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シナリオ詳細

<大乱のヴィルベルヴィント>“爆弾卿”の恩返し。或いは、第3線路のアンダードッグ…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●男たちの思惑
 首都スチール・グラード。
 帝都中央駅ブランデン=グラードの片隅で、鼻歌を奏でる女が1人。
 煤けた白い髪をした、細い体躯の女性であった。
 狐のように細めた瞳で、にぃと笑った彼女の手にはドッグタグが握られている。
 それから、彼女は背後へ視線を向ける。
 そこにあるのは、焼け焦げた軍人の遺体であった。見れば、軍人の両足は無く、腹には大きな穴が空いているではないか。
 焼け焦げた痕跡の残る床石には、飛び散った肉片や骨の欠片が転がっている。
 おそらく、彼は爆弾か何かで弾け飛んで死んだのだ。
「はぁん? 最近、この辺りによく人が来ると思ったけど……もしかして、こいつらを探してるのかしら?」
 軍人から剥ぎ取ったのはドッグタグだけではない。
 十数枚の手配書……イレギュラーズの顔写真と名前、それからその首にかかった金額が掲載されたものだ……に視線を落として、彼女は一層笑みを深くした。
「新皇帝には釈放してもらった恩もあるし、こっちも出所したばかりで金は要り用だもんねぇ。こいつら……その辺りで見かけたら、とっ捕まえるか始末するかしとこうかしら」
 なんて。
 そんなことを呟いて、女は再び遺体の方へ手を伸ばした。
 爆発の衝撃で、軍人の下げていた銃火器は粉々に吹き飛んでいる。けれど、バックパックに詰め込まれていた銃弾は無事だった。
「これだけ火薬が手に入ったし……さて、何人ぐらい狩れるかな」
 なんて。
 そんなことを呟いて、彼女はくっくと肩を揺らした。
 
●ブランデン=グラード奪還作戦
「さて、ここに集まってもらった皆さんには重大なお知らせがあるっすよ」
 そう言ってイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)は、壁に1枚の手配書を張り出す。手配書に写っていたのは、白い髪の細身の女性だ。
「帝都中央駅ブランデン=グラード奪還作戦。ブランデン=グラードに地下道があるのは周知の通り。地下道を使えば、賊が溢れている地上部分を使う事なく、都市内を自由に移動することも可能になるかも……ということで、ここ暫くの間、調査を続けてきました」
 その途中で、イレギュラーズは手配書の女性を駅構内で目撃した。
 彼女はアンダードッグと名乗る犯罪者だ。暫くの間、檻の中に収監されていたようだが、バルナバスの勅令により野に解き放たれた。
 それ以降、すっかり消息を絶っていたのだが、どうやらブランデン=グラードに潜伏していたらしい。
「通称“爆弾卿”とも呼ばれる強盗殺人犯っす。【飛】【ブレイク】【紅焔】【失血】【崩落】などの効果を備えた爆弾を自在に扱うそうっすよ」
 ブランデン=グラードに潜伏している彼女は、ここ最近になって地上に現れた。どうやら、わざとイレギュラーズの前に姿を晒しているようだ。
「捕まえに来い……ってことっすかね。まぁ、爆弾魔を放置したまま、地下道を使うのは危険極まるっす」
 地下道を安全に利用するためには、アンダードッグの存在が邪魔だ。
 彼女を見つけ捕えることがイレギュラーズに与えられた任務である。
「彼女がアジトにしているのは第3線路っすね。13両編成の汽車が停まっている以外は、目立つ障害物は見当たらないっすね。ただ……相手は“爆弾卿”とまで呼ばれた犯罪者っす」
 当然、第3線路には爆弾が仕掛けられているだろう。
 地雷のように踏めば作動するタイプの爆弾か、アンダードッグが手動で起爆するタイプかは分からない。
「誘い込まれているような気もしますが……放置しておけないっすから」
 危険を承知で敵地に飛び込むほかに術はない。
 そう言ってイフタフは、困ったように首を振る。

GMコメント

●ミッション
“爆弾卿”アンダードッグの捕縛

●ターゲット
・アンダードッグ×1
白い髪をした細身の囚人。
暫くの間、駅構内に身を潜めていたようだが、ここ最近になって目撃情報が増えた。調査の結果、彼女は駅構内第3線路をアジトとしているようだ。
“爆弾卿”の異名をとる人物で、火薬さえあれば自分で多彩な爆弾を作製できるらしい。

負け犬の爆弾:神中範に中~大ダメージ
【飛】【ブレイク】【紅焔】【失血】【崩落】のうち2~4つのBSを備えた爆弾を投擲する。爆弾の形状は一定ではなく、見た目からでは性能を判断することは出来ない。
※同性能の爆弾罠を第3線路内や、停車している汽車の各所に設置していることが予想される。

●フィールド
帝都中央駅ブランデン=グラード、第3線路。
2本の線路と幾つかの柱、13両編成の汽車が停まっている。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <大乱のヴィルベルヴィント>“爆弾卿”の恩返し。或いは、第3線路のアンダードッグ…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年12月07日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
ロゼット=テイ(p3p004150)
砂漠に燈る智恵
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
セチア・リリー・スノードロップ(p3p009573)
約束の果てへ
暁 無黒(p3p009772)
No.696

リプレイ

●第3線路
 焼け焦げた肉の臭いがしていた。
 通路の端には、黒焦げになった人の遺体が転がっている。腕や脚はあらぬ方向に折れ曲がり、胴体の一部は爆風によって抉れていた。
「バルナバスの解放命令はこんな危険な人間すら釈放したのですね」
 遺体を見下ろし『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)が言葉を零す。
「爆弾による強盗殺人を行う人間である以上野放しにしていればどこまでも犠牲者が増えていってしまいます。この凶行、絶対に止めましょう」
 そう言ってシフォリィは視線をあげた。
 その先には13両編成の汽車が停まっている。それから、幾らかの爆発の痕跡。汽車を拠点とする元・囚人……アンダードッグと渾名される爆弾使いの仕業であろう。

「捕まえに来い、か……随分と挑戦的だが、その度胸は気に入った」
 ふわり、と『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は宙に浮く。
「相手の性格や考え次第ではこちらの目的を悟ったら捕まる前に自身をドカーン! とする可能性がゼロじゃないのが怖いな」
 そう言って『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)が駅のホームに視線を巡らす。付近にアンダードッグの姿は見えない。それに、彼女が仕掛けたという爆弾も一見しただけでは見当たらなかった。
「爆弾魔がいる地下道って、どんなゲームのシチュエーションっすかこれ……自ら体験するって怖すぎるにも程があるっすよ!?」
「流石鉄帝人、この寒くてただでさえ物流が重要になる時期……さらに戦争でインフラが破壊されしかも国家中央が麻痺した状態でトンネル占拠して鉄道封鎖。いや本当やって欲しく無い事がよく分かってるなあ」
 柱の影から汽車の様子を窺いながら『No.696』暁 無黒(p3p009772)と『砂漠に燈る智恵』ロゼット=テイ(p3p004150)が言葉を交わす。幸い、柱に爆薬は仕掛けられていなかった。こうして少しずつ汽車の方に近づいて行っているのだが、今のところ敵の方にこれといった動きは無い。
「ぶっちゃけコッチ的には爆弾とかいうそんな気の早いお歳暮もいらないんだけど……」
『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)が呆れたような顔をする。
 だが、敵の居場所が絞られているのは僥倖だ。駅の全域に爆弾が仕掛けられているのなら、事態はより深刻だった。
 もう少し汽車の方へ接近しようと、カイトが腰を浮かせた時だ。
 ズドン、と。
 火薬の爆ぜる音がして、汽車後方の車両から炎が上がった。
「ネズミさんが爆弾を踏んじゃった……っ!?」
 爆音が響いた瞬間、『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が両目を押さえて地面に転がる。どうやらネズミの視界を通して、至近距離から爆炎を見てしまったらしい。
「あ、よかった! ネズミさん生きてる! 生きてるけど……来た! アンダードッグが様子を見に来たよ!」
 両目を押さえて転がったまま焔は言った。
 彼女の言葉を正とするなら、敵は汽車の後方にいる。
「後方ね。ならば私が行かない理由はないわ! 看守だもの!」
 そう告げて『秩序の警守』セチア・リリー・スノードロップ(p3p009573)が駆け出していく。腰に括りつけていた鞭を手に取って、向かうは汽車の後部車両へ。

●爆弾卿のアジト
「気をつけろ! 車体の下や屋根の上、それに線路の敷石の下にも爆弾がある!」
 低い位置を飛行しながらウェールが叫ぶ。
 指し示された先を目掛けて、無黒が虚空に蹴りを放った。
「怖がってる場合じゃないっすね! いざ爆処理っす!」
 車体の下や屋根の上に設置された爆弾は後回した。無黒の放った真空の刃が敷石を抉って、埋められていた爆弾を起爆させる。
「次、ホームの床にもある!」
「了解っす!」
 セチアに並んで走る無黒が蹴りを放つ。飛ぶ斬撃が、床板の下に隠されていた爆弾を破壊し、周囲に爆炎を撒き散らした。
 セチアと無黒は爆炎の中へ突っ込んで行く。残るメンバーは黒煙に紛れ四方へと散開。こうも立て続けに、別々の場所で爆発が起こればアンダードッグも平静ではいられまい。
 屋根に降り立ったウェールは、爆音に紛れ先頭車両へと駆けていく。汽車の機関部を爆発させられるわけにはいかない。そこに仕掛けられた爆弾は、最優先で解除する必要があった。

 黒煙を抜けた無黒とセチアの眼前に、幾つかの爆弾が降って来た。
 開いた車窓に、煤けた白髪の女が見える。にぃ、と悪辣な笑みを浮かべたアンダードッグは、2人に向けて中指を突き立てて見せた。
 瞬間、爆弾が爆ぜた。
 咄嗟に前へ飛び出た無黒が、爆炎と衝撃を至近距離で浴びてひっくり返った。床に転がる無黒のうえに、さらに幾つかの爆弾が降り注ぐ。
「皆の平和な生活を守る為! 身体、張るっすよ!」
 咄嗟に無黒が床を叩いた。
 顔面はすっかり煤けているし、火傷も酷いが、意識は失っていないようだ。
 起爆と同時に床下から這い出すアンデッドの“なりそこない”が、無黒の上に身体を被せる。瞬間、爆炎が吹き荒れて無黒の身体が炎に飲まれた。

 窓の桟に手をかけて、セチアが車内へ転がり込んだ。
 車両の端へと駆けながら、アンダードッグが哄笑をあげる。
「へぇ? 2人は狩ったと思ったが」
 そう言ってアンダードッグは爆弾を投げた。サイズは小さいが、至近距離で爆ぜさせれば十分に敵を殺傷できる。
 だが、アンダードッグの思う通りには進まない。
 セチアは鞭を一閃させて、爆弾を窓の外へと弾き飛ばしたのだ。
「さぁ貴女のご自慢の爆弾と私の看守の精神力、どちらが勝つか勝負しましょう!」
 鞭の先端を引き戻し、セチアは1歩、前へ踏み込む。
 瞬間、セチアの足元で小さな爆発が起きた。
 両膝付近に爆風と爆炎を浴び、セチアは姿勢を崩す。床に倒れたセチアへ向けて、アンダードッグは中指を突き立てて笑う。
「生憎と、正面切ってやり合うのは得意じゃないんだ」
 なんて。
 アンダードッグはそう言った。それから彼女は、セチアの前に2つの小型爆弾を放る。
「釈放してくれた恩もあるしね。まぁ、遠くに逃げる前に、少し手配書の首を狩っておこうと思ってさ。恨みはないけど、私の路銀になっておくれよ」
 アンダードッグが指を鳴らした。
 転がった爆弾から、カチと何かの音がする。
 起爆の合図だ。
 爆弾が爆ぜる。
 その寸前、花吹雪にも似た火炎の渦が爆弾2つを屋根の方へと打ち上げた。
「あれ?」
 天井に当たった2つの爆弾を見上げ、アンダードッグが目を丸くする。起爆の合図は出したはずだ。なのに爆弾が爆発しない。
 先の花吹雪にも似た火炎の渦によるものか。
 アンダードッグは慌てて背後を振り返る。
「別に恩返しするのは勝手だけど俺らとしてはただの迷惑なんだよなぁ……あの巫山戯た手配書真面目に信じてるなら余計に……な?」
 一閃。
 カイトの拳が、アンダードッグの頬を打つ。

 セチアとカイトに追い立てられて、アンダードッグは最後尾の車両へ向かった。
 その後を追って、屋根の上をロゼットが駆ける。
 最後尾車両には、既に汰磨羈とシフォリィが向かったはずだ。
「電車は入った人間を爆破するトラップ……だよね」
 狭い車両内に敵は1人。
 前と後ろから挟み撃ちにしたのなら、アンダードッグに逃げ場は無くなる。後は数で押してしまえば容易く制圧できるだろう。
 本来ならば、そのはずだ。
「馬鹿正直に車内に突撃しない方がいいかもね」
 野生の勘か。それとも獣の嗅覚か。
 最後尾車両の少し手前で、ロゼットはふと足を止めた。
 その直後……。
 ズドン、と大地が揺れるほどに大きな衝撃。
 最後尾車両がほんの僅かだが宙へと浮いた。窓ガラスは割れ、火炎が噴き出す。濛々とした黒煙が立ち昇り、硝煙の臭いと、肉の焼ける異臭がロゼットの鼻腔を擽る。

 濛々と燻る黒煙。
 駅のホームには、黒く煤けた汰磨羈が転がっている。爆発の衝撃で、車両外へ弾き出されたのだろう。
 逃げ場が封じられることを警戒し、車体の端に立っていたのが災いしたか。
「むぅ……狙った方向には飛ばされなかったか。だが、たまにはこういう博打も悪くない!」
 顔を汚す煤を拭って汰磨羈は状態を起す。
 それから、彼女は刀を抜き車両へ向かって飛翔した。

 爆弾を放る。
 1つ、2つ、3つ、4つ。
 上から、下から、壁に跳ねさせて左右から。
 そのすべてを、シフォリィは片刃の剣で突き払う。
「何で爆発しないんだよっ!?」
 怒声をあげるアンダードッグは、座席の影に飛び込んだ。彼女の頭上をセチアの振るう鞭が通過し、白い髪の端を引き千切る。
 歯噛みしたアンダードッグが指を鳴らせば、連結部の辺りが起爆。巻き込まれたカイトが、線路へと叩き落された。
「こうなると狭い場所も考え物だわ」
 爆弾が正常に起爆することを前提とした作戦だ。それが不発するとなれば、途端にアンダードッグの取れる手段は減少する。
 自分の作る爆弾が、不発に終わるなどあり得ない。
 そんな慢心がアンダードッグを追い詰めていた。
「やはり……爆弾の使用を止められればこちらが有利に動けるのでしょう?」
 座席を跳び越え、アンダードッグの眼前にシフォリィが跳び込んだ。狭い場所で刀を振るうことは出来ない。だが、シフォリィは刀を壁に突き刺すと、アンダードッグの胸部に向けて両手で掌打を叩き込む。
 シフォリィとて無傷ではない。怪我の度合いで言えば、アンダードッグの方がまだまだ軽傷だ。
 だが、動きが速く、よく避ける。苦し紛れの殴打程度は、腕の動きで受け流された。
 胸部に激痛。
 口の端から血を吐いて、アンダードッグは座席の間から這い出す。
 その眼前を、真空の刃が駆け抜けた。
「っ……っぶねぇ」
 真空の刃は、大怪我を負った無黒の放ったものである。
 その隣に焔が並んだ。
「追い詰めたよ!」
 その手に火炎を灯す焔が、髪を躍らせそう告げる。
 舌打ちを零したアンダードッグは、焦げた上着を脱ぎ捨てた。
「じゃあ、仕方ねぇ」
 上着から零れる無数の爆弾。
 床を跳ね、四方へ散らばっていく。
「いけない!」
 シフォリィの視線が爆弾に向いた。
 起爆を止めるため刀を振るうが、数が多い。
「吹き飛びな!」
 なんて。
 顔の横に両手を掲げ、左右の指を打ち鳴らす。
 
 起爆と同時に、焔が両手を打ち鳴らす。
「これからここは多くの人達を助ける為に、人や物を沢山運ぶために使うんだ! それを壊させたりなんてしないよ!」
 焔を中心にドーム状の燐光が展開。
 爆発もろとも車両を1つ、丸ごと包み込む。
 
 焔の展開した光壁が、車両の破壊を防いで見せた。
 だが、至近距離で爆炎を浴びた焔の傷は浅くない。隣にいた無黒も【パンドラ】を消費して、辛うじて意識を繋いでいるような状態だ。
「焔さん、無事っすか?」
「ぶ、無事! それよりあの人は!? しっかり捕まえておかないと!」
 飛び散った火炎を踏み消しながら、焔と無黒は周囲を見回す。
 車両の後方には、床に転がっているシフォリィの姿があった。だが、アンダードッグは見当たらない。
「っ! 上だね!」
 開き切った車窓を見つけ、焔は視線を屋根へと向ける。

 汽車の屋根上。
 アンダードッグの足首に、セチアの鞭が巻き付いた。
 さらに、セチアとアンダードッグの間にカイトが立つ。
「あぁ、しつこいな。車両は吹っ飛ばないし、何なんだ、お前ら」
 カイトとセチアの傷は深い。
 もう1度、爆発を当ててしまえばそれでおしまいだろう。そう判断したアンダードッグは、残り僅かとなった爆弾を投げつける。
 けれど、それは紫電によって弾かれた。
 明後日の方向に跳んだ爆弾は、そのサイズから考えられないほどの火炎と爆風を撒き散らす。
「実に惜しいな。これ程の腕なら、凄腕の工兵として重宝されるだろうに」
 吹き荒れる風に髪を躍らせながら、汰磨羈が屋根の上に降り立つ。
 右手に紫電を纏わせて汰磨羈はまっすぐアンダードッグへ視線を向けた。アンダードッグは返事をせずに踵を返す。そうしながら、彼女は足元に薄型の爆弾を転がした。
 追って来た汰磨羈に爆発を当てようと言う魂胆だ。
 けれど、設置した爆弾はカイトの放った吹雪のような火炎によって車両の外へと弾き出される。
「新規の爆弾を盛らせるわけにはいかないからな」
 舌打ちを零す。
 ちら、と背後を振り向けば汰磨羈は再び、翳した右手に雷撃を展開しているでは無いか。
 前に進むか、それとも車両の外へ逃げるか。
 爆弾の数が少ない今、アンダードッグに選べるのは前者だけ。
 けれど、しかし……。
「あはっ!」
 パチン、と。
 アンダードッグの眼前で、肉球が打ち鳴らされる。

 踊る、踊る。
 2本の足で立つ猫が、時折叫びを混ぜながら、屋根の上で踊り回った。
「武器で殴るだけが攻撃では無いのだ」
 踊りながら、ロゼットは屋根を移動する。
 後方の車両から、少しずつ前方車両へ向けて。
「おちょくってんのか、てめぇ!」
 激高するアンダードッグの背後で、汰磨羈が紫電を解き放つ。

●負け犬のプライド
 先頭車両には大量の爆薬が転がっていた。
 隠す、という思考がほんのわずかも見受けられない。作った爆弾を、片っ端から適当な場所に置いておくという、ある種の嫌がらせのような有様だ。
「こんなもの爆発させたら、機関部がお釈迦になっちまう」
 仲間たちがアンダードッグを引き付けている間、ウェールは1人、爆弾の解除を続けていた。その甲斐あって、機関部の爆弾はあらかた無力化できたはずだ。
 けれど、最後に残った1つ……石炭やオイルなど、燃料の山の中に置かれた大型爆弾だけが解除できないでいた。
 それこそ、アンダードッグの最終兵器。
 発動させれば、車両の2つか3つを纏めて吹き飛ばすほどの傑作爆弾である。

 爆弾を任意で起爆させるのは、ある程度、近い位置からでしか行えない。
 そのためアンダードッグは、先頭車両を目指していた。設置している大量の爆弾を全て起爆させれば、自分ごとイレギュラーズを木っ端微塵に吹き飛ばせると考えたからだ。
 雷撃を受けて右の肩が上がらない。
 鞭に裂かれた背が痛む。
 視界の左右で踊る猫が気にかかる。
「ちくしょう!」
 苛立ち紛れに爆弾を投げた。
 ロゼットはそれを、ことも無さげに回避する。

 足を撃たれたアンダードッグが、屋根の上に倒れ込む。
 先頭車両まであと少し。
 位置としてはちょうどいい。指を鳴らそうとしたアンダードッグだが、飛びかかったセチアによって阻まれる。
「このっ!」
 アンダードッグが爆弾を投げた。
 それはセチアの頭上で起爆。セチアの背中に爆炎と衝撃、砕けた容器の破片を数多降り注がせた。
 だが、セチアは離れない。
 アンダードッグの手を離さない。
「看守の抵抗力、その身で味わいなさいな!」
「ざっけんな。もろとも吹き飛べ!」
 強引にセチアの手を払うアンダードッグだが。
 彼女が指を鳴らす直前、先頭車両から爆弾を抱えたウェールが飛んだ。

 爆弾を解除できないのなら、安全圏まで持ち出そうというわけだ。
 アンダードッグは、ウェールの思惑を即座に理解した。
 だから、彼女は肘の靭帯が切れるのも構わず、強引にセチアの手を振りほどいて指を鳴らした。
 けれど、しかし……。
「頼むぞ、焔さん!」
 爆弾が爆ぜる瞬間に、ウェールはそれを線路の方へ向かって投げる。
 さらに、車窓から飛び出す焔が、両の手を打ち鳴らした。
「任せて! 絶対に止めるよ!」
 展開された燐光が、線路ごと爆弾を包み込む。
 地面が揺れるほどの衝撃。
 爆炎と、爆風。
 直撃を受けた焔の身体が線路を転がる。けれど、線路は無傷であった。
「は、はぁ!?」
「ふむ。今度の博打には勝ったらしいな」
 アンダードッグが困惑しているその隙に、汰磨羈が追の雷撃を放った。
 高熱を伴う衝撃と、骨の髄から痺れさせるような雷撃が、アンダードッグの腹を射貫いた。
 一瞬、体を激しく痙攣させて……。
 彼女は意識を失った。

「残りの爆弾も撤去しないとな。さーて、爆弾の設置場所の定番っつったら、列車の床下、線路の枕木の間、色々有るが」
「やけっぱちになった相手は恐ろしいですね。切羽詰まった状況では、自爆でもして道連れを狙う……せっかく拾った命だというのに」
 アンダードッグは捕縛された。
 セチアとロゼット、汰磨羈によって連行されていったので、今頃は治療も済んだはずだ。
 残されたカイトとシフォリィは、線路やホームに仕掛けられた爆弾を1つひとつ撤去していた。なお、車内の爆弾はウェールと無黒、焔が対応中である。
「……それにしても、随分と多い」
 新たに見つけた爆弾を、刀で突き刺し無力化しながらシフォリィはそう呟いた。
 人間性はともかくとして、この短期間でこれほどの量の爆弾を用意してみせたのだ。アンダードッグ……負け犬なんて名前の割に、彼女は優秀な爆弾魔と言えるだろう。
「もう少し、良い方向に活かせないものでしょうか」
 なんて。
 呆れたような調子でもって、シフォリィはそう呟いた。

成否

成功

MVP

炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子

状態異常

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)[重傷]
白銀の戦乙女
炎堂 焔(p3p004727)[重傷]
炎の御子
セチア・リリー・スノードロップ(p3p009573)[重傷]
約束の果てへ
暁 無黒(p3p009772)[重傷]
No.696

あとがき

お疲れ様です。
アンダードッグは無事に捕縛されました。
また、汽車も使用可能な状態で回収が完了しました。
依頼は成功です。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼にてお会いしましょう。

●運営による追記
 本シナリオの結果により、<六天覇道>ラド・バウ独立区の求心力が+10されました!

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