シナリオ詳細
<最後のプーロ・デセオ>フロスティ・ブルーの奥に潜む
オープニング
●
ふわふわ、ふよふよ、漂っている。
綺麗なコインを失ってしまった後も、何か目的があるわけではないように、只々海流に揺蕩っている。ぼろぼろになった、残骸のような――クラゲの姿。
格好の餌であるはずなのに、未だ喰われないのは喰うにも値しないというのか。それともその体の状態に見合わず俊敏な動きで逃げてきたとでもいうのか。
否、否、否。どちらも違う。それは確かに他の生物から見つかっていたし、喰われそうになったこともある。ただ、逆に喰らっただけなのだ。
自らの欠けたものを取り戻すように。
欠けさせたものへ復讐するために。
それは、怒りを覚えていた。
こんな光は"自らの一部"に過ぎない。けれど、けれども。この深海にて、手痛い一手をくらわされたのは初めてであり。そしてそれだけの強さを持つ個体を喰いそびれたことに、怒りを抱いていた。
あれをいつか喰らうのだ。そうしてもっと強くなって、今は喰えないような個体も喰らっていくのだ。
だから喰っている。欠けた光を泳がせて、やって来たものを丸呑みにして。けれど足りない。
だからもっと喰らう。砂の下に隠れていたものを、砂ごと喰らってやって。けれどまだ足りない。
それならもっと喰わなくては。そう、あそこにいい餌場があるじゃないか――岩場についた何かが、その力のままに岩を破砕した。
●
「逃げろ!!」
「どこへ逃げるって言うのよ!!」
混乱が渦巻いている。竜宮はどこもかしこも、敵の襲来によりパニックの最中にあった。中央通りにも例にもれず、誰が招き入れたのか――深怪魔や海乱鬼衆・濁悪海軍といった者たちがのさばっている。ネオンサインのにぎやかな光も、今は寂しく光るばかりだ。
「待てって! そっちは危ないぞ!」
バニーボーイらしき青年が友人と思しき者を止めようとしているが、友人の足取りは危うく。そして青年の言葉を聞く気も無いように進む足すら止まらない。その足は竜宮の内外を隔てる扉の前でようやく止まって、それからゆっくりと扉を押し開けた。
その先に待っていた海乱鬼衆がにたりと笑みを浮かべ、ダガヌチや深怪魔が我が物顔で竜宮へと踏み入ってくる。逃げましょう、と茫然としたままのバニーボーイへ声をかけたガールが腕を引いた。
この場所は誰もが善人で、悪人の手引きをするような者はいない。
――操られているのだ。
足取りの危うい青年の目は閉じられ、何処かを見ている様子はない。当然だ、"寝ている"のだから。意識のない人間を乗っ取り、その体を操るデヴシルメという状態は新型の肉腫によるものだという。自覚症状なく、意識のない間に何かをしている様は夢遊病にも近いだろう。
そんな彼らによって招かれた、本来ならば招かれざるモノたち。恋屍・愛無(p3p007296)は肉腫に操られた者たちを無力化しながら、1体の深怪魔へと向かっていた。
(あの姿、忘れようもない)
いつかの日に、深海でめぐり合わせたモンスター。淡く光るクラゲの中に揺蕩っていたコイン。今は抉られ、ぼろきれのようなクラゲであるが、実態はその背後に繋がった巨大な"タコ"なのだろう。
いや、タコは――あのように足が多かっただろうか?
愛無は首をかしげるが、何はともあれ倒すべき相手である事は変わらない。早々に対処する必要があるだろうとさらに接近を試みた愛無は、少し先で突如発生した破壊音に目を瞬かせた。
「……?」
深怪魔よりはもう少し手前か。そこで誰かが戦っているらしい。イレギュラーズならばそのまま任せて進んでしまうが、と様子を見に行った愛無は、中世的な黒兎――否、ここにいるならば海種のはずだから兎ではなくてバニーガールか――が暴れまわる様を目撃した。
「ちっ、いくらでも湧いてきやがる」
舌打ち一つ。低音ボイスで呟いた女性は、手にしたポールアックス風の武器で迫るダガヌチを殴打した。 潰されたダガヌチは泥のようになって溶けて消える。
「……ん? なんだ、外からの客人か。悪いが今は竜宮がこの有様でな」
「知っている。加勢しよう」
まだダガヌチは残っている。前へと躍り出た愛無に最初はぎょっとした女性も、その実力に認識を改め、愛無が最近来るようになったイレギュラーズであると気づいたようだった。
他のイレギュラーズもちらほらと戦っている状況に気付いたか。中にはヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)の姿もあって、女性と顔を見合わせて「あれ?」と目を瞬かせる。
「なんでこんなところに……あっそうだ、リュッツは!?」
「他のヤツに預けてきた。今頃もっとマシな場所に避難しているはずだ」
その言葉にヨゾラはほっと息をついて、それからようやくダガヌチへ――それから、此方に気付いたらしい深怪魔へ視線を向けた。
「それなら、猫たちが怖がらないように倒さないとね」
「……ああ。猫の事だったのか」
この海の中で猫とは珍しい。呟く愛無もまた、目の前にやって来た深怪魔に視線を向ける。
――あの時の決着をつけようではないか。
- <最後のプーロ・デセオ>フロスティ・ブルーの奥に潜むLv:40以上完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年11月02日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
そこかしこで響く悲鳴。誰かの戦う音。竜宮は今、混乱に包まれている。
(それでも)
『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)は弓を手にしながら駆ける。私の目の前に、その直線上に、悲鳴はない。戦う音も聞こえない。人の気配すらも存在しない。
(逃げ遅れた人が居ないのは、大変重畳なのだわよ……!)
助けることにリソースを割かなくて済むならば。華蓮はただ走って、走って――深怪魔、『暗闇に灯る光』メディヌに肉薄していく。進路を塞ぐように立った華蓮はメディヌへ向かって声を張り上げた。
「悪いけれど少し付き合って欲しいのだわよ――少しで済ますつもりはないけれどね!」
「ああ、全力を持って迎え撃たせてもらおう。易々通れると思うな」
追いついた『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)が早速竜宮の加護を自らに宿す。この場を、思い出を荒らされないように、自身がこの戦線を守り抜くために!
「――なるほど、本体はこれまでに大きかったとは」
逃さぬ一手を叩き込んだ『戦飢餓』恋屍・愛無(p3p007296)はその巨大に目を細める。深海で相対した時には光を放つほんの一部分程度しか視認できなかったが、流石にこの大きさは予想できなかった。
(手強い相手……危険な戦いになることは間違いないのだわ)
それでも負けられないと華蓮はメディヌを睨みつける。その通りだというように愛無がメディヌへ叩きつけられた。嘲笑うように触手がうねり、愛無を翻弄する。3人に対してその本数は数えきれず、仲間達が合流するまで耐えられるかも厳しいだろう――並のイレギュラーズならば。
「それでも、これくらいやって見せなきゃ大それた願いなんて叶わないのだわ!!」
言葉には言霊が宿る。力が宿る。華蓮の言葉に愛無が小さく頷けば、ゼフィラは支援でもってその想いに応えた。
誰1人だって、負けるつもりなどないのだ。ここにいる3人然り、ダガヌチの対応に回っている仲間たち然り――。
「あのクラゲ……っていうか、タコ? 以前の依頼にもいた奴なんだね……」
「らしいな。よくあの図体を隠せたもんだ」
ポーリィ・シーンズは『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)に頷き、メディヌを横目に見やる。最も、あちらに構う暇は今のところなさそうだが。
「ポーリィさん、気をつけてね!」
「はっ、誰にモノ言ってんだ! ワタシは乙姫護衛部隊切り込み隊長だぜ!」
ヨゾラの糸切傀儡の間を縫うように駆け、ポールアックス風の得物を軽々と振り回すポーリィ。その戦いぶりは本人の言う通り、只者の動きではない――けれど彼女がこの世界の血を持つが故に、原罪の呼び声で反転してしまう可能性があることも確かで。この場所に魔種は見当たらないけれど、万が一はいつだって考えておくべきだと思うのだ。
(それに、厄介なのは魔種だけじゃない……)
あの深怪魔然り。濁悪海軍然り。そして瘴緒と呼ばれる複製肉腫もまた然り、だ。
「理性のない類の狂奔すると、大惨事ですね」
「ええ。言葉なんて通じなさそうだし、全力でやりましょう!」
『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)に頷いた『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)。2人は息の合ったタイミングで動いだし、それぞれの為すべきを為しに向かう。珠緒が素早く肉薄する合間に蛍が最前線へ滑り込み、狙われている仲間たちを纏めて庇う。
「早急に、迅速に、撃破を目指します」
降りる終焉の帳はダガヌチたちへの手向けだ。次いで『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)の義足が軽やかに地面を蹴る。
「沢山いるじゃない。さあ、どうぞ足を止めていってちょうだいな!」
舞と共に編み上げられる呪術がダガヌチたちをじわじわと苦しめにかかる。体は重く、まるで時間さえもぐんにゃりと遅く歪むように。
メディヌと戦う者たちの事を考えれば早々にご退場願いたいが、まだまだ舞は用意されている。残るというならば、存分に味わってもらわねば!
応戦する仲間たちの様子を見ながら、『紅矢の守護者』グリーフ・ロス(p3p008615)は聖なる宝冠の幻をその頭上へ。温かな力の流れを感じながら周りの仲間たちへ活力を分け与える。その姿に――或いは秘宝種たるその身体にだろうか――数体のダガヌチが襲い掛かってくるが、グリーフは的確にそれらの攻撃を受け止め、受け流す。
「私を狙うなら、どうぞ。剣にはなれませんが、盾にはなれますので」
何者にも敗れぬ強固さを誇る身体だ。此方を狙ってくれると言うのならば、他の仲間が存分に力を振るえるというものである。
とはいえ、イレギュラーズの思惑通りに事が運ぶわけではない。ダガヌチたちの動きも、メディヌの動きもだ。
「今回は幸い、『時間制限』もない。食事の時間は十分にある。さぁお前も楽しめ」
食事は楽しく行うものなのだから――愛無は攻撃を仕掛けながらメディヌを挑発する。言葉を理解しているかは不明だが、少なくとも自ら動くだけの意思があることは確か。そして生きようとエサを探すその行動、願いに忠実な姿は愛無にとって大変好ましい。
(中々に見所のある海産物だ。ならばお互いに食事を楽しみたいところだが)
そこまで頭は良くないのかもしれない、とも思いながら攻撃を避ける。今のメディヌはすっかりこちらに気を取られているようで、そこに楽しみといった感情は見えない。あるのは――叩きのめしてやろうという怒り、苛立ち、だろうか。
「愛無さん!」
華蓮の声にはっと振り返れば、周囲を黒に覆われる。
(墨か!)
視界は頼りにならない。ならば、匂いと音で――いや、匂いも墨のせいで定かではないか。小さく眉を寄せた愛無の耳が、微かに風を切る音を捉える。だがその直後、別の音が鳴って"それ"にぶつかった。衝撃により起こった強風で墨が流れ、視界が明瞭になる。
「ただ守ってばかりでいるほど、私は大人しい女ではないとも」
にぃと笑うゼフィラ。その手にした冷たき霊刀が、愛無へ迫りくる触手を叩いたのだと知れる。追い打ちをかけるように華蓮の放った一矢が真っすぐに飛んだ。それは――そう、何かの加護を受けているのかと思うくらいに、直進した。
「神罰が当たらないなんて、有り得ないのだわ。この私を無視だってさせない、余所見しないで!」
その行方を見るまでもなくもう一矢が番えられ、飛んでいく。神威によって放たれる一矢を避けるなど、それこそ奇跡と言われるべきであろう。
しかしてその反面、華蓮の力の消費は激しい。戦闘が長引けば長引くほど神罰に相手は苛まれるだろうが、同じだけ華蓮の余力も削がれていくのである。
されども――ダガヌチと相対する仲間たちはまだ、来ない。
「こっちへ! ボクが守るわ!」
蛍の指示で庇える範囲内に入る仲間たち。その傷をグリーフが癒すまで背に隠し、ダガヌチの攻撃を引き受ける。しかし蛍もただ耐え忍ぶばかりではない。
「そこっ!」
攻撃によって生まれた隙へ、防御姿勢から強烈なカウンターを放つ。その直前に力が沸き上がった感覚で、蛍は倒れたダガヌチから視線を珠緒へと移した。
「さすが蛍さんです」
「珠緒さんの援護があってこそ、でしょう?」
そう、ふたりなら。攻防を兼ね備えた両翼がいれば、こんな泥の魔物に後れを取るものか。
「もう大丈夫よ、ありがと! ふふ、2人は息の合った踊りができそうね?」
グリーフの回復を受けたヴィリスが蛍の背から飛び出す。躍動的なステップに滲んだ狂気がダガヌチたちへと降りかかっていく。これだけでは大した威力にはならないけれど。
(1人で踊るだけが舞台じゃないものね)
ヴィリスは髪を乱しながら笑う。踊るのは楽しい。けれどこれは1人舞台ではない。さあ、泥でできた観客たちに魅せつけてやりましょう。
「これで終わりだよ!」
ヨゾラの身体が――正確には身体に刻まれている魔術紋(本体)が――光り輝き、流星の如くダガヌチへ肉薄してぶつかる。その絶大な威力に、ダガヌチが跡形もなく四散した。
「やるじゃねえか」
肩眉をあげたポーリーもまた、得物を思いのままに振るってダガヌチを狩る。勢いのまま突き進んでいくポーリィの背中へ、ヨゾラは何処か心配そうな視線を向けた。
(絶対に彼女は守るんだ……操らせたりなんてさせない……!)
彼女は守られるようなヒトじゃない。それなら勝手にくっついていって、その背中を守り切るだけだとヨゾラは追いかけていく。
「――そこから離れてください!」
咄嗟の声にポーリィとヨゾラは反射的に飛び退いた。直後、2人が居た場所に建物が倒壊してくる。ヨゾラはひやりとしたものを感じながら、振り返って声の主であるグリーフへありがとうと声をかけた。
(建造物への被害は免れませんか。逃げ遅れた人がいないのは幸いと言えるのでしょう)
グリーフは仲間たちを癒しながら、残っているダガヌチのいくらかと相対しながら視線をメディヌへ向ける。あの無数とも言えるほどの触手が暴れる度、関係のない場所まで破壊されていく。どこに触手があるか分かりやすいと言えばそうだが、潜んでいるそれがいないとも限らない。
その無数の触手含め、メディヌを相手取る愛無もまたちらりとダガヌチたちの方を見やった。大分数が少なくなっているようだ。彼らが合流してくるのも時間の問題であり――こちらがもつかどうかも、時間の問題であった。
「ほら、よそ見をしてるな。お前の相手は僕だろう?」
愛無が駆けた後の道に触手が叩きつけられ、地面がひび割れる。まともに喰らってはいけないだろうが、最初よりは幾分か疲弊が見える。
(回復の為にダガヌチを捕食することもあるのだろうか。もしくはアレの身体がダガヌチに変じる可能性もあるのか?)
今のところその兆候は見られないが、用心に越したことはない――愛無はメディヌの触手に払われるも、受け身を取って素早く起き上がる。触手に狙われながらもゼフィラの放った回復が愛無を包み込んだ。
「まだいけるのだわ……崩せるものなら崩してみなさい、悪いけれど今回は私の実力を測るのにまだ付き合ってもらうのだわよ!!」
パンドラを燃やし、竜宮の加護も得て。巫女へ与えられる稀久理媛神の加護が不調を払いのける。神の力を借り受けるための余力はほとんどないが、ここからどこまで粘れるか。
(あちらへそろそろ合流したいところですが、粘りますか)
グリーフはダガヌチの攻撃を耐え凌ぎながら、メディヌ戦の様子を窺う。あちらが倒れたなら、一気に形勢は逆転するだろう。
「そろそろ終いといたしませんか」
珠緒のワールドエンド・ルナティックがダガヌチの周囲をかこい、蛍のブルーフェイクが強かにダガヌチを打つ。皆の傷を癒すべく、魔術紋が星空のように瞬いた。
ルリルリィ・ルリルラ。
「まあ、綺麗。ゆっくり眺めたくなってしまいそうね? そろそろ舞台の幕を下ろして、日常へ戻る準備をしましょうか!」
くすりと笑ったヴィリスが聖なる光を瞬かせる。生者には害を与えぬ光は、泥の化け物の視界を焼いた。
「これで――最後なのだわ……!!!」
まっすぐに飛んでいく神罰の一矢。華蓮が肩で息をするも、メディヌは未だ立ちはだかっている。ここまでか、いいや、諦めなどできるものかと巨体を睨みつけて。
「させないよ!!」
流れ星の如く、光り輝いたヨゾラがメディヌへ強烈な一撃を与える。さしもの巨大な体ですら一瞬揺れたほどだ。
「合流……ギリギリ間に合ったみたい、かな?」
傷だらけのゼフィラは視線を移す。回復に必死で余裕もなかったが、あとのダガヌチたちは珠緒と蛍が引き受けたようだ。珠緒の援護を受け、蛍が確実にダガヌチたちを曳き留める。
「ふふ、足が多いなんて羨ましいわ! 私なんて自分の脚がなくなっちゃったのよ? まあ――あなたの足は要らないから、動けなくしてあげる!」
ヨゾラの攻撃によろめいたメディヌへ、ヴィリスの踊る瞬きのタランテラがまじないをかける。ほら重くなってきたでしょう。思うように動かせないでしょう。少しは私の気持ちもわかるかしら?
一気に攻勢へ転じたイレギュラーズたち。ヴィリスのそれは触手全てとまではかからなかったようだが、元気なそれの1本をポーリィが刈り取る。宙を飛んだそれが近くの広場へ落っこちた。
「あちらには行かせませんよ。ここで思うように食べられるなどと思わない事です」
グリーフはメディヌとダガヌチの間へと立ちはだかる。人を襲うばかりではないかもしれない。喰らう事で力を得ることもあるかもしれない。そうならないよう柔軟に対応しなければ。
徹底したイレギュラーズたちの分断により、メディヌとダガヌチたちの合流は叶わない。暫しして蛍たちも仲間たちの元へと合流する。後は畳みかけるだけと彼らは勢いを増して。
「貴方の居場所は、ここではありません!」
珠緒の一撃が、メディヌの身体を強かに痛めつける。メディヌはたまらないと言わんばかりに濃い墨を吐き出した。
「うわっ!?」
「ポーリィさん、皆、大丈夫!?」
「これは、まさか――」
何も見えない。けれど愛無は動く気配にはっと手を伸ばす。その手が何を掴めるわけでもないけれど――何も居ないという確証を得る。
「……してやられたな」
「メディヌは、どこに?」
ヴィリスの問いに愛無は恐らく、と視線を向ける。あの深怪魔が、やってきた方角を。
「逃げたのだろう。残念だ、試食程度しか残らないとは」
次いで視線を向けたのは、少し離れた広場の方角。先ほどあちらに、メディヌの切られた触手が落ちたはずだ。
ここで仕留めるつもりが、まさか逃げられるなどと誰も予想だにしなかっただろう。今回は残念だが、あの足を美味しく頂いて――再びの巡りあわせがあった時には、必ずや。
●
「ポーリィさん、何ともない!?」
「ああ。ま、多少の傷は想定内だろ」
ぺろりとかすり傷を舐めるポーリィ。ヨゾラがそんな細かな傷にまで丁寧に回復を施していく姿を見て呆れ混じりに肩をすくめたが、そこへ嫌な感情はない。
「一応周囲の被害を確認してくるわ。様子を見に戻ってきた人が建物の下敷きになっていたら大変でしょう?」
同じように回復してもらったヴィリスが立ち上がり、軽やかに駆けていく。周囲の安全確認も当然だが、あのメディヌが気が変わって戻ってこないとも限らない。不意打ちは可能な限り避けたいところである。
「後で竜宮の皆が大丈夫か確認できるかな? リュッツもまた会いたいし……」
「安全さえ確保できれば会えるだろ。まあ、竜宮の一部は立て直しが必要そうだが」
やれやれと言うようにポーリィが崩れた建造物を見る。あれらは撤去して、修繕なり一からの立て直しをしなければ営業出来ない店もありそうだ。
「あら、もうこの後の話? 色々と人手が必要なら言ってちょうだいね」
そこへ周囲を見回って来たヴィリスが戻ってくる。グリーフの異常はありませんでしたか、という問いに頷いたヴィリスはメディヌが逃げた方向を見た。
(……これで落ち着くといいのだけれど)
少しずつ、他の場所でも決着がつきつつある。果たして、この戦いの行方はどうなるのか――。
成否
失敗
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
傷を癒しましょう。ポーリィも竜宮の住民も無事に守りきれたことは確かです。
それでは、またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●成功条件
深怪魔の討伐
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。不測の事態に注意してください。
●フィールド
竜宮・中央通り。それなりに広いですが、ダガヌチなどがいます。またいくつかの建物は破壊されてしまっているようです。
周囲に逃げ遅れた人は見当たりません。
●エネミー
・『暗闇に灯る光』メディヌ
深怪魔と呼ばれるモンスターです。深海に存在し、近づいてきたモノや襲いやすそうなモノを捕食していましたが、とうとう竜宮まで侵入してきました。
クラゲのようなもので獲物を誘引していましたが、前回のイレギュラーズとの戦闘によりその大部分が失われています。本体はその背後にいる巨大なタコであり、どうやら通常のタコよりも足の本数が多いようです。
基本的には手数と広い攻撃範囲で攻めてきます。触手による攻撃は【スプラッシュ3】の性質を持っており、【毒系列】【麻痺系列】といった類のBSが想定されます。
また、複数の触手による締め上げや、放り投げることがあります。タコ墨を吐いて目くらましをしてくることもあり、これには何らかのBSが含まれる場合があります。
その他詳細は不明ですが、非常に危険なエネミーです。巨体の為多段ヒットが狙えます。
・ダガヌチ×10
ダガンから生み出された泥。深怪魔の身体を構成するものでもありますが、そこから生まれたのがダガヌチです。
悪霊のような存在で、竜宮幣に憑りついて実体化します。実体化したダガヌチはそれなりの戦闘能力を持ち、人や生物に憑りついた場合はそれらもダガヌチの力を借りることができます。
基本的に中~遠距離の神秘攻撃を得意とし、単体・範囲ともにこなします。また、飛びつき攻撃が存在します。特殊抵抗が高く、多彩なBSを使ってきます。【窒息系列】【不調系列】【呪い】などが考えられます。
特に集団連携などはないようですが、弱っている個体や無防備な個体がいれば標的が重なる場合はあります。これによって集中攻撃を受ける可能性はあるでしょう。
●友軍
・ポーリィ・シーンズ
カジノ「ドラゴンズ・ドリーム」の用心棒兼、乙姫護衛部隊の切り込み隊長。カジノに居た際に襲撃され、ドラゴンズ・ドリームの客やガール・ボーイたちを逃がして侵入者の対処に当たっていました。
ポールアックス風の武器を操ります。彼女が戦う場所では大渦が巻き起こると言われる程であり、その攻撃は苛烈です。
イレギュラーズの指示をある程度聞いてくれます。小さいって言うとたんこぶ作ることになります。
●ご挨拶
愁と申します。
いつかの決着をつけましょう。どうぞよろしくお願い致します。
●特殊ルール『竜宮の波紋・応急』
この海域ではマール・ディーネーの力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。
●特殊ドロップ『竜宮幣』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru
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