シナリオ詳細
<クリスタル・ヴァイス>『チャンプ』
オープニング
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――チャンプが勝った! チャンプ! チャンプ!!
あの時、俺は全盛期にして絶頂期だった。
ああ。あの時に死ねたのなら――まだ俺は幸せだったのかもしれねぇな。
●
鉄帝の地下道。どこからか冷気が吹くのは外と繋がっているからか。
それとも『別の理由』があるから、か。
――フローズヴィトニル。鉄帝を襲う大寒波の総称。
それはしかし伝説上の『冬』の概念を宿した存在になぞらえた名であり――そしてフローズヴィトニルとは架空の存在ではなく鉄帝の地の奥底に『封じられた存在』であるという。銀の森を拠点とするエリス・マスカレイドが語った内容だ……そして同時に、新皇帝派組織である『アラクラン』の者が、その封印の要を狙っているという。
「何のために――っていうと、決まり切ってるわよね」
「フローズヴィトニルの復活、もしくは利用って所かな?」
であればと言を紡いだのは美咲・マクスウェルやヒィロ=エヒトであったか。先日のゲヴィド・ウェスタン攻略作戦が成功して以降、南部戦線も捜索が可能になった地下道に手を伸ばしていた訳だ、が。
調査していればどうにもアラクランの影がちらほらと見えるのだ。
それ所か、別地点では彼らを率いる総帥であるギュルヴィなる人物の姿も目撃されたという――その狙いがフローズヴィトニル関係である事は明らかだ。銀の森などを経由して各派閥に情報が齎される事もあれば、地下への警戒は強まるもの。
現状でさえかなり厳しい環境であるというのに封印が綻びればどうなるか。
アラクランの好きにさせておく理由はない。まぁアラクランの事情が無かったとしても……この地下道を確保できれば南部戦線にとっても、いずれ行うであろう帝都へのルートの一つとも出来るのだ。新皇帝派の跋扈する地上以外の侵攻ルートが確保できる意味合いは、大きい。
故にイレギュラーズなどの少数精鋭が地下を進む――
より深き所へ。フローズヴィトニルなる存在の気配が大きくなる場所へと……
さすれば、至るものだ。
横穴があったかと思い覗いてみれば些か広き空間へと――と、その時。
「――あれ?」
「――おや?」
その場へと至ったのは、南部戦線の者達だけではなかった。
敵か? 一瞬そう思ったものだが、よくよく見てみれば……違った。
それはラド・バウ独立区側より侵入したイレギュラーズであったのだ。なるほど、まぁこういう事もあるかもしれない。そもそもこの地下道はあまりにも広く、複雑だ。まるで生物の血管であるかのように張り巡らされている。
だからこそ別の箇所から侵入した者達と巡り合う事もあるだろう。
まぁ新皇帝派という訳でもない限り争う必要はない――それよりも。
「……ん? チャンプ!?」
「あぁ、なんだ。俺の事は、気にするな」
驚くべきはラド・バウ側の一人として。
スーパーチャンプと謳われしガイウス・ガジェルドの姿が見えた事だろうか。
鉄帝における三強の一人。ヴェルス、ザーバ、そしてガイウス……ヴェルスは行方不明であり、ザーバは南部戦線の頭目として軽率に行動は出来ず。立場に縛られぬ存在として――ガイウスには多くの期待が寄せられていてもおかしくなかった。
しかしガイウスは今まで動かなかった。
それは彼自身がラドバウの最終戦力として期待されている事を……まぁ彼自身が自覚してるかは分からないが――とにかく彼が常に闘技場にいる事が、ラド・バウを心の頼りとして訪れた民などの支えになっていた面もあるが故に意味はあったろう。
「けど、どうしてまた突然……?」
「ホントだよね、はぁ、はぁ。ガイウスが突然飛び出したからビックリしちゃったよ……ね、焔ちゃん」
しかし、と。炎堂 焔(p3p004727)が思わず疑問を口にする――隣には息を切らしているパルス・パッション(p3n000070)の姿もあったか。それでもガイウスは語らぬ。元々饒舌家なタイプではない彼の口は堅く閉ざされている。
と、その時。
「ん。なにかしら……あの中央部から、何か気配を感じるわね……?」
「寒い……凍えるような感じだよ。まさかこれって……」
レイリー=シュタイン(p3p007270)にフロイント ハイン(p3p010570)が気付いた。この空間の中央から――感じ得る『力』がある、と。それは噂のフローズヴィトニルの封印だろうか? 欠片がきっとあるのだ。アラクランなどの敵も求めし何かが此処に――
「おっとぉ。お客さんかよ、やぁれやれ――カチ会うたぁなぁ」
刹那。別の方角から声と――極大なる闘志が零れてきた。なんぞやと其方を見てみれば、そこには魔物に加えて新皇帝派の軍人らしき制服を着込んだ者が複数……そしてその先頭に立っているのは。
「あっ! おとっつぁんだ!」
「――またお会いしましたね」
「おぉ。アウレオナに、南部で会った小僧じゃねぇか。
こりゃまた団体だな……あの時程有象無象はいねーみたいだが」
アウレオナ・アリーアルに解・憂炎(p3p010784)がすぐ様に気付いた――
その姿はアスィスラ・アリーアルなる者。アウレオナの育ての父にして……
新皇帝側に与する者。世を乱す、魔種の一人。その背後には更に、彼に付き従う天衝種や……新皇帝派の軍人らしき者が見えるか。
「……この圧。やっぱりそうなんだね」
「なんだ……? あぁ。これは、魔種って事か?」
改めてアリア・テリア(p3p007129)や三鬼 昴(p3p010722)がアスィスラの姿を見据えれば――気付くものだ。彼から、人のモノとは思えぬ圧が放たれている事に。
呼び声、なのだろうか。強い憤怒の意思すら感じるが……しかし。
一体『誰』に放たれている?
ソレは、その憤怒は一体『誰』に――
「よぉガイウス」
「……アスィスラか」
「やっとこさ会えたな――ラド・バウのスーパーチャンプだって?
デカくなったもんだなぁ。あのクソガキがよ」
「そっちは、随分と若くなったものだ」
刹那。アスィスラが言を向けた先は――
ガイウスへと、だった。
どこか、親し気に。
どこか、憎々しげに。
語らうその姿は――一体――
「おとっつぁん、知り合いなの?」
「おぉ、当然よ。こいつはな、お前を拾うよりずっとずっと前に……
いやこまけぇ事ぁどうでもいいわな。とにかく――」
一息。
「必ずいつかブチ殺してやろうと思ってただけのヤツさ」
「しつこい男だ。そんな姿にまでなって『もう一度』やりたいのか」
「誰の所為だと思ってやがる。お前が『あの時』俺を殺していりゃあよ。
――俺はこんなザマになる事もなかったんだよ。こいつは『お前の所為』だ」
「……ガイウス?」
「あの男には、昔一時期世話になった事がある――それだけだ。気にする事はない」
激しき闘志……いやそんなモノを超えて殺意へと、アスィスラの気配は至っている。
――まるで大滝を目の前にしているかのようだ。
「……は、初めて見たよ。おとっつぁんが、あんなに怒ってるのは……
これは……今回は、ホントにまずいかも、ね……」
「お母様が言ってたよ。アスィスラ――昔のS級闘士。三十年ぐらい前かな、活躍してたのは。徒手空拳の全盛期には人気も凄かったらしいね。でも年齢的にはもう本当に若くはない筈なのに……」
然らば。アスィスラと関わりのある少女……アウレオナの気が、押されている。
親しい者であるが故にこそ、その『知らぬ面』を見てしまった故の――臆し、か?
直後に言を紡いだのはサクラ(p3p005004)である。彼女自身の調査と、彼女の母……ソフィーリヤからの話曰く、アスィスラは本来であれば病魔に侵された老人な筈なのだ、が。今の彼にそんな面影は一切ありはしない。
捨てたのか。なんらかの憤怒によって、自らが人である事を。
そうして得たのか――若いころの力を?
……同時。地下道の中央部から、こちらへと至る複数の気配があった。
新皇帝派――ではない。
それは『冬の精霊』とされるフローズヴィトニルの、影の様なモノ達だ。侵入者の気配を察して出てきたのか? 連中にとってはイレギュラーズもアスィスラ達も同様に排除すべき存在なのか、両方に向かってきている。
三つ巴の様な戦場になるだろうか。
南部戦線とラドバウ。新皇帝派。そしてフローズヴィトニル。
激しい闘志が入り乱れる中――しかし。
アスィスラは、宣言するものだ。
「ああうるせぇわんころ共だ……邪魔する奴ぁ全員殺してやらぁよ。
俺を誰だと思ってやがる――若造共が! 知らねぇってんなら魂に刻めッ!!
俺が――俺こそが、チャンプだッ!! 『常勝英傑』の力、見せてやんよぉ!」
- <クリスタル・ヴァイス>『チャンプ』Lv:40以上完了
- GM名茶零四
- 種別長編
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年02月05日 22時05分
- 参加人数20/20人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 20 人
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参加者一覧(20人)
リプレイ
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――激突する。鉄帝の地下道で、複数の思惑が。
ラド・バウ独立区と南部戦線の勢力が此処で出逢った事は偶然だが、しかし共闘の流れは自然と組まれていた。共にローレットのイレギュラーズである事は当然として、なにより共通の敵は新皇帝派に在る事は間違いないのだから。
「――でも。とんでもないのが出てきたね。
元S級闘士の魔種だなんて……常勝英傑アスィスラ。
これはちょっと一筋縄じゃいきそうにないかな?」
「なぁに――『昔』のS級だなんて、ねぇ。それは腕が鳴るわ!
さぁ、最高のステージを! 昔に『今』を――見せてやるのよ!」
しかしその新皇帝派に『S級』がいるなど想定外だと『なじみさんの友達』笹木 花丸(p3p008689)は思考を巡らせるものだ。無論『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)の言う様に臆すつもりなど一切ないが。
――常勝英傑アスィスラ・アリーアル。
敵の中核だと思わしき彼からは尋常ならざる気配を感じる。
だが、やらねばならない。フローズヴィトニルの封印たる要を連中に抑えられる訳にはいかぬのだから……イレギュラーズ達は迅速に往くものだ。花丸は敵の前衛を務めんとする天衝種共をまずは抑えにかからんとし。
「例え誰が相手でも、わたしのすべきことは変わらぬの。
――まずは邪魔な魔物……天衝種から片付けていくの」
「昔のチャンプ……30年前、大規模召喚のずっと前……
過去がどうあれ敵なら倒すよ。魔種なら尚更ね――
崩壊の因子を体に宿している者なんだ。見過ごす事もできないし、ね!
「うーん敵も味方も数が多いね、しかも三つ巴だし。
相手も軍人さんだから適当に戦ってたらダメかも。
まぁ三つ巴って言う状況をうまく利用できればいいな」
更に、花丸に次いで天衝種へとまず対応せんと動くのは『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)や『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)、『赤い頭巾の魔砲狼』Я・E・D(p3p009532)も同様である。
状況は混迷としている。厄介そうなアスィスラをともかくとしても、その配下たる者達や――フローズヴィトニルに関わると思わしき狼共も襲い掛かってきているのだから。しかしЯ・E・Dの言う様に、狼達は新皇帝派共にも襲い掛かっている……
適当に戦うだけでは混迷の渦に飲み込まれてしまうかもしれないが、食い合わせる事が出来れば或いは、と。
故にЯ・E・Dは周囲を俯瞰する様な視点と共に的確に動き出さんとするものだ。ヨゾラも優れた三感をもってして近くの状況を常に索敵せんとしつつ、更に念のためにと保護なる結界をも張り巡らせよう。
天衝種らが纏まっているならば、その者らを引き寄せ冬の精霊とカチ合わせるのだ。
胡桃の広域雷撃が天より降り注ぎ、神秘なる泥の魔力をヨゾラが紡げば、これも敵陣へと投じる――そして。
「重要ポイントに複数勢力が向かうのは当然だけど、かち合うにも程があるでしょ。三つ巴と言えば三つ巴だけど、ラドバウと南部を別けたら四つの勢力がいる訳だし……まぁ、なんとか乗り切るしかない――か。行こうヒィロ」
「うんうん! こうなったらトコトンやってやろーよ、どっちかが滅ぶまでさ!
一匹で 済むと思うな アラクラン。路地裏覗けば 虫の様に。
――なんてね!」
『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)と『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)も戦場へと介入しようか。美咲は自らに戦いの加護を齎し強化せしめ、ヒィロの動きに連鎖する様に後を追っていく――そのヒィロはЯ・E・Dの様に俯瞰視点で戦況を把握しながら、敵陣真っただ中に突撃するものだ。
数多の撃を遮断しうる結界術を用いながら。ヒィロは敵の眼を惹く様に挑発せしめん。
「お仲間のホワイダニーの首を取ったのはボク達だ!
お前らもすぐにあの世のお仲間にしてやるから、かかってきなよ!」
狙いは、冬の精霊と戦わせる為に。誘導しつつ、イレギュラーズ側の負担を減らすのだ――!
「新皇帝派はフローズヴィトニルを復活させて何を企んでるのかしら……
まさか、国ごと凍らせでもするつもり? そんな事して一体……
とにかく鉄帝の民を虐殺しようとしているとしか思えないけれど……」
「既に身を切るような寒さだ――耐熱耐冷の防護がなされている服を着ていても尚に。
……この上でフローズィトニルを解き放つだなんて、決して見過ごせない」
更に『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)や『友人/死神』フロイント ハイン(p3p010570)は、鉄帝を襲う大寒波に想いを巡らせるもの。どう考えても虐殺の為にしか思えぬが、新皇帝派はこの国を滅ぼしたいのだろうか――?
世界を崩壊させんとする魔種であれば斯様な思惑があっても不思議ではないが。
しかし単純に皆殺しにするにしては大仰な気がしないでもない……
――ともあれ止めなければ鉄帝が更に大変な事態になるのは明白だ。
故に動き出す。ハインは星明りの力を――特にパルスやガイウスなどと言った強者に齎しておこうか。彼らが十全に戦えるようにしつつ……そしてセレナは。
「宿無しは寒くなると地下に潜りますが、それは鉄帝でも同じということですか。
――尤も。新皇帝派はスチールグラードにすら住めぬとは初めて知りましたが」
『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)の傍にて彼を守護せんとする動きを見せるものだ。寛治は軍人や天衝種を嘲る様な言を飛ばしつつ――これまた彼らの注意を向けんとする。自らに戦いを最適化しうる戦略の瞳を宿しつつ……その立ちざまは正に棒立ち。
隙だらけ。言に続き態度も舐めているのかと――連中の怒りを惹こうか。
「ガイウスさんが急に出かけるなんていうから思わず追いかけてきちゃったけど……まさかこんな所で敵が出て来るなんてね。それにガイウスさんの様子がおかしいし、大丈夫なのかな?」
「分からない……でも、ガイウスなら大丈夫だよ! だって――ラド・バウのチャンプなんだから!」
「……そうだねパルスちゃん! 今はボク達もやれる限りの事をやろう!」
そうしていれば『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)はパルスと共に動くものだ。どうにも、ガイウスの様子は未だ妙というか、本調子ではないように見える……些か心配になる面もあるものだが、しかしパルスの言う様に今は彼を信じるものだ。
彼はチャンプ。そう――絶対なるチャンプなのだから。
だから今はパルスちゃんと共に戦おう。ステップを踏む様に天衝種へと切り込むパルスに次いで、焔も敵陣真っただ中に裁きの炎を投じるモノ。体が木で出来ているジアストレントは特に苦しむ様に悶えて――
然らば戦線は少しずつ乱れを生じ始めるものだ。
敵の数は多い。しかし寛治やヒィロ、花丸やЯ・E・D。数多の者達の攪乱もまた少なくない数が投じられれば決して冷静に戦線を維持する事など不可能である。引き寄せられて追わんとし、その先には冬の精霊なり天衝種なりがおれば――互いに喰らい合う所もあろうか。
天衝種の拳が冬の精霊に振るわれ、冬の精霊は天衝種らへと息吹を吹きかけよう。
「おい、冷静になれ――! 敵はまずイレギュラーズだ! 冬の精霊は放っておけ!」
「ダメだ、クソ! 無事な奴は布陣を乱すなよ! 連中を討て!」
それは削り合いの展開。であれば一部の平静を保っている軍人達が声を飛ばすが、無為な事だ。
陣形に穴が生じつつある――故に。
「ガイウス。あんたがアレとどんな因縁があるかは知らないし、部外者が口を出すことでもないだろう。だけど、一つだけ言える事がある――あんたは『チャンプ』で、アレは敵だ。あんただって、まさか散歩しに来ただけじゃあないだろ?」
「そうです――何を迷う必要がありましょうか。
此処にいるのはチャンプの首を狙う屈指の猛者たち。
挑戦は受けるのが、絶対王者たるチャンプの在り方では?」
「…………ああ。まぁ、そうなのだろうが、な」
敵の中枢たるアスィスラに影響を及ぼすのも今なら可能だと『筋肉こそ至高』三鬼 昴(p3p010722)はガイウスを囃し立てる様に言うだけ言って――前線へと向かうものだ。同時『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)も昴に随伴する動きを見せつつガイウスへと言を述べようか。
どうにも消極的な彼。しかし同じラド・バウで盃を分かち合う闘士として、同じ戦場に立つ仲間として――見せてもらいたいものなのだ。言葉ではなく、その背中で。チャンプの生きざまというものを。
昴は天衝種達を押しのけんとする勢いと共に戦闘態勢。闘氣が拳に宿りて敵を破砕せんとしようか……トールもその動きに連携しながら、一体一体確実に敵を減らさんと、傷口を抉る様に――剣撃刻んで。
「ガイウス。キミはスーパーチャンプで、アスィスラもチャンプを名乗ってキミに戦おうとしている――だったらこれはラド・バウの試合と変わらないよ。それはガイウスだって分かってるんじゃないかな?」
直後。言を紡いだのは『魔法騎士』セララ(p3p000273)だ。
何が違うのかと。場所は、ああ。あの大闘技場ではないだろう。ルールも違うだろう。
けれど……!
「もし情けない姿を見せる様なら……すぐにボクがスーパーチャンプの座を奪いに行っちゃうからね? 覚えておいてよ!」
「フッ……ああ。もしお前が奪いに来るというのなら、楽しみだ。待っているぞ」
「それじゃあまずは邪魔者を排除しないと、ね!」
チャンプの情けない姿なんて見たくないと。
ガイウスに紡げば――セララは往く。ガイウスの闘志を、思い出させる為にも。
「ラド・バウA級闘士、魔法騎士セララ参上!
さぁ――ラド・バウの特別試合開始だよ!」
まずは己が先陣を切ってみせよう。
ドーナッツ取り出し口に含めば気迫が満ちる――狙うは、アスィスラの周辺でこちらの接近を邪魔する……特に強そうな面子だ。アスィスラの弟子が良いと――彼女は剣撃一閃。
「……あの様子。ただの知り合いなどでは、決して無いな。
因縁、というものか……? 何ともまぁ。
因縁……そして運命とやらは時としてとんでもない悪戯をしてくれる!」
「鉄帝最強の一角、ガイウス・ガジェルド。
閣下と同格に数えられる希少な人物……ですが、さて。
覇気や闘志が明らかに感じられないのは余裕の現れなのでしょうか……其れとも」
然らば『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)に『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)も、ガイウスの方を気遣いながら戦線へと撃を叩き込むものだ。
まぁ……そのガイウスは、天衝種などは容易くに屠れる実力がある。近寄る火の粉なんぞに後れを取る様な男ではない。例え本調子はなさそうでも――だ。少なくとも彼がすぐ様に危険になる状況でなければ眼前の敵を片付けんと彼女らは動こう。
そう。気を付けるべきは――ただ一点。
「……残念です、アフィスラさん。
魔種でなければ、是非とも誘いたかったところなのに。
奇妙な縁になったけど、これも運命。敬意を以てお相手させて頂きます!」
「ハンッ! 邪魔だ嬢ちゃん――どかねぇなら死ぬ覚悟ぐらいはすっこったな!」
「生き抜く覚悟ならありますよ、英傑さん!」
アスィスラ・アリーアルの拳だけだ。
『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)の狙いは端からアスィスラ一人。根源たる泥を投じて押し流さんと試みる――が。アスィスラは止まらぬ。その歩みはただただ全てを押しつぶすかの如く、止まらぬのだ。
前回よりも強く感じる圧はガイウスがいるからか?
だけど、進ませない。搦め手も用いて自らの全力を注ごう。
元より簡単に押さえられるなど――思ってもいないのだから!
「……思ったよりも早い再会でしたね。
それにしても、些かご機嫌が良くないようだ。
そんなに気に入りませんか? 今の時代が。今のチャンプが」
「小僧――また会ったな。今回はテメェと遊んでる暇ァねぇんだよ」
「……やれやれ困ったお人だ。娘さんの事すら目に入りませんか」
続け様には『通行止め』解・憂炎(p3p010784)もアスィスラを止めんと往く、か。戦の加護を自らに齎し、相対。彼の拳を捌かんと全霊をもってして立ち回る――
「アウレオナさん、君は軍人達を止めてくれ――
今のおとっつぁんに刃を向けるなんて考えるな。今の彼は、危険だ。
――きっと君でも死ぬ。殺されるかもしれない」
「う、うん。分かったよ、憂炎!」
同時、彼が言を向けるのはアウレオナ・アリーアルだ。
彼女はアスィスラの事をおとっつぁんと呼び親しむ者。が、今のアスィスラからはアウレオナを気遣う様な気配はほとんど見られない……元々アウレオナにしろおとっつぁんに刃を向ける事自体は躊躇わぬ、互いに戦いの戦士たる面は見えていた、が。
とにかく『今』はまずいと感じるものだ。
アスィスラからは絶大な――『憤怒』の感情が零れているのだから。
ともあれアウレオナは彼が言う様に軍人側へと相対し、斬撃を放つものであり。
「アスィスラさん……その感情は、一体どこへ向けられているのかな?
やっぱりガイウスさんに――関わっているのかな」
「何があったのか詮索するつもりはないけれど……相手に自分の人生の選択を委ねることの重さはとてつもないものだよ? ましてや今より相手が若かったのなら尚更だ。その自覚は――あるのかな」
であれば思わず言の葉を向けるのは『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)に『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)である。サクラは天衝種へ斬撃を繰り出し、雲雀も敵陣中枢に紅き霧を顕現させ内部より敵を蝕まんとする攻勢を仕掛けながら。
語る。その根源は何処にあるのかと。想像しうる事は――あるのだから。
「ガイウスさんはスーパーチャンプと呼ばれているけど……当然ガイウスさんがチャンプになる時に挑んだ相手がいるはずだよね。貴方がそうなんだね、アスィスラ・アリーアル。更に言えば……ガイウスさんのお師匠様だったってところかな?」
「ハッ。ソフィーリヤの所の娘か。テメェには関わりのねぇ事さ……
だがその推測は半分あってるし、半分外れてやがるな」
「半分?」
「俺が闘士として全盛期だった時代は三十年ぐらい前だ。
その頃にはガイウスはまだガキだ。チャンプ戦に挑むのは早すぎるわな」
であれば。アスィスラは何処か軽く笑みを見せながら、言うものだ。
その拳に力を込めながら。その拳に……殺意を込めながら。
「俺はな。昔ちっとばかしのそこのチャンプを――弟子として世話してやった事があるだけよ」
直後、放つ。アスィスラの一撃は空を薙ぎ、イレギュラーズ陣営へと襲い掛かろうか。
前線で積極的に押さえんとしている憂炎を巻き込みつつ、さらに貫通せしめよう。
戦線の混迷は続く。はたして勝利を掴むのは――いずれなるか。
●
イレギュラーズ達の戦法は、まずアスィスラは抑えた上で天衝種や軍人、そして冬の精霊の排除にあった。その為に攪乱の引き付けを行わんとした者も多数いた訳だが――
この狙いは成功していた。敵と敵が喰い合い、潰し合う動きが見えていたのである。
それは十分な実力を兼ね揃えたメンバーが集まっていた事が大きな要因であろう。
基本的に自らの膂力をもってして押し込んで来んとする天衝種はともかく、ある程度臨機応変に動ける新皇帝派の軍人の注意まで怒りに誘えるかは……実力が伴っていなければそう簡単にはいかなかった。
「あーあ、さっきまで動いてたのに壊れちゃった。
つまんないのー。ねー、どこに命入ってるのコレ。不良品?
あっ、命令通りにしか動けないお前らに、命なんて端からなかったっけ」
アハッ、と。嘲り笑う声を零すのはヒィロだ。
特に彼女の名乗り上げは広範囲に影響を齎していた――ある人物の妄執が上乗せされる形で、彼女の挑発をより広げていたのだから。ありったけ引き付け、更には倒す事叶った敵がいれば……そのまま今度は闘志を零そうか。
抑えきれない闘志が、強き意志が敵の眼を奪い取り――隙を齎す。
然らばそこへ美咲の斬撃概念が放たれようか。
混戦の最中であればこそしうる刹那の間隙を縫いて。
「アラクランがどんな思惑を抱いてるか分からないけれど……
なんとか乗り切らないと、ね。少しずつ削っていこっか――」
冬の精霊が齎す息吹は躱しつつ、天衝種や軍人を押し込んでいこうか。後は軍人達の首を取る機会も窺う。アスィスラは指揮を執る様子はないし、軍人達が崩れれば天衝種達はより乱雑な行動しかとれなくなるだろうから……と。
「しかし軍人にしては、型に嵌っていない様に見えます――
本来であれば軍人は一個人の武勇よりも連携を重視したモノになる筈。
体系的な戦闘術とは外れた、別の何か……」
「――アスィスラの手が混じっている、と言う事ですか。
かつてのチャンプ殿は、弟子の育成にもそれなりに興味があったようで。
しかし……なんともこちら以上ではない様ですがね」
と。その軍人達へと蛇の様にのたうつ雷撃を放ちながら、アッシュは思考を巡らせるものである。何か違和感がある、と……寛治は引き付けた面々へと数多の銃撃を注がようか。敵のみを穿つ雷撃と銃弾は、混戦の最中において十全なる性能を発揮する――
勿論敵を引き付けた上での行動であれば寛治には敵の攻勢が集中する、が。
それはセレナが完璧に防いでみせるものだ。
「相手の頭目が常勝英傑……なんて肩書を持ってても、その下にいる人達まで同じぐらい強い――とは限らないものね。でも……だからこそ、あのチャンプの方は油断できない気配を感じるわ……」
庇いて防ぎ、敵の撃を捌き落とすセレナが微かに視線を向けたのは――アスィスラか。
暴れている。正に暴力の化身が如き勢いで。
……軍人達は抑えられるだろうが、はたしてアレを抑える事になっていたら真正面から対峙出来ていただろうか……? いえ、仮定の話など無意味。どうせ負けられない事だけは確かなのだ。
(わたしもわたしの役目を果たすだけ――負けないでね、チャンピオン)
ラド・バウの闘士なら、闘って、闘って、最後まで闘うべきなのだから。
同じくラド・バウ派に籍を置く者として『仲間』の身を案じつつ……然らばセレナは寛治の護衛を続けつつ、隙が出来れば攻勢にも転じるものだ。
掌上に浮かべた幻月が神秘たる黒紫光を放ちて敵を薙ごう――
「アウレオナ、だっけ。どうやら知り合いのようだね。そんな相手から向けられる特大の殺意は堪えるかもしれないけど……あれは違う。アスィスラと同じ顔と、同じ声だけど、違う。抜け殻や影、未練……とにかく別の何かだよ。気を強く持って」
「……アレはおとっつぁんだよ」
「それでも、だ――妙な声だけは、聞かないようにね」
同時。ハインはアウレオナへと言葉を掛けようか。戦いに集中できるように説得するのだ……ほんの微かな迷いが、如何なる結果を齎すかもしれぬのだから。
「ガイウス、君もだよ。君は悩んでいるか、あるいは迷っているはずだ。完全にやる気がないなら、最初からここには来てないだろうからね。君とアスィスラの間に何があったのかは知らない――だから僕から言えることは一つだけ。『あまり時間はないよ』」
「だろうな。安心しろ、腑抜けになるつもりはない」
「そう。それなら任せたよ」
故に。ハインはガイウスへとも――言を紡いでおく。
彼のやる気もまた、この戦いに大きな要素を齎すだろうから。
――そしてハインもまたアスィスラを抑えるべく前へ。
急ぎ彼の下へと向かい……抑えに加わらんとするのだ。
「初めまして、僕はA級闘士のハイン。
可愛い後輩に、怒っている理由だけでも聞かせてくれないかな?」
「おぅおぅA級たぁガキの割には中々やるじゃねぇか――
だが腕っぷしが伴ってるかも分かんねぇ奴と口開く義理はねぇなぁ!」
刹那。アスィスラの放つ神速の拳が――ハインに達せんとする。
死の気配。ハインの齎す守護の力がその気配を少しでも遠ざけんと立ち回ろうか。
止める。必ず止める――こんなのを自由にさせる訳にはいかないのだから!
「流石だね、アスィスラさん……私も早く向こうに加わりたいんだ。
早く退いて欲しいけれど――
さしずめ貴方達もアスィスラさんの無念を晴らすための弟子ってところかな?」
「……そうだな。師は怒っている。自らの望みを穢された事によって」
「自らの望み――? あんな怪物になってまで望む事が何か知らないけど、気高いとでも!?」
アスィスラの方の戦場を横目に見据えながら、サクラは邪魔立てする軍人らを排除せんと全霊の剣を振るうものだ。軍人らは流石、一対一に慣れているのかそうそう簡単に倒されてはくれぬ――むしろ微かな隙をついて、こちらに一撃を加えんとする程だ。
それでも。こんな奴らに負けるわけにはいかないとヨゾラの振るう魔術が降り注ぐ。
原罪の呼び声を受け入れるだなんて破滅するだけだ。
認めがたい。ヨゾラにとってはアスィスラの在り方など――
故に彼は周囲の様子にも気を配りつつ時に正気を取り戻す号令も放とうか。
「パルスちゃん、大丈夫!? 何かおかしい気配を感じたら下がってね……!
パルスちゃんに何かあったらボクだって気が気じゃないんだ。一緒にいよ!」
「うん――! ありがとう焔ちゃん、ボクも焔ちゃんと一緒にいたいよ!」
それはつまり原罪の呼び声に影響されている者がいないか、という事だが。焔も同様に、敵を打ち倒しながらパルスと背中を合わせて周囲を警戒するものだ。皆のアイドルのパルスちゃんを……ううん。
「ボクの大事な友達は……もう誰も、そっちに連れていかせたりなんてしない!」
脳裏に浮かんだのは誰の背姿か。
焔は内に秘めし熱意と共に――天衝種へと更なる撃を一つ。
「パルスちゃん……最高の戦いをしましょう。終わったら――一緒にまたライブも」
「うん! レイリーさんも、絶対無事でね! 絶対だよ!」
更にパルスに語り掛けるのは、レイリーもか。
呼び声に注意を。自分を強く保って……
そう願いながら、お互いの戦場に注視し。
「ジアストレント側が崩れてきてるの~樹の魔物ならきっとよく燃える筈なの」
「負傷している冬の精霊も出始めているね……一気に削っていけるかもしれない」
であれば胡桃とЯ・E・Dも天衝種や冬の精霊へと攻勢を続けるものだ。
極寒の息吹を吹きかけられ、時に炎すら舞い込んでくる天衝種ジアストレントは熱と冷気の攻撃に想像以上に体力を削られている様である。そして冬の精霊にしろ、天衝種の膂力による反撃やイレギュラーズの攻撃によって幾らか数が減っている――
「取り巻きを排除できれば、アスィスラがどれだけ強くても何とかなるだろうし。
卑怯だろうと何だろうとこちらの犠牲は少なくなるように動くよ。
……そもそも、それだけやって尚、まだ楽観的にはなれないんだから」
故に更に畳みかけよう。射線に注意しつつЯ・E・Dは破壊に収束させた魔砲を一閃。
胡桃も周囲に笑みの世界たる加護を齎しながら、蒼炎を解き穿つ。
――進路上の全てを燃やし尽くかの如く、だ。
「私達だけを相手にしてたらアッチの精霊にやられちゃうよ?
いいのかな? 左も右も気を付けておかないと、大変な事になるよ――
こんな風に、ね!」
さすれば花丸は自らに物理を遮断する術を齎しながら、機敏に立ち回るものだ。精霊達の攻撃を軍人らに上手くぶつける事が出来るように……だけど駆け巡ってばかりではない。隙を見据えれば――彼女の五指に力が込められようか。
「負けてやる心算なんてないんだ。本番はこれからだし、退いてもらうよ!」
「ああ。スーパーマッチの邪魔はさせんよ。御主等の相手は私が務めさせて貰う!」
ぶん殴る。彼女の膂力の全てを込めた一撃は神威の如く。
音が後から付いてくる。空の壁を穿つが如き花丸の一撃は正に強烈で。
更にそこへ汰磨羈も加わろうか。周囲を俯瞰する広い目を持つ彼女は、的確に戦局を見据えて介入していく。アスィスラ方面へと無用な援軍を出させぬ為にも……仲間を巻き込まぬ様に位置取りを注意しつつ、超速の刀身を敵へと叩きつけるのだ。
「取り巻きに時間をかけている暇はない。早々に退場してもらおうか」
「天衝種の奴らは回復も出来る筈だ。先に潰すぞ! 治癒する隙を与えるなッ!!」
「押し通らせてもらいます……! 如何な巨体と言えど、攻めようはあるものです……!」
更に雲雀に昴、トールはこの刹那が流れを引き込む時だと見据えて攻め上がる。
紡ぎあげる雲雀の糸が天衝種共の足を縛れば、ジアストレントは抵抗の薙ぎ払いを行うのだ――しかしトールは止まらない。闘志を漲らせつつ恐れぬ駆け抜けと共に。薙ぎ払いのタイミングに合わせて跳躍するのだ。
前へ、前へ。地が抉れる気配を感じながら、トールは跳ぶ。
回避と前進、そして斬撃の一閃全てを同時に繰り出せば――届くものだ。生じるオーロラのエネルギーが霧の様に空中に蕩けて消える。美しさも秘めた一撃は、ジアストレントに数多の負を齎し……そして昴のトドメへと繋げよう。
――ああ数的不利など知った事か。
いや不利であるからこそ――燃え上がる魂もまた在るものだ!
昴の、彼女の魂が疼く。全霊たる一撃は、かの樹の魔物の身を貫き穿ちて道を切り開こう。
――僅かでも体が動くのなら力の限り。
一歩でも多く踏み込み。
一撃でも多く拳を叩き込み。
一体でも多く敵を倒す!
「何体来ようとも打ち砕く……! 来い! 私の行く末に、敗北の二文字はないッ!」
彼女の構えは崩れない。天衝種らがその数を減らしてくのも――当然の事であったか。
全体的な流れはイレギュラーズ側に分があると言える。
新皇帝派にしろ冬の精霊にしろ数を順当に減らしつつあるのだから……しかし。
「――さて。『お義父さん』とお呼びさせてもたいらいのですが。
まぁどうにもそんな暇はなさそうですね……
今回ばかりは、命も見逃して貰えなさそうですしね」
「あぁ。アウレオナが欲しいんだったか? ならよ俺も定型文言っておくか――
『テメェに娘はやれねぇ』ってな」
アスィスラ側の戦闘は、決して優勢とは言い難かった。
しかしそれは戦術の失敗などではない。純粋にアスィスラが強いのだ。
防御に徹している憂炎の身は崩されようとしている。いや彼一人で押さえている訳でもないが、初期の段階から抑えに回っていた彼の身はかなり限界に近付いているようだ――下手をすれば死の臭いがする程に。
「ま、恋愛事には俺は首を突っ込まねぇさ。アイツが良いなら好きにしな。
――どうせ血の繋がった娘じゃあねぇ。俺の意思で縛り付けるのも不憫さな」
「……なんと、そうでしたか。しかし、妙でもありますね」
再度振るわれるアスィスラの剛撃。なんとか凌ぎながら――憂炎は思考する。
義理とは言え娘と呼んでいるアウレオナに対する執着はそこまでなさそうだ。
なのに、ガイウスには極度の執着を見せている。
何故だ? 何かがおかしい。何が貴方をそこまで追い込んだ。
老いていく事の恐怖か。忘れ去られる過去の栄光か――?
「困ったもんだよね。魔種になって暴れてる貴方は、聖騎士の私としては許すべきではない敵なんだけど――母様とも戦ったチャンプの全盛期と戦えるなんて、どうしても血が沸いちゃうよね!」
「おっとぉ! ハハ。テメェは流石ソフィーリヤの奴の娘だな、ソックリだぜ!!」
瞬間。切り込んできたのはサクラだ。
アスィスラへの抑えが崩壊する訳にはいかないと援軍に来た。全力の居合からアスィスラを狙いて肉薄する――! 然らばアスィスラもサクラを仕留める様に肘打ちで対抗するものだ。
まるで丸太の様な腕が掠めれば、それだけでも凄まじい質量と圧を感じ得るもので。
自然とサクラの口端には――闘争の笑みの色が浮かぶものであった。
「まだ、まだ……ここは通行止めよ! 通さないわ!! 私の全力を見せてあげるッ!」
「おお若けぇな嬢ちゃん! やってみせろよ、死んでも自己責任だがな――
さぁ名乗りな! そんぐれぇの暇くれてやらぁ!」
「そう、なら――私の名はヴァイスドラッヘ!
『常勝英傑』、相手に不足なし! 存分に味合わせてもらうわよ!」
「止めてみせる。これが初めての戦いじゃないんだ……全力で、行かせてもらいます!」
そして続けざまには、まだ通せぬとレイリーやアリアも往くものだ。
憂炎に次いでアスィスラへの壁となる様に。盾と槍を構え、咆哮しようか――
叫ぶは名前。轟かせるのは誇り。
皆を鼓舞する為にも自らの声を張り上げつつアスィスラを阻もう! レイリーがアスィスラの撃を捌かんとし、アリアは自らの魔力を振り絞る様に常に全霊を叩き込む。一撃の火力を落とさぬ様にしつつ状況に応じて手を変える彼女の手は、正に千変万化。
その身へと一撃を届かせる為に――!
彼女の一手は時を稼ぐ。微かなる隙が訪れるならば、逃さず穿つ為にも。
退くことを考えない。立ってる限り戦い続ける!
ああそうだあと一歩、あともう少しだけでも。
レイリーは見栄を切ってでも留めてみせる。だって――
「――ソイツはな。昔の昔から、馬鹿な事にこだわり続けているだけだ」
スーパーチャンプと全力で戦う夢を、見せてあげるから。
その刹那。アスィスラの拳を止めたのは――
「ガイウス! やっとやる気になったんだね!!」
「全く……! もっと早くしっかりしなさいよね! 今のチャンプは貴方でしよ!!」
ガイウスだった。セララにレイリーが見据えたのは、ガイウスがアスィスラの拳を受け止める様。アスィスラを避ける様に、或いは様子を窺うように消極的な動きしか見せていなかった彼であるが……何を決心したか、彼は前へと出でたのである。
「やる気になった、と言われると少し違うが……まぁ。やはり見過ごすのも出来んしな」
「やはり鈍いとは思っていたが、調子が悪いという理由ではなかったようだなチャンプ」
「……些か奴とは面識があるものでな」
「オイオイつれねぇな。暫くの間飯の世話もしてやったろ――?」
刹那。言を紡いだのは天衝種らと交戦していた汰磨羈だ。
体調の不良ではない理由。それはガイウスの過去にまつわる事、と予測はしていたが。
「おとっつぁん――その人と知り合いなの?」
「あぁ。知ってるも知ってるわな。さっきもちょろっと言ったが――
つまりコイツは俺の弟子さな。もう二十年から三十年以上前の話だけどよ。
山に捨てられてたお前を拾う、大分前の話さな」
であれば。軍人らと刃を交わせていたアウレオナも――どうしても気になりて言を紡ぐ。
……そうしてアスィスラが語ったのは、ガイウスとの繋がりだ。
「懐かしいなぁオイ。引退してから俺ぁ幾らか弟子を取ったがよ……
お前が最高傑作だったぜ。数年もすりゃ俺を超えるなんて分かり切った程の器だった。
だってのによ……お前は俺の前から消えやがった。俺と仕合って殺さずになぁ!」
「……」
「まさか――それが怒りの理由、だとでも?」
同時。アスィスラの怒号に反応したのはアリアだ。
如何なる縁があるのかと思っていた。何があったのかと……
その根源にあるのはガイウスが自らにトドメを指さなかったと――ソレなのか?
「ソイツは俺を殺さなかった――見逃しやがったんだ。
ああ、だが勘違いするなよ? ソレがソイツの信念ならそれでいい。
強者の特権さ。弱者の命を奪うも奪わないのも、な。だが。
ソイツはラド・バウの仕合で相手を殺傷する事も普通にありやがった。
――分かるか? つまりコイツは加減しやがったのさ。俺に対して、だ!」
刹那。アスィスラの身から極大なる――殺意が迸る。
「舐め腐りやがってガキが!! 俺を憐れみやがったか?
あの時はァまだ一戦するだけの力はあった筈だぞ!!
情けを掛けられるなんざ――御免なんだよ!!」
「…………」
「じゃあアスィスラさん。貴方の目的は――ガイウスさんを倒すか――」
「おぉよ。或いはガイウスが俺を殺すか、だ」
サクラの言。そう、アスィスラが新皇帝派に味方するのはたった一つの理由。
――ガイウスとの決着をつける事。
自らを舐めたガイウスを殺すか、ガイウスがこっちを殺すか。
その結末を視ない限り死ねない。死にたくない。
――かつてのチャンプが抱いた憤怒の感情は、正に底無し。
故に転じたのだ、魔種へと。
そしてアスィスラも望んだ。魔種となってでも望みを果たす事を。
「俺ァ若返ったぜ。魔種ってのはすげぇもんだな」
「…………」
「次は情けなんざかけさせねぇぞ。なぁ――チャンプよぉ!!」
直後。アスィスラは振るう。怒号と共に只人なんぞでは追えぬ程の神速の突きを、だ。
対するガイウスは――黙しながらに五指を固めようか。
極限の圧。その五指に、込められた力は、大闘技場ラド・バウの結晶。
――頂点を極めた者同時の拳と拳が、激突した。
●
――その衝突はまるで、互いに巨大なる彗星の如く。
衝撃が衝撃を生み、炸裂の波は岩すら砕かんばかり。
近くにいた天衝種が一体、吹き飛ばされた。
イレギュラーズもまた油断すれば飛びそうな感覚を得るが――しかし。
「こんな、程度でェ――!!」
ヨゾラはむしろ接近しうる。あぁ違うよアスィスラ……君はもうチャンプじゃない。
僕等の知る『チャンプ』はガイウスさんだ。それだけが絶対だ!
闘士失格なルール違反者なんて――認めない!!
「今の僕の全力だ……この一撃を……食らえぇぇ!!」
「やかましぃぞ小童ァ!!」
ラド・バウの頂点まで魔種に奪われるなんてお断りだ!
ヨゾラが放つは星空の極撃。零距離の一閃たるや光り輝き、凄まじき威力を秘めようか。だがアスィスラもただでは受けぬ。返しの一撃は超速の手刀による薙ぎであり、それはヨゾラの腹にめり込みつつ――彼を遥か先の壁にまで吹き飛ばし得るものだ。
「ぬぅ! この威力……小童の割にはやりやがる! だが俺を倒すには足りねぇな!」
「これだけじゃ終わらないよ! 花丸ちゃんも挑ませてもらうんだから!」
「S級闘士として君臨した者が……
いや誰だろうと結果論で怒りをぶつけるのは褒められたものではないね」
次いで花丸に雲雀もアスィスラ側へと参戦しようか。彼の配下に関してはかなりの数を減らしている――故にこそ彼への攻勢に参加だ。S級闘士が魔種になったのだとすれば、簡単な相手ではないだろう……しかし。ガイウスだって一緒にいるんだ!
「何れは越えないといけないんだ――逃げるもんかっ!」
「なにぃ!? テメェみてぇな小娘が、俺より強いつもりかァ!?」
「さぁ――でも勝つよ! 勝って貴方に示してみせる!!」
今を生きて、先に進む為の私達の力をっ!
叫ぶ花丸は暴風の如き巨大な力の化身へと、恐れずに往く。
呼吸の暇すら惜しい。
肺の中に秘めた酸素が体を巡る――その刹那の時に投じる拳打は正に全身全霊。
討つ。雲雀もまた、糸を操りてアスィスラの身を掌握せんと指先に至高を。
ほんの一瞬でも隙を作れればソレで良いのだ。かの御仁に一撃叩き込む!
「くっ……いくら何でも一撃が重すぎる、まるで破城槌だ!
壮者を凌ぐどころじゃないよ! 元S級が魔種になるって、こういう事なんだ……!」
が。それでも迎撃の拳を幾重にも放つアスィスラの闘志は尋常ではない。
ハインは肌に感じるものだ。奴の強さを、奴の拳の圧を。
……下手をすれば文字通りに首が飛ぶかもしれない。
「悪いけど、ちょっとズルをさせてもらうね……!」
だからハインは自らの体力にブーストを掛けつつ――戦闘を継続するものだ。
治癒の術をも自らに巡らせれば、傷の回復も進むもうか。
倒れない。まだ立ってみせる。勝つまでは――!
「やれやれ……元チャンプのこれは、願いというよりも妄執と言うべきでしょうか。
現チャンプは厄介なストーカー被害にあわれている様で。しかし――」
更に其処へ一撃紡ぐのは寛治だ。軍人らの意識の狭間を狙いて、正確に穿つ銃弾を叩き込んでいたのだが――そちらの戦線が一段落すれば彼はアスィスラへと、今度は放つのだ。寛治の射撃は屈指の技巧を宿しており――文字通り針の穴すら通して見せようか。
「元チャンプ相手でも、当てるだけなら自信あるんですよ。
それに見た所、ヴェルス帝の様に素早い方ではないと見受けられますし――ね」
「チッ。戦場ってのはこれだから厄介だぜ……!」
「そうだろう? 厄介ついでにもう一撃、貰ってもらおうか」
混戦の状況下はラド・バウ闘士の慣れた所ではないだろう。ソロ戦では見られない連携戦術こそが寛治の狙いだ――正にその狙いは的確。一対一ではあり得ない視点から狙うのが、アスィスラやアスィスラの弟子を打倒しうる近道。
そして汰磨羈もまた、同様に死角からの攻撃による揺さぶりを狙うものだ。
仲間達の動きに繋げて波状攻撃を仕掛ける。
途絶えさせぬ連撃となれば、流石にアスィスラも全ては捌けまい――!
「だがよ、多人数で掛かれば倒せると思うんじゃねぇぞ――ッ!」
と、その時だ。アスィスラが地へと――激しく踏み込んだ。
同時に生じるは一つの技。震脚。
地を震わせる、まるで地震が如き衝撃は数多を包むか――
冬の精霊や味方の筈の天衝種すら対象とするソレは敵も味方も関係ない。
――元々ラド・バウは一対一の戦いの場だ。
故にこそ他者を識別する能など必要ないとする表れか――? 全てを巻き込むのは。
体が痺れるような感覚をも得ようか。微かな防の隙間を彼は縫えば……
「おおっと、させないよ! やっぱり強いよね、元とは言えS級闘士な事はあるよ!」
繰り出される拳。只人であれば受けただけで死ぬかもしれぬ――ソレを、しかしセララは凌ぐものだ。後ろに跳び、勢いを殺す様に受け流さんとする……あぁ。強敵相手との戦いは、胸が躍るものだ。
心臓の鼓動が高まる。自分より強い相手だったら尚更に。
『絶対負けないぞー!』だなんて、心が熱くなっちゃうか。
「アスィスラさんもそうだったんじゃないかな? 現役時代とか、さ!」
「おいおい俺の半分も生きてねぇような嬢ちゃんが――随分と知った口を叩きやがる」
「年は関係ないよ! だって――心は誰だって平等だもん!」
その想いがあるから、相手に追いつき。
追い越したいから次の一撃が研ぎ澄まされていく。強くなっていく。
――それがラド・バウであり、闘士なんだって知ってるよね。君も、そして――
「ガイウスもね! せっかくS級同士の戦いなんだよ? キミも楽しもうよ!」
「楽しむ、か」
セララは一度、ガイウスの方へと振り向き言うものだ。
さすればガイウスはどこか遠い瞳を一瞬だけ見せる――チャンプとして特別なる座について以来、試合数は減っているはずだ。それ以前の事でも懐かしんでいるのだろうか……
ともあれそれも一瞬。瞼を閉じて開くまでの暇が過ぎ去れば――
再びにガイウスは拳を振るおうか。
同時にセララも動きに合わせて自らの撃を振るう――
が。どことなく、ガイウスの振るう拳は未だ全力全開でなく感じ得るものだ。
……その拳には凄まじい圧があるのは確かなのだが、それでも。
「何迷ってるのか知らないけどさー
ボクなら、仲間見殺しにして後悔するより、敵を殺して後悔するかなぁ。
ね、チャンプらしく拳でごめんなさいしてきなって!」
「ヒィロ! まだ敵の残党が潜んでる、注意を!」
直後。ヒィロはそんなガイウスへと言の葉を紡ぐものだ。
ほとんどの敵は倒しえた筈だが、しかし周囲の地形――古い建物の様な場所に潜んでいる軍人がまだいくらかいる。それらを確実に排除せしめんと美咲は動こう。彼女の顕現させる斬撃は攻にも治癒にも展示させる事叶えば、二人だけでも十分作戦は継続できる。
「みんなには悪いけど、勢力としての目的はこっちだし……確認だけでもしないと」
「多分、中央の方だよね。何か気配は感じるよ……!」
魔種は仲間たちに任せよう。どの道、欠片を入手しうるそもそもの目的も忘れてはならないのだから。
「此処まで来て興が乗らない、等と釣れないことは言わないでくださいね。
あの男は、チャンプをご指名ですし、そうするだけの力はあるように思えます。
そして何より……其の挑戦を受けるべき事情が、あなた方の間にはあるのでは」
「それにガイウスの力は必要だよ――相手は魔種だ。
いきなり底力を見せつけて、強さが何倍にもなったっておかしくない。
――安心なんて出来ないんだ」
「……『強さ』が何倍にも、か」
そして最大火力の雷撃をもってして追撃するアッシュや、Я・E・Dの魔砲が紡がれる中で、彼女達もガイウスへと言を繋ごうか……しかし。Я・E・Dの言った『強さ』の言葉に何か引っかかったのかガイウスが怪訝な顔をする。
「ガイウスさん――終わらせてあげるべきでは? チャンプを名乗るあの方の『夢』を」
「そうね。ここの皆に最高の夢を見せるのは、何よりアスィスラ殿の悪夢を晴らすのは、スーパーチャンプ・ガイウス! 貴方しかいないわよ! いえ、貴方以外の誰がいるというの!」
更には。魔力を収束させ、次なる一手を紡がんしているアリアや、前線にてアスィスラの暴力を妨げんと奮戦し続けるレイリーも語ろうか。心に訴えかける様に。ガイウスだけが、アスィスラを終わらせる事が出来るのでは、と。
特にレイリーは一喝する様に。
戦いの最中。ラド・バウの闘士が敵を前にしたらやる事は一つだけだと――!
「ねぇ、いいのガイウスさん!
あんな風に自分がチャンプだなんて言われて、好き勝手暴れさせて!」
更には焔も告げるものだ。パルスと共に前線で戦いながら。
「あの人のことは全然知らないけど、今のチャンプはガイウスさんなんだよ! ラド・バウの闘士皆の憧れで、目標で、誇りでもあるチャンプが言われっぱなしなんて嫌だよ! 皆が見てるのは過去じゃない――今の、ガイウスさんなんだ!」
だから戦って! 勝って! 無敵のチャンプ!
焔の悲痛な、想いの籠った叫び。
然らばガイウスは――刹那。何か考えた様子を見せた、が。
呼吸一つ。吐息とは違う、肺の中から全てを吐き出さんとする浅い息を――零した、直後。
「――――」
「ぬ、ぐ、ぉ」
アスィスラへと紡ぐは、これまた拳。
人中三点。正拳三連打。
――いや『六』、か? 全く見えぬ拳撃が幾重にも振舞われた。
アスィスラの神速の拳にも劣らぬ所か上ではないかと思われる程の――
「ガイウス! まだ!!」
だが。アスィスラ戦へと援護の力を放っていたセレナが声を張り上げる。
アスィスラの全身が揺らいだが、まだ終わっていないと!
「テメェ……やりやがるじゃねぇか……だが俺はその程度じゃ死なねぇぞ!!」
「だろうな」
アスィスラの手刀一閃。ソレが首を抉らんとし。
――されどガイウスの肘突き裏拳が鳩尾を先に抉る。
吹き飛ばす。アスィスラの巨体を、ガイウスが。
これがチャンプか。これが、ガイウスか。
アスィスラはイレギュラーズの攻勢を凌いでる中でもあった。
故に純粋な一対一ではない、が。それでも……
「つ、強い……おとっつぁんが、あそこまで……!!」
「はは――流石、チャンプ、だな。此処まで皆でお膳立てしたんだ……
これぐらいやってもらわないと、僕らが戦った意味が無い」
「憂炎! 傷が深いんだから、喋らない方が良いよ!」
アウレオナが、チャンプ同士の交戦に感嘆の言葉を思わず零すものだ……が。深手を負った憂炎の声が聞こえれば、彼の下へと駆けつけるもの。彼は常に盾で受けるのではなく、力の方向を流すなど技巧も加えていた――
其れが故に重傷は負ったが、命に関わる程ではない領域にある。
……あぁ。彼女と稽古していた甲斐があったものだ。
彼女はお義父さんの戦い方を幾らか受け継いでいる筈だ。
だから、立ち回りに見た事があって……
「……流石だな。元より強いとは分かっていたが、改めて目に出来る機会があるとは、光栄だった」
「三鬼さん、冬の精霊達が此方に!」
「ああ――こちらも、役目を果たすとしようか」
そして、ガイウスの戦い振りは昴も目にする所であった。
アレがチャンプ、か。やはり今の私では足元にも及ばないらしい。
……だがいつかその頂きに届いてみせる。
彼女の内を巡る渇望は高まるばかりだ。ああ――
最強とは。高ければ高い程に価値があるのだから。
故に、今は自らを高める事に注力すると仕様。共に行動していたトールは、周囲の状況をすぐ様に共有してくれる。故に残っていた敵が襲い掛かってくれてば、彼と共に迎撃の一手を紡ぐもので。
「ぬぅぅぅ……! ガイウス、テメェ……!」
――刹那。壁にまで吹き飛んだアスィスラが立ち上がるものだ。
魔種であるからだろうか? ガイウスの撃を受けても尚、まだ無事であるのは。
いや……或いは……
「頑丈だな。病に犯されていたあの日なら、死んでただろう」
「――だが今の俺はまだ生きてるぞ!!」
「……アスィスラさん。どうしても、一対一で決着をつけたいのかな?
なら――ラド・バウで決着をつけるのはどう? そこでなら思う存分やれるでしょ。
元チャンピオンならガイウスさんに挑む資格も十分だろうし」
「ですが……多分……あのようなタイプの人が何をしてでも手に入れたいのは、勝利というよりも……」
同時。サクラはアスィスラへと言を紡ぎ、胡桃は思考を巡らせるものだ。
彼が。アスィスラが求めているモノは『満足』なのではないかと。
なんとなし、それが分かってしまっているからこそ胡桃は……
――いずれにせよ、これ以上続けるのであれば勝敗は決しているものだ。
冬の精霊も、天衝種もほぼいない。軍人達もヒィロや美咲に追撃され、残っている者も手は回るまい……彼が意固地になって続けるのであれば、こちらも相応の犠牲が出る可能性もある、が――
「チィ! ガイウス、テメェのやる気がどうにも視えねぇ……
それがどこまでも気に食わねぇんだよ……!」
「……」
「お得意のダンマリか? クソが! 必ず、必ず決着をつけてやるからな!
テメェのやる気がでねぇなら、ラド・バウを滅茶苦茶にしてやったっていいんだ……!」
「おとっつぁん! そんなのは格好悪いよ!!」
「うるせぇアウレオナ!! テメェにゃ関係ねぇ事だ!!」
と。アスィスラは散々に捲し立てるものである。
どうにもこうにも、彼はどうしてもガイウスが許せないらしい。
彼が。そして彼が関わるラド・バウを目の前にすると――理性よりも憤怒が勝る。
口汚くなり、魂すら濁る程に。
……だからこそ彼は最初の内、ラド・バウには関わらなかったのかもしれない。
行けば憤怒の儘に行きつく『先』しかないから。
「イレギュラーズ。俺の邪魔をしてくれたテメェらの顔も覚えたぞ。
――次は皆殺しにしてやる。ああ俺の邪魔する奴らはぁ死ね!!」
故に、彼はもうフローズヴィトニルの封印などどうでも良かった。
此処は退く。いつか必ず己が望みを――叶える為に。
「……チャンプ。どうしてどこか、加減していたの?」
であればセレナは問うものだ。
ラド・バウのチャンピオンなら、あれこれ悩む前に、ぶん殴りなさいよね――
そんな事を思いもしたし、他の者も言っていた。
なのに、彼はどこか拳が鈍かった。その理由は……
「……不憫だ」
「何が?」
「俺はアスィスラの試合を、遥か昔に見た事がある――あの時の方が強かった。
……あんな姿になっても、あんな程度でしかないのか」
先程。アスィスラとガイウスが拳をぶつけ合った時。あの瞬間に気付いた。
――アスィスラは全盛期の方が強い。
病に犯され、最早死に掛けの老人から反転したが故か?
或いはそれはただ単純に、昔の方が強かった……と『思う』だけか?
だが少なくともガイウスの観点からは昔の方が強かった筈だとする言葉が零れて。
「イレギュラーズ。一つ尋ねたい」
「なに?」
「――親殺しとは、成人式か?」
ガイウスは決して憤怒の呼び声には――
より厳密にはアスィスラの呼び声には反応しないだろう。
……彼がアスィスラに相対しても抱くのは怒りではないのだから。
そして。敵を退けたイレギュラーズ達はやがて調査を始める。
フローズヴィトニルの力が込められた宝珠を発見したのは――その後の事であった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
ありがとうございました。
GMコメント
●依頼達成条件
・敵勢力の撃退
・フローズヴィニトルの欠片の確保
●フィールド
鉄帝地下道。その中でも奥深くに位置する場所です――
ぽっかりと、空洞の様に広がった空間に皆さんは出ました。周囲は古い建物の様なモノが立ち並んでいる場所です……かつては都市か何かがあったのでしょうか? いずれにせよ今は無人の様です。
スペースは存分にある為、戦うに不足はないでしょう。
そして空洞の中心部からは謎の『気配』を感じます。
恐らく封じられているフローズヴィニトルの封印の欠片か何かでしょうか――
敵を上手く撃退出来ればソレを調べる事が出来るでしょう。
●敵戦力
・【常勝英傑】『アスィスラ・アリーアル』
元・S級闘士にして憤怒の魔種です。彼が活躍した時期はおよそ30年以上前なので、その名は前時代の闘士として知っている者は知っているかもしれませんが、知らない者は知らないでしょう――時の流れが故に。
卓越した膂力を宿し、非常に接近戦に優れます。彼の拳は生半可な防御であればあっさり貫くほどです。
ガイウスに対し、並々ならぬ闘志を抱いている様ですが……?
・『新皇帝派軍人』×10人
アラクランに所属する軍人メンバーです。
幾人かはアスィスラの弟子であるらしく、単体として強力です。
その戦い方は幾らかラド・バウ闘士を彷彿とさせるかもしれません――
・『天衝種ジアス・トレント』×10体
樹の形をした魔物です。
新皇帝派の者に従い、イレギュラーズには激しい敵意を向けてくる事でしょう。
物理系攻撃に特化しており、巨体を活かして薙ぎ払う様な行動を基本として行ってきます。ただ、数は多いですが軍人などと比べるとやや臨機応変さに欠ける様に感じられます。
●敵戦力2
『冬の精霊』×20体
フローズヴィニトルの欠片とも言うべき存在です。
新皇帝派、イレギュラーズ、どちらにも襲い掛かってきます。
冷気を身に宿しており、時折『氷の息吹』(神近扇)を放ってくる事があります。
●味方戦力
・『アウレオナ・アリーアル』
縁が合ってザーバ派の一員として属している女性です。
アスィスラの事を『おとっつぁん』と呼ぶなど親しい仲である様ですが、敵対する事自体には特に躊躇は無いようです。しかし、アスィスラの圧倒的な殺意にやや気圧されている様です……
刀を操る近距離を得意とし、皆さんと共に戦います。
・『パルス・パッション』
ラド・バウのアイドルにして闘士の一人です。
接近戦型のファイタータイプ! 皆さんと共に戦います。
・『ガイウス・ガジェルド』
ラド・バウのスーパーチャンプ。まごう事なきラド・バウの最高戦力です。
今回は珍しく前線に出てきました……しかし動きが鈍いというか、消極的です。
敵であるアスィスラと顔見知りの様ですが……?
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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