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シナリオ詳細

<鉄と血と>何もかも捨てておいで

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 あるところに。
 見目麗しい、ハーモニアの青年がいました。
 彼は村を護る力を磨きたいと森を飛び出し、鉄と剣の都へと足を踏み入れました。
 けれど、其れは余りにも無謀な事。
 法はあれども、力が正義。倫理なんてないそんな場所で未熟な青年を待っていたのは、暴力と理不尽の嵐ばかりでした。
 嵐は彼を潤すどころか、疲弊させていくばかり。

 ――どうして僕はこんな目に遭わなければならないのか?
 ――どうして、僕は強くないのか。

 青年は其の時初めて“怒り”を知りました。
 怒り、怒り、怒り。
 環境への怒り。他人への怒り。そして何より――強くなれない己への怒り。

 青年は耐えました。何年も、何年も。
 其れでも青年は強さに満足できませんでした。
 こんな強さじゃ足りない。もっと、もっと、強くなりたい。
 青年は怒り続けました。「もっと」が満たせない己に、ずっと怒り続けていました。
 そして、其の怒りはついに爆発し……青年をくるり! と、反転させてしまったのでした。

 怒りは喜びに。
 他人の力を奪い、己に怒りを向けさせる快感へと変わり。
 そうして――あらゆる武具と力を簒奪してきた魔種“ガルロカ”は生まれたのです。



 とある少女の魔種と話をしてから、ガルロカは地下を歩く。
 かつ、こつ、こつん。寒さからだろうか、硬化した土を靴底が叩く音は妙に警戒だ。

「そろそろだねェ、ガシュカ君」

 楽しみだねえ、とねちっこくガルロカは呟く。
 自分でもどうして彼にこんなに執着するのかは判らない。――いや、半分は判っている。彼が自分に向けてくれる怒りが、どうしようもなく心地良いから。
 かつて弄ばれて玩具のように捨てられて、怒りの果てに魔種になった己に、何か近しいものを感じているから。

 ――彼がもし、僕と同じになったら?

 そんな想像をする度に、ガルロカの背筋は歓喜に震える。
 一緒に並んで剣を振るえる? 違う。
 共にイレギュラーズと戦える? 違う!

 何の気兼ねもしがらみもなく、命を懸けて殺し合いが出来る!

「あぁ……あは……!!」

 だらしなく口端から涎を垂らしながら、ガルロカは歓喜に震えていた。
 ガシュカ君と殺し合いが出来る。ガシュカ君と斬り合って、互いに命を懸ける!

 今のガシュカ君は、ラド・バウという檻に、理性という檻に囚われた獣だ。
 僕が解き放ってあげなくちゃ。
 そうして自由になったガシュカ君と僕は、遊ぶんだ! 命尽きるまで!



「ガシュカ、今回アナタを呼んだのはほかでもありません」

 ミセス・ホワイトはいつもの部屋、いつもの窓の傍に立ち、そしていつもとは違う人物を見据えていた。
 ガシュカ。ラド・バウの闘士であり、記憶を失った男であり、そしてとある魔種と因縁深い人物でもある。

「アナタと因縁のある魔種――ガルロカがラド・バウへと近付いているという情報が入りました」
「……!」

 ミセス・ホワイトの喉笛すら食い千切りそうに剣呑だった其の瞳が、更に険を帯びる。各地の派閥が動き出した事で、鉄帝中心部に位置するラド・バウは一気に戦地の真っ只中となった。防衛に回っていたせいか、ガシュカの顔は鉄帝に異変が起こった最初に比べれば“良く言えば戦士の顔”になり、“悪くいえば剣呑”になった。

「……一人か?」
「天衝種を連れています。……アタクシが何を言いたいか判りますね?」
「イレギュラーズと共にこれらを撃破しろ、だろ。……俺一人じゃ対処しきれない」
「ええ。冷静に判断して頂けて助かります。……」

 とは言ったものの。
 果たして彼は本当に冷静なのだろうかと、ミセス・ホワイトはガシュカを改めて見る。自らの記憶を奪い、名前を奪い、そしてこれまで散々辛酸を舐めさせてきた魔種がのこのことこちらに向かっているというのに、逆に冷静過ぎやしないだろうか。

「――大丈夫だ、心配いらない」
「……」
「俺は確かに怒りを感じている。ガルロカという魔種を殺したくてたまらない。そして殺すなら俺の手が良いと思っている。だが、……万一俺が“ガルロカみたいになっても”、殺してくれる奴らがいるだろ」
「……アナタ」
「ミセス・ホワイト。心配は要らない。余計な心配は要らない、あんたはこれから避難民たちをどう動かすかだけ考えてくれればいい」

 ガシュカは静かに言った。
 余りにも静かだった。人は――過ぎた怒りを抱えると、こんなにも凪いだ表情をするものなのか。

GMコメント

 こんにちは、奇古譚です。
 力を奪って、記憶を奪って、怒らせて殺して殺して殺して。
 其れでも足りない。殺し合ってくれる誰かが欲しい。
 そんな歪んだ「怒りと快楽」がガルロカの原点です。


●目標
 魔種「ガルロカ」を撃破せよ

●立地
 ミセス・ホワイトが事前にガルロカの侵攻を掴んだため、ラド・バウへ向かう街道の一つに先んじて位置どる事が出来ます。
 或いはガルロカからしてみれば、先手を譲ってあげたのかもしれませんが。

●エネミー
 ガルロカx1
 改造天衝種xたくさん

 獣と人間を縫い合わせたような改造天衝種がいますが、はっきり言って雑魚です。
 一方、ガルロカは剣も魔法も扱う強敵です。
 天衝種ごとイレギュラーズに攻撃を仕掛ける事も厭いません。

●同行者
 ラド・バウ闘士「ガシュカ」が同行します。
 余りにも――余りにも静かな雰囲気を纏っています。まるで荒れる寸前の海のようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。


●EXプレイングについて
 ラド・バウ闘士の関係者がいた場合、天衝種の対処などを任せる事が出来るでしょう。
 ほかにも思う所があれば記載するなど、色々利用してみて下さい。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran



 此処まで読んで下さりありがとうございました。
 アドリブが多くなる傾向にあります。
 NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
 では、いってらっしゃい。

  • <鉄と血と>何もかも捨てておいで完了
  • GM名奇古譚
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年03月21日 22時07分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
冬越 弾正(p3p007105)
終音
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
彼女(ほし)を掴めば
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)
流星の狩人

リプレイ


 ――僕がそちらに向かってるって事は、もう君たちは掴んでるよね?

 ガルロカは、足取り軽くラド・バウへの道を暢気に向かう。

 ――先手は君たちにある。さて、何を仕掛けてくれるんだろう?
 ――強い闘士を連れて来るかな?
 ――何か罠でも仕掛けてくれるかな? 引っ掛かってみるのも面白いね。
 ――其れとも、僕を相手に馬鹿正直に向かって来てくれるかな?

 ――ふふ、どれも面白そうだなあ!

 ――君たちも判ってるんでしょ? もうそろそろカーテンコールなんだ。

 ――最後に立っているのはどちらか……ああ、例え其れが僕じゃなくても! 僕はきっと、望外の喜びと一緒に散るんだろう!



「ガルロカが来るって言うルートは此処だな?」

 『深き森の狩人』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)は生粋のレンジャーだ。故に使えるものは全て使うし、背を向けられているならば其の背を撃つことを厭わない。
 今回は手加減をしてはいけない相手。なら、密猟者用の危険極まりない罠も使えるという事だ。街道は少し開けているから、設置型のものは余り意味をなさないだろう。そう、効果的なのは糸を張ったり、そういう――

「みんな、この辺は危ないから気を付けてくれよな。逆に、危ない時には此処をこうして、こうだ。判るか?」
「成る程。敢えて罠を発動させるのですね」

 『紅矢の守護者』グリーフ・ロス(p3p008615)は興味深げにミヅハの作成した罠を観察し、其の説明を聞きながら頷く。そして……其の合間に罠設置の手伝いをする『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)の傍に立つガシュカを見た。
 …紅い。
 余りにも鮮やかな赤が、其の表情を塗り潰してしまっている。ガシュカがどういう顔をしているのかすら、グリーフには判らない。
 そしてガシュカの其の様子は、グリーフがギフトを使わなくとも仲間たちには伝わっていた。

「ガシュカ殿」

 何かを考えているのだろうか。
 ミヅハとヴェルグリーズを見つめるばかりで手伝わないガシュカに、『残秋』冬越 弾正(p3p007105)が声をかける。

「何だ」

 顔を上げたガシュカは、凪いだ瞳をしていた。其の奥に滾り燃え盛る怒りがある。弾正には、其の隣に立つスースラには、判る。
 成る程、確かに嘗ての己に似ているかもしれない。スースラは心中で思う。試合中に傷を受けたあの時。確かに己の頭を塗り潰したのは、怒りだったから。

「君はガルロカとは違う」

 弾正は言葉を選び、選び……そうして、紡ぐ。

「奴の策により君は何もかも奪われたかもしれないが、代わりに得る物もあったはずだ。これまで俺達と交流して、何かを掴んでいるとは思わないか」
「……」
「少なくとも俺は、……君の事を、共に死闘を掻い潜った戦友だと思っている」
「……俺は」
「直ぐに結論を出す必要はない、ガシュカ」

 言葉を紡ごうとしたガシュカを、スースラが止める。
 そうして示した。ガシュカに声を掛けようと、罠設置を終えたイレギュラーズたちが集まってきている。

「彼らの声を聴くんだ。そうして、お前自身が決めろ。……俺は確かに、ビッツの戦い方の前に破れ、闘技場に背を向けた。だが……其れを後悔はしていない。ビッツを責めるつもりもない。……お前もそうだ。後悔のないように出来れば、其れで良い」
「……スースラさん」
「少なくとも、直ぐに出した結論は後悔を呼びやすい。俺から言えるのは其れだけだ」

 ――スースラが弾正に目配せをする。
 助かった、と弾正が一度瞬きをすると、スースラは頷いて一行から離れて行った。彼は天衝種の対応に当たる。其の為に広範囲をカバーする罠の場所を確認しに行ったのだろう。

「ガシュカ殿」

 立ち上がって頬を伝う汗を拭う。
 そうしてヴェルグリーズは、剣らしく真っ直ぐにガシュカを見た。

「キミの気持ちは、今何処にあるのかな」
「……俺の、気持ち?」
「そうだ。キミはあの男――ガルロカへの怒りに覆われて、潰れてしまってはいないかい」

 ……ガシュカは視線を逸らした。
 そうでない、と言えるだけの自信がなかった。恐ろしい程心が凪いでいるのは何故なのか、判らない彼ではない。

「ガルロカはきっと、キミがあの男しか考えられないようにして、最後にはきっと――キミから総てを奪う気だ」
「……何で、俺に其処まで執着するんだろうな」
「其れは判らない。或いは、ガルロカしか知らない何かがあるのかも知れないけれど……でも、一つだけ言える」

 ガシュカがヴェルグリーズを見る。
 俺達がいる、とヴェルグリーズは言う。

「キミは一人じゃない。だから、ガルロカだけに意識を囚われないで。……俺はキミと一緒に戦いたい。キミがあいつから逆に全てを『取り戻す』ための戦いの手伝いを……したいんだ」

 ――グリーフは見た。
 ガシュカの顔を覆い隠すほどの赤が、僅かに薄れたのを。怒りと呼ぶべき其の感情が、僅かに揺らぎ……其処に穏やかな緑色が交じり入ったのを。

「別に怒るなとは言わないわ」

 歩み寄った『氷の女王を思う』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)が、其の光で出来た蝶の翼をはためかせながら言う。腰に手を当て、見上げて、笑う。

「散々酷い目に遭ったんでしょ? 其れで更に、だもの。でも其処の人の言う通り怒りで我を忘れたらダメ。 ……ガシュカに一つお願いがあるんだけど、良いかしら?」
「……? お願い?」
「私は脆い後衛なの。私を……私たち後衛を護って欲しい。勿論強制ではないけど……そうしてくれたら、お返しにあいつまでの道を切り拓くわ?」
「其れ良いね! ねえね、俺の事も護ってくれる?」

 『オフィーリアの祝福』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)が人懐っこく歩み寄って来る。だが其の心中は決して穏やかではない。ガシュカの雰囲気が少し変わっていると、真っ先に気付いたのはイーハトーヴなのだ。

 ――このまま、ガルロカの思惑通りにいかせて堪るもんか。

 そんな強い意志が、イーハトーヴの内側で渦巻いている。其れを隠して、にこりとガシュカに笑い掛ける。ガシュカは二人に僅かに戸惑ったような顔をして、……フードの裾を引っ張った。

「……俺に護られなくても、あんたらのほうが強いだろ」
「そんな事ないわよ。何なら腕相撲でもしてみる? ……なんて、そんな暇はないか」
「そうだよ! 俺はそもそもしがないぬいぐるみ職人だし! ガシュカが護ってくれるなら百人力だなあ!」
「待て、俺はまだ」
「宜しく~!」

 ガルロカの思い通りになんてさせない。
 ガシュカの心は、渡さない。
 イーハトーヴはそんな感情が思わず漏れてしまいそうになって、其の場を離れる。僅かに押し付けてしまうような言動になってしまったけれど、……其れでも。この言葉が彼を繋ぎ留める一端になれば良いと、思った。

「なあ、にーちゃん」

 『理想のにーちゃん』清水 洸汰(p3p000845)がガシュカを見上げる。
 ガシュカ、ではなく。にーちゃん、と呼ぶ。其の声は何処か不安げで。

「後で、オレの話聞いてくれる?」
「……今じゃ駄目なのか」
「多分、後の方が良いと思う。今のにーちゃんじゃ、……ううん、なんでもねー! 今日はリコもいるからな、俺もいっぱい戦うぞ!」
「たのしーといいナー。ねえ洸汰オニーチャン、そいつらとは一杯遊んで良いんダヨネ?」
「ああ! いっぱいいっぱい遊んでやってくれな!」

 其の姿を見詰めながら。
 イレギュラーズの姿を見詰めて、『ラド・バウA級闘士』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)は街道の向こうへと視線をやった。

 ――色々と大変そうだけど、おれは考えるのは苦手だ。
 ――だから、おれはおれのプリンと筋肉で戦ってやる!

「なあ! お前もそうだろ!」

 其の声は、ゆっくりと歩み来るガルロカと天衝種に届いたのかどうか。



「ああ、みんなお揃いだねェ。こんにちはァ、……初めましての人もいるかな?」

 暢気にそう語る美しい幻想種の男は、名をガルロカと言う。
 其の直ぐ傍ではスースラが踏み込み、己の役目を――ガルロカの周囲を舞う、人体と獣を混ぜたかのような天衝種を相手取っていた。

「ふっ……!」

 例え闘技場に背を向けども、戦いの場は闘技場だけにあらず。
 嘗て『斬鉄』と謳われた其の剣筋に一切の迷いはなく、例え人の頭に翼が生えていようとも、……例え人の四肢を備えた獣であろうとも、其の刀にて斬り捨てていく。

「アハハハッ! リコともっと遊んでヨー!!」

 対してこちらは非常に騒々しい。
 がるるるる、と獣が唸るような音がして、リコのマントの下から覗いたガトリング砲が次々と異形の天衝種を蜂の巣にしていく。

 其の間にマッチョが素早くガルロカを“観る”。
 グリーフの助けもあって、しっかりと……そう、しっかりと、マッチョは“観て”しまった。

「ッ!? こいつ! 見た目と中身が全然違うぞ!?」
「あ、僕の事見たァ? エッチィ」
「お前の中身はドロドロでグチャグチャだな……! ガルロカ! おれはマッチョ☆プリン!」

 ずびし、と人差し指を突き付けて、マッチョは名乗りを上げる。

「イレギュラーズの闘技大会でだって何度も優勝したことのある、ラド・バウのA級闘士! 色んな奴に何度も挑んで…戦って、勝って、負けて! 此処まで来た!」
「へェ……意外だなァ。君がA級?」
「そうだ! つまり、“おれは強い”! ――だから、ガルロカ! お前がガシュカと殺し合いがしたいっていうなら! おれが、それがせーりつするくらいまでお前を削ってやる!」

 ガシュカがそっちに行くんじゃない。
 お前がこっちに来い、ガルロカ!

 どおん、と音がする。
 ミヅハとヴェルグリーズ、そして弾正が仕掛けた罠が炸裂した音だ。其の閃光と爆風が、ガルロカの髪を揺らし……そして其の旋風に紛れて、ヴェルグリーズとガシュカが左右から仕掛ける!

「決着をつけよう、ガルロカ」
「ガルロカッ……!!」

 剣が二振り、閃く。
 ガシュカの剣が半分囮となってガルロカの気を引き、其れに気が付いたヴェルグリーズは――使おうと思っていた技をより攻撃的なものへと変えて、己への反動も厭わず仕掛ける。ガルロカの胸元が切り裂かれ、どろり、と青黒い血が流れる。

「……へェ……!! ガシュカ君、キミ……!!」
「ガシュカ殿!」

 同じ名を呼んだ二人の声に浮かんでいたのは、喜色だった。
 二人とも、奇しくも“ガシュカが敢えて囮を引き受けた事”に喜んでいた。ガルロカは、其の技術の向上を。ヴェルグリーズは、彼の理性を。

「……ガルロカ」

 剣を構え直しながら、ガシュカは静かに斃すべき敵を見据える。

「俺は、依頼を請けた。だから、……安易にお前への怒りに呑まれる訳にはいかない」
「……は? 依頼?」
「――俺には今、護るものがある」
「ラド・バウの事? そんなの別に、キミなんて」
「違う。……俺たちの後ろにいる人たちだ」

 ――私は脆い後衛なの。

 ――私たちを護って欲しい。

「俺は想像力に欠けてる。だから、ラド・バウを護るだなんてふわふわした事は言わない」

 ガシュカは剣を握り直した。其の剣は、ガシュカが記憶を失くしてから最初に持った剣だった。
 なまくらだった。だが、砥いで、砥いで、砥いで、此処まで来た。
 まるで俺のようだ、とガシュカは時折、其の剣に向かって呟いた事もあった。

「俺は確かにお前が憎い。俺から“ガシュカ”を奪ったお前が。だが、……其れは“護って欲しい”と言ってくれた人を放っておいていい理由にはならない」
「ガシュカ殿……」
「よく言ったわねガシュカ! 離れて!」
「……!」

 其の声に、ガシュカとヴェルグリーズは素早くガルロカから距離を取る。

「よう、中身がグチャグチャの色男さん」

 物陰から、ミヅハがきりり、と狙いを定める。
 幸いガルロカは“己を見ていない”。其れをミヅハは怒らない。寧ろ好機だからだ。凡々な俺は、こうして……仲間の攻撃に合わせてちまちま攻撃する方が合ってるってな!

「弱者でも強者を狩れるって事を今日は勉強しなよ」

 今日でカリキュラムは終わるし、お前を帰すつもりもないけどな。
 装着型(になってしまった)火砲から放った魔剣の如き一撃。其れは一瞬、確かにガルロカの意識を引いた。

「……!」

 ガルロカが目にも止まらぬ速さで剣を抜く。
 片手で抜いた剣でミヅハのティルフィングを弾いた其の様は、確かに只者ではなかったかも知れない。
 だが忘れてはならない。此処には8人と3人いる。例え象であろうとも、蟻の群れの前に斃れる事がある!

「四象よ!!」

 冷気を纏った子狼を友として、オデットが魔術を行使する。
 其れはあらゆる恵みが災厄として降りかかる魔術。ガルロカはティルフィングを弾いた其の剣を反転させ、見えざる魔の手を切り裂く。

「……! 切った!?」
「まだまだー!!! シミズコータ様、只今参上ってな!!」
「このまま一気に畳み掛けるよ! 俺の友達に、もう何もさせない!」

 洸汰が解き放つ大蛇の如き一撃を、ガルロカは剣で受け流す。イーハトーヴが更に気の糸を編み、たわませて波のように広範囲に解き放つ! 其れはスースラとリコ、そしてグリーフが相手取っている天衝種を切り裂き、ガルロカでさえ其れを避け切れず、髪を、頬を、腕を斬り裂かれていく。

 ――もしかすれば、の話だが。ガルロカの本性は人ではない可能性がある。

 ……そう言い出したのは弾正だった。だが、マッチョのエネミースキャンで其の仮説は真に近付きつつある。
 以前イレギュラーズをまとめて再起不能にしたという“黒い顎”。其れがガルロカの正体の一端であるなら……

「今の俺の全力で、叩き潰す!」

 弾正は一気に距離を詰める。更にガシュカとヴェルグリーズも。三方から迫る刃に、

 ……ガルロカは、

 笑った。


「届けぇぇぇぇ!!!!」

 先んじて気付いたのは流石A級闘士というべきか、マッチョであった。
 三方から切りかかった三人へと飛び掛かると、まずは最たる懸念であるガシュカの襟首を掴んで投げ飛ばす!
 思わず弾正とヴェルグリーズは、まるで一瞬にして入れ替わったかのようなマッチョへと視線を送った。

「マッチョ殿!?」
「来るぞ、構えろ!」


 ――ああ、楽しい、楽しいねえ。

 ――強者との戦いは、楽しい。

 ――楽しくて、……だから、負ける事は僕は許せないんだ。

 ――僕はね、強いんだよォ。



「誰よりも!! 強いんだよォォオオオ!!」


 ぐわん、と。
 オデットは。イーハトーヴは。そしてグリーフは。リコと、スースラは。
 黒い汚泥のようなものに呑み込まれるマッチョ、ヴェルグリーズ、そして弾正を見た。



「……ぶはっ!!」

 不意打ち避けの護り、其の鎖が事前にちくりと痛みで知らせていたお陰か。
 其の汚泥から真っ先に逃れたのは弾正であった。
 大地がある事を両足で確認すると、素早く他の仲間たちを助けにかかる。ヴェルグリーズの手を掴んで引き上げ、そして今度は二人でマッチョを抱える。
 そうして三人が見上げたのは――巨大な黒い影だった。

 ――僕は、つよい

 ――だれにも、まけない

 ――僕は、僕は、もう、うばわれない

 まるで呪文のように、呪詛のようにそう呟く……蛸によく似た多足の影だった。
 其処には幻想種の美しさは欠片もなく、まるで湧き出た泥のような腐臭を放っている。其の足に持った剣がぐるん、と振り回され、三者は頭を下げて躱す。

「多少は、ダメージを与えた筈だ……おれが反撃しておいたぞ……! はは、おちてきたな! ガルロカ!」

 マッチョは傷だらけながらも笑って、大丈夫だと二本の脚で立つ。
 ヴェルグリーズと弾正は頷き合い、それぞれ得物を確認すると異形と化したガルロカに対峙する。

「みんな、回復するよ。俺に任せてね」
「大丈夫です。援護します」

 イーハトーヴとグリーフが癒しを紡ぐ。
 優しい糸がほつれたぬいぐるみを縫い直すように、二人の術が優しく、ヴェルグリーズと弾正の傷を癒していく。
 そうして現れたガルロカの本質。其の異形の瞳が、イーハトーヴとオデットの前に立っていたガシュカを見た。

 ――ガシュカくん

 ――こっちおいでよ

 ――ねえ……キミも、僕とおなじだ……

「……違う」

 ――?

「俺は、お前とは違う。俺には確かに力がない。お前に記憶も、ガシュカも奪われた。けれど……俺は、得たんだ。新しい記憶を、新しい名前と、友を、得た」
「にーちゃん」

 洸汰が呟く。
 其れは、……小さな光だった。怒りに囚われていたガシュカには見えなかった、小さな光。だけれど、彼は掴んだ。新しい名。新しい記憶。新しい友。其れを、ガシュカは……掴んだ!

「例え記憶が戻らなくても、剣が戻らなくてもいい。俺はガシュカ……ラド・バウ闘士のガシュカ! 友と共に、お前を倒す!」

 異形は、動きを止めていた。
 其れは間違いなく隙だ。ガシュカが叫ぶ。

「ヴェルグリーズ!」
「ああ! 弾正殿、マッチョ殿!」
「判っている!」
「この世で一番を喰らえー!!」

 マッチョが仕掛ける。空へ撃ち飛ばす……とまでは到らないが、思い切り其の弾性がある身体を蹴り上げて連撃を撃ち込むマッチョは、其の名に反して確かにA級闘士であった。
 更に弾正が剣を振り上げた。一撃、二撃、三撃。其の銀閃は邪道を極め、確実にガルロカを死線へと導いていく。

「ガシュカにーちゃん!」
「ガシュカ!」
「ガシュカ殿!」
「中央を狙え!! 其処がコアだ!」

 ――俺は。

 ――後衛を護りきるつもりだったのに。

 ――みんなが、呼ぶから。

 ガシュカは微かに笑うと、駆けた。なまくらの剣が研がれるように、其の走りは鋭く。そうして友と、ヴェルグリーズと共に、……剣を!



「……ァ……」

 貫かれた。
 ガルロカは、ゆっくりと其の姿を泥へと変えて行こうとしていた。

「……ガルロカ」

 ガシュカは静かに見下ろして、呟いた。

「……俺とお前の違いは」
「……ァァ……」
「俺が“お前みたいにならないように”声を上げてくれる友が、いたことだ」
「……ヒ、ヒヒ……」

 ず、ず、ず。
 ガルロカが一振りの剣を取り出す。
 其れにガシュカは見覚えがあった。だが声を上げる其の前に、ガルロカの肢が其の両端を掴んで、

 ――べきん!!!

「!? 剣を……折った?」

 ガシュカの目的を知っている者たちは、もしやとざわついたが。
 だが、当事者であるはずのガシュカは何処までも静かだった。

「……持って行けよ」
「……?」

 何故怒らないのか、ガルロカには理解出来なかった。
 確かに“ガシュカ”を折ったのに。追い求めてきたものを、目の前で壊してやったのに。
 どうしてこの男は怒らないのか。

 なんで、この男は笑っているんだ。

 何故、何故、何故。
 其れを理解出来ないまま。
 ガルロカは静かに汚泥となり沈み、……やがて大地にも拒絶されるかのように、青黒い塵となって散って行った。

「……終わったな」
「ガシュカにーちゃん、……いいのか?」

 洸汰が問う。
 ガシュカは振り返り、慣れていないようにまた、笑ってみせた。

「言ったろ。俺はガシュカだ。其れで良いんだ」
「……にーちゃん」
「其れより洸汰。お前こそ、俺に言いたい事があったんじゃないのか」
「え」

 ある、というより、あった、という方が正しい。
 怒るななんて言えないけど、とか。
 ムカついてるのはガシュカだけじゃないんだぞ、とか。
 どうせなら皆でぶっ叩こうぜ! とか……あった、けれど。

「……忘れちまった!」

 其れは全部、ガシュカ自身の行動が吹っ飛ばしてくれたから。
 だから、洸汰は両手を後頭部に回して、にかっと太陽のように笑ってみせた。

「……俺こそ、皆に言いたい。……ずっと言ってなかったよな」

 俺の為に此処までしてくれて、ありがとう。
 これからも、どうぞ宜しく。

 其の言葉に。
 マッチョは体力を使い果たして横たわったまま。
 イーハトーヴはそんなマッチョの治療をしながら。
 ミヅハは使い終わった罠を片付けながら。
 オデットは子狼から彼に視線を移して。
 グリーフは彼の周囲を舞う優しい緑色を観ながら。
 弾正はスースラと並び立ち。
 洸汰は今度こそ、心からの笑みを浮かべ。
 そしてヴェルグリーズは一つ頷いて――笑みを浮かべ

「どういたしまして」

成否

成功

MVP

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛

状態異常

マッチョ ☆ プリン(p3p008503)[重傷]
彼女(ほし)を掴めば

あとがき

お疲れ様でした。
魔種ガルロカは斃れ、ガシュカは“ガシュカ”として生きていくことになりました。
ごめんなさいはいわない。
俺と一緒に戦ってくれた事を嬉しく思うから。
だから――ありがとうを、君に。
ご参加ありがとうございました!

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