シナリオ詳細
<ジーフリト計画>犬の嗅覚
オープニング
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アルマノイス旧街道――そちら側から地底に潜る道を利用し、『マイケル鍾乳洞』へと至る。
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は独立島アーカーシュの動きを耳にしてはいた。
各派閥も表だった作戦の裏で秘密裏に動き始めてはいる。
ベネディクトの傍に居た茶太郎とポメ太郎が「ご主人様、こっちです!」「こっちこっち!」と呼び寄せたのは理由があったのだろう。
「どうした、ポメ太郎、茶太郎……そんなに急いで何処に――」
2匹が慌てた様に欠けて行く先には一人の少年が立っている。
――アーカーシュでの活動時、ベネディクトは友人が一人居た。アッシュ・ルベルノーという少年だ。
勝ち気な狼の獣種の少年である。
スラムで育ったという彼は鉄帝国がアーカーシュの探索を行なう際の派遣兵団に紛れ込み、島内探索を行なったらしい。
その理由というのも「下に居たって喰う者に困るんだ。それなら前人未踏の地で飯探しした方がましだろ?」との事である。
非常に逞しい考え方を持っていた少年とは島でポメ太郎や茶太郎が懐いていた。俺は狼だと拗ねてはいたが彼も2匹の『わんこ』には満更でもなかったようだ。
犬たちの友人であったアッシュの事を唐突に思いだしたわけではない。
何故か、彼がアルマノイス旧街道の横穴から入った先の通路に立っていたからだ。
「ベネディクト」
名を呼んだ彼にベネディクトは「アッシュか」と目を丸くした。
「茶太郎とポメ太郎は良い奴だな。合図を送ったら直ぐに気付く。立派な猟犬だ。ジャーキー食うか?」
餌をあげすぎては太ってしまうと言い掛けたがベネディクトは一先ずアッシュの出方に任せた。
「アーカーシュから降りたのか?」
「随分前に。国がこうなってからは帝政派に身を寄せさせて貰ってた。
帝政派じゃフローズヴィトニルの攻防の最中にバイル閣下が大移動をすることになったらしい。
だからその前に南部の――バーデンドルフ・ラインの様子を見に行ったけど、アッチは敢て敵を引き込んで討伐する方針なんだってさ」
お陰で入れたものじゃないとアッシュは肩を竦める。ベネディクトは彼が唯のスラム上がりの青年でも、ただの犬の友達でもないことには気付いて居た。
「で、折角南部に向かったついでに目的は――
資源豊富な『独立島アーカーシュ』がバラミタ鉱山を狙う経路で利用するマイケル鍾乳洞を駆使して、道の確保に動く事、だ。
そうすれば、進軍経路と共に備蓄の融通もやりやすくなる、だろ? 一石二鳥だ」
「……一番大切なことを聞いても構わないか? お前は『何』だ?」
アッシュはにぃと唇を吊り上げた。
「アッシュ・ルベルノー。唯の狼男だよ――と、言いたいけど、ちゃんと協力するなら自己紹介しておかなくちゃな。
鉄帝国保安部の諜報員。ゲルツ・ゲブラーとか、知ってるだろ? ラド・バウのあれの同僚だよ。
ベネディクトのことは調べさせて貰った。『黒狼隊』って言うんだってな、ちょっと手を貸して貰えるか――?」
帝都は冷たい風が吹いている。
だが、最終局面ともなれば、各地に点在している派閥はバルナバス打倒の為に帝都に集結することになるだろう。
その為には切り札は多い方が良い。
アッシュは南部戦線での合流時に、重要な任務を仰せつかったという。
「マイケル鍾乳洞から、南部戦線に向かう道がある。勿論、あっちに向かえばバラミタ。
それから、あっちが帝都――そちら側はアルマノイス旧街道。ある意味で各地への中継地なんだ。
合流するための進軍経路を幾つか用意しておきたい。地上だけでまだ足りないだろ?」
「その為に、イレギュラーズの手を借りたい、と」
「そう。犬の手も借りたいほどに」
わんと大きな声を上げた茶太郎。ポメ太郎も嬉しそうではある。
アッシュ達鉄帝国保安部の諜報員達は斯うして各地で『進軍ルートの作成』を上司であるバイル・バイオンから仰せつかっているらしい。
バイルが秘密裏に南部に向かうタイミングで一斉に動き出したのだそうだ。
「この寒さだろ? モンスターが横穴に入り込んでたりするんだよ。
……まあ、討伐の手伝いと、調査を兼ねて――だ。敵の喉元を狙う用意は周到であればある程に良い」
にいと唇を吊り上げたアッシュに何も分かって居ない顔をしてポメ太郎が『そうですね!』と大きく鳴いた。
- <ジーフリト計画>犬の嗅覚完了
- GM名夏あかね
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年02月11日 21時25分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「この殺風景な洞窟が、いずれたくさんの人が行き来する道になるんだろうなあ。
この国、冬は大雪とか大変だろうし、一般にも使えるようになればきっとすごく便利になるぞ。よっし、頑張るぞー!」
やる気十分。拳を振り上げた『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)の傍ではでっぷりとした大きな茶太郎が尾を揺らして鳴いた。足元ではポメ太郎がぴょんぴょんと跳ね回っている。
アッシュ・ルベルノーは「宜しく頼む」と柔和な笑みを浮かべてみせる。狼の耳が揺れれば、その姿だけで仲間認定をした2匹のわんこが嬉しそうにアッシュへと懐いていた。
「まさかこの様な場所でアッシュと出会う事になるとはな。茶太郎もポメ太郎もその合図とやらを良く気づいた物だ……褒めてやらねばな」
褒めて下さいと言いたげにお座りをして口を開いたポメ太郎に『騎士の矜持』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は思わず吹き出した。口を開いた理由が食欲であり、直ぐさまに『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)によって阻止されたからだ。
「先の事を考えれば今回の件は無事に成功させたい、無論協力するとも。俺の知人であり、茶太郎達の友人の頼みならなおさらな」
「有り難い。まあ……友人って言いつつ素性を隠してたわけだけどさ」
底は申し訳ないと肩を竦めるアッシュに『明けの明星』小金井・正純(p3p008000)は「アッシュさんの素性には驚きました」と頷く。
「いくら鉄帝とはいえ政治のあるこれにはそういう方もいますよね。それに……ポメ太郎達がいるのでなんか癒されますね。
貴方の素性は兎も角、地下を通じてゼシュテルの各地を繋ぐ……寒さがあり、過酷な環境かつ敵がある程度幅を聞かせている地上の交通網よりも比較的安全に輸送や移動に使える手段として確保するのは良さそうですね。
アーカーシュとしても他人事ではありません、協力させて頂きましょう」
アーカーシュや北辰連合。それらと帝都を安全に繋ぐルート構築は大切だ。食べ過ぎてはならないとポメ太郎を見張っていたリュティスも表情を変えず頷く。
「各派閥間の連絡が取りやすくなるのは良いことですね。連携もしやすくなりますから……」
「敵の喉元を狙う為にも進軍ルートは多ければ多いほど良いもんね。その為にも先ずは地下道の安全を確り確保しなきゃっ!」
頑張るぞと張り切ってみせる『なじみさんの友達』笹木 花丸(p3p008689)に『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)はそれにしても、と地下通路を眺めた。
「ふーむ、洞窟の安全確保か。私たちにまでこの手の依頼が回ってくるということはよほど人手が足りないらしい。
なんにせよ今後のために必要とあらば手を貸すさ。これが大きく戦況に影響を及ぼす可能性だってある」
地下通路は鉄帝国の地底に広がる巨大な迷路のようなものだ。何処に繋がっているかを逐一確認しておけば、何らかの決め手にもなろう。
「帝政派の首魁が南部戦線まで、か。事態が動きそうだな。
その動き……動揺するのが新皇帝派であるように、全力を尽くさねばなるまい。
風牙の言うように、この通路は将来の鉄帝の民にとっても重要なものになるだろうし、な」
この場所は住民達にとっても普段から利用できる通路になるだろう。『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)はまじまじと頷いてからチャリオッツに馬車を繋げた。
イレギュラーズはルートの安全確保と難民保護に分れて活動する事にしていた。チャリオッツに繋いだ馬車には水や毛布、食糧を積み『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)はチャリオッツにちょこんと座ったポメ太郎に落ちないように声を掛ける。
「ぶはははッ、難民保護は任せてくんな!」
胸をドンと叩いてからゴリョウは移動手段でアルチャリオッツと共に通路を進むことにした。
難民達の移動式簡易保護キャンプ。難民を乗せることで安全確保と健康管理を容易に行なう事が出来るのだ。探索の面々も護衛にそれ程気を配らなくて良くなる。
「アッシュ、索敵を担当してくれ! ポメ太郎も緊急時の連絡役だ」
「そうだな。アッシュ、お前も馬車の護衛を頼む。そちらに何かあればポメ太郎を介してくれて良い」
ベネディクトがポメ太郎をアッシュに任せるように声を掛ければゴリョウは「二人とも頼むぜ」と笑う。
「ああ。任せてくれ」
わん、とアッシュの言葉に重なるように答えたポメ太郎は何処か誇らしげであった。
●
目を、耳を――感覚を研ぎ澄ませ、無数の温度を見分けながら風牙は進む。敵だけではなく、崩れやすい場所や滑りやすい場所などの危険地帯もチェックし、色を付けた石を設置することで見分けられるようにと心掛ける。
「結構、横穴が多いんだな……」
「はい。分岐路がありますね。確認して参りましょうか」
南部戦線に向かう道は先導隊が確認するが、簡易な横穴はリュティスや風牙、ベネディクトが内部確認をすることと決めていた。
奇襲を避けるためにも未探索のルートは出来る限り残さぬようにと留意する。ファミリアーの猫が先行し、リュティスは暗い横穴の中をまじまじと眺めた。
「……獣の糞でしょうか。何処から掛け物1匹が入り込める程度の穴があるようですね」
「ふむ。獣ならば此処はクリアだな。次の横穴に行かねばならないか」
先行する正純達との早期合流をしながら横穴を探索するべきだとベネディクトは来た道を戻ることにした。
耳を、そして嗅覚を研ぎ澄ませ、周囲の反応を探っていた花丸は「あっちの横穴から何か聞こえるかも」と振り返る。
ゆっくりと進んでいたエーレンは「モンスターでは無さそうか?」と首を捻る。下り、上がり、道は平坦ではなく、やや歩きづらい。
そこから降るようにして横穴が存在している場合はある程度をその暗がりを見通す目で確認出来るが昇りとなればそうは行かない。
「……お願いできる?」
花丸が問い掛ければ風牙は頷いた。登った先に『人の気配』があるのだ。確かに怯えの感情や悲しみに対しての反応があるとブレンダは告げる。確かに何者かが動く音がする。閉所である以上は音の反響は重要な要素だ。
「襲いかかってこない獣は唯の、自然生物ですから問題はありませんが……ここから先は危険もありそうですね。
先に難民を避難させてから、経路の安全管理に取り掛かるべきでしょうか」
「ああ、そうしようか。花丸殿が前を進んでくれている間は奇襲にも備えられそうだ。ゴリョウ殿、難民の世話は頼んだ」
ブレンダがくるりと振り返り、正純は更に前方を警戒するように目をこらす。
任されたと笑ったゴリョウにチャリオットの上から顔を出したアッシュとポメ太郎が身振りだけで合図を送る。後方からの敵襲にも彼が出来る限りの察知を行なってくれるなら問題は無かろう。
正純が前方を警戒している最中――風牙達は難民が隠れ住んでいる横穴へと到達していた。
「だ、だれ」
怯えたように声を上げた難民は泥だらけの顔をして居る。すっかり痩せ細り、鉄製の小さな鍋の中には僅かに生えていた雑草や、先程ベネディクトが横穴でチラリと見た小さな動物が入っていることに気付いた。
「……オレ達はローレットの者だ。あんた達を保護にきた。もう大丈夫!
すぐそこに温かい食べ物を用意してある。案内するよ。けが人や病人がいれば言ってくれ。運ぶのを手伝うから」
出来るだけ怯えさせないようにと声を掛ける風牙に難民が不安げな表情を見せた。其れも織り込み済みだ。そもそも、鉄帝国は未曾有の人的災害に見舞われて現状がある。難民達を狙った誘拐事件など山ほど発生していることだろう。
「ローレットって何でも屋でしょう……?」
「ああ。確かに。だからこそ今回はお前達の保護にやって来た訳だ。
こちらには炊き出しの用意がある。怪我をする事もあるまい、どうだ、落ち着けないか」
身分は確り把握して貰えるはずだとベネディクトは静かに告げる。差し出したのはゴリョウが作ったパンだった。
リュティスは難民がどさくさに紛れベネディクトを害さぬようにその目を光らせている――が、ベネディクトは敢て丸腰で彼等を受け止めていた。
何らかの危害が加えられる際にはリュティスが直ぐに対処をするという安心感、そして自身とて遅れをとらぬ為に丸腰であれど警戒は解くことはない。
まだ幼く見える少年がベネディクトの手からパンを引っ手繰って貪り喰らう。風牙は「こっちへ」と難民達を連れて横穴を出るが――
「飯だ」と呟く声が聞こえた最中、少年がチャリオッツに向けて走り出したことに気付いた。
「大丈夫、俺達は味方だ。出会ったからにはもう安心してくれ。栄養のある温かいスープがある。まずはそれを飲んで気持ちを落ち着けてほしい」
エーレンは子供を受け止めるべく、武装を解除し手を伸ばす。花丸は「十分に食材は用意しているから」と手を伸ばした。
これは、チャリオッツから食材を奪おうとする子供らしい短絡的な考えに基づいている。此処でイレギュラーズが出し惜しみする可能性があるとでも判断したのだろうか。子供を送り出した難民の女はイレギュラーズに其れが阻まれたことを悔しげに眺めている。
(……精神を遣ってしまう程の空腹、か。遣る瀬ないことだな……)
ベネディクトは拳を構えた花丸の前に子供が辿り着く前にリュティスがその腕を掴み上げた事に気付いていた。
「武力制圧は避けたいのでご協力頂けますか?」
――ひゅう、と風を切られた。適当な岩に向けて一撃のスキルを放ったリュティスの眸が冴えた色を乗せている。引き攣った声を漏した女と泣き喚きだした子供を横穴の中から数人の難民が眺めている。
女子供なら此方が油断するとでも考えたのだろうか――何にしても遣る瀬ない話しだと風牙は肩を竦める。
「だから、安心してくれよ」
「そうです。此方も悪人ではありません。……見て頂ければ分かるでしょう。
暖かい食べ物と、休める場所があります。それで今は少しでも体力を取り戻してください。外に出られれば保護できます」
正純がチャリオッツを指差せばゴリョウが手を振った。干し茸、煮干し、そしてベーコンを煮だしたスープを準備していたゴリョウは「良い香りだろう」と難民達を誘った。
●
横穴に入り込んでいた難民達は外に繋がる通路があるのだとイレギュラーズに告げた。逸れた天衝種達が待ち受けている横穴や、暴れた獣の制圧などを繰り返しながら地図を埋め続ける。
マイケル鍾乳洞から南部に至るまで、一本の通路とその周辺の横穴に関してはある程度網羅できただろうか。だが、全ての通路把握は難しい。
確認した道から更に別の通路に繋がっていた場合は探索を放棄せざるを得なかった。それだけ、巨大な地下通路がこの場所には構築されていたのだろう。
ゴリョウに「スープおかわり」と子供が声を上げている。オロオロとしていた母親も涙を流しながら暖かな炊き出しを食しているようだ。
「リフィーディング症候群ってのがある。
飢餓状態で急に十分量の栄養補給を行うと、急な糖負荷により血中濃度が低下し心不全や呼吸不全を引き起こす。
このスープはそれに対し足りない栄養素を補給し、体を温めるためのものだぜ」
体が十分に温まれば、雑穀を加え数時間掛けて食べるようにとレクチャーする。難民達はこのチャリオッツに居たのがアッシュのような青年だけであれば数人で制圧するつもりだったのだろうが強面のオークが――笑顔であれども――見守って居る事は圧を与える事にも繋がっていたのだろう。
「ゴリョウさん、アッチに天衝種がいるらしい。任せてもいいか?」
「ああ、大船に乗ったつもりで行ってこい! コッチにはわんこたちが居る!」
なあ、と振り向かれたアッシュは任せろと風牙に身振りだけで合図した。頷く風牙が槍を手に全船へと走り出せばエーレンがサザンクロスに手を掛けている。
「――鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。ここから先に通れると思うなよ!」
地を蹴った。仲間達の動きに合せながらも一閃。腰を折り、踏み込み、抜いたままに斬りつける。雷がばちりと音を立てて直走った。
エーレンの前へと飛び出してきたのはどこからか逸れたのであろう天衝種だ。その種類はなんであっただろうか、地上でもよく見られるモンスターと大差は無い。
背後には移動基地がある。其れ等を護る為にも、機動力を活かし、エーレンはゴリョウ達の許に天衝種が行かぬように時を配った。
「こっちだよ! 向こうには行かせないんだからね」
花丸は声を張り上げる。天衝種達は其れなりに数があるか。其れ等を惹き寄せてから傷だらけの拳を固める。単純な突きだけじゃない、その体を酷使することにも随分と慣れてしまった。
傷付けて壊すばかりであった花丸が、護る為に振り上げる拳に意味を与える。この地底では見えないけれど――笑い合いながら空の下に駆け出すために。
一打、叩きつけたのは自らが得てきた経験。横穴から入り込もうとしていたモンスターと相対する風牙は「飯の匂いに釣られてきたなら好都合だな!」と笑う。
槍を後ろ手に持ってから一気に身を捻った。突きつける。其の儘、身を弾ませて後退させれ、必殺の衝撃が周囲へと広がった。
ベネディクトの蒼き眸に戦意が灯される。空(ひとみ)は唯、狼の唸り声にも似た音を奏でた一撃の行く末を見定めている。
「ご主人様、前方から」
「ああ、リュティス――行くぞ」
多重の残像を作り出した一本の槍、続くように黒き蝶々が共に踊る。ひらりと舞うリュティスの武闘は数多の命を狩り取るかの如く。
「そちらは?」
静かな声音で問い掛けたのは正純であった。花丸が纏めた敵を混沌の根源魔素を束ねた一糸に変えて打つ正純が弓を引き絞る。
宿命の星を射貫くが如く、容赦なく敵を退ける正純の矢は呪いと祝福を待とう。
この場所では天は遠いが、地底に潜るからこそ輝ける物がある。ぎりぎりと音を立てた弓の宿命が血より輝く星と成り得るように。
星詠の眸は的確に宿命(いのち)の在処を穿った。
「大丈夫です、其方は如何ですか」
問い掛けに「お任せ下さい」とだけ正純は囁いた。難民達を護りながら道中安全を確保する事は、チームワケを行って居た事で窮地に陥ることなく熟すことが出来ていた。
エーレンと花丸、そしてブレンダが前線を進み、正純が後方より射続ける。その連携は淀むことはない。
刃に生きてきたブレンダが捧げる最高の一撃。刃烈婦の命。戦場に居続け戦い抜いた証。ただ、戦と直向きに向き合ったからこそ身に着けた証左。
「この天衝種達は地上から逃げてきているのだろうな。使用されなくなったら放置とは、ペットの飼い方も理解していないようだ」
「……邪魔なのでしょうね。どうせ、冬の寒々しさで死んでしまうとでも踏んでいたのでしょうか」
ブレンダが天衝種を倒しながら呟く言葉に正純がやれやれと肩を竦める。それが地下に逃げ込んで障害と化しているなど新皇帝派は考えても居ないことだろう。
この地か通路は有用だ。イレギュラーズは『安全に其れを確保する』事と定期的な巡回が必要になるだろう。戦いが終われば、民草の地下通路として利用を再開させてもいい。戦闘が続いているならば避難経路としてより良く利用できるはずなのだから。
「……天衝種は定期的に横穴から入ってくるだろうな……」
「うん、だけど地形の確認が済んでいるから、これから先も定期的に巡回したり、色んな派閥の自警団が見て回れば、此処は安心できる通路になる筈だよ」
敵の手に落ちる前にこの道の全容がある程度理解出来て良かったと笑う花丸にエーレンは石を一つ設置してから頷いた。
地図はアッシュの手に渡り、その後、帝政派に現存している政府に渡ることだろう。それを有効活用するのが政治であり、そしてこの国の在り方に繋がっているのだから。
敵襲の波が引いた所で経路の再確認をしようとアッシュは提案した。皆がいる内に道の確認と、地図の見方を知っておきたいという事なのだろう。
「なら食事にしよう。さあ、わんこsには戻したキノコや大豆ミート、キャベツを使ったダイエットメニューをあげよう。
食物繊維も豊富だぞ。大豆ミートの代わりにベーコン使ったもんもある。皆で腹拵えをしてこの後の調査にも活かそうぜ」
あと少し進めばアッシュが指定した地点に辿り着く。難民達の保護も出来る限り進んだことでこのルートは安全に利用できるはずだろう。
「ふふふ、うちの子と違ってもこもこだ。うちのインベルは直毛だからな。これはこれで心地いい手触りだ。ご褒美にジャーキーをあげるが……内緒だぞ?」
こそこそと差し出すブレンダにポメ太郎は『わん!』と大きな鳴き声を上げてしまった。休息時間は難民達の話をよく聞いてから食事を促していたブレンダだが、共に居た愛玩動物(ポメラニアン)にはついつい甘くなってしまったのだ。
もう少しだけ腹拵えしたならば後はラストスパートへともう一踏ん張りだ。だが――
「食べ過ぎは行けませんよ」
リュティスに抱えられたポメ太郎は「くうん」と悲しげな声を漏してからしょんぼりと項垂れ、手脚をだらりと投げ出したのであった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
TOPイラストの、わんわんの圧が、とても強いなあと関係ないながら思いました。
この通路も、今後色々な利用方法がありそうですね。
GMコメント
●成功条件
アッシュの指定する地点までの安全確保
●鉄帝国地下道
現在、地上の線路を利用してバイル閣下が移動中なので、その最中に各地に進軍ルートを開くのが鉄帝国保安部へのオーダーです。
南部戦線のゲルツと連携し、アッシュは先にアルマノイス旧街道側の道と南部バーデンドルフ・ラインへの道を繋ぐつもりだそうです。
現在は皆さんがご存じのようにフローズヴィトニルの戦いが起っている『裏』ですので比較的安全に経路確保が可能です。
推定される敵勢対象は
・迷い混んできた獣たち
・放置されてしまっている天衝種
・元から此処に在住のモンスター
・横穴から入り込んで腹を空かせた余り正気じゃ無さそうな難民
です。特に最後の難民は保護を行なってあげてください。それなりの数いそうです。
●同行者『アッシュ・ルベルノー』
スラム上がりの青年。アーカーシュの調査隊に随行していました――というのは表の姿。
本来は鉄帝国保安部所属の諜報員。アーカーシュや南部戦線、北辰連合などを素知らぬ顔で渡り歩いています。
現在はバイルの直接の指示を受けて活動中です。帝政派から南部に様子伺いへ移りました。
戦闘はそれなりに。ほぼ喧嘩の延長戦のようなものです。得意とするのは索敵、諜報員としての様々な能力です。
自身の出自は仕事を依頼する相手であるからこそ開かしましたが、基本は秘密にして欲しいのだそうです。
秘密にするために大体は犬の友達などと適当な名乗りを行ないます。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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