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シナリオ詳細

<咬首六天>炭鉱の呪術。或いは、斥候任務のラットマン…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●炭鉱の呪術
 首都スチール・グラード。
 帝都中央駅ブランデン=グラードの下水道に、カンテラの明かりが煌めいた。
 カンテラを揺らしながら歩くのは、ガスマスクをつけた小柄な男だ。彼の足元には、夥しい量のネズミの群れ。彼の肩には、カナリアが1匹、止まっている。
 カナリアの鳴き声に耳を傾け、ガスマスクの男が足を止めた。しばらく、暗闇の中に目を凝らしてから、視線を上へ……地下鉄道の線路の方へと向けた。
「あぁ、何人か歩いてんのなー。例の賞金首たちか? やっぱり地下鉄道を交通網として使うつもりなんだろうなー」
 くぐもった声でそう呟いて、彼はカンテラの明かりを消した。
 それから、パチンと指を弾く。
 その音が合図だったのだろう。ネズミたちの一部が、壁を駆け上がり地下鉄道の方へ向かった。
「8人か。多いな。多いけど……何か探してるのか? 何を?」
 ネズミの目を通して、地下鉄道の様子を覗き見たのだろう。
 数瞬後、彼は「あー」と間延びした声を零した。
「もしかして、俺を探してるのか―?」

●ネズミの群れ
 炭鉱の呪術師“マッド・ブラン”。
 身長157センチ。体重不明。
 ガスマスクをつけた小柄な男で、元は炭鉱で働いていた呪術師だ。身体能力は貧弱。それゆえか炭鉱主に報酬の支払いを踏み倒された過去がある。
 もっとも、件の炭鉱主はその日の晩には骨さえ残らず消えていた。
 曰く、マッドの操るネズミの群れが、寝ている彼を喰い尽くしたとのことである。
「以来、似たような事件を数件。それから、ネズミを使った強盗事件を数件起こして、捕まっていた囚人っすね」
 調査結果をまとめた書類を手で叩き、イフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)はそう言った。
 新皇帝バルナバスの放った勅令により解き放たれた囚人だが、おそらく新皇帝派に雇われたのだろう。暗く狭い地下での活動に慣れたマッドであれば、地下道の構造や、そこを利用する者たちの情報を上手く持ち帰れるからだ。
「最近、ネズミをよく見かけるようになったって話を聞いたことは? えーっと、ここの地下鉄道っすよ。ほら、古い地下鉄道と、新しめの地下鉄道が入り組んでいるところ」
 2本の線路と、その下にある地下水道。
 元々、ネズミの多い区画だが、それにしたって数が多い。ネズミの大量発生を知ったのは偶然だ。そして、その動きに規則性があることに気が付いたのは、見回りをしていたイレギュラーズの誰からしい。彼、または彼女が違和感を覚えなければ、まんまと情報を持ち帰られていただろう。
「ネズミは弱いっすけどね、噛まれると【毒】【不調】を喰らうっす。それも【疫病】付きのやつ」
 元々ネズミは、病原体のキャリアとして有名だ。歴史上では、ネズミの大量発生により都市が機能不全に陥ったという例もある。
 ともするとマッドの狙いには、情報の奪取だけでなく、地下鉄道内に病原菌を撒き散らすことも含まれているのかもしれない。
「それからマッド自身は【不運】をガス状にしてばら撒く魔術を使うっす。威力は低いっすけど、相手は地下での行動に慣れているみたいっすから、油断は禁物っすね」
 指を1本、イフタフは立てた。
「マッドを残しておいてもいいことはないっす。必ず、息の根を止めてください」
 マッドは慎重で、そして欲深い男だ。
 イレギュラーズが近づいた来たなら、まずは逃走よりも潜伏を選ぶはずだとイフタフは言った。
「潜伏している間に、見つけ出してやるんっすよ」

GMコメント

●ミッション
炭鉱の呪術師“マッド・ブラン”の殺害。

●エネミー
・炭鉱の呪術師“マッド・ブラン”×1
元・囚人。
ガスマスクを付けた小柄な男性。
大量のネズミを使役する呪術師。慎重で欲深な性格であることが判明している。
地下鉄道内の情報を持ち帰るべく、新皇帝派に雇われた。
同時に地下鉄道内に、病気を蔓延させるつもりらしい。

炭鉱の魔術:神中範に小ダメージ、不運
 拡散するガス状の魔弾。マッドの奥の手らしい。

・ネズミたち
膨大な量のネズミたち。
マッドに操られており、野生のネズミに比べると規則的な動きをする。
その歯には【疫病】【毒】【不調】が付与されている。

●フィールド
帝都中央駅ブランデン=グラード。
新・旧2本の線路が入り組んでいる路線。
線路の下には地下下水道が流れている。地下下水道の作りは単純で、分かれ道などは無い。
ただし、地下鉄道内および地下下水道には、幾つもの小部屋がある。おそらく掘削作業員たちの控室や資材置き場として使われていた場所だろう。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <咬首六天>炭鉱の呪術。或いは、斥候任務のラットマン…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年12月26日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
レイン・レイン(p3p010586)
玉響

リプレイ

●ネズミを追って
 地下鉄道の線路の影を、数匹のネズミが走っていた。
 チチチ、と鳴くネズミの前にしゃがみ込んで『抗う者』サンディ・カルタ(p3p000438)が手を前に差し出す。指先の臭いを嗅ぐみたいにして、ネズミたちが鼻を鳴らした。
「ネズミなんてもう弟みたいなモン」
「そうか……だが、悪いな。鼠は病気を媒介して街を滅ぼす事もある。早めに処分するに限る」
『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)が視線を伏せてそう言った。その肩辺りには3匹の蝙蝠が飛んでいる。
「……いや冗談だけどさ」
 サンディの足元から、ネズミたちが逃げていく。
 その後を追って3匹の猫が駆けて行った。ネズミを追う猫のうち1匹は、どうやら精霊のようだ。そして1匹の尾は二又……『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)である。
「しかし、新皇帝派の人にしては陰湿なやり方をしますね。私が出会った新皇帝派の人達は力でぶつかって来るような……なんというか頭の悪い人達ばかりでしたが」
 『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)は、顎に指を添えそう言った。
「今回の方は悪い意味で頭が良いというか……こう言ってはなんですが、姑息というか」
「新皇帝派から駅は取り返せたけど、安全に使えるようにするにはまだまだやることが沢山ありそうだね」
 壁に差した松明に『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が火を灯す。
 暗かった地下線路を、赤い炎がぼんやりと照らした。
 瞬間、チチチとネズミの鳴き声。
「っ!?」
 思わず、と言った様子で焔が身を竦ませた。線路の影や、排水溝の辺りから、無数のネズミが覗いていたのだ。
「大量の鼠……成程、確かにこういう所の調査には向いていそうだな」
 両手に武器を構えながら『ラド・バウB級闘士』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が溜め息を零した。
 ネズミの数は100を超えるか……1匹ずつ処分していては、ネズミたちの支配者、マッド・ブランに逃げ切られてしまうかもしれない。
「なんで……見えなかった」
 包囲網を狭くするネズミの群れ。
 それを見ながら『玉響』レイン・レイン(p3p010586)が目を丸くする。ずっと温度視覚で辺りを観察していたのだが、これほどに膨大な量のネズミに囲まれているとは思わなかった。
「そうか……下水道に居るから体温が低くなってるのかも」
 ネズミたちは水に濡れている。
 体温が低くなっていたことと、体が小さいことにより、温度視覚では視認し辛くなっていたのだ。

 一方、その頃。
 地下線路から、地下下水道へ続く通路を降りながらマッド・ブランは肩を落とした。
「あーあー、面倒くせぇなー」
 手にしたカンテラの明かりは既に消えている。
 足元には数十匹のネズミの群れ。
 肩や頭の上にもネズミを乗せている。地下線路の調査のために出かけていたところ、イレギュラーズの接近に気付いて逃げているのだ。
 ネズミのほとんどを足止めに使って、自身は足音を殺して逃走。ほとぼりが冷めるまで地下下水道へと潜伏する心算である。
 だが、マッドの足元でネズミたちが声をあげた。
「おい、騒ぐな騒ぐな。静かにしねーと、みつかっちまうー」
 静かにしろとマッドがネズミたちを宥める。
 だが、ネズミたちは視線を前方へ向けたままチィチィと威嚇するように鳴いていた。
「あー? 前になんかいるのかー?」
 マッドが暗闇に目を凝らす。
 襟に隠れていたカナリアが、か細い声で歌を歌った。
 カナリアの歌に惹かれたわけでもないだろうが、眼前に現れたのは1匹の白い猫だった。
 その尾が2本、左右へ揺れる。
 まっすぐにマッドの方へと近づいて来る猫の姿が、瞬きをする間に白い髪の女のそれへと変じていた。
「っ!? っと、猫かと思ったぜー」
 汰磨羈へ向かって軽口を叩くマッドだが、その頬には汗が滲んでいる。
 そもそも近接戦闘が得意ではないのだ。
 だからこそ、地下下水道や地下線路内に身を隠して、ネズミの群れを従えていた。
「病原菌の兵器的利用は外道の所業だ。情状酌量の余地は無いと思え」
 対する汰磨羈はいかにも接近戦が得意そうに見える。
(だが、得物は刀かー。もう少し狭い場所に逃げ込めれば……)
 得物を十全に振り回せないかもしれない。
 マッドの合図でネズミたちが前に出る。
 その隙に、マッドは数歩後ろに下がった。
 もう数メートルも後ろに下がれば、下水道へ続く穴があるのだ。長らく放置されていたせいで、地盤が崩れて出来た穴である。
 結構な高さがあるので、落ちればマッドも無傷では済まないが……刀で斬られるよりは随分マシだろう。
「行ってきなー」
 ネズミの群れが駆け出した。
 同時にマッドは踵を返して、後方へ向けて疾走を開始。そのまま穴に飛び込むつもりなのだろうが……。
「地下に病原菌ばらまこうとは不届き者めが! 帝政派の目の黒いうちは破壊工作は許さんのだ!」
 その顔面に、『タコ助の母』岩倉・鈴音(p3p006119)のドロップキックが突き刺さる。

●地下逃走劇
 湿った床を転がりながら、マッドはネズミに合図を送った。
 大半は汰磨羈の足止めに向かっているため数は少ないが、顔面目掛けて跳びかからせれば鈴音の意表を突くぐらいはできるだろう。
「あのやろ……いきなり顔面に蹴りくれるたー、どこの国の挨拶だー?」
 お返しとばかりにネズミが狙うのは鈴音の顔面だ。
 だが、先頭を走るネズミに音もなく猫が跳びかかる。
「カムイキャットにネズミ程度が敵うものかっ。捕まえるネコがいいネコだっ」
 鳥帽子を被った立派な体躯の猫だった。
 猫らしくないふてぶてしい顔つきだが、俊敏性は上々だ。ネズミの数匹程度であれば、問題なく狩ってしまえるだけのポテンシャルを秘めていた。
 けれど、ネズミは数が多い。
 半数以上は無事に鈴音の足元に辿り着き、その体を昇って行った。
「よーし、そのままやってくれー」
 その隙にマッドは逃げるので。
 床に空いた大穴へ、迷うことなく身を躍らせた。
 その瞬間だ……。
「こんにゃろ、逃がすか!」
 鈴音の声と、マッドの後頭部で弾ける何か。
 塗料か何かの詰まったボールを当てられたのだ。もっとも、マッドがそれに気づくのは地下水道へと降りた後のことである。

「ごめんねっ!」
 謝罪の言葉はネズミたちに向けられたものだ。
 アーマデルが見つけた小部屋の入り口で、焔は片手に無数の火球を発生させた。まるで意思を持つかのように、火球は業火の弾丸と化して接近して来るネズミたちを焼き尽くす。
 ごう、と熱波が吹き荒れた。
 小部屋へ転がり込んだ焔のすぐ背後で、ジェイクが音を立てて扉を閉鎖する。扉の向こうからは、炎の渦巻く音と熱気。木の扉にも着火したのか、ぶすぶすと黒い煙を上げていた。
「病気を撒き散らす臭いゴミは纏めて始末するに限るぜ」
 ホルスターへ銃を仕舞って、代わりにジェイクは煙草を取り出す。
 その先端へ焔がそっと指を寄せれば、煙草に火が着き紫煙が燻る。
「外のネズミはあらかた片付いたか……ここは、あぁ、なるほど」
 虚空へ向かって話しかけているアーマデルの目には、きっと“何か”が見えていた。
 少しの間、虚空を彷徨う何かと言葉を交わしたアーマデルは、それから壁際に置かれた小さな木箱の方へ近づいていく。
「ここはマッドの隠れ家の1つだったみたいだな。彼女が言うには、この辺りに……あぁ、あった」
 木箱の下から引き抜いたのは、薄汚れた地図だった。
 アーマデルがそれをジェイクに手渡すと、ジェイクは持参していた地下線路内の見取り図を開く。マッドの地図と、本来の地下下水道の地図を見比べてみれば、結構な数の違いがあった。
 マッドの地図には、正規の地図には無い道が幾つも書き込まれていたのだ。
 おそらくは水道や、建築途中で使われていた小路の類だ。
「使えるな。無駄にはしない……マッドの望んだ形ではないかもしれないが、な」
「ここから近い位置にも幾らか道があるな。フルールとジェイクはファミリア―送って偵察を頼めるか?」
 地図の中から、幾つかの道をピックアップしてサンディはそこを指で示した。こういう風な暗くて湿った場所を歩くのは慣れている。

 先導する猫と蝙蝠の後を追い、イレギュラーズが歩いていく。
 地下鉄道の隅にあった人が1人、潜れるサイズの排水溝を滑り降りた先、辿り着いたのは水の流れる下水道だ。下水道を流れる水は冷たかった。きっと雪か氷の溶けた水だろう。
「病気の蔓延が空気によるものなら、燃やせば良いかもしれないですが、水なら危険ですね」
 流れる水に視線を向けてフルールは呟く。
 凍るほどに冷たい水の中を、10を超えるネズミの死骸が流れていった。鋭い刃物で裂かれたような傷痕がある。きっと汰磨羈に斬られたのだろう。
「っと、いたいた。その恰好はどうした?」
 銃を降ろしてジェイクが問うた。
 通路の先、ジェイクが声を投げかけたのは汰磨羈と鈴音だ。
 かすり傷と泥に塗れて、ダメージの割に酷い有様のように見えた。とくに汰磨羈が酷い。衣服も髪も白いものだから、泥と血の汚れがよく目立つのだ。
「マッドは……カナリアを連れていた?」
 レインは問うた。
「カナリア? あぁ、連れていたな」
「カナリアが死ぬ空気の所は、ガスが充満してる所……だから、マッドはそこには行かない筈」
 頬に手を当てレインが呟く。
 地下鉄道はともかくとして、地下下水道の一部には有毒なガスが溜まっていたのだ。ネズミや、他の何かの死体から発生した有毒ガスだろう。
 通貨する程度であれば問題はないだろうが、長く留まるとなれば危険かもしれない。おそらく、マッドはそう言う“危険な場所”には潜んでいない。
「なに、見つけ出すのに手間はない。鈴音が蛍光塗料をぶつけてやった……ほら」
 汰磨羈の指さした先には、地面に残った塗料の滴。
 それを辿って行った先に、マッドが潜んでいるはずだ。

 地下水道の奥、ゴミの山に腰かけてマッド・ブランが頭を抱えた。
「あーあー、マジかー。マジで追って来たー」
 ガスマスクを付け直し、マッドはそう呟いた。
 足元にはネズミの群れ。イレギュラーズの接近は、当然にマッドも察知している。
「向こうも俺みたいに動物を使役するみたいだしなー。数が多いし、何がそうなのかわかんねーしなー」
 例えばネズミを使役されては手に負えない。
 膨大な量のネズミの中から“イレギュラーズに使役されている個体”だけを探し出して駆除するなんて不可能だ。
「よし。四方から襲って足止めだな。その隙に俺はとんずらすんのが賢いやり方ってなー」
 ネズミたちに指示を出す。
 マッドの周囲に群がっていたネズミたちが、壁や天井、排水口や壁のひび割れの中へ一斉に駆け去っていく。

 地面が揺れた。
 否、大量の何かが駆ける足音だ。
「囲まれてるな。一斉に来るぞ」
 ソードオフ・ショットガンを手に構えサンディは呟く。
 背中合わせになるように、剣を構えたアーマデルと、ジェイクが警戒態勢に移った。
「不自然な動きだ。十中八九、マッドの鼠だろう」
「向かって来るなら好都合。逃げ道もねぇし、纏めて始末しちまおう」
 ジェイクが煙草を吐き捨てる。
 湿った地面に落ちた煙草の火が、じゅうと音を立てて消える。代わりとばかりにアーマデルの身体が光り……瞬間、光の軌跡が暗闇の中を泳ぐように疾駆した。
「……俺は鼠対応へ回ろう、使役者を追う役は任せた」
 銃声。
 次いで、壁面を削る刃の音。
 火花が散って、鼠の群れが跳ね上げられる。
 ネズミたちが通路へ飛び出す瞬間を狙って、アーマデルが先手を打った形である。
 だが、ネズミの数は膨大だ。
 四方から溢れるネズミの群れが、イレギュラーズに襲い掛かる。
 汚れた歯を剥き出しにして、小さな足で地面を蹴って……。
 疾駆するネズミたちを見て、サンディは笑った。
「俺の通常攻撃は特別製でさ」
 轟音。
 そして、ばら撒かれる鉛弾。
 散弾がネズミを襲う。
 銃弾の雨。
 それは決して途切れない。
 マズルフラッシュが瞬いた。その中をアーマデルが駆けまわる。
 ネズミの死体が3人の足元に積みあがる。流れる水に、幾つもの遺骸が浮いている。

 ネズミが溢れた横道に、イレギュラーズが跳び込んだ。
 3組に分かれて地下水道の奥へと向かうレインの前を、妖精猫が駆けていく。
「……絶対逃がさない」
 レインの視界をマントを羽織った小柄な男が横切った。
 一瞬、ガスマスクの向こうにあるマッドと視線が交差する。
 静かにレインが口を開いた。
 紡がれるのは歌声だ。
「うぉっ……んだこりゃ」
 耳を押さえて、マッドが身体を折り曲げる。
 レインの歌声が鼓膜を通して、マッドの脳を揺らしたのだ。
 さらにレインの後ろにはフルールの姿。
 翳した手に、火炎が踊った。
「疫病付きの呪術師……もう少しまともな使い方はできなかったのでしょうか?病を扱うなら、それの治癒方法だってわかるはずでしょう」
 火炎は鳥の形を……鳳凰の姿を取りながら、マッドへ向かって飛翔する。壁を作るべくマッドはネズミを呼び出すが、片っ端から炎に焼かれ、遺体さえ残らずに灰と化した。
「それなのに人のために働くのではなく、人を殺すために働くなんて……お尻ペンペンですね。ちゃんと消毒をして」
「うるせーなー、ちくしょう」
 炎へ向かって、マッドは魔力の弾丸を放った。
 瞬間、マッドの肩からカナリアが飛び立つ。
 マッドの切り札たる、拡散するガス状の魔弾だ。周囲に異臭が漂うと同時に、フルールの鳳凰が飛散する。
 爆発染みた衝撃と共に、地下下水道を炎の波が吹き荒れた。

●マッド・ブラン
 瓦礫を押し退け、レインとフルールが地下水道に這い出した。
 周囲には焼け焦げた痕跡。
 それと、燻るネズミの遺骸。
 フルールは周囲を見回すと、はぁ、と小さな吐息を零す。
「もう逃げたみたいですね。逃げ足が速い」
「ですが、弱ってはいるはずです。ネズミもかなり始末できたかと」
 髪の汚れを払いながら、囁くようにレインは言った。
 その胸には、ぐったりとしたカナリアが抱えられていた。

 焼けた腕を庇いながら、マッドは地下を進んで行く。
 下水道はもうだめだ。
 一旦、地下線路へ出て地上を目指す方がいいか。
「情報だけ売って、報酬もらったらドロンだな、こりゃー。大金に目が眩んだ奴から死んでいくっつーの」
 なんて。
 声を潜めて悪態を零すマッドだが、ピタリとその脚を止める。
「逃げ場を失って焦る人間の臭いがするなー?」
 聞いた覚えのある声だ。
 少しずつ、自分の方に近づいて来る。

 鈴音から逃げるようにして、マッドは地下を彷徨った。
 その途中で、ネズミを新たに使役して、今やその数は100匹ほど。戦力として数えるには不足しているが、時間稼ぎ程度のことは出来るだろうか。
 もっとも、マッドの術は当然、敵にもバレている。
「情報を持ち帰られちゃったら駅やラド・バウの人達が危なくなっちゃうもんね」
 降り注ぐ炎の弾丸が、ネズミたちを焼き払う。
 炎を放ったのは、待ち構えていた焔である。焔の後ろには、レインとフルールの姿も見える。
 焔が虚空へ手を翳せば、煌々と燃える炎が足元から湧き上がる。なびく赤い髪も相まって、まるで業火の化身のようだ。
 燃える床を一瞥し、マッドは顔色を悪くした。
 前方には焔。
 背後には鈴音。
「俺に有利なフィールドのはずなんだけどなー」
 今の一撃で、ネズミたちは数を減らした。
 だが、炎は燃えている。
 火傷だらけの右上を掲げ、マッドは魔力を集中させた。威力の低い魔弾だが、ガスをばら撒くという性質上、火炎はそれに引火する。
 爆発を起せれば、目くらましにもなるだろう。
 その後、自分が無事でいられる保証はないが……。
 とはいえ、しかし……。
「病原菌に加えてガスか。倍満だな、御主」
 高く掲げたマッドの右手を、汰磨羈の刀が斬って落とした。激痛に意識が遠くなる。
 だが、マッドは堪えて見せた。
 残る左手で、至近距離から魔力弾を撃ち込んだのだ。汰磨羈であれど、回避は間に合わないだろう。
「世界が世界なら、条約違反マシマシだ。生かして帰したら、今度は一般市民に多大な被害を与えかねん」
 命中すれば……の話だが。
「悪いが新皇帝派に情報は渡せないンでな」
 鈴音の構えた大盾が、マッドの魔弾を受け止めたのだ。
 そして、汰磨羈の斬撃がマッドの胸部を斬り裂いた。
「故に、此処で散って貰う。確実にな!」
 血飛沫を顔に浴びながら、マッドは床に倒れ込む。

 ところは地下下水道の一角。
「っと、終わったか? ネズミどもが散らばっていくな」
 銃を降ろしてジェイクは言った。
 咥えた煙草に火を着けて、紫煙を深く吸い込んだ。肺に煙が溜まる感覚が心地いい。
 地下下水道の真ん中、ネズミの遺体に囲まれて……というシチュエーションは最悪だが。
「このまま地下から出て行ってくれればいいんだけどね……どうもお話が通じなくって」
 通路の奥で火が灯る。
 焔たちが帰還したのだ。
 かくして任務は、マッド・ブランの討伐からネズミの駆除に移行した。

成否

成功

MVP

岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
マッド・ブランの討伐は完了。
地下のネズミは大幅に数を減らしました。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただき、ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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