シナリオ詳細
<総軍鏖殺>護るべきを護る者
オープニング
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――新皇帝のバルナバス・スティージレッドだ。
諸々はこれからやっていくとして、俺の治世(ルール)は簡単だ。
この国の警察機構を全て解体する。奪おうと、殺そうと、これからはてめぇ等の自由だぜ。
強ぇ奴は勝手に生きろ。弱い奴は勝手に死ね。
だが、忘れるなよ。誰かより弱けりゃ常に死ぬのはお前の番だ。
どうした? 『元々そういう国だろう?』
新皇帝、いや冠位魔種バルナバスは即位して早々に勅令を発布した。魔種が皇帝になることも、文字通りの『弱肉強食』な勅令も、許されるか否かと言えば――許される。
皇帝の座は強い者が戴くのだ。皇帝が魔種に敗れたのならば、勝者が何者であれ新皇帝となることは理にかなっていると言えよう。
彼の勅令は当然ながら、鉄帝に大混乱をもたらした。それは弱小な村落しかり、帝都しかり――解体される警察機構でも、またしかり。
「おいおい、これどうすんだよ……」
呆れの混じった声が向けられたのは、仰向けに気絶した『元』上司の姿。1発K.O.するとは大したこともなかったのか、それともやらかした男が実力を秘めていたのか。
この状況を作り出した男は、まだスッキリしないと言わんばかりの表情でふんっと鼻を鳴らす。
「ほっとけ。この程度で死なねえだろ」
気絶している元上司は、この男にとっても上司だったはずである。だが男が力任せに元上司をぶん殴ったのはこの目で見たので確かだ。
「警察機構を解体だあ? ハッ、それならこの俺が代わりの警察機構を作ってやるよ」
お前も来るか? なんて、視線がこちらに向く。真剣であることは一目で分かった。
「ここに『特殊鉄帝自警団』の設立を宣言する! ついて来たい奴はついて来い!!」
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ローレット銀の森支部――氷の精霊女王により貸し与えられたその場所で、『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)は寄せられた情報を纏めていた。さまざまな派閥に分かれたイレギュラーズたちの集まる場所だ、色々な言葉も思惑も飛び交っている。とはいえ、今のところはまだまだ和やかだ。
「熱心だねえ」
ふわふわとした言葉に顔をあげたなら、ンクルス・クー(p3p007660)がにこりと笑う。先ほどまでぴょんぴょんと踊っていたと思ったが、今はフレイムタンの手元が気になるようだった。
「それは?」
「帝都方面の状況だ。特殊鉄帝自警団という組織が発足していると」
派閥になるほどの大きさではないものの、彼らの関与した土地は治安も良い。善人たちが集まって奮闘しているというところか。
「ふふ、頑張ってほしいね」
「ああ。だが……これは芳しくないな」
微笑ましく自警団の文字を見下ろしていたンクルスは、目を瞬かせてフレイムタンを見た。
彼らは決して大所帯ではなく、手を差し伸べられる範囲には限りがある。故に手を差し伸べられる場所への治安維持に貢献していると言うが――。
「これを見てほしい」
「……魔物の大量発生?」
見せられた情報にンクルスの眉根が小さく寄る。フレイムタンは腰を上げ、イレギュラーズを集めようと声をかけた。
「精鋭であっても、数がいては思うように動けまい」
「そうだね。まだ避難も済んでないはず……」
ンクルスはこの自警団に知己がいる。首都のあたりは防戦が多く、まだまだ半壊した家に隠れる難民も多いはずだ。
「我はもう少し情報をさらってみよう。人員の確保は任せても?」
「うん! 皆を呼んでくるよ!」
仲間達の元へ駆け出していくンクルスの背を眺めるのもそこそこに、フレイムタンもまた出発するための準備を進め始める。
猶予はさほどないだろう。大量の魔物たちは――自警団の護る場所へと、猛進を始めているのだから。
- <総軍鏖殺>護るべきを護る者完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年11月10日 21時50分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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刺さるような冷たい空気に、砂っぽい臭いが混じっている。建物が壊れ、壊され、粉塵を巻き上げた臭い。日常の崩れていく臭い。……そして、非日常の臭い。
(新皇帝の言とはいえ、勅令ひとつでこうも国が崩れるものなのですね)
『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)は辺りの光景を見るのもそこそこに、足場に気をつけながら力強く地面を蹴る。足元は瓦礫だらけで、お世辞にも足場が良いとは言い難い。しかし所々片づけられたような跡があるのは、ここを拠点とする難民が整備していたのか。それとも話に聞く特殊鉄帝自警団が巡回ついでに綺麗にして行ったのか。
「珠緒さん、こっちの方が走りやすいわ」
「ありがとうございます。こちらは……大通り、でしょうか」
『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)はそのようだと珠緒に頷く。透視で見つけた瓦礫の向こう側は、それなりに広がっても進める程に整えられている。それこそ戦闘が始まってもそれなりの立ち回りができそうだ。
半壊以上の被害を負っている街を、ここまで整えるのは並みの努力では難しい。それだけ自警団が有能で、かつ難民たちの支持も得ているだろうことを伺わせた。
「このような中でも、秩序を保とうとする方がいるのですね」
「ええ。誰かを護る――命を懸けるのに相応しい、気高い行いだわ」
今もきっと、彼らは戦っている。避難に逃げ惑う者も、自警団員も、その命も想いも、何ひとつとして踏み躙らせてなるものか。
「――見えた!」
『チャンスを活かして』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)が後方から声を上げる。砂煙。それから怒号。悲鳴。泣き声。ひどく混沌としている雰囲気が遠目からでも見て取れる。
「いきましょう、珠緒さん!」
蛍と珠緒が同時に強く踏み込む。珠緒の元から2体のファミリアーが飛んでいった。テレパスを受信できる者はいなくとも、双方の視界を同期させる事でより広範囲をカバーできるようになる。
(敵は一方向からのようですね。潜むものも現時点では存在しませんか)
ならばと珠緒は避難しそびれた者がいないか迅速に、かつ正確にチェックしていく。怪我をしていれば命の危機に陥るだろうし、そうでなくともいつ巻き込まれるかわからない。早く見つけられたなら見つけられただけ、命を繋げるのだ。
「ボク達にも手伝わせて!」
最前線へと駆け上がった蛍の姿に僅かな動揺が走る。決してガタイが良いとは言えない女ひとり、しかし彼女の展開した桜吹雪の結界に誰もが――迫り来る魔物さえも目を奪われた。
美しく、けれどどこか哀愁漂う淡紅の桜花の散る中で、蛍はさあおいでと剣を取る。花吹雪の色を帯びたそれに、陽炎のような人影が体の向きを変えた。
「ボクたちも護るべき者を護るため、命を懸けるわ。手が回らないところは任せてちょうだい!」
「ええ、ええ。避難する皆のしんがりは何時まででも、私が持ち堪えて見せるのだわ!」
『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)が蛍の結界から抜け出た魔物を逃がさない。右に行けば右へ、左に行けば左へ。魔物の苛立ちを感じながら、華蓮は笑みを浮かべる。
「悪いけれど、倒せないのだわ。私達の護るべき人達が居るのだもの。暴れる先が欲しいなら、気が済むまでお相手するのだわよ!」
人型をしていても、所詮は魔物だ。人を敵とした時に比べたら、何と心の楽な事だろう。
(けれど、油断はできないのだわ。これ以上ないくらい、警戒しないと)
自身が油断していないと思っていても、なお為せないことはある。ならば過剰と言われるくらいに警戒する他ない。
「――ふふふ♪ ブラトンさんも相変わらず頑張ってるなぁ♪」
そこへ響くどこか楽し気な笑い声に、名を呼ばれた男――ブラトン・スレンコヴァは思いきり振り返り。『鋼のシスター』ンクルス・クー(p3p007660)の姿を見ると目を丸くする。
「困った時は助け合わないとね! 私達が来たからにはこれ以上傷付けさせないよ!」
「こいつぁ頼もしいな! おい、まだ気張れるかぁ!?」
ブラトンの言葉に自警団の面々が応と声を上げる。その表情はイレギュラーズが来たとあってか、最初に見た時より心なしか生き生きとしている。
「じゃあ引き続きブラトンさんたちは迎撃をお願いするね! 期待してるよ!」
ひらりと手を振ったンクルスは視線を後方へ。シューヴェルトは既にそちらへ向かっているようだ。
辛うじて使い物になるかどうかといった外壁と門へ向けて、人々が殺到している。あのままでは外に出るまで時間がかかるだろうし、外壁などがあの状態では――最悪、倒壊して死傷者が出る可能性もある。
(戦う人にも、逃げる人にも。皆に創造神様の加護がありますように……!)
ンクルスはシューヴェルトの姿を認めて駆け出す。いち早く対処しなくては!
「中々の豪胆ぶりよ。これ程の義人が残っていたとはな」
「俺達はそう大層なもんじゃないさ。義人というならあの人だろう」
共に戦う『戮神・第四席』ウォリア(p3p001789)へ自警団の男が顎で示す。魔物を殴って吹っ飛ばすブラトンの姿は雄々しく、屈強な背中はより大きく見えた。
この特殊鉄帝自警団もブラトンが設立したのだと聞く。そこにはどうやらンクルスも一枚噛んでいるようだが、事の発端があの男であることは間違いない。
(民を救う心意気、実によきもの)
共に守る者として、これ以上の好漢はそういないだろう。安心してこの背中を任せられるというものだ。
ゆえに、ウォリアは静かに構えて前へ出る。戦う仲間がいる。難民たちを落ち着かせんとする仲間がいる。彼らを信じて、自身が為すべきを成すために。
そんな騎士の立ち姿ひとつ、戦場の只中では目立つ。ウォリアへ群がる様子に『竜剣』シラス(p3p004421)は「始めるか」と呟いた。
敵を食い止めることを得手とする味方は多い。けれど攻撃手がいなければ戦いは終わらないのだ。
「混沌の泥に溺れな!」
魔物たちの足元がぐずぐずと崩れて、その脚を飲み込んでいく。間髪入れずシラスが次を発動させれば、また魔物の足元が沈んだ。
「これくらいやっておけば、いきなり後方に抜けられることもないだろ」
「そうとも言えないさ。何たって今日は魔物のバーゲンセールだ」
嫌な響きだなとシラスが苦い表情を浮かべたなら、『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)は全くだと苦笑で返す。誰も喜ばないセールである。
しかしそう表現してしまうほどに魔物は多く、それこそ助け合わなければ切り抜けることは難しいだろう。警察と共闘するなど、ベルナルドからすれば落ち着かない状況でもあるが我儘は言っていられまい。
「さあ、いこうか」
勝利の女神よ、どうかヒトに微笑んでおくれ。
低空飛行したベルナルドは絵筆を取る。魔法の微光が空を舞った。
(大丈夫……人と人が争うような戦闘じゃないのだわ)
抗争の対処に向かう者と比べたら、ずっと精神的には楽な仕事だ。だから、大丈夫。まだ大丈夫。
その"大丈夫"が何度繰り返されたか定かではないが、それでも繰り返されるたびに心が軽くなったような、そんな気持ちになる。なるだけかもしれないけれど、でも今はそれでいい。
「ただの1人も通さない……まずは私を倒してからにしてもらうのだわ!!」
神の加護を得た華蓮のガードは、そう易々と崩せるものではない。彼女の止めた敵や蛍の引き付けた敵を、珠緒やベルナルドの攻撃が苛烈に攻め立てる。それを追うように蛍の巻き起こした桜吹雪が敵を絡めとった。
「おい、あんまり突っ込みすぎるなよ。部下もついていくぜ?」
前へと踏み込んでいくブラトンをシラスがめざとく見つけたなら、彼はグッと足先に力を入れた。前のめりな自覚はあるのだろう。自分はまだ進んでも大丈夫な歳だと思っているのだろう。しかしついていく者が皆、同じように進めるわけではない。
「それと――力に自信があるなら、あそこで固まってるヤツらを伸してくれると助かるぜ!」
呼び出した亡霊の慟哭が、仲間達の食い止める魔物を責め苛む。多少は数も減ったが、それでもまだ油断はできない。それに――と、シラスの視線が群れの後方へ向けられる。
押されつつあるこの状況に対して、群れの士気はさほど下がっていない。まるでまだやれるのだと、打つ手があるのだと言うように。その原因たるモノがようやく姿を見せる。いや、実際にはまだ遠いが、これだけの距離がある上でのサイズ感と考えたなら、近づけば見上げることは必須だろう。
「随分と大きいな、っ!」
敵を薙ぎ払うウォリアと、薙ぎ払いを避けた敵と、近くにいた仲間や自警団。何もかもを纏めて強烈な衝撃波が吹っ飛ばす。ウォリアは自分達の横を抜けていく敵がいないか注意しつつも、素早く体勢を立て直して後退しただけ前へと踏み出した。
●
一方。門へと群がる者たちの元へ、シューヴェルトやンクルスはたどり着いていた。混乱した空気が満ちていて、自分達も平常心を欠いてしまいそうな――群れにそのような能力を持つモノはいないのだから、ヒトが作った空気であることに間違いはない。けれど2人はそれに立ち向かうべく、表情を引き締めた。
(今の鉄帝はどこもこことそう変わらない。特殊鉄帝自警団の発足は『特殊』だ)
彼らのような治安維持組織など、この状況で誰もが作れるわけではない。人々の空気にあてられて、シューヴェルトはよりその認識を強める。
「彼らのためにも、無事に避難を完了させないとな」
「うん! 行こう!」
シューヴェルトとンクルスの後光が人々を照らし、何だ誰だと振り向かせる。
「皆落ち着いて! 私達が来たからにはもう大丈夫!」
ンクルスがイレギュラーズたちの加勢だと告げれば、人々の表情に喜色が浮かぶ。ローレットの立場は中立だが、その依頼のほとんどは『善』や『正義』によるものが多い。人々の味方である、と考えるのは理にかなっているし、実際此度もイレギュラーズは彼らを助けるためにやってきた。
「魔物たちは私達と特殊鉄帝自警団が絶対に何とかするよ! 皆は隣町まで落ち着いて避難さえできれば大丈夫!」
「アントーニオ・ロッセリーノ氏が支援の体制を整えようとしている。隣町までの避難は貴族騎士たる僕や仲間たちが守り切ろう!」
シューヴェルトの言葉に人々がざわついた。ロッセリーノと言えば鉄帝の貴族であるし、ロッセリーノ家のアントーニオといえば現当主ではないか。
この場の危険と、それに対する守りの手薄さは如何ともし難い。ゆえにアントーニオはこの場へ出るのではなく、彼らが少しでも支援を受けられるよう――新皇帝の力に飲み込まれてしまわぬよう準備を整えているはずだ。
「魔物たちは食い止められているから、まずは順番に門を出るよ!」
「怪我人がいるんだろう? 応急手当をして出よう。その間に年長者から外へ」
事前に自警団と――戦いの最中だったため、詳しくとまではいかなかったが――キャンプの状況を受け取っていたシューヴェルトが的確に指示を出す。
「元気な人はこっちだよ! 慌てないでね!」
その動線を邪魔しないよう、また敵から身を隠せそうな場所へと一旦ンクルスが誘導する。こうして徐々に人々は門を通り抜け始めた。
人々が落ち着きを取り戻し、避難を始めた様子は見ずとも戦う仲間たちに伝わった。パニックに陥っていた空気の圧力が弱まって、同時に人々の騒ぐ声も収束していたから。
「良い調子だわ」
蛍はその様子へ満足そうな笑みを浮かべながら、引き付けた敵を桜吹雪で一掃せんとする。より回復の恩恵を受けられる身であるからこそ、より体を張りたいと前へ出る。
(何かを、誰かを護るために戦っているのは、ボクも同じだから――)
そんな彼女の傷を珠緒が癒していく。紡がれていく福音が順に仲間たちを癒していくなか、華蓮もまたそれを受けながら矢をつがえていた。
「さようなら――私が、皆を守る為なのだわ」
射抜いて、消える。跡形もなく、力の全てを矢に持っていかれて。
欠片も姿を残すことなく散じた魔物から視線を移した華蓮は、次いで射程まで近づいてきたカブトムシのような魔物へ向けて矢を向ける。あれは危険なものだ。近づかれる間にどれだけ力を削げるか。
ウォリアの放った一閃がスパンッと豆腐でも切るかのような滑らかさでラースドールを真っ二つにする。まだ残る魔物の強烈なハンマーを受け止め、ウォリアは力の限りで押しのけた。
「そう易々落とせると思うな」
明日をも知れない人々を守ることで、先に待つものが生か死かなどその時が来なければわからない。ただ、今はこの道を進むのだと決めているから、一歩も退けられない。
「おいおい――よそ見されちゃ困るぜ!!」
そこへブラトンや自警団の面々が飛び掛かり、袋叩きの様相を見せた。非常にタフな装甲を持つ魔物もまた、簡単には倒せない。けれども自警団たちの武力により、押し勝ちつつあることをウォリアは感じながら剣を構えた。
「あのデカいのは俺にやらせてくれよ!」
カブトムシのような魔物――オートンブリスの姿にシラスが駆けだしていく。あれを門まで近づけさせたくはない。
素早い動きで畳みかけるシラスによって、オートンブリスの動きが鈍っていく。珠緒はそこへ畳みかけんと、仲間へ号令をかけた。
「こっちは任せたぜ」
ベルナルドもまた、オートンブリスへ向けて駆け出していく。声をかけられた――既にベルナルドからは見えず、彼らからもまたベルナルドの背中しか見えないだろう――特殊鉄帝自警団は応と元気よく声をあげる。
(冤罪おっ被されて牢獄にぶち込まれた時は、国家権力なんざクソくらえと思ったが)
その声を耳に、ベルナルドは小さく笑う。彼らはあの時の者たちとは違うらしい。人助けに真っ直ぐなその性根は嫌いではない。
後方にて避難誘導を行っていたシューヴェルトは、半数ほどが門より外へ出たことを見て正面へ回る。そこでたむろしてばかりでは後ろがつかえてしまうだろう。
「この貴族騎士が、皆を安全な場所へ向かうため導こう!」
行くぞとシェヴァリオンに颯爽とまたがれば、男衆が周囲を警戒しながら進み始め、女子供や年長者は固まり合い、互いに気を回しながら進み始める。これならば止まることなく順調に進むことが出来そうだ。
「大丈夫、いざという時は守るからね! もし魔物が出たらすぐ教えてほしいな!」
ンクルスは彼らを元気づけながらもその護衛へ。殿は魔物群を食い止める仲間たちがいる以上、最も守りが手薄なのは人々の移動中になるはずだ。
その殿ではイレギュラーズと自警団の猛攻あって、魔物の数は半分にも満たないところまで減っていた。珠緒は自身と蛍の身の内にある可能性を一時的に呼び起こす。黄金期の残響。今この時だけで良い、自分たちへ魔物を食い止めるための力を。
「誰かを護るのに必要なのは、理由でも、理想でもない」
蛍は目に焼き付かんばかりの桜色を視界いっぱいに降らせて、護るための"覚悟"を確かにする。そう、覚悟さえあれば守り抜ける。守ってみせる!
その桜色を突き抜けて、華蓮の放った神罰の一矢がオートンブリスへ突き刺さる。追いかけるように肉薄したシラスの強烈な蹴りが巨体をひっくり返し、上から力強い拳を叩きつけた。
(思った通り、外側よりは柔らかい――が)
存外、強固な体をしているらしい。しかしここを狙う事は間違っていなさそうだ。
「おらァ!!」
シラスの後へすかさず拳を叩き込むブラトンは多少の傷が見えるものの、その調子は最初より上がっているようだ。逆境に強いのか、体が温まって来たのか、イレギュラーズという加勢による士気もあるのか。彼の様子にシラスはひゅうと口笛を吹く。
「乗ってきたじゃねえか!」
「おうよ! このまま倒しちまってもいいくらいだぜ!」
ああ、それはこちらも叶ったり。別に追い返すのは最低ラインの話であって、倒すなとは言われていないのだから。
だがその一方で、友軍やイレギュラーズの疲弊が強い事も確か。しかしまだ撤退の動きすらもさせていないのだから、ここで突然戦況をひっくり返される訳にはいかないとベルナルドは声を張り上げる。
「まさかと思うが、まだへばっちゃいねぇよな? こっちはやっとエンジンかかってきたところなんだぜぇ!」
「はぁ!? こんなの準備運動にもならねーっての!」
彼の煽りに調子よく乗せられた自警団の男たちが気色ばみ、オートンブリスへとかかっていく。本当にこれ以上戦わせるべきでない者は後方へ逃せばいい。戦力になるのは助かるが、無暗に命を落とさせたいわけではないのだから。
(革命派、アーカーシュ、そして我らが帝政派……)
ウォリアは彼らと横並びになり戦いながら、そこに並ぶ顔ぶれを見る。様々な派閥に分かれてはいるものの、一同をまとめ上げるのは"命をすくう"という想いだ。
魔神としての自身を背で語るべき人々はとうに避難を済ませ、そこには居ないが――それでも眼前の敵を食い止め、倒す。成し遂げなければ、そこに居ても絵空事なのだとウォリアは剣を振るう。
彼らの攻防はオートンブリスと、残存した僅かな魔物が逃げ延びるまで続き。彼らの撤退を見届けた一同は、避難する人々の護衛に合流すべく踵を返したのだった。
溜息をつく大人たちに体力の限界を訴えるこども。ンクルスはそんな子供を背負ってあげながら、此処まで歩いてきた者たちへ先へ進もうと促す。あとから敵の撤退を確認した仲間たちも追ってきているようだ。
隣街もやはり魔物に襲われた跡や、賊の入り込んだ形跡が目立つ。しかしこちらもそこまで状態は酷くなさそうだと珠緒が首を傾げれば、自警団の1人がこちらにも足を運んでいたのだと教えてくれた。
「ならば、ここも他の場所よりは治安が良さそうですね」
「場所を借りて、彼らを休ませてあげましょう」
蛍の言葉に頷いたシューヴェルトがこの街の者へ声をかけに行く。それなりの規模ではあるが、休む場所程度なら貸してもらえるはずだ。
「ブラトンさん、ちょっといいかな?」
魔物による襲撃の心配はなさそうだと、ンクルスは同様に一区切りついたブラトンへ声をかける。彼は指示を与えた仲間の背中から視線を巡らせた。
「魔物が襲ってきた理由、何か心当たりないかな?」
「いや、最近はどこもこんなもんだ。ここの連中は幸い間に合ったが、手は回り切らねえな」
苦々しい表情の彼に、ンクルスも表情を曇らせる。何かしらの因果関係があるならば元を断てるだろうが、それもわからぬほどに頻発しているのでは難しいか。自身の所属する革命派もきな臭いし、きっと他の派閥でも怪しい動きはあるだろう。
外壁と天井があるだけで、どれほど安心できることだろう。重い思いに瓦礫へ腰掛け、身を休める難民たちをウォリアはそっと伺う。
彼らは弱肉強食のこの国では、明らかな弱者だろう。ならばウォリアは彼らの盾で在りたいと思った。少なくとも、今ばかりは――この世に怯える彼らの明日を守れるように。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした、イレギュラーズ。大変お待たせいたしました。
無事に避難完了です。とはいえ、鉄帝の状況を考えると油断のできない状況でしょう。
それでは、またなご縁があればよろしくお願いいたします。
GMコメント
●成功条件
以下のいずれかを達成すること
・難民の避難完了まで魔物群を押しとどめる、ないしは避難完了前に魔物群を撃退
・魔物群の撃破(完全撃破は危険度が上がります)
●失敗条件
・難民の50%が死亡する
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。不測の事態に注意してください。
●フィールド
帝国内首都近郊に存在する街、だったもの。
ほとんどの建物が半壊ないしは全壊しており、難民キャンプが存在しています。
街の住人は他の場所へ避難したか、その場のキャンプにいる状況です。キャンプは50人程度の規模です。
非常に瓦礫が多く、見通しは悪いです。
ただし自警団のおかげで治安は良く、そこまで荒んだ雰囲気でもありません。ただ、住人たちは未来に不安を抱えています。
イレギュラーズ到着時、キャンプは半数以上がパニックを起こしており、残りが宥めようとしていますがうまくいっていない様子です。彼らは雪崩れるように街の外へ、隣街まで向かおうとしていますが、落ち着かせなければ避難にはかなりの時間がかかるでしょう。
自警団が優秀なので今は食い止められていますが、守りが突破されたら為す術なく殺されます。
なお、隣街も難民キャンプが出来ており、似たような状況です。いつ魔物が来るとも知れません。
現在襲ってきている魔物群は、難民たちが街からいなくなるとこの場所に興味を失い、撤退します。
●エネミー
・オートンリブス×1
人よりも遥かに巨大なサイズを持つ、大型のカブトムシ型の個体です。この群れのボスと見て良いでしょう。
動きは遅いため、モンスターたちの急襲からワンテンポ遅れて参戦します。
圧倒的な防御力と耐久力を宿しています。そして自らの重さを最大限利用した攻撃を成してくる事でしょう。
【乱れ系列】【痺れ系列】【混乱】等のBSが予想されます。
・ラースドール×3
古代遺跡から出土したパワードスーツに怒りが宿り、動き出した怪物です。
非常に頑丈でタフです。ハンマーのような長い腕による高威力近接攻撃や、機銃掃射による中距離扇攻撃を行います。
現在確認できるBSはありませんが、ハンマー攻撃にはブレイクを伴います。
・プレーグメイデン×5
生前に激しい怒りを抱いていたアンデッドモンスターです。イレギュラーズや自警団に向けて、怒り任せの神秘攻撃を放ってきます。レンジは中〜超遠距離。単体・範囲どちらも使います。
攻撃力はそこまででもありませんが、BSが厄介です。【毒系列】【凍結系列】【狂気】などにかかる可能性があります。また、攻撃が衝撃波のような技であり、ノックバックを伴う場合があります。
・ヘイトクルー(近接型)×30
周囲に満ちる激しい怒りが、陽炎のようにゆらめく人型をとった怪物です。人類を敵とみなすおそろしい兵士達です。あくまで怒りの感情が寄り集まった怪物であり、人だったことはありません。
近接武器のような幻影を使い、物理至近〜近距離攻撃で攻めてきます。個はそこまで強くありませんが、数で押し切るタイプです。
●NPC
・ブラトン・スレンコヴァ
かつては力持ちがとりえと言える程度の、特筆のない真面目な警察官。今は特殊鉄帝自警団長を務めています。
義理人情に厚く、普段は気の良いおじさんです。
追い込まれる、または時間経過で気合が入って強くなるタイプ。拳銃もしくは拳で突っ込んでいくが、後者の方が強い。イレギュラーズの指示があれば従います。
多少の消耗はありますが、イレギュラーズと合流後も十分に戦えるでしょう。
・特殊鉄帝自警団員×5
元警察官であり、弱きを護るためにやる気を燃やす者たち。ブラトンが上司を殴りつけて(比喩ではない)その場で自身が警察機構を作った話は、彼らの中で武勇伝のように話されています。
少数ながら個々の能力は高めで、モチベーションも高いため戦力としては十分。イレギュラーズの指示があれば従います。
こちらもブラトンに比べればやや消耗が大きいですが、イレギュラーズと合流後も戦うことが可能です。
・街の住民(難民)×50程度
元々街に住んでいた者たちですが、街が破壊され物資の供給も少ないようです。自警団のおかげで治安は良く、一時期よりは暮らしも楽になりました。
魔物たちの急襲により、半数以上がパニックに陥りながら半壊した街の門を通ろうとしています。既に怪我人が数名います。
中には老人や幼く親とはぐれてしまった子供もいるようです。
イレギュラーズの言葉には耳を傾ける者とそうでない者がいます。聞いてもらうには工夫が必要でしょう。
●ご挨拶
愁と申します。
護るべきを護るため、力を貸してください。
強敵もタフな敵もいるため、ここでの完全決着にはかなりの努力と工夫が必要です。どの程度を目指すのかもよくよくご相談ください。
それではよろしくお願いいたします。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
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