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シナリオ詳細

<カマルへの道程>バーキ一家の、残された生命

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●拉致された一家
 グラオ・クローネの夜。ネフェルストに住む幻想種の一家が、サンドバザールへと迫り来る晶竜や外で暴れ回る晶獣達に怯え、居宅の中で身を寄せ合っていた。
「怖いよ……怖いよ……」
 まだ十前後であろう子供達が、父母であろう幻想種達に縋りつく。
「大丈夫だ。兄さんや姉さん達がいるだろう?」
 子供達の父である幻想種、ルダ・バーキが、縋り付いてきた子供達の頭を優しく撫でる。が、その声には不安が残っており、子供達を安心させることは出来ないでいた。
 ルダの隣では、妻のアリーナがしゃがみ込んで、何人かの子供達を守るかのようにぎゅっと両腕で抱きしめている。
「そうだぞ、父さんの言うとおりだ」
 家の入口の前では、幻想種にしては隆々とした体つきの長男アインが、弟妹達を安心させようとする。が、やはりその言葉から緊張は隠し切れていない。
 そんな最中、ドン! と入口の戸を蹴破って、如何にも悪辣な風体の傭兵達が入ってきた。
「おう、情報通りだ! ひいふう……十二匹!
 大漁だ! アンガラカはありったけ使っちまえ!」
 手槍で突きかかった次男ドライの攻撃をいなした傭兵が、仲間達に告げる。それを聞いた傭兵の一人が、いくつかの小瓶をバーキ家の家族達目掛けて投げつけた。小瓶からは白い粉がばら撒かれ、年幼い子供達も、青年に近い兄や姉達も、そしてルダやアリーナさえも、時間に差はあれど、次々と昏倒させられていった。
「ようし、ガキ一匹残らず、運び出せ!」
 かくして、バーキ家の家族は、一人残らず拉致された。

●月の王国、砂漠地帯にて
(何だ……ここは、何処だ? 
 そうだ、アリーナ! アイン! ソーン! ドライ! フィーア! ハムサ! スィッタ! エヒク! オーテ! ティシュア! ティオ!
 皆、無事なのか!?)
 月の王国、その砂漠地帯に捨て置くように転がされていたルダが意識を取り戻す。そして、一面の夜の砂漠と言う周囲の光景に寸時困惑した後、家族達を案じた。
(子供達は、大丈夫なようです。でも……私は、大丈夫と言えるのかどうか……)
(アリーナ! 如何して、お前の声が脳裏……に……!?)
 子供達の姿を確認して安堵したのも束の間、妻の思考が直接伝わってきたことに、そしてそうなったであろう理由を知ったルダは、驚愕した。
 自分の身体の右半分が、自分のものではなくアリーナのものになっているのだ!
(一体……何で……?)
 ルダが答えの出ない問いをしている間にも、子供達がすぐに目を覚ましてきた。
 十人の子供達は皆、ルダとアリーナが同一の存在にされていることに驚き、悲しんだ。何故、自分達の父母がこんな憂き目に遭わねばならないのか!
 だが、ルダとアリーナは自分達はこんな姿になってしまったが、子供達だけでも無事だった事を喜んだ。
 ――もっとも、その喜びも束の間のものでしかない。

 古宮カーマルーマの転移陣を抜けてきたイレギュラーズ達は、月の王国の王宮への橋頭堡を築くべく、砂漠地帯を進んでいた。そうしているうちに、グラオ・クローネの夜の時のように身を寄せ合っているバーキ家の家族達と遭遇する。
「あれは……ルダと、その家族かい!? ここんとこ姿を見ないと思ったら、まさかこんなことにね……!」
 イレギュラーズ達に同道していたローレットの情報屋『夢見る非モテ』ユメーミル・ヒモーテ(p3n000203)が、憤怒の表情を露わにして、ギリ、と歯を軋らせた。
 ルダをはじめとするバーキ家の家族がここにいると言うことは、ルダとアリーナが半々にされて一体とされていると言うことは――バーキ家の家族達は、間違いなく『博士』の実験に用いられて、偽命体(ムーンチャイルド)とされている。ユメーミルは、そう確信した。
(あれは……ユメーミルさん!? ……お、おい、何だ!? 身体が言うことを聞かない……!)
(イレギュラーズ達と、戦いたくなんて、ないのに……!)
 知己の姿と、共にいるイレギュラーズ達を確認した瞬間、ルダとアリーナの一つになった身体が勝手に動き、イレギュラーズと戦おうとする。それは、子供達も同様だった。
 表情で嫌がりながらも戦闘態勢を取るバーキ家の家族達に、イレギュラーズ達は困惑しながらユメーミルの方を向く。
「……アタシ達は、何が如何あれここを確保しなくちゃならないんだ。
 それに、偽命体にされたならもう長くは生きられない。――楽に、してやっておくれ」
 目の前の生命を、己の知己を救ってやれない無力感に項垂れつつ、力無い声でユメーミルは答えた。
 双方が距離を詰める間に、何処からともなく猛禽類の姿をした晶獣サン・ラパース達も飛来。
 あとわずかの生命を終わらせる戦闘が、始まろうとしていた。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。
 今回は<カマルへの道程>のシナリオをお送りします。
 立ちはだかるバーキ家の家族達と晶獣を倒し、月の王国への橋頭堡を築くべくこの一帯を確保して下さい。

●成功条件
 敵の全滅

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●ロケーション
 月の王国。王宮を遠く望む砂漠。
 環境による戦闘へのペナルティーはありません。 

●初期配置
 バーキ家
  ↑
 約40m
  ↓
 イレギュラーズ

 ※イレギュラーズ、バーキ家はいずれも一カ所に集まっているものとします。
 ※サン・ラパースはバーキ家の上を中心に、散開して飛行しています。

●ルダ・バーキ&アリーナ・バーキ ✕1
 拉致された幻想種、バーキ家の主人とその妻が博士によって1つに融合させられた、偽命体(ムーンチャイルド)です。左半分がルダの身体、右半分がアリーナの身体となっています。
 さらに吸血鬼とされており、魔種相応の戦闘力を有しています。その上、自身の意志に拠らず皆さんとの戦闘を強いられています。
 EXA判定の成否に関係なく、ルダの左半身の能力とアリーナの右半身の能力による行動が最低1回ずつ発生します。

●バーキ家の子供達 ×10
 ルダとアリーナの子供達です。長男から五男までと、長女から五女までの十人。
 いずれも、偽命体にされてしまっている上、ルダ&アリーナ同様、自身の意志に拠らず皆さんとの戦闘を強いられています。

・長男アイン 幻想種にしては筋骨隆々。盾持ち。
・長女ソーン 弓持ち。物理攻撃型。
・次男ドライ 槍持ち。物理攻撃型。
・次女フィーア 杖にローブ。神秘攻撃型。
・三男ハムサ 兄弟の中で最も筋骨隆々。盾持ち。
・三女スィッタ 細身で軽装。スピード型。
・四男エヒク 杖にローブ。神秘攻撃型。
・四女オーテ 斧持ち。物理攻撃型。
・五男ティシュア 8~9歳ほど。神秘攻撃型。
・五女ティオ 8~9歳ほど。回復型。
 
●サン・ラパース ✕10
 ラサに多く生息する、大型の猛禽類が変貌した晶獣です。
 非常に凶暴で、群れをなして人を襲います。
 飛行しており、能力傾向としてはスピード型です。
 手数は多くないですが、【移】で地上に降りて、副行動で空中に戻ると言うヒットアンドアウェイを一斉に行ってきます。
 攻撃手段は嘴や爪で、【出血】系BSが想定されます。

●ユメーミル・ヒモーテ
 そこそこの戦闘能力を有する、ローレットの情報屋です。
 装備を切り替えてタンク運用と近距離or遠距離の物理アタッカー運用が可能です。
 誰かがプレイングで指示を出せば、事前にそれに相応しい運用の装備をしていたものとして、その指示に沿うように戦います。この指示は、誰か1人が出せば十分です。
 特に指示が無い場合は、遠距離アタッカー運用で適当に支援射撃を行います。

●特殊判定『烙印』
 当シナリオでは肉体に影響を及ぼす状態異常『烙印』が付与される場合があります。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

 それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。

  • <カマルへの道程>バーキ一家の、残された生命Lv:30以上完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年03月29日 22時21分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
武器商人(p3p001107)
闇之雲
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
結月 沙耶(p3p009126)
少女融解
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

リプレイ

●バーキ家の家族を前にして
「俺の義娘と変わんねぇガキもいるじゃねえか……心底度し難えな」
 十一体の偽命体を前に、『老兵の咆哮』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)は腸が煮えくりかえらんばかりの憤怒を露わにした。バクルドは、どんなに同情を引く相手であっても躊躇なく殺す事が出来る。だが、幻想種のバーキ一家十二人が拉致されて、全員が偽命体とされた事実は、悪趣味に過ぎた。
「……家族残らず、か」
 重苦しい口調で、『闇之雲』武器商人(p3p001107)が言った。武器商人はこの惨状に、いささか憂鬱な気分を感じている。まして、彼らの中で最も幼い五男ティシュアと五女ティオに至っては、武器商人の義理の息子と年が変わらない。
「……さながら戦争のような雰囲気だが、放っておくわけにゃいかねえもんな」
 その感情を察して、『ラド・バウA級闘士』サンディ・カルタ(p3p000438)が声をかけた。
「博士とか言ったか……マジで人の国で好き勝手しやがって!」
 ラサ出身である『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)にとって、ラサに住まう幻想種達バーキ一家を拉致されてこんなにされたのは、同朋に手をかけられたも同然だ。それが、ルカの憤りをさらに激しいものにしていた。
「野郎は、必ずぶっ殺してやる!」
 『博士』への殺意を微塵も隠すことなく、ルカは叫んだ。
「……些か胸のすく話ではないな。確保のためとはいえ皆殺しなど……。
 ああ、でも……仕方ない、のか……」
「長くは生きられず、おそらくろくな扱いもされないことを考えれば……これも慈悲だろう」
 この場を確保するために、被害者であるバーキ一家を全滅させねばならない。『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)は、バーキ一家を救えないと言う諦念に項垂れながら、つぶやいた。それに応じた『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)の言には、「きっとこれが最善の選択だ」と信じたいと願う、そんな響きがあった。
(偽命体……そうですか)
 バーキ一家の偽命体を目にして、『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は自分がこの場にいる意味が理解出来た様な気がした。
「……今から、貴方達を救います。死と血を以って……その呪われた軛から。
 死血の魔女が、貴方達の魂を、血と共に奪い取り……未来へと」
 高まった魔力により金色に輝く瞳で見据えながら、マリエッタはバーキ一家に告げた。
(やれやれ……吸血鬼に眷属にされるわ改造されるわ……本当に、悲惨なことだ)
 『紅矢の守護者』天之空・ミーナ(p3p005003)は、微かに歯をギリ、と軋らせた。
「……私が、終わらせてやるよ。だから、最期に怒りをぶつけてこい!」
 そうバーキ一家に告げながら、ミーナは『死神の大鎌』を構えた。
 
●引き剥がされた護り
 バーキ一家は、一体にされた両親ルダとアリーナ、長男アイン、三男ハムサが、身を挺して家族を護る盾となった。さらに五女ティオが家族を強化して支援し、ルダとアリーナ、次女フィーア、四男エヒク、五男ティシュアが立て続けに熱砂の魔術をぶつけてくる。そこに長女ソーンが弓で支援射撃を行い、次男ドライ、三女スィッタ、四女オーテが白兵攻撃をヒット&アウェイで仕掛けてきていた。
 バクルドは、『クラシックライフルWカスタム』で回復役と思しきティオを狙撃した。弾丸が、生命を嘲笑う死神の如くティオに迫る。が、その弾丸は身を挺してティオを庇った長男アインに受け止められた。
「妹を守るのが兄の努めで当たり前、なんだろうな。だが、静かに眠らせてやるのが大人の役目なんだよ!」
 それは想定していたバクルドは、義腕から磁力による衝撃を発生させる。衝撃は、アインを弾き飛ばしてティオから引き剥がした。
 盾役が引き剥がされた今がティオに攻撃する好機と、ヴェルグリーズが走る。だが、二人の子を持つヴェルグリーズは、ティオに自分の子供達を重ねてしまっていた。ヴェルグリーズの脳裏に、子供達の苦しそうな顔や悲しそうな顔がチラついてしまう。
 如何してもそれに耐えられそうにないと判断したヴェルグリーズは感情を殺しながら、その速度によっていくつもの残像を発生させた。残像はヴェルグリーズの後に続き、質量を持つかのように次々とティオに斬りつけた。
(……うっ!)
 頭に流れ込んでくる、十一人分の「やめてくれ!」と言う思念に、武器商人は思わず呻いた。が、武器商人はバーキ一家の全員が死を迎える瞬間まで、思念を聴くことを止めるつもりはない。
 さらに、ティオの「死にたくない!」と言う末期の思念、アインの引き剥がされたばかりにティオを守れなかった事への悔恨、家族を喪った事への十人分の悲嘆が、武器商人の脳裏に流れ込んでくる。奔流のように押し寄せてくる思念に、武器商人は思念を返す事は出来なかった。
「さぁ、来い。君達の相手は、私だ」
 沙耶はバーキ一家へと駆け寄ると、戦いの鼓動を漲らせながら告げた。それに触発されて、アインとハムサ、オーテがギロリと敵意の篭もった視線を沙耶へと向けた。ルダとアリーナ以外による護りは、これで引き剥がすことが出来た。
「今夜は月もきれいだし、子供達の事は忘れて、踊ろうぜ! 踊り方わからないとかだったら、まぁ教えるからさ!」
 ダンスの招待状、告死のカードを、サンディはルダとアリーナに投げつけた。カードの角が、ルダとアリーナに突き刺さる。だが、ルダとアリーナはサンディの誘いには乗らなかった。
(――ち。子供達を護ろうとする親の愛は、強いってことか)
 「切り札」が通じなかったことに内心で舌打ちしつつ、サンディは子供達を護ろうとするルダとアリーナの想いを認めざるを得なかった。
「助けてやれなくて悪ぃな。俺を許すな。恨んでくれ」
 バーキ一家との距離を詰め、そのど真ん中に飛び込んだルカは、魔剣のレプリカを片手で遮二無二振り回した。その剣閃は一見乱雑に見えて、ルダとアリーナに護られたソーンとフィーア以外のバーキ家の家族達に着実に傷を刻んでいった。
「キミ達には、さっさと退場してもらおうかねぇ」
 武器商人はバーキ家の家族達の右側に出ると、その上の空中に散開しているサン・ラパースを集めにかかった。武器商人に見つめられ、声をかけられた時点で、四体のサン・ラパースがその声に、その意志に抗うことが出来ず、高度を下げて我先にと武器商人に襲い掛かった。
「待ってたぜ。一掃してやるよ」
 武器商人に集ったサン・ラパースを狙い、ミーナは死神の大鎌を連続して振るう。一見無造作に振られているように見える大鎌の刃は、確実にサン・ラパースの身体を捉えて傷を刻み込んだ。幾重にも傷を刻まれたサン・ラパースらは、もう長くは生き存えられそうにない。
「熱砂よ。彼の者らに絡みつき、その生命を奪い取りなさい」
 マリエッタの発生させた熱砂の嵐が、執拗にサン・ラパースへと絡みついていく。やがて熱砂を振り払う力さえも喪った四体のサン・ラパースは、全身を砂に覆い尽くされた姿となって、砂漠の砂の上に墜ちていった。

●ルダとアリーナの最期
 バーキ一家の子供達は、多少順番は違えども概ね幼い順に倒れていった。次々と斃されていく子供達に、弟妹達に、ルダとアリーナと兄姉達はボロボロと落涙し、口惜しそうな表情を浮かべる。だが、本人の意志が拒んでいるのが明らかであるにもかかわらず、バーキ家の家族の身体は戦闘を止めようとしなかった。
 バーキ家の家族の身体が戦闘を続けてくる以上、イレギュラーズ達もまた戦闘を止めるわけにはいかなかった。陰鬱な感情に苛まれながらも、次々とバーキ家の子供達を斃していく。その度に、ルダとアリーナと残された子供達の悲嘆は深くなっていった。
 サン・ラパースが全滅するとそのペースは上がり、盾役らしく頑健であったアインやハムサも、護りにあたっていたルダとアリーナを武器商人によって引き剥がされたソーンやフィーアも力尽きて斃され、残るはルダとアリーナのみとなった。
 ルダとアリーナは吸血鬼にもされたとは言え、多勢に無勢だった。さらに、自身の攻撃を強制的に武器商人に誘引されたため、武器商人以外のイレギュラーズ達にダメージをまともに与えられずに、イレギュラーズ達の攻撃によって深く傷ついていった。

 身体に多数の傷を刻まれ、ルダとアリーナの身体は生命の限界に近付きつつあった。子供達を全て喪ったルダとアリーナは、最早気力を喪ったかのように「うぅ、うぁ」と呻くばかりで、涙は流し尽くして枯れ果ててしまったようだった。
 だが、その身体はイレギュラーズに、もっと正確に言えば武器商人への攻撃を続けていた。武器商人はもう可能性の力を費やさねば倒れてしまいそうなほどの傷を負っていたが、必殺の気迫を込めた一撃でも受けなければ武器商人が倒れることはない。
 それでも身体の痛みはあるが、武器商人にとってはもっと堪える痛みがあった。それは、敢えて自分で選択したことではあるが、精神にバーキ家の家族達の思念が流れ込んでくることによる心の痛みだった。
 最初は、十二人分の思念が奔流のように流れ込んできていた。人数が減ればその分悲嘆は強く深いものとなったため、武器商人の心が受ける痛みはけっきょくは変わらない。
 現在ルダとアリーナの心に渦巻いているのは、悲嘆、絶望、諦観、そして子供達の後を追いたいと言う死への渇望。
「これは悪い夢だ。だからもう寝な、安心して眠りな。
 そしてお前さんらは俺を憎み恨めばいい、それをするだけの理由がある」
 静かな口調で告げながら、バクルドは片刃剣『明鏡雪鋼』でルダとアリーナに斬りつけた。邪道の極みたる殺人剣の一閃によって、ルダとアリーナの左肩から右脇腹にかけて新たに傷が刻まれると同時に、ブワッ! とこれまで以上に紅いサルビアの花弁が舞い散っていく。
「お前らをこんな姿に変えた原因だけは必ずぶっ殺す……! 約束だ」
 バクルドとは対照的に憤激を露わにしながら、ルカは魔剣のレプリカで殺人剣の一閃を放った。右肩から左脇腹を深く斬った剣閃によって、再度サルビアの花弁が大量に舞い散る。
(……すまないな。私にはこうしてあげる事しかできない)
 自分の不甲斐なさに申し訳なさを感じつつ、沙耶は盾『藍玉ノ翼』を構える。そして、目にも止まらぬ速度でシールドバッシュを仕掛けた。藍玉ノ翼を命中させた沙耶は、舞い散ったサルビアの花弁に包まれる。
「縁もゆかりもない私が言えた義理じゃねぇが、私は死神だ。
 ……来世でまた皆が家族として暮らせるようにしてやるから、安心して眠りな!」
 無数に残像を発生させたミーナの、死神の大鎌の刃先が、幾度もルダとアリーナの胸を抉っていく。その傷から噴き出すはずの大量の血の代わりであるかのように、無数のサルビアの花弁が勢いよく飛び散った。
(踊りには付き合ってもらえなかったけどよ、これで送るぜ)
 サンディは、片手を天に向けて突き上げた。するとサンディの周囲に猛烈な勢いの風が吹き上がり、その風は天に向けられたサンディの掌の上で球状に凝縮されていく。スーパー・サンディ・ボールだ。その風の球を、サンディはルダとアリーナに投げつけた。
 風の球はルダとアリーナに命中すると、ビュオオオオ! と猛烈な音を立ててその全身を包み込んだ。猛烈な風は刃となってルダとアリーナを斬り刻み、その傷口から噴き出たサルビアの花弁が吹き荒れる風に乗ってルダとアリーナの身体を覆った。
「この烙印を押し付けてくれた相手も……理不尽に貴方達を作り替えた者も……ええ、気に入りません。
 ですから、彼らに手痛い仕返しをするのを……しばらく傍で見守っていって下さいね?」
 マリエッタはルダとアリーナにそう語りかけつつ、血によって創り出した無数の武具を放った。その武具はルダとアリーナをぐるりと取り囲むと、一斉にルダとアリーナへと襲い掛かる。ハリネズミの針のように、ルダとアリーナは数多の武具に貫かれ、また新しくサルビアの花弁が舞った。
 さらにマリエッタは、もう一度血からなる無数の武具を創り出し、ルダとアリーナの身体を貫いた。
「待たせたねぇ……今、終わらせるよ。ヴェルグリーズ!」
「貴方達を救えなかったこと、子供達を救えなかったこと――俺達の無力と、恨んでくれていい」
 そうルダとアリーナに告げた武器商人は、距離を少し取ると、自身の精神力を弾丸へと換えて撃った。弾丸は、ルダとアリーナの心臓を通り、その胸を貫いた。その衝撃に身体が呆然と棒立ちになったルダとアリーナの首を狙い、ヴェルグリーズは『神々廻剱』の写しを振るう。
 同じ親として、ヴェルグリーズはルダとアリーナに申し訳なさを感じている。首を狙ったのは、一つにはもうルダとアリーナが苦しまなくていいように確実に終わらせたいという想い、もう一つはバーキ家の家族達を救えなかったことへの贖罪意識からだった。
 横薙ぎの剣閃が、ルダとアリーナの首を走った。一瞬遅れてルダとアリーナの首はゴロンと落ち、その断面からは今までになく大量の紅いサルビアの花弁が舞い散った。まるで、バーキ家の家族達の葬送花であるかのように。

●戦いを終えて
 戦闘が終わると、武器商人は脱力してその場にへたり込んでしまった。深手を負っており身体の負荷も大きかったが、それ以上に戦闘の間中バーキ家の家族全員の思念を受け止めた事による負荷の方が大きかった。
「……こんなことをした『博士』とやらを、俺は絶対に許さないよ」
「俺も、絶対に許せん。『博士』とやらの顎を砕いてから、この下らん行動の理由を聞いてやる」
 バーキ家の家族の遺体を一カ所に集めながら、ヴェルグリーズとバクルドは彼らを偽命体に変えた『博士』への憤りを共有した。だが、イレギュラーズ達は口に出さずとも、同様の憤りは抱いている。

 この場を確保したイレギュラーズ達は、陣地を構築するとバーキ家の家族達の遺体を伴ってラサへと帰還した。そして、遺体を同じ墓所に埋葬する。
(せめて、安らかに眠っていてくれ。胸糞な事した私が思うのも難だがな……)
 バーキ家の墓前で、沙耶が黙祷しその冥福を祈る。墓参した他のイレギュラーズ達も、同じく黙祷しバーキ家の家族達の冥福を祈った。

成否

成功

MVP

武器商人(p3p001107)
闇之雲

状態異常

武器商人(p3p001107)[重傷]
闇之雲
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)[重傷]
老練老獪
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)[重傷]
運命砕き

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。偽命体とされたバーキ家の家族は全滅し、この一帯は橋頭堡として確保出来ました。
 MVPは、バーキ家の家族全員の意識、感情を受け止めようとした点をポイントとして、武器商人さんにお贈りします。無茶するなぁ……(褒め言葉)。

 それでは、お疲れ様でした。

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