シナリオ詳細
Bug's Life。或いは、Lost、Lost、Lost…。
オープニング
●Bug
商隊の護衛任務の帰りだ。
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107) の元に、1通のシステムメッセージが届いた。
『なんだい? これは?』
一見するといつも通りのR.O.Oからのメッセージである。例えばメンテナンスのお知らせだったり、新規アイテムの追加だったり、期間限定イベント開始の連絡だったり、エラーやバグの修正報告だったり、不具合のお詫びメールだったり……そんな類のメールばかりが届くのだが、今回はどうも様子が違う。
『ユーザー限定イベント だって?』
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107) および他数名に限定された、非公式イベント開始の連絡である。どうやら所謂“テストプレイ”に招待されたということらしい。
メールにはボタンが2つ付随していた。
▶『楽しそう』
『興味ない』
ほんの少しだけ迷った末に、縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107) は『楽しそう』を選択した。
瞬間、景色が歪む。
流れるように辺りの景色が作り変えられていく。
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の足元を、1匹の猫が横切った。
遠くに馬車が停まっている。馬車の前には、木箱を抱えたケンタウロス。どこかで見た覚えのあるシルエットだが、よくよく観察する時間さえ取れないまま、猫も馬車も消え去った。
時間にしてほんの10秒程度。
気づけば縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧 は、簡素な造りの家屋の前に立っていた。
木材と石材を組み合わせた建物だ。大きく掲げられた看板には『縺吶≠縺セ商会』の文字が刻まれていた。
建物は商館の1つだけ。
辺りには何も植えられていない畑と、馬2頭がいる馬房。それから古い馬車が1つ。建物や畑、馬房の周囲をぐるりと木の柵が囲んでいる。
そして、この上なく不可思議なことがもう1点。
柵の向こうには、どこまでも青い大海原が広がっていた。
「にゃぁ」
背後で猫の鳴く声がした。
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧が視線をそちらへ向けると、そこには少女が立っている。紫紺の髪に、頭頂部から伸びる兎の耳。
「また 君 か」
彼女の名前は、H・P・トロイと言っただろうか。
以前にも1度、逢った事がある。けれど、以前に逢った時とは少し様子が違っていた。
「にゃぁ」
「なぁお!」
「にゃん」
どういうわけか、トロイは猫のように鳴いている。そして、どういうわけか同じ声、同じ外見、同じ背丈の……つまりはトロイが、10人ほども商館の前に並んでいたのだ。
トロイは猫のように鳴くばかりで、何の言葉も発さない。
訝しむ縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧に答えをくれたのは、商館から現れた別の女だ。
「よぉ、この度は私(オレ)たちの招待に応じてくれてありがとよ。さぁ、こんな砂漠で立ち話ってのもアレだしな。商館の中に入ってくれよ。お茶でも飲みながら、のんびりと話をしようぜ?」
なんて。
嬉しさを抑えきれないとでも言うように、満面の笑みを浮かべてB・B・ウィルスはそう言った。
●Bug QUEST
――Bug QUEST:漂流物語、発生――
B・B・ウィルスからクエストの詳細を聞いた後、縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は数名の知り合いにメールを送った。
そうして集まったプレイヤーたちへと伝えられたのは、H・P・トロイとB・B・ウィルスから与えられた、奇妙なクエストの詳細だった。
システム経由で送られたメールには、以下の文面が記されている。
達成条件:商館島からの脱出
期限:30日以内
ルール:
①クエスト中は体感1時間ほどで1日が経過する。
②海には「作物の種」「木材」「モンスター」が漂流している。
③作物は畑に植えてから3日~5日で収獲できる。
④作物を出荷することで「木材」や「工具」といったアイテムを購入できる。
⑤長距離を航行可能な船を完成させ、島から脱出した時点でクエスト達成となる。
⑥H・P・トロイは労働力として利用できる。労働後は1日の休養期間が必要となる。
※「作物の種」何らかの作物の種。出荷することで「木材」や「工具」を購入できる。また食用にも適している。
※「木材」「工具」船を完成させるためには、これらのアイテムを組み合わせる必要がある。
※「モンスター」鮫をはじめとしたモンスター。畑の作物を狙って商館島へ上陸してくる場合がある。
※ロストしたH・P・トロイは復活しない。
「馬車は 役に立たない ねぇ」
なんて言って縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は肩を震わせた。
きっと笑っているのだろう。
今回のように不可思議な出来事など、きっと縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は慣れっこなのだ。
もっとも、巻き込まれるに至った者まで同じように考えているとは限らないけれど。
- Bug's Life。或いは、Lost、Lost、Lost…。完了
- GM名病み月
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2023年03月08日 22時05分
- 参加人数7/7人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 7 人
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参加者一覧(7人)
リプレイ
●QUEST START
空は快晴、波は穏やか
南から吹く風がほんのりと温かい。
「なんで労働!? 無人島で素敵なバカンスを楽しむ依頼じゃなかったんですか?」
青い空に『航空海賊忍者』夢見・ヴァレ家(p3x001837)の悲鳴が響く。
四方を海に囲まれた、至極狭い無人島だ。
流れて来る木箱や瓶、木材などに手を伸ばし『不明なエラーを検出しました』縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107)は、小さくため息を零すみたいな仕草をしていた。
『ヴァレ家、違うよぉ。正しくは サ バ イ バ ル』
30日以内に、無人島から脱出すること。
それが今回、縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧たちが参加しているクエストの内容である。そして脱出の為には、まずは資材を集めなければいけない。
海を流れて来る植物の種であったり、木材であったりがそれだ。
『……時間が、かかりすぎる』
近くに流れて来るものばかり集めていては、あまりに効率が悪い。
「この無人島、時間制限あるせいで余裕が無いんですよね。納期とか締め切りとか期限とか耳が痛くなるのです……」
『不転の境界』梨尾(p3x000561)ががくりと肩を落とした。拾い上げた小瓶には、作物の種が入っている。それを『きうりキラー』すあま(p3x000271)に渡している間に、梨尾の目の前を木材が通過していった。
「体感1時間で1日経過……となると、リミットまでは体感で30時間だから1日と少し。ちょっと無理をするくらいの気持ちでいけばいいかな?」
制限時間があるため、のんびりと遊んでもいられない。
『ツナ缶海賊団見習い』エクシル(p3x000649)は顎に手を触れ、チラと視線を背後へ移す。小さな家屋が1つ、馬房が1つ、そしてまだ何も植えられていない畑が幾つか。
「……いいかニャ?」
言い直して、エクシルは海から種の入った小瓶を拾う。
当面の目的は、畑に作物を植えて収獲することだ。だが、種の数が到底足りない。
『では……海に、入るか』
「エイラぁクラゲだからぁ泳ぐのは得意だよぉ」
このままでは埒が開かない。初期リソースが海から回収する漂流物に限定されている関係上、初速が何より重要だ。
というわけで『水底に揺蕩う月の花』エイラ(p3x008595)と縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は躊躇うことなく海の中へと跳び込んだ。海には危険な鮫が生息しているらしいが、多少のリスクを許容してでも、そうする方がメリットが多いと踏んだのである。
畑の傍に、ずらりとトロイが並んでいた。
風に揺れる兎の耳と黒い髪、瞳をきらきらさせながらすあまの指示を待っているのだ。
「トロイ達には半数ずつ2チームに分かれて、1日交代で働いてもらうよ! 三食おやつ付&1日置きにお休みなホワイト勤務。素晴らしい!」
「にゃぁ!」
「にゃー!」
「まぁーーぉ!」
すあまの指示を受けたトロイたちが、敬礼の姿勢を取って早速仕事に取り掛かる。まずは畑の土を掘り返して、畝を作るところから作業開始である。
満足そうにトロイたちの仕事を眺め、すあまは空へ視線を向けた。
「うん。いいお天気だし、きっとすぐに作物も大きくなるよね」
「いい天気なのは間違いないが……このまま飛べばそのまま脱出できるのでは?」
種の追加を運んで来たのは『悪食竜』ヴァリフィルド(p3x000072)である。すあまにつられて空を見上げたヴァリフィルドは、ふと思いついて自分の翼を動かした。
ふわり、と体が宙へ浮く。
問題なく空も飛べそうだが……。
「多分それはきっと気にしてはいけないのであろう、うむ」
結局、翼を停止させヴァリフィルドは地面に着地した。
●2日目~
QUEST開始から2日目。
夜明けと共にエイラと縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は、海の中に飛び込んでいた。
だが、作業開始からしばらくしてエイラがピタリと泳ぐのを止めた。
「何か、来たねぇ」
『……鮫、かな』
海の中は暗かった。
けれど、正面から迫る確かな威圧感を感じる。
まだ距離はあるが、鮫の影が見えているのだ。
「素材集め時はぁ無理に相手する必要ないからぁ。逃げるが勝ちだねぇ」
近くにあった種の小瓶を触手で掴むと、エイラはくるりと踵を返す。
「来た! 鮫が来たにゃ!」
そう叫んだのはエクシルだ。
次の瞬間、海の中からエイラと縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧が陸地に上がる。数秒遅れて、2つの首を持った鮫が追って来た。
獣のような四肢がある。鋭い爪で地面を掻いて、まっすぐにエイラへと襲い掛かった。
「畑まで来れるなんてすごい鮫だ。捕まえて労働力にできるかな。トロイどう思う?」
「にゃー」
「え、ウサギと鮫はいなばな天敵? そっかー」
10人のトロイを引き連れて、すあまは急いで小屋へと逃げた。逃げるすあまとトロイたちを庇うように、ヴァレ家と梨尾が武器を手にして鮫の前に立ちはだかった。
「うーわー」
間延びした悲鳴はエイラがあげたものである。
鮫はエイラの胴を噛むと、その体を空へ向かって投げ捨てる。ぶちぶちと肉の千切れる音がした。
そうしながらも、鮫はもう片方の首を左右へ振り回し、梨尾とヴァレ家を牽制する。
「あー! 畑の方に向かってるのニャ!」
「問題はない。我が止める」
ごう、と空気が激しく唸り、エクシルの頭上を巨大な影が通過した。
広げた翼を折り畳み、矢のような速度で2頭の鮫へ襲い掛かるのはヴァリフィルドだ。鋭い爪を剥き出しにして、鮫の首と前肢を押さえる。
奇襲に驚いたのだろう。鮫はがむしゃらに藻掻くが、ヴァリフィルドの爪はその程度では外れない。
『サ”ァァァァァメ“!!』
「グゥルルァァ!」
咆哮が響く。
まるで怪獣同志の戦いだ。
鮫が藻掻き、ヴァリフィルドがそれを押さえつける。その度に激しく地面が揺れた。
と、その瞬間だ。
鮫の脚に、錨の形をした炎が巻き付いた。
「引っ張ります!」
「トドメはお任せしますねっ!」
梨尾とヴァレ家が、炎の錨を引っ張った。姿勢を崩した鮫が地面に倒れ込み、ずるずると引き摺られていく。
その先にいたのは縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧だ。頭からすっぽり被った布の内から、異形の腕を前へ伸ばすと鮫の頭部を鷲掴む。
ミシ、と。
骨の軋む音がして。
次の瞬間、縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の爪が鮫の頭蓋を突き破り、脳を深く抉るのだった。
エイラが【死亡】した。
鮫に噛まれた傷と、落下ダメージが大きすぎて治療が間に合わなかったのである。
1日後にリスポーンするとは言え、初速という意味では大きな損失だ。
だが、悪いことばかりではない。
「そろそろお腹が空いたでしょう? 拙者、お料理してきますね!」
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の手によって、鮫の遺体は食用肉へと変えられたのだ。トロイたちが肉に群がっている辺り、きっと食用に適しているのだろう。
「お手伝いするニゃ!」
「あ、いえいえ、お手伝いは大丈夫ですよ。拙者に働かせて下さい!」
エクシルの手伝いを断って、ヴァレ家が肉を抱えて小屋の方へと駆けていく。
それから暫く。
空が暗くなる頃になって、ヴァレ家はこそこそと畑の方へ移動した。
ヴァレ家の手には焼いた肉。香ばしい香りに引き寄せられて、トロイたちが集まって来る。
「ご飯できましたよー! 1食500…いえ、1,000Goldです! お酒との現物交換でも構いませんよ!」
「にゃー……」
「うにゃぁ……」
「なぁお……」
ヴァレ家の前でトロイたちが項垂れている。
トロイたちは金銭をはじめとした私物を有していないのである。
と、その時だ。
カンカンと、鍋の蓋か何かを叩く音が響いた。その音に反応し、小屋の中からすあまが飛び出して来た。
「横領! おーうーりょーうですにゃー!」
警報を鳴らしたのはエクシルだ。
すあまに従う金属鎧が、ヴァレ家を地面に押し倒す。その手から零れた鮫の肉に、トロイたちが群がった。
「こらー!」
すあまが怒った。
「ぐわー、良いじゃないですか! お互い納得した上での正当な取引なんですよ!?」
「いいわけないでしょー!」
横領は犯罪である。
4日目。
畑には、山ほどのきゅうりが実っていた。
否、それはきゅうりではない。形は確かにきゅうりなのだが、アイテム名は「きうり」と表示されていた。
「なぜ“きうり”なのでしょうか?」
馬鋤を引き摺りながら梨尾が首を傾げる。
一方、縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は“きうり”を手に取り、内心で「あぁ、なるほど」と呟いた。今回のQUEST発注者であるトロイとウィルスとは、以前にも1度、逢った事がある。
建物に掲げられた看板には『縺吶≠縺セ商会』……文字化けを解けば「すあま商会」と読める……にせよ、畑から取れたきうりにせよ、以前に遭遇した際の情報を基に構築されたことは明らか。
『でも、これで工具が得られる』
「だニャ。でも、工具は作物と交換でしか手に入らないみたいだから、足りなくならないようにしたいニャ」
梨尾が畑を広げているが、そこからきうりが収獲できるようになるのはまだ少し先のことである。それまでは、今回の収穫分で凌がなければいけない。
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧はきうりを「食用」、「交換用」、「栽培用」の3束に分けると、そのうち1つをヴァレ家へと手渡した。
10日目、夜。
空には黒い雲がかかって、辺りを風が吹き荒れていた。
濡れるのを嫌がったのか、トロイやすあまは建物の中に籠ったきりだ。だが、嵐の夜でも休業とはいかないのが悲しいところ。
例えば彼女、エイラなどは雨に濡れることも構わず、畑の傍に立っていた。
エイラの体が眩く光る。
畑の傍にしゃがみ込んで、きうりに話しかけているのだ。
「エイラはぁ、天候によるペナルティも受けないからねぇ」
エイラだけではない。
休憩しながらトロイの管理を行うすあまと、きうりの交換を担当しているヴァレ家を除く全員が、嵐の中で畑の拡張や海から迫る鮫の警戒に当たっていた。
「……んん?」
エイラの耳に、何か重たいものを引き摺る音が届いた。
ずるずる、ゴトゴト。
断続的に響く音は、どうやら建物の中から聞こえているらしい。
エイラは建物の方へと向かう……けれど、しかし。
「竜巻ですニャー! 竜巻の中に鮫がいるニャー!」
「海からもゾンビみたいな鮫が来ています! そちらは自分が!」
エクシルと梨尾が、鮫の襲来を告げる。
同時刻。
薄暗い部屋の片隅に、木箱へ話しかけるヴァレ家の姿があった。
「ちょっとお高いですね……そうです、こうしませんか? もう少し値引きしてくれたら、1ヶ月後に拙者達の農地をお譲りします!」
箱からの返事は無い。
ヴァレ家の傍には収獲されたきうりの箱と、すあまの連れている全身鎧“ラダ”がある。
「どうでしょう、win-winな取引だと思うのですが。今ならなんと、この高級全身鎧も付きますよ!」
木箱からの返答は無い。
それでもしつこく工具の値引きを迫るヴァレ家の様子を、扉の影に隠れてトロイが凝視していた。
「にゃぁー……!」
驚愕。
トロイは足音を殺し、そっとその場を立ち去った。
「では、ラダを送りますね! いいですか。帳簿に付けちゃ駄目ですからね!」
どうやら木箱との交渉は成立したらしい。
ヴァレ家がラダを、箱の中へと放り込もうとした瞬間……。
「ぎゃーラダはダメ! 非売品です! イメージ図です! 販売終了しています!」
駆け込んで来たすあまのキックが、ヴァレ家の側頭部を抉る。
助走を付けて叩き込まれた渾身のドロップキックには、流石のヴァレ家もたまらない。
11日目。
昨日は、エクシル、梨尾、ヴァレ家の3人が【死亡】した。どうやら畑の拡張に伴い、襲って来る鮫のレベルや数も増しているらしい。昨夜の終わりころに現れた鮫などは、なんと首が3つもあった。
3人がリスポーンするのは夜まで待つ必要がある。けれど、代償として畑のきうりは守り通せたし、交換によって『船の設計図』が手に入った。加えて、鮫を解体して得た肉もある。
『木材は、まだ足りない。船の建造にも時間が、かかる』
先に交換した工具セットを使えば、船の建造を開始することは出来るだろう。
現在の畑の広さと、得られるきうりの量、そして流れて来る木材の量を加味すれば、20日~24日辺りには、船が完成するはずだ。
『もっとも、トラブルが起きなければ……だけど』
不測の事態を考慮すれば、そろそろ船の建造に取り掛かるべきだ。
そう判断した縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は、畑仕事をしていたトロイたちを呼ぶ。
●24日後
昼のうちから濃い霧が立ち込めていた。
肌寒く、海は静かだ。
そんな静寂の満ちる中、それは突然、現れた。
否、正しくは“それは初めからそこにいた”のだ。
『……おや?』
半身が消失した違和感に、縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧が気付いた時にはぐるりと視界が反転していた。
右半身。次いで、胸部を何かに食いちぎられたのである。
「…………―――」
伸ばした腕が虚空を掻いた。
半透明の幽霊鮫が、霧の中へ溶けていく。
幽霊鮫にヴァリフィルドが襲い掛かった。
だが、その爪は鮫の体を擦り抜ける。
「ぬぅ!! これでは帆の代わりにも使えんな!」
幽霊鮫に攻撃が当たるタイミングは限られている。“幽霊鮫が攻勢に出た”時でなければ、その体は非実体で、ダメージは対して通らない。
霧の中を泳ぐ幽霊鮫が、向かう先には建造中の船がある。
船を破壊する気か。それとも、船の近くの畑が目的なのだろう。
「そうはさせませんよ! 畑と船から離れてもらいます!」
霧の中で炎が揺らいだ。
大口を開けて、船へ跳びかかる幽霊鮫の目の前で梨尾が勢いよく傘を開く。
ごう、と周囲に熱波が散った。
燃える傘が、幽霊鮫の牙を受け止め、鼻先を焼く。
衝撃で梨尾の体が宙へと浮いた。
鮫が頭を振り回し、梨尾を高くへ投げ飛ばす。
「頑張りながらも青春をエンジョイとか、そんな余裕はありませんでしたね!」
「にゃー! さっさと脱出するニャ!」
霧の中を何かが駆けた。
姿勢を低くし、地面を這うように疾走したのはエクシルである。
左右の手には剣を握って、潜り込むように幽霊鮫の真下へ至る。
一閃。
虚空に「×」を描くように、両手の剣を振り抜いた。
エクシルの剣が、幽霊鮫の喉に深い裂傷を刻む。
だが、鮮血は噴き出さない。
代わりに、幽霊鮫は空へ向かって吠えて……音もなく、その姿を消した。
2日後。
空は快晴。風は穏やか。
商館島の近くには、5つの首を持つ巨大鮫が回遊しているのが見える。
「出航する? 保存食もあるし、多少時間がかかっても問題ないけど」
干した鮫の肉を咥えてすあまが言った。
回遊している5つ頭の巨大鮫は、どうにも時間を経れば消える類のものでもないようだ。きっと、商館島からの脱出に際してのボスとして設定された個体であるらしい。
「時間が経って鮫が増えても厄介なのニャ」
「そうですね。一昨日の幽霊鮫も随分と強かったですし」
船に荷物を積み込みながら、エクシルと梨尾が言葉を交わす。
「追いつかれるだろうが……まぁ、我が引っ張れば良いだろう」
「いいんじゃなぁい? ガンガン盾として頑張るからねぇ」
ヴァリフィルドとエイラも出航に乗り気のようである。
暫し、仲間たちの顔を見回して……やがて、縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧が船へと乗り込む。
『いい、だろう。出航、しよう』
トロイたちに見送られ、7人は商館島から旅立った。
地図は無い。羅針盤も無い。
行き先も知れない、未知の航海。
追いかけて来る5首鮫を、エイラが触手で打ち払う。その隙にヴァリフィルドが翼を広げ加速する。
景色が流れる。
潮風を顔に浴びながら、縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は遠くの海の果てを見た。
周囲の景色が溶けていく。
次第に、波の音が小さく消えていく。
そして、ついに……。
ガラスのように、周囲の景色が砕け散る。
そして、7人はいつの間にか砂漠の真ん中に立っていた。
商館島も、鮫の姿も、一面に広がる海さえも無い。
代わりに1つ。
7人の前には、兎印の宝箱が落ちていた。
「疲れました……お酒飲みたいです」
なんて。
砂の上に座り込み、ヴァレ家は盛大な溜め息を零す。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
皆さんは無事に商館島から脱出しました。
後にはウィルスが残したらしい、兎印の宝箱だけがありました。
依頼は成功となります。
この度はシナリオのリクエストおよびご参加いただき、ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
クエスト内時間で30日以内に商館島からの脱出すること
●ターゲット
・鮫のモンスター
海に生息するモンスター。
普通の鮫、竜巻を伴う鮫、多頭の鮫、手足のある鮫、姿の見えない鮫など種類は様々。
共通して知能は低く、狂暴で、戦闘能力が高い。
鮫は群れを作らない。しかし、同時に複数体の鮫が島に上陸して来る可能性はある。
●NPC
H・P・トロイ
https://rev1.reversion.jp/illust/illust/73763
おそらくH・P・トロイを模して作られたNPC。
「にゃあ」としか鳴かないため、会話による意思の疎通は不可能。
指示を出し、働かせることが出来る。労働後は1日の休養期間が必要となる。
B・B・ウィルス
https://rev1.reversion.jp/character/detail/p3x001107
クエストの発注者。
ルール説明後、どこかに姿を消してしまった。
●クエスト内ルール
ルール:
①クエスト中は体感1時間ほどで1日が経過する。
②海には「作物の種」「木材」「モンスター」が漂流している。
③作物は畑に植えてから3日~5日で収獲できる。
④作物を出荷することで「木材」や「工具」といったアイテムを購入できる。
⑤長距離を航行可能な船を完成させ、島から脱出した時点でクエスト達成となる。
⑥H・P・トロイは労働力として利用できる。労働後は1日の休養期間が必要となる。
※「作物の種」何らかの作物の種。出荷することで「木材」や「工具」を購入できる。また食用にも適している。
※「木材」「工具」船を完成させるためには、これらのアイテムを組み合わせる必要がある。
※「モンスター」鮫をはじめとしたモンスター。畑の作物を狙って商館島へ上陸してくる場合がある。
※ロストしたH・P・トロイは復活しない。
●フィールド
周囲を海に囲まれた無人島。
設備として、商館、馬房、畑が存在している。
船を完成させることで無人島から脱出できる。
土地を耕すことで、畑を多少拡張できる。
周囲の海には、鮫型のモンスターが多数生息している。
嵐などの天候変化が起きる可能性がある。
※『死亡』すると、1日後に商館内でリスポーンする。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
※重要な備考
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
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