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シナリオ詳細

<大乱のヴィルベルヴィント>旋風はすべてを持ち去って

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ボーデクトン、決戦
 その日、ボーデクトン西部より進撃を開始した帝政派本隊とローレット・イレギュラーズ達は、ボーデクトン西部ゲートにて新皇帝派の大部隊と激闘を繰り広げていた――。
「怯むな! 英雄を騙る間抜け共が相手だ! 此方には真の英雄がついている――忘れるな!」
 帝政派の兵士が檄を飛ばし、雄叫びと共に敵群へと突撃する。激しい剣戟の音が鳴り響き、用意された砲が高らかに声とともに砲弾を吐き出す。着弾が大地を抉り、時に人を抉った。帝政派を迎え撃つ『新皇帝派・軍部特殊部隊『新時代英雄隊(ジェルヴォプリノシェーニエ)』』達は、おおむねは、もとより規律よく動く者達ではなかったが、それでも一丸となって作戦を行っていたのは、様々な理由から彼らに枷がはめられていたからである。それは例えば、金であったり、自分の命であったりした。理由は様々であり、ここでは一言で言いつくせないが、多くのならず者がそれでも指揮下にあったのは、ボーデクトンを支配する『現駅長にして市長』、市庁舎に潜む『魔種』の圧倒的な力があったからであるともいえた。

 その魔種=ヴェルンヘルは市庁舎の市長室で、静かに銃を磨いていた。人間であったころから幾度となくともに死線をくぐっていたその銃は、魔の気配を受けて、すでに『ただの銃』ではなくなっていた。
「市長――」
 慌てて入ってくる英雄隊の男――彼は旧軍部から居残りの、鉄帝軍人でもあった――に、ヴェルンヘルは静かに片手をあげる。
「簡潔に頼む」
「現在、主戦場は西部ゲート……ですが、既にローレット・イレギュラーズ達によるボーデクトン内部への侵入を許しています」
「だろうな。内部の抵抗勢力の手を借りたんだろう?」
「イズルードの部隊です! あの裏切り者め……!」
 憤慨するように言う男に、ヴェルンヘルは静かに、ふむ、と声をあげ、小声でつぶやいた。
「裏切ったのはどっちだか」
「は? も、申し訳ありません、聞き取れませんでした」
「いや、まったくだ、と同意したのさ」
 ヴェルンヘルは銃を懐にしまい込むと、ゆっくりと立ち上がる。
「西部ゲートの部隊も、内部のイズルード大尉の部隊によって挟み撃ちにあっている……両方面からの攻撃に、部隊は押され気味。
 内部にてイレギュラーズ達による戦闘も発生し、そちらに部隊を裂かねばならない……帝都からの援軍は?」
「そ、それが、イズルードの部隊による東部ゲートへの攻撃によって、足止めを喰らっています」
「つまり、すぐには市庁舎まで来れない、って感じか。
 いやはや、お見事。敵には合格点をやりたい所だ」
 帝都からの大部隊の援軍が町内部に突入するには、東ゲートから入るしか現状はない。その東ゲートの検問所を強固なものとしたのは、他でもない、この街を支配する新時代英雄隊の面々である。その強固にした備えをそっくり帝政派に利用されているわけで、ある意味自業自得というか、間抜けな末路ともいえた。
「となると――敵は意気軒高、ここに来るだろうな。
 魔種たる俺の首をとるか……最低でも、市庁舎の制圧は狙ってくるだろう」
「そ、そうなりますと」
 『英雄』の男が言う。
「決戦ですか……此処で……?」
「ビビるなよ。英雄さんなんだろう?
 ま、そういうことだ。と言っても、ここで待ち構えて登ってこい、なんてコミックの悪役みたいなのは性に合わないんでな。
 正々堂々、表に出るとしよう。舞台にしては少々不格好だが、なに、演者は最高のものがそろってる。
 ならば精々――踊って足掻くとしようか」
 ヴェルンヘルは飄々と言い放つ。もちろん、ここで死しても市庁舎を守護する、等と殊勝な事を言いたいわけではない。彼は憤怒の魔種だ。そのような感傷は、人を止めた時に捨てた。
 では何なのかと言われれば――いや、それもまた、彼の中に渦巻く感傷なのかもしれない。捨てきれないものだ。己というものは。人でなくなったとしても。
「市庁舎前広場に防衛線を作れ。現戦力を全て正面へ」
「ハッ!」
 男がそう言って、走り出す後を、ヴェルンヘルはゆっくりと歩き出した。街のあちこちから煙と剣戟の音、怒号が響き渡る。あの灰色の街は、今日はずいぶんと賑やかなものだ。それは、住民たちが望んだ希望の道筋の発露であったが、それでもこんな賑やかさを望んだわけではないだろう。
「罪深いな……俺たちは。なぁ、コニー」
 ヴェルンヘルが呟きながら、市庁舎廊下を行く。鉄づくりのその中に、嘆くように窓から風が吹いて入った。

「ここに来るのも二度目か……」
 レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)がそういうのへ、イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は頷いた。
「たしか、少し前にジゼンに潜入調査を行っていたね」
 そういう一同は、仲間達の援護を受けて、市庁舎へ向かいボーデクトンをひた走っていた。街の中央に存在する市庁舎。すぐ横を線路が走る巨大な建物を目指して、一行はひた走る。
「あァ。あの時は……退いてやったが……」
 レイチェルが言うのへ、イグナートは頷いた。
「今度は、ここを奪還(と)りかえす!」
 その言葉に、オリーブ・ローレル(p3p004352)は頷いて見せた。
「はい。ですが――」
 そう言って、隣を走るコルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)へと視線を移した。
「大丈夫よ」
 コルネリアがあえてぶっきらぼうに言った。
「ええ、ええ。大丈夫。気にしないで。今度は殺す。間違いなく」
 ぐ、とその手に力が籠められるのを、オリーブはみた。わずかに頭を振ると、
「――ご無理はなさらず」
 そう言った。一行が駆け抜けた先には、市庁舎前の広場があった。先の潜入調査で、敵と相対し、一度は退いた場所だった。因縁の場所ともいえた。そして今は、そこにはあの時と同様に、無数の自称英雄たちと、魔種がいる。
「ようこそ――いや。言葉は無粋か」
 魔種がそう言って肩をすくめる。
「時間がない。俺はそちらを皆殺しにして、その後で仲間の援護とやらに行かないといけないからな。
 そういうわけだ。始めよう」
 言葉は少なく。
 この場において、交わす言葉などあろうか。
 始めよう。
 それだけで良い。
 イレギュラーズ達は、一斉に武器を構えた。
 奪われたものは、全て奪還(と)りかえす! 民を、国を、平和を! そのための最初のステップが、これだ!
 イレギュラーズ達は決意を胸に秘めた! その決意を己が手に注ぎ込み、武器を振るい、敵の群れへと敢然と立ち向かった!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 ボーデクトン決戦。奪われたものを、取り返す戦いの始まりを告げましょう。

●成功条件
 すべての敵を撃破・撤退に追い込み、市庁舎を奪還する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●状況
 ボーデクトン奪還作戦。その重要かつファイナルフェーズです。
 現在皆さんは、ボーデクトン市庁舎前広場に突入。ここで、万全の迎撃態勢を整えた部隊と、魔種、ヴェルンヘル=クンツを相手として、戦います。
 敵は防衛陣地を設置しており、掩体などに隠れて攻撃等を行ってくるでしょう。魔種、ヴェルンヘルはそのような小細工は好みませんが、そもそも彼は魔種です。理外の理の存在です。
 また、あまり制圧に時間をかけていては、別所から増援が来る可能性も捨てきれません。
 語ることは多くありません。やることはシンプルです。
 速やかに圧倒し、征伐し、奪還する。それだけです。
 作戦決行タイミングは昼。戦闘ペナルティなどは特に発生しません。

●エネミーデータ
 魔種、ヴェルンヘル=クンツ
  現『ボーデクトン市長』であり、新皇帝派に属する魔種です。
  非常に強力なアタッカーです。得意とするのは中距離以遠の距離ですが、当然のことながら、近接戦闘もこなします。
  とはいえ、得手とするのは中距離以遠……と考えるならば、距離を詰めるのが正道でしょう。
  彼の持つ銃は、既に魔銃と化した常識外の武器です。その弾丸は復讐の力を帯び、直撃すれば様々なBSを引き起こす、禍の魔弾です。
  本来は、皆さんを一人で相手どって充分なほどの実力を持つ存在です。決死の覚悟で臨んでください。
  状況に応じて、撤退する可能性はあります。速やかに体力を減らせれば、或いは。

 『新時代英雄隊(ジェルヴォプリノシェーニエ)』×15
   新皇帝派に属する、「新時代の英雄」を騙る特殊部隊です。大半はごろつきのような連中ばかりですが、ここに配属されたものは、元鉄帝軍人でも特に功績を残した者たちなど、強力な性能を持つユニットばかりとなります。
   元鉄帝軍人とは言え、彼らは自分の意志でバルナバスについた悪党なので、説得などは無益な行動となるでしょう。
   8名が前に出て近接戦闘を行い、残る7名が掩体などから遠距離射撃を行います。掩体に隠れている射撃兵士は、回避に多少のボーナスがかかります。
   射撃兵士を倒せれば、掩体をそのままこちらが再利用することができます。ヴェルンヘルの強烈な射撃攻撃を回避したり耐える盾に使える……かもしれませんが、過信は禁物です。壊されるかもしれませんので。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、おまちしております。

  • <大乱のヴィルベルヴィント>旋風はすべてを持ち去ってLv:40以上完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年12月10日 22時56分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
白き寓話
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
業壊掌
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)
航空指揮
タイム(p3p007854)
この手を貴女に
ボディ・ダクレ(p3p008384)
ぬくもり
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤

リプレイ

●限界点
「来るぞ! 帝政派の部隊だ!」
 『新時代英雄隊(ジェルヴォプリノシェーニエ)』の兵士がそう叫ぶ。その武器を手にした所作から、そこらのチンピラとは違う、明確な戦闘訓練を受けた者たちであることはうかがえる。
 ボーデクトン・市庁舎前庭。中央駅広場でもあるこの場所は、本来は賑やかな人の往来があったのだろう。
 が今飛び交うのは、人ではなく銃弾と怒号、殺意と敵意だ。
「成程――」
 『ぬくもり』ボディ・ダクレ(p3p008384)は静かに言葉を紡いだ。屍兵の巨体が、みちり、と己が力を込められて声をあげた。
「まさに決戦。ここで一つの雌雄を決するのであれば、全身全霊を以て、私は皆様をお守りします」
 ゆっくりと、あゆむ。混迷たる戦場へと向けて。屍兵は、しっかりと地を踏みしめた。この地を取り返すもの達がいるのならば、それを守るのが自分の役目だと、強く信じて。
「さぁ――来なさい。自称英雄の皆様」
「お、おおおおおっ!」
 『英雄』が雄叫びをあげて、突撃した。8名の英雄。剣であったり、斧であったり、或いはナックルであったりで武装したそれらは統一感はなかったが、ただ前述したように、何らかの戦闘訓練を受けた者たちであることは察せられた。というのも、彼らは元々、そして今も鉄帝軍人であり、かつてはそれなりの戦功をあげた者たちであった。もちろん、現時点で新皇帝(バルナバス)に与している以上、悪漢であることに間違いはない。
 飛び込んできたのは、剣を持った英雄だった。上段から振り下ろされる、強烈な斬撃――ボディはそれを、手にした人造妖刀にて受け止めた。がぎり、と二つの刃が食い込み合う。
「く、そ……!」
 押し切れない。それを英雄は察していた。
「援護を!」
 叫ぶ。
「遅いです」
 ボディが声をあげた。妖刀で、英雄の剣を振り払い、左の拳でその胸ぐらをつかんで見せる。そのまま、ふ、と呼気をはいた勢いで地面にたたきつける。
「がはっ!?」
 強く息を吐く英雄。遅れて飛んできた援護の銃撃が、ボディの身体を打った。装甲によるガードは自身の肉を裂くことを防いだが、しかし衝撃がその身体を駆け巡る。
「ボディさん、わたしも!」
 そう声をあげて、ボディの隣に立つは、『揺れずの聖域』タイム(p3p007854)だ。
「わたし達は絶対に大丈夫。
 一緒に頑張りましょう」
「ええ」
 ボディが頷いた。タイムも力強く頷く。
 敵の数は多い。この敵の攻撃を、二人は受け止めるつもりだった。辛い戦いになるだろう。でも、とタイムは思う。もっとつらい思いをしている人が、きっといるのだ、と、そう思う。
「……わたしも居るからね」
 そう呟いた。ここに来る前に、あの人の――『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)の、僅かに震える手を触れて、そう言ったのを思い出す。傍にいてあげられるならばそうしたい。だが、状況はそれを許さない。でも、コルネリアの痛みの何分の一かでも、一緒に背負ってあげられればと思った。その手の震えを止めてあげる方法は分からなかったし、きっとそれを止めることは、自分にはできないのだろうと思っていても、それでも、手を重ねずにはいられなかった。
 そんなコルネリアが、今戦場のただ中にいた。前を見ている。魔種を。ヴェルンヘルを。その間に何があったのかを、詳しくはタイムは知らない。コルネリアが、今どんな想いを抱いているのかを、タイムは知らない。それでも……。
「耐えて見せる……わたしたちは!」
 タイムが、強く、真っすぐ、前を見据えた。多くの敵が、目の前にいた。すべてを、受け止める覚悟でいた。
「ええ。耐えてみせましょう。私たちで」
 その覚悟を感じ取ったからか、ボディも頷いた。耐えなければならなかった。二人が今背負っているのは、この戦場だけのことではなかった。今まさに、この街を奪還するために戦い続けている多くの仲間達、彼らの戦いもまた、ここに背負っているのだ。
「重いですね。ですが、背負ってみせましょう」
 ボディが言う。タイムが頷く。タイムがその手を掲げた。暖かな光が、タイムの中心として広がっていく。聖域。覚悟の聖域。
「皆、お願い!」
 タイムが言った。もちろん、守るだけでは取り返せない。攻めなくてはならない。この戦場を。
「応!」
 頷いた。獰猛に。或いは、可憐に。『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)。そして、
「まかせて!」
 『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)。二人の闘士。或いは、拳鬼、か。
「さぁて、さぁて、大一番か!
 拠点奪還! 吾も若い頃はよくやったものよ!
 さて、イグナート殿。
 英雄が隊伍を組んで迫ってくるとは恐ろしいものよ。
 『引きちぎって転がさねば恐ろしくて夜も眠れぬわ』。なぁ?」
「ははっ、そうだね!」
 イグナートが、前面にいたナックルもちの英雄と相対した。接敵、接触。ステップで一気に踏み出すと、その顔面に拳を叩き込んでやった。
「ぐ、あ」
 と、英雄が悲鳴を上げつつ、後ろに下がる。とはいえ、一撃KOするほど脆くもない様だ。英雄はファイティングポーズをとりながら、イグナートを睨みつけた。
「やるね」
 イグナートが、ちょいちょい、と指を倒して見せた。雄たけびを上げて、英雄が殴り掛かる。一撃。二撃。紙一重でダッキング、避けて見せたイグナート。再び殴りかかろうとした刹那、イグナートは身を退いた。イグナートがいたその場所を、銃弾が擦過していた。
「おっと、あっちがタイヘンだ!」
「うむ! 吾にまかせよ! 掩体などは、美少女にとっては障害にもならんという所を見せてやろう!」
 獰猛に笑みながら、百合子は駆けた。その頬を銃弾が擦過する。そのわずかな痛みに、さらに口角を釣り上げてみせた。狩りを行う獣の笑み。
 そのまま百合子が、掩体に突撃する! 衝突? いや、違う。すり抜けたのだ! 掩体に隠れていた銃を持った英雄の眼前に、思いっきり顔を突き出してやった。唇が触れると錯覚するほどの距離。だが、百合子がくれてやったのは、口づけではなくて強烈な頭突きだった!
「ぎゃあ!」
 額に強烈な一撃を喰らった英雄がのけぞる。百合子はそのまま、顔面に強烈な拳を叩き込んでやった。ぐえ、と悲鳴を上げて、英雄がぶっ倒れる。そのまま意識を失ったようだった。
「確保ぉッ!」
 豪快に叫んでみせる百合子。
「サスガ! オレもすぐに行くよ!」
 イグナートが、ナックルの英雄をKOしてからそう言った。そのまま戦場を駆けだす。掩体を飛び越え、銃もちの英雄に相対する。
「よし、出だしは好調のようですが」
 そういうのは、『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)だ。自身も後方から、攻撃を行い、まとまった英雄たちに強かなダメージを与え続けている。そうしながら戦場を俯瞰して思うのは、やはり魔種の不気味さと言えた。余裕を見せつけるように、彼は本腰を入れていないように思えた。まだ。だが、その手が動いたのを、オリーブは見逃さなかった。
「……魔種が動きます!」
 あえて、魔種、と言った。市長でもなく、ましてやヴェルンヘル、でもなかった。明確な脅威として、味方の意思統一を図るべきだと考えた。そしてそれは今この瞬間は功を奏していた。魔種の攻撃という言葉に、否が応でも、イレギュラーズ達は反応し、適切な対応をしなければならなかった。そうでなければ、確実に誰かが倒れる。
「あいさつ代わりだ」
 魔種はそう言った。手にしたのは、ちいさな拳銃だった。だが、その銃が奏でた強烈な憤怒の銃声は、まるで戦車砲が火を噴いたような強烈なそれだった。
 がおうん、とそれが吠える。その刹那、魔的な光を帯びた、さながら魔砲にも近いものが戦場を擦過した。狙うのは、ボディだ。ボディが、その両手を掲げた。同時に、タイムが周囲の聖域をさらに高度に発現する!
 ばぢん、と強烈な音が走った。じり、とボディの腕が焼き切れるような感覚を覚える。だが、耐えた。まだ。
「タイムさん! ボディさんの体勢を立て直してください!」
 オリーブが叫ぶのへ、タイムが頷く。聖域の神聖なる空気がさらに濃くなる。ボディの腕を、少しずつ『治して』行くのが見えた。
「まずいですね。拳銃(ハンドガン)? あれじゃあ拳砲(ハンドカノン)です」
「抑えないとまずいわね」
 『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)が声をあげた。
「元よりそのつもりだったけれど、あれを見たら、なおさらそうしなければならないと確認できたわ。
 こっちは、前衛を相手にしなければならないから、その最中にあれを受けたら……」
「全滅も避けられませんね」
 オリーブの言葉に、ヴァイスは頷いた。ヴァイスもまた、後方からの攻撃を得意とするタイプだったから、魔種の得意とする戦法も、そしてどうすればその威力を削ぐことができるかもわかっていた。とにかくこういうタイプは、近づかれれば本領を発揮できないだろう。無論、近づかれたからと言って戦えないわけではないが、それでも。
「突入部隊は、あらかじめ決めていたわよね。
 レイチェルさん。コルネリアさん。それとサポートに、アルヴァさん」
 『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)、『航空指揮』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)が頷き、少し遅れてからコルネリアが頷いた。
「あァ、わかっている」
 レイチェルが頷いた。
「サポート頼むぜ。一気に突っ切るつもりだ」
 すでに、百合子やイグナートの攻撃ははじまり、そしてボディとタイムが多くの敵を引き付けていた。オリーブとヴァイス、そして『無敵鉄板暴牛』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)の攻撃も行われており、ある程度の道筋は見えていた。
 道は見えている。後はそこを、踏み出す決意と覚悟、勇気を持つだけだった。
「アルヴァ、すまないが、常にこっちは気にかけててくれ。
 何かあったらすぐに行動を頼む」
「まかせろ」
 アルヴァが頷く。ふ、と軽く息を吐いた。何を言うべきか、と瞬時に考えた。言葉にすべきこと。すべきではない事。
「……任せろ。俺は、作戦を必ず遂行する。信じてくれ。俺も、お前達を信じるよ」
 そうとだけ言った。少しだけ、コルネリアのことが気になっていた。あの二人に何があったのかを、アルヴァは知らない。だが、知らない方がいいと思った。知れば――刃が鈍るかもしれない。それは避けたかった。それこそが、真に仲間達への裏切りになってしまう考えだと、アルヴァは思っていた。突破しなければならない。この場所を。全力を以て。今の自分に、迷いは不要であるべきだった。迷うのは……当事者、それだけで、いいはずだった。
「だから、いけ。後悔のないようにな。俺は全力でサポートする」
「だ、そうだ」
 レイチェルが言った。
「いけるか、コルネリア」
 そう尋ねた。
 くく、とコルネリアが笑う。自嘲的なようで、ありがたいようで、悲しいようで、逃げ出したいようで、いくつもの感情のこもった、それはどうしようもないときに出るような、そんな笑いだった。
「アンタたちはさぁ……タイムもそう。アルヴァだってそう。
 良い奴よね。皆。
 アタシは……気にせず生きてきたはずだった。昨日仲間だった奴が敵になるなんてざらだったし、そいつを殺したって心は痛まなかった。
 そういう、女だったのよ。そうしなければ生きてこれなかったから」
 何を言うべきか。分からない。何を言いたいのか、わからない。やることは、いつもと同じはずだった。倒して、終わり。撃って、終わり。そうして仲間と勝利を分かち合い、帰るのだ。それだけだ。いつもと変わらない。何度もやってきた。それが、どうして、今はこんなにも、手が震えるのか。
「罰なのかもしれないわね。こういうと、タイムは怒りそう。今は離れたところにいてよかった。
 でも、そうなのかもしれない。背負えなかった罰。殺せなかった罰。そういうものを、今背負ってるのかもね」
「コルネリア。アンタのそれは、弱気だ」
 レイチェルがそう言った。自分に言い聞かせるようでもあった。
「俺は……そうだな、傷つくやつはいて欲しくないと思ってる。
 この戦いで、今、町中で傷つくやつもいる。
 それが正しい事なのかわからない。戦で傷つくやつがいる。悲しみも怒りも増える。憎悪も。それは正しい事なのか?
 分からない。分からないんだ」
 そう、吐露した。胸中に埋めていこうと思っていたそれは、しかしコルネリアに思いをぶつけるには、きっと開示しなければならない事であった。
「俺も迷ってる。アンタもだ。でも、俺の迷いがアンタ殺すなら、俺は今はこの迷いを封じ込める。
 俺は…… せめて仲間には、死んでほしく無い。アンタもそのはずだろう?」
 は、とコルネリアは強く息を吐いた。
「ええ、そう。そうね。その通りよ」
 コルネリアの手の震えは止まらない。止められない。酒を飲みたい気持ちだった。きつい煙草も。でもそれは確かに、弱気なのかもしれなかった。今やらなければ、死ぬかもしれない。仲間達は。それは本当に、まったく、避けるべき事態だった。
「信じて。やれるわ、アタシは」
 そう言った。迷いは晴れない。震えは止まらない。でも、やれる。やるしかない。
「今ならいけます!」
 リュカシスが言った。戦場の動きが変わった。前に出られる。ヴェルンヘルを狙える。
「サポートします……絶対に。お願いします」
 リュカシスが、そう言った。信じてくれ、と、伝えるようだった。信じている、と伝えるようだった。
「時間はありません。ボクが攻撃したら、一気に飛び出してください! 正面の掩体を丸ごとフッ飛ばしますから!」
 叫んだ。もう時間はなかった。コルネリアと、レイチェルが、ゆっくりと構えた。真正面に向けて。
「行きます!」
 ぐ、とリュカシスがかざした手を握った。ディメンション・デス。空間破壊の破砕術式。掩体ごと的英雄をフッ飛ばした刹那、コルネリアとレイチェルは駆けた。
「いけ!」
 アルヴァが叫ぶ。二人は心で頷いた。走り出す。ボロボロに砕け散った街路を踏みしめて。あちこちに転がる、破砕の後。倒れる敵の身体。正面。見える。男の顔。
「久しぶりだな。どっちも」
 魔種=市長=ヴェルンヘルは、そう言った。
「……」
 コルネリアは、口を開かなかった。
「あァ。奪還(とりかえ)しに来たぜ」
 レイチェルはそう言った。ヴェルンヘルは銃を構える。
「はじめようか。もしかしたら、最後のステージになるかもしれない」
 そう言った。誰にとっての最後か。どちらにとっての最後か。
「違うさ」
 レイチェルは言った。
「これから始まるんだ。俺たちの攻撃が!」
 パチン、と指を鳴らした、その半身を走る魔術回路が、ほの赤い光を放つ。また、コルネリアも銃を構えた。片手では震える。両手でしっかりと、グリップを握った。
「今度は撃つ。
 心臓に一発、頭に一発。
 それでおしまい」
 少しだけ震える声で、コルネリアがそう言った。
「ああ、決めていたな。
 心臓に一発、頭に一発。
 世界を呪いながら、神に祈りながら、俺たちは、ずっと」
 戦いが、始まろうとしていた。

●奪還
「速やかに『英雄』の数を減らします!」
 リュカシスが叫ぶ。上空から俯瞰してみれば、英雄の数はまださほどは減っていない。元の数が多いのだ。それはこの戦場攻略が困難(ハード)であるが故に。
「攻撃を続けてください! はやくここを制圧できないと、増援が来る可能性は捨てきれません……!」
 リュカシスの言葉通りだろう。増援の問題は常に付きまとっていた。街の東側ゲートは、イズルード大尉の部隊によって抑えられているはずだ。だが、それでも長くは確保できないだろう。そうなれば、帝都からの援軍が街の内部になだれ込む可能性がある。
 問題は、速やかに市庁舎を占拠し、この街を確保したことを内外に告げる必要があった。その為の働きは、今この場の自分たちの双肩にかかっているのだという事を、リュカシスはもちろん、仲間達は自覚していた。
「ボディ様とタイム様も、いつまでも耐えられるとは思えません……」
 小さくつぶやく。奮戦するボディとタイムだが、敵の攻撃の殆どを受け止めて、いつまでも万全の状態でたち続けていることは不可能だ。必然、徐々にその体力は確実に消耗していく。とはいえ、二人は気迫で戦場に立ち続けていた。
「オリーブ様、ヴァイス様、攻撃をお願いします!」
 リュカシスがそういうのへ、二人が頷く。
「ええ、お任せを!」
 オリーブが叫び、そのロングソードを振った。剣が衝撃波を描き、斬撃が掃射となる。放たれた斬撃は無数の刃を形成するように、戦場に立つ英雄たちを切り裂いた。
「ちぃっ! 怯むな! 此方も後はない!」
 叫ぶ英雄に、オリーブは奥歯を噛んだ。
「あちらも必死ですね……当然と言えば当然でしょうが」
「ボーデクトンを奪還されれば、鉄道網の一部を奪還される。手足をもがれたに等しいものね」
 ヴァイスが頷いた。
「それにしても……英雄、ね。自ら名乗っても虚しいだけだと思うのだけれど」
 嘆息する。目の前の自称英雄たちに向かって。随分と英雄という言葉も安っぽくなったものだ……或いはこれも、指揮向上の策なのかもしれないが、それにしても、些か悪趣味的ではある気もする。
「部隊の隊長さんは、どういう気持なのかしらね。使い潰される、英雄なんて」
「皮肉のつもりかもしれませんが、しかしいい気分はしませんね」
 オリーブの言葉に、ヴァイスは頷いた。
「ええ。偽りの英雄さん達には、ここで眠っていてもらいましょ?」
 ヴァイスが、手にした儀式短剣を突き出した。その先端から放たれれる暴風は、自然のエネルギーそのものだった。或いはこれは、この街に眠る自然の嘆きか怒りか。暴風が英雄たちを薙ぎ払う――その痛みを確かに地震にも感じ長ながら、ヴァイスは、静かに前を見据えた。
「皆、もう少しよ!」
 そう声をあげた。確かに、イレギュラーズ達の猛攻は、英雄たちの数を減らしていっていた。相応のダメージを、仲間達もうけてはいたが、それでも。
「ようし!」
 百合子が叫び、最後の掩体に飛び込んだ。ひっ、と英雄が悲鳴を上げた。百合子は凄絶に笑った。
「いかんなぁ、か弱い幼子のような悲鳴を上げては。
 腐っても英雄を名乗ったのであろう?
 なれば最期まで、英雄たれ」
 ずむ、とその拳が英雄の腹部に突き刺さった。ぐえ、と悲鳴を上げた英雄が、倒れ込む。
「よし! イグナート殿、そちらは!」
「モンダイなし!」
 そう頷いた。銃撃手はすべて無力化した。残るは前衛の剣士だが――。
「ボディさん、大丈夫?」
 タイムがそう言った。
「ええ、耐えてみせましょう」
 ボディが力強く頷く。タイムが、きり、と表情を引き締めて、イグナート、百合子に向けて頷いた。
「やるよ! 魔種に全攻撃をカイシ!」
 叫んだ。敵英雄隊の数が最小になったタイミングで、魔種を墜とす。そのような作戦だった。この作戦は、二組に苛烈な負担を強いるものではあった。敵を最初から最後まで抑え続けるボディ。そして、それまで魔種を抑える、レイチェル、コルネリア、アルヴァ。
 視点を後者の三人に映そう。レイチェルが指をパチンと鳴らすと、眼前に描かれた血の魔法陣から、強烈な焔が吹き出し、魔種を襲う。魔種は涼しい顔で、拳銃を構えて見せた。一発、二発、三発! 刹那の内に鳴り響く三発の銃声! 放たれた魔の弾丸は、レイチェルの炎と正面から衝突、激しい爆発とともにあたりを薙ぎ払った!
「直撃はできなかった!」
 レイチェルが叫ぶ。同時、アルヴァが飛び込んだ。
「上出来だ!」
 狙撃銃を構える。間髪入れず発射。ずだん、という強烈な射撃音。
「おっと」
 魔種がぐわりと身をひねった。ギリギリのところで擦過する銃弾。勢いに任せたまま回転するからだ、しかしその銃口はアルヴァを狙っている。
「よけろ!」
 レイチェルが叫んだ。
「分かってる!」
 アルヴァが叫んだ。無理矢理体をひねった。強烈な魔弾がアルヴァの頬をかすめる。それだけで、ヘビー級のボクサーにぶん殴られたような激痛が走った。
「くそ、つくづく魔種ってのは常識が通用しねぇ!
 だが……悪いけど、お前を好きにさせないのが俺の仕事なもんでね!」
 激痛を耐えながら、アルヴァが再度銃弾をうち放つ。同時、レイチェルがぱちん、と指を鳴らし、再びの炎陣爆破を試みた。二つの衝撃、しかし魔種は拳銃を構えると、再びの刹射で二人の攻撃のダメージを最小限に抑えて見せた。
「いやいや、大したものだと思うぜ?
 たった三人で、化け物相手にここまで奮戦したんだ。誇ってもいい」
 魔種がそう言った刹那、コルネリアの拳銃が魔種を狙った。加えていた煙草が吹き飛ばされる。
「……」
 コルネリアがにらみつける。言葉が出ない。言葉が紡げない。
 ――あの時と同じだ。コルネリアが思う。
 ――撃った怖さでアンタの事をちゃんと看取れなかった。
 ――アンタの憤怒はアタシの弱さのせい。
 ――アンタを仕留めきれなかったのはアタシの未熟。
 ――アンタがここに立っているのは……アタシの、せいなの……?
 ――国を、住まう人達の命を踏みにじってでもやりたかったことはなんなの?
 言葉にできない。言葉が紡げない。聞けば、決定的な何かが終わってしまうような気がした。
 迷いは晴れなかった。それでも、身体は動いていた。それは幸いだった。
「来るなと言っただろ、コニー」
「あの手紙は」
 は、とコルネリアが息を吐いた。
「質の悪いジョークだと思ってたわ。そうだったら、どれだけよかったか」
「まったくだ」
 ヴェルンヘルが頷いた。
「でも、ジョークじゃないんだ。これは。喜劇かもしれないけれど……ジョークじゃ、ない」
 ヴェルンヘルが、銃を構えた。心臓を狙う。一発。銃声が響いた。コルネリアが、とっさに身をひねる。
「俺は撃てるよ、コニー。本当は、最後の時はお前と迎えたかった……でも、それ以上の憤怒が、俺の中にあるから」
「何をする気なの」
 ようやく、尋ねられた気がした。
「いったろ。世界をまっさらにする。まっ平らにする。その可能性が、きっと俺の行く道の先にある」
「それがどれだけの犠牲を生むか、わかって……!」
 ああ、違うのだ、と思った。『犠牲』なんて言葉は、もう、彼にとってはどうでもいいのだ。
 何故なら世界は、まっさらにされるべきだから。
 そこに、歪んだ世界の構造物である『人』などは要らないのだ。
 もう彼は魔種なのだから。
 手が震える。
 心臓が怯懦(おび)える。
 幕を引くことに、背をそむけたくなる。
「コニー、俺は君の罪でも罰でもないのさ」
 男は、あの夜のように優しい声で言った。
「すれ違っただけだ……世界は歪んでいるから。
 君も被害者だよ」
「憐れんでんじゃねぇぞ……!」
 どうにかして、そうとだけ吐き出した。すがりたい気持ちを捨てきれなかった。
「市長だか何だか知らないけど、ヴェルンヘル! あなた!」
 声が響いた。タイムの叫びだった。
「自分勝手に世界を怨んで、バカみたい!
 あなたの未練が彼女の後悔を深くするの!
 本当は分かってるでしょう?」
 叫んだ。ヴェルンヘルは頷いた。
「そうだな。俺は身勝手なもんさ。
 キミはコニーの友達か? 有難う。生き残れたら、これからも善くしてやってくれ」
 ヴェルンヘルが銃を構えた。引き金を引く――タイムの身体が、ぐらり、揺れた。ぐ、と口元から血がこぼれる。撃ち抜かれた! タイムが痛みをこらえつつ、聖域を展開した。
「馬鹿な人……馬鹿よ! こんなのって……!」
「タイム!」
 コルネリアが叫んだ。獣を構える。ポイントする。
「吾らが足を止める!」
「狙って!」
 百合子と、イグナートが、飛び込んだ。
「格闘戦は不得手と見えるが!」
「そうだな。護身術を嗜んだ程度だ」
 百合子の雄たけびと拳を、魔種は受け流すような体さばきでよけて見せた。
「なんと……!」
 魔種の鋭い蹴りが百合子を襲う。百合子が吹き飛ばされた。
「こっちだ!」
 イグナートが追撃を見舞う! 強烈な拳の一撃が、魔種の右腕を殴りつけた。ち、と舌打ちをしつつ、魔種は反撃の打撃を打ち据えて見せた。
「ぐっ……! やって! コルネリア!」
 イグナートが叫ぶ。
「イグナート、跳べ! 吹っ飛ばす!」
 レイチェルが叫んだ。ばちん、と指を鳴らす。魔法陣から放たれる、焔撃。飲み込む。魔種を。されど、魔種は立ちはだかった。その一撃を受けてなお、まだ倒れる気配がない。
「コニー」
 ヴェルンヘルが言った。
「あの時と同じだ」
 そう言った。
「今の君には、俺は撃てないよ」
 そう言った。
「ざ、け、ん、な……!」
 絞り出すように、そう言った。コルネリアが、ヴェルンヘルが、銃を構えた。銃を構えた。引き金を引いた。引き金を引いた。
 『銃声』。
「が、ぐっ……!」
 激痛が、コルネリアの腹部を襲った。銃弾が食い込んでいた。
 激痛が、ヴェルンヘルの左腕を襲った。銃弾が食い込んでいた。
「外れだ。またな、コニー」
 ヴェルンヘルが、空中に向けて、強烈な銃撃をうち放った。まるで、狼煙のように放たれるそれは、ボーデクトンの灰の空を突き抜ける、強烈な光の柱だった。
「何を……!?」
 オリーブが叫ぶのへ、魔種は頷いた。
「撤退信号さ。
 お見事。君たちの勝ちだ。ボーデクトンはくれてやるよ」
「逃がさないで!」
 リュカシスが叫んだ。
「ここで逃がしちゃいけない!」
 そう叫んだ。ヴァイスがトレーネを振るった。強烈な暴風が、魔種を狙った。切り裂かれる身体。魔種の身体を強かに打ち付ける、自然の怒り。それでも、それは命をとるには至らなかった。
「足りない、の……!?」
 ヴァイスが悔しげにうめいた。
「絶対逃がさねえよ! ここでケリをつけるのが俺らの総意だ!」
 アルヴァが叫び、魔種の前に躍り出た。
「すまんな。俺はどうやら、ここでは死にたくないらしい」
 魔種がそう呟いて、アルヴァに拳銃を突きつけた。間髪入れず放たれた銃弾が、アルヴァの腹を貫いた。
「く、そ……っ!」
 激痛が、アルヴァの身体を駆け抜ける。力が抜けていく。倒れ込んだ。
「じゃあな、諸君。その内またどこかで会おう」
 そう言って、魔種はゆっくりと去っていった。
「まて……!」 
 アルヴァが叫ぶ。ボディが頭を振った。
「いいえ。もうこれが限界でしょう。追ってはいけません」
 そういうボディも、既に体はボロボロだった。敵を一人で抑え続けたのだ。彼もまた、既に限界に近かった。
 ごう、と蒸気の音が聞こえた気がした。首都に向かう、新皇帝派の列車が、残った兵士を飲み込んで、怒りの雄たけびと共に逃げ出そうとしている音に違いなかった。
「ボーデクトンは奪還(とりかえ)した」
 レイチェルが言う。
「勝ったんだ」
 その言葉は、事実だ。彼らは作戦目標を達成した。東西のゲートでの戦いも、直に収まるだろう。彼らは勝利した。間違いない。
「ちくしょう……」
 コルネリアが、痛みをこらえながら、静かに呟いた。撃てなかった。また。撃てなかった! 何かが足りなかった。覚悟か。殺意か。技術か。或いは……。
「ちくしょう……」
 もう一度呟いた。空は灰色で、もうすぐの冬の気配を強く強く告げていた。

成否

成功

MVP

タイム(p3p007854)
この手を貴女に

状態異常

アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)[重傷]
航空指揮
タイム(p3p007854)[重傷]
この手を貴女に
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)[重傷]
慈悪の天秤

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 魔種は取り逃がしましたが、しかしボーデクトンの奪還は成功しました。
 皆さんの活躍により、戦いは次のフェーズへと移るのでしょう。

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