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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>英雄狩りの音

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●英雄狩り
 あのひ、世界がひっくり返った日――。
 皇帝ヴェルスが敗北し、新皇帝バルナバスが即位した日から、鉄帝という国は変わった。首都はもちろん、多くの都市は無法のそれに染まり、弱者は生きるすべの殆どを失った。
 鉄帝というお国柄、ほとんどの国民は体を鍛えることを良しとしていたとはいえ、どうしても人には優劣がつく。『強者』がいるならば、それに敗北する『弱者』は存在してしまう。必然、武力により下層に追いやられた人たちは、獲物、都市て日々を怯えて暮らすこととなっていた。
 が、彼らを襲う悪意は、それだけではなかったようである。
 がう、がう、と耳をつんざくような吠え声が聞こえる。路地を駆けまわるのは、アンチ・ヘイヴンと呼ばれた怪物たちである。新皇帝バルナバスによって放たれたのであろうその怪物たちは、弱者へ酷く怒りをぶつけるように、見境なく人々を襲っていた。この街でも、その光景は変わらない。そして、強者たちは町の中央部を支配し、弱者たちは辺境のゴミ溜のような場所に追いやられていた。そのゴミ溜のような場所を、獲物を求めてアンチ・ヘイヴンの猟犬(グルゥイグダロス)が徘徊しているのだ。
 住民たちが、廃屋で息をひそめていると、かつ、かつ、という人の足音が聞こえた。このゴミ溜の住人か。いや、それにしては、影から覗く靴は綺麗であった。
「帝都より来た、英雄である。『新時代英雄隊(ジェルヴォプリノシェーニエ)』である!」
 その人影は、そう言った。軍服を着た男。軍人のように見えたが、真新しい部隊記章が厭味ったらしく輝いている。
「住民達よ、貴殿らにチャンスがある。英雄たれ。混沌たるこの時代の、新たなる英雄になるチャンスが、貴殿らにはあるのだ!
 英雄であれば、この様なゴミ溜で座して死を待つ必要もない。戦って、すべてを得られるのである!」
「英雄ってのになれば」
 ゴミ溜の住人が、ゆっくりと声をあげた。
「元みたいな生活ができるのか……?」
 自称英雄が、頷く。
「保証しよう! 貴様の二親等以内の家族の安全も同時に保証する!
 そう、誰かが英雄になれるのなら、誰もが英雄になれなければ嘘だ!
 我々は、貴殿らを、新たな時代の英雄として受け入れよう!」
 その言葉に、ゴミ溜の住人達に、僅かに生気が戻った。元より、鉄帝の民として、身体は鍛えていた。ある程度に自信は、持ち合わせているものである。
「俺を、俺を連れて行ってくれ!」
「私も、私もやるわ!」
 ごうごうと、人々の声が上がる。
「よかろう。ただし、英雄とは辛く厳しい道のりだという事を覚悟してほしい!」
 軍人の男がそういうのを、子供が見ている。傍にいるのは、病床の母だった。流行病である。かつては薬も簡単に手に入った、なんという事のない病は、しかし弱肉強食の世では薬を得ることすら強者でなければ得られず、必然、弱者たる彼女たちは、病を治すすべもなく、その猛威に屈していた。
「ラッド、お父さんは、英雄になってくる」
 そう言ったのは、父だった。ラッド、と呼ばれた少年が、不安げに父を見た。
「大丈夫だ……お父さんも、昔はラド・バウに出たこともあるんだ。英雄になって、母さんの薬をもらってくる……それまで、家を頼んだぞ……!」
 そう決意を込めて言う父に、ラッド少年は頷いた。父はささやかな身支度をすると、他のものと同じく、英雄になるために旅立っていった。
 それから、父からの連絡はない。

●帝政派の調査
「近頃、人狩りが発生しているらしい」
 と、帝政派のエージェントがそう言った。
 サングロウブルクの帝政派拠点に作られた、ローレット用の待機所である。そこで、仕事の依頼をうけたあなた達ローレットのイレギュラーズ達は、エージェントから早速の依頼と、その内容を聞いていた。
「人狩り……その、それはどういう意味合いだ?」
 仲間の一人が尋ねる。狩り、と言えば、様々な意味がある。徴集か、或いは、殺戮か。
「徴集、だ。何でも、帝都で新部隊が発足したらしい。『新時代英雄隊(ジェルヴォプリノシェーニエ)』。現軍部の内、この混沌とした世に真なる英雄を募る、と謳い、各地から無差別に人を徴集している」
「ふざけた名前だ」
「ああ。だが、そのキャッチコピーは甘美だ。いずれにしても、奴らはあちこちで甘言を弄して人を徴集し――使い捨てる」
「使い捨てる?」
「近隣の魔物討伐。或いは、別勢力への攻撃。ありていに言ってしまえば、下っ端の兵士を徴集して鉄砲玉に仕立て上げるようなものだ。命の代価は、家族の安全の保障などと彼らはきかされているが、実際には――」
 エージェントの傍には、一人の少年がいた。暗い瞳は、現実を写していない。
「彼は?」
「先日徴集された男の子供だ。病状の母を看病していたが、先日母は病に亡くなり、我々に保護された」
「家族の安全は保障されるんじゃないのか?」
「はったりに決まっているだろう。どれだけきれいごとを言っても、あのバルナバスに属する連中だぞ」
 さもありなん、とあなたも思った。徴集文言など、どうせ守る気もない綺麗事なのだろう……。
「この、人狩りの部隊の動向がつかめた。鉄帝北部の『フェリューギノイ』という町で人狩りを行う予定らしい。
 今なら人狩りを始める前に追い付けるはずだ。一部隊を倒したところで完全に人狩りが止まるわけじゃあないが、それでも奴らの行動を抑えることはできるはずだ。それがしばらくの間だとしても、何もしないよりは、ずっといい」
「分かってる。こんな子を、これ以上生み出すわけにはいかない」
 仲間がそういうのへ、あなたも頷いた。エージェントは言わないが、おそらくこの少年の父も、使い捨てにされて死んだのだろう。英雄として利用されて死んだのだろう……。
「すまないが、早速頼むぞ」
 エージェントの言葉に、あなた達は頷いた。

 フェリューギノイの街に続く道すがら、自称英雄たちの一団は、ゆっくりと行進する。先頭に立つのは、軍服の男。隣には二名の随伴兵士。そして、複数体の猟犬(グルゥイグダロス)の姿があった。
「人狩り、ですか。面倒な任務ですな、スロール大尉どの」
 スロールと呼ばれたは、先日ラッド少年の父を徴集した男である。めんどくさそうな顔を浮かべて、彼は言う。
「ああ、だが英雄は必要だからな。そうだとも。多ければ多いほど、良い。レフレギノ将軍は、すべての人民の英雄化を望んでいる。ま、大半は英雄にもなれぬゴミばかりだと思うがな。先日のもそうだ。ゴミ溜のゴミ共を拾ってきたが、残らず北方でクマごときに殺されて死んだだろう?」
「ああ、あれは。酷い雑魚共ばかりでしたね。ひとり、ふたり、使い物になるのがいるかと思ったのですが」
「所詮はゴミだ。これから拾うのもそうかもしれないが……ま、それでも役には立つだろうよ」
 そう嘲笑する彼の顔に、思いやりとか、命への尊敬とか、そういうものは全く、見て取れなかった。そんな彼らの前に、真の英雄たちが――ローレット・イレギュラーズ達が立ちはだかったのは、すぐ後のことだった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 人狩りの偽英雄たちを倒しましょう!

●成功条件
 すべての敵の撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 『新時代英雄隊(ジェルヴォプリノシェーニエ)』を名乗る、新皇帝派の集団が行動を開始しています。彼らはまず、人狩りを行い、甘美な言葉で民衆を徴集、使い捨ての兵隊として運用してるようです。すでに多くの被害が出ており、これを看過するわけにはいきません。
 幸い、人狩りの中でも大きな部隊の動向がつかめました。彼らがこれ以上悪事を働かないように、此処で確実に止めてください。
 作戦決行エリアは、鉄帝の街『フェリューギノイ』の入り口。周囲は石畳などで舗装されており、移動などのペナルティは発生しません。周囲に敵の増援や味方などは存在しませんが、戦闘に釣られて、放たれている野良アンチ・ヘイヴンが合流する可能性はあります。速やかに敵を撃破しましょう。

●エネミーデータ
 『新時代英雄隊(ジェルヴォプリノシェーニエ)』、スロール ×1
  新時代英雄を名乗る新皇帝派の軍人です。彼は人狩りを行い、甘言を用いて多くの人達を徴集、使い捨てにしてきました。
  二丁拳銃を装備し、それを格闘技のように接近戦で使う、という昔の映画みたいな戦闘方法を使います。
  そのため、ある程度の距離でも戦えますが、前述したとおりに得手は接近戦です。
  高い回避と命中に注意してください。半面、耐久性能は低いので、集中攻撃で落としてしまいましょう。

 『新時代英雄隊(ジェルヴォプリノシェーニエ)』、隊員 ×2
  スロールの部下です。蒸気式ビームガンを持ち、中距離から遠距離での支援攻撃を得意とします。
  パラメータ上に特筆すべき点はありません。接近戦は得意ではないので、近づいて一気に撃破を。

 アンチ・ヘイヴン、グルゥイグダロス ×10
  アンチ・ヘイヴンの怪物たちです。双頭の猟犬のような姿をしています。
  スピード面での性能が高く、複数体で連携して襲ってくるでしょう。
  敵チームのメインの兵隊です。比較的耐久力が低く倒しやすくなっていますが、その分数が多いのでご注意ください。


●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran


 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <総軍鏖殺>英雄狩りの音完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年10月22日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ウォリア(p3p001789)
生命に焦がれて
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
リーディア・ノイ・ヴォルク(p3p008298)
氷の狼
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者
郷田 京(p3p009529)
ハイテンションガール

リプレイ

●英雄の条件
「もう、直にフェリューギノイの街ですか」
 随伴の兵士がそういう。
 軍服を着た男と、二名の『派手な』衣装を着た兵士。そして幾匹もの猟犬の一団である。
 フェリューギノイに通じる街道に、彼らはいた。
「箔をつけるためとはいえ」
 兵士が言う。
「徒歩での移動とは。お疲れではありませんか、スロール大尉殿」
「疲れてはいるが」
 スロールと呼ばれた軍服の男が頷く。
「これも仕事だ。馬車だの蒸気車だので行ってもいいが、やはりインパクトに欠ける。
 英雄とは堂々としたものだ。超然と歩き、当然と語る。そうすれば、馬鹿は騙される」
「その通りですな」
 ハハハ、と兵士は笑った。
「私どもも、そのおかげでこのような派手な服を着ているものです。戦士然、と言いますか。見た目からしてそれらしい」
「視覚のインパクトというのは重要だよ」
 スロールが言う。
「結局のところ、英雄とは希望を与えるものだ。結構。与えてやらにゃならん。そして自分たちもこうなれるかもしれない、という憧れも必要だ。
 馬鹿を騙すには、形からだよ、兵士諸君。ま、嘘は言っていない。奴らが『強い』のならば、我々は相応にもてなすからね」
「使えん奴らは鉄砲玉にでもすればよいですな」
 兵士が言う。
「いやいや、鉄砲玉とは。彼らは英雄的に戦い、英雄的に死んだのだ……英雄だよ」
「確かに」
 ハハハ、と兵士たちが笑う。彼らは、『新時代英雄隊(ジェルヴォプリノシェーニエ)』を名乗る一派である。英雄を騙り、英雄になれると騙り、人々を手ごまのように使おうとする、悪徳の集団が彼らだった。彼らはその為の部隊だ。その魔の手は、この街にも迫っている。
「……ん? お待ちを」
 兵士の一人が言って、足を止めた。前方、人影が見えたからだ。八名。それはこの、偽りの英雄などとは違う、本物の英雄であることに、彼らは気づいた。
「……どこの派閥だ? バイルのジジイか? それとも、ラド・バウの間抜け共か? ローレットのイレギュラーズがかかわるのなら、そうなんだろう?」
 スロールが言う。
「どこの派閥だとしても」
 『無敵鉄板暴牛』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)が、怒気を込めた口調で言った。
「関係ない。どこの派閥だったとしても、お前達を止めるのは間違いないだろう?
 『英雄』って言葉を雑なプロパガンダに使うなよ。
 この戦いが終わった時、民がいなければ国じゃないんだ。
 国の一番大切な財産は彼らなんだよ」
 普段の口調とは違う、荒い口調が、リュカシスがまったく、本当に怒っていることを仲間達に理解させた。
「同意するよ」
 スロールが深く頷いた。
「彼らは国家の財産(もの)だ。だから国家(もちぬし)がどう使おうがどうでもよいのでは?」
 リュカシスは答えない。ただ、怒りに燃える瞳を、スロールへと向けるだけだった。
「べつに、あなた達と意志のすり合わせをするつもりはないよ」
 『蒼輝聖光』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が続いた。
「期待もしてないからね。そのうえで、一応言わせてもらうよ。
 『人の命を何だと思っているの』!?」
 スティアもまた、僅かに肩を震わせていた。怒りが、その身の内からたぎっている。どのような形であれ、此処にいるイレギュラーズ達の多くは、『英雄』達の所業に怒りを覚えいていただろう。それは、甘言を以て騙されたある男を、そして彼が遺すことになってしまった、あの悲しい少年の話を聞いていたからだ。
「生きては帰さない」
 『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)がそう言った。そうとだけ言った。強い決意であり、明確な敵意であり、死刑宣告であった。同時に、ただ仕留めるだけではないという事も、オリーブの心の内には浮かんでいた。この、歪な英雄気取りのしっぽを掴むというのは、オリーブの胸中で膨れ上がる思いだった。
「は、は、はは!」
 スロールが笑う。
「どうやら嫌われたらしい――が! 此方も貴様らの行動は鬱陶しいと思っていたのだよ。
 我らの邪魔をする、反皇帝派の一味――倒せばまったく、本当に英雄になれるかもな!」
「言ってくれるな」
 『チャンスを活かして』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)が言った。
「もはや言葉は不要、だ。いや、最初から、必要なかった。
 ここにいる僕たちは、あの少年の絶望の具現と思え。
 僕は――僕たちは。偽りの英雄を、決して許さない」
 シューヴェルトが、ゆっくりと刃を抜き放った。兵士、そしてスロールが、その手に銃を構える。すると、『猟犬』たちがぐるる、と唸り始めた。
「英雄なんてものは、そもそもろくなものではないのですが」
 『厄斬奉演』蓮杖 綾姫(p3p008658)が、そう言った。
「そして、それを煽って英雄を求める連中などそれ以上にろくなものでもない。それに気づかぬほど、人々の目は曇って……いいえ、追い詰められているのでしょう。
 それを利用し、使い捨て、すりつぶす。元を断つ……前にこの小賢しい自称英雄サマを叩き斬るとしましょうか」
 綾姫がぎり、中空を掴んだ。その手のうちに、柄、が生まれる。その柄を、中空を鞘に見立てて抜き放つようにして見せれば、徐々に生み出された刃が、その手のうちに現れる。剣霊創成。その名のままに。
「残らずぶちのめしてやるからそこに並びな、クズ野郎ども!」
 『ハイテンションガール』郷田 京(p3p009529)がファイティングポーズをとり、ぎり、と奥歯をかみしめた。隣にたたずむ『赤頭巾の為に』リーディア・ノイ・ヴォルク(p3p008298)は、静かに呟く。
「今度は君たちが死ぬ番だ。
 ――氷の狼の遠吠えを聞くがいい」
「ほざけ」
 スロールが言った。
「死ぬのはお前達だ」
 スロールが、断頭台のそれを降ろすかのように、その手を振るった。いくつもの猟犬たちが放たれる! その数は10! がぁう、と吠える奇怪なる猟犬たち――それは、天衝種(アンチ・ヘイヴン)、グルゥイグダロスだ! 恐るべき猟犬の群れ。だが、イレギュラーズ達は動じる気配はない。むしろ、怒りをためるように、静かに身構えた。
「時を厭わずして、己が意思で身を擲ち人理に尽くす者をこそ――「英雄」と呼ぶ。
 機会を与えられて漸く動く者が易々と冠する安い称号では断じて非ず。
 況してその「機会」を餌に英雄ならざる者を惑わすその罪、誠以て形容し難き重さ。
 新時代? 真なる英雄? 烏滸がましいにも程がある――裁定の時だ」
 『戮神・第四席』ウォリア(p3p001789)が、そう言った。それは、罪人の罪を読みあげる、断罪の神のそれにも似ている。
 いずれにせよ、それが彼らの罪であり、これより執行されるは罰であった。が、その間にも、猟犬は知らぬと吠え、駆ける、駆ける、駆ける――いや、そのただ中に、逆に駆けこんだものがいた! 京だ!
「ふ――っ!」
 強く息を吐きながら、京は『回っ』た。逆立ちの体勢をとり、己が腕を軸に、広げた両足を円周に見立てたそれは、独楽――いや、回転する脚には強烈な炎が膨れ上がり、辺りを炎獄の渦へと叩き落とす。炎の、独楽。
 がおうん、と強烈な、空気を焼く音が響いた! その炎は、そして蹴撃の衝撃は、辺りにいた猟犬たちをまとめて叩きのめした! 外周にいた猟犬へのダメージはもちろん、内周にてまともな直撃を受けた猟犬は、その強烈な炎と蹴撃の内に、瞬く間に屍を晒す!
「続いて!」
 京の言葉に、続いたのはシューヴェルトだ。手にしたのは、赤の厄刀。すっ、と空間を薙げば、そこから空間は断裂した! 断裂した空間は、辺りのもの、詰まる所密集していた猟犬たちを、己の道連れとするようにか、或いは空間が復元するそれに巻き込むかのように、同様の傷を猟犬たちへと残していた! いぃん、と共鳴するような、甲高い音が空間からなり引き、断裂した空間が元通りになると同時に、ぼどり、と猟犬の首が落ちた。そのまま倒れる。
「魔物に罪を語っても仕方ないが。地獄の責め苦に焼かれてくると良い」
 シューヴェルトが忌々しそうにそういう――同時、シューヴェルトへと向けて飛び込んできた猟犬を、オリーブの何の変哲もない刃が切り裂いていた。どこにでも見られるような刃だった。だが今は、怒りの英雄が持つ聖剣ともいえた。
「速やかにせん滅します」
 静かにそう告げた。
「奴らを逃がすわけにはいかない」
 そう告げた。
「ちっ、お前達も攻撃だ!」
 スロールがそういうのへ、兵士たちが蒸気式ビームガンをうち放つ。ばしゅ、と蒸気が吹き出すや、光線がうち放たれた。オリーブは自身に撃ち込まれたそれを、ロングソードの歯で受け止める。
「すぐに相手はしてあげますよ。そう遠くないうちに」
 オリーブが言う。一方で、残る猟犬とイレギュラーズ達の戦いは続く。近くには街がある。何事が起きたのかと、住民が顔を見せる気配を、ウォリアは感じていた。
「来るな。すぐに片付く」
 吠えるように叫ぶそれに、住民たちは頷いた。元より近づく者はいなかったかもしれないが、こうも念押しされては万が一もあるまい。可能性はこの段階で確実な0となる。
「獣が」
 ウォリアが獰猛に口元をかみしめると、その手にした武器に強烈な炎が巻き起こる。歌えよ神滅剣。此度に狩るは、神ではなく獣であったが。
「黄泉路に送るは変わりなし――喰らえ」
 轟にて振るう、神滅の刃。暴乱が猟犬を薙いだ。その強烈な斬撃に耐え切れず、猟犬は速やかに屍を晒す。願わくば、汝らの黄泉路に苦役あらんことを。
「ちぃ……魔物とは言え、所詮は獣か……!」
 スロールが怒りに呻きつつ、その両手に機械拳銃を構えた。近接戦闘用の機械拳銃。スロールが飛び込む。スティアが迎え撃った。かざした本のような魔道具が激しく光り輝くや、花吹雪を噴き上げるように、魔力の残滓を吹き出した。それは、まるで無数の天使の羽根のようにも見える。
「来たね……!」
 スティアは、その眉をしっかりと吊り上げて、怒る様な、決意を固めるような、そんな表情でスロールを迎え撃つ。
「死ぃぃぃぃねよなぁぁぁぁ!!」
 スロールが飛び込み、殴り掛かる様に機械拳銃を撃ち込む。至近で放たれた拳銃弾は、格闘の拳闘にも似ている。スティアは防御術式を最小で展開し、剣銃弾を片っ端から弾いて見せた。パァン、パァン、と、銃声と、衝音が連続で鳴り響く。受け止めたといっても、その衝撃はスティアの体力を削っていく。
「こんな攻撃では私は倒せないよ。
 か弱い女の子も倒せない英雄さんなのかな?」
 スティアが魔道具を構える。ひらり、と待っていた天使の羽根にベクトルを与えてやれば、小さなナイフのごとくスロールへと襲い掛かる。スロールは拳銃でそれを受け止めながら、位置取りを変えた。
「悔しかったらもっと頑張ってみたら?
 人をだまして悲劇を生むなら……此処で、倒すよ!」
 スティアが位置を入れ替えるように、天使の羽根のナイフをばらまいた。同時に、スロールを戦場へ、戦場の内へ、追い込むように刃を奏でる。
「こいつ……私を逃がさないつもりで……!?」
 スロールが意図に気づいた時には、しかしもう遅いものだ。スティアが、ばん、と本型の魔道具を閉じた。同時に、魔力は爆発し、辺りに衝撃をまき散らす。
「ちぃっ!」
 裏返るような声をあげて、スロールが後方へと飛んだ。
「やれ!」
 命令をきいた兵士たちが、蒸気式ビームガンをうち鳴らす。スティアの身体を焼くその衝撃を受けながら、しかし、霧と、スティアは前を見据えていた。
「英雄気取りはどっちだ……!」
 馬鹿にするように、スロールは叫んだ。
「馬鹿な市民どもの仇討のつもりか……!? 奴らは弱いから死んだ。それは、鉄帝では当たり前の――」
「そうかもしれないけれど――」
 リーディアの声だった。放たれたのは、一筋の銃弾。必中の狙撃銃より放たれた、猛禽の爪! その一撃は、兵士のうち一人の胸を貫いた。
「がっ!?」
 兵士が断末魔の声をあげて、倒れる。
「それをうまくごまかしていたのは、事実。それを壊してしまったのは、君たちだ。
 やぁ、英雄殿。狩る側から狩られる側になった気持ちはどうかな? 後学の為に教えてくれないかい?」
 リーディアがそういう。同時に、ライフルの照準をスロールへと向けた。
「英雄の最後は、いつだって雄々しく戦場で散るものだろう?」
「舐めるな!」
 スロールが、銃弾をうち鳴らす。近接射撃に特化した拳銃は、リーディアへはろくに命中しないだろう。一方、スロールを援護していたもう一人の兵士からも、「ぐあっ!」という断末魔の悲鳴が響いた。その胸から、一刀の霊剣を生やしていた兵士が、地に倒れ伏す。
「弱いものがナントヤラ……と得意げに語っていた様子でしたが」
 霊剣の主――綾姫は、手を突き出したまま=霊剣を射出したそのままで、スロールに声をあげた。
「そうかもしれませんね。弱いものから死ぬのは、戦場と世の常。それは変わりありません。
 で、この場において、弱いものとは、すなわち誰でしょうか?」
 氷のように冷たい、綾姫の瞳が、スロールを射抜く。
「別段血に飢えているわけではありませんが。しかし奪えと言われれば、私の心は一筋も揺るぎませんよ。
 この身、この心、刃なれば。特に、あなたのような外道となればなおさら」
「ぐっ……!」
 追い詰められたスロールが呻いた。両手に拳銃を構え、戦場の突破を試みる。
「死ぬのは、貴様等だ……!」
 スロールが吠えた。その先に、リュカシスがいた。その鉄腕に、力を込めて。
「来てくれるなら、助かるよ」
 冷たい声をあげた。いや、それは冷たい声だったのだろうか。その言葉には、間違いなく、怒りの炎が宿っていた。その熱は、あらゆるものを溶かすくらいに、熱いもののはずだった。
「ボクは、他の皆に比べて……当てる、って事に自信がないんだ……」
 ぐい、ぐい、ぐっ、と、その手に力を込める。殴りつける、目標に向けて。ゆっくりと、ゆっくりと、視線を向ける。
「だから、こっちに来てくれるなら。あたりに来てくれるなら。本当に、助かる」
「黙れぇぇぇぇっ!」
 ほえた、スロールが、飛び掛かる。
 拳銃の銃口が、リュカシスに向けられた。その銃口の、黒さに、リュカシスは、ふと、想いを馳せた。
 昏かった、少年の瞳。
 現実を写すことを止めてしまった虚ろ。
 絶望が、その瞳を黒に染めていた。
 あの色を、拳銃の銃口に見た。
「あの子は……ッ!」
 リュカシスが、拳を突き出した。カウンター気味に放たれたそれは、飛び込んだスロールに、避けられるようなものではなかった。強烈な衝撃が、スロールの顔面を駆け抜けた。それこそ、強烈な壁が向こうから超スピードで突撃してきたような感覚が、スロールの身体を滅茶苦茶にしたように感じられた。吹っ飛ぶ。受け身もとれず、スロールが、大地にたたきつけられた。「がっ」と、スロールが呻いた。「ぐ、が、くそ、くそ」と、激痛にさいなまれながら、何とか立ち上がろうとする――そこへ、その手を、京が踏み抜いた。
「ぎゃっ」
 スロールが悲鳴を上げる。京が、ぎり、とその手を踏みにじる。
「小悪党のくせに随分偉そうに振る舞ってくれたじゃない!
 アンタなんてね、何に希望を抱いてるか知らないけど、バルナバスのクソ野郎だってお断りの三下チンピラなんだから!
 日和見で過ごしてたくせに、新皇帝になってからこんな事始めたんでしょ? 情けないったらありゃしないわ!
 腐った男ほどタチの悪いものもないわよね!」
 怒りを吐き出すように、京はそう叫んだ。オリーブが、その肩に手を置いた。ゆっくりと頷く。
「後はお任せください」
 オリーブの言葉に、京は頷いた。オリーブはゆっくりと刃を構えると、その刃を、スロールの首筋にあてがった。
「さて。英雄さん。罪を償う覚悟はできていますか」
 オリーブが静かにそういうのへ、スロールは己の運命を悟った。

 あたりに静寂が戻っていた。あれほど多く渦巻いていた悪意は、イレギュラーズ達に増えた傷痕だけを代償に、あっという間に消え去っていた。
「レフ・レフレギノ将軍。皇帝派の軍人か」
 ウォリアがそういうのへ、シューヴェルトが頷いた。
「それが、英雄隊の元凶か……」
「そんなことをして、何になるというのかな」
 リーディアが言う。
「国民すべてを英雄に……? 何の意味もないのに。人殺しは所詮人殺し、必ずどこかで運命がやってくるのさ」
「そうかもしれないな……偽りの英雄たちか」
 シューヴェルトが呟く。敵の意図は不明だが、しかし多くの悲劇を生み出していることは確かだ。
「あの子の所に……勝ったよって言いに行きたいな。
 ……ボク達が勝ってもご両親が帰ってくるわけではないけれど。
 ボク達、国と暮らしを必ず取り戻すって、約束、したくて……」
 リュカシスが言うのへ、スティアが頷いた。
「そうだね。何か、背中を押す助けになれれば……」
 そうなればいいと、誰もが思った。
 失ったものは戻らない。でも、これから失われるものを、少しでも減らすことはできたはずだ。
 戦いは無駄ではない。そしてこれからも、続いていく。
 続く戦いの気配を旨に、今は少しだけ、悲しさとやるせなさに身をゆだねる、英雄たちの姿があった。

成否

成功

MVP

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆さんの活躍により、悲劇は未然に防がれ、多少なりとも、偽英雄たちの活動も鈍ったはずです。
 ラッド少年も、いつかは心の傷はいえるのでしょう……。

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