猫のような姿の晶獣です。
 鋭い水晶部分による物理至~近距離戦闘を行います。

『晶獣』サン・フルミリエ×2
 三メートルほどの巨大なアリクイのような晶獣です。
 通せんぼのような姿勢で進軍をふせぎ、体当たりしたり腕を振り回して攻撃してきます。

『晶獣』デミ・リュンヌ×4
 元は幻想種の少女で、ファティマに躾けられています。
 紅血晶を欲するばかりの怪物で、話は通じにくいです。
 完全に通じない訳ではないのが嫌な所で、倒さねばならないのが最悪な所です。
 散開して遠距離からの魔術で戦います。

●特殊判定『烙印』
 当シナリオでは肉体に影響を及ぼす状態異常『烙印』が付与される場合があります。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <カマルへの道程>Hurt And Virtue完了
  • GM名pipi
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年04月06日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)
Legend of Asgar
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
リースヒース(p3p009207)
黒のステイルメイト
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す

リプレイ


 荒涼たる西の果て。
 砂漠に沸き立つオアシスには、希望も欲望も全てを叶える夢の都があるという。
 ただし、その鏡映しの城は知られていない。

 一行は古宮カーマルーマと呼ばれる遺跡、その転移陣に立つ。
「お互い生きて帰るわよ」
「当たり前だろ、生きて『続き』して貰わなきゃならんからな」
 不敵に微笑み会う『紅矢の守護者』天之空・ミーナ(p3p005003)と『騎兵隊一番槍』レイリー=シュタイン(p3p007270)は口づけ一つ、光揺蕩う転移陣から掻き消える。

 空中神殿や、あるいは妖精郷の門にも似たそこを通った先は――夜だった。
 目眩めいた微かな気配を振り払い、辺りを伺えば、寂寞たるなだらかな砂の丘陵を月が照らしている。
「……満月?」
 呻くように呟いた『デザート・プリンセス』エルス・ティーネ(p3p007325)の記憶が確かであれば、今は白昼のただ中だったはずである。
 仮に夜だったとしても、空へ昇るのは深夜遅く、下弦を過ぎた有明の月であるはずだ。
 なのにこの異空間である敵の本拠地は、どうやら常に満月に照らされているらしい。
 果たして、これさえも『あの子』の作戦だというのだろうか。
 だとすれば――
(我儘ばかりの子だと思っていたのにね……)
 ――なかなかどうして、悪知恵が回るようになったものだ。

 この日、イレギュラーズはラサで発生した事件を追っていた。
 紅血晶と呼ばれる宝石を手にした者が、相次いで怪物になるというものだ。
「部族連中も、兄貴もそうだ」
 四つ足で砂を踏む『黒き流星』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)が、遠く宮殿を睨む。
 どうやら敵の総大将――リリスティーネはエルスの身内(義妹)らしい。自身のあずかり知らぬ所でやらかしたのも、それを止められなかったことも、ルナにはある種の共感めいたものがある。
 だからエルス自身にあえて述べる言葉はない。
 やることは吸血鬼をぶっ潰すこと。
 そして烙印などというふざけた呪いを消し飛ばすことだけだ。

 ――ひどく、『乾く』。
 エルスはといえば大鎌を支えに立っており、呼吸がいつもより浅い。
 纏う色彩は平素とはまるで異なっており、苦しげに眉をひそめていた。
 無論、戦いの場で後れを取るほどエルスは甘くない。
 それでもきついものはきついのは確かだった。
「これでもずいぶん制御出来るようになったのだけど、ごめんなさい。迷惑をかけるわね」
「何、気にする必要はない。イレギュラーズ仲間は、いつだって持ちつ持たれつだ」
 あえて理由は問わぬのが『無鋒剣を掲げて』リースヒース(p3p009207)だ。
 尋常でない様子のエルスだが、いざ戦いが始まれば、遅れは取るまいと思っている。
 もちろんそれは事実であり折り紙付きだが、つらくない訳ではなかった。
 烙印を穿たれた者は吸血衝動を覚え、徐々に吸血鬼へ近付いていると推測される。
 それはヴァンピーアという名こそ、旅人であるエルスの故郷での吸血鬼と等しい。
 だが印が現われ、血が花びらになるなどとは寡聞にしてあずかり知らぬ事態でもある。

「真相の全ては、この事件を追う他にないんだろうさ」
 呟いた『滅刃の死神』クロバ・フユツキ(p3p000145)は、事件の裏に錬金術が絡んでいると考えている。
 錬金術そのものは別段問題のある技術ではないが、今回の場合は関わる人物に問題がある。
 かつて妖精郷を蹂躙したのは、タータリクスという錬金術師だった。
 彼は『博士』が開いたアカデミアと呼ばれる組織で学び、やがて魔種へと墜ちた。
 事件に関わっていたのが父に相当するクオンという人物である。
 深緑の決戦で姿を消したクオンだが、この事件の手口や技術は彼のものとは思えないが。
 いずれにせよ、錬金術が関わっているのであればクロバはどこまでも追うまで。

 一行は砂に足を取られることを避け、リースヒースの駆る空飛ぶ馬車『黒現のアバンロラージュ』へと乗り込んでいた。さながら冥府騎行といった様相である。
 なにはともあれ、遠く見えるあの城へ赴かねばならない。
 無論、敵の迎撃は予測の範疇であり――
「むむ、これはまた随分な歓迎でござるな」
 ――『夜砕き』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)の言葉通り、待ち構えていたのは吸血鬼共だ。
「しからばその道、切り拓いてくれよう」
 打ち込まれる攻撃術式をかわし、馬車から飛び降りた一行は、即座に得物を構えた。

「私の名はレイリー=シュタイン! 月の都に攫われた人たちを助けに来たわ!」
 馬上から、いの一番に名乗りを上げたレイリーへ、吸血鬼ファティマが術式を紡ぐ。
 一行の足元に赤々と輝く魔性の陣が花開き――
「邪魔……」
「けれど、させてあげるわけがないでしょう」
 エルスの宣言と共に、封印術式が即座にファティマを縛る。
 魔陣はたちまちガラスのように砕け、宙へ溶け消えた。
「大鎌同士、あなたにはうってつけだと思うわよ?」
「……小癪」
 エルスとファティマは二度打ち合い、刃同士が火花を散らす。
「お嬢さん、私とも一曲踊りませんか?」
「……お断り」
「そう無碍におっしゃらず!」
 レイリーは大鎌の一撃を白亜の大盾で弾き、すれ違い様に騎兵槍を叩き込む。
 身を翻したファティマは、けれど間に合わず。
 その槍に貫かれたまま花を吐き、無数のコウモリへと姿を変える。
「……あれが、ね」
 ミーナが鋭い視線を送る。
 観察しておくべきだ。使用間隔、時間、様々な条件を。
 無敵はありえない。だから暴き出す。
 直後、散弾のように襲い来る影のコウモリ達へエルスは姿勢を崩さぬまま左手を差し出した。
 光が満ち、コウモリ達の突撃を全てはじき返す。
 だが人の身へ戻ったファティマは、紡ぐ破壊術式でエルスの防御フィールドを砕いた。
「多芸ね、けれどそれだけでは通じないわ。覚えておきなさい。これが吸血鬼の戦いというものよ」

 ――こうして激突が始まった。
「あの連中がこんな辺境地域に出張して来るなんて、明日は天使でも降るのかしらね?」
 敵陣を見渡した『狐です』長月・イナリ(p3p008096)の言葉通り、相手方には異質な存在が混じっているようだった。クレイドルと呼称される巨大な甲冑のようなものは、否応なく目を引く。
 それは稲荷神の敵となる存在、ひいてはイナリ達イレギュラーズの敵でもある狂神の手先であった。
「叩きのめしてから調べましょうか」
 観測したなら、分析や解析はイナリ達の得意分野となる。
 深緑にも出没していたが、ラサにも現われるとは。
 杜の情報によれば、天義に潜伏しているようだが――
「点と点が結びつくわ、いずれにせよ伝承通りの姿。レディ・スカーレットとお見受けしたわ」
 そう述べた『剣の麗姫』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)が踏み込む。
「ティベリア以降の話は聞いたことがないけれど、お仲間を見つけて組んだのかしら」
「博識ね、お嬢さん。その通りよ」
「だとすれば、存外寂しがり屋なのね」
「ええ、私。とっても寂しがり屋なの。そんな貴女はどこのどちら様?」
「失礼。申し遅れたわ、私はアンナ。天義の貴族よ。同郷の誼として一曲付き合って頂戴な!」
「いいわよ、踊りましょう」
 間合いを詰め、剣と剣を打ち合う。
 さすがに、鋭く重い。
「あなたを産み出したことは天義の不始末。ならば私が止めましょう」

「人間だけかと思えば、動物実験もやっていたのね……」
 しかし紅血晶を巡る一連の事件――晶獣を斬り捨てた『Legend of Asgar』シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)は、続く一体を剣でいなしながら思案する。
 対処療法的に動いていても、このように事態は進行した。
 けれど晶獣は人為的に発生するものであり、無から生じる魔物ではない。
 ならば確実な討伐自体はいずれ実を結ぶはずだ。
 故に誓う。利用も再利用もこれ以上は許さない。
「――我が剣にかけて」

 イレギュラーズは散開しつつ、交戦を開始していた。
 迫り来る晶獣の群れを迎え撃つミーナが踏み込み、大鎌の一撃で敵陣をなぎ払う。
 しかしなんと哀れな生き物であろうか。
 仮に吸血鬼が生きる為に血を飲もうが、ミーナは干渉するつもりなどなかった。
 だがこうした人をも含む生き物達を利用し、いたずらに命を弄ぶことは看過出来ない。
(……これでも一応、『神』なもんでよ)

 戦場奥深くへ突進したルナを、無数の雷撃が襲う。
「あぁ、悪ィ。効かねえんだわ、そんなもん」
 結晶化した虚ろな表情のまま、デミ・リュンヌが額を撃ち貫かれた。
「……す、けて」
 彼女等は時折、救いを求めるような言葉を発する。
 シルエットは幻想種だが、いずれにせよ最早助からない。
「知るか。このまま、殲滅だ」
 軽口は少なく、ただ淡々と。
 そうする理由が、ルナにはあった。
 この怪物共がネフェルストを襲ったのがつい先日のことである。
 ルナの兄は吸血鬼(ヴァンピーア)なる存在へ、部族の者達は晶竜へ変貌していた。
 その上、ご丁寧なことにルナが守ると決めた商家の娘(イレギュラーズとしての仲間でもある)に、烙印なる傷痕さえ残していったのだ。このような狼藉を、許せるはずがあるものか。
 ルナは『レディ・ファースト』だ。
 だが今の目的は、このふざけた王国を潰すことに他ならない。
(最初から、手を汚すことへの罪悪感なんざ持ち合わせてねぇよ)


 交戦開始から僅か数十秒。
 イレギュラーズは小型の晶獣、そして幻想種を利用した晶獣の撃破を続けていた。
「惨いことをするでござる」
 犠牲となった少女達も、獣達も。
 まるで実験材料にでもされたかのようではないか。
 突如地中から出現した巨大な晶獣、その腕へ咲耶は鎖を放った。
 絡みつけたまま、互いに強く引いた勢いに合わせ、咲耶は刃を振るい抜く。
 晶獣の巨体へ軌跡が駆け抜け、紅の結晶が舞い散った。
 このまま、せめて苦しまぬように仕留めてやりたいのだが。
「みんな弱いから、耐えられなかっただけ。ファティマとは違った」
「……そうかよ」
 そう述べたファティマに、ルナのはらわたが煮え立つ。
 心情的には、最も戦いたい相手とは言えた。
 だがここで手を止めようとは思わない。
(勝ちに行かせてもらうまでだ)
 優先させるべきは、あくまで早期の殲滅だからだ。

 しかし――秋風を纏うイナリは、その術式を浴びて同士討ちする晶獣に思う。
 あの幻想種の少女を素体にした怪物や、あるいはファティマはどのように再教育されたのか。
 さしたる興味関心があるわけではないが、技術的分析は多少したいとも感じる。
 とはいえ見たところ、デミ・リュンヌには理性が全く残って居ないようだ。しかし苦悩は読み取れる。
 反面、ファティマは吸血鬼となったことを喜んでいるようにも見える。
 そこにはイナリにとっての真の敵――狂神側の技術が利用されているのか否か、情報を持ち帰る材料にはなるかもしれない。

 それから更に一分程、戦況は堅調に推移していた。
 少数が強敵を引き付ける間に、小物を殲滅する作戦はほぼ完了に近い。
 一方でレディ・スカーレットやファティマ、クレイドルへの対応も、現状では万全だった。
 敵の能力は高いが、あちらもあちらで、どこか様子見の姿勢が見えていたからだ。
「指揮は余り高くないようでござるが」
「だったら、好都合ってだけだろうよ」
 刹那、背を預け合った咲耶とルナは目配せ一つ、再び敵陣へ駆ける。

 クレイドルの集光装置が淡い輝きを帯び――
 砂漠へ突き立つ光条に、砂粒が赤く煮え立った。
 幾度も放たれる一撃はあまりに早く鋭い。冗談めいた威力とて全く笑えない。
「だが、こういうやり方は苦手らしい」
 光条を紙一重に避けたクロバが懐へ飛び込み、一閃。
 爆裂と共に加速する刃がクレイドルの堅牢な甲冑を切り裂いた。
 たしかに敵の一撃一撃は、クロバよりも早かろう。
 ほとんどのイレギュラーズにとっても避けがたいに違いない。
 だがそうした相手こそ、クロバのやり方にあっている。後退しながら次々に放たれる光条を前に、クロバは先読みでもするかのようにかわし、斬撃を叩き込み続けている。
(どこまで保つか、だが。やってみせるさ)
「これで最後よ、あとは――」
 巨大な晶獣を一刀に斬り捨てたシャルロットが、ファティマへと切っ先を向けた。
「堕ちた同胞よ。何故このような所業を成す?」
 無論、素直な回答など期待はしていなかった。
 けれど吸血鬼であり騎士でもある矜恃にかけて、問いたださずにはいられない。
「さあ? そう言われただけ」
 予想通りとはいえ首を傾げるファティマを、シャルロットは信じられないものでも見るかのように――
「永遠を生きる吸血鬼の有り様は、人の理とは大いに異なるはずでしょう?」
「……」
「臣下とて女王の盲信でなく、忠誠を示すものではないの?」
「……?」
「そもそも、アンタは幻想種だったんじゃない?」
 問えば、そこには素直に頷いた。
 だがどう考えても人格が捻れている。
 おそらくだが、『生まれたて』の吸血鬼がどの程度の認識や判断能力を有するかは、その成立過程そのもの次第ではあろう。だがこれではまるで盲信、ただの道具ではないか。
 これではカルト教団のやり口と違いはない。
 否、あるいは――それ以上の醜悪か。
 洗脳であればしかるべきプログラムによって解けるかもしれないが、この変質は――
(魂さえねじ曲げる、呼び声のような)

「血が花びらになり霧に蝙蝠と、色々器用で羨ましい事よ」
 ファティマの背後へ跳んだ咲耶が、手甲に仕込まれた刃で斬り付ける。
「是非拙者にも手品の種を教えて欲しいところでござるな!」
「……あなたも、そうとう」
 返すファティマの大鎌はあえて避けず、鎌が咲耶の防御フィールドを滑る。
「ファティマ、あなたも吸血鬼ならばリリスティーネやエルナトのことも知っているはずよね」
「……」
「この馬鹿馬鹿しい騒ぎに、あの子達が関わってることはもうわかってるのよ」
「邪魔するの?」
「ええ、見ての通りにね」
「ならそんなこと、二度と出来なくする」
「エルス殿っ、私が護るから好きなように動いて」
 素早く割り込んだレイリーが、ファティマの放つ魔弾を大盾でさばいた。
 マティ魔に生じる、小さな隙を逃さない。
「ありがとう、助かるわ」
 赤い闘気が炸裂し、エルスが大鎌を振るい抜けば、ファティマの腕へ花びらが舞い落ちる。
「貴女の戦う理由、聞かせてもらっていいかしら?」
 レイリーが問う。
 純粋に疑問なのだ。元々は浚われた幻想種――先程散ったデミ・リュンヌ達と同郷とも思える少女が、なぜ吸血鬼となり、なぜこうして戦っているのか。
「血を吸ってくれたから」
 レイリーの槍と大鎌が激突する中、ファティマはとつとつと語り出す。
 迷宮森林に現われた男達に、突如浚われたこと。
 この月の都へ連れてこられたこと。
 はじめは恐怖に怯えたこと。
 他の四人は友人であり、一緒に浚われたこと。
 そして血を吸われ、自分だけが『選ばれた』こと。
 最後にファティマという名を与えられ、彼女は忠誠を誓ったのだという。
「愚かね……本当に」
 エルスティーネが吐き捨てる。
「そこに疑問は、なかったわけ?」
 それでもレイリーは問うた。
 あまりに淡々としたファティマの物言いに、レイリーの声音は乾いていた。
 もしも嫌がっているなら、助けたいとも思った。
 もちろん望んで敵対するなら容赦はしないが、けれどそれでも悲しい顔をしているなら、助けたい。
 それが矜恃であり、願いでもある。
「わたしは眷属。偉大なるオルドヌングの姫君の御為に……おかしい?」
「レイリー、やっぱ妙に噛み合わねえ。ファティマ。アンタ、もうぶっ壊れてやがるのか」
 ミーナの剣がファティマを刻み、ただ美しいだけの――ゆえに奇妙な――花びらが舞い踊る。
「烙印、もらえばわかるよ」
「知りたくもねえが、そういう仕掛けって訳か」

 リースヒースもまた、無鋒剣を掲げ、祖霊の煌めきで仲間を癒やしながら思う。
(……幼き娘まで生の在り方を捻じ曲げるとは)
 飄々とした気配漂うリースヒースではあるが、やはり許しがたいと憤っている。
 ファティマが拉致された幻想種の奴隷だとするならば、この攻撃的な行動が本来の気質とは思えない。
 おそらく何らかの強制力を持って、変質をさせられているに違いなかった。
 しかしファティマや晶獣といった『この地由来』の者達はともあれ、気になるのは天義に伝承される『別タイプの吸血鬼』レディ・スカーレットだ。こちらは花吐くものと違って歴とした魔種であり、なぜ協力しているのか疑問がのこる。
(同盟か、惚れたか、取引か――)
 いずれにせよ何らかの『得』がなければ、手を取り合うなどあり得ない。
 ならばその得とは何なのか、さぐりをいれてみようではないか。
「無関係な御身がいるのは、欲するものがある故であろう」
「何か知りたげな様子ね。色男、それとも美女かしら。綺麗な人は嫌いじゃないわ」
 レディ・スカーレットが口角を上げる。
「それに纏う、濃密な死。興味深いわ、あなた」
「私はリースヒース、ただ旅の弔い人だが」
「ふうん、私はお客様。これは頼まれごとよ、ヒース。荒野の寂しいお花さん」
「なるほど、しかし型は違えど吸血鬼同士。互いに魔性ともなれば益なくば取引は成立しえまい」
「もちろんよ、私はこの子の子守りのため、これも頼まれごとではあるかしら」
「ところであの機械鎧は何なの?」
 アンナも問う。
「ああ、あれ?」
「貴女達のような吸血鬼が連れ歩くにしては雰囲気が浮きすぎてはいないかしら。もしかして趣味なの?」
 イナリの情報――厳密には杜の情報分析によれば、クレイドルは戦いながら、中に居る『何か』を育成する装置でもあるらしい。その戦いを補佐し、守護するために居るという訳か。
「一つぐらいヒミツがあってもいいじゃない?」
「深緑の経験でも、生かしたんじゃないか」
 クロバが続ける。
 イレギュラーズは深緑決戦の際に、他のクレイドルを相手に交戦している。
 退けられた以上は、そこに戦力を加算するというのは理にかなう。
 ではレディ・スカーレット自身の目的とは――
「やはり御身にとっては、魔の本懐への到達であろうか」
「――ご明察」
 つまり滅びのアークの蓄積こそが目的ということか。
 分かりやすい破滅主義者らしい。
「けれどその前に、どう楽しもうと私の勝手でしょう?」
「……さて、な」
「それでこいつの中身は、天使様ってところなんじゃないか?」
 光条を避け、すれ違い様に斬撃を刻んだクロバが嘯く。
 イナリなどの情報と合わせれば、天使のような何かを育成しているのだろう。
「目的は何だ。紅血晶――これがルベドであるなら賢者の石、つまり錬金術だろう」
 クロバが刃を走らせる。炸裂音と共に加速した剣が、クレイドルを十字に捉えた。
「伝承の魔種と吸血鬼が手を組み、まさか不老不死などお望みとは思えないが、答えて貰うぞ」
 手段も、目的も。この機械人形も会わせて、全てだ。
「賢い子達は嫌いじゃないわ、だから本当に残念――」
「気をつけて!」
 レディ・スカーレットの剣をいなし、即座に後方へ飛び退いたアンナが警告する。
 その瞬間、レディ・スカーレットの指が宙へ魔紋を切った。
「残念だけど、お別れよ」


 ――放たれた灼熱の火炎嵐が一行を襲う。
 だがものともせずに、流星の如く炎を切り裂いたのはライフルを構えたルナだ。
「てめぇらの好きにゃさせねぇ」
 その神速の弾丸がクレイドルの装甲を穿ち、その後部まで引き裂いた。
 おおかた、またデータでも持ち帰ろうという魂胆なのだろうが、やらせるものか。

「伝承にあった吸血鬼、ね。神を堕とせるか試してみるかね?」
「それって面白そうじゃない?」
 ミーナとレディ・スカーレットの剣が火花を散らす。
「こっちも忘れてもらっちゃ困るわ」
「――ッ!」
 突き込まれたアンナの剣がレディ・スカーレットの脇腹を抉った。
「やるわね、貴女。けれどお花じゃなくて残念だった?」
「大方、血を操るってだけなんでしょう」
「本当に可愛くないわね」
「流石にお前達はやりすぎだ」
 ミーナが踏み込んだ。
「種の存続以上の悦を求め、他種のあり方まで捻じ曲げたその報い、受けてもらおうか!」
 その剣がレディ・スカーレットを袈裟懸けに切り裂く。

 それからしばしの時間が過ぎた。
 一行の嵐のような猛攻は、今だ止まないまま。
 可能性の箱こそいくらかこじ開けたが、戦況は今だ優勢だ。
 魔種や吸血鬼、クレイドルは極めて強力ではある。
 だがこの状況ともなれば、多勢に無勢は否めなくなってきているという訳だ。
「あの中身にもしもの事があればお主も困るでござろう?」
 咲耶が問う。
「ええ、それはそうねえ」
 だがレディ・スカーレットは余裕げな態度を崩さない。
 虚勢か、それとも勝算があるということか。
「どうせこの場では深入りするつもりは無いんでしょ?」
 突如現われたイナリがその背を斬った。
「教会も天使のお供も居ないんだしね。サンプルは置いていくといいわ」
 そしてさらに剣を振り上げ、第二撃を刻む。
「分子の一片すら調べ尽くしてあげるからさぁ!」
「本当に、可愛くないわね。貴女達、良いでしょう」
「逃がすかよ」
「退くわ、ファティマ」
「……ん」
「リリスティーネに伝えなさい。次は貴女自身が来るようにとね」
 エルスが睨み、吸血鬼達は蜃気楼のように掻き消えた。


「気に入らねえな」
「全く。敵陣とはいえ、やはり厄介にござるな」
 ルナに咲耶が応じる。
 種も仕掛けもあるのだろうが、こうもあっさりと去られては面白くない。
「少し、ごめんなさい。向こうへ行っているわね」
「構わないさ、無理はしないでほしい」
 エルスは一人、仲間から離れた場所へ歩き、大鎌を支えに意識の平静を保つ。
 戦場に流れる血が、胸の内を掻き毟る。
 だがただの『ケダモノ』になどなるつもりはない。
 この戦いで、エルスはファティマと『血を流しあった』ことになる。
 だがこの様子では、かの烙印なるものは、おそらく自身にだけは効力を及ぼすまい。
 それが仕掛けの秘密、その一端となるのだろう。
「やはり『あの子』だけの考えではなさそうね」
 いずれにせよ、リリスティーネを問いただせばなるまい。
 だがその向こうにある結論は、どう転ぼうとも変わる事はない。
 事情も、考えも、目的も、ある意味では何一つが関係ない。
 エルスは『あの子』を、殺すのだ。
 そうしなければ、何も終わることはないのだから。

「やれやれ、こんな時にディルクは何をしてるのやら」
 シャルロットが肩をすくめる。
 おそらくあの宮殿に居るのだろうが、果たして。
 しかしこの吸血鬼達と出会ってから、自身との余りの違いに愕然とするばかりだ。
 あれらは人を食料としか考えていないのだろう。
 気分の暗澹たるや、失望などという言葉さえ生ぬるいと思える。
「破損パーツは回収しておくね、調査に回すから」
「それがいいでしょうね、」
 赤い鎧の欠片を拾い上げたイナリへ、アンナが返す。
 しかし天義に伝承される魔種が、ここへ来ていることもともかく、『イナリ達の敵』と手を組んでいるらしきことも気がかりだ。その敵は恐らく天義に拠点を置いているのではないか。
 昨今のリンバスシティやワールドイーター出現などの事件との関連性なども、疑えばきりがない。
「関連それ自体はあると思う、実行犯かは別にしてね」
 イナリも同意した。
 狂神はおそらく天義に居るのだ。姿を見せぬ冠位の、その残る一柱『傲慢』の特性を推測すれば、なんらかの恐ろしい事態も想定せねばなるまい。
「そうね」
 いずれにせよ、どちらの方面でも注意が必要そうだと思えた。

「やるせないものよね、こういうのって」
「……ああ、眷属か」
 レイリーにミーナが頷いた。
 本来であれば、ファティマは救われるべき被害者であるはずなのだ。
 迷宮森林で拉致され、血を吸われ、烙印を穿たれた。
 なのにそこには悲しみのひとひらさえ見えなかったではないか。
 あるのはただ、主への礼賛と服従のみだった。
「しかし、その有り様をねじ曲げられるとは」
 リースヒースの述べるように、ファティマは変質したに違いない。
 砕け散った少女達の残滓もそう述べた後、リースヒースは彼女等を簡易な儀式で、けれど丁重に弔った。
 どうやらファティマはなんらかの方法で、強烈な依存心のようなものを植え付けられたのだろう。
 やはり擬似的な反転に近いとも思える。
 しかし弱ったものだ。リースヒースの傷ついた腕からは血ならざる花びらがこぼれ落ちるではないか。
(――烙印、か)
 この身にとは奇っ怪にも思えるが。
 はてさて、徐々に吸血鬼へ近付くとされるその先へ、ファティマがあるのだとするならば。まるで心穏やかな話ではなくなってくる。
 まるで人が魔種へと墜ちる『反転』現象のようではないか。
「あるいは、それを擬似的に再現しようとしているとかな」
 呟いたクロバの言葉は苦い。
 だとすれば、一体何のためにそんなことを。
「……いいさ」
 何が秘されていようが、全ての疑問は力ずくでこじ開けるまで。
「次に会うなら、あの城だ」

成否

成功

MVP

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者

状態異常

なし

あとがき

 依頼お疲れ様でした。

 事件は複雑に絡み合い、けれど今は一つの目的へ向けて。
 MVPはもっとも危険な状況を切り抜けた方へ。

 それではまた皆さんとのご縁を願って。pipiでした。

●運営による追記
※リースヒース(p3p009207)さんは『烙印』状態となりました。(ステータスシートの反映には別途行われます)
※特殊判定『烙印』
 時間経過によって何らかの状態変化に移行する事が見込まれるキャラクター状態です。
 現時点で判明しているのは、
 ・傷口から溢れる血は花弁に変化している
 ・涙は水晶に変化する
 ・吸血衝動を有する
 ・身体のどこかに薔薇などの花の烙印が浮かび上がる。
 またこの状態は徐々に顕現または強くなる事が推測されています

PAGETOPPAGEBOTTOM