PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<晶惑のアル・イスラー>夜空に灯す閃の星

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「――まぁーす!」
 照り付ける陽光の下、扉を叩こうとした時、そんな声がして手が空を切った。
 勢い良く開いた扉から小さな影が飛び出してきた。
「ぁぅっ! っててて……」
 イルザにぶつかり、尻もちをついて声に漏らすのは、幼い少年だ。
 イルザは微笑みを浮かべるままにそっと少年を抱き起こすと、そのまま目線を合わせるように抱き上げた。
「おっと、ごめんごめん。ギーナ大丈夫かい?」
「わっ、わっ……って、イルザ姉ちゃん。戻って来てたんだ!」
 持ち上げられたギーナは正面に来たイルザの顔を見て驚き、そのまま嬉しそうに華やいだ。
「だからあれほど危ないと言ったでしょうギーナ。
 それからおかえりなさい、イルザ。もう鉄帝国は良いのですか?」
「戻るタイミング逃してたけど、もう僕が出る幕じゃないだろうしね。
 マヤは……ギーナの護衛?」
「ええ。ほら、今日はグラオ・クローネでしょう?
 商人に頼んでおいた最新のチョコ菓子を取りに行くのですよ」
「なるほどね。邪魔して悪かったよ」
 いつの間にかおとなしくなってるギーナを下ろしてやれば、それを見てマヤが苦笑する。
「イルザ、早速ですけれど、ギーナの事を頼んでも良いですか?」
「まぁ、しれっと手を握られちゃあね」
 いつの間にかしれっと握られていた手を少しばかり挙げて肩を竦め、イルザはついさっき歩いてきた方向へ振り返るものだ。
「あぁ、それから、団長に僕が戻ってきたこと言っといて」
「ええ、分かってます。すぐに次にどうするか決めましょう」
「はぁーい……っとっと、ギーナ、そう引っ張らないで」
 それだけ返事をして、さっきから急かすように手を引っ張るギーナに合わせて歩き出した。
「イルザ姉ちゃん、鉄帝国はどうだった?」
「ん~? とっても寒かったかな」
「うちの夜より?」
「そうだね、砂漠の夜より」
「他には他には!」
「そうだなぁ……あぁ、そうだ。
 せっかくだから御伽噺でも聞かせてあげようか。
 出来立て新鮮な御伽噺だよ」
「なにそれー」
 不思議そうに言うギーナへ笑って、イルザは故郷にて経験した――ローレットの話を語り聞かせながら歩いていく。


「『紅血晶』かぁ……これに魅せられた人たちが怪物に変わるんだよね?」
 グラオ・クローネの夜。
 イルザは呼び出された場所で一枚の羊皮紙に描かれた宝石を見やる。
 本物は危険だからと絵で用意された代物だ。
「えぇ。本物を見る限り、魅せられる者がいるというのも頷ける話ではありました」
「そんな物が流通しまくってるって世も末だね。
 まぁ、ブラックマーケットで何を今更って話ではあるけど」
「ブラックマーケットと言えば、今日はギーナの相手をしてくれたのでしたね。
 迷惑をかけませんでしたか?」
「あはは、久しぶりに年の離れた弟と遊んだって感じ?
 別にあれぐらい大丈夫だよ」
 急に変わった話題に笑いながら答えた時だ。
「団長! 外! 外に巨大な影が! 何者かの攻撃です!」
 扉を開けて、そう叫ぶ傭兵が姿を見せる。
「――半分はここに残してもしものための退避の準備、動ける者は迎撃に出ます」
「――わぁお。狙ったようなタイミング。戻ってきて正解だったみたいだね?」
 すぐさま指示を発したハンナに促されるように肩を竦め、イルザはそう笑って見せた。


 辿り着いたネフェルストの外周。
 大空を竜が飛翔する。
 いや、『そう』見える何かというべきか。
「――ふむ、イルザ、あれの胴部、見えますか?
 首から少し下、腕と腕の間辺り」
 ハンナは静かにそれを見上げ、夜空に舞うソレを注視した。
「んー……なんか光ってる?」
「えぇ、どうやら紅血晶のようですよ」
「ひゅぅ、ってことはあれも人だったりするのかな?
 それか、また別の似たような怪物ってことかも?」
 そう言ってイルザが軽く笑い飛ばす。
「――どちらであれ、あれは『竜』ではないでしょう。ならば……」
「まぁ、僕らにも勝ち目はあるってことだ……おっと、団長。
 僕らの英雄が来てくれたみたいだよ?」
 気配に気づいたらしいイルザがこちらへ振り返り、楽しそうにウインクした。
「ローレット、着てくれて感謝します。では、一手――よろしくお願いしますね」
 そう団長と呼ばれた方が言って、くるりと棒を振るう。
『グルゥゥアアァァ!!!!』
 ほぼ同時、眼前、旋回してきた竜のような何かが降り立ち咆哮を上げた。

GMコメント

 ジーフリト計画のリプレイ執筆中に思いつきました。
 そのせいでイルザがかなり無茶な鉄帝国横断弾丸ツアーをやったことになってますが……。

●オーダー
【1】晶竜の撃退または撃破

●フィールドデータ
 水の都ネフェルストの外周、襲撃の最前線です。
 隆起した砂の丘が多く、多少足場が取られる印象があります。

●エネミーデータ
・晶竜
 首から少し下、腕と腕の間辺りに紅血晶が埋め込まれたキマイラ。全長4~5m。
 魔種相応に強力です。
 基本は竜種を思わせる姿をしていますが、
 前脚はモグラやアリクイ、ナマケモノを彷彿と長い鉤爪を持ちます。
 また、尻尾も両刃の槍を思わせる鋭さがあります。

 HP、防技、抵抗、物攻が高く、EXAもそこそこ高め。
 半面、その巨体のせいで回避が若干低そうです。

 鉤爪や牙、尻尾による攻撃は【致命】や【出血】系列のBSを受ける可能性があります。
 その咆哮は大気を揺らし、【窒息】系列のBSや【ブレイク】を与える可能性を持ちます。

●友軍データ
・共通項
 イレギュラーズの指示等があればそう動きます。
 歴戦の傭兵らしく、イレギュラーズの指示無くともいい感じに動きます。
 指示があればプレイングに記載してください。

・『夜の導き』ハンナ・アイベンシュッツ
 ラサに属す傭兵団『夜の導き』の団長、眼鏡を付けた人間種の青年です。
 理性的で穏やかな性格ですが、仕事とあれば多少の強引さも辞さない人物。

 以前は団長の名前を傭兵団の名称に起用していました。
 何らかの理由で現在の名称へ改名しています。

 戦闘スタイルは神秘系のテクニカルアタッカー。
 瞬付与のバフを乗せて一撃を叩き込むタイプ。

・『壊穿の黒鎗』イルザ
 鉄帝生まれ鉄帝育ちのラサの傭兵です。
 青みがかった黒髪をした人間種の女性。

 穂先を魔力で延長させる特殊な槍を振るいます。

 つい最近まで鉄帝に赴いていましたが、
 第二の故郷となったラサを心配して急遽戻ってきました。

 距離を問わぬ神秘パワーアタッカーです。

・傭兵団『夜の導き』×10(魔:5、剣:3、銃:2)
 ハンナを長とするイルザも属すラサの傭兵団です。
 全員が人間種で構成されています。

 魔術師型
 命中、防技、抵抗へのバフをかけてくれるほか
 【痺れ】系列、【乱れ】系列を使って補助してくれます。

 剣士型
 近接アタッカーとして前衛で戦ってくれます。
 【出血】系列を与える可能性があります。

 銃兵型
 遠距離アタッカーです。
 【火炎】系列のBSを与える可能性があります。

●オープニング登場NPCデータ
・マヤ
 『夜の導き』のメンバー。軽装剣士タイプ。
 リプレイでは本部に居残っています。

・ギーナ
 ハンナの甥。活発な少年。
 両親の死後に叔父に預けられました。
 イルザにも懐いています。
 リプレイではマヤと一緒に本部に残ってます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <晶惑のアル・イスラー>夜空に灯す閃の星完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年03月05日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
私のイノリ
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
リーディア・ノイ・ヴォルク(p3p008298)
氷の狼
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星
ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)
瀉血する灼血の魔女

リプレイ


 巨影が降り立ち、砂塵が舞い上がる。
 波のように舞い上がった砂が波紋を打った。
「グラオ・クローネの夜にクソデカ咆哮……まるでチョコ0個の悲しみを表してるように聞こえてうっせぇな。
 こっちだって最愛の息子達からチョコがもらえないっていうのに……」
 苛立ちを見せる『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)は犬札グリーンアイズドッグズから銃を呼び起こす。
「油断はできない相手だが、紅血晶関係な上に言葉が通じないタイプなら遠慮なく殴らせてもらうぞ!」
 速攻で打ち出した弾丸は戦場を走り抜けて真正面から晶竜へと叩きつけられる。
 災厄を齎す弾丸さえも振り払い、晶竜が咆哮を上げた。
「傭兵団『夜の導き』……僕的には興味深いなぁ」
「だってさ、団長! 良かったね、自分の名前とかいう安直な団名から変えて!」
 『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)が言ったことにイルザが揶揄うように言う。
「う、うるさいですね貴方は」
 それに恥ずかしそうにハンナが答えるのを見れば、何の裏もない日常の軽口の応酬だろう。
「どうせ自我なんてモノは残ってないんだろうけど暴れまわられるのは困るねぇ。
 さっさと制圧して、次に備えておきたいところだ」
 プルイーナに跨る『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は首をかしげながら言う。
 愛銃を構えた銃口には既に魔法陣が形成され、引き金を弾く瞬間を待ちわびる。
「まずは2回、ちょっとは効くかな?」
 撃ち抜かれた術式が戦場を駆け抜け、星の瞬く夜に風穴を開く。
 夥しい量の泥が一斉に晶竜へと降り注いだ。
 連撃に怒れるように竜ならざる竜が咆哮を上げた。
 大気を揺らす咆哮は空気を吹き飛ばし、大振りに降られた前脚の鉤爪が戦場を薙ぐ。
 砂を巻き上げた斬撃は巨体に違わぬ火力を以って多数の傭兵を纏めて薙ぎ払う。
 巨体故のレンジの広さは厄介そうだ。
 だがその攻撃はどこか悲しそうに受ける攻撃に対する反射のようにも見える。
「胸元の紅い水晶のブローチ、とても似合っているよ。君はお洒落さんだね。
 だが生憎と君の為のパーティは無いんだ、ここでお帰りいただくか――」
 晶竜の胸元、鮮やかに輝く紅血晶(ブローチ)を見やり、『彼岸花の弱点』リーディア・ノイ・ヴォルク(p3p008298)は静かに告げる。
 されど、竜は――いや、竜でさえない何かが答えを示すことはない。
「――ここで朝露と消えていただくかだね」
 その眼差しは静かに晶竜を捉え、氷の狼は牙を突き立てるべき場所を探る。
(あの子が望んであの姿になったわけじゃないなら、紅血晶をどうにかして取り外せないだろうか……)
 愛刀二振りを抜いた『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)の視線は晶竜の首元を見据えている。
「あそこを狙うとなると……まずはあの鉤爪や尻尾をどうにかした方がよさそうだね。
 リーディア、一緒に攻撃していい?」
 ただでさえ急所足りえる位置に存在する紅血晶、攻撃手段を削らねば反撃は必至だろう。
「問題ないよ、後に続いてくれ」
 摂理の座より見下ろし、氷の狼は牙を研ぐ。
 獲物へと食らいつくその一瞬を窺うままに――リーディアはその刹那を見定める。
「――氷の狼の遠吠えを聞くがいい」
 放たれた弾丸は遠吠えを放ち、晶竜の爪へと食い込んだ。
「最低でも動きを鈍らせる……誰も死んでしまわないようにやれることをやろう!」
 弾丸の行末を見やるシキも愛刀を振り払い、斬光は漆黒を以って星夜を馳せた。
「チョコレート菓子……いいですねえ。
 なんだか冬にいっぱい食べる印象ありますよね」
「大切なヒトはいて当然じゃない。
 だからいてくれてありがとうってお礼を形にする日、だね」
 『瀉血する灼血の魔女』ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)がぽつりと呟いた言葉に、からりと笑う女性がいる。
「初めまして、僕はイルザ。よろしくね」
「え、えぇ……よろしく」
(……世界が変わっても一緒なんだ、ふうん……)
 驚きつつも、ルトヴィリアは内心に思い。
「と、そんなこと言っている場合ではありませんね。
 協力しますよ、あの血晶とやらはとても気に食わないんです」
「心強いや。よろしくね、えぇっと……」
「……ルトヴィリアですよ」
「うん、よろしく!」
「イルザさん、最近ゆっくり休めてるのですよ?
 つい最近まで鉄帝で何か色々やってたはずですけども休み無しでラサに、でして……?」
「あー……流石にちょっと今回は無茶したかもね……」
 そう心配そうにイルザを見上げて『開幕を告げる星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)が言えば、イルザは苦笑ぎみに笑って答えた。
 疲弊を感じさせないように笑っているのが大人という物なのだろうか。
「最近は休みもあまり取れないのはよく分かりますけども……
 とにかく! 終わったら長めの休みを取った方がいいのですよ!」
「そうだね、流石にこれが終わったら数日は休めるだろうね……多分だけど」
「それがいいのでして! 終わったらゆっくり休むのでして!」
 お小言みたいになった世間話を終わらせれば、ルシアはIrisPalette.2NDを晶竜に向けた。
 その場で引いた魔砲は戦場を奔り抜けて晶竜の肉体へと炸裂する。
「いいね、約束だ!」
 楽しそうに笑ったイルザがルシアに続けて槍を振るって殴りつける。
(うへ、竜ですか……彼ら強いのであんまり相手したく無いんですけどね……うーん。生き残れますかねぇ)
 咆哮が上がる様を見据え、『泳げベーク君』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)は思わず胸の内に一人思う。
(や、まぁ仕事ですし、受けましたし。やるんですけどね)
 柔らかな風が吹き、ふわりと漂う甘やかな香りが晶竜の鼻先をくすぐり、戦場に再び方向が響き渡る。
「ひとまず聞いたことを喜びますか……」
 翼を広げて舞い上がり、こちらへ向かってくる竜を見据え、1つ息を零した。


「さて、出来れば帰って欲しいんですが……」
 ベークは口にしながらも持ち前の再生力でもって傷を癒していく。
 遮二無二突っ込んできた晶竜が自身を餌として認識している感じはあまりない。
(やっぱり別に竜種ではないみたいですねぇ……)
 竜種や亜竜に餌としての認識がされやすくなる効果はあまり受けているようには見られなかった。
「……なんという悍ましい魔力か。
 全く、気に入りませんね、その石は」
 間近に見て実感する禍々しさと共にルトヴィリアは苛立ちをみせ、直ぐに魔術を放つ。
 血色の帳が戦場に降りる。
 それに飲み干されたその内側で、ルトヴィリアは晶竜を見上げた。
 気に食わぬ紅血晶は輝きを放つまま。
「竜の血って滋養強壮効果とかありそうだな……試させてくれよ」
 言うやウェールは再び引き金を弾いた。
 放たれた弾丸は戦場を駆け、今度はその身体に少なからぬ傷口から血が――零れなかった。
 かわりに溢れだしたのは――
「……花弁、だと」
 ウェールは傷口から零れ出る血ではない物に目を瞠る。
 それは間違いなく花弁だった。
「これは益々、尋常の生き物ではなさそうですね……!」
 そう言ったハンナが急激に魔力の質をあげて棒で晶竜を殴りつける。
 ヨゾラはその姿に少しの親近感を覚えていた。
「今回は僕の最大火力を見せられないのが残念だなぁ」
「おや、貴方も似たような技を?」
 ヨゾラが言うと興味深そうにハンナがこちらを向いた。
「それはまた別に機会に!」
 星の祝福を歌い、ヨゾラが答えれば彼は少しばかり嬉しそうに笑みを浮かべた。
「よし事前準備としてはこんなものかな」
 撃ち抜いた銀鍵の行末を見守りルーキスは直ぐに次の一手と為すべく術式を構築しなおしていく。
「踏み潰されるのだけは勘弁してほしいからね、そろそろ止めちゃおう」
 静かに放たれた弾丸は空を走り、晶竜の身体へと炸裂する。
 刹那、炸裂部分から溢れだした魔力が空中へ魔法陣を描き、晶竜を結界の内側に包み込む。
「とはいえ、油断すれば墜とされそうでもあるね」
 続くリーディアの弾丸が結界の向こう側へとすり抜けていく。
 氷の狼が放つ鋭く確実なる弾丸がその巨大な鉤爪へと再び食い込めば、そこから花弁が噴出し晶竜の悲鳴のような咆哮が響き渡る。
「ごめんね、痛いかもしれないけど……!」
 続いたシキの斬撃が悲鳴を上げる晶竜の鉤爪目掛けて追撃の傷を刻む。
 漆黒の斬撃に食らいつかれた晶竜が腕を後ろに飛ばすようにしてのけぞった。
「その鋭い爪での攻撃も、ルシアには深手にはならないのでして!
 これはお返しの魔砲でして! ずどーん!」
 ルシアは銃口を晶竜に向ける。
 その身体には痛々しい傷が浮かんでいる。
 それらの状態異常を物ともせずに撃ち抜かれた魔砲は真っすぐに晶竜の身体に叩きつけられた。


 戦いは長引いている。
 傭兵達とイレギュラーズを相手にただの1体で相対する晶竜はそれでも脅威と呼ぶにたる実力をみせていた。
 圧倒的な数の差を以ってなお鈍らぬ晶竜、その鋭い斬撃は大量の血を砂漠に吸わせていく。
 相手の疲弊も確かにあるが、こちらの疲弊も無視できない領域だった。
「……うーん」
 最も無茶をしている1人と言えるベークはパンドラの輝きを零し、息を整えながら晶竜を見上げた。
 アタッカーの多いこの戦場においてベークは柱の1つであった。
 たとえ自分が目の前に立つ『コイツ』と相性が悪くとも。
(ですが、それでも『彼ら』に比べれば『耐えれている』だけ充分です)
 本物はこんなものではない、如何に薙ぎ払う一撃が強力であろうと『強力』程度で沈むつもりはなかった。
 それでも。
「出来れば、そろそろ帰っていただきたいのですがねえ」
 ぼやきの1つぐらいは許されるだろう。
「あたしの血で焼いてあげましょう!」
 ルトヴィリアは晶竜へと肉薄するままに燃えるような熱を帯びた血を術式に籠めて、叩きつける。
 焼き尽くす焦熱の獄炎が晶竜の守りすら撃ち抜き燃え上がる。
「皆がグラオ・クローネを楽しんでいる時間をぶち壊す輩には容赦も慈悲も必要ない!!」
 ウェールが晶竜に照準を合わせて再び引き金を弾いたのはその時だった。
 雨のように激しく、後を引かぬ呪詛の弾丸が晶竜の身体へと再び降り注いだ。
 それは激しい親愛のように思え、あるいは貴重な時間を奪われた事への、暴力的な八つ当たりのようにも思えた。
「ありがとうございます、助かりました」
 ヨゾラの祝歌を受けて一息を入れたハンナがつい先ほど薙ぎ払われた傷口を抑えながら言う。
「どういたしまして! 今回は回復を任されてるんだ! この場の誰も倒れさせないからね……!」
 随分と前のめりな今回のパーティ、回復に回ったヨゾラの存在は非常に意義のあるものだった。
「……これで、一つ目だ」
 ばら撒かれる複数の銃弾や仲間達の猛攻の隙間を埋めるように、リーディアは再び引き金を弾いた。
 緩やかな放物線を描いた弾丸は風を突っ切り、狼の遠吠えのような音色を奏でて戦場を奔る。
 だらりと下がった晶竜の片腕にある鉤爪、その付け根へと銃弾が炸裂し、ピシリと音を立てて大量の花弁と共に炸裂する。
 それは彼岸に咲く花のように。


「これじゃあまり無茶はしないでねって言えないのですよー
 でも! ここまでしてまで譲れないもの護りたいものがルシアにはあるのですよ!
 終わったら休もうって約束してるのでして!!」
 ルシアは砂漠の起伏を移動していた。
「――死なないために、死ぬ気で戦うのですよ!」
 ようやくたどり着いた、最高の場所。
 深呼吸と共に銃口を晶竜に向けその時を待つ。
 ――不意に、晶竜の身体が大きくぐらつき隙を見せた刹那、魔弾は放たれた。
 殲滅の星が輝く流星を描く。
「血の力だと言うのなら、あたしが利用してやりましょう……!」
 続けるようにルトヴィリアが晶竜の懐へと肉薄する。
 月明かりか、自らによる物か、鮮やかな輝きを放つ血晶。
 それへなるべく触れないように心掛けながら叩きつけた魔術は現実を呑む夢想。
 魔女は夢の向こうから姿を見せた忌々しきを呼び起こす。
「いい加減、しつこい! 全力でぶっ潰していつか息子達に贈るチョコのアイデア探しの続きをさせてもらう!!」
 飛び出したウェールが犬札から取り出したのは一本の曲刀。
 美しき軌跡が描くは鋼覇斬城閃。
 対物奥義は晶竜へと苛烈な一撃となって傷を入れ、花弁が零れた。
「色々情報は欲しいからね、多少は強引な手も使うとしようか」
 ルーキスは既に肉薄していた。
 砂と花弁を舞いあげた戦場を走り抜けて、晶竜の上空で跳躍。
 その手に宝石より生み出された魔力剣が構築されるのとほぼ同時、晶竜の背中へと刃を突き立てた。
 血しぶきを上げるように溢れだした花弁がルーキスの視界を覆いつくしていく。
(どうすればいいかなんてわからないけど
 ここで頑張らなかったら一生後悔すると思うから……だからできることをするんだ!)
 晶竜の懐、紅血晶へとシキは飛び込んだ。
 反射的に振り上げられた片手の鉤爪がぐらつき、晶竜の動きが僅かに止まる。
 その刹那、シキは思いっきり踏み込み、振り降ろした瑞刀はキンッと鋭い音を立てた。
「――外れろ、頼むから!」
 身体を押し込むように、シキが叫ぶ。
 そこへ迫るもう片方の鉤爪は――
「邪魔をしちゃいけないよ」
 そう静かに紡いだリーディアが放つ氷の狼の牙を以って食い止められた。
 狙撃者の弾丸を受けて晶竜が新たな花弁を噴きだす頃。
 シキの放つ砂漠の夜にとける宵闇の刀は遂に晶竜の首筋へと痛撃の一太刀を刻む。
 ――刹那、それまでで一番の『悲鳴』が戦場を劈き、大量の花弁がシキを覆いつくした。
 砂上に鮮やかな花弁が彩りを添えている。
 それは複数の傷を受けた竜ならざるモノが確実に疲弊している証拠と言えた。
 砂に舞い降りた晶竜は再び砂波を巻き起こして前脚を付けながら身体を揺らす。
 まるで痛みに耐えるように平伏した晶竜がの身体に罅が入っていく。
 花弁が散り自壊する。
『グゥギィキィィアァァァアア!!!!』
 そうして、それが啼いた。
 それは重なる痛みへの怒りのようにも、死への恐怖におののくようにも見えて。
 ミシリ、ミシリ、音が響いた。
 刹那、晶竜の背から、胴部から、水晶の棘のようなものが強烈な勢いと共に体外へ露出する。
 突如の変質に警戒を露わにする中、晶竜は舞い上がる。
 それは明らかな『逃げ』の動作だった。
 本能的に逃亡を選んだ獣のように、その晶竜は空へと消えていく。


「約束通り、休憩でして!」
「お互い、お疲れ様だね」
 ルシアが言えば一息を入れたイルザが魔術師を連れてきた。
「ハンナ、君らはラサの財産(傭兵)だろう。
 これからに備えるためにも、無茶はしないようにね」
「ありがとうございます、助かりました。まあ、負けるつもりはありませんでしたが……」
 シキが言えば、ハンナが頷いて直ぐに部下の魔術師を呼び寄せてくる。
 呼び出された魔術師が行なう治癒術式にお礼を言いつつハンナの方を見やれば、彼は少し考えているように見えた。
 しかし、露骨に弱点でしたがあそこまで暴れるとは……」
「研究用にちょっとぐらいは欲しかったけど、
 この花弁?ぐらいしか残ってないとなるとここから手を付けていくしかないかな?」
 拾い上げた花弁の一枚を弄りながら、ルーキスが言えば。
「不思議だねえ……血の代わりに花弁が噴き出るなんて」
 それを隣まで来たイルザが覗き込んでくる。
「そうだね、んーまあどうせ紅晶石の関連だ、碌な物じゃないけど……何が出てくるか楽しみだ」
 そうぽつりと呟いて、何ともなしに空に掲げてみる。
 酷くきれいな花弁だった。
「ところで……『夜の導き』って名前、どんな由来があるのかな」
 ヨゾラは戦いの終わり、ハンナへと問いかけてみた。
(夜の導き…夜の、星空の導き。
 それがラサの星空か、イルザさんやハンナさん達の事だといいな)
 星空の願望器たる魔術紋はその名前にした理由に興味が出るものだ。
「団の名前の由来ですか……そうですね。
 1人1人が砂漠の夜に瞬く星のように誰かの道標になれるように、との願いを込めました。
 この団名にしたのは、本当に最近ではあるのですが」
 そう言ってハンナが苦笑する。
「イルザさんも、元はハンナさんのファミリーネームだったって」
 ふと戦いの前にイルザの言っていたことを聞いてみれば、ハンナも頷いて。
「えぇ、そのままでもよかったのですが、甥が両親を失いましてね。
 最初に導いてやりたいと思ったのはその子の事なんですよ。
 まあ、それを薦めてきたのはイルザや他のメンバーなのですが」
 眼鏡越しの瞳に穏やかな色を見せつつも苦笑するようにハンナが言う。

成否

成功

MVP

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器

状態異常

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)[重傷]
【星空の友達】/不完全な願望器
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)[重傷]
開幕を告げる星
ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)[重傷]
瀉血する灼血の魔女

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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