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シナリオ詳細

<鉄と血と>Gadray

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●六天は中天を噛む
 『麗帝』ヴェルス・ヴェルク・ヴェンゲルズが敗北し、『冠位憤怒』バルナバスが新皇帝の座を得て、冬が訪れた。
 フローズヴィトニルの到来と、その象徴となった欠片の回収。
 各勢力は各々が切り札を手にしつつあり、こと独立島アーカーシュの『ラトラナジュの火』はその照準を定めんとしている。
 不凍港の奪還を以て海洋王国からの強力を得、豊穣郷もまたこの局面に出兵を宣言。
 『帝都決戦』へと至る道は開かれ、バルナバスの権能により天に仰ぐ二つの太陽とともに、各勢力は進軍する。
 ――僭帝討つべし。

●その身、天を仰ぐ資格なしと知れ
「アンタがガドレーだな。領主サマとしての話は聞いてるぜ。……ったく、気弱な癖にあっちこっちにケンカ売って回った迷惑領主なんだろ? 俺達とも遊んでくれよ。それとも、『メイヤみたいに惨めに死ぬか』って聞けばよかったか?」
「そうか、メイヤは死んだのだったな。その場に卿も立ち会ったということか。卿から見てどうだった、メイヤは。惨めであったか」
「あァ、あんな惨めな死に方は見たこと無ェな。ああはなりたくねえもんだ」
 レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)と恋屍・愛無(p3p007296)を始めとしたイレギュラーズ達は、スチールグラード直下の地下通路内でその男と異形の集団を視認した。明らかな敵意を発散させるそれが、この先を通してくれることはあるまいと直感した。
 ガドレー・ハルキエフ――鉄帝の混乱初期に帝政派でありながら周囲に侵攻をふっかけ、その末に魔種となった配下メイヤの呼び声で反転した男である。
 若き領主として思慮と器の足りないところのあったその姿を覚えている者は最早少ないだろう。領民を捨て、新皇帝派にくだった彼はその後、戦場で猛威を振るい転戦を続けていると噂されていたが、しかしルベンでの戦闘以後、彼が地上で観測されることはなかった。何処に逃げたのか……或いは『逃された』のか、はっきりしていなかった。
 その彼が地下で網をはって待ち構えている。その意味を、愛無が気付かぬ道理はなかった。
「いよいよもって、お天道様に顔向けできなくなったのか。哀れだな」
「私もそう思うよ。優秀な部下を失い、天衝種を君たちの戦いであたら失い、メイヤが倒されたのだ、『これら』のことも精通しているのだろう? 前回と違って」
 愛無の毒舌に、しかしガドレーは裡の憤怒を抑えながらそのマントを翻した。胴回りにびっしりと張り付いた極小甲虫――天衝種ラースモールド。イレギュラーズを複数回に亘って苦しめたそれも、メイヤ戦においてその底が知れたものだ。
「面倒なことに変わり無いが、対処法がわかっていれば十分。今度こそ、倒してみせよう」
「この国の末路が、『現皇帝』がどうなろうと、まずは私は君達を足止めしてみせよう。これは、君達にとっての雪辱であり、私にとっての復讐だ。付き合ってくれるのだろう?」
 ガドレーは剣を抜く。
 最早この先、一歩も退かぬという決意を露わにした目には迷いは全くなかった。

GMコメント

●勝利条件
・ガドレー・ハルキエフの死亡、および敵対勢力の80%以上の撃破

●敗北条件
 ガドレー死亡前にイレギュラーズの過半数が戦闘不能に陥ること。

●ガドレー・ハルキエフ
 憤怒の魔種。ハルキエフ領の若き領主でありましたが、今般の混乱のなか反転しました(登場シナリオについては参照しない方が入れ込まなくていいんじゃないかな……)。
 理性的な言動をしていますが憤怒の魔種ですので、『怒り』に対しては割と引っかかりやすいところはあります。
 ……が、ラースモールドが張り付いているうちはコレをなんとかしないとそもそもBSが通りません。
 指揮統制能力が極めて高く、レンジ3以内の天衝種にEXF/CT/特殊抵抗の増加効果を与えることが出来ます(過去に隠密付与もしてきましたが、正面切っての戦闘なので今回はほぼ無意味です)。
 なお、この指揮統制は「ラースモールドには付与されません」。
 本人は経験を経て「HARD基準でも高めの戦闘能力」をもち、ことCTと抵抗はかなりの域に達しています。
 剣技によってレンジ0~3まで対応可能。【移】を伴う居合や【防無】、【出血系列】、【不吉系列(複数個)】、【呪殺】をそれぞれ伴う攻撃手段を持ちます。

●ラースモールド×無数
 全長10cm程度の甲羅状の外鋼を持つ小虫。これでも天衝種です。メイヤに取り付いています。
 高いEXFと相互に「かばう」を行い、ガドレーへの範囲攻撃・単体攻撃をシャットアウトします。
 が、これによりガドレーは機動と反応が落ち、【ダメージ(小)】を被っています。
 また、面積比にして半分程度引き剥がすと、再度ガドレーに対し「かばう」為には数ターンのインターバルが発生します(当然デメリットもこの間消滅します)。

●ゲシヒトスロッサー×3
 両手に斬馬刀に類する大剣を持った、2.5mほどの巨人です。
 その身丈と武器によりレンジ2までの「扇」や「範」レンジの攻撃を有し、ガドレーの直掩にあたります。
 怒りを受けやすいですが、個々に広く間合いをあけているので彼らを一網打尽に誘導するのはあまり期待できません。
 性能としてはHARDの雑魚としては物攻が高め。【ブレイク】を有します。

●ジアスムスクス×20
 天衝種の「苔」です。
 厳密には菌種と苔が混じったようなもので、人を喰う特性があります。
 能動的な攻撃はしませんが、戦場に散在し【神特特(自身よりレンジ2):毒系列、虚無(中)】の胞子を撒き散らします。
 HPはそれなり。移動しませんが、暗がりのなかで探すには少々骨が折れるでしょう。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <鉄と血と>Gadray完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年03月21日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇

リプレイ


「『戦争は数』とは、よく言ったものだが。此処まで戦力を揃えての迎撃か。鉄帝の地下は広い。無視して別なルートを攻めるのがベターだと思うが」
「でも、油断できる相手ではなさそうだ。尻尾巻いて逃げ切れる相手なのかい?」
「あの量の苔をやり過ごしても本命が来ます。ちょっと無理のある選択肢ではありますね」
「……だろうね。僕も君達も、人が好いことだ」
 『暴食の黒』恋屍・愛無(p3p007296)からすれば、果てなく広い帝都地下道、避けようと思えば避けられる戦いは多いはずだと考える。しかし『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)や『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)の指摘通り、撤退や回り道を選択するには目の前の男の殺意は激しく、周囲に散った苔の天衝種の脅威は無視し難い。なにより、『雪辱戦』という自分たちにとって耳障りの悪い言葉で挑発されてはいそうですかと引き下がるのは業腹にすぎる。結果として、自分達にとっても相手にとっても不退転の切掛となったのは必然だったといえた。
「何が復讐だ。領民の墓も作らず地下で燻っている身で高尚なことを語れると思うな」
「ガドレー……オイラはお前のことをよく知らないけどどうやら領主としての器じゃなかったようだね」
「器ではなかった、か。耳に痛い話だが事実だ。だがな、復讐を腐すのは適切ではないよ。『領民は私が殺した』。獣の君は、私が思うよりかは聡明だと見受けるが?」
 『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)の憤りも、『炎の守護者』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)の指摘も間違いなく正しいものだ。さりとて。正論がガドレーの心理を逆撫でしているのもまた事実。真実とは、正論とは、必ずしも『正しい』ものではないという実例であろう。自らが領民を殺した、と述べたときの目に宿った黒い輝きは、指摘したウェールですらもたじろぐ禍々しい熱を帯びていた。領民の血肉を踏みつけてまで至った場所が、その実日の下を歩けぬ証明になるという皮肉。
「一刻も早う前に進みたいところですが……仕方ありませんの。ここで倒して、後顧の憂いを断つとしましょう」
「僕は、あなたを知りません。でもきっとこの場ではそれでいいんでしょうね。そちらが退かぬというのなら全力でお相手させていただきます」
 周囲に散在する苔が敵の存在を感じ取り、活発に蠢く気配がする。『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)と『鏡地獄の』水月・鏡禍(p3p008354)の鼻先を掠めるように漂う禍々しいそれは、足を止めても、進んでも、等しく地獄に到達することを感じさせた。ガドレーは予断を口に出さぬ鏡禍の態度に満足気に口元を歪め、「全力で打ち払うとも」、と短く返した。
「……なにか言いたげだな。そんなに私は哀れに見えるか?」
「いいや。俺がとやかく言う話じゃねェ。どっちにしろ倒さなきゃいけねェんだからな」
「そうか。メイヤの仇とは言うまい。君達は我らが信念の敵だ」
 『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)はガドレーの部下を討った。メイヤという魔種は、過ちがあったのだろうと述懐していた。この男はどうなのだろうか? 道を外れたことに自覚的なのか、どうか? あるとすれば、何時から、何処からだったのか……聞いても応えてはくれぬだろう。彼は今、誤ったなどとは思っていないのだから。
「恨むなとは言わないが、キミに同情する気もないので手加減はしないよ?」
「怒り、恨み、敵意、逆境。そんなものが力になると考えるのは盛大な勘違いだ。強い者が勝つ、そして……実力に甘えた者から死ぬ」
 ゼフィラの言葉とともに、イレギュラーズが一斉に前進する。真っ先にハイペリオンを喚び出し攻勢に出んとしたゼフィラであったが、ミニペリオン達は非ぬ方向へと飛び立ち、有効打とはなり得ない。続けざまに振るわれた愛無の尾は正面に控えていた狩人を弾き飛ばし、ガドレーにすら届いた。胴に蔓延った蟲で受け止めたガドレーは顔を顰め、舌打ちひとつ。蟲がいなければ、動きが大幅に鈍ったことだろう。周到なことだ。
「まずは蟲を払いましょう。あまり、長丁場に付き合うつもりはありませんので」
「虫が尽きればこちらの攻撃も通りましょう。動けなくなれば、それまで」
 オリーブと支佐手の攻勢が重なり、ガドレーの体表の蟲を散らしていく。当人の戦闘能力はさておき、蟲は指揮を受けることも力を示すこともない。消耗品たるそれらは、能動的に動かぬ事で仮初の不死性を獲得しているが故に、確実な死と誘導に極めて弱い。
 次々と剥がれ落ちていくその有様は、一度対峙した者なら『なんと脆いのか』と感じるだろうか。無知であるがゆえの神秘性など、剥がれてしまえばそれまでなのだ。
「岩肌、足元……デカブツの斬馬刀にまで纏わりついてるのか!? 全部散らすのは無理だが、可能な限り吹き飛ばす!」
「蟲を蹴散らすのに……もうひと押しですか」
 ウェールは視界に入った苔を確認するが、厭らしいまでに細々と張り付いたそれらを全て把握することは困難と切り捨てた。それでも、届く範囲で吹き飛ばさねばならない。鏡禍は蟲の数があと一手で機能しなくなると悟るや、間合いに飛び込みガドレーの胴に繰り返し攻撃を叩き込む。面積にして三分の一程度まで減ったそれらが機能するには、幾ばくかの隙が生まれた。
「腹ァ見せたな。なら、あとは衝くだけだ」
「チッ」
 レイチェルは、解放直前まで練り上げた術式の出力を、即座に魔光に振り分けガドレーの喉を打った。乾坤一擲、千載一遇の好機を得たイレギュラーズは勝利への道が大幅に近づいた音を聞く。
 しかし。
「この間合いにいるということは、覚悟が出来ているか、受け止める自信があると――そういう判断でいいのだろうな?」
 ガドレーはその剣を大上段に、否、俗に言う蜻蛉の構えをとってゼフィラ目掛けて振り下ろす。蟲を打ち払うべく前進した彼女は無防備な状態でその一撃を叩き込まれ、蹌踉めく。咄嗟に前に出た鏡禍の視界を覆うように胞子が飛び交い、その背後では愛無とレイチェルを狙った狩人の猛攻をチャロロがしっかりと押し留める。彼は、鉄壁の守りを持つが故に仲間を庇う義務がある。いざとなれば、守りに転じる実力のある者は複数いる事実が心強い。周囲から噴出した胞子もまた、チャロロが受け止めることで少なくとも二人を万全な状態で守れている。戦局の突破口たりうる二人を欠かずして、優位に立った――イレギュラーズの手に、未だ勝機あり。


「言うは易し、とはよく言ったもので。虫がいない間に、その血をどれほど頂けるものか」
「成程、異形――だが、中身は驚くほど『人寄り』ということか。焦りが顔に出ている」
 愛無の一撃が、ガドレーの胴を縦に切り裂いた。頑強な肉の感触はあれど、血飛沫を上げたのは偏にレイチェルの一撃を初手で通せた成果だろう。確実に不利益を与え、此方が倒れる前に倒す。決意はしかし、そうせねばならない、という義務感と隣合わせだ。蟲の脅威はその死に難さにあるが、倒そうと思えば手段は多い。決して攻略法が少ない敵ではないのだ。とはいえ、何度も対処したくない敵でもある。
「全力で、叩き潰します」
「ここで凍えりゃあ、だいぶマシってもんでしょう。動かない指で、何ができますかの」
 オリーブと支佐手から放たれた攻撃は、ガドレーの体力を削り、動きを鈍らせた。地下とはいえ、冬のさなか。凍えは通常よりも遥かに『効く』だろう……両者の考えは誤りではない。そして、その猛攻は確実にガドレーを消耗させている。
 が、彼がなんのために直掩を置いたのかを考えれば、この状況はお誂え向きとすらいえた。狩人が猛攻を重ねるイレギュラーズ目掛け、横合いから強烈な一撃を叩き込むことで一網打尽とできるなら、己自身すらも囮にする。
 そして、倒せぬ相手を『敢えて無視する』。
 当然ながら、完全に無視すればチャロロが自由になる分イレギュラーズ有利だが、一体張り付いていれば軽々に場を離れることは不可能。四方から撒き散らされる胞子を受け止め苔を蹴散らし、狩人を処理しつつガドレーを討つ。
 多数の行動を同時に起こす必要があるなか、最初に膝をついたのはゼフィラだった。彼女の主火力は、そもそもが想定した隊列を崩さねば放てぬもので。ガドレーから受けた一撃の影響が、じわじわとその動きを阻んでいった。つまるところが、起点となるべき、守られるべき者が危地に踏み込む決断をしていたのがまずかった。
 ――そして、彼女と前後して倒れたのが鏡禍だった。
 その不死性と守りの硬さで以て、危険域に達した仲間を庇ったのは英断だった。ガドレーの前にあって、一度の失敗も許されぬ状況で彼はよく守った。が、ゼフィラ同様、ガドレーの斬撃を受けたことでじわじわと追い詰められ、立ち上がろうとした膝が屈した。運命を糧に立ち上がったところを狩人に叩き潰されたとき、彼の決意に罅が入ったのだ。
「また、蟲を纏いますか。しかし何度も同じ手を――」
 オリーブは、ガドレーを這い上がる蟲の姿を見咎める。攻略法は心得た、弱っているガドレーが幾許かの時間を得たところで倒すに支障なし。彼の冷静な計算では、少しの不利を覆せるはずであった。
「同じ手を使っても、先程と今では状況が違う。君達は思った以上に遅かったのだな」
 だが、状況が違うのはイレギュラーズ側も同じだ。ゼフィラが倒れた今、先程までの連携は望むべくもない。そして、剣を鞘に収めたガドレーはチャロロ目掛け、防御不能の斬撃を叩き込もうとした。
 その刃が、逸れる。すかさず剣を手元に戻した彼の視界の先には、レイチェルの憐憫の眼差しがあった。蟲が這い上がる直前に、彼女の術式が辛うじてガドレーの守りを貫き、その運命を歪めたのだ。
「……さぁ、領民の元へ帰ろう。堕ちる前のお前は良い領主だったンだろう?」
「帰れぬよ。彼等は天に、私とメイヤは揃って地の獄に行く定めだ。その前に、役割は全うしてからね」
「足を引っ張るのが役割だと!? 領民を――」
 レイチェルの言葉に自嘲気味に顔を伏せたガドレーは、続けて言葉を吐こうとしたウェールに、殊更に冷たい目を向けた。それは、一度ならず矛を交えた相手への……。
「君はそれ以上、何も喋るな。憐れむなとは言わない、理解しろともいわない。だが、訳知り顔の無知蒙昧がこの世で最も邪悪だと理解すべきだ」
 明確すぎて悲しみすら覚えるほどの、殺意。


「えーと二階級特進? させてやろう。軍人は死ぬと偉くなるのだろう? おめでとう」
「君達は叙勲されないのだったな。有難う。君達の首を掲げて討ち死にといこうか」
 ガドレー本人の動きの鈍さは、しかし蟲の防御能力を些かも鈍らせない。まともに喰らえば限界も見えた愛無の尾は、べったりと張り付いた蟲こそが効果のほどを証明するに至る。ウェールは思想のほどはどうあれ、苔の殆どを蹴散らすだけの働きを成した。少なくとも、ガドレーを倒せばこの状況は勝利に近付く。
「動きが鈍りましたのう! 蟲がいても限度というものはありましょう!」
「状況は確実に此方側が有利です。巨人とてもう虫の息といったところでしょう……惑わされませんよ」
 支佐手とオリーブはまず、ガドレーの蟲を引き剥がすことに注力する。レイチェルによって鈍った動きの上からなら、確実に当たると見越してのことだ。だが、ことここに至って、ガドレーは信じられない動きでそれらを躱した。死に瀕した上での命の煌きだとて、幾ら何でも動きが良すぎる。
「オイラはまだ戦える! レイチェルさんは絶対に守るから!」
「心強ェなァ。それじゃあ、張り切って二階級特進させなくっちゃあなあ、ガドレー!」
 レイチェルが無事で、戦う意思あらばチャロロが守る。少なくとも、彼の肉体は未だ倒れる程ではない。狩人の斬馬刀を受けようが、ガドレーの剣を受け止めようが。守ると決めたからには、立ち続ける義務がある。仲間達の士気は、守る者の背と立ち向かう者の言葉が引き上げるに相応しい。
 ガドレーの指揮の下で動く狩人達の攻勢は、ウェール、支佐手、そしてオリーブへと向けられた。敢えてチャロロとレイチェルから狙いを外したのは――『そういう』ことか。
「私が彼を膾にし、君に刃を届けるか。狩人の刃がお仲間を二枚におろすのが先か。そして君が、私を殺すのが先か……」
「絶対に通さねえぞ、ガドレー!」
「終わらせようぜ。お互いもう顔も見たく無ェだろ」
「尤もだ。これで……終わらせる!」
 一騎打ちの様相であれ、愛無とウェールが浮いた駒となっていた。
 つまり、勝ち目は十分にあった状況――そして。

 ガドレーは、剣を杖に立ち尽くす。ほぼ死に体、しかし命を首の皮一枚で残している。
 反して、イレギュラーズはその過半数の戦力を失い、狩人を残り一体まで仕留めた。
 後ひと押し。或いは誰かの命を犠牲にすれば先に進めたかもしれない。
 だが、その非情を選択するには彼等は余りに人間性が出来すぎていた。そして、あと一歩はイレギュラーズ達にもいえる。全滅しかねなかったのだ。
「私はここを通さない。私は君達を追い詰めない。残念ながら、二階級特進は……君達が去った後までお預けだ」
「それは残念だ。その頃には戦争も終わっている」
 愛無の憎まれ口を最後に、イレギュラーズは戦場から撤退する。
 背後で吐き出された長い吐息のあと、戦場には狩人の巨体がガドレーを守るように立ち尽くしていた。

成否

失敗

MVP

なし

状態異常

ウェール=ナイトボート(p3p000561)[重傷]
永炎勇狼
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)[重傷]
夜明け前の風
オリーブ・ローレル(p3p004352)[重傷]
鋼鉄の冒険者
鏡禍・A・水月(p3p008354)[重傷]
鏡花の盾
物部 支佐手(p3p009422)[重傷]
黒蛇

あとがき

 お疲れ様でした。
 結果は結果として、ガドレーはここで命を落したのは間違いありません。
 薄氷一枚を分けたのがなんだったのか、はリプレイに込めたつもりですので多くは申しません。ご武運を。

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