シナリオ詳細
煌めきを映すもの
完了
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オープニング
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昔から綺麗に輝くものが好きだった。
見た目の話ではない。たとえ高価な宝石が使われていなくとも、想いを込めて作ったものには、綺麗な輝きが帯びるのだ。
ある日自分で作ってみたアクセサリーは、決して美しい出来ではなかった。それでも一際輝いて見えた。
そうやって作り続けていく内に、自分以外の誰かにも見てもらいたいと思い始めた。
最初は同じく幻想に住まう貴族に見せてみた。貴族の娘が平民のような物作りを行うなと、遠回しな皮肉で咎められた。
家の御用達商人からは、暇をもてあました令嬢のお遊びとしか受け取ってもらえず。
ならばと領地の人々に会いにいき、彼らと交流する傍らで、自作の物品を見せびらかしてみた。たくさんの賛辞が返ってきた。きっと領主の娘に媚びを売ろうと思ったのだろう。それでも嬉しかった。
……嬉しかったのだが、次第に「余計な装飾なんて要らない。もっと実用的な道具をくれ」と要求されるようになった。父に領地での実用品の不足を報告して、それからというもの、町にはあまり行かなくなった。
自室の机に頬杖をつき、むくれる。目の前には今まで作ってきた品が散らばっていた。ふと目に留まったのは一番最初に作ったアクセサリー。
――どこかにわたくしのセンスを理解してくれる方々がいらっしゃるはず!
鬱屈とした思考が渦巻いて、その果てにとある考えが浮かんだ。
●
「私の知り合いに、とある貴族のご令嬢様が居ましてね。メレンさんって言うんですけど」
情報屋のリゼリィは特異運命座標たちを前に話し出す。重たい面持ちの者を見つけると、そんなに緊張して聞かなくてもいいと手を振った。人命が関わるような依頼ではないのだろう。
「彼女はアクセサリーなどの小物作りが趣味で、私もこんな物を作ってもらいました」
ほら、とリゼリィはあるものを差し出した。
それは布製のサングラスケースのようだった。黒一色の生地だが、隅にはレースの刺繍が施されている。その太陽のような円形の刺繍が、黒の重苦しさを緩和し、可憐な気品を演出していた。開封口に取り付けられた銀色の釦にも、よく見ると刺繍と同じ形の模様が入っている。
「これを自慢するために呼んだのではありませんよ?
メレンさん、特異運命座標の皆さんのために何かを作りたいと仰っていました。暇だったら行ってあげてください。……ね、簡単な依頼でしょう?」
リゼリィはサングラスケースから取り出した黒眼鏡を着用しつつ、そう締めた。
- 煌めきを映すもの完了
- NM名梢
- 種別 カジュアル
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年02月20日 21時10分
- 章数1章
- 総採用数19人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
応接間に通されて、アレンは席に着いた。
「こんにちは、今日はよろしくね」
「よ、よろしくお願いします!」
彼の上品な装いから貴族であると判断したのだろう。最初こそメレンの表情は強張っていたが、まずはと雑談を重ねる内に、徐々に和らいでいった。
「わたくしに贈り物を作るという名誉を下さるなんて、光栄ですわ!」
アレンの注文を聞いて、彼女は嬉しげに胸を張る。
愛する姉への贈り物を作ってもらおうと、アレンはここを訪れたのだ。『大切な人』というぼかした言葉で語る姉の姿を、彼女がどう想像したかは定かではない。尤も、興味津々に話を聞きたがる辺り、薄っすらと想像が付いたが。
アレンは制作の参考になりそうな事柄には答えて、ややこしい話題は要領よく受け流していった。
「ここで話したこと、他の人に言いふらさないでね?」
「ええ。わたくしも末端ながら商売人ですもの」
唇の前に指を立てて、アレンは密約を交わす。メレンもこころなしか小声で囁いた。
『Twin roses』
銀色のイヤリング。片方には赤薔薇の、もう片方には青薔薇の、小さな飾りが付いている。密やかで、しかし大事な居場所で、二輪の薔薇は「彼/彼女」の身を彩り続ける。
「一人で身に着けてもいいですし……これを贈る方は外出をあまり好まれないのでしたわよね?
でしたら、片方はアレン様が身に着けて、代わりに世界を見てくるというのも素敵ではありませんか? きゃー!」
成否
成功
第1章 第2節
上質なベルベットの絨毯を踏みしめても足音が鳴ることはない。館の中に案内され、席に着いた愛奈とメレンの会話は静かに進んでいった。愛奈の注文にメレンが目を瞠るまでは。
「本当に何でもいいのですか?」
「ええ、……何を作ってもらっても構わないです」
「本当にいいのですね?」
「……そう不安がらなくとも大丈夫です」
愛奈は安心させるように言葉を紡ぐ。
――自分の誇れる所を褒めてもらえない辛さは、何となくわかりますから。
"本当"を見てくれない悲しさ、寂しさ。じりじりと身を削られ、引き裂かれてしまいそうな苦しみが、愛奈にも分かってしまうから。少しでも彼女の心を助けられたらと、愛奈は手を差し伸べる。
「何か手慰みに作ってもらえれば。何を貰ったとしても、大事にしますね」
「わかりました。わたくし、愛奈様のために頑張りますわ!」
彼女の奥深くにある感情を、メレンが察したかは定かではない。それでも、優しく言葉を掛けてくれたことが嬉しかったのだろう。メレンは力強く頷いた。
『蒼光』
蝶を模ったヘアピン。普段は眠るように紺碧色の翅を休めているが、日光を浴びると青空の明るさを帯びる。空を見上げるささやかな蒼光。
「愛奈様はシックなお召し物を好んでおられるのだと思いますが、明るめの差し色があっても似合うと感じましたの。
ちょっと冒険しちゃったかしら! いつか、気分を変えたくなったら使ってくださいまし――!」
成否
成功
第1章 第3節
君が作った品を見てみたいとの言葉に、メレンは挙動不審な動作を見せた後、ハンカチーフを机上に置く。
イーハトーヴが尊敬の眼差しでハンカチを眺める間も、彼女はそわそわと落ち着かない様子でいた。少しして、彼はにこりと笑いかける。
「すっごく綺麗な縫製だね! 愛を込めて作ったんだなって、俺にもわかるよ」
「あ、ありがとうございますですわ! ……あの、もしやイーハトーヴ様もお裁縫を?」
「俺? うん。ぬいぐるみを作らせてもらったりしているよ」
「ですわよね! その兎の子、『輝いて』見えますもの」
輝いて? イーハトーヴはオフィーリアを見てみるが、常の通りに抱きかかえられているのみである。けれど、メレンが言わんとする意味も分かった気がして、彼は頷いた。この世にはキラキラと輝くもので満ち溢れているのだ。
「よかったらおすすめの生地屋さんを……」
明るい声音のメレンにほっとしながら、裁縫の話題に興じる。
そして、二人が「小物を作ってもらう」という元の話題に回帰するためには、淹れ直した紅茶が冷め切るほどの時間を要したという……。
『向日葵のみる夢』
かぎ針編みの小物入れ。側面には糸作りのひまわりが咲いている。カラフルな色彩は、針と糸から生まれる無限の可能性を夢見るように。
「毛糸玉や布地を入れられる一品ですわ。きっと幾つあっても足りないでしょうから!
そうそう、おすすめのお店の続きなのですが――」
成否
成功
第1章 第4節
「これ美味ェな……」
蜂蜜を心ゆくまで垂らしたワッフルや、黒砂糖クッキー。茶菓子はどれも上質で、クウハはマイペースに小腹を満たしていた。
「お茶菓子を気に入ってくださったこと、メイドにも伝えておきますわ」
「おう、頼むぜ」
けれど、ティータイムはそこそこに。気まぐれな紫猫といえど、今日はお茶会のために来たのではなかった。
「それで注文なんだが、俺の後をついて回りたがる妹みてーな奴がいるんだよ。ソイツへの贈り物を作ってくれるか?」
「勿論ですわ! 他に何か希望はありますか?」
舌先に残る甘ったるさと共に、彼女の顔を頭に浮かべる。楽しげな微笑も、また明日と告げたときの寂しげな表情も。
「どんなもんでも喜ぶだろうが、身に付けられる物がいいかもな。寂しがりやで構ってちゃんなアイツが俺を傍に感じられる様に」
「クウハ様はお優しい方ですのね!」
「そうか? 本当に優しかったら、オマエの分の菓子まで食べてねェぜ?」
残りのクッキーはあと数枚。口直しの紅茶を飲みながら、クウハは悪戯っぽく笑った。
『Chatoyance』
黒曜色のバングル。敢えて湾曲させた腕環に紫の宝石が輝く。一見不気味なシャトヤンシーは――きっと、誰かが贈る柔らかな眼差しにも似ている。
「ゴシック&スイートをテーマに、重たすぎず、普段使いできる品に仕上げたつもりです!
シャトヤンシーというのは宝石に細長い光の筋が浮かぶアレですわ!」
成否
成功
第1章 第5節
ヨゾラは館を守る大きな門を見上げた。依頼人が出迎えてくれると聞いたのだが、誰もいない。少し早く来てしまったのかもしれない。
門前で待つことにしたが、彼の鋭敏な直感がふと何かを察知する。素早く横を見てみると――可愛い猫が!
「わーい! ねこだー!」
すりすりと猫を撫でる。どうやら人懐っこい性格のようで、彼の掌に頬を寄せてきた。しばし彼らだけの世界に浸り込んでいると、頭上から少女の声が聞こえてくる。
「特異運命座標の方ですわよね?」
ヨゾラははっとして立ち上がる。その拍子に猫は気ままに駆け出し、茂みへと姿を消した。
「可愛い子だったなぁ」
「ふふ、時々家の前に来てくれるんですよ」
穏やかに話しながら一歩二歩と歩きかけて、ヨゾラは立ち止まった。
「っと、自己紹介がまだだったね……。僕はヨゾラだよ。よろしくね!」
「メレンですわ。よろしくお願いしますね。――猫がお好きでしたら、猫モチーフの作品は如何でしょうか?」
「いいね! わくわくしちゃうなぁ」
再び、足取り軽くヨゾラは歩き出した。どんな品が出来上がるのか、胸を弾ませて。
『子猫の歓待』
円形のビーズコースター。小さなビーズの一粒一粒が星座のように紡ぎ繋がり、暁前の空と地を駆ける白猫を描き出す。
「既にご了解を頂いた通り、猫をモチーフに取り入れた品ですわ。
僭越ながら、お茶を飲まれるお客様との話のタネになりましたら……との願いも込めさせて頂きました!」
成否
成功
第1章 第6節
『双晶の雫』
筒型の油時計。ひっくり返すと墨色と海色の液体が交差し、溶け合うことなく落ちてゆく。しずやかなショッピング・タイムの片隅に、一風変わった輝きを。
文は不思議と魅了される心地で、色水が落ちていく様を見つめていた。
硝子ペンと一緒に飾れば、涼やかで美しい空間を作り出してくれるかもしれない。早速文具屋に置いたときの光景を想像して、心を躍らせた。
正面からメレンの顔を見る。文にとって、物作りに真摯な姿勢は応援したいものであったし、だからこそ明確に感謝の気持ちを伝えたいとも思った。
「素敵な品を作ってくれてありがとう。色も拘ってくれたんだよね」
「ええ! ……でも、本当はちゃんとインクを入れたかったのです。うまく流れない気がして水で妥協――」
彼女は途中まで話しかけ、「仕組みの解説をしても退屈ですわよね」と慌てて口を閉ざした。
「いや、……水と油の比重を利用してるんだよね?」
特段油時計の知識があるわけではなかったが、今まで文具を取り扱ってきた経験がなんとなく答えを導き出す。
「その通りです! インクでも出来たのでしょうか?」
「うーん。比重だけで考えるなら水と同じように下に落ちてくれそうだけど、偏にインクといっても原材料が……って、メレンさんこそ、こういう話は大丈夫?」
「専門外ですけれど、もっと聞きたいですわ!」
勉強熱心な教え子のように食いつくメレンに、文も悪い気はしなかった――。
成否
成功
第1章 第7節
濃紫の瞳を輝かせて、リリアムは励ますように声を弾ませた。
「メレンさんって器用なんだね! 私は細かい作業苦手だからとってもすごく思えちゃう!」
彼女の言葉はどこまでも純粋で、卑屈さは見当たらない。その前向きな姿勢に、メレンは微笑ましいような、眩しいような、じんとした気持ちで胸に手を当てる。
「よければ何か作ってくれると嬉しいな」
「ええ、気合いを入れて作りますわ! では、好きなものをお伺いしても宜しいですか?」
好きなものをモチーフに使った方が楽しいから、と。
リリアムは過去の記憶を喪っている。それでも好きだと感じるものは、食べることと、誰かの笑顔。
「――成程。食べ物をどこかに入れてみましょうか」
「うん! それを身につけれてればメレンさんの作った物の良さがわかるひとも見つかるかもしれないね!」
そうしてメレンが、何の憂いもない笑顔を浮かべられるようになったら――好きなものが二つ揃って、もっと幸せに違いない。
『フレンチシュシュ』
竜人の角に合わせて作られたシュシュ。ココアブラウンとブルーベリー、ニ色のコントラストはまるでドーナッツのよう! チョコチップ・ラメも散りばめて。
「角のオシャレは角持つ者の嗜みだとお聞きしておりますわ!
遠目からではクールな服飾にも違和感なく、近くで見ると可愛らしいデザインになることを意識しましたの。気に入ってもらえたらいいのですが。うふふ!」
成否
成功
第1章 第8節
今日のメレンの前には、二人の男女がソファに並んで座っていた。寄り添い合うような距離の近さからは親密な関係性が見て取れた。
「作品は自分の子供も同然ですから、誰かに見せたいという気持ちはわかります」
片方の女性――睦月が話を始める。
「百人に一人は貴女の作品を求める人がいます。しかしまず百人に見ていただかないと」
「はい、そう思って特異運命座標の皆様に働きかけてみました。多くの御方が訪れてくださり、有り難く思っていますわ。もちろん、お二人がいらっしゃったことも!」
にこやかな笑顔で、彼女は史之と睦月の顔を見る。
実のところ、史之はメレンに会うというよりも、睦月の付き添い自体が目的であった。愛おしき妻の願いを叶えることは、彼自身の楽しみであったから。もっとも、巡りめぐって睦月のためとはいえ、多少気にかけるぐらいの情はあったが。
「ですが……そうですね、皆様にお世話になり続けるわけにはいきませんわよね」
「俺ね、海洋の海種派にコネがあるんだ。品評会へ出てみない?」
「――品評会、ですか」
たくさんのアクセサリーが煌めきを放ち、窓の外には自由な海が広がる、絢爛豪華な会場……。それをメレンは想像した。史之は淡々と続ける。
「称賛を受けたいだけならやめたほうがいいかもね」
輝かしい会場も、綺麗なものだけで溢れているとは限らない。
視線を迷わすメレンを、彼は静かに見つめた。
「お申し出はとても嬉しいです。けれど……もう少し考えさせてもらってもいいでしょうか?」
「うん。別にかまわないよ」
保留という選択に、大して気にした様子もなく、史之は頷いた。
夫の話が一旦終わった気配を察知し、睦月は再び口を開く。
「それでは、思い出に僕へも何か作っていただけませんか? 沢山の人に見てもらうことにも繋がるでしょうし」
「はい、喜んで。……あの、制作の参考にといいますか、もし良ければお二人のご関係をお訊きしても?」
「ええ。しーちゃんと僕は、夫婦なんです」
自慢げな声音を隠し切れずに話す睦月。それがどうしようもなく愛おしくて、思わず口元が綻びそうになりつつも――途端にメレンが目を輝かせたのを、注意深い史之は見逃さなかった。
『比翼』
白銀の鳥の片翼が羽ばたくブローチ。その玲瓏なる輝きは、月夜に舞う夜桜の如く。儚さを孕むつばさ。
「美しく、儚くて……けれど、それは力強い鮮やかさでもある。
えーっと、わたくしでも何を言ってるか分かりませんが、そんなイメージなのですわ!
……それから、品評会のご提案、感謝いたします。いつか、もっと心の底から自信を持てるようになったら参加したいと思っております。
その会場に史之様もいらっしゃったら、わたくしは嬉しい限りですわ!」
成否
成功
第1章 第9節
(げんきがすくないのは、さみしいのです~……)
ピリアはそっと瞼を伏せる。自分にできることはあるだろうか?
考えて考えて、幼い彼女なりに元気付けようと、一生懸命言葉を紡ぐことにした。一言ごとに、歌を響かせるときと同じぐらいに、心を込めて。
「あのねあのね、ものをつくれるのって、すてきなの! ピリアはね、おうたはうたえるけど、てでつくるのはにがてだから、とってもすごいの!」
無垢な称賛がメレンを射抜く。
「だから、メレンさんもすてきなの♪」
ピリアの精一杯の激励が直撃してしまったのか、メレンは「はわわ……」と声を漏らしながらテーブルに顔を伏せた。ピリアはきょとんと目を丸くし、白魚のような清らかな指を伸ばす。
「どうしたの? おからだがわるくなっちゃったの?」
「いいえ。……真逆ですわ! やる気に溢れていますの!」
「そっか! よかったぁ!」
メレンはがばっと顔を上げると、奮起して立ち直る。ピリアは心配の手を引っ込め、代わりにぱちぱちと拍手の応援を捧げた。
『ソプラノ・ハート』
水入りレジンをあしらったリボン。パステルブルーの泉の中で、流星の欠片のような珊瑚が浮かんでいる。可憐に謳うフェアリーテイルを、樹脂の中に詰め込んで。
「幻想的で、けれど雰囲気に圧倒されるというより、素直に可愛らしいなって思えるデザインを目指しましたわ。
気が向きましたら身に着けてくださると嬉しいですわ、未来の歌姫様っ!」
成否
成功
第1章 第10節
サンプルにと差し出されたミサンガ。色とりどりの紐が楽しげに絡み合っているのを、メイメイは優しく撫でた。
「えと、メレンさまの、作品。使う度に嬉しくなるような気遣いの光る装飾だと、感じました」
メイメイは考える。
たとえば、店先で迷いながら買った、お気に入りの装飾品だったり。大事な友人たちから貰ったプレゼントだったり。
そういった品がふと目に入るとき、元気が貰える気がするのだ。作り手の気持ちが、友人との思い出が、傍にいてくれると感じるような。
メレンの想いが籠った作品も、きっとそうなってくれると思えたから――。
「わたしにも、作っていただけないでしょう、か?」
「ありがとうございますわ! えっと、普段から使えるような品がいいでしょうか……?」
彼女の申し出を聞いて、メレンはすっかり緊張の解けた様子で、これから作る小物を考え始める。そのゆるやかな時間さえも、メイメイは心地良いような気がした。
『フローラのまどろみ』
白き葵を模したというコサージュ。ふわふわとした綿の玉を、薄布の花弁が幾重にも着飾る。借り物の姿でも、柔らかなかわいらしさに偽りはなく。
「鞄にも服にも付けられる小さなお花ですわ。といっても造花なのですが、その分暇なときに綿玉を触ってふわふわできますわ! 心が落ち着きますわよね!
ふふ、メイメイ様も短いお時間ではありましたが、ほわほわした安らぎをくださる感じがしましたの!」
成否
成功
第1章 第11節
バクルドは当てもなき放浪者だ。
東へ西へ、北へ南へ。数多の大地を巡る。そこで数多の人々と出会い、言葉を交わす。そして去り行き、また新たな土地を訪れる。
今日メレンのもとを訪れたのも、彼にとっては連なる放浪の一環と言っていいだろう。
「……では、宝石などの破損しやすい装飾は避けましょうか」
くつろぐようにソファに座るバクルドとは対照的に、メレンは頭を悩ませていた。バクルドのような顧客向けの小物はあまり作ったことがないと口にしていたのだ。
「可愛らしい品もご趣味ではありません……ですわよね?」
メレンの問い掛けへ「まあな」と返し、少しした後、付け足すようにバクルドは口を開いた。自分のごく身近に、可愛い装飾品を喜んでくれそうな者がいたのを思い出したのだ。
「うちには娘みたいな存在がいるんだ。そいつ向けに作ってもいいぜ」
「むむ……なるほど。悩ましいですわね」
彼女がああでもないこうでもないと唸るのを、バクルドはどこか面白そうに見守っていた。
『旅巡りのタリスマン』
魔法陣が描かれたメダイに、三枚の鷹の羽根を添えた御守り。「旅人に祝福を与える」と伝わっている。親しい者が所有者の無事を祈ると、より効果が増すという。
「この地方一帯で有名な旅のお守りですの。もしかしたらバクルド様もご存知かしら?
そのままでも効力は十分ありますが、ご息女様に祈ってもらえれば効果倍増だと思いますわ!」
成否
成功
第1章 第12節
「わぁ、きれい……!」
机にちょこんと置かれた指輪は、サンプルに出してもらったメレンの一作だ。ブリリアントカットを施された貴石が嵌め込まれている。
間近で見たいと好奇心が疼くが、サイボーグであるチャロロの力は強い。うっかりグラスを壊してしまった経験も何度か。
力を込めてしまえば大変なことになるかもと懸念し、指先でそっと持ち上げた。降り注ぐシャンデリアの光を反射し、貴石の断面は繊細に煌めく。
「心配せずとも大丈夫ですわ! それは宝石でなくてただの天然石ですから」
「そ、そうなんだ?」
宝石と天然石の一体どこが違うのだろうとチャロロは首を傾げたが、あまり深くツッコまないことにした。
「こんなの見てるとオイラも欲しくなっちゃうな。なにか普段使いできるものを……こんな感じに綺麗な石とかついてるといいな」
「承知いたしました。わたくし、チャロロ様のために最高級の宝石を用意しますわ!」
「そこまで張り切らなくてもいいよ――!?」
今度ばかりは慌ててツッコミ、もとい制止を掛けた。
『Sunlight』
ブレスレットと色を合わせた孔雀石色の円環に、小粒の日輪結晶をあしらったサムリング。澄み切った透明の輝きは、誰にも分け隔てなく暖かな光を授ける。
「どの材料も高価過ぎないものを使いましたから、安心してくださいまし!
親指の指輪は人を導き、夢への成功を意味すると言われていますわ。チャロロ様の願いも叶いますように!」
成否
成功
第1章 第13節
屋敷に入る前に、石鹸が油の匂いを掻き消してくれたか、再確認を行う。これから話す相手は依頼人といえど、貴族に違いない。不快感を与えないように注意を――という気配りが功を成したか成さなかったか、メレンは特に気にする素振りを見せなかった。
リサは苦笑混じりに本題を話し始める。
「私、見てくれ通りのちんちくりんなんすよ。それに普段から仕事で油に汗まみれなんで、アクセはあんまりだったんすけど……」
「ああ、パーティーにご出席する用事ができたりしましたか?」
曖昧に首を振る。理由を口に出そうとしたときに、ほのかに灯った心の熱に――なんだか少し、不思議な感覚を覚えつつ。
「……ちょっとね、少しでも綺麗な姿を見せたい方がいるんで、それ用に何かお願いしてもいいっす?」
「ええ! ええ!! その御方の特徴や好みをお訊きしても?」
特徴。――特徴。
どこから話すべきか迷いながら、リサは唇を動かした。
『紅玉の在り香』
胸元を飾る瀟洒なアロマペンダント。ダイヤ形のトップは紅を纏う。大人びた色香を放つ茉莉花の精油も添えて。――貴方に届けたい、想いと香り。
「せっかくのオシャレ、やはり気づいてもらいたいですわよね? 見た目だけでなく、匂いからも気づけるようにしましたわ。きゃー!
トップの中に数滴のアロマオイルを垂らせば、良い香りがする筈ですわ。この精油はおまけでお付けしていますが、他の物でもよくってよ」
成否
成功
第1章 第14節
『百花の博愛』
小瓶のハーバリウム。箱庭と呼ぶにも狭すぎる世界で、色とりどりの花は自由に咲き誇る。四角柱の瓶には愛らしいピンクのリボンが巻かれている。
「そう、これが私への――」
プエリーリスが小瓶を手に取ると、グラーデションがかった虹色の花々が揺れた。
「うふふ、素敵、素敵だわ!」
桃色の少女は優雅な淑女めいた笑みを浮かべる。彼女は間違いなく年下のはずだが、メレンを妙に緊張させていた。掴みどころのない雰囲気がそうさせるのだろうか?
「物の価値というのは金銭や実用性だけではないわ」
プエリーリスはオイルの中で咲き続ける花を見つめる。
実用性という観点で言えば、このハーバリウムは確かに無意味に近かっただろう。けれど、うっとりとした語調を揺るがさぬまま、彼女は続ける。
「『喜んで欲しい』という気持ちは何物にも代えられないのよ。世界でひとつだけの、貴方から私への想い――ええ、素敵だわ!」
「ありがとうございますわ。七色の花たちが、どの角度から見ても一輪一輪映えてくれるように、がんばって調整いたしましたのっ」
”気持ちは何物にも代えられない“。……喜んでもらおうと工夫した、細やかな努力が認められたようで、嬉しかった。
貰った言葉を何度も反芻しながら、メレンはプエリーリスと目を合わせる。
いつの間にか、謎めいていた彼女の表情の内から、母性的な慈しみを見出せるようになりながら。
成否
成功
第1章 第15節
「自分が使うものではなく、恋人に送る小物を作って欲しいな、と」
「あら! 任せてくださいまし!」
鏡禍の頼みに、メレンは胸を張って応じた。
装飾品を眺める鏡禍の視線は柔らかだ。人ならざる者が、定命の創造物を愛でるときの……一種の慈愛であり、尊敬でもある色を宿している。
「赤い髪に青い瞳、凛とした彼女に似合いそうなものを作ってもらいたいです」
「了解ですわ! ちなみに、彼女さんに似合う服装というのは、具体的にどのような?」
「え? それは……」
鏡禍は答えに窮し、一瞬沈黙が落ちる。メレンは慌てて言葉を付け加えた。
「難しく考えなくとも大丈夫ですわ! ただクール系かワイルド系かによっても傾向が変わりますし!」
「えっと……彼女はどんな服装でも素晴らしいので」
「あら」
鏡禍の返答は、控えめながらも有無を言わせない確信に満ちていた。
思っていたよりも深い愛に、メレンは責任の重さを感じ取った。
『天鏡』
内部に小物を入れられるロケットペンダント。トップの表面では青と赤のステンドグラスが幾何学模様を描く。繊細な模様ながらも、その輝きは目を奪うほど鮮烈。
「鏡禍様が……鏡にご縁のある方? と、お聞きしたので、ステンドグラスを使ってみましたわ。
――ええ、主張の強い色合いだとは思っております。けれど、鏡禍様の口振りからして、この色でも華麗にモノに出来る御方なのだと感じましたのー! きゃー!」
成否
成功
第1章 第16節
「確かに……こういった小物類は生活には必要ないものかもしれません」
妙見子はしみじみとした調子で語りかける。
そう、時にオタク趣味も人生の役に立たないとか聞くことがあるが、妙見子としては決してそんなことはないと主張したく――と、少しばかりの暗澹たる思い出は置いといて。
あるいは、そういった趣味だからこそ、創作物の価値を常以上に尊びたかったのかもしれない。
「でも、こうやって貴女が作る素敵なものを、欲しいと思ってくださる方もたくさん多いのですよ」
メレンを肯定する、包み込むような眼差しだった。
今まで来てくれた特異運命座標たちを思い出したのだろう。メレンはしばし瞼を閉じ、そしてぱちりと開く。
「妙見子様も……わたくしの作る物を欲しいと思ってくださって、ここへ?」
「もちろんです。私もメレン様を応援しておりますよ」
妙見子は安心させるように微笑み、メレンもまた笑顔を浮かべた。
『浮雲のカルトナージュ』
厚紙で組み立てられた小箱(カルトナージュ)。箱を包む生地の柄は、黒紫に浮かぶ金糸の瑞雲。たくさんの宝物、たくさんの縁の証――その少しだけでも守れますようにと。
「豊穣から輸入されたという、古風で上質な和柄の布を使っておりますわ!
聞くところによると、雲の模様は幸運と輪廻転生を意味するだとか……でもわたくし、揺蕩う雲のように多くの人と出会ってきたって意味があってもいいと思っておりますの!」
成否
成功
第1章 第17節
前回の邂逅から幾日か経過しただろうか。史之と睦月の二人は、再びメレンの元へ訪れていた。
以前と変わらぬ真紅のソファに座る。メレンの様子も前と変わらない。笑顔を浮かべつつも、少々の緊張を隠せないようだ。いや、前よりしっかり目を合わせようとしているなと史之は推察した。
「やあメレンさん、先日ぶりだね」
「たびたびお邪魔しています」
「ええ、またお会いできて光栄ですわ。して、今日はどのようなご用件で……?」
メレンはそわそわと手を擦り合わせるが、史之は平常通りの態度を崩さぬまま、さらりと答えた。
「この間は『比翼』をありがとう。それでね、もしよければ『連理』を作ってもらいたくてさ」
「ほ、本当ですか!?」
メレンはがたりと立ち上がると、すぐ横の睦月にも視線を向ける。彼女は鮮やかな緋色の双眸を細め、静かにはにかんだ。
「僕、ひと目で気に入ってしまって、それはしーちゃんも同じだったようで」
そう言う睦月の胸元には、白銀のブローチが身に付けられている。きらりと、自己主張をするように輝いてみせた。
比翼連理。比翼の鳥と、連理の枝。
片割れなくしては飛べない番の鳥。根は違えど傍らに在り、共に育つ枝。仲睦まじい夫婦を形容する言葉であった。もちろん、前の制作品もこの比喩を意識していたのは確かだったが――。
メレンが不意を突かれたような顔をした理由は、追加の注文依頼が予想外だったからというのが一つ。それから――決して二人の夫婦仲を疑っていたわけではないのだが――表面上は飄々と振る舞っていた史之の方から注文を申し出たのが、意外に思えたからなのかもしれなかった。
「俺とカンちゃんは夫婦だから、ちょうどいい感じのペアアクセがほしいなって思ってたとこなんだ」
「ええ。覚えておりますわ。……そう、ですの。光栄ですわ」
感極まるメレンへ、睦月はそっと付け加える。
「貴女の作品には、人の心を動かす力があるようです」
心を込めて作って、貰った人も心を込めてくれるような作品。おそらくはそれこそが、メレンの作りたかった物で。
「最高のアクセサリーをお願いするね」
「――はい! わたくし、がんばりますわねっ!」
史之の言葉にも、メレンは自信を持って応じた。
『比翼』
左半分が割れた水晶に、白銀の鳥の片翼が羽ばたくブローチ。その玲瓏なる輝きは、月夜に舞う夜桜の如く。儚さを孕むつばさ。
『連理』
右半分が割れた水晶に、白銀の鳥の片翼が羽ばたくブローチ。その幽玄なる輝きは、霜の降りし朝桜の如く。広げたつばさは片割れよりも少しだけ大きい。きっと、もう一方の守護者足る為に。
「お察しであろう通り、二つを組み合わせるとぴったり一つのブローチにもできるデザインですわ! きゃー!
せっかくですから、ペア用にリアレンジした『比翼』も用意しましたわ。お好きな方を使ってくださいまし!」
成否
成功
第1章 第18節
特異運命座標たちとのひと時は終わりを告げた。
メレンは作業机の前に座って、頬杖を付く。
――これから、どうしようか。
悩ましかったけれど、あの気分が沈む感覚はなかった。もっと晴れ渡った気分で未来を見据えられている。
それもこれも、自分に期待を寄せてくれた人たちのお陰だ。
頭の中で思い出を辿って、ついつい頬を緩めていると……一番最初に作ったアクセサリーが、再び目に入った。
ほつれているけれど、きちんと繋がれている糸は、まるで自分の未来を示してくれているように思われた。
●
ある日、彼女の元に手紙が届く。
聞いたことも、見たこともない差出人だった。
不思議がりつつ封を切ると、そこには「あなたにアクセサリーを作ってもらいたい」と、そう書かれていて――、
~END~
NMコメント
こんにちは、NMの梢と申します。
今回はライトシナリオ形式のラリーです。一章のみで完結する予定となっております。
●目的
貴族の娘『メレン』を満足させること!
彼女に装飾品や小物類を作ってもらってもいいですし、気晴らしにお話するのもいいでしょう。
ライトシナリオですので必ず成功判定が出ます。お気軽にご参加ください。
●NPC
・『メレン』
貴族の娘。16歳。幻想在住。
貴族といえども、そこまで爵位は高くありません。それ故に自由な振る舞いが許されている様子。
アクセサリーなどの小物作りを趣味としています。
本来は素直で明るい性格なのですが、自分を認めてくれる者の少なさに嘆いています。
・情報屋『リゼリィ』
オープニングで説明をしていた人。リプレイには登場しません。
●行動
以下の選択肢から選ぶことができます。
【1】小物を作ってもらう。
メレンに会いにいき、小物を作ってもらいます。
特にご指定がない場合、参加PC様モチーフの小物が制作されます。
リプレイでは、アイテムの特殊化に利用可能な「アイテム名+フレーバーテキスト」のセットを添えてお返しします。
※実際に特殊化などで使用するかどうかはプレイヤーの皆様におまかせします。
ドロップアイテムとして発行されるわけではありませんので、その点はご注意ください。
【2】お話する。
メレンに会いにいき、談笑を交わします。
こちらでは小物類の制作は行われません。
リプレイの返却は比較的ゆっくりめの予定です。
それでは、ご縁がありましたらよろしくお願いします。
動機
当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選びください。
【1】小物類を作ってもらいたい。
【2】メレンに元気になってもらいたい。
【3】ギルドで話を聞いて、なんとなく。
【4】その他
上記の選択肢に当てはまるものが無ければこちらを選択してください。
これを選ぶ場合、補足事項の記述を推奨します(必須ではありません)。
行動
どちらの行動を取るかをお選びください。
【1】小物を作ってもらう。
メレンに会いにいき、小物を作ってもらいます。
特にご指定がない場合、参加PC様モチーフの小物が制作されます。
リプレイでは、アイテムの特殊化に利用可能な「アイテム名+フレーバーテキスト」のセットを添えてお返しします。
※実際に特殊化などで使用するかどうかはプレイヤーの皆様におまかせします。
ドロップアイテムとして発行されるわけではありませんので、その点はご注意ください。
【2】お話する。
メレンに会いにいき、談笑を交わします。
こちらでは小物類の制作は行われません。
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