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シナリオ詳細

<咬首六天>寒天にぬくもり

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 紙にサラサラと、インクを浸したペン先が走る。
 報告書や始末書の類は嫌いだが、こうして静けさの中で自由に走らせる筆は楽しい。
「アレクシアチャン……へ。雪が降るようになりましたが、お変わりはないでしょうか? アタシは毎日忙しく過ごしていますが、寒さには慣れているのでとても元気です。けれど、アレクシアチャンは違うでしょう? 鉄帝の寒さで風邪を引いていないか心配です……、と」
 万年筆を走らせていたイネッサ・ルスラーノヴナ・フォミーナは、次の文は……と、少し考える。思いつくのがやれどこそこで暴動が起きた、どこそこで民が困っていた、という内容ばかりでいけない。
 所属している場所は違えど、イネッサはアレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)の友人だ。時折こうして文を交わし、互いの近況を報告しあっていた。非番の日にこうして筆を執るのがイネッサのストレス解消にもなっているのだ。
 折角だから、手紙には楽しいことを記したい。
 楽しいこと、楽しいこと――。
 そう考えると出てくるのは矢張り、未来の話、だろうか。
「落ち着いたら、アレクシアチャンとお買い物がしたいです。また、シレンツィオ・リゾートに行きませんか? 休暇は必ずもぎ取ります。一緒に甘いものを食べたいです。今の気分はバターとシュガーのガレットで……」
「イネッサ少佐!」
 ふふっと思わず笑みが溢れてしまいそうなくらい幸せな気分だったのに、その気持は一瞬で砕けてしまう。
「……何でありますか」
「至急お耳に入れたい報告があります!」
「……聞きましょう」
 そう、ここはスチールグラード都市警邏隊の屯所であり、イネッサの執務室。
 非番ではあるのだが、いつ何時何が起こるか解らないのが昨今の鉄帝事情。いつでも動けるようにと非番でもイネッサは執務室に詰めているのだ。……町に出て買い物や甘味巡りができる訳でもないのだから。
「どうぞ、これを」
「こ、これは……!」
 スッと差し出される、一枚の紙。
 そこに踊る文字は――

『 WANTED DEAD or ALIVE
   -2,160,000G-    』

 それは、イネッサの友人、アレクシアの指名手配書であった。
 しかし。
「これはもう見たであります。アレクシアチャンは強い子なので、大丈夫でありますよ」
「裏面をご覧ください」
「……? これは、人を募る書き込み、でありますか?」
「はい。どうやら囚人たちが知恵を働かせたようです」
 内容に目を通したイネッサは、慌てて椅子から立ち上がる。
「出てくるであります!」
「はっ。お気をつけください、少佐」
 裏面には、彼女を騙す計画に乗る者たちを募っていた。


「アレクシアチャンはいらっしゃるでありますか!?」
 イネッサは急ぎ、革命派が拠点としているギアバシリカへと向かった。
 手配書の裏面が真実であれば、彼女は此処には居ない。
 けれど、居て欲しい。
 そう願って訪れたイネッサに齎されたのは、望まざる回答。
 ――アレクシアは、此処には居ない。
 アレクシアたちは難民たちに乞われ、とある難民キャンプへ仲間たちと支援に向かったのだ。
 その全てが、懸賞金を狙う囚人たちの罠であることを知らずに――。

GMコメント

 賞金首って良い響きですね。
 ごきげんよう、壱花です。

●目的
 悪い人たちを返り討ちにしよう!
 温泉で温まろう!

●シナリオについて
 難民キャンプで支援をしていたアレクシアさんと仲間たち。
 昼も過ぎて夕方が近付いてきた頃に、「大変であります~!」とイネッサが駆け込んできます。彼女が言うには「いち早く逃げて欲しい」。
 このキャンプ自体が賞金を狙う囚人たちの罠である。彼等は難民キャンプに集まった賞金首たちを一網打尽にしようと考えている。しかし、イレギュラーズたちは強い。自身の力には自信があるが、囚人たちだけでは力が及ばないかも知れない。
 そこで囚人たちは考えました。テテーン!
『難民たちにも協力させよう!』
 イレギュラーズたちの首にかかった賞金がほしいのは、何も囚人たちだけではない。金があれば、高額になっている食料を買える。寒さを凌ぐための衣服を買える。……彼等も生きるためにお金がほしいのです。

 雪原の中に温泉が沸いています。
 普段は時間を決めて性別で別れて入っていますが……何故か! そう、何故か皆さんは今日、服の下に水着を着ています!! きっと温泉があるよという情報を先に聞いていたのでしょうね。うんうん。
 というわけで、早く片がつくと温泉で温まることが出来ます。

●フィールド
 雪原の中にあるキャンプ地です。
 テントや炊き出し等を行える場所があり、離れると真っ白な雪原と森があります。
 温泉はキャンプ地の直ぐ側にあります。木々が少し敷居となっているため、キャンプ力は見えませんが、ほこほこと上る温かな湯気は見えることでしょう。
 満天の星空の下、時折ちらちらと降る雪を見上げながら温泉に入ること。それがこの難民キャンプに集う難民たちの生きがいです。

●敵
・囚人…8名
 全員男性で、筋肉質。女子供を優先的に狙います。
 強さは普通の囚人で、突出して強いわけではないので徒党を組んでイレギュラーズたちの賞金を狙っています。
「へえ、この子アレクシアちゃんって言うのか。可愛いね」みたいな感じでアレクシアさんに目をつけました。長い囚人生活で女性に飢えているようです。どうせ殺すのならその前に楽しんでもいいよね? みたいな下衆なので、殺してしまってもOKです。イネッサも「アレクシアチャンを変な目で見るな!」と怒ると思います。
「へへへ、君がアレクシアちゃん? 手配書よりも本物のほうが可愛いね」
 皆さんアレクシアさんが大好きです!

・金に目がくらんだ一般難民…数不明
 お金が欲しい! 難民生活を脱したい!
 戦力がほぼほぼないので直接的にイレギュラーズたちを攻撃はしませんが、囚人たちが有利に動けるようにイレギュラーズをおびきだしたり等、誘導をします。
 調理用やサバイバル用のナイフ、鍬等を握ることもあります。

●イネッサ・ルスラーノヴナ・フォミーナ
 アレクシアさんの友人。
 スチールグラード都市警邏隊の少佐で、アレクセイ大佐の部下。
 今回も個人的に「アレクシアチャンが大変です!」と駆けてきています。
 スーパーダッシュで駆けてきているので疲れていますが、やってほしいことがあればお手伝いします。少佐なので、それなりに強いです。

・関連シナリオ『弱き人々のために』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8508

●EXプレイング
 開放してあります。文字数が欲しい時等に活用ください。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

 それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。

  • <咬首六天>寒天にぬくもり完了
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年12月26日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
シラス(p3p004421)
超える者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
ハリエット(p3p009025)
暖かな記憶
マリオン・エイム(p3p010866)
晴夜の魔法(砲)戦士

リプレイ

●急を知らせる
「今日は来てくださってありがとうございました」
「いいえ、礼など必要ありませんわ」
 当然のことをしているまで。
 慈愛に細められる瞳は、正しく司祭のそれ。酒が『まだ』入っていない『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は胸の前で手を組んで優しく言葉を紡いだ。
「よし、思っていたよりも状態が悪くないな」
「他に助けが必要そうなところはあるかな?」
 難民キャンプへの支援に向かうことが既に日常と呼べる程の頻度になって久しい。軽く案内されて見て回れば、足りていない支援が何かの把握にも慣れたもので、頷いた『竜剣』シラス(p3p004421)の側では荷物を置いた『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が難民たちへと声を掛けていた。
 それにしても、とシラスは思う。何だか難民たちの様子が他のキャンプよりも余所余所しい気がするのだ。視線を感じて素早く振り返ればサッと避けられ、難民たちの表情や態度もぎこちないように思えた。
(気のせい……じゃないよな?)
 視線を向ければ、『同一奇譚』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)も何か感じているのだろう。ニタリと怪しく笑いながらも、彼女は非力な女性を装い軽作業ばかりに手を出している。
 その時、遠方から誰かが駆けてきた。
 そのことにいち早く気付いたシラスがアレクシアをかばうように前へと立ち、『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)が続く。
 しかし。
「……あれ、イネッサ君?」
「やや。あのお姿は、確かに」
「あああああアレクシアチャン!!」
 アレクシアとルル家には駆けてくる人物に心当たりがあり、そしてアレクシアを視認したイネッサもまた彼女の名を呼びながら真っ直ぐに駆けてきた。
「はあ、はあ、ふう、あれ、あれ、アレクシアチャ……」
 膝に手をついてぜえぜえと肩で息をしているイネッサが息を整えようとしていると、手早く水を用意したルル家が差し出した。
「イネッサ君、どうしたの?」
 それを一息にあおるのを見つめ、息が整うのを待ってからアレクシアがそう問えば、空になったコップを感謝の言葉とともに返したイネッサはハッとした様子でアレクシアの両肩に手を置いた。
「た、大変であります、アレクシアチャン!」
 友人の窮地に慌てて大きな声を出したものの、イネッサは少佐。すぐに我に返ると抜け目なく視線を周囲に素早く走らせ、「会いたくて死にそうでした!」とにっこりと笑った。
 それから声を潜め、アレクシアとその直ぐ側に居る者たちだけに聞こえるように、こう告げたのだ。
「いち早くここから逃げて欲しいであります」
 ただ事ではない様子にルル家を始めとした数名が気を利かせ、明るい声で話しながらアレクシアから離れ、難民たちの視線を集めていく。その動きに視線で謝意を現したイネッサは、アレクシアに状況を説明した。
「この難民キャンプは囚人たちの罠であります」
「……どういうこと?」
「賞金を狙う囚人たちが徒党を組み、難民たちも抱き込んでいるのであります」
「なるほどな、俺達の賞金か」
 だから早く逃げてほしいとイネッサは口にするが、アレクシアは「でも……」と悩むような声を上げた。
「すべての人がそうではないかも」
 本当に困ってこの難民キャンプを頼ってきている人もいるかもしれない。
 実にお人好しな発言にイネッサは困った顔でシラスを見、シラスはただ肩を竦めて見せた。

「えっ、アレクシアちゃんが狙われてる?」
 こうも冷え切っていては効果は薄いが、神炎の温かさで僅かに雪を溶かしてキャンプ地を過ごしやすい場所にしようと行動していた『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が驚きの声を上げた。
「要するに、罠だったと」
 雪かきスコップを手に作業していた『暖かな記憶』ハリエット(p3p009025)も、静かに瞳を瞬かせた。何故だか妙なよそよそしさを感じていたため、支援してもらうことに負い目を感じているのかと思っていたが、そうではなかった。
 けれどそうと知っても、ハリエットには彼等を責める気はない。飢えて生きるか死ぬかの瀬戸際の人間が、善人で居ることは難しい。助かるのならば悪に手を染めねばならない、そういった瀬戸際でもあるのだ。
「生きる為に足掻く彼らを罰するのではなく、正しく導くのがあたし達の役目だわ」
 そうですよねと炊き出しの準備をしていた『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)が説明に来たアレクシアに視線を向ければ、アレクシアはしっかりと顎を引いた。
「けれど、唆した囚人たちはいただけないよね」
「つまり、その人達には情けも容赦も慈悲もいらいないってことだよね?」
「あっ、慈悲はかけてあげて欲しいかな?」
「一人残らずすり身にしてさしあげますよ!!」
「命は助けましょう。ですが多少なりと痛い目にあって反省して頂くぐらいは甘んじて受け入れて欲しいものですね!」
「捕まえて全身の骨をボキボキに……ダメですの? 仕方ありませんわね。それならその優しさに免じて、右足の小指以外の骨をボキボキに……」
 血の気の多い幾人かの様子に、アレクシアは落ち着いてねと宥めて回るのに忙しかった。

 ――――
 ――

「ひひひ、見ろよ。マジモンのアレクシアちゃんだぜ」
「手配書より可愛いなぁ」
「それにしても全員可愛くないか?」
「ああ、アレクシアちゃんから離れないあの男と金髪の男以外……」
「……それにしてもあの赤髪の……どこかで見た顔じゃないか?」
「俺も見たことがあるような……」
「あ、あいつはっ!」
 男の一人が赤髪の司祭の顔と賞金額を知っていた。
 桁の違う賞金首の存在に、隠れ潜む男たちはざわめく。
「静かにしろ、バレちまう!」
「……アレクシアちゃんと一緒に来たってことは、全員賞金首か?」
「だと思うぜ。しかし数が多いな……少しずつ仕留めたいんだが……」
「赤髪はヤバい。あの金額になるってことは相当やらかしてるぜ」
「狙うなら数が減ってからだな」
 うーんと唸り、男たちは相談しあった。
 炊き出しの準備をしている黒い女が特にか弱そうだ。が、他にもシノビの様な装いの女やシスターがいる。
「俺たちの目的を思い出せ」
「アレクシアちゃんだな」
「そうだ、アレクシアちゃんだ」
 やっぱりまずはアレクシアから狙おう。側にいる男さえ離してしまえば、女が数人居た所でどうとにでもなるだろう。
 男たちは下卑た笑みを浮かべ、難民たちへと指示を出すのだった。

「クロだ、何か混じってるぜ」
 悪意の感情がシラスの探知に引っかかった。正確な数や場所までは解らないが、反応は複数――それもそこそこ多そうだ。やはりイネッサが言うように難民たちもグルなのだ。
 シラスの言葉に「やっぱり本当なんだ」とアレクシアが悲しげに眉を落とした。

●ご愁傷さま! 骨は拾うからね!
「アレクシアさんを呼んできてほしい、ですか? 恥ずかしいから男性は抜きで……なるほど、解りました。少々お待ち下さいね」
 ああこれは、もしかして。
 素早く察した『氷月玲瓏』久住・舞花(p3p005056)だが、気持ちは人の良さそうの笑みの下に隠して快諾し、人々の間を忙しく動き回っているアレクシアの元へと向かった。
 側で作業をしているシラスには後から隠れて着いてくること、また他の仲間にもその旨を伝えて欲しいことを告げ、舞花はアレクシアと、そして近くに居た焔とともに難民に呼ばれた場所へと向かった。
 イレギュラーズたちが既に罠であることに気付いていることを、こそこそと裏で手を引いている囚人たちはまだ気付いてはいない。
「ここ、ですか?」
 舞花たちは難民の女性の先導でキャンプから少し離れ、小さな森へと入った。
 緊張したような表情で先導していた難民の前に木々に隠れていた男たち――囚人たちが現われると、難民は「ごめんなさい!」と頭を下げて駆け去った。舞花も焔も、彼女を追いはしない。生きるために難民たちも大変なことを理解しているから。
「ひひひ、いらっしゃい」
「よく来てくれたね、会いたかったよぉ」
 男たちは下卑た笑みを浮かべ、にじり寄ってきた。
 悪漢たちの手が乙女たちへと伸ばされる――その時。
「そうはさせないよ! 嵐を呼ぶ魔法(砲)戦士のマリオンさんが許しません!
 いくよ! 飛翔蒼穹蹴り!」
 飛び蹴りとともに飛び出してきた『嵐を呼ぶ魔法(砲)戦士』マリオン・エイム(p3p010866)がそう宣言したのだった。

 一方その頃。
「さあ、壁にめり込みたい方から掛かって来なさい! そうなりたくないなら、大人しく武器を捨てて降伏なさい!」
 アレクシアたちを追おうと動き出したところを、キャンプ地に居たイレギュラーズたちは難民等に囲まれた。しかし人数はあれど、彼等は難民。イレギュラーズたちの敵ではない。
 飛行したシラスとマリオンは既にアレクシアの元へと向かっているし、オラボナが惹きつけてイネッサが一気に蹴散らしたところをハリエットがともに駆けていった。
 しかしリアとヴァレーリヤは、その場に残ることを選んだのだ。ふたりは神の使徒として、迷う子羊たちを正しく導くのが役目である。間違った道へと進むのならば声を掛け、慈悲を与え、教え、導かねばならない。
「貴方達の不安は解るわ」
 この生活がいつまで続くか解らないこと。
 囚人たちにキャンプを襲われたキャンプもあること。
 本当に冬を越せるかも解らないこと。
 皆、不安なのだ。
 けれど、とリアは声を張る。
「クラースナヤ・ズヴェズダーの難民キャンプは、貴方達がわざわざこんな事しなくても、あたし達には貴方達を救う算段があるわ」
 まだこのキャンプは急ごしらえで何もないが、何れ暖房器具も揃えるし、歯車兵や自警団に守らせるつもりである。
「貴方達の『明日』は、あたし達が必ず守るわ。あたしは一人でも多くの人を救いたい! だから、どうかあたしに貴方達を救わせて!」
 難民たちは顔を見合わせる。互いの顔色を伺いあっていた。
「脅されている、のですわね?」
 ヴァレーリヤの言葉に難民たちが肩を跳ねさせた。
 旨味をチラつかせ、けれどそれに従わねば刈り取られる命は――難民である以上、彼等に選択肢はないようなものなのだ。
「リア殿はあの新皇帝バルナバスと戦って退けた女傑ですよ! 命が惜しいのなら従っておいた方が良いですよ!」
 数減らしのために残っていたルル家の言葉に、ざわりと小波がたつ。先程とはまた別の毛色の、だ。
「ルル家さん!」
「ふふっ、大丈夫そうなので拙者もあちらへ向かいますね!」
 コラッと腕を振り上げたリアから逃れるように、ルル家も駆けていった。
「まったくもう……。大丈夫よ。あいつらはあたし達が何とかするわ」
 だから、救わせて。
 神に仕える乙女たちは拳ではなく、言葉を尽くすのだった。

「賞金がそんなにほしいのならかかってきなさい! 深緑の魔女は、そう易易とは倒せないってわかってもらうから!」
「へへっ、俺たち力づくで屈服させるのも好きなんだぜ?」
「馬鹿なことを考えましたね」
「そこだッ! 空脚列蹴ッ!」
 魔力で編んだ赤い花がふわりと舞い、視線を集めたアレクシアを狙った囚人たちを纏めて舞花の剣が遅い、そのうちの一人へと接近したマリオンが飛び膝蹴りを顎にくれてやる。
「悪い事は言わないから、マリオンさんは降参するなら今の内だと思います!」
 でないと――

「待たせたな」

 怖い人達がやってくるから。
 男たちの悲鳴と共に降りてきた人影に、アレクシアが喜色を湛えて「シラス君!」と声を上げた。
「この人たちだね」
「Nyahahahahahahahaha!!! か弱い女のご登場だ!」
「アレクシアチャン、ご無事でありますか!」
 ハリエットの銃弾がひとりの男の頬を掠め、すぐにオラボナとイネッサも駆けつけ、焔がこの人達さっきねぇと囚人たちがアレクシアへ向けた視線や言葉がどれだけ汚いものだったのかを告げ口した。
「気持ち悪かったし、もうふたりくらいはボコボコにしちゃったよ!」
 アレクシアちゃんに手を出して無事で済むと思ってるの? まずはそのいやらしい目を潰してあげようか?
 なんて、目を据わらせて居たとは思えない明るい笑顔の焔に、イネッサがナイスであります! と元気にサムズアップ。
「女性に下種な目線を向ける輩は、目を撃ち抜かれても文句は言えないよね」
「触ろうともしてたよ!」
「触れようと手を伸ばすなら、腕ごと吹っ飛ばされても仕方ないよね」
 銃を構えたハリエットがチャキ、と新しく弾を籠めて威嚇する。さっきはわざと外してやったのだと、銃口を真っ直ぐに囚人の頭へ向けて。
「なんだ、こいつら!?」
「なんだとは何事だ。我々のことなどよくご存知なのだろう?」
 ニタリと笑みを湛えたまま、オラボナが狂った神の一撃を放つ。
 イレギュラーズだとシラスが名乗り、冷ややかなる一閃――玲瓏たる銀閃剣にて舞花が男の意識を刈り取った。
「放置しても良い結果にはならないでしょうし、徹底的に叩きのめさせていただきましょう」
 だから言ったでしょ? などというマリオンの声はもう、男たちには届かない。イレギュラーズたちとの力の差は歴然で、囚人たちはあっという間に転がされ、しっかりと縛られてしまった。
 遅れて参上したルル家が「拙者もアレクシア殿にいいところを見せたかったです!」と言うくらいには、それはもう早く片がついてしまったのだ。
 狙う相手が悪かった、としか言いようがない。

●湯気立つぬくもり
 ほかほかと上がる白い湯気は、そこが温かであることを示していて。
 寒い寒いとキャアキャアと悲鳴を上げながら爪先を浸せば、熱いと爪先を跳ねさせて。
 けれども湯を掛けゆっくりと身体を慣らし、肩まで浸かったのなら、そこに待つのは極楽だ。
「あ~ひと仕事終えた後のお風呂は格別ですねえ~」
「働いた後の温泉、気持ち良いですわねー!」
 浸かればついつい「あ~」と声が出てしまうのは仕方がない。ルル家とともに、ヴァレーリヤが明るく笑った。
「肉塊もホイップクリームもダメとは実に残念だがな! Nyahahahahaha!」
 多くの難民たちにとってはこれからも憩いの場であり命を繋ぐ場でもあるため、汚すのは以ての外だ。しかし卵はネットに入れて浸けても問題が無かったため、オラボナは後で食そうと人数分の卵を仕込んだ。
「シラス君も入ればよかったのにね」
「うーん、それは……ご多感なお年頃な感じもありますから」
「お年頃? 何の?」
「それにしても良いお湯でありますね! 日々の疲れが溶けていくようであります」
 首を傾げるアレクシアにイネッサが誤魔化して、それを見た仲間たちにも笑みが浮かぶ。水着を着ているのだからとシラスのことも誘ったのだが、彼は「囚人を見ている者が必要だ」と頑なに固辞したのだ。
「青空の精霊種なマリオンさんとしては、昼の晴れ空を眺めながら浸かりたかったですけど、温泉はいつ入ったって気持ちいいね」
 マリオンくんは入るよね? な焔に手を掴まれたマリオンは頑張って抗ったけれど、シラスに皆の護衛を頼まれて、皆と一緒に温泉にちゃぷり。雪に閉ざされた鉄帝では最近は雪が降っていなくても曇天ばかりで、昼間であってもなかなか青空が望めないのが残念だ。
「せっかくだから皆で洗いっことかしよう!」
 ほら、リアちゃんこっちこっち!
 手招きする焔に、リアは大人しく洗われた。背後から聞こえる羨ましいの声に、どこを見ているのかしらと思わなくもないけれど。
「拙者も洗いっこに混ざりましょう!」
「ルル家ちゃんもわしゃわしゃー!」
「……皆さん、元気ですね」
 賑やかに戯れる焔たちを眺める舞花は、肩までしっかりと湯に浸かっていた。
 今回みたいな状況は身体よりも精神がひどく疲れる。しかしこういった状況はまだこれからも各地で続くことだろうから大変だ。休める時に休まねばと身をじんわりと温める熱に瞳を閉ざして染み入った。
「こういうの、雪見酒っていうんだっけ?」
 普段はシャワーで済ませるハリエットも、折角だからと今日は皆と湯に浸かっている。熱い湯に浸かりながら飲む冷たい水は喉にも火照る顔にもとても心地が良いが、既に酒を手に機嫌よくやっているヴァレーリヤを見ればお酒はまた違った楽しみがあるのだろうと思えた。
「ハリエットはまだ飲めませんのね」
「うん」
「成人したら是非お付き合いくださいましね」
「喜んで」
「あっ、ヴァレーリヤちゃんはお酒を飲むならほどほどにしないとだめだよ!」
「ほどほどですわ。ほら、リア! 分けてあげましてよ!」
 飲むでしょうと決めつけてヴァレーリヤが絡みに行くと、いいわよとひと悶着。仲間たちの間に、また笑みが広がった。
「ルル家君、何か悩んでいるの?」
 洗いっこから再び湯船に戻ってきたルル家に、アレクシアが首を傾げる。
「いえ、ただ……足りないものがあるな、と」
 ともに浸かる仲間が居て、語らう友が居て、空には星があって。けれども足りないものがあるのだと、ルル家が真剣に思案していた。
「やはり……」
「やはり?」
 どんな重要な発言が飛び出すのだろうか。
 ごくり、とアレクシアの喉が鳴った。
「やはり、聖母アレクシア像が必要ですね!」
「自分もアレクシアチャンの像はあっても良いと思うであります!」
「ええっ、そんなの必要ないからっ」
 白い湯煙の中、楽しげに皆で笑いあう穏やかなひととき。
 こんな時間がいつまでも続いていく未来のためにも、明日からも頑張ろう。
 イレギュラーズたちは温かな湯に心も身体も伸ばしたのだった。

 ――――
 ――

 はあと白い息を吐いた。
 それは呆れに近く、憂う気持ちからではない。
「馬鹿な奴らだ」
 少し膨らんでいる雪を踏みしめて、雪かきスコップで集めた雪をバラバラとかけた。これならば、遠目では異変は感じ取れないだろう。
 シラスは知っていた。説得をしたところで無駄だということを。説得が効くくらいなら、囚役中に彼等は改心していたはずだ。しかし彼等は改心すること無く世に放たれ、そうして罪を犯し続けている。人の性根は、そんなに簡単には変わらない。こういった心底腐った奴らなど、絶対に。
「そうだな、ギアバシリカから迎えが来て先に発った、でいいか」
 オラボナはニタリと笑うかも知れないが、他の者たちはきっとその説明で信じるだろう。
 ひとりで全員を素早く仕留めた上で『隠す』など、シラスといえど流石に重労働であった。寒空の下だと言うのに顎を伝った汗を手の甲で拭うと、雪かきスコップを担ぎ、ゆっくりと温まっているであろう仲間たちの居る方向へと足を向けるのだった。
 ザクザクザク。真白にただ、足跡を残して。

成否

成功

MVP

シラス(p3p004421)
超える者

状態異常

なし

あとがき

アレクシアさんに何事もなくて、イネッサは温泉から出たらルンルンと帰っていきます。
温泉にも入れたので、明日からのお仕事も頑張れそうです。
ギアバジリカへ戻って囚人たちのことを聞いても「知らない」という回答がくるでしょう。囚人たちは何処へ消えたのでしょうね?

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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