PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<総軍鏖殺>弱き人々のために

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 帝都スチールグラードは、混乱の最中にあった。
 新皇帝についた『煉獄編第三冠"憤怒"』バルナバス・スティージレッドが放った勅令により秩序は崩れ、収容されていた犯罪者や暴徒たちが様々な場所で問題を起こしている。それも、毎日のことである。
 強く、そして善き心の持ち主であればそれを率先して止めることであろう。
 けれどもすべての住民が強いわけでも、善人であるわけでもない。
 怯えることしか出来ぬ人々から、奪う者がいる。暴力を働く者がいる。店を襲う者、新たに暴れに帝都の門を突破して侵入しようとする者――そんな多くの無法者たちを都内で何とかしようと率先して動いているのは、スチールグラード都市警邏隊であった。
「よくないでありますね……」
 部下から渡された望遠鏡を覗き込んだ白髪の娘――イネッサ・ルスラーノヴナ・フォミーナがそっと吐息を零した。
 日に日に暴徒の数は増している。
 帝都内を警邏して周り、または助けを求める都民に呼ばれ、諍いを抑えたりはしてはいるものの、どう考えたって人手が足りていない。こんな毎日が続けば――いや、我々はどれだけ保たせることが出来るのだろうか。そんな考えもよぎってしまうほどに。
「――小隊長!」
 アレクセイ大佐が率いるスチールグラード都市警邏隊において、少佐の階級であるイネッサも隊を率いている。鋭い声を上げる部下がまた何か新しい暴動を報せ、そして駆けていった。


「アレクシアチャン、お願いがあります」
 ――少しでよいのです。手を貸して頂けないでしょうか?
 夏にシレンツィオ・リゾートで休暇中の彼女と出会ったアレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は、切実さの籠もった声に目を丸くした。夏にあった彼女は明るく、リゾート地を楽しんでいたはずだ。
 けれども今、鉄帝国の軍服に身を包んだ彼女には、隠しきれない疲労の色があった。
 その理由は、問わずともアレクシアにも解る。
 だから彼女の手を優しく取って。
「勿論だよ。私に出来る範囲で力になるよ」
 罪なき人々を守りたいという気持ちは、住まう国や立場が違っても一緒だ。
 大佐の意向を仰いではいないから、これは警邏隊からの正式な依頼でなくイネッサ個人からの依頼であり、ローレットと言うよりもアレクシアへの。そしてアレクシアと共に手を貸しても良いと言ってくれるイレギュラーズたちへの、依頼である。
「それで、私は何からすればいいのかな」
「一番に守りたいのは、帝都の門です。……貧しい集落を襲うよりも帝都で暴れた方が実入りが良いと理解した無法者たちが押し寄せてきています」
 追い払っても追い払っても、彼等はやってくる。この数日は更に其れが多く、交代で門番をしている隊員たちにも疲労が蓄積していた。
「西側の門だけで大丈夫です。それから余力があればなのですが、門付近の通りでの蛮行があれば止めて頂けると助かります」
 門を抜けた広めの通りには沢山の店が並んでいる。本来ならば外から来た商人や旅人等がまず立ち寄る店なのだが……今は外から来た無法者たちに一番に狙われてしまっている。既に店として機能しないまでに荒らされた店も、それを恐れて閉めている店もあるのだが――閉まっていても奴らはお構いなしにこじ開け、略奪の限りを尽くすのだ。
 都民のことを思えば日用品や食料品の店は開けたいと思う店も多く、警邏隊の目が届く範囲での商いはしている。しかし帝都の外からも無法者たちが入って来ようとするのを取り押さえたり等で目が届かなくなればすぐに――……。
 本来ならば自分たちで守りたいのだがと視線を下げるイネッサ。
 彼女の両肩に手を置いたアレクシアは任せてと微笑み、イネッサの視線を上げさせるのだった。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 こちらは革命派シナリオになります。

●目的
 暴徒たちの捕縛
(新しく帝都に侵入させないことが望ましい)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●シナリオについて
 これはスチールグラード都市警邏隊からの依頼ではなく、イネッサ個人からの依頼です。
 フィールドは、帝都スチールグラードの西側の出入口門付近です。
 門は鉄の格子があり、門番たちが居ますが、外からやって来る無法者たちはお構いなし。そのうち壊れてしまうのではないか……と言った勢いで毎日やって来ます。
 最近はひとりで動くより徒党を組んだ方が良いと学習したのか、暴徒となっております。

●イネッサ・ルスラーノヴナ・フォミーナ
 スチールグラード都市警邏隊の少佐で、アレクセイ大佐の部下。
 アレクシアさんとは帝都が混乱に陥る前の夏、シレンツィオ・リゾートで出会いました。
 今回は皆さんが門を守っている間に他の暴動を抑えに動くので行動を共にしません。

●暴徒…沢山
 門は鉄の格子があり、門番たちが居ますが、外からやって来る徒党を組んだ暴徒たちはお構いなし。そのうち壊れてしまうのではないか……と言った勢いで毎日やって来ます。
 他の者を捕らえようとしている間に侵入を試みようとする者。門や壁を壊そうとする者。門番を攻撃する者……行動は様々です。
 外部からだけではなく、帝都内は暴徒で溢れています。路地裏で暴行する者、店を襲う者……沢山の暴徒が暴れているので、『殺さないように』捕縛してください。新皇帝の勅令では彼等は『悪いこと』をしていません……。

●EXプレイング
 開放してあります。可能な範囲でお応えします。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

 それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。

  • <総軍鏖殺>弱き人々のために完了
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年10月16日 22時20分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス
一条 夢心地(p3p008344)
殿

リプレイ

●騒乱の日々、いつかの安寧のために
 キャアァと尾を引く、絹を裂くような声が遠くで響いた。
「女性の声、二時の方角です!」
 耳に手を当てて意識を集中させていた『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)が必要最低限の情報を口にすれば、了解と応じた『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が一羽の鳥を向かわせる。
「日用品店の前の道で女性が襲われているよ。襲撃者はかなり大柄だけど一人だよ。でも少し距離があるかな」
「五時の方角の民家へ押し入ろうとしている方がいらっしゃいますわ! 扉の前で怒鳴っていらっしゃるので、少しは保ちそうですわね」
 アレクシアの声に続いて、『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)も声を上げる。優先すべきは襲撃者と既に対面しており、単身で襲われている女性の方だろう。直様そう判断した『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)は、アレクシアのもう一羽のファミリアーの先導で既に駆け出している。
「女性の方は悪漢一名なので、拙者は先に民家へ向かいますね」
「うん、お願い!」
「すぐに駆けつけますわ」
 路が分かたれるところまで共に駆け、信を置く頷きと共に路を違える。最短距離で、最善を成すために。
「お願いです、返してくださいっ! やっと手に入れた必要な物なのです!」
「ハッ、物の心配をしている場合かよ」
 ルル家が聞いた声の主――涙の滲む声の女性と、体躯の良い悪漢。女性は男が掲げ持つ、この物資が乏しい中で何とか購入できた品の入っている籠へと手を伸ばすが、男の下卑た言葉にその手はびくりと大きく跳ねた。
「そこまでだよ」
 誰よりも早く駆けつけて。男が「あん?」と睨めつける視線を掻い潜り、懐に忍び込んだ胡桃はえいっともふもふグローブで殴りつける。もふもふで可愛いがしっかりと爪のついた優れもののこやんぱんちは、軽く男の肉を抉った。
「いっ……何だ、てめぇ!」
「通りすがりの野生動物です~」
 女性と男の間に庇うように立ち、殴ったばかりの手をフリフリ。ついでに豊かな尾もパタパタ降って、男の意識を女性から逸らさせる。
「大丈夫? 立てるかな?」
 胡桃と男が睨み合っている間に到着したアレクシアが素早く女性の側に膝をついて手を貸して、ヴァレーリヤは駆ける威力を殺さずに男へと迫った。
「大丈夫? 立てるかな?」
 胡桃と男が睨み合っている間に到着したアレクシアが素早く女性の側に膝をついて手を貸して、ヴァレーリヤは駆ける威力を殺さずに男へと迫った。
「悔い改めなさいませ!」
 メイスでの二連打。ヴァレーリヤたちからしたらかなり大柄の男がふらりと蹈鞴を踏んだところを、こやんぱんちがえいっと決めた。
「見た目だけで、大したことはありませんでしたわね」
「あ、あの。ありがとうございました」
 さらりと赤毛を背中に払うヴァレーリヤの姿に、女性は神の加護を見たであろう。
「はい、これ。女性が一人で出歩くのは危ないから、気をつけてね」
「はい……。ですが、家で子供が待っていて……」
 アレクシアが女性を支えながら荷物を手渡すと、返ってくる言葉。端的にだがシングルマザーであることが伺えた。
「それじゃあ早く帰ってあげたほうがいいよね」
 避難所への案内も考えたが、数日分の必要物資を入手したのなら固く戸を閉ざした家に籠もっていた方が良いのかも知れない。連絡用にアレクシアのファミリアーの一体を預かって、足が早く仲間たちの元へ戻るのも素早い胡桃が女性を家まで送ることにした。

 門の内側で駆けまわる四人から離れ、帝都を守る門の外側。そこには六人のイレギュラーズたちが揃っていた。
「ったく、有象無象が数だけ揃えやがって……」
 イレギュラーズたちが門にたどり着いた時には、既に門へと押しかけている者たちが居た。中へ入れろと騒ぎ立て、新皇帝の勅令の下では許される行いだと自らの行いを正当化し、大暴れ。困り果てながらも退けては新たな暴徒の対応を続けていた門衛に代わり、ひと団体の相手をし終えた後、『喰鋭の拳』郷田 貴道(p3p000401)からはそんな言葉が溢れたのだった。
 何故なら彼の瞳にはもう『次のお客さん』が映っている。
「わ、本当にたくさんくるんだね」
 未だ距離のある暴徒たちの姿に、『蒼輝聖光』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は目を丸くする。けれどもしかしたら、あの中には根っからの悪人ではない人がいるかもしれない。例えば力ある者が弱みに付け込んで従わせていたり、例えばこの物資が少ない中で生きていくために否応なくそうしている者たちが。
(――遮二無二生きているという点で同情は禁じ得ない)
 スティアと同じ考えで目を細めるのは、『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)。この状況下では生きるのに懸命になってしまい、他者を蔑ろにしてしまうのは仕方がない――という訳ではないが、そういった状況に置かれた人々の心境は理解できる。
 人を守るために先人たちが築き上げてきた法が無くなり、無法地帯となったのだ。自らが弱者にならないために、弱者を虐げるしか彼等に道はなかったのだろう。
「うむ、うむ。元気じゃのう」
 のんびりと言っていいほどに泰然と佇んだ『殿』一条 夢心地(p3p008344)は、全てを受け入れる釈迦の如く構えて。
「元気なのは結構じゃが、己の欲望のままに他者を害するとなれば見逃すワケにはゆかぬ」
「殿様だものねぇ」
「うむ、そのとおりじゃ」
「本当、この騒ぎを眺めていると、早々にサヨナキドリの鉄帝支店を封鎖して正解だったと痛感するね」
 然程多くの者たちが押し寄せてきている訳ではないことを確認すると、『闇之雲』武器商人(p3p001107)は此処はお任せするねと唇を三日月に持ち上げ、離れていく。ほとんどの敵は頼りになる仲間たちが辿り着く前に止めてくれることだろうが、絶対はない。乱戦が続けばそれも難しくなるだろうし、明日やその先を考えれば補強をしておくことに越したことはない。自身の商会経由で取り寄せた材料を用い、門や壁を補強へ向かった。
「今の所、内側の皆も上手くやっているみたいね」
 胡桃から預かった『炎狐』は大人しくしているし、『決死行の立役者』ルチア・アフラニア(p3p006865)が預けたファミリアーの梟からも急を要する情報は入ってきていない。ちょうどよい差配だったのだろう。
 鉄帝国の政体自体には興味のないルチアは、ただ踏みにじられるであろう無辜の民たちのことを案じていた。
 そんなことはさせない。必ずここで食い止めるけれど。
「さて、そろそろか」
 駆けてくる暴徒たちが近付いてきた。貴道が大きく息を吸い込むのに合わせ、仲間の数名がそっと両耳を手で塞いだ。

「お前たち!!」

 とても大きな声が貴道から響く。スピーカーボムで発せられる大声は苦痛にはならないが、それでもその大きな音は肝が小さな者の肝を大きく跳ねさせる。
「殺されねえからって調子こいていられるなんて思うなよ? 死ぬよか怖い目に遭っても知らないぜ?」
 大音量の脅し文句に驚いたのだろう。足を止めるものが数名。
 何か怒鳴り散らすように足を止めたものへと赤い顔を向けるものが極少数名。
「警告はしたからな」
 そう口にして、貴道は殺気迸る威圧感を放つ。
 仲間を巻き込まない位置を考えるのならば、敵がかなり離れている状態でしか使えない。そのためまだ暴徒たちが離れている最初の1回程度ならば仲間たちを巻き込むこともないだろうが、近寄ってきた暴徒たちの半径20mという広すぎる範囲内にはどうしたって相対する仲間が含まれることだろう。仲間を巻き込まないように極力離れている者を狙うなどして気をつけるようにはするが、識別できないものだから仕方がない。
 しかし気の弱い者への脅しはかなり有用で、殺気に当てられて腰を抜かして動けなくなる者、回れ右して逃げ帰る者たちもいる。害を成さずに逃げるのであれば、イレギュラーズたちも追いかけてまで彼等を害しはしない。
 イレギュラーズたちが優先すべきことは門を守り、新たな暴徒たちを中へ入れないことだ。
「さて、片付けていきましょう」
「頑張っていこー!」
 エッダが一歩前に出て、スティアが元気に腕を振り上げる。
 その様にほほと笑った夢心地は、「麿たちも元気さでは負けてはおらんの」と腰に佩いた刀を抜いた。

「次から次へと」
 家の戸を破壊して侵入しようとしていた悪漢を、隙きを突いて素早く倒したルル家。彼女の口からは呆れにも似た吐息が溢れた。
 それもそのはず。悪漢を伸しても放置するわけにはいかないため縄で縛っている間に、すぐ近くで悲鳴が上がったのだ。傍らについているアレクシアのファミリアーに伝えたから、仲間たちにも伝わっているはずである。襲われていた家へ「もう大丈夫ですよ! 縛っておきましたので警邏隊が来たらしょっ引いて貰ってくださいね!」と声を掛け、ルル家はまた走り出す。
 ――バリン!
「そこまでです!」
 ガラスの割れる大きな音が通りに響くのと同時に、ルル家が駆け込んだ。小さな商店へと、角材やナイフを手にした悪漢たちが押し寄せている。
 周囲に一般人の姿が無い事を確認し、ルル家はどろりと身から泥を溢れさせる。不幸に塗れる恐ろしい泥なんて、きっと恐怖を与えてしまうから。
「うっ……」
「てめぇ」
「愚かな方達です。法は弱者を守っております。それは貴方達が弱者になった時もそうであったというのに」
「ルル家君、お待たせ!」
 店を襲うよりも先に邪魔者の排除へと思考を切り替えた悪漢たちを相手取っていれば、すぐにアレクシアとヴァレーリヤが駆けつけ、更に胡桃も「しっかり送り届けて、ついでに悪い事してる人を懲らしめておいたのよ」とこやんぱんちと共に鎮圧に加わった。
 手練のイレギュラーズが四名も揃えば、軽犯罪程度しか起こせない悪漢なんてなんのその。
「皆様! 我々は民衆を虐げる者を許しません! 弱き者が安心して暮らせる時代を望む者です!」
 悪漢たちを縛り上げると、ルル家は声を張り上げて。
「またお困りの際はギア・バシリカまでご連絡下さい! 必ずお助けに参りますよ!」
 力強く、住民たちの心の支えとなる言葉を吐く。
 都市警邏隊もいつもそうしてくれてはいるが、拠り所が増えるというのは確かな希望であった。

「――つまらん一手だ。これで仕舞いか?」
 貴道の威圧を、スティアの閃光を、掻い潜って剣を振ってきた男の攻撃を受け止めて。
「勇気と無謀を履き違えるな」
 覚悟の無い一振りなどと冷ややかに口にして、これが覚悟の違いだと剣撃をみせてやる。
「うあッ――」
「――しかし、太刀筋は悪くない」
 愚直とも言える真っ直ぐな踏み込みに、光を失っていない瞳。淀みきって堕ちればさぞ楽であろうに、唇を噛んで立ち上がる姿。気骨があると見える。
「皇帝は確かに『何をしても自由だ』と勅令を出したけれど、こうも言っていたわ。『弱い奴は勝手に死ね』ってね。いま、たった6人に押されている貴方たちは強者なのかしら、それとも弱者なのかしらね!」
 ルチアが赤い髪を揺らして、真っ直ぐに暴徒たちを見据える。仲間たちの体力を回復させるために掲げた右手をぎゅっと握って、どうなのと訴えかけた。
 生じる動揺に、「こんな奴等の言うことに耳を貸すな!」と叫ぶ男が居た。どちらの声に耳を傾けるべきか……またざわりと困惑と言う名のさざ波がたつような気配が生じた。
「こんな事を繰り返していたら皆、共倒れになっちゃうよ」
 略奪するのは簡単だ。けれど奪う相手がなくなったら、その先は?
 奪われたくないから奪う。けれど、その先は? あなたたちに未来はあるの?
 スティアも幾度となく声を掛けながら、魔力で福音を鳴らす。自然と向けられる瞳は――何故だろう、彼女から離せられない。
「ねえ、ちゃんと働いてみない?」
 先程エッダが気骨があると感じた男へと声と気持ちを向ける。
 暴徒が暴れまわっているのだ、修繕や警邏、炊き出し……人の手が必要なところは山とある。どうかな、やめない?
「……俺たちでも生きる場所があるのか」
「うん、あるよ。探すのも手伝ってあげる」
 誰かに任せて、はいお終いになんてしない。ちゃんとあなたたちの行く末も見守るから。
 真っ直ぐな声に、武器を落とす者たちが居た。
 ――けれど、そんな言葉も通らない者も居る。
「さっきからつべこべと……!」
「ヒヒヒ、綺麗事ばかりがお嫌いなコもいるよね」
 スティアへ向かう凶刃を、ひらりと門壁から飛び降りた武器商人が素早く庇いに入る。命を奪うなと言う依頼主もお優しいものだと思いながらも、頼まれたものを頼まれたとおりに扱うのがプロの商人だ。お代はいただくけどねぇと心の底で笑って、男の視界を遮るように袖を大きく振るえば、身を低くしたナニカが白銀の光とともに飛び込んでくる。
「……峰打ちじゃ」
 怒りで顔を赤くしている男が次の動きに入るよりも早く、光る夢心地がその懐へと踏み込んだ。
「うむ、うむ」
 この夢心地には解っておるぞと言わんばかりに大きく頷く夢心地の顔には、滂沱の涙。
「今、麿がそなたの悪心を切り捨てた。そうじゃ、これは愛の鞭であり、改心の剣。有難く受けるが良いぞ」
「ひひ、殿様、もう聞こえていないようだよ」
「あなや!?」
 意識を失っている男はとりあえず縛り上げるとして、さあ他はどうする? とイレギュラーズたちは暴徒たちへと視線を向けた。投降する者は悪いようにはしない。けれど抗い続けるのであれば――。
「麿の愛でそなたら全員包みこんでやろうぞ」
 ひぃ、と今までで一番情けない声が聞こえた気がする。けれど夢心地には歓喜の声にしか聞こえない。何故ならこの一条夢心地……スチールグラード丸ごと包み込めるほどの愛で溢れた男であるからして。それほどまでに喜んでくれるかまろも嬉しいぞと、喜びに胸を震わせた。
 素早く草履で地を蹴る夢心地に、悲鳴を上げて逃げ惑う者たち。
 武器を手放して命乞いをする者たち。
「――今、生きている。それだけでも僥倖なのだ。今更民にこれ以上期待を押し付けるものではない。あとは、我々が。軍人が解決するべき事柄のはずだ。そうだろう?」
 ひとまずの事態が収束しそうなのを見通して、エッダがそう告げた。
 また次の暴徒たちがやってくる前に、やることが山とある。
 暴れる者は縄にくくり、協力的な者はその手伝いや門の修繕を手伝わせて。
 まだ日が傾いてすら居ない空を見上げ、イレギュラーズたちは嘆息した。
 長い長い一日となることに。

「お疲れ様であります」
 休むことなく働き続けることは出来ないから互いに交代で休憩を取り、万全に整えて、また騒動を沈めに行く。それを幾度か繰り返した頃、大きな騒動を収め終えたイネッサが門の詰め所へと顔を出した。
 手には大きなバスケットを所持しており、中には美味しそうなサンドイッチ。よかったらとサンドイッチを振る舞ってから、大きな困り事や問題は生じていないかと尋ねてきた。
「イネッサ。悪漢たちを縛って転がしておきましたが、町の外まで連れて行った方がよろしくて?」
「そうでありますね、牢もいっぱいでありますし」
 牢に入れておくと食事の手配もせねばならない。この難しい情勢では食料調達も次第に首を絞めていく案件だ。都市警邏隊は帝都を暴徒や反政府組織から守り、その上多くの貧しい人に食料の配給等も行っている。其れ等の食料を犯罪者に回したとあっては、市民からの反発もあり得るだろう。
「足を洗い働く気のある投降者は『クラースナヤ・ズヴェズダー』の知人に受け入れを願おうと思いますが、どうでしょう?」
 ニコライ・グリゴリエヴィチ・ロマノフスキーという司教がいるのだとエッダが告げれば、「たい……」と言いかけたイネッサはこほんと咳払いをする。エッダが特務大佐の位にあるのは旧皇帝の命令下で、アーカーシュにおいてだ。
「受け入れ可能な知己をご存知でしたら、ご紹介頂けると助かるであります。依頼の際、必要でしたら自分も同席いたしましょう」
 年若い娘に見えるが、イネッサも大尉よりも上の佐官を拝している身。ある程度の口添えは出来る。
「また困った事があったら言ってね。どこにいても、何だって……私は力のない人を守るために全力を尽くすから!」
 軍や団体に所属している以上、上層部や総意によって行動が縛られてしまう。けれどとギュッとイネッサの手を握り、アレクシアはそう告げた。
 身を置く場所、歩む道が違っても、ふたりが向いている方角は同じだから。
 いつかまた一緒にお茶をしたいねと微笑み合えば、いくつもの「その時は自分も」の声が上がっていた。

成否

成功

MVP

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名

状態異常

なし

あとがき

良い分配加減で、色んなことに気を使ってあった素敵なプレイングでした。
MVPは民の心に響く声を届けてくださったあなたへ。

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

●運営による追記
 本シナリオの結果により、<六天覇道>革命派の求心力が+10されました!

PAGETOPPAGEBOTTOM