PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ミッドナイトブルーに乾杯

完了

参加者 : 22 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 幻想に、とある泉がある。
 市街地から離れて森の方が近い場所に、ぽつん、とある。
 傍にはカフェが一軒。果たして儲けはあるのだろうか、と心配になるような立地である。
 とても静かな場所だ。耳をすませば葉擦れの音がさらさらと耳を癒し、時折季節の鳥が秋の訪れを告げている。
 騒乱の波は決して他人事ではなく、幻想でも騒ぎは起きつつあるが……そんなものを忘れさせてくれるような、とても静かな場所だった。

 ――ここには“光”が住んでいる。

 と、この場所を訪れたある学者は言った。
 水質を分析しても異常はない。虫の類がいる訳でもなく、湖底に苔があるわけでもない。
 なのだが……



「光るんだよね!」
 リリィリィ・レギオン(p3n000234)はそう言って、キイチゴのような桃色の瞳を瞬かせた。
 ね、とカウンターに身を乗り出している。ふわふわと細い足を揺らしながら、一同を見渡した。
「あのね、夜になるとライトブルーに湖が光るんだ。今まではさ、そういうのって夜光虫とか、ヒカリゴケだとか、そういう何かのタネがあるものだったんだけど――ここは違う。原因は今になっても判っていないんだ」
 未来になると判るかもしれないけどね、と、長命である少年は笑う。わかっちゃったら面白くない、そんな表情だ。
「それでね、今って色々と大変でしょ? だから、一休みも必要かなってここを紹介しようと思ったんだ。ミスもミスタもあちこちで大変だからね、休む時間も僕は大事だと思うワケ。ずーっと緊張していたら、本当に戦うべき時を見失ってしまうから」

 それに、モタモタしてたら湖の謎が解明されちゃうかもしれない。
 そんなのロマンがないよ、ロマンが!

「カフェは建っているけど、湖の所有者って訳ではないんだって。だから湖で水遊びをしてもぜんぜん大丈夫。どうせ遊ぶなら夜がいいかな? 光ってキラキラ、綺麗だと思うんだ。昼はカフェで旬の果物とかを食べて楽しむといいよ。ほら、そろそろ梨が終わっちゃいそうだから、梨のタルトとかね。ねえグレモリー! 君は梨って好き?」
 リリィリィは己に説明を押し付けてきた情報屋を振り返る。
 呼ばれた画家の男はスケッチブックに何事かを描きながら、淡々と述べた。
「ふつう」
「つまんなーい! もっと面白い答え用意してよね。……ね、ね、ミス、ミスタ! もし遊び相手がいないなら、僕が立候補するよ? 光る水をさ、水鉄砲に詰め込んで撃ち合ったらきれいだと思うんだよね! ね!」
 長く生きて、何もかもが未知から既知になるのを見てきたからか。
 いつになくリリィリィははしゃいでいた。

GMコメント

 こんにちは、奇古譚です。
 鉄帝も大変、幻想も大変ですが、イベントシナリオを持ってきました。
 ほんの少しばかりの休息にいかがでしょうか。

●目的
 輝く湖を楽しもう

●立地
 メフ・メフィート郊外の森にある湖です。
 傍には看板のないカフェが一軒建っています。

●出来ること
1.昼にカフェを楽しむ
2.夜に湖で遊んでみる

 基本的に湖周辺で行動する形になります。
 昼はカフェが空いているので、さわやかな森と湖の風景を見ながらお茶を楽しむことが出来ます。
 夜になると、湖に住んでいる“何か”がふんわり騒ぎ出し、ライトブルーに湖を染め上げます。
 普段はカフェは開いていないのですが、今回は開けてくれるとの事。
 ドリンクを楽しみながら風景を見るもよし、光る湖で遊んでみるのもいいと思います。
 (昼夜問わずアルコールを楽しめますが、未成年は飲めません。悪しからず)
 
●NPC
 グレモリーが意気揚々と湖畔で絵を書いています。
 昼も夜も描いています。でも、邪魔されても特に怒ったりはしません。
 リリィリィは夜に出没します。遊びたそうにしていますし、一人で遊んでいます。
 お声がけはご自由にどうぞ。

●注意事項
 迷子・描写漏れ防止のため、冒頭に希望する場面(数字)と同行者様がいればその方のお名前(ID)を添えて下さい。
 シーンは昼・夜のどちらかに絞って下さい。(出来る事が全く異なるためです)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。


 イベントシナリオではアドリブ控えめとなります。
 皆さまが気持ちよく過ごせるよう、マナーを守ってゆっくり過ごしましょう。
 では、いってらっしゃい。

  • ミッドナイトブルーに乾杯完了
  • GM名奇古譚
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2022年12月14日 22時05分
  • 参加人数22/33人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 22 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(22人)

プルー・ビビットカラー(p3n000004)
色彩の魔女
ディルク・レイス・エッフェンベルグ(p3n000071)
赤犬
建葉・晴明(p3n000180)
中務卿
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りの守護者
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
流星と並び立つ赤き備
ルシ(p3p004934)
穹の天使
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
鮫島 リョウ(p3p008995)
冷たい雨
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
鶴喰 テンマ(p3p009368)
諸刃の剣
鹿王院 ミコト(p3p009843)
合法BBA
スフィア(p3p010417)
ファイヤーブレス
レイン・レイン(p3p010586)
玉響
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい
チェルハ 03(p3p010803)
地平線の彼方

サポートNPC一覧(2人)

グレモリー・グレモリー(p3n000074)
リリィリィ・レギオン(p3n000234)

リプレイ


 リョウは珈琲のカップを置くと、持ってきた小説のページをめくる。
 ――ちらり、と視線を送った湖は、空の蒼を受けて輝いている。夜になってもこの煌めきはそのままなのだろうかと僅かな疑問がよぎった。
 テンマなら、なんて言うかしら。
 ふとそんな事を考える。彼女の弟ならば、……興味がない、と言いそうだ。風情がないわね、とリョウは想像の中のテンマに呆れたように呟いて、また小説の世界へと没入するのだった。


 ――今日はゆっくりすごそう。
 スフィアはそう思って、ドリンクとランチを頼みました。スープを一杯、お願いしました。
 其れから野菜スティック。これは足元や隣の席でくるくる日向を堪能しているドラネコたちの分です。
 この大きな湖、夜になると光るんですって。光が住んでいる、んですって。
 でも、スフィアは夜に一人で歩く勇気がまだなくて。だから、昼の湖の輝きをみながら、ゆっくりドラネコたちと過ごすのでした。
 スープはとても暖かくて、……ああ。冬が来るのだなあ。


 ミコトは湖畔でうとうと、お昼寝。
 やってくる睡魔には逆らわない。其の為に来た。一人で来た。敷物に飲み物に簡単なスナックまで用意して、……木陰が見付からなかったので、日よけの傘を差して。
 周囲には誰もいない。夜になればきっと、此処も少し騒がしくなるんだろう。
 あ、そうだ。
 折角だからとテイクアウトしていたアルコールドリンクを頂く。爽やかな甘みの中に、アルコールの味が混じっているのがとても良い。冬には似合わない爽やかさが、湖畔のほんのりとした暖かさを際立たせてくれていた。
 ――湖面は光を受けて輝いている。
 其れを見ていると、酒が回ったのか景色に酔ったのか、眠気が襲ってきて……ごろり、とミコトは横になる。吐息が寝息になるまで、あとちょっと。


 ――生憎、俺は不健康なでね。
 太陽に照らされたカフェのテラスで、ディルクはそう溢すのだ
「こんな昼間っから健全なカフェでデートなんて流儀じゃあないが」
「其れでも」
 来て下さって嬉しいですよ、とエルスは笑う。
 そんなだから丁度良いんだ、とディルクは思う。お嬢ちゃんには、夜はまだ早いと。
「でも……こんなに平和だと、ディルク様は退屈ですか?」
「まあな。扱いかねるというのはそうだが。こういう時はなんだ。あーんってしてやろうか」
「え!? あーん!?」
 いえいえいえ、と手を振ったエルスはこほん! と咳をして。というか! と話を切り替えてみせる。まるで童女のようだ。
「ディルク様の事、私、未だに全然判らないので」
「おう」
「少しくらい何か教えて下さいよ! ほら、例えば……丁度カフェですし、食の好みとか」
「食い物の好み? ――肉が好きかな。土地柄魚は殆ど食わねえ」
 意外にもディルクはするすると教えてくれる。
 酒が好き。中でも好きなものはラム。度数の強いものが良い。だがもっと好きなものは、酔って潰した其の先だと。
「だがまぁ。アンタは程々にしとけよな。酒癖すげー厄介だから」
「は!? 私は酔いませんが!?」


「我(アタシ)は気になったら暴かないと気が済まないタチだからね」
 輝く湖のタネ明かしなんて、ちょっと無粋だろう。そう武器商人は呟く。
「俺は慈雨とならいつ何処へでも良いが」
 クウハは親愛を込めて“慈雨”と相手を称し、今の時間も悪くないと。
「何かとお前には世話になっているからね。ねえクウハ、おすすめ梨のタルトをお頼みよ。我(アタシ)はいちじくのタルトにしようか」
「梨のタルト以外には何があるんだ?」
「ええとね。いちじくだろう? 煮込んだ林檎、バナナとナッツ、……色々あるねえ」
「じゃあ俺は梨でいい」
 最初から梨で良かったのだ。だって、唯一無二の主人が選んでくれたものなのだから。
 テーブルの上でつやり輝くタルトを見て、ごく自然な動作でクウハはタルトを切り分けると、主人へ――武器商人へ差し出す。
「おやまぁ」
 嬉しそうに其れをぱくりと戴くと、今度は武器商人がタルトを切り分ける。真ん中あたり、たっぷりといちじくの乗った辺りを切ってやると、はい、とクウハへ差し出すのだ。
 ――クウハは、武器商人に何かを食べさせるのが好きだ。
 其の時だけ、まるでクウハが主人になったような心地になるから。雛に餌付けをしているような、愛らしい気持ちになれるから。



「これ……飲み物のお礼……」
 物を買うにはお金がいる。其れくらい、レインでも知っていた。サイダーを買って、お金を払う時……湖を知る人に海を知って貰いたくて、貝殻を渡した。
 浮き輪を一つ。カピブタを一匹。それがレインの連れ。小さい船にカピブタを載せてあげて、己は浮き輪に載って、輝く湖をゆるり揺蕩う。
 何故カピブタかって? この子はラサ育ちだから、きっと湖や水辺は新鮮だろうと思って。
 ゆうらゆら。レインは光の中で輝きに抱かれながら、ぼんやりとどんな味がするのかと考えていた。よもや、海の味ではないだろうけど。


 おはよう。はじめまして。
 それが03のスタンダードな挨拶である。それはおいておいて。永い眠りから目覚めた彼――彼と呼称しよう――は、散歩が日課である。何処までも何処までも歩く。時間はたっぷりあるから。
 そうすると、気が付けば陽が沈んでいて。湖が輝いているのを見付けた。何だろう。最近騒がしかったり、物騒だったり、その余波だろうか。
 注意深く近付いてみたが、攻撃してくる気配はない。ビビッドに輝いている青色はとても綺麗で、覗き込めば己の姿が映り込んだ。綺麗な湖。光る湖。不思議。こんばんは。
 みれば近くにヒトの建物がある。そっと03は足を浸して、不思議な湖で遊ぶ。
 湖畔にいる人、建物にいる人、みんな穏やかそうな顔をしていた。……こんな一時がいつまでも続けば良いのに。03は思う。


 テンマは時計を見て、思った以上に時間が過ぎている事に吃驚した。
 珍しい光る湖だというから、ちょっとだけ覗くくらいの気持ちで来たのに。其の碧色に思った以上に目を奪われていたようだ。
 ――こんな時、リョウだったら「冷えるわよ」とたしなめてくれただろうに。
 そんな人がいないから、なんて、言い訳にも出来やしない。
 風邪を引いてはいけないと上着を羽織り直しながら、テンマはそっと席を立つ。思えばあの水色は、リョウの瞳の色に僅かに似ていたかもしれない。


 寛治は静かに――蒸留酒をカップに注ぐと、向かいに置いた。其処には誰もいない。
 そうして己の分を注ぎ、眩い湖を見ながらそっと喉に酒を注ぐ。
 ……アーベントロートの騒乱は、結果として終結した。けれども、失ったものも多い。例えば、そう。目の前でもしかしたら一緒に酒を呑んでいるかもしれなかった、“宿敵”。“同じ女を愛した男”だとか。
「終わったら王都の会員制バーで祝杯でも、と思っていたんですがね」
 弔い酒が美味くないのは、貴方もご存じでしょう。
 苦みばかりが際立つ酒を寛治は煽る。
「勝ち逃げかよ、クリスチアン」
 ――例え最後には殺し合う仲だったとしても。せめてあと一歩、二歩。どうして共に歩めなかったのかと思わずにはいられない。例え其れが傲慢だと言われても。
「精々、向こうで待ちぼうけていてくださいよ」
 お嬢様を連れて行くのは、当分先の話ですから。


 ニルは夜のキラキラを見に来たのです。
 なんだかよくわからないけれど、ふんわりキラキラしているのです。どうしてキラキラしているのでしょう? えらいひとはいいました、「光がすんでいる」のだと。だとしたら、湖の底にはひかりさんのおうちがあったり? ひかりさんたちがごかぞくだったりするのでしょうか。
 ニルは絵を見るのが好きです。
 なので今、グレモリー様が湖をかいているのを見ています。
「どうして君は絵が好きなの」
 そうグレモリー様が言いました。ニルは答えます。絵は、思い出をずっと、ずーっと、形にして残しておけるもの。わすれてしまったことも、思い出させてくれるものだからと。
「このキラキラは、どんなふうに絵に残りますか?」
「そうだね、……少し答えはズレるけど、とても難しい絵、って。僕の思い出には残る」
「……ぷぷ」
 おもわず笑ってしまいました。


 グレモリーは静かに絵を描いている。
 其の隣で、ベルナルドも絵を描く。其れは二人にとって“いつもの事”で、隣に相手がいるのも“いつもの事”。
 ――なのだけれど。ベルナルドは生来から、お節介な男なので。
「寒くないか?」
 と、ブランケットを3枚もかけられているグレモリーに問うのである。
「全然」
 グレモリーはやせぎすだが、流石にブランケットを重ね着すれば暖かい。君は世話焼きだね、とたっぷり含ませた声色だったが、悲しいかな、ベルナルドには届かない。
「寒かったら俺のスキットルを――ああ、其の前にこれだな。ほら、やるよ」
「……てぶくろ?」
「ああ。ちゃんと指抜きだ」
 孤児院では何でも物持ちよく、としていたし、師匠の世話もしていた。其の所為で身についてしまったのだと。
「なあグレモリー、油絵でこの光をどう表現する?」
 ベルナルドは湖に向き合って言う。最近、蓄光顔料なんてものを手に入れたのだが、と。
「頼るのもなんか負けた気がしてなぁ」
「……やる事は一つでしょ」
「ん?」
「手で、細かく、描く」
 ちょんちょん。そんな手の動かし方をして。グレモリーは暖かいからか、ちょっぴり強気だ。だよなぁ、とベルナルドは友と同じ事を考えている己を嬉しく思ったのだった。


 のんびりと湖を見ながら、アーリアはカフェテラスでカクテルを煽る。
 其の色は鮮やかなライトブルー。湖に映る色と同じ色をしたカクテルを飲めば、彼女の髪が僅かに青く染まる。
「綺麗だね」
 向かいに座っていた少年――リリィリィが、すらりと慣れた調子で口にする。
「あらあらぁ? リリィリィさんは、“そういうの”も手慣れているの?」
「綺麗なものを綺麗って言うのに慣れただけだよ。言わないと――あっという間にそういうものは過ぎ去ってしまうから」
 向かいでジュースを燻らせながらリリィリィは言う。其の姿に灰色の彼を重ねてしまうのを許して欲しい、とアーリアは心中で謝った。
「其れにしても不思議よねぇ、この湖」
「うん、とっても不思議。判らない、……いつまでも判らないと良いな」
「ながーく生きて来ても、判らない事があるのは……楽しい?」
「勿論! だって、不思議って世界のステキだし。何より、寿命を延ばすんだよ。知ってた?」
「ふふ、其れは知らなかったわぁ。じゃあ世界のステキに」
「ミッドナイトブルーに」
「「乾杯!」」


 ジルーシャはプルーを連れ、二人ビビッド・ブルーの湖を巡る。
「ね、よかったらエスコートさせて頂戴な」
「あら。滑って貴方が転んだら、私も一緒に――かしら?」
 ウェストミンスターを仰ぐことになるのね、と、麗人は笑うけれど。差し出した手はYesを語っていたから、ジルーシャは恭しく其の手を取った。
「本当に綺麗ね……」
 暗い中に、ひそやかに輝くビビッド・ブルー。溜息と共にジルーシャが吐き出したのは、選びに選び、選びきれずにそんな言葉。
 そうね、と静かにプルーは答えた。アクア・スプレイはオータム・アズァに。
 はしゃぐのも勿体無いような、場違いのような、そんな気がして。二人は静かに、景色を見つめるばかりになる。
「ね、ちょっとだけ水に触ってみない?」
 悪戯なジルーシャの誘いに、プルーはまあ、と感嘆の声を上げる。
「オータム・アズァに触れてみる?」
「そうよ。ほら、アタシが先に触ってみるわ」
 ジルーシャが湖に触れると、ふわり。波紋が広がって、碧色が揺らめく。煌めきが揺らぐその様は、さながら一足先に咲いた聖夜のようで。
「不思議。さっきまでとは全然違う青に見えるわ」
「あら。ピーコック・ブルーはグリーシァン・ローズだったりするのかしら」
 其れはとっても面白いわね。
 何もかもを色彩として捉える女は、お互いの手にまとわったブルーの奥に桃色を潜ませながら、そう譬えて笑うのだった。


 陽が傾けば、膚を差すような寒さがやってくる。
「――少し、冷えます、ね」
 ああ、矢張り。
 晴明はメイメイがぽつりと呟くのを聴いて、己の予想が当たっている事を知る。
 大判のブランケットに二人でくるまり、ホットワインをちびり、ちびり。お口に合いますか、と見上げて来る純粋な瞳に、慣れぬ味わいだ、と晴明は正直なところを返した。
「だが……これも良いものだな」
「なら良かったです。シナモンと林檎を混ぜても、美味しいんですよ」
 心が温かい。メイメイは晴明が興味深げに頷くのを見て、湖に視線を移す。
「あ……湖が、」
 空の色みたい。
 徐々に輝きだす水面に、思わずメイメイはそちらへと寄って行く。
 確かに美しい、と晴明は思う。空の色を映し込んだような色だ。神威神楽を出れば、このような美しい景色が見られるのか。主上にも――ああ、いや。
 今はメイメイと一緒なのだから、少しくらいは楽しんでもばちは当たるまい。晴明はメイメイが見て下さい、と言うのにつられて己も立ち上がる。
「手の中で、きらきら、しています」
 メイメイが掬った湖の水は、きらきらと輝いて。
「この光景を、晴明さまに見せたくて。そして、一緒に、見たかったのです」
 水を戻すと、もう少し歩きましょうと手を差し出すメイメイ。あ、でも、水がついてしまう。引っ込めようとした手を、晴明は取る。
「何、俺は体温が高いのでな」
 よければ暖を取ってくれ。そう言うのだった。




「君とのデートは、いつも食べてばかりな気がするよ、エレンシア」
 ルシは食べてる君を見るのも楽しいんだけどね? と注釈を添えて言う。
「別にいいだろ」
 うるせーな、とばかりにエレンシアは食事を続ける。
「ていうか、お前はいつもそういう事言ってんだろ。どうせ他の女にも言ってるんじゃないのか」
 ――…何を言っているんだろう。
 ルシが困ったように柳眉を顰めるのを見て、エレンシアは僅かにまずった、と思う。これではまるで、嫉妬しているおんなのこ、ではないか!
「他の女の子、ねぇ……」
「まあ、あたしもそういうクチではあるかもしれないけど……」
「おや。君にも響く見た目で光栄、かな? 私は君の事を好ましいと思っているんだけど」
 興味のないものに関わるほどお人よしではないのだとルシは言う。
 そっと席を立つと、丁度最後の一口を呑み込んだエレンシアの傍に顔を寄せて。
「容赦がないのは、この前のキスで判って貰ったと思ったんだけど?」
「――は!? きききき、ききっキス!? あ、あー!? いやあれはその、えーと、」
「……思い出させて欲しくなかったかい?」
「いやちが、べ、別に嫌な訳ではないっていうか……まあ……その……お前だったら……」
「ま、本当に嫌だったとしても、……自業自得だよね?」
「……!!!」
 今度こそ顔を真っ赤にさせるエレンシアに、私は悪くないよね、とルシはありったけ顔の良さを込めた笑顔を向けるのだった。


 夜のカフェ。風景を楽しみながらベネディクトとリュティスはドリンクを楽しむ。
「幻想的な風景を眺めながら過ごす時間というのは、とても有意義な感覚ですね」
 美味しい飲み物が付いて来れば、尚更。そう言う従者に、ああ、と是の響きでベネディクトは返す。
「不思議だな。いつも飲んでいる珈琲の筈なのに、一段と美味しく感じる気がする。――なあリュティス。あの湖だが……」
「何でしょう」
「“光が住んでいる”……というのは、比喩にしてもいい表現だと思わないか?」
「学者の言葉でしたね」
 この湖がどうして輝くのか。其の不可思議さを引き立てて言い表すには良い表現だと、リュティスは頷く。
「俺はそういった言葉回しは得意ではないから、少し憧れてしまうな」
「私も……あまり口が上手な方ではないので。きっと、浪漫のある学者様だったのでしょうね」
 うん、とベネディクトは頷いて……カップをそっとテーブルに置く。
「良い景色だ」
 君と一緒に見に来れて、良かった。
 そういう主君の言葉に、従者の悪戯心が僅かに疼く。
「折角ですし、少し行ってみませんか? 精霊の悪戯なのか確認したくなりました」
「ああ、では行ってみよう。――夜だから薄暗い。リュティス、足元には気を付けて」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
遅刻になり大変申し訳ありません。
以後このような事の無いように気を付けます。
皆様が楽しんで頂けたなら幸いです。
ご参加ありがとうございました。

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