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シナリオ詳細

<カマルへの道程>エーニュよりの放浪者

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●群れよりはなれる
 エーニュ――幻想種の民族主義者たちの集まり。ありていに言ってしまえば『テロリスト』である。
 本来は深緑にて活動しており、深緑より『非幻想種を排斥し、幻想種によってのみ運営される体制を作りあげようとした』。
 それは、旧来の閉じられた深緑の再来となってしまう。現実に即さぬ過激な政策といえた。
 とはいえ、彼らがそのような極端な思考に染まったことも、決して責められることではないかもしれない。
 ラサの商人の悪意により始まった、以前のザントマン事件。幻想種を誘拐し、奴隷として売買を行ったあの事件にて、ラサ、あるいは非幻想種に憎悪や恐怖を抱くものが現れるのも仕方がなかったのかもしれない。
 エーニュの説明は、今はこの程度にしておこう。さて、ここに二人の女がいた。どちらもその見た目は、幻想種のそれである。
 服装は、緑色の軍服のようなものを着ていた。これは、エーニュの制服であった。
 二人の名前は、リリエルとララエル。双子の姉妹だった。かつて『奴隷商人ザントマン』によってさらわれ、悲しい目にあわされたその二人は、他者への恐怖と不安、そして忌まわしい過去を払しょくする手段を、非幻想種への攻撃行為に求めてしまっていた。
 ゆえに、エーニュに取り込まれた二人であったが――何故、二人は、このような場所を歩いているのか。
 砂漠である。カーマルーマ。吸血鬼たちの本拠地と化していた遺跡である。そこに置かれた転送陣の先より『月の王国』なる井空間へと向かうことができるのだが、今はひとまず、ここ、カーマルーマの砂漠での出来ことだ。
「結局」
 と、リリエルが言った。月のような、銀髪の女であった。
「私たちには、どこにも行く場所がないのね」
「私たちは」
 ララエルが言った。太陽のような、金髪の女である。
「どうしてこうなってしまったのかしら」
 二人は手をつないで、砂漠を歩いていた。その軍服のあちこちには、どす黒い血の跡がついている。二人の口元は血で汚れており、もしイレギュラーズたちがこの姿を見たならば、一目で間違いなく、『吸血鬼(ヴァンピーア)』であることに気付いただろう。
 そう、二人は『エーニュの闘士であり』、同時に『吸血鬼となってしまった』ものであった。完全な吸血鬼となったものの吸血衝動はすさまじい。二人はその衝動にあらがえず、同志と呼んでいた仲間たちを襲い、その血をむさぼった……。
 どうしてこうなってしまったのだろう、とぼんやりとつぶやく。エーニュでの日々は、つらいこともあったが、それでも居場所を感じていた。暗い希望とはいえ、そこに同じ傷を背負った仲間たちがいたのは確かだ。例えば、隊のリーダーである男は、同じく奴隷商人ザントマンに奴隷としてさらわれたものだった。その心の傷を持ちながら、リリエルとララエルを妹の様にかわいがってくれた男だ。彼の血は蜂蜜のように甘く、体に染みわたるようだった……嗚呼、あまりにもむごい感想が、心に浮かんでしまう。
「ラサのせいよ」
 と、ぼんやりと、リリエルが言った。
「ラサの商人たちが……ザントマンが。私たちを、誘拐しなかったならば」
「こんなふうになることは、絶対になかった」
 それは半分は正しく、半分は責任転嫁でもある。隊の仲間を襲い、その血を甘露のごとく飲み干したのは、間違いなく自分たちであり、自分たちの意思でもある……それがゆがめられていたのだとしても。
「これは、不幸でも、幸運かもしれない」
 ララエルが言った。
「私たちは、期せずして、力を手に入れたの。吸血鬼という、力。
 この力で、ラサに復讐を」
「そうね、ララエル。復讐を」
 リリエルが笑った。
 自棄になっていたのは事実だった。自分たちは罰を受けて、きっと死ぬのだろう。
 ただそれでも、確実に間違っていたとしても、そのやり場のない怒りを、八つ当たりのような復讐に費やそうとしてしまったことを、誰が責められよう……彼女らの心は、弱いままなのだ……。

●吸血姉妹迎撃
「エーニュの潜伏先を調べていたメンバーから報告がありまして」
 と、ファーリナが言う。カーマルーマへと集まったあなたたちローレット・イレギュラーズは、カーマルーマに潜伏しているエーニュのアジトの一つを調査する予定だった。
 だが、その先行調査を行ったメンバーから、「アジトは壊滅状態だった」と説明されたのだ。
「……手口から、彼らを襲ったのは吸血鬼と思われます。ただ、死体の数が足りないのです。
 潜伏先にいたとされるエーニュの兵士の数は20。肢体の数は18。二人足りません。
 それに、外へと続く、二つの足跡が残されていました。血の」
「つまり……二人が、出ていった。アジトから」
 仲間が言う。
「可能性として一番高いのは、二人の兵士が吸血鬼と化し、仲間を襲った。
 そして、外へと逃れた――」
 ということになるだろう。ファーリナの見解も、同じだった。
「となると、エーニュの危険思想をもち合わせた吸血鬼が野に解き放たれたことになります。
 あいつら、基本的にラサにはなにしてもいいと思ってますから、とんでもない事件を引き起こしかねません」
 エーニュ兵士の、ラサへの復讐心や敵対心はとてつもない。力を手にすれば、躊躇なくそれを振るいかねない。
「足跡の方角から、近くの都市に向かった可能性があります……が、皆さんなら先回りして、迎撃できるわけです」
 ファーリナの言葉に、あなたもうなづいた。
 吸血鬼たちの好きにはさせない、と、あなたはそう伝えるのであった――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 仲間を殺してしまい、さまよう吸血鬼。
 放浪の果てに、皆さんに出会います。

●成功条件
 リリエル&ララエルの撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●特殊判定『烙印』
 当シナリオでは肉体に影響を及ぼす状態異常『烙印』が付与される場合があります。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●状況
 皆さんは、カーマルーマでエーニュのアジトを調査する予定でした。しかし、そこはすでに何者かによって襲撃され、全員が殺されています。
 よく調べてみれば、エーニュの兵士の数が足りません。このことから、内部にいた二名の兵士が吸血鬼となり、仲間たちを殺して血を吸い、逃亡した……と予想されるのです。
 姿をくらませた兵士の名は、リリエルとララエル。双子の、20代前半ほどの女性です。美しい銀髪と金髪の姉妹でした。
 二人の事情(OPの前半部分の描写です)は、皆さんは情報屋から伝え聞いたということで知っていてもかまいません。
 いずれにしても、二人はもはや人類の敵ですし、ラサへその歪んだ復讐心をぶつけようともしています。倒すしかありません。
 作戦結構時刻は、夜。周囲は砂漠です。月明かりが充分ありますが、暗視や明かりなどを持ち込むとさらに優位に動けるでしょう。

●エネミーデータ
 吸血鬼、リリエル ×1
  銀髪の女性吸血鬼です。元々エーニュの兵士でしたが、吸血鬼となってしまったようです。
  細身の体ながら、膂力は吸血鬼と化したせいで怪物クラスになっています。特に爪は業物の剣のように鋭く、皆さんを容易に切り裂いてしまうでしょう。
  主に前衛としてふるまいます。ステータス的には、回避高めで、回避盾+アタッカーといったイメージ。『出血』系列などのBSにも警戒を。
  また、リリエルとララエルが隣り合って接触することで、特殊な攻撃スキルを使います。詳細は後述で。

 吸血鬼、ララエル ×1
  金髪の女性吸血鬼です。元々はエーニュの兵士でしたが、吸血鬼となってしまったようです。
  こちらは神秘攻撃を多用する後衛役です。血をモチーフにしたような、紅い魔術を使い、皆さんを苦しめるでしょう。
  BSなどもばらまいてきます。『毒』系列や『痺れ』系列、を付与し、『呪殺』を持つスキルも使用します。
  また、ララエルとリリエルが隣り合って接触することで、特殊な攻撃スキルを使う可能性があります。以下の通りです。

  スキル名:赤の沈丁花
   神・特レ・自域・HA吸収X
    二人を中心として放たれる、吸血鬼の魔力を暴発させたような強力な攻撃。
    周囲の血を吸いとる衝動。

   使われると面倒なので、うまく二人を足止めや誘導し、接触させづらくした方がよいかと思います。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <カマルへの道程>エーニュよりの放浪者完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年03月31日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
アト・サイン(p3p001394)
観光客
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す

リプレイ

●太陽と月と血と
「悪いが、俺は」
 しずかに、『探す月影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)はそういった。
 月下の砂漠だ。
 後背には、小さな町がある。
 名も知らぬ町だ。
 だが、確かに人の息づく町だ。
「奴らの事情とか、エーニュだとか……女であったともしても、しったこっちゃあねぇ」
 ルナが、そういった。
 敵は、吸血鬼である。そして、二人の、双子の女であった。汚染された、エーニュなるテロ組織の一員である二人は、吸血衝動にあらがえず、アジトにいた18名の仲間を殺して血を吸った。
 後に逃走。今は、イレギュラーズたちの後背にある街を目指して移動している。
「俺にとっちゃ、てめぇの身内が知らねぇうちに部族連中道連れに血吸い蝙蝠に成り下がって、しかも目の前で「守る」と決めた女を傷もんにされて烙印のおまけまでつけられた。
 奴等に関わるもんは全てぶっ潰して烙印の解除方法を知る。今の俺にとっちゃそれが全てだ。
 だから、そういうことだ」
 ルナは言った。自分は、容赦も何も持たないと、そう、宣言した。
「それでいいだろう」
 うなづいたのは、『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)である。
「それで、良い。何があろうと、何を想おうと――奴らは、既に人類の敵だ。
 そうなってしまったのだ。
 ならば、倒すしかあるまいよ」
「僕としても、それでい」
 続いたのは、『観光客』アト・サイン(p3p001394)である。
「別段、エーニュには『追っていた』以外の感慨はないけれど。
 それでも、つまらなくとも縁は縁だ。その立場から言わせてもらえれば、倒すしかない、というのには全く賛成だ」
「それにしても、本当にエーニュから吸血鬼が出たなんて……」
 『時には花を』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)が静かにつぶやく。エーニュとは、幾度か相対したことがある。あの、些か頭の足りなさそうなボクサーの顔を思い出した。彼もまた、吸血鬼になっているのだろうか? 別に好意を持っているような間柄ではないが、見知った顔が変貌を遂げているのかと思うと、いささか奇妙な気持ちにはなる。
「……エーニュ全体が吸血鬼になったら、大変なことになるよね?」
「そうだ。それはできれば、避けたいところだが……」
 アトがつぶやく。最悪の状況を考えるならば、吸血鬼にエーニュが乗っ取られる可能性だ。もとより憎悪を醸成させていた集団に、人外の力を与えればどうなるか――そうでなくても、時限爆弾のようなマジックアイテムを実用化して運用するような連中なのだ。想像するに難くはあるまい。
「……」
 フラーゴラも、押し黙るしかない。エーニュは危険な存在だが、その気持ちのようなものはわかるような気がした。特に、今回の、『双子』は。世界に押し付けられた、不意の理不尽と悪意。それに翻弄された二人は、結局こうして、敵意をぶつけるしかなかったのだろうか……。
「くるわよ」
 『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)が、静かに言った。
「そうね、沈丁花の香り。気づいてるわよね。きっと、あなたたちの好きな花だった。
 血の匂いに紛れて、感じるのよ。千里香――千里まで届くと言われる、沈丁花の香り」
 整えられた香りを、ジルーシャは合図の様に送っていた。双子への合図。ここにいるのだという合図。双子がエーニュの構成員のままであったならば、そのような『ここに敵がいるのだ』という合図に、寄ってくることはないだろう。だが、双子は……ここへとやってくるだろうという確信が、ジルーシャにはあった。
「沈丁花。
 花言葉は、栄光、不滅、永遠――」
 ジルーシャがそういった刹那、月下のもとに、二つの影が現れた。
 二人の、女だった。
 月のような銀髪の女=リリエル。
 太陽のような金髪の女=ララエル。
 ふたりの、吸血鬼だった。
「旅の果て、ね」
 リリエルが言った。
「素敵な香りをありがとう。故郷を思い出せた」
 ララエルが言った。ジルーシャが、唇をかんだ。
「憎しみの果てに鬼と成った姉妹、か」
 『滅刃の死神』クロバ・フユツキ(p3p000145)が、静かにつぶやいた。
「……リリエル、ララエル、お前たちの感情は否定しないさ。
 だからこそ、深緑(もり)とその他を繋ぎたい者として、俺はお前たちに立ちはだかる事になるのだろう」
「いいえ、だからこそ、深緑(もり)は閉ざされるべきよ」
 リリエルが言った。
「私たちを生ませてはいけないのだから」
 ララエルが言った。
『閉ざされた永遠に、深緑は生きるべきだった』
 二人が、そう言った。
 諦観と憎悪、悲しみと怒りの色がのせられていた。
「そうだよ。そうなんだ」
 『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が、悔しそうに言った。
「だから、ここで憎しみの連鎖は止めないといけないんだ。
 次のあなた達を誕生させないために……!」
 スティアは、切々とそう告げた。心から。手を差し伸べたいと思った。でも、そうはできないのだという理解は、そこにあった。
 倒すしかないのだ……ここで、二人の憎しみごと、消してやるしか、解決方法がない。
 それがつらかった。
「憐れで悲しい双子のおねーさん達」
 『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)が、少しだけ悲しそうに微笑んだ。
「その憎悪、今は私達に向けてください。全部受け止めてあげますから。少しでも、その焔が鎮まるように。
 私は、あなた達を始終慈しみましょう」
「ありがとう、かわいらしいお嬢さん」
 リリエルが言った。
「私たちの八つ当たり。少しだけ、受けていって頂戴」
 ララエルも言った。
 わかっているのだ、と、フルールは理解した。二人の末路、運命、そういったものを、二人はどうしようもないくらいに分かっていて、それでもやるせない怒りを、八つ当たりとしてぶつけることしかできないくらいに、まだ未熟なのだということも。
「――どうぞ、どうぞ。おねーさん達」
 フルールは柔らかく一礼をした。
 それが、戦いの始まりを告げる合図になった。

●双子、血、沈丁花
「相手は二人だ。連携をさせるなよ」
 アトがそういうのへ、仲間たちはうなづく。
「……香りが似てるのよね、二人とも。双子だからっていうんじゃない。何か……」
 ジルーシャが、構えながらそう言う。フラーゴラが、小首をかしげた。
「……なんだろう? 確かに、二人はあんまり、距離を取りたがらないみたい」
 その言葉通り――イレギュラーズと相対し、そして激闘を繰り広げる中でも、二人は『お互いの距離をとろうとしない』のだ。例えば、どちらかが前衛でどちらかが後衛ならば、前者が深く敵陣に切り込み、後者は距離を取ってそのサポートをするだろう。だが、二人はどうにも、その距離を取りたがらない――。
 いずれにせよ、もとより二人の連携を取らせるわけにはいかないのだ。相手の得手とするやり方を、むざむざそのまま実行させてやる必要はない。
「随分と仲が良い所に悪いが。間に挟まらせて貰うぞ?」
 挑発するように言いながら、汰磨羈は双子の間を分かつべく、その手を掲げた。途端、その手のうちから強烈な爆熱が生じる。プラズマ化した『マナ』は、一瞬のうちに収縮して、爆散! 強烈な衝撃波を以って、ララエルを吹き飛ばす!
「ララ!」
 リリエルが叫ぶのへ、しかしルナの強烈な銃撃がその足元に着弾、動きを止めさせた。
「させねぇよ。お前はもう、相方には接触させねぇ」
 ルナが再び、その古銃を構えた。ずだだだん! 連発する銃弾はでたらめに、しかしリリエルの動きを制限し、撃ち抜くような軌道を描いた。躍る死の銃弾舞踏。
「……!」
 リリエルは結局、その銃弾から逃れるために、ララエルから距離を取らざるを得ない。猛獣のごとく追従するルナの射撃をよけながら、リリエルはその手に鋭い爪を煌めかせた。
「邪魔しないで……!」
 リリエルが跳躍、その鋭い爪を振り下ろす! ねらうのは、スティアだ! 分断し、盾役とふるまうスティアが、リリエルにとっては最も邪魔な存在だった。
「貴女がいなければ――!」
 ぎゅう、と強烈な暴風とともに、その手が振り下ろされる。スティアが身構える――同時、胸のペンダントに飾られた指輪がほのかな光を放ち、守りの障壁を展開した。ばぢん、と破裂音を上げて、リリエルの爪がスティアの防壁をえぐる。
「何か……!? 優しい、感じが……!?」
 防壁から発せらえるエネルギーを理解しつつ、リリエルは地に落着した。その隙をついて放たれる斬撃を、リリエルは身をよじることでぎりぎりで回避して見せる。
「……つーかまえた!!」
 ぎり、と力を籠めつつ、クロバが再度斬撃を加えた。横なぎに振るわれるそれを、リリエルは人外の膂力で受け止めて見せた。ぎりぎりと、衝撃と痛みが、リリエルの体を駆ける――。
「復讐に生きた者として、お前たちに復讐を止めろとは言わない。
 だから、来いよ。
 お前らが抱えた憎しみも何もかもを全てぶつけるといい。
 正面から全て受けて立つぜ。……お前らの大嫌いな”異邦人”だ、思う存分恨みを込めろ!!
 そして――お前らを倒し、その妄執から解放する!」
 雄たけびとともに、クロバは刃を振りぬいた。衝撃に跳躍するリリエルが、激高するように叫んだ。
「何を……あなたたちのせいで、私たちは!」
 異邦人へのやり場のない怒りをぶつけながら、リリエルはまるで空中をける様に無理やりに軌道を変更した。そのまま落下するように振るわれた腕が、クロバの体を薙ぐ。
「ち、いっ!」
 激痛をこらえながら、クロバは再度斬りかかった――リリエルが、今度は跳躍して回避。スティアが叫ぶ。
「傷口は!?」
 異常はないか、との問いだ。クロバはうなづいた。
「『血が流れている』!」
「じゃあ、ひとまずは大丈夫……だけど、烙印でなくても、あの一撃は強烈だから!」
 スティアの指先が花弁を描く。烙印でこぼれるそれではない、スティアの、優しさと愛の花弁だ。仲間をいやすその花弁を受けながら、イレギュラーズたちは、二体の、恐るべき吸血鬼との戦闘の難しさを、改めて自覚させられる。
「ララエルおねーさん、こっちよ」
 一方、ララエルと激闘を繰り広げる、フルール、そして汰磨羈の姿がある。イレギュラーズたちの作戦としては、二人を切り離し、先にリリエルを仕留める算段だ。そのため、その間の抑えとして選出されたのが、汰磨羈とフルールの二人なのだが――。
「約束通り。受け止めてあげる」
「ならば……」
 ララエルが、その指に深く爪を立てた。ぷつり、と音を立てて傷口が広がる。その傷口からころぼれる赤の花弁。それは、沈丁花の花にも似ていた。
「受け取って見せて!」
 振るわれる腕。同時に、嵐の様に沈丁花の花弁が舞う。フルールが、静かに吐息を紡いだ。ひゅう、と巻き起こる蒼の炎が、沈丁花の花弁を丸ごと焼き払う。
「受け取ったわ。おねーさんの、悲しみ」
 悲し気にそういう。受け取った。敵意。憎悪。どうしようもないものを。
「そのまま抑えておいてくれ!」
 汰磨羈が叫ぶのへ、フルールはうなづいた。汰磨羈の瞬撃の刃が、ララエルの腕を切り裂いた。ば、と花弁が散る。それが、まるでホウセンカの種の様に、汰磨羈に襲い掛かった。とっさに受け止めた刃が、甲高い音を立てる。体に衝撃と痛みが走った。
「隙はない……いや、先ほどの花弁に比べれば、こちらは――柔らかい!」
 汰磨羈が、斬撃を繰り出す――ララエルが退いた。間髪入れず、フルールの炎が襲い掛かる! 一閃! ララエルは花弁をでたらめに振りまいて、それを炎に衝突させた。衝撃が巻き起こる。ララエルが、たまらず吹っ飛ばされた。
「……はぁ」
 鋭く呼気を吐く。ちらり、とリリエルの方を見た。遠い。こんなにも。いつも触れ合っていた手が――。
「ごめんなさい、おねーさん」
 フルールが声を上げて、汰磨羈が続けた。
「接触はさせんぞ――それでは、狙っていますと告白しているようなものだ」
 激闘に息を荒らげつつ、そういう。ララエルは、悲し気に微笑んだ。
「世界って、意地悪ね」
「そうですね」
 フルールが言った。
「とっても、意地悪」
 そう、言った。

●二人
「ねぇ、復讐じゃないことだったら何がしたかった?
 二人で綺麗な服を着て……街へおでかけ?
 考えてみて」
 フラーゴラが、戦場を駆けつつもリリエルにそうたずねた。揺さぶりであり、好奇心でもあって、憐れみでもあった。
「そうね……故郷の森で、二人で」
 リリエルが、その爪腕を振るう――強烈な一撃が、フラーゴラを切り裂いた。痛み。血が流れる。まだ大丈夫。
「特別なことじゃないの。いつも通りに、子供の時みたいに、森で過ごしたかった。それだけ。それ以上は、望まなかった、のに」
「狂ってしまったんだね……どこかで」
 フラーゴラが、悲しげにつぶやいた。痛みに顔をしかめる。右腕が、先ほどの一撃で熱と出血を伴っていた。
「フラーゴラ、下がった方がいい」
 アトが言った。
「……相手は化け物だよ。無理は禁物だ」
 化け物だ、と言った。入れ込むな、と伝えた。アトにとっては、入れ込むような正義感を持ち合わせてはいなかったが、フラーゴラがそう思ってしまうであろうことは、理解できていた。
「ごめん……」
 フラーゴラがそういってうなだれた。スティアの花弁が、それを労う、労わる様に降り注ぐ。
「……どうしてラサに復讐をしようとするの?
 そんなことをしても悲しい思いをする人達が増えるだけだとは思わないの?
 それに貴女が憎んでいる人達と同じになっちゃうよ」
 悲し気に、スティアがそういった。リリエルが、苦し気に微笑んだ。
「もう、そうしないと……壊れてしまいそうなの。
 だって、全部、誰が悪いわけじゃないのに。
 私たちは、こうなってしまった。
 誰かのせいだって、言ってほしいの。
 ただ、『あなたの運が悪かった』って、認めたくないだけなの」
 ただ、運が悪かった。それは、あまりのもその通りの言葉で、あまりにも残酷な言葉だっただろう。誰かが悪くて、そのせいでこうなってしまったのだと、そう、逃げたくなる気持ちも、わからないでもない。
「それでも……それでも……ダメなの。ダメなんだ……!」
 スティアが、そういった。世界の残酷さと理不尽は、スティアも理解していた。
「あなたは強いのね。うらやましい」
 リリエルが、その腕を振るってかけた。スティアを狙う。アトが追従した。
「残念だけど、これ以上はやらせない」
 銀の剣が、三日月を描いた。上空に打ち上げられるように放たれた一撃。リリエルが直撃を受けて、打ち上げられる――。
「血なんぞくれてやるよ、その代わり……全力でお前らを止めてやる」
 クロバが、跳びあがった。大上段から、両手剣を振り下ろす。リリエルも、ただ受けるだけではなかった。空中で身をよじって、クロバを迎え撃つ。
 斬。閃。
 一撃が、リリエルの体を切り裂いた。傷口から、無数の花弁が零れ落ちた。
「ごめんね、ララ」
 水晶の涙が零れ落ちた。リリエルがそのまま、どさり、と体を地面に落着させた。
 クロバがその後を追って、着地する。左腕の傷。そこから花弁を、漏らしながら。
「いいさ。背負ってやるよ」
 そう、つぶやいた。

「リリ……!」
 ララエルの瞳に動揺が走った。それを見逃すルナではなかった。
「血を飲みたい以外にも考えることがあるようだな……!」
 ルナが叫ぶ。手にした古銃から、銃弾が放たれる。雨あられの様に降り注ぐそれが、ララエルの足を止めた。
「悪いが、俺は加減も同情もしねぇ。
 アンタは、世界の敵だ。
 俺の、敵だ」
 正しき怒りを胸に、ルナは引き金を引いた。ずだん、という銃声。銃弾が、ララエルの腕を貫いた。
「……!」
 ララエルが、その傷口からこぼれる花弁を打ち放つ。赤の沈丁花が、ルナを、そして周囲にいたイレギュラーズたちを狙う。
「これ以上、罪を重ねないで……!」
 ジルーシャが、叫んだ。香りが、ララエルを包み込んだ。それは、開けてはならぬ禁忌の匣。それよりもれ出、破滅の匂い。
「あ……」
 でもそれは、故郷で嗅いだ香に似ていた。
 故郷の、森の、花の、匂いに。
 ララエルが、ジルーシャを見た。
 泣きそうな顔だった。
「……助けられなくて、ごめんなさい。アンタたちの仇は、アタシたちがきっととるから――どうか、ゆっくり休んでね」
 そうとしか、言葉を紡げなかった。ララエルが、静かに目を閉じた。
「終わらせてやれ」
 汰磨羈が、そういった。フルールが、うなづいた。
「生まれ変わったら、幸せになってくださいね」
 恨み言を受けるつもりだった。でも、それはぶつけられなかった。
 フルールの炎が、ララエルを貫いた。生命力を焼いた炎が、すっかり消え去った後に、ララエルは地面に横たわっていた――。

「……この子たち、故郷に返してあげられないかしら」
 ジルーシャがそういうのへ、アトが頭を振った。
「吸血鬼化の原因はわからない。
 ……死体に、魔法的であれ科学的であれ、烙印を付与する病原菌が眠っていないとも限らないからね。
 そう、簡単には」
 アトの言うことももっともだ。
「でも、今なら、二人一緒にいられるわよね」
 フルールがそういう。
「そうだね、今は、今なら」
 フラーゴラがうなづいた。
 今は、手をつないだ二人が、静かに、永遠の眠りについていた。

成否

成功

MVP

フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 今は、ふたり。

●運営による追記
※クロバ・フユツキ(p3p000145)さんは『烙印』状態となりました。(ステータスシートの反映には別途行われます)
※特殊判定『烙印』
 時間経過によって何らかの状態変化に移行する事が見込まれるキャラクター状態です。
 現時点で判明しているのは、
 ・傷口から溢れる血は花弁に変化している
 ・涙は水晶に変化する
 ・吸血衝動を有する
 ・身体のどこかに薔薇などの花の烙印が浮かび上がる。
 またこの状態は徐々に顕現または強くなる事が推測されています

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