シナリオ詳細
<総軍鏖殺>ザ・ナーシュ・フストレーチュ!
オープニング
●ココット亭
ローゼンイスタフ城下街の住宅街の一角にそこはあった。
「女将さん、ポトフ。それからメドヴーハにライ麦パン」
ポトフはキャベツ多めで、なんて注文する豊かなヒゲの男に「あいよ」と明るく笑ったエヴゲーニヤ・ヴラジーミロヴナ・サポーズニコヴァは、良い香りを纏う湯気が立ち込める厨房へ向かって「あんた」と声を掛けて注文を通した。
エヴゲーニヤの旦那、ダヴィート・ヴラジーミロヴィチ・サポーズニコヴァがポトフを用意している間に、エヴゲーニヤはライ麦パンと切ったバター、それからメドヴーハを木杯に注ぐ。カタンと音がして湯気たつポトフがカウンターへと置かれたら素早く全てを盆に乗せ、客たちで賑わう席の間を猫のように擦り抜けて先程のヒゲ面の男の元へと向かった。
「お待たせ。メドヴーハで良かったね? 今日は冷えるから、しっかりと温まっていっておくれよ」
メドヴーハのアルコール量は店によって違うが、ここ、エヴゲーニヤとダヴィートが夫婦で営む『ココット亭』では10%といったところだろうか。ハチミツ、酵母、砂糖と水で作られているこの酒は、作り手ごとにレシピが違う。ココット亭ではベリーが入れてあるし、酒精に強くない客はフルーツジュースで割ることが多い。
「そういえば聞いたか、帝都の話」
「ああ、大変みたいだな」
「俺たちは領主様が目を光らせてくれているからまだいいが、他の村は……」
最近の客たちは、やはりそういった話題が多い。
やれ帝都がどうした、やれ他の村がどうした、やれ犯罪者たちが。
鉄帝国内の町や村では、解き放たれた犯罪者が暴れまわっているという噂も聞く。
最近ではこの町にだって――
「ローレットの人が、すぐに捕まえて警邏に突き出してくれたらしい」
「ローレットって便利屋じゃなかったか?」
「いや、傭兵じゃ?」
「違いがわからないな……」
力自慢の者たちらしいと言うことは何となく解るけれど、直接接した事がない人たちにはよくわからないことも多い。力自慢と聞くと、どうしても思い浮かべてしまうのはノーザンキングスの者たちの姿だろう。
「どういう人たちなんだろうな」
「あたし、きしさまみたいってママがいってたのきいたよ」
父親と食事に来ていた幼子が足を揺らし、シチューをライ麦パンにつけて美味しそうに頬張った。
●
「今度一緒にご飯、食べに行かない?」
調子はどう? と顔を出し、あれやこれやと今日も議論を重ねるイレギュラーズたちの顔を暫く眺めていた劉・雨泽(p3n000218)が、今日の話し合いもおしまいと言った頃合いで口を開いた。
情報屋の男は情報を集めるために各地の食事処に顔を出す。決して趣味で酒家巡りをしている訳ではないよとわざわざ口にしたことから、少し怪しいけれど。
今回雨泽が誘うのは、『ココット亭』という店だ。昼と夜に料理を提供している店で、ローゼンイスタフ城のすぐお膝元ではなく、もっと平民が多く住まう住宅街にある。
「メドヴーハが美味しかったんだよね」
熱々のボルシチや煮こごり肉に合うウォトカ。
ライ麦パンと水から作られるクワス。
どの酒もローストチキンやピクルスに合い、酒呑みたちは夜毎に盃を鳴らしている。
「お昼もやっている店だから、アルコール以外の飲み物も豊富だよ」
まず外せないのがリャージェンカ。これは『焼いた』牛乳から作られる。弱火で数時間、オーブンで煮るのだ。発酵乳製品であるのに酸味はなく、口当たりはなめらか。キャラメルの味が何とも美味。
コンポートも女将のエヴゲーニヤの自慢の品。煮た果実ではなくフルーツから作られる甘いジュースで、温かくても冷たくても美味しく、子どもたちにも人気だ。
赤いジュース、モルスもおすすめ。クランベリー、コケモモ、ブルーベリーから作られるジュースで、少し酸っぱい飲み物だ。
温かいものがよければステビンもいい。蜂蜜をベースにスパイスを加えた甘い飲み物だが、ョウガ、シナモン、クローブ、ミント、ヒナギクや柑橘類をお好みで。ワインを加えればグリューワインにもなる。
「それから……」
指折り数えて味わってきた飲み物を話していた雨泽は一度口を閉ざす。
どれだけ飲み歩いているのだと思われても困ってしまうから。
「後は、皆の舌で実際に楽しんでみて」
いつもの笑みでにっこりと笑って、そう言った。
料理だってどれも美味しいんだから、と。
- <総軍鏖殺>ザ・ナーシュ・フストレーチュ!完了
- GM名壱花
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年10月30日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(10人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●噂のひとたち
「今日、だろ?」
買い出しに市場へと出たダヴィートに、肉屋の店主が声を掛けた。それを皮切りに、どんな人たちなんだろうな。俺も後から行くよ。なんて言葉を他の客や他店の店主もかけてきた。
ダヴィートは沢山の食材を抱えて店へと戻ると、調理台に食材を並べていく。普段これ程仕入れることはないが、今日は溢れんばかりの沢山の食材たち。何せ今日は11名の予約が入っている。通常の客や……予約客たちに興味のある客も来るかもしれないから、食材は多くても困ることはないはずだ。
「さて、と」
袖を捲り、ダヴィートは食材たちと対峙した。
今日の予約客たちに、美味いと言ってもらえるような料理を作ろう、と。
「飲み物は何にいたします?」
「まず、これ、リャージェンカ」
「おれもそれ、しよう、かな」
私はもちろんウォトカですわと笑顔で言い放った司祭――『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)がメニューの飲み物欄はここですわと指で示せば、覗き込んだ『新たな可能性』シャノ・アラ・シタシディ(p3p008554)と『燈囀の鳥』チック・シュテル(p3p000932)は『焼いた牛乳』リャージェンカを飲んでみたいと口にした。
「あれ、チックはお酒じゃないの?」
「お酒は多分……おれ、飲めない……から」
シャノは未成年だよねと覗き込んだ劉・雨泽はメドヴーハを。
「少し前に私、成人いたしまして」
「あら? それじゃあ綾姫ちゃんはお酒が呑めるのね」
「蓮杖さんは成人か。そりゃめでてーな。今日はよかったら一緒に飲もうな」
飲酒が解禁された訳だがあまり酒を飲む機会に恵まれなかったのだという『厄斬奉演』蓮杖 綾姫(p3p008658)に、『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)と『虹を心にかけて』秋月 誠吾(p3p007127)が楽しい酒にしようと笑いかける。最初の酒は失敗よりも、楽しい印象のほうが今後のためにも絶対に良いだろう、と。
「おっと、それなら飲みやすいのがいいだろうな!」
「私のおすすめはウォトカですわ!」
「……ウォトカは強いと思うのでやめた方が良いですよ」
「まあ、飲みすぎてたら止めるから、無理するなよ」
厨房へと米俵を運び終えた『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)が明るく笑えば、すかさず酒豪(酒乱?)たるヴァレーリヤが明るく告げ、『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)がこっそりと綾姫へと忠告する。寒い地方の酒は楽しく酔うことよりも身体を温める効果を求めることが多いこともあって、自然と度数が高くなる。甘いお酒を飲んでいたらいつの間にか……ということもある。そうして皆がはめを外してしまわぬように見守るためにも、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は酒を遠慮するようだ。
「うむ、うむ。秋の新番組『一条夢心地のグルメ』の第一回、鉄帝編というわけじゃな」
見知らぬ土地には、知らない文化と味わったことのない料理がある。海から離れているローゼンイスタフ城下街では鯛や鮃が舞い踊ることはないけれど、知らぬ料理や酒を口に出来ると『殿』一条 夢心地(p3p008344)も楽しみにしている様子。まずはウォトカをと注文すれば「お、いけるクチか?」とゴリョウが笑った。
それぞれの飲み物を注文したらメニューを覗き込み、明るい声で楽しげにワイワイと知らぬ料理名や飲み物の名を口にして選ぶイレギュラーズたち。その姿を「やってるかい?」と覗きに来た近所の老爺が見て、「なんだ、どこにでもいそうな、気の好さそうな若者たちじゃないか」と笑って「ボルシチは食べたかい?」と聞いてきた。
「ボルシチ……煮込み料理でしたっけ」
「ボルシチ、自も、食べたい」
シャノのお腹がぐぅと鳴った。頭の中では盛大に『ご飯を食べよう』の歌が流れている。おーなかすいたー、おーなかすいたー、おーなかすいたったー。
「俺もいただこうかな」
「汁物か、なれば麿もそれを頂こう」
「えーっと、他は……」
「ウハーも頼んでありますわよ!」
ローゼンイスタフ領は海から遠く離れた山間に位置している。そのため新鮮な魚は手に入りにくく、生魚自体が高価であるせいか、肉料理が多い。況してや今は国自体が荒れていて、遠出をして手に入れることも難しい。そのため、早朝から釣りをして「使ってください」と新鮮な魚を持ち込んだヴァレーリヤに、厳つい顔をしたダヴィートが目をキラと輝かせていた。
ウハーとは、魚と野菜のスープだ。海が近い土地ならばどこの家庭でも作られる家庭料理で、魚と野菜を煮込むだけで良い。
「ウハーか、いいな」
「魚か……最近は干物も口に出来ていないな」
イレギュラーズたちの会話に、他の卓からもごくりと喉が鳴る音が聞こえてくる。
「良かったら皆さんも召し上がってくださいまし!」
ヴァレーリヤが注文した分以外の魚は好きに使って欲しいとダヴィートには告げてある。きっと大鍋で一度にたくさん作るだろうから、他の人の注文分もあるはずだ。
「俺もダヴィートの旦那に米のコトレータを頼んである。後から出してくれるはずだぜ」
先程運んだ米俵はそのためだ。地域の人たちに美味しい米を食べてもらいたいという気持ちもあるが、豊穣の米がどの程度この地に『合う』のかも是非知りたいところ。
コトレータを作るためにはまず米を炊かねばならないし、他の料理の都合もあるだろうから出てくるのは遅めかもしれないが、会話に花を咲かせていればきっとあっと言う間だろう。
「はいよ、お待ち遠さん」
ドン、ドン。最初に注文した飲み物を、エヴゲーニヤが「メドヴーハは誰だい?」等と尋ねながら置いていく。
11名も集っていれば、最初は飲み物だけでも何度か往復しなくてはならない。それを見た誠吾が給仕の手伝いを申し出るが――
「いいよいいよ、まずは楽しんでちょうだい」
「でも俺たちは大人数だから大変ではないか?」
「そうだね、じゃあ。話とご飯でお腹が少し満たさた後で、アタシが忙しかったらお願いするよ」
他の卓へと運ぶのは他の客も驚くからしないが、せめて自分たちの卓だけでもとの誠吾の申し入れに「アンタたちの分は此処に置いておくから、アタシが忙しそうだったら持っていっておくれ」とエヴゲーニヤはカウンターの一部を指差してふくふくと笑った。
全員の手に飲み物が行き渡る。
視線で問い合うのは、『誰が音頭を取る』か。
音頭は、何が良いか。
健康を祝して? この出会いに?
いいや、それよりも。
「それでは、綾姫のお誕生日を祝って、かんぱーーーい!」
「「「かんぱーーーーい!!」」」
乾杯の音頭も慣れたもの。と言うか彼女にとっては生活の一部と言ってもいいヴァレーリヤの音頭でイレギュラーズたちはコップを掲げ、冷たい酒をごくり、温かな酒や飲み物をふーっと冷ましてちびりといった。
「ん。甘くて……とっても、美味し」
「はぁ……今日も、頑張った……」
酸味のないまろやかさに、カラメルのような甘さ。好きな味だと目をしばたたかせたチックの隣で、シャノはこくりと口にしてからそっと温かなカップで指先を温める。
鉄帝国内では今、此処ローゼンイスタフ領を拠点としているポラリス・ユニオン外の様々な場所でも、連日話し合いを設けられている。国のために交わされる様々な議論はとても難しく、けれど平和を思えばこそとみな積極的に話し合いに加わっていた。おとなたちはお疲れさんっと酒杯を交わすけれど、未成年のシャノにはホッと一息つけるような温かな甘さが心地よい。
「これは飲みやすいです」
綾姫が口にしたのは、温かなハーブティーを少量のウォトカで割ったもの。リースリットがそうでしょうと微笑む。
「けふ、この一杯のために生きてございますわー!」
一気、と言っていい早さでぐいっと煽って既に酒杯を空にしたヴァレーリヤが「同じものを! あ、もう瓶でくださいまし!」等と言い、ゴリョウがさり気なく彼女の側に和らぎ水を準備する。……大の酒好きのヴァレーリヤが自分から飲むかはわからないけれど。
「赤い汁物か」
ほう、と夢心地が運ばれてきたボルシチに視線を落とす。
匙でかき混ぜてみれば芋やキャベツ、ビーツ、肉等が見えた。ホカホカと白い湯気がたつ様は温かな証。匙ですくって一口口にすれば、ぬぬっと夢心地が瞳を見開いた。
「これはなんともクセになる酸味。初めてなのに、懐かしさすら感じる味わいときたらどうじゃ!」
「あったかくて、何だか安心する味……する」
「これは……温まりますね」
チックが眉を下げ、リースリットが口元に手を当てた。
寒い土地だからだろう。食べ物は温かなものが多く、酒も食べ物も口にすればお腹の中から温めてくれる。
「これがウハーで、こっちのはコルバサだよ。それからこっちは……」
エヴゲーニヤが次々と料理を運び、イレギュラーズたちの卓は料理でいっぱいになっていく。
「むぐむぐ……美味しい……あったかい……」
ライ麦パンの上に食べやすいサイズにカットされたコルバサを乗せて食み、次はライ麦パンをボルシチに。硬めのパンが赤くて温かな汁を吸い込んで柔らかくなったところをぱくりと頬張れば、口いっぱいに広がる幸せの味。森育ちのシャノにとって、パンは街に来た時だけに食べられる珍しい食べ物であった。パンは種類が沢山あって、食べ方も色々で、けれども毎回違った味になって、不思議でとっても美味しい!
「浸して食すのも良いのか」
ふむふむと頷いた夢心地も、ライ麦パンを浸して食べてみる。これは美味。
夢心地の眼前にはボルシチの皿だけではなく、いくつものグラスが並んでいる。ひとつずつ味が違う酒が入っており、好みのものを探そうとちろりと舐めていたが、料理と合わせるとまた味わいが変わってくるから面白い。
「ははぁ、料理との合わせ方も大事なのですね」
料理ごとに違う酒を味わう夢心地を見て、綾姫が関心したような声を上げる。
そんな彼女の手元には、米が炊けたとの知らせを受けて席を外したゴリョウが、しっかりと冷まして作った寿司がある。米と一緒に持ち込んだスモークサーモンを、海苔の代わりに巻いてあった。
「ゴリョウさんのお寿司、美味しいです」
「うむ、この変わった寿司も美味い。だがこれは――」
飲み慣れた米酒が恋しくなる。
「お。それはなんだ?」
「これは寿司って料理だ。食べてみるか?」
「いいのか? 嬉しいねぇ」
手際よく卓の一角で握り始めたゴリョウの行動に興味を惹かれた常連客たちにも振る舞えば、美味しいと評判だった。
「豊穣の米は、此処らの米とはかなり違うな」
揚げたてのコトレータの皿を手に、ダヴィードが厨房から出てきた。ゴリョウの握った寿司が気になったのだろう。断ってからひとつ口にすると、豊穣の米じゃないとこの味は出せないだろうなと呟き、厨房へと戻っていく。
「このコトレータっていうのも美味いな」
「美味しそうだな。これは何の料理なんだ? ピロシキ?」
「ねえ、そのピロシキ、ちょっと分けて頂いてもよろしくて? 一口、食べてみたいんですの。ウハーと交換で如何ですこと?」
「えと、普段の『お手伝い』……魔物を討伐したり、もしてるけど……サーカスのお手伝いとか……あと、『書の鳥』っていう……飛ぶ本をお店の人に届けた事も、あったよ」
「フフ、やっぱり皆で食べるご飯っておいしいわね」
「誰かと一緒、食べる。美味しさも増える」
美味しく食べたり、話しかけてきた人と言葉を交わしたり、ローレットのことを話したり。それぞれが話の輪を広げ、店内はイレギュラーズたちを中心にとても賑やかだった。
楽しい会話の中に、自然と音楽が混ざり始める。
よかったら聞いてほしいと、異国の曲を奏でるのはイズマ。
時に通じる曲を耳にすれば、その歌知ってるなと口にする者もおり、イズマは満足気に目を細めた。
「皆も一杯どうだ?」
「ええ。一杯奢りましてよ、たぶんゴリョウとか夢心地とかその辺が!」
「あ、大丈夫だよ。今日はローレットから出すから」
誠吾の言葉を拾ってヴァレーリヤが他者へと会計を押し付けながら口にすれば、ピロシキを手で割っていた雨泽が思い出したように口にして。
「……あ」
「あ」
その瞬間、ぎゅいんっとヴァレーリヤが雨泽へと顔を向けた。
「本当ですの!? 仕事でお酒! それだけでも最高ですのに! 嗚呼!」
ただ酒程美味しいものはないと言わんばかりのヴァレーリヤへ「節度は守ってね」という声が届いているようには見えない。雨泽はゴリョウとイズマへと視線を向け――三人は頷きあった。程よいところで止めなくては、最悪な事態もありうる。
(とりあえず皿は纏めておくか)
酔っぱらって割られぬようにとさり気なくゴリョウが皿やコップをまとめれば、空いた皿は返しておくなと誠吾が下げていく。エヴゲーニヤへと皿を渡すついでに、料理がどれも美味しいと厨房のダヴィードに声を届けるのも忘れない。
「ハァイ、お待たせ。冷めない内に召し上がれ♪」
温かな料理で腹が満たされてきた頃、厨房へと向かっていたジルーシャが、大きな皿にふかふかのパンケーキを乗せて戻ってくる。
食べたい分だけパンケーキを自分の皿に取り分けたら、バターと蜂蜜はそれぞれのお好みで。
「ろうしましたの? れんれん飲んれいらいではありませんの」
ヴァレーリヤが動いた。勿論、片手にはコップ、残る片手には瓶が握られている。
頂いていますよと綾姫が手にした酒杯を持ち上げてみせるが、ヴァレーリヤからしたらそんなものは飲んでいる内に入らない。
「ヴァレーリヤさん? おま大丈夫か? これが平常運転?」
「らいろーぶれふわ。色々せり上がっれ来るまではらいろーぶれふわ!」
そうしたらきっと、気付けば路地裏でひっくり返って朝を迎えている。
都合よく、昨夜の記憶を全て忘れて――
「えっ……!? 記憶飛ぶまで……!? 色々せりあがるまで!?」
「らいろーぶらいろーぶ。さあ、綾姫。ほらほら飲んでくらはいなー!」
「ヴァレーリヤさん、その辺にしておこうか?」
「おっと。蓮杖さんはそれ、無理して飲まなくていいぜ」
イズマが酔っ払いを引き剥がし、背中を擦り、外の空気を吸おうかと連れ出して。
波々とウォトカを注がれてしまった綾姫のカップを、彼女の手から誠吾が抜き取った。呑める人が飲むから、と。
「お酒、飲める、もうちょっと。楽しみ。でも、ほどほどに、する」
「うん……それがいい、思うよ」
酒を口にしていないシャノとチックはそんな酒呑みたちを見て、頷き合う。ふたりの手にはコンポートとスーシュカ。目の前のお皿にはジルーシャ特製パンケーキ。甘いものは疲れを癒やしてくれる。
「……あの姉ちゃん大丈夫か?」
「いやぁ、それにしてもいい飲みっぷりだよね。見ていて気持ちがいいや」
「俺達がいつも口にしてるものをあんなにうまそうに食べてくれてさ」
なんでも屋だ、騎士だ、傭兵だ……等と色々な噂があるが、なんだ、どこにでもいる普通の人たちじゃないか。連合だとかで物々しかったが、鎧を脱いで武器を手放せば、俺たちとはなんにも変わらない。みんな、楽しくて愉快な人たちじゃないか。
常連客たちはワイワイと楽しむイレギュラーズたちを見て、そんな会話をしながら料理を楽しむ。
――そんな姿に、リースリットは淡く笑む。
リースリットにとっては鉄帝国は自国へ攻めてくる国でもあるため、本来は直に見るべきではないと思っていた。けれどもそこに住まう一般的な善良人々はどこの国も変わらない。
生活の中に知恵があり、生活を豊かにしようとあがき、迫る厳しい冬に備えている。――国はそんな彼らの生活のためにも他国へ攻め入るのだろう。
(理解はできても肯定は出来ませんが……)
楽しく弾む会話に、活き活きとした表情。
精一杯生きる無辜の民たちに罪はなく、その生命をひとつでも多く守るために、騎士も国も、イレギュラーズたちも、立ち上がる。
外からすっきりとした顔で戻ってきた酔っぱらいが、また乾杯! と酒坏を上げるのに合わせ、リースリットもハーブの香りに口を付けた。
「乾杯はどれだけしても良いものですわー!」
「なるほど、そうなのですね」
「それじゃあもう一度演奏しても?」
「おう、聞かせてくれよ」
「麿も一芸を披露しようぞ。殿の一芸じゃ、しかと刮目せよ!」
「ふふ、楽しい。明日も、がんばろー」
楽しい時間はゆっくり、たっぷりと。
灯りが落とされる前まで続くのだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
城下町でのご飯回でした。
イレギュラーズたちは明るくて楽しい人たちで、色んな仕事をする人たちなんだなーと知ってもらえたかと思います。
●運営による追記
本シナリオの結果により、<六天覇道>ポラリス・ユニオン(北辰連合)の求心力が+10されました!
GMコメント
ごきげんよう、壱花です。
こちらは北辰連合派のシナリオになります。
●目的
現地の人たち・仲間たちと仲良くなろう
●シナリオについて
場所はローゼンイスタフ城下街の酒場兼食堂。
普段皆さんが集まっている場所以外では、きっとあまり知られていないはず。最近集まってる人たちは怪しい人ではないのか、怖い人ではないのか。そう思っている人たちもいることでしょう。
そうじゃない姿を街の人たちに見せ、理解や求心力を高めましょう。
皆で美味しくご飯を食べたり、楽しくお酒を飲んだりできます。
この店は店主夫婦が切り盛りしています。旦那さんが厨房で料理をし、奥さんが給仕しています。普通は駄目ですが今回は特別に雨泽が話を通しており、店主含めて3名ほど入れる厨房も貸してくれるので、料理の持ち込みや少しの調理は可能です。ですが、お店の主は店主で、皆さんはお客さん。お店の人の迷惑にならない程度にしましょう。
客は労働者や傭兵よりも、城下町に住まう住人が多いです。
宴会はお昼から、夜まで。お昼を食べに来る家族連れや、ちょっとお茶しに来た女性客たち。最近何かと噂の人たちが居ると様子を見に来た人等……様々な人が訪れます。
羽目を外しすぎて格好悪い姿は見せないようにしましょうね。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●EXプレイング
開放してあります。文字数がほしい時等に活用ください。
関係者さんは可能な範囲で。北辰連合派で居てもおかしくない人なら採用できるかと思います。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
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●NPC
劉・雨泽(p3n000218)が同行します。
お酒と甘味が好きです。肉料理も好きです。
それではイレギュラーズの皆様、どうぞ楽しいひとときを。
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