PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<デジールの呼び声>消えたくない

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


 それは当初、ちっぽけな感情であった。
 魂の残滓。残された思念。幽霊や怨霊とは違う類。もっと弱くて、その本質すらも残せなくて、それでもこの混沌で消えられなかったおもいのカケラ。
 何をなすこともできなくて、そのうち跡形もなく消えてしまう――同じようなカケラが、過去どれだけ消えただろう。わかるのは今、その願いが何かに引き寄せられたことと、同じようなカケラが寄り添ったことだけ。
 誰かに会いたかった。
 美味しいものが食べたかった。
 取り戻したいものがあった。
 統一感のない思念のカケラたちは、一つの力あるコインに引き寄せられて、寄って、混じって、声を発するまでに至ったのだ。
 それは誰が呼び始めたのか、フリーパレットと言う。まるで幽霊のようなそれは、存外明るい色合いで。願いさえ叶えれば成仏してドラグチップを落とす。

 ――では、願いの叶わないフリーパレットは?

 ドラグチップは至る箇所へ飛散し、その先々でフリーパレットが生じている。当然ヒトが踏み込まない場所にも、願いの残滓さえあれば彼らはより集まった。けれど願いを叶えられなければただただそこで漂うだけ。漂って、漂って。
 ぐちゃ。
 声ひとつ発することなく潰される。それは粘着質な音を立ててフリーパレットを呑み込んで、それからゆっくりと辺りを見まわした。
 形容しがたい姿かたちをしたそれは怨霊と呼ばれてしかるべき怪物だ。ぐるりと見回すような動きをした怪物は、少し離れたところで所在なさげに佇むフリーパレットを見つける。
 ゆらりと動き出す。音もなく、木々の間をぬっていく。フリーパレットはまだ気づいていない。その無防備な後ろに怪物が近づき、迫り、牙を剥き、フリーパレットが振り返って――。


 ――ぐちゃり。



「ダガヌチ、という怪物をご存じでしょうか」
 ブラウ(p3n000068)は集まったイレギュラーズを見まわしながら問いかける。
 場所はシレンツィオ・リゾートの一角。本来ならば平和なリゾート地であるのだが、その場の雰囲気はリゾートを楽しみに来た、という様子ではない。
 シレンツィオ・リゾート周辺に蔓延る怪物たちを退けるため、竜宮の者と共に戦う事となったのが少し前。そしてその竜宮に訪れた危機を退けたのがつい最近の話である。あちこちへと散ってしまった竜宮幣(ドラグチップ)はほぼすべての回収完了が確認され、玉匣が力を取り戻した――深怪魔たちを退け、悪神ダガヌを封印する準備が整ったと言って良いだろう。
 竜宮の乙姫メーアはシレンツィオ総督府と協議を重ね、悪神ダガヌの神殿であるインス島海底領域への一斉攻撃を提案。これによって悪神ダガヌを消耗させ、完全封印を狙うというものであった。
「インス島はその名前の通り、ひとつの島です。敵となるモンスターがうじゃうじゃいるみたいですけれど。そこにダガヌチと呼ばれる怪物がいるんです」
 ブラウがシレンツィオ・リゾート周辺の地図を広げ、インス島と呼ばれる島を指す。作戦からしてこの島に行くことはイレギュラーズにとって承知の上であろうし、そしてこれだけ繰り返し言うのだから『ダガヌチを倒して欲しい』という話であるのも、なんとなく察しがついただろう。イレギュラーズの1人がどんな怪物なのか、と問いかけた。
「悪霊っぽいもの、らしいんです。姿も、こう……形容しがたいというか。一言で表すのも難しいようなもの、だそうで。すみません、僕も怖くて文章ベースの資料しか読めてないんです……」
 へなりとブラウの眉尻が下がる。実際に見るような距離にいたなら、ただのヒトであるブラウはあっという間に死んでしまうだろう。だから情報屋として集めた情報でしかわからない。
 ダガヌチは悪霊らしき存在であるが、霊ではなく実体がある。それはドラグチップへ憑りつき、その力を実体化させるために使っているのだろうとブラウは推測した。
 シレンツィオ周辺のあちこちに飛んでいったドラグチップだ。当然、悪神ダガヌの手元にいくらかあってもおかしくはない。故に悪神ダガヌを封印するための玉匣の力を取り戻すためのドラグチップは"ほぼすべての回収が完了した"――転じれば、完全には回収に至っていないということなのである。
「実体化したダガヌチはモンスターとしても強いですし、人や生物に憑りつくこともあるそうです。それに、フリーパレットを喰らって自分の力にしてしまうのだと」
 フリーパレットもまた、ドラグチップによって実体化した幽霊のようなものである。彼ら集合体の宿す思念や感情は、ダガヌチにとって十分な力となるらしい。
「そしてインス島には、数体のフリーパレットが確認されています。その近辺にダガヌチもいるそうです」
 格好の餌(フリーパレット)が近くにいる――その情報にイレギュラーズの間で緊張が走った。早くしなければフリーパレットはなすすべなくダガヌチに喰われ、その養分となるだろう。残した願いを叶えることなく、成仏もできず、ただ消滅するのだ。
「まずはダガヌチの討伐と、ドラグチップの回収を。できれば、フリーパレットも連れ帰って欲しいです」
 その場では願いを叶えられないかもしれないが、敵の本拠地であるインス島に置いておくわけにはいかない。ひとまずは安全な場所へという言葉に、イレギュラーズは頷いたのだった。

GMコメント

●成功条件
 ダガヌチの討伐

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。不明な点もあります。

●フィールド
 悪神ダガヌの領域の一角であるインス島。南の島でありながら、その雰囲気はいたましく、日差しもあまり入ってきません。
 足元は良くないでしょう。また、森は薄暗いです。ダガヌチを探すところからですが、薄暗さに紛れて見つけにくいでしょう。
 島までは船で向かいますが、上陸までは会敵および戦闘はありません。

●ダガヌチ×3
 ダガンから生み出された泥。深怪魔の身体を構成するものでもありますが、そこから生まれたのがダガヌチです。
 悪霊のような存在で、竜宮幣に憑りついて実体化します。実体化したダガヌチはそれなりの戦闘能力を持ち、人や生物に憑りついた場合はそれらもダガヌチの力を借りることができます。また、フリーパレットを喰らう事で、残された想いを消滅させ自身の力へ変えます。
 インス島にいるダガヌチは、既にフリーパレットを何体か喰らっている状態の様です。そのためか、此処で得られる情報は他の場所で聞くダガヌチと多少情報が異なる可能性があります。

 彼らは非常に気配を薄くすることが可能です。視認していれば見つけられますが、不意打ちは非常に得意です。何かしらの工夫が求められるでしょう。
 基本的に中~遠距離の神秘攻撃を得意とし、単体・範囲ともにこなします。また、飛びつき攻撃が存在します。特殊抵抗が高く、多彩なBSを使ってきます。【窒息系列】【不調系列】【呪い】などが考えられます。
 特に集団連携などはないようですが、弱っている個体や無防備な個体がいれば標的が重なる場合はあります。これによって集中攻撃を受ける可能性はあるでしょう。
 フリーパレットを喰らった場合、さらに戦闘能力の向上が想定されます。

●EXプレイング【ダガヌチの捕食】
 最初に申し上げますと、この内容は戦闘に関係しません。ロールプレイングの範疇としてお楽しみください。
 特殊な判定として、このダガヌチたちは攻撃に伴い【PCの何かしらの感情を喰らう場合があります】。フリーパレットの様に無防備ではないので、ほんの少しの欠片だけ。けれど確かに何かの感情を喰らわれ、その感情が全て、あるいは部分的に消失してしまう場合があります。
 上記に対してPCは攻撃以上のダメージを受けることはなく、またダガヌチも少ししか喰らえないため戦闘能力は向上しません。返せば、戦闘能力が向上しそうなほど大きな感情を喰らわせるプレイングは不採用となります。(感情全てを喰らわせてキャラクターの感情自体を喪失させるなど)
 また、感情が喪失されても記憶などは残ったままです。
 ご希望があればEXプレイングにて、消失したい感情の内容と、喰らわれた直後の行動・心情を記載いただければ幸いです。記載がない部分については当方へ一任されたと解釈いたします。

※ EXプレイングはプレイングの追加分としてお使いいただいても勿論問題ございません。

●フリーパレット×??
 ドラグチップを核とした思念の集合体。不思議な幽霊です。願い事を叶えることで成仏し、ドラグチップが解放されます。薄暗い森の中でも見つけやすいです。
 人格、記憶といったものはなく、泡が浮かんでは消えるように様々な口調の誰かが出てきます。戦闘能力は皆無で、ダガヌチに襲われたならひとたまりもありません。
 ダガヌチに喰われると、フリーパレットを形作っていた感情や思念、願いといったものは全て消滅し、復活することはありません。

●ご挨拶
 愁と申します。
 フリーパレットたちの危機です。また、このままダガヌチを放置すればさらに危険なエネミーと化すでしょう。
 どうぞよろしくお願い致します。

●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
 この海域では乙姫メーア・ディーネ―の力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
 https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru

  • <デジールの呼び声>消えたくない完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年10月09日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者
アクア・フィーリス(p3p006784)
妖怪奈落落とし
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)
生イカが好き
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
Meer=See=Februar(p3p007819)
おはようの祝福
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
ガイアドニス(p3p010327)
小さな命に大きな愛

リプレイ


「任せろよブラウ! オイラ達にゃあ朝飯前のイカ刺しってやつよ!」
 どんと胸を叩く――というよりはぺちんっと前脚を精一杯伸ばして前の方を叩く『生イカが好き』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)。気持ちの上ではどんと胸を叩いているのだ。気持ちの上では。
「ブラウはオイラ達が帰った後の宴会の準備でもしてまっててくれな!」
「い、イカ刺しが食べたいことはわかりました……!!」
 頷くブラウ(p3n000090)の視線を背に受けながら、イレギュラーズは海へ――悪神ダガヌの領域へ、船で出た。
「いい加減ダガヌチをぶっ飛ばすのも慣れてきましたね……」
 風を切って進む船に乗った『光輝のたいやき』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)は遠い目になる。そろそろ決着がつくのであれば、あの悍ましい怪物を倒すのも終わりになるだろうか。
 ベーク自身がぶっ飛ばし役となることは少ないが、相対した数はそれなりだ。フリーパレットのこともあるし、今回もこれまでに漏れず最善を尽くすのみである。
 ……が敵の領域に近づくにつれ、その表情は強張る。この海でここまで重苦しい空気に満たされている島はそうそう無い。『憎悪の澱』アクア・フィーリス(p3p006784)もふるりと体を震わせた。
「寒いですか?」
「ん……寒い、じゃなくて……何だかおちつかない」
 寒くはないけれど、寒気のような、似たようなもの。嫌な気配を肌で感じ取っている、とでも言うのか。アクアは船から島へ降りるとそっと視線を上げた。
 ずっと向こうには青い空が見えるのに、背の高い木々によって光は降りてこない。薄暗い空気はこちらの心まで曇らせてしまいそうだ。
「こんな場所に……フリーパレットが、いるの……?」
 フリーパレット――願いと想いの残滓。のこりかすの寄せ集め。残りたかったはずのものが、無残に食べられて、跡形もなく無くなってしまうなんて。それでは伝えたいものも伝えられないではないか。
「……わたし……嫌、なの。みんなの思い、願い……残してあげたい」
「ただ食され無に帰されてしまうのは、残念なところなのかと思います。……例えいつ、誰の願いだったかもわからなくなっていても」
 『紅矢の守護者』グリーフ・ロス(p3p008615)もアクアの隣に立ち、島の奥を見る。この先に『誰かの願い』がある。そして自分達はそれらを掬い上げることができるのだ――ただし、そう時間に猶予はないだろう。
「おっとと!」
「アリアさん大丈夫?」
 『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)は『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)に頷く。思っていた以上に足場が悪い。少しだけ簡易飛行しておいた方がよさそうだ。
「フリーパレット、噺には聞いているけど初めてなんだよね。どんな感じなんだろう?」
「どんな感じと言われると、スライムみたいな感じですかね……まあ、見た方が早いと思いますよ」
 ベークの言葉に頷いて、アリアはもう一方の班に軽く手を振る。ここからは二手に分かれての行動だ。グリーフがファミリアの鳥を相手の班へと預ける。これで離れていても状況の把握できるだろう。
「それでは、私は先に行きます」
 グリーフの足が力強く地面を蹴る。高い機動力で一気に森の中へ入っていったグリーフは、周辺に光るものがないかと見回した。
(襲われていなければ良いですが)
 先に見つけたとしても、仲間たちが到着するまでにはわずかでも時間がある。いざとなればアルティメットレア――秘宝種という存在を生かしてこちらに引きつける心算だが、可能ならば双方安全な状態のまま保護したいところだ。
「うおー! あっという間だな! オイラ達も続くぜ!」
 ワモンがグリーフの背中に続く。海豹の体には似つかわしくないほどの猛スピードは、グリーフに追いつくほどだ。
 走りながらもエネミーサーチと人助けセンサーを展開させるワモンは、ダガヌチあるいはフリーパレットが見つからないかと他の面々とは違う方角を探す。――ふとその鼻を、甘い香りが擽った。
「ん? なんだ、これ?」
「あ、それ僕ですね。お気になさらず」
 少し遅れて追いかけるベークの声が背中側から聞こえる。なるほど、この甘い匂いでベークへ引き付けるのか。美味しそうなそれを嗅いでいればお腹も空いてくるもので、ワモンは早くイカ刺しが食いてえなあ、と帰ってからの楽しみに想いを馳せる。
 一方のベークはと言えば、ふいに寒気を感じてふるりと身体を震わせる。敵の何かしらに見られているのか、それとも。しかしワモンに聞くと周辺に敵影は感知できないと言うし。
(ま、まあ敵を欺くにはまず味方からって言いますし……)
 なんか違う気がするけど、そういう事にしておこう。仲間が食べようとなんてするものか。
 ベークと共に後を追うアクアは、きょろきょろとワモンとは別の方向へ視線を向ける。こちらは地道に目で探していくしかない。
「フリーパレット……光ってる? のかな……」
「そうですね、恐らくは。これだけ薄暗いなら良く見えそうです」
 誰からも――イレギュラーズからも、ダガヌチからも。
 ベークの返答にアクアはなるほどと首肯して再び視線を巡らせる。そしてふと若草色の瞳を瞬かせて、それから首を傾げた。
「……あっち」
「ん? どうしたんだ?」
「あっち……行ってみても、いい?」
 徐に指さした方向にワモンが視線を向けるが、何もそれらしいものは見えない。けれど現状、手掛かりなしに直進している状態だ。何か思うところがあるのであれば、行ってみるのもやぶさかでない。グリーフも戻ってきて、その話を聞くと頷く。
「それじゃあ行こうぜ! ダガヌチをぶっとばして、ドラグチップを回収して、フリーパレットを連れ帰る。全部成し遂げてこその一人前の海洋軍人ってやつだよな!」

「もーっ、ダガヌチってなんなの? フリーパレットくん達を食べちゃうなんて!」
 ぷんすこと頬を膨らませる『出張店『隠れ宿polarstern』』Meer=See=Februar(p3p007819)にガイアドニスがうんうんと頷く。フリーパレットというのはなんとも小さい(か弱い)存在であるらしい。絶対に助けて、護ってやらなければ。
「ガイアドニスさんが近くにいると明るいね!」
「ふふふ、とっても目立っちゃうけれどおねーさんが狙われる分には超オッケーよね!」
 薄暗い森の中でコアを光らせるガイアドニスは、3m近い巨体も相まって格好の的だろう。しかしその分フリーパレットの安全が守られるというのならば、ガイアドニスとしては何ら問題ない。
 どこにいるかしら、と視線を巡らせていたガイアドニスは不意に目を瞬かせる。
「あら? あらら! アルヴァくん、あっちみたいよ!」
「了解」
 『航空猟兵』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)は軽く地を蹴り、目にも留まらぬスピードで光へ向けて接近する。"助けて"を叫ぶ光はいつしか、誰かの想いを吐き出していたようで、ひとりぼっちで薄暗い森の中を漂っていた。
「助けて」
「ああ、もう大丈夫だ」
「痛いのは嫌だよ」
「そんな思いはさせないさ」
 アルヴァに縋りつくように伸ばされる手――手と呼ばれるべきだろう、スライムの一部。Meerはその感情にぎゅっと胸が締め付けられる。
(……こういうものが、集まって。フリーパレットになっているんだね)
 綺麗な感情なんてきっと少ない。絶望の青で死した者がフリーパレットの一部になっているのなら、なおさら。寄せ集めというだけあって、そこから感じ取れるものはひとつばかりではない。けれど総じていえば『怖がっている』と言うべきなのだろう。
 ――じゃあ、ダガヌチは?
 あれは怪物であるが、意思や感情を持って動いているのだろうか。そうであるならば空腹などを感じるだろうし、例えばエサを見付けて喜ぶような、そんな感情も持っているのではないのだろうか。
「この辺りに他のフリーパレットはいないみたいだね。ダガヌチも見当たらないみたいだけれど……」
「なに、フリーパレットが此処に居るなら"集めちまえばいい"話だ。だろ?」
 にっと笑みを浮かべたアルヴァ。その表情にアリアはダガヌチがフリーパレットを狙っているという話を思い出す。確か、フリーパレットを喰らうと強くなるのだったか。
(地図があればいる場所をメモできるんだけど……敵の本拠地ともなると難しいよね)
 フリーパレットもダガヌチも、1箇所に群れで固まっているとは思えない。ならばアルヴァの言う通り、フリーパレットを十全に守った状態で囮とするしかないだろう。
「危なくなったら声を出すとか、できる?」
 アリアの言葉にフリーパレットはきょとんとした様子で――これは難しいかもしれない。そう思った矢先のこと。

「――来るぜ!」

 アルヴァが反射で飛び退った場所に泥のようなものがびしゃりと跳ねる。暗闇にゆらめく怪物へ、アルヴァはしっかりとフリーパレットを庇いながら後退していく。何かが零れ落ちた? まさか。何の変化だって感じなかったのだから。
 ――人は失う瞬間、それに気付きがたい。失って、暫くして、漸くそれを実感するまでは――。
「テメェらに慈悲も容赦もねぇ。食事にゃこの鉛玉をくれてやるよ!」
 発砲。それとともに仲間たちもまた動き出す。自己強化を行うアリア、前へ出るガイアドニス。光にダガヌチの躰が照らされる。
「もう大丈夫だよ! 安全なとこに行ったら、ちゃんとお願い叶えてあげるからね」
 こわいこわいと呟くフリーパレットに声をかけながら、Meerの英雄叙事詩が仲間たちを鼓舞していく。彼らを喰わせるわけにはいかない。怖がりな幽霊を、イレギュラーズの手で成仏させてあげるのだから!

「一撃で決めてやるぜ!アシカクラッシャーアタック!」
 アザラシの――決してアシカではない――強烈な一撃に竜宮の加護が乗る。しかしてそう簡単に倒れてはくれないか。ベークは素早くダガヌチの正面へ肉薄した。
「フリーパレットより美味しくなさそうかもしれませんが、お相手お願いしますよ」
 常日頃から美味しそうと言われ、時に言われなくともそういった視線で見られるベークにとって、自分より美味しそうに見える対象がいるというのは些か新鮮なものではある。だが残念な事に、そちらへ行ってもらっては困るのだ。
 こちらも見ての通り、ダガヌチとの会敵を果たしていた。アクアの示した方へと進み、あわや捕食されそうになっていたフリーパレット"たち"の間へ滑り込んだのだ。
「行かせません」
 フリーパレットたちの前に出たグリーフが呪鎖を縦横無尽に操る。共に攻撃を仕掛けるのはアクアの放った影の手だ。
「気持ち悪い……いや、こないで……殺さなきゃ、殺さなきゃ……!」
 カチカチと歯が鳴る。おぞましい。おぞましい。ちかづきたくもない。
 どうにもダガヌチは異常耐性が強いようだが、集中攻撃を喰らえばその限りでもないだろう。しかし薄暗闇の中で放たれる深淵のような泥の攻撃にイレギュラーズも傷ついていく。
(しぶといですね)
 グリーフの放ったマナが仲間たちの活力を興すが、それも無限ではない。あとはどれだけ早く倒せるか――。

「――こわい」

「!?」
 ベークが振り返るより早く、ダガヌチが目の前から失せる。ベークの邪魔が入らぬ距離から回り込んだ怪物は、彷徨い出た願いの欠片へ目にも留まらぬ速さで飛びついて――ぐちゃ、と。小さい音が、誰もの耳で拾い上げられた。
「なっ…にしてんだてめぇ! 吐け! 今すぐその心を吐け!」
 アクアが右手を握りしめ、渾身の力を叩きつける。跳ね飛ばされたダガヌチだが、元居た場所には何もない。願いの残滓も、なにも、なにもかも、無い。
 それに気を取られたアクアは逆に跳ね飛ばされる。怪物の顎がアクアへ噛みついて、心の欠片ももっていく。
(――あ、れ?)
 目を瞬かせる。後ろで誰かが呼んでいる。でも、あれ、おかしいな。どうしてわたしはこんなに怒っているのだったっけ?
「まさかこの場にフリーパレットがやってくるとは……」
 目の前に少年の姿。怪物と戦っている。
「しっかりしてください」
 温かな力がそそがれる。けれど千切られた心の先は、何処へ向いていたのだっけ。
(えーっと……あ、そうだ。こんな世界が……許せない、から?)
 そうだっけ。本当にどうしようもないくらい許せないんだっけ。ほんのちょっぴり揺らいで、けれど――アクアは自らの立つ場所を思い出す。アクアが立っているのは憎悪の感情の上。これがなくなってしまったら座り込んでしまって、何も出来なくなってしまうから。
「もう……大丈夫」
 顔を上げたアクアに、グリーフがちらりと視線を寄越す。戸惑った様子は、きっとダガヌチが何かをしたに違いない。けれどもそれがフリーパレットのような感情だとか願いだとか、そういったものに作用するのであれば。グリーフは何か欠け落ちるものがあるのだろうか?
(与えられたのは感情という名のプログラムだった、私に)
 そんなものが、存在するのか。他者と比較したがるこの"ナニカ"は何なのか。
「そろそろ倒れてくれませんかね……これ使っちゃいますか」
 倒れる訳にはいかないと、ベークが竜宮の加護を纏う。時間さえあれば元通りになるのだから、今を凌げればそれでよい。その分守りに関しては頑張るのだと、ダガヌチの攻撃を躱し、受け止め、耐え忍ぶ。
「ト ド メ だー!!!!!」
 飛び込むワモン。最後の一押しはオーバーキルとも言えるような突進技。ダガヌチは勢いのまま地面に叩きつけられ、ぐずりとその輪郭を溶かした。
 周辺に新たなダガヌチがいないこと――連戦にならないことを確認してイレギュラーズたちはフリーパレットたちへ振り向く。彼らをここにおいては置けないし、もう一方も戦っているようだ。合流した方が良いだろう。
「とりあえずオイラ達についてきてくれるかー?」
「守ります。ここにいるよりは安全でしょう」
 ワモンとグリーフの言葉にフリーパレットは顔を見て、それから小さく頷いた。

「――そこっ、いるのだわ!」
 ガイアドニスの優れた五感により、暗闇に潜んでいたダガヌチを看破する。丁度会敵していたダガヌチを倒したばかりで気が緩むタイミング、しかしてそんなフラグは叩き折られた!
「お前らにこれはやらねぇよ!」
 アルヴァが素早くダガヌチからフリーパレットを庇いたて、自身を強烈に回復する。連戦ともなると息をつく暇がないが、フリーパレットたちの存在が危ぶまれているのだ。この島で気を抜くこと自体しない方が良いだろう。
 応戦する中、別れていた4名と保護されたフリーパレットたちが合流する。保護対象が増えるのは仕方がないが、味方が増えるのは心強い。
(同じような姿がたくさんいる……)
 わらわらといるフリーパレットに一瞬気を取られたアリアは、不意に迫ったダガヌチへの反応が一瞬遅れる。とはいえ、大した傷にもならないが。
「……?」
 何か変わったような。いいや、何も変わっていない。気のせいだろう。これらの未知に興味がない、なんてわけがないのに――一瞬、そう、一瞬だけ。気の迷いにも近いものだ。
 ナイメアユアセルフを発動したアリアはダガヌチへと仕掛けていく。仲間たちに合わせてMeerもベリアルインパクトでダガヌチを攻撃した。
「誰かから奪って何かを得ようとするから、そんなにドロドロしてるんじゃないっ?」
 その言葉が気に障ったか。ぎゅるんとダガヌチの目のようなものがMeerを向いて、ひえっと顔を引きつらせる。飛び込んでくる黒。けれど――おや、特に何もない。記憶だってちゃんとある、感情だってちゃんとある。大切な人を大切な人だと感じる心も、ある。
「なんかよくわからないけど……っ、これでお終いだよ!」

 ――まだ、気付かない。
 ――失った瞬間は、気付かないものなのだ。
 ――気付くのは、もう少し先の、何時の日か。



 合流し、安全を確保したイレギュラーズたちは、どことなく誰もが違和感を感じていた。はっきりしないからこそ気持ちが悪い。何かが変わったようには見えない、というのに。
「なんとか無事に終わったかなあ」
 お疲れ様、とアリアが帰りを促す。アクアが行こう、とついてきたフリーパレットを船へ誘導した。
「どこへいくの」
「こわいよ」
「願いを……叶えに? それに……ここは、怖いことが、たくさんあるから……」
「願いを叶えるなら、まずはこの島を出ないとな」
 アルヴァも共に乗船の手伝いをして、船は安全第一に、しかし迅速に島を離れていく。
(コイツらの願いを兼ねれば、ドラグチップが手に入るんだよな)
 ほとんど問題ないとはいえ、集まっていれば集まっているほど良い筈だ。アルヴァはこのあとの願い事を叶える算段を付けながら遠ざかる島を見つめる。
「ねえ……少しだけ。お話を……聞いてみたい、な」
 彼らに記憶はないと言うけれど。アクアは望みを聞いてみたいのだとフリーパレットに語りかける。いいな、とワモンも隣に座った。
「帰ったらイカ刺しパーティして、フリーパレットたちが成仏できるように心残りをどうにかしていかないとな!」
 全てをすくえたわけではないけれど、全く救えなかったわけではないから。ワモンはからりと笑って、シレンツィオリゾートへの到着を今かと待っているのだった。

成否

成功

MVP

Meer=See=Februar(p3p007819)
おはようの祝福

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 失ったものは、ありませんか?

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