シナリオ詳細
<咬首六天>賞金稼ぎたちの晩餐。或いは、フクロウの策謀…。
オープニング
●賞金稼ぎの晩餐
新皇帝派組織『アラクラン』――その総帥たるフギン=ムニンの策謀により、イレギュラーズの首に賞金がかけられた。
城塞バーデンドルフ・ライン郊外。
古い闘技場跡地に男たちが集まっていた。
剣呑な眼つきに、薄汚れた服装、手には武器を持つ20人の男たちだ。
「よぉし! 集まったな! 予定よりは少ないが、まぁいいだろう!」
背中の翼を大仰に広げ、大声を張り上げる男が1人。肩にライフルを担ぎ、目をゴーグルで覆った黒衣の男だ。
彼は部下に指示を出し、集まった賞金稼ぎの前に次々と酒や肉を運ばせる。賞金稼ぎたちは嬉しそうに酒に飛びつき、肉に喰いついた。マナーなんてものはない。獣の1歩手前といったような有様だ。よほどに飢えていたらしいが……国がこんな有様なので、それも仕方がないと言える。
「おぉ、フクロウよ。お前さん、俺らに飯を食わせるためにここに呼んだんじゃねぇよな?」
男たちの1人……背に2門のガトリングを背負った巨漢が声をあげた。通称“ガトリング”ボブと呼ばれる名うての賞金稼ぎだ。
その横には、細身の男。手にした弾丸を指で弾く、にやけ面の男が立っている。名を“ギャンブラー”ハリー。魔力を込めた指弾でもって弾丸を撃ちだすという特異な技を持つ賞金稼ぎだ。
「当たり前だ。ただ飯じゃねぇぞ。お前らには、賞金首どもを狩ってもらわなきゃならねぇ」
高い位置からフクロウと呼ばれた男は答える。
「だったら元々そのつもりだぜ? 飯はありがたくいただくが、お前に頼まれないでも首は狩るさ」
ハリーの言葉に集まっていた男たちが、次々と下品な笑い声をあげた。
だが、フクロウはこれ見よがしに溜め息を吐いて首を振る。
「個々の実力が足りてねぇんだよ。それで今日まで1人も狩れちゃいねぇんだ。だから俺がこうしてお前らにアジトを用意して、飯を食わせて、襲撃のタイミングまで指示してやってんだよ」
呆れたようなフクロウの言葉に、男たちの何人かが表情を曇らせた。フクロウの言葉に嘘は無い。実力不足で首を狩れずに貧した者も、賞金稼ぎの中には多い。
「いいか? 襲撃の日はこちらで指示を出す。それまでは好きに飲み食いしてな」
「……お前はどうする? お前んところの傭兵部隊も一緒に襲撃かけんのか?」
そう問うたのはボブだ。
名の知れた賞金稼ぎなだけあって、飲み食いしながらも周囲の警戒は解いていない。
「別の仕事があるんでな。うちの傭兵部隊はパスだ。お前らが襲撃をかけたタイミングで、こっちの仕事を進めさせてもらう」
「なんでぇ。俺らは囮かよ?」
「囮っちゃ囮だが、20人で囲んで何人か殺るだけの仕事だよ。飲み食いできて、比較的安全に賞金も手に入る。割のいい仕事だろ?」
なんて。
そう言ってフクロウは肩を竦めた。
●フクロウ
「はぁ……つまり、闘技場跡地に賞金首を集めていると?」
訝し気な顔をしてイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)はそう呟いた。
バーデンドルフ・ラインの一角。花壇に並んで腰かけて、イフタフとフクロウは言葉を交わす。秘密裏に行われている会談のためか、2人が視線を交えることは無い。
「なんでそんな情報を私たちに? あなた達に何のメリットが?」
「まぁ、タダじゃねぇんで報酬はもらうさ。いやなに、賞金稼ぎどもの襲撃も鬱陶しい頃だと思ってな。そっちのお仲間に見逃してもらった恩もあるし……こっちはこっちで、素人の乱暴者が戦場に出張って来るのは邪魔くさいんだ。潰してくれんなら大助かりさ」
へらり、と笑うフクロウの懐で金貨の擦れる音がした。
新皇帝に雇われた傭兵フクロウ。けれど、彼は賞金稼ぎたちのことを良く思ってはいないらしい。その排除のため、こうしてイレギュラーズに助力しているというわけだ。
「闘技場跡地で飲んだくれて、すっかり油断してるだろうよ。まぁ、それでも何人かは油断せずに節度を保って飲み食いしてるみたいだが……そっちも、纏めて叩く方がやりやすいだろ?」
「……まぁ、作戦次第っすかね。連中の装備は? 名うての賞金稼ぎが混ざっていたっすよね?」
フクロウを信用し切ることは出来ないが、彼の話を頭から無視することも出来ない。
賞金首となったイレギュラーズにとって、賞金稼ぎたちが邪魔なのは間違いないのだ。その数を減らせるのなら、積極的に打って出るのも悪くない……そうイフタフは考えていた。
「ボブとハリーか。ボブの得物はガトリングだ。威力は高いし【連】【ブレイク】【流血】を備えた範囲攻撃は確かに厄介だな。だが、あいつは動きが鈍い」
賞金稼ぎたちの間に上下関係は無い。
けれど、実力的にボブがリーダー格を張っていることに間違いは無いだろう。
「ハリーはすばしっこい鼠みてぇな男だ。どこに飛ぶかも分からん指弾を撃つわけだが、上手く当たれば対象に【塔】【封印】【致命】【暗闇】を付与する。まぁ、上手く当たらないことも多いがな」
そんな不確かな技で今も生き延びている辺り、割と運はいい方なのだろう。
「そのほかの連中は剣や斧、拳銃なんかが得物だよ。力だけは強い連中だ。当たれば【体勢不利】程度は受けるだろうな」
以上を合わせて20名。
それが闘技場跡地に集まった賞金稼ぎの総数だ。
「それじゃ、上手い事処分してくれや」
イフタフに闘技場までの地図を手渡し、フクロウは花壇から立ち上がる。
バサリ、と。
羽の音が響いた時には、既に彼の姿は無かった。
- <咬首六天>賞金稼ぎたちの晩餐。或いは、フクロウの策謀…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年12月19日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●闘技場跡地の賞金稼ぎ
城塞バーデンドルフ・ライン郊外。
古い闘技場跡地には20名ほどの男たちが集まっていた。武舞台には火が炊かれ、空になった酒樽や瓶、食い散らかした食糧のゴミが散らかっている。
「おぅ! お前ら、あまり飲みすぎるなよ! 俺らはこれから、賞金首どもを狩りに行くんだからな!」
そう叫んだのは、ひと際にでかい男であった。背中には2門のガトリング。高く掲げた手には酒の瓶が握られている。
男……“ガトリング”ボブと呼ばれる彼は、酒瓶に口を付けると中身を一気に飲み干した。その飲みっぷりに集まっていた男たちが、下卑た歓声をあげる。
その頭上を、1羽の鴉が飛んでいた。
ガラス玉のような目が、男たちの様子をじぃと観察していることになんて、彼らは誰も気づいていない。
闘技場跡地。半ばほど地下に埋もれた戦士たちの控室に、1人の男が転がっている。
痩身の男だ。その腰には幾つもの短剣が吊るされていた。赤い顔で、気持ちよさそうに眠っていた彼は、ふと“何かの気配”を感じて目を覚ました。
「あぁ?」
視線を左右へ巡らせる。
部屋の隅にネズミが1匹、立っているのが見えた。ネズミの気配に目を覚ましたのだ。
「なんだよ。ネズミか」
酒臭い欠伸をひとつ零した彼は、足元に転がる小石を拾い上げるとネズミに向けて投げつける。ネズミは小石をあっさりと避けて、どこかへ逃げ去って行った。
それを見送り、男は再び寝ようと体を後ろに倒し……。
「……あ?」
その喉がさくりと切り開かれる。
悲鳴の代わりに血を泡を吐き、何が起きたかもわからぬうちに彼はその命を散らした。刃を濡らす血を払い、『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)は男の遺体をその場に寝かせた。喉から上半身にかけて毛布を被せれば、傍目からは眠っているようにしか見えないだろう。
「簡単な仕事だね。でも、あのフクロウって奴の情報かぁ~。いいように使われているような気がしてアレなんだけど賞金稼ぎ達が面倒といえば面倒なのも確かなのよね」
そう呟いたアイリスは、部屋の隅へと歩き去る。
次第に気配は希薄になって、アイリスの姿は影に溶け込むようにして消えた。
フクロウという傭兵から、賞金稼ぎたちの情報を得たのは少し前のこと。
それから数日、傭兵たちは連日連夜、宴を続けてすっかり油断し切っていた。本人たちとしては、戦前の景気づけのつもりなのだろうが、まさか自分たちが売られたとは思ってもいないようだった。
油断のし過ぎだ。
歴戦の賞金稼ぎたちとは言ったものの、その本質は“ならず者”と大差ない。鉄帝国の争乱によって毎日の食事にも困っているのならなおのこと。酒と肉とをたらふく食えると言われては、警戒心も薄れよう。
「あちらのフクロウさん、商売人としては理想的な姿勢ですね。だからこそ信用ならない訳で、機会があれば私のギフトで詳しく調べたいものです」
片目を閉じて『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)はそう言った。鴉の目を通して、闘技場の様子を観察しているのだが、どうやら情報提供者であるフクロウの言葉に嘘は無いようだ。
「嘘ではないみたいだけど、なんだかイマイチ何を考えてるのかわからない相手だよね」
瑠璃と同じく『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)はネズミを使役し、闘技場内の様子を探っているようだ。闘技場内にいる賞金稼ぎたちの人数は、事前に聞いていた通り。酒と食事を腹に詰め込み、油断し切っていることは明白だ。
少なくとも、イレギュラーズの襲撃を予測していた風ではない。
「至らぬ実力を補うために群れるというのは悪くない手ではあると思うが。もう少し敵を知るという事をした方がいいな」
「ですがおかげで、これだけ油断していてくれれば、楽にお仕事ができそうですわね」
闘技場の見取り図を見下ろし『獏馬の夜妖憑き』恋屍・愛無(p3p007296)と『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)が言葉を交わす。
先にアイリスが始末した男のように、武舞台にいない敵も何人かいるようだがその数は僅かだ。予定通り、武舞台の四方から襲撃をかければ賞金稼ぎたちを逃がすことも無いだろう。
「ハリーの位置は不明のままか? なんかこう、信用していいのか不安になるが、ううむ」
「信頼はできないが信用はできるタイプ、というやつかな。上手に付き合っていかないといけないタイプだな、あれは。できるだけ利害が一致するよう願いたいものだ」
『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)は、闘技場見取り図を見降ろして数ヶ所を指で指し示す。
敵の警戒が薄い区画だ。侵入経路として使えそうな位置が分かれば後は攻め込むだけでいい。『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)が移動を開始したのをはじめに、イレギュラーズは四方へと散開していく。
暗がりに白い影が揺らめく。
その手に握られた儀礼用の短剣からは、不気味な気配が漂っていた。
「っ! 誰だ、てめぇ!」
一閃。
白い影……『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)に気付いた男が斧を振るう。ついさっきまで、別の場所で眠っていたのだ。酔いはすっかり覚めている。
これから武舞台に戻って、宴会に合流しようと思っていた矢先のことだ。ヴァイスを見つけて、即座に攻撃に移った辺り、荒事に慣れているのは間違いない。
だが、遅い。
「ちょっと、おいたが過ぎたんじゃないかしら?」
男の手から斧が落ちた。
手首には、短剣が突き刺さっている。
痛みに悲鳴をあげようとした……その刹那、男の腹を強風が打ち据えたのだった。
●一網打尽
薄暗い廊下をかける赤い影。
先に進むヴァレーリヤと、その後に続く焔の2人だ。
「ちょっと待って、ヴァレーリヤちゃん! ハリー! ハリー!」
「ハリー? えぇ、急いでいますわ!」
「違うの! 待って! “Hurry”じゃなくて、ハリー! 闘技場じゃなくて観客席の方に向かって!」
選手入場口から闘技場へと向かおうとしていたヴァレーリヤを、慌てて焔が呼び止めた。指さした先には、スタッフ用の通用口。
そこから観客席へと向かえと言っているのだ。
「ハリーがいた! ボクたちの侵入に気付いちゃってるみたいだから、まずはハリーがいるところを狙っていこう!」
観客席に腰かけて、頬杖を突いた男が1人。
“ギャンブラー”ハリーと呼ばれる彼は、舌打ちを零して踵を返す。反対側の観客席に、見慣れぬ人影が見えたのだ。
「間違いねぇ。ありゃ恋屍・愛無とエーレン・キリエだな。ちくしょうめ。ちと浮かれすぎてたか?」
ハリーの手には手配書の束。
恋屍・愛無とエーレン・キリエを討ち取れば、大金が手に入るだろうが……先手を取られた以上は迂闊に動けない。攻めるか退くかの2択なら、ハリーは後者を選ぶことにした。
つまり、さっきまで一緒に酒を飲んでいた者たちを囮に使おうというのだ。
けれど、しかし……。
「どっせーいぃぃ!!」
雄叫びと共に観客席の一部が爆ぜる。
否、メイスによって殴り壊されたのだ。
瓦礫の山を踏み越えて、粉塵の中から現れたのは赤い髪の小柄な女性。その顔には見覚えがある。
「あんた、いつだったか檻の中で見た顔だ。釈放された囚人……ってわけじゃねぇよな?」
仲間内で“歩く金庫”とまで呼ばれる女の顔を見間違うはずはない。ヴァレーリヤの登場に、ハリーは頬を引き攣らせた。
観客席の一部が崩れた。
酒を飲んでいた男たちも、当然すぐに異変に気付く。
だが、彼らは動けない。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ! 首を狩って生きているなら、首を狩られる覚悟はあるか?」
男たちが武器を手に取るよりも早く、エーレンが現れたのである。
観客席の中央を、堂々と降りて来るその姿に気負いは無い。腰の刀に手をかけて、居並ぶ賞金稼ぎたちを悠然と見下ろしているのだ。
「撃て! 円陣を組んで周囲の警戒だ! 懐まで近寄らせるな! それから半数はハリーの方に加勢しろ!」
酒の瓶を投げ捨てて、ボブが叫んだ。号令を受けた賞金稼ぎたちが行動を開始する。
「ここにいねぇ連中はどうする?」
「放っておけ! もう生きちゃいねぇだろうよ!」
ボブの号令に従って、男たちが行動を開始。酒に酔っているせいか、陣形を組む速度が遅い。その鈍さにボブは苛立っている様子だ。
「知恵の回る者も何人かはいるようだが。金の重みが命の重みというのはお互い様だ」
観客席から何かが跳んだ。
黒い身体の4足獣……否、それは怪物だ。
「撃て!」
「さぁ、仕事といこう」
目鼻のない異形の怪物……愛無が口腔を開くのと、ボブの号令は一切の同時。
ボブの構えたガトリングが回転を始めた、その瞬間……金切り声にも似た咆哮が、ボブや賞金稼ぎたちを飲み込んだ。
ボブたちの張った弾幕が、エーレンと愛無の足が止まった。
銃弾が闘技場の床板を砕き、砂埃と硝煙が濛々と巻き上がっている。粉塵に紛れるようにして、何人かの男たちが陣形を離れた。
向かう先は、ハリーのもとだ。
だが、全員ではない。2、3人の男たちは粉塵の中を這うようにしてエーレンと愛無の背後へと回り込んでいった。
2人がボブたちに意識を向けている隙に、背後から強襲をかけようというつもりなのだろう。
けれど、しかし……。
「ん? イタチ?」
男の脚元を駆け抜ける1匹の黒い獣の姿。テンを模した人形だ。
次いで、粉塵を貫き男の肩に黒い刀が突き刺さる。
「うぎゃっ!」
音はなかった。視認できる速度ではなかった。
引き抜かれた刃が、見えない糸に引かれるように飛び去っていく。粉塵の中でそれをキャッチした小柄な影は女性のものか。その両目だけが、血のように赤く光ってみえた。
「ご安心ください。動かなくなるまでは攻撃するつもりですが、別段とどめを刺すまでする気はありません」
なんて。
瑠璃の声が耳朶を擽り、直後に再び、男の脚に激痛が走る。
斬り裂かれた足を抑えて、男はその場に膝を突いた。次いで、再び肩に激痛。悲鳴をあげれば、胸の皮膚が引き裂かれ……そんなことを何度か繰り返した結果、気づけば男は血塗れだった。
血液の喪失と共に酔いが覚める。
そうなれば、後に残るのは恐怖だけ。姿の見えない襲撃者に怯え、男は頭を抱えてその場に蹲る。泣きながら許しを請う男を見下ろし、瑠璃はため息を零す。
4人の男が、武舞台の端で足を止めた。
その腕や脚からは、赤い血が流れている。
彼らは足を止めたのではない。視認し辛い気糸に絡めとられてしまい、身動きが取れなくなったのだ。
「この冬を越すために賞金が欲しい気持ちはわかるが、晩餐で腑抜けすぎだ」
観客席の端に座った青い髪の少女が告げる。
組んだ脚に肘を乗せ、片手を虚空で左右に揺らす。その手の先から伸びた気糸が観客席から武舞台までにかけて、すっかり張り巡らされているのだ。
それはまるで蜘蛛の巣だ。
「そのような態度では私達の首を取ることなど到底できないと知るがいい!」
嘲るように沙耶が言う。
男の1人が拳銃を取り出し、銃口を沙耶の眉間に向けた。
「この距離なら外さねぇ。腑抜けてるのはどっちだろうな!」
躊躇なく、男は引き金を引いた。
瞬間、男の手から拳銃が弾き飛ばされた。
強風が、男の手首ごと拳銃を撃ち抜いたのだ。見れば、男の手首はだらんと折れ曲がっている。
「私“達”と言っただろう? 話を聞いていなかったのか?」
「ううん、中々元気な子達がいるものねぇ」
男の手首を貫いたのはヴァイスの放った暴風の魔術だ。術者であるヴァイス自身にも負担があるのか、風圧で右手の爪が剥がれて血を流していた。
零れた血が床を濡らす。
「まぁ、覚悟しているのかどうかは知らないけれど、やった以上やり返されるのは当然よね」
ヴァイスは告げる。
次いで、男たちの背後で足音がした。
「降伏する気はあるかな? 傭兵なんて職業は命があっての物種だろう? 屍を晒すか縛に付くか選ばせてあげるよ」
ごうと風が渦を巻く。
構築された魔力球が、男たちの頭上に浮いた。その数は10。身動きも満足に取れない状態で、それを受けてはたまらない。
アイリスが顔の横に手を翳す。
彼女が指をひとつ弾けば、刹那の間さえ空けないうちに魔力球が降り注ぐのだ。
「わ、わかった。こうふ……」
“降伏する”と、男の1人が口にしようとした直後。
カツン、と硬質な音が響いて、ヴァイスの腹から血が飛び散った。
「……っ!?」
背から腹へと貫いたのは、たった1発の弾丸だ。
銃声は無かった。
そして、銃弾1発を受けたにしてはヴァイスの負った傷は深い。
「待て! 俺たちじゃな」
男たちが言葉を口にするより先に、アイリスが指を弾いて鳴らす。
降り注いだ10の魔弾が、彼らの悲鳴を飲み込んだ。
●宴の終わり
転がりながら弾丸を弾く。
狙いを定めることはしない。そもそもハリーの弾丸は、狙った場所へ跳ばないからだ。威力も効果も飛んでいく方向さえも、その時によって異なる。
「滅茶苦茶だな」
観客席だった瓦礫の山を壁にして、ハリーは空になったガンベルトを投げ捨てた。
辺りの温度が高い。瓦礫の一部は炎に焼かれてガラス状に変質していた。
「あばらが折れたか」
血を吐き捨ててハリーは言った。
20発近い銃弾を撃った。ヴァレーリヤや焔、それからヴァイスや沙耶には何発かずつ弾丸を当てているが、重症を負ったのはヴァイスと焔の2人だけ。
「これ以上やっても無駄だと思うけれど、如何ですこと?」
「うるせぇなぁ。そっちだって傷だらけだろうが」
指弾を撃ち出す。
弾丸は空中で機動を変えて、焔の方へ跳んでいく。
燃える槍を手にした焔が、弾丸を回避するように駆けた。だが、弾丸は不自然に軌道を曲げて、焔の脇腹を撃ち抜く。
血を吐きながら、焔が地面に倒れ込む。
だが、しかし……。
「まだまだ、ここからだよ!」
ごう、と炎が吹き荒れて。
焔の身体が宙に浮く。爆炎に背中を押されるように焔は疾走。不安定な姿勢から放たれた刺突がハリーを襲う。
まだ動けるとは思わなかった。傷を負ってからが本領とは思わなかった。
ハリーは身を捩らせて槍を回避。
コートの裾を槍が貫き……ハリーは顔色を悪くした。
槍が観客席の背もたれに突き刺さったのだ。ハリーのコートを巻き込んだまま……つまり、ハリーは動けない。
コートを脱ぐか、引き千切ればいいのだろうが。
「っ!」
ヴァイスと沙耶とアイリスの姿が視界の隅を横切った。気配を消して移動できるのか。だとしたら視線を切るべきではない。
なんて。
ほんの一瞬、そちらに気を取られた瞬間、ハリーの背に激痛が走る。
観客席を撃ち砕き、メイスの一撃がハリーの背中を打ったのだ。背骨の折れる音がした。激痛にハリーは意識を手放した。
倒れたハリーを見下ろして、ヴァレーリヤが汗に濡れた髪を片手で掻き上げる。
「生かしておいてあげただけ、感謝なさい。これに懲りたら、真面目に働きますのよ!」
背骨がへし折れていては、暫くは動くこともできないだろうが。
男たちが折り重なって倒れている。
その背の上に愛無が立った。
「群れが瓦解すれば、さっさと逃げを打つ者もいるかもしれんが……志屍君の方で止めたのか」
所詮は酔っ払いの集団だ。10人程度、倒しきるのに苦労はない。
ただ1人、ボブだけが厄介だ。銃創を負った腕を舌で舐めながら、愛無は武舞台の中央を見やる。
対峙しているボブとエーレン。
残るガトリングは1門。
それももうじき、銃弾のすべてを撃ち尽くす。
「てめぇ、さっきから鬱陶しいぞ!」
「それはお互い様だろう」
銃弾と、飛ぶ斬撃の撃ち合いだ。
「降伏する気が無いのなら……」
エーレンは鞘に刀を納めて、腰を鎮める。
カラン、と音がしてガトリングが回転を止めた。全弾を撃ち尽くしたのだろう。
ガトリングを頭上に掲げ、ボブが前へ駆け出した。その質量でエーレンを殴打するつもりなのだ。
だが、遅い。
しゃらん、と。
鞘の内を、刃が滑る音がして……。
直後、ボブの腹部が裂けた。
視認できぬほどの速度で放たれた一閃。ボブはきっと、斬られたことにも気づけなかった。
数歩、ボブは前へ進んで……自身の零した血溜まりの中に、その巨体を横たえる。
「因果応報というやつだ」
かくして、ボブは息絶えた。
「よぉ、平気そうだな」
なんて。
観客席の端に降り立つ黒い影。
瑠璃とアイリス、それから沙耶の視線を受けてフクロウは両手を頭の横へと上げた。
「何をしに来たんです?」
瑠璃は問う。
くっくと肩を揺らしながら、フクロウは答えた。
「なに、狩り残しがあるようなら“おこぼれ”でも拾おうかな、と」
「狩り残し……それは、果たして私たちと賞金稼ぎのどちらを指した言葉でしょうか?」
刀の柄に手を添えて瑠璃は呟く。
フクロウは何も答えない。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
賞金稼ぎたちは討伐および捕縛されました。
ボブは死亡、ハリーは重症となっております。
依頼は成功となります。
この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
賞金稼ぎ20名の捕縛or討伐
●ターゲット
・“ガトリング”ボブ×1
2門のガトリングを背負った巨漢。今回集められた賞金稼ぎたちの中では一番の実力者。
身体がでかく、動きは鈍い。
ガトリング掃射:物中範に大ダメージ、連、ブレイク、流血
ガトリングの掃射。銃弾をばらまく。
・“ギャンブラー”ハリー×1
ガンベルトを数本巻いた細身の男。動きがすばやく、それなりに運がいい性質らしい。
指弾:物近~超遠、ランダムに無or特大ダメージ、塔、封印、致命、暗闇
魔力を込めた指弾。撃ちだされた銃弾はハリーの意思を無視してどこかへ飛んでいくこともある。
・賞金稼ぎたち×18
剣や斧、ハンドガンを装備した賞金稼ぎたち。力任せの攻撃を好む。現在は闘技場跡地で数日に渡る宴会を終え、すっかりくつろいでいる。
その攻撃には【体勢不利】が付与される。
●フィールド
城塞バーデンドルフ・ライン郊外。
半壊した闘技場跡地。
闘技場には武舞台、観客席、選手控室、倉庫や食堂といった設備が存在する。
基本的に敵は武舞台や観客席に集まっているが、何人か他の場所に移動している者もいる。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
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