PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<竜想エリタージュ>おちつくところはありますか?

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「あーいや、三次元はちょっと、その……」
 近付く濡れた唇と声音、包み込むほどの甘い香り、しどけない胸元から離脱して身震いする。普久原・ほむら(p3n000159)は頬を引きつらせたまま、路地裏に逃げ込んだ。
 目に刺さるネオンサインも、桃色がかった照明も。この常夜の国――竜宮はどうにも肌に合わない。
 夜はいい。夜というだけなら問題ない。むしろほむらにとっては夜のほうが好ましいぐらいだ。
 しかしカジノでゲームを楽しみながらサンドイッチで腹を満たし、遊んだ後はこの国の人々から歓待を受けながら酒を飲むというのは、多くの人にとって面白いだろうが、ほむらにとってはまるで違う。
「知らない人と喋りながらお酒飲まなきゃいけないとか、罰ゲームでしょ……」

 知識として、竜宮の人々の行動は素朴な善意に基づいていることを知っている。
 人々が古式ゆかしい伝統的価値観に基づき、歓楽街を維持発展させ、外貨を得る。そして無慈悲に襲い来る深海魔なる怪物達と懸命に戦っている。だから助ける。客観で計るならただそれだけの事であり、これはローレットへの依頼でもあり、つまりは互いにとって大切な仕事だった。単にほむらの価値観、もっと言えば気質や性根のようなものが、この街とは合わないというだけだ。この街の人々が悪い訳ではない事は分かっている。分かっているつもりではある。しかし肌もあらわで距離感が近すぎるというのは、なんというかかなり。
「ああああ絶対ダメだ、やっぱ絶対無理だ無理無理、教育に悪すぎる! っと!?」
「あ、あー、どうも」
「おっと、アンタ確か」
 おなじく逃げるように、というより『逃がすように』現れたのは新道 風牙(p3p005012)で、連れられているのはカムイグラの双子巫女つづり(p3n000177)とそそぎ(p3n000178)だった。

「なんていうか、その、災難でしたね」
「いやあまあ、悪意がないのは分かるっつうか。いや言い方よくねえな、素朴な良い人達ってのは分かるんだよ。しかしいや、さすがになあ」
「ですよね、めちゃくちゃ分かります」
 軽く挨拶を交した四人は、とにかく逃げ込む場所を探していた。
 たどり着いた『ケルネ通り』は、目映い中央通りとは打って変わって、落ち着いた雰囲気だ。
「なんでもいいけど、歩き疲れちゃった。何か座れるところはないの?」
「おなか、すこしすいたかも、そそぎも」
「ちょっとつづり」
 つづりに脇腹を突かれたそそぎが抗議した。
 挙動不審な風牙やほむらと違って、巫女二人は肝が据わっているというか何というか。思っていたよりも『人慣れ』している。神社で沢山の人と接するからだろう。成長したと思うと感慨深い。
「ダイニングバー、入ったことねえが」
「まあ……私的な価値観では皆さんを誘うのは駄目そうですが、背に腹はってとこは感じます」
「だよなあ、腹は減るんだ」
 スマホも使えないのだから、検索すら出来ない。
 とはいえ看板にダイニングと書いてあるなら、少なくとも食事は出来るはずな訳で。何より期待しているのは、地味な店なら、過剰な接待をされる可能性が低いのではないかといった所だった。


「いらっしゃいませ」
 出迎えたのはやはりバニー姿の女性だったが、いきなり腕を取られるようなことはなくてホっとする。
 感覚が麻痺してきている気がしないでもないが、そもそもこちらだって水着姿なのだから今更か。
「一人成人、三人未成年なんですが、食事だけとかって行けますか?」
「大丈夫ですよ」
 おずおずと尋ねたほむらが安堵の吐息を漏らす。良かった。
 落ち着いたチルミュージックが流れる店内のソファに腰を下ろすと、四人はメニューを眺めた。
 普通だ。普通であることが何より嬉しい。
「良し、つづりとそそぎは何にする?」
「……そそぎ、ミートソーススパゲティーはどれ?」
「そのボロネーゼだけど。あ、私はビステッカのセット」
「おー食え食え、じゃあオレは……」

 ――そもそもどうしてこうなったのか。
 海洋王国大号令が成功し、海洋王国と新天地カムイグラ、それから鉄帝国の大貿易時代はかつての決戦の舞台フェデリアを、やがて一大貿易都市に変貌させるに至った。やがて富は更なる富を産みだし、富裕層向けのリゾート『シレンツィオ』となる。海洋王国は国家の威信をかけたクルーズツアーを企画するが――そこに現れたのが深海魔と呼ばれる魔物だった。そんな時にここ竜宮から来たという少女が、深海魔から助けを求めに来たのである。渡りに船というか、あるいは乗りかかった船というか、ともあれ海洋王国と共に深海魔の討伐と調査を行っていたイレギュラーズにとって、ともかくそんな案配なのだった。

「お待たせしました。こちらですべてお揃いでしょうか?」
「はい」
「それではごゆっくり……皆様、だいぶお疲れのようですから」
 風牙とほむらは、そう尋ねた店主へ振り返る。
「あー……まあ、ぶっちゃけ、そうです……その点こういうお店は助かります」
「そう言った方も多くいらっしゃって。ですので当店では隣に座るなどはしていないのです。逆にサービス悪いとか怒られちゃうこともあるんですけどね。でもこういう需用は絶対あるんで、やってけてるんです」
 なるほど。
「そう言った、こう。静かな系統のお店というか、そういうのって結構あるんですか?」
「数は多くないのですが、よろしければお教えしましょうか?」
「是非!」
 深怪魔や虚滅種と戦うためにも、肌に合った拠点を見つけるのは重要だ。
 そもそもここで風牙がつづりやそそぎの護衛をしているのは、どうにか呪術障壁の強化や、敵の封印が出来ないかといったカムイグラ側からのアプローチへ答える為である。だからこの街の風紀から双子を守るというのは、まあ風牙個人にとっての信条ということになる。
「そしたらじゃあ、来る戦いに備えて防衛線の下見と、『だいじょぶなとこ』の探索って感じですかね」
「だな」
「なるほど」
 まあ、そうなるならば、教わった情報を元に足を使わねばなるまい。
「それならランチタイムが終わった後でしたら、お供出来ますよ」
 話し合っていたら、急に店主さんがそんなことを言いだした。
「いやいや、さすがにそういう訳には」
「既に誰かがついていれば、声をかけられることもないでしょうし」
 ははあ、なるほど。たしかにそう言われれば。
 しかしそんなことをしてもらって良いのだろうか。
「お客様をおもてなしするのは、竜宮の民であれば当然のことですから。あ、名前はマルタって言います。マルタ・ピニャータ」
 キスマーク一つない、白を基調とした普通の名刺なのが嬉しい。
 やはり素朴な良い人達であるのだけは、間違いなさそうだ。

GMコメント

 pipiです。
 竜宮の探索です。
 やがて来たるべき戦いへ備えるために、今はお散歩。

●目的
 街の地形などを把握する。
 双子巫女の護衛をする。
 あまり干渉されない系統の店や宿などを見つける。

 とは書きましたが、実際にはマルタ嬢と一緒に街をうろうろするだけです。
 双子巫女は勝手に霊的地脈やら云々を発見します。

●ロケーション
 ケルネ通り周辺です。
 あたりには飲食店が建ち並んでいます。
 お高い所から、お手頃な所まで。

 とりあえず飲食店を何軒かと、お宿でも探しておきましょう。
 以下、マルタさんが知ってる場所です。
 お店は『過剰接客されない』ものが選ばれています。

・昇竜神社
 小さな神社です。ここに用事があるのはつづりとそそぎです。

・喫茶たまてばこ
 珈琲、紅茶にクリームソーダ。サンドイッチやナポリタン、クリームあんみつやアイスクリームなどを提供する、古式ゆかしい喫茶店です。休憩にもってこい。

・居酒屋やきとりドラゴン
 やきとりがメインのはずですが、とにかくメニューが豊富なお店です。
 焼き鳥の他には、お刺身から焼き魚などのお魚料理。唐揚げやポテト、コロッケなどの揚げ物。お漬物や枝豆、板わさにオニオンスライス、エシャロット、冷や奴などのすぐ出てくるもの。焼肉定食からカレーライスなんかのご飯モノまで、やたらめったら大量にメニューがあります。

・竜宮家
 豚骨醤油をベースとした濃厚なスープに、鶏油を浮かべ、チャーシュー、ネギ、ほうれん草、ノリ、味付け卵などをトッピングしたラーメンです。麺の硬さ、塩分の濃さ、油の量が選べます。

・ホテルタツノオトシゴ
 落ち着いた調度の普通のホテルです。シングルとツインとダブルが選べます。
 割とビジホっぽいけど、こういうのでいいんだって感じです。

●ドレスコード
 水着かバニーです……。
 この服装がいちばん目立たないからです。

●時間割
・昼過ぎ
 とりあえず神社に行って、つづりとそそぎに仕事をさせてあげましょう。
 あとはあちこちでお店を見つけたり、晩ご飯に何を食べるとか、どこに泊まるとか決めましょう。

・夜
 どこかでご飯を食べましょう。
 みんな一緒でもバラバラでもOKです。

・夜遅く
 お宿に泊まりましょう。
 パジャマパーティーするもよし、宿の温泉などで疲れを癒やすもよしです。
 つづりとそそぎの面倒は、風牙さんあたりがみてあげてください。

●同行NPC
・普久原・ほむら(p3n000159)
 希望ヶ浜の住人で、今は皆さんと同じローレットのイレギュラーズ。ちょろいタイプ。
 根っからの陰の者で、面識のないバニーさん達に囲まれるとかそういうのは無理です。圧倒的二次元百合派。

・つづり(p3n000177)とそそぎ(p3n000178)
 カムイグラの双子巫女です。
 竜宮で深海魔などと交戦する際に、防衛力を強化するための調査に来ています。
 夜の飲み屋街みたいなものに(主に食べ物に)、好奇心があります。

・マルタ・ピニャータ
 このシナリオのTOPイラストの一番左のバニーさん。
 バニー姿の竜宮嬢で、小さなダイニングバー『ピエタ』を切り盛りする店主です。
 落ち着いたタイプで、あえて身体的接触などをしないのが信条です。特に思想的なものではなく『そういうサービス需用もある』と判断してのことらしく、性格自体は竜宮の一般的な人(素朴だが非常に親切でおもてなし精神が高い)の例に漏れません。要するに、すっげえ良い人です。
 そういった系統の店などを案内してくれるそうです。

●名声に関する備考
<深海メーディウム>では成功時に獲得できる名声が『海洋』と『豊穣』の二つに分割されて取得されます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
 なにぶん、初めての土地だからです。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
 https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru

  • <竜想エリタージュ>おちつくところはありますか?完了
  • GM名pipi
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年09月10日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
水瀬 冬佳(p3p006383)
水天の巫女
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
ビスコッティ=CON=MOS(p3p010556)
メカモスカ
メイ・カヴァッツァ(p3p010703)
ひだまりのまもりびと

サポートNPC一覧(3人)

普久原・ほむら(p3n000159)
つづり(p3n000177)
此岸ノ辺の双子巫女
そそぎ(p3n000178)
此岸ノ辺の双子巫女

リプレイ


 巨大な泡に包まれて海中を浮遊する。
 そんな夢は滅多に見ないが、物語ならばたまに聞く。
 ここ竜宮のように『都市まるごと』なんてことだってあるだろう。

 ネオンサインが、路地を歩く『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)の頬を艶やかに染めている。
 竜宮風の衣装(バニー)に裾の短いジャケットを羽織り、スニーカーを履いた足元には数匹の猫が居た。
「はじめまして、メイですっ! ねこさんたちは……気づいたらそばにいるの。よろしくです!」
「あ、あー、どうも普久原です。よろしくお願いします」
 普久原・ほむら(p3n000159)(←猫好き)が、メイの足元をガン見しながら腰を折る。
 自己紹介も慣れてきただろうかと、メイは胸中でほっとする。
「ヨゾラだよー、よろしくね! ねこーー!!」
 同じく分かりやすい猫好き『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)も一礼の後、楽しげに両手を上げた。
「あっ、風牙ちゃん! つづりちゃんとそそぎちゃんにほむらちゃんまで!」
「おっ。よっす、だな」
 駆け寄ってきた『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)に『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)が挨拶を交し。焔はつづり(p3n000177)とそそぎ(p3n000178)、ほむらに向き直った。
「こんにちは、焔」
「久しぶりね」
「あ、あーどうも、てか普通にその服装なんですね」
「そうそう、このバニーさんの衣装もお礼にってもらったやつなんだ!」
「割とすごいっていうか」
「えっ? ボクだって落ち着いてゆっくりしてることも……あったはずだよ、たぶん」
 焔が両手をひろげてくるくると舞う。
「それからバニーさんは初めまして! ボクは炎堂焔だよ、よろしくね!」
「マルタ・ピニャータと申します。よろしくお願いしますね」
「ところで、皆で集まって何してるの?」

 この日、イレギュラーズは珍しい仕事を請け負っている。
(練達の享楽的な街と比べると案外グッドマナー、と思ったんですけど)
 合流した『風と共に』ゼファー(p3p007625)が腰に手を当てる。
 冷静に考えてみれば、この格好(赤いチャイナドレス風のバニー)で街を歩くというのは『果たして』と思って仕舞わなくもなが。ともあれイレギュラーズ全員が水着なりバニーなりと、この街らしい装いだった。
 郷に入ってはなんとやらとも言うが、『最も目立たない装い』ではある。
「落ち着く場所、未成年も行ける所なんかはは重要だよね」
 ヨゾラが述べる通り、イレギュラーズにはいくつかの役割があった。
 まずは拠点探しとして、万人受け(?)する安全(?)なお店や何かを探すのがミッションだ。
 メイもまたお仕事を頑張ろうと、胸の前で軽く拳を握る。
 あとは双子巫女の護衛。深怪魔やら狂王種やらの魔物に狙われたここ竜宮を防衛するにあたって、実地調査するというのが本題だった。海洋としてはシレンツィオを脅かす魔物をどうにかしたい。竜宮としては迫る脅威に対処したい。豊穣にとっても明日は我が身という話だ。いずれも利害は一致している。
「それならボクも一緒に行っていい?」
 もちろんだと、一同が歓迎する。
 まずは仕事をこなして、あとはのんびりと散策でもしようか。

「それではご案内しますね」
 案内を買って出たこの街の住人、マルタが朗らかに微笑み、礼を述べた風牙がふと思う。
(やはり先入観だけで判断するのはよくなかった)
 どうもマルタ達竜宮嬢というのは、やたらと薄着で物理的距離感が近く、蠱惑的な肢体や酒などを駆使して歓待したがる所がある。一般的には些か以上に不健全とも思えるが、この深海においては伝統的な流儀であるらしく、良く観察すれば感覚的には素朴だ。更には歓待役である竜宮嬢は尊敬されている。
 マルタは突然抱きつくなどの行動をしないが、そういった接待を過剰だと感じる客人へのもてなし方にニーズがあったと考えているとのことだった。求められていると感じれば、することに抵抗はないらしい。
「通じるかわかんないんですけど、バブルって感じですよね。祖父母世代のギラギラ感っていうか」
 ほむらの言葉に旅人(ウォーカー)である風牙と『水天の巫女』水瀬 冬佳(p3p006383)が振り返る。
「いや良い言い方じゃないかもですが、おじさんが好きそうっていうか」
 そして「いや私も魂はおっさんで、けどオタクなんでこういうのは得意じゃないって言うか」などと訳の分からないことを続ける。先程ゼファーがマナーについて述べた通り、この街は享楽的な街――歓楽街に近い。特に『練達』、それも実践の塔内の『再現性東京』辺りの。
 深海故に常夜、ネオンサインの瞬く街は、再現性東京地区を束ねる希望ヶ浜辺りからすれば、古風(レトロ)であり、今風とは言いがたい。希望ヶ浜が掲げる年号が202Xとすれば、ここは198Xといった気配があり、つまりトレンドは三十年から四十年程さかのぼる訳だ。
 ほむらに言わせれば平成(出身世界の現状に合わせるならば令和)ではなく昭和。
 ここ竜宮は地理として豊穣に属するが、豊穣はもっと中世に近い文化だ。先程の希望ヶ浜と照らし合わせるならば、数十年ではなく、数百年から千年は違っている。昭和どころか平安である。
 竜宮とて建造物は朱塗りの古風なものであり、練達のようにテクノロジー自体が高度に発展している訳ではない。国単位なら豊穣文化の内にあり、練達のテクノロジーとは大きな隔たりがあるにも関わらず、こういった文化をわざわざ深海で魔術を駆使してまで再現しているというのは違和感も抱かせる。
 道を歩きながら、冬佳はふとそんな事を考えていた。衣類につけ、深海に居住空間を設けて住まう都合上、都市における装いは環境に影響を受けることそのもの妥当だ。
 つまり海に出ても大丈夫である要に、肌を晒したものになるのは頷ける所ではある。古今東西の人魚伝説などと照らし合わせても然り。そもそも彼女が住んでいた世界には『浦島太郎』なる類似した伝説すら存在している。幼児でも知っている話だ。亀の救助を発端とした歓待、鯛や鮃の享楽的な舞踊――長くを過ごした後に地上に戻った男が、化粧箱の鏡を見て、年老いた己を自覚するというような話だ。多くはもうすこし教条的かつ幻想的な童話風だったか。どこにでもあるようは話ではあるのだが――冬佳は首を捻る。
(……しかし……これは、果たして偶然なのか)
 あまりに『冬佳の出身世界の過去』に似すぎてはいやしないか。
 ここに具体的な『文化』を持ち込んだ存在、例えば旅人(ウォーカー)が居たのではないか。
 二十世紀末から数百年前の混沌に召喚され、豊穣へ神隠しされた者が。
 ともあれ――店先の看板一件一件に視線を走らせながら風牙が述べた。
「仕事もするし、竜宮城の知られざる名スポットも発掘するぞ!」


「そそぎ君達と会うのも久しぶりだな」
「そういえば、本当ね」
 ふと述べた『戦飢餓』恋屍・愛無(p3p007296)に、そそぎは、「月日が流れるのは早いものね」などと、まるで大人みたいな事を言う。
「それにしても縁は異なものといったものだが。豊穣で会うならともかく海のそこで会う事になるとは思わなかったな。ふふ。何にせよ二人とも元気そうで何よりだ」
「愛無も」
 つづりもそそぎも、少し前までは海すら見たことがなかったが――
「いえーい、我モスカ。つづりにそそぎ、母上から話は聞いておるぞ」
 表情一つ変えずにずいっと顔を出したのは『メカモスカ』ビスコッティ=CON=MOS(p3p010556)だ。
「何、誰」
「クレマァダの絡繰り人形?」
「って、えぇ! クレマァダちゃんのお子さん!?」
 驚いた焔が両手をあげた。
「そうじゃ、お子さんじゃ。でえーえぬえー鑑定してもよいぞ」
「でーえぬ? よく分からないけど、そっか、クレマァダちゃんこんなにおっきな子がいたんだ」
 本当に何者なのだろう。実際のところ血も繋がってなければ認知もされていなければ、モスカの血筋でもない子供、それも性別不明なのだが。
「どうじゃ、外堀から埋める作戦じゃ、すごいじゃろう」

 そんなこんなで、まずは双子巫女に仕事をさせてやろう。
 竜宮防衛にあたって、結界などを展開するために地脈やら霊脈やらを調査するのが彼女等の仕事だ。
 背の高い建物の合間を縫うように路地裏を抜けると、そこには小さな鳥居が見えた。
 この神殿は昇竜神社という名らしい。
 豊穣様式であり、似た世界から来た風牙や冬佳にほむら、もちろん焔にも馴染みがある。
「ピカピカした建物ばっかりの中に神社があるのって、何だか不思議な感じがするよね」
 そう言った焔も神社という存在には並々ならぬ関わりがあり、なんというか、平たく言えば実家のような安心感を覚えていた。
「お詣りのお作法ってあったりするよね?」
「その鳥居、えっと赤い門があるでしょ。手前でこうやって一礼して……」
「ほぇ」
 そそぎがメイに手ほどきし、一行がそれに習う。
「深海で手に真水をかけるってのも、なかなかよね」
 ひしゃくを持ったゼファーが嘆息した。
 それから拝礼。こうした神域というのは、立ち入ると急に独特な静けさを感じる。
 享楽的な街の中にありながら、お詣りの作法も相まって、ずいぶん厳かだ。
 いずれにせよ――冬佳は思う。
 こんな深海のあって、馴染みのある文化をいくつも見つけるというのは奇妙な安心を感じると。
 極めつけがこの神社だろう。
 まさか神域に『こんな格好』で訪れるとは、夢にも思っていなかったけれど。

「さて――仕事をするのじゃろう。我も手伝おうぞ」
 ビスコッティが問う。まあ、思いつくことは荷物を持ってやることぐらいではあったが。
「不安はないか、我はない。何も知らんからの」
「そうそうつづりちゃんそそぎちゃん、ボク達でもお手伝い出来そうなことってある?」
「うん、お手伝いすることあるならやるよー!」
「それなら、こっち」
「俺も手伝おう」
 焔とメイの提案に、風牙も名乗りをあげ、つづりが社の奥へ招く。
「僕にも手伝えることはある?」
「じゃあ神社の周りが見たいから」
 ヨゾラの提案に、そそぎが答える。当然のように愛無も続いた。
「こっちは地理を把握しようか」
「あーそうですね」
 ヨゾラ達は地図に、気になる点などを書き込んでいる。

(もう立派な巫女だなあ、二人とも……頼もしいぜ)
 風牙が腕を組んだ。なんだか感傷的な気分になる。
 それからカメラを起動して記念に一枚――『異国の地にて。多くの人々を護る仕事に従事する二人』。
「ヨシ!」
「あ、ねえ、もっとこっちの確度でとってくれない?」
「そ、そうか?」
「ビスコッティが見切れてる」
「我が? 本当じゃ」
「あーええと」
 そんな様子を注意深く観察していた冬佳だったが、ふと目にとまったのは神社の由来だった。
 一人の神人(ウォーカー)らしき存在の伝承である。
 冬佳は竜宮に『文化を持ち込んだ存在が居る』と仮定していたが、それを裏付けるような内容だ。物語として紐解けば、前述の『浦島太郎』にも似ているから、なおさら頷ける所がある。


 ともあれ双子巫女はいくらかの儀式を終え、あとはフリータイムだ。
 硬く言えば食事処と宿泊施設を探す訳でがあるが、格式張ったものではない。
「茶屋があるといいな」
 風牙の言葉に双子巫女が瞳を輝かせる。
「買い出し出来るところも見つかるといいな」
 ヨゾラの言葉に一行が頷いた。
「この観光案内ってマップに書き込もうか」
 風牙がそれぞれに、さきほど見つけたパンフレットらしき紙を配る。
「マップにどんどん書き込んだら、オリジナルの観光マップみたいになるかな?」
「あーいいですね、それやりましょう」
 焔にほむらが頷いた。折角だから可愛くしてやろうじゃないか。
「外敵が現れた原因も気になりますが」
 冬佳もまた散策しながら霊的な要素に手がかりがないかと探している。
 あとはそもそも、敵の目的は何なのか。
「温泉があるのねえ」
 ゼファーがぽつりとこぼした。
 宿泊施設には温泉があるらしく、あちらこちらに案内があった。つまりは海底火山の存在を想起させる。
 現状掴めている情報だけで疑い始めれば切りがないとはいえ、竜、火山、霊脈、神域、深海の怪物達――どこかしら結べそうな点が散らばっているのも、心の奥底にひっかかりつつある。
「ここが喫茶店ですね、あとそっちに豚骨ラーメンのお店があります」
 マルタの案内で、泊まる所はそっちとして、夕食時に集まろうか。
 双子は迷子にならないように見張っていればよいだろう。
 一行は宿にチェックインを予約して荷物を預け、ひとまず数組に分かれて探索することにした。

「お腹空いちゃいました」
「メイ、ラーメン食べたことなかったからチャレンジしてみたくって!」
 ちょうど昼過ぎだ。
「あーじゃあ、行きましょうか」
 メイとほむらはひとまず竜宮家なるラーメン屋の暖簾をくぐった。
「この食券ていうの買って、あ、このキャベチャーってのたぶん美味しいです、私この店は来たことないんでエアプですけど。もし知ってる所と同じ系統なら」
 なるほど、とにかく食券を提示する。
「お好みはございますか?」
「えっと、えっと!」
「あれが選べて。あ、私は薄味とあと普通で」
 はじめに出されたキャベチャーを食べつつ、ラーメンを待つ。
 運ばれてきた丼を泳ぐ麺は太いストレート。
 ニンニクは――ほむらは三度見してから未練を振り切った。入れたら人前に出られなくなる。
 ほむらに習って、メイがレンゲでスープを口に運ぶと、濃厚な旨味が広がった。
 丁寧に炊いた臭みのない豚骨の滋味をベースに、香味野菜と鶏油、香辛料が押し寄せる。
 麺はもちもちとしてかみ応えがあり、ともすれば油の強いスープをネギの爽やかさが解いてくれる。
 味を付けていない茹でただけのほうれん草が、良いアクセントなっており、食べ飽きない。胡麻を少しいれてみると、また味わいが変わる。海苔を巻いて食べると、香りに変化が生まれ、歯ごたえも面白い。厚切りの煮豚は、箸でつまむだけで切れそうなほど柔らかくてたまらない。味付け卵は固まりかけた橙色の黄身がとろりとしており――スープとの相性は正に渾然一体だ。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした!」

 風牙と愛無、冬佳、ヨゾラ等もまた、マルタの案内に従いあちこちの商店などを覗いていた。
「この壁は頑丈そうに見えるが、そそぎ君はそっちが気になるのか」
「ここに結界を展開するのがよさそうだけど、あっちは入らないから」
「なるほど」
「じゃあその辺の人は、こっちに逃がすのがいいな」
「とすると、敵を誘導するならこちら」
「しっかりチェックしていこう!」
 戦闘になった際の避難経路や、防衛拠点になりそうな建物なども入念に。そもそも戦場になどならないにこしたことはないが、いずれにせよ下見は重要だ。
 恐らくだが――愛無は思う。かつて神として信仰されていたような何かが敵と思える。
 信仰というものは根深いものであり、過去あったなんらかの警告を含んでいる事が多い。
 それにこうして散策しながらいくらか交流した限り、住人達は噂通りに素朴な人柄だが、良好な関係の構築と、信頼出来る者の選別は大切である。余計なことまで言っていたずらに警戒を煽るつもりは毛頭ないが、いざというときに『危機対処能力』のある者を見つけておきたい。たとえばマルタは気立てこそ良いが、あまり危機的状況に即断即決して行動出来る人物とは思えない。けれど、こちらの魚屋の大将は気っ風や体格が良く、多少の力仕事も任せることが出来そうだ。
 それからお泊まりに際して、お菓子などを購入しておき――
「それはそれとして。そそぎ君。疲れてないかね? おぶろうか?」
 なんとなく足を棒にしている雰囲気のそそぎに、愛無が問う。
「そ、そういうのはいいから!」
「なら肩車が良いのかな? どら高い高いしてあげよう」
「ちょ、ちょっと!」
「久しぶりに会ったのだ、甘やかさせてくれたまえ」
「もー!」
「そそぎ、へんな顔してる」
「つづり!」
 つづりが指を指してくすくす笑う。
 思えば十三か。なんだか大人になってきたものだ。
 少しずつ、かのR.O.Oで出会った大人びた二人に、近付いているような気もしてくる。
「そうだな、さっき紹介してもらった喫茶店にでも入ろうか」
 風牙の提案で、ひとまず休憩とする。


 喫茶店のドアを引くと、小さなベルがころころと鳴った。
「いらっしゃいませ、お好きなお席へどうぞ」
 店内は空いており、ひとまず一番大きな八人掛けの大テーブルのソファー席へ陣取る。
 この席なら、あとで多少合流があってもなんとかなるだろう。
「風牙よ。こやつら(つづりそそぎ)は何が好きなんじゃ」
 思い切り指をさされた二人が、挙動不審な動きをしている。
「……あ、好きなものは僕も気になる!」
「ええと」
 年頃の二人のことだ。言って良いものかとちらりと様子を伺うが。
「……お肉」
「お肉」
 育ち盛りであった。
「おう安心せよ、それ(食べに行きたい場所)のおおよその見当はつくのじゃ」
 そう、その名はさきほど紹介された『居酒屋やきとりドラゴン』。
「普久原さん……」
 ヨゾラは遅れて店に入ってきたほむらが人見知りなのを知っており、少々心配していたが。
「あ、どうも、ここに居たんですね。一緒していいですか? ちょっと歩き疲れちゃって」
「もちろんだよ」
 大丈夫そうで何より。ローレットのイレギュラーズ同士には、気を許しているようだ。
 そんなヨゾラも珈琲とサンドイッチに人心地。
 ミルクと砂糖を入れてやって――マスターの丁寧なハンドドリップで良く香りが出ている。美味しい。

 一休みした一行は散策を再開した。
 深海の竜宮は常夜であり、時間感覚がよく分からない。
 ほの暗さと、終始瞬いているネオンサインは、果てしない夜を感じさせる。
 普通に過ごそうと思えば、時計は必須かもしれない。
 三時間ほどの散策の末に、「そろそろ良い時間ですね」とほむらが述べた。
「まあ、皆が食べられるものがいいわよね」
 ゼファーの視線の先、看板に灯りがともった店はやはり『メニューの豊富さ』に定評があるらしい、『居酒屋やきとりドラゴン』であった。

「いらっしゃいませ! 何名様でしょうか?」
「あーえっと、ひとりふたり……」
 人数を告げて、個室のお座敷へ。
「焼き鳥ねえ」
 ゼファーが呟いた。場所が場所だけに魚が美味しい店が多いと思いきや、いきなりやきとりをぶちこんでくるセンス。逆にその反骨精神が気に入ったまである。メニューを眺めれば、肉だけでなく野菜も普通に流通しているらしい。おそるべき深海、おどろくべき竜宮である。てっきり海の幸とか海藻とか、そういったものでおもてなしされるかとばかり思っていた。
 そう言えば漁師町の御馳走はお肉や山菜だったりすることがあるが、日常的に食されているものよりも、そうでないもののほうが特別感があるのだろうか。はてさて。
 カウンター客の後ろ姿は、いずれもバニー姿だ。会話を聞けば仕事上がりの様子だ。
 疑問を察したのか「地元の人がよく利用する店なんですよ」とは、マルタの弁だった。
「あ、もちろん外からのお客様も大丈夫なお店です! 竜宮式の接待はありませんけど」
 確かに地元民が主に使うなら、くっつくような接待は不要だ。
「お飲み物は何になさいましょうか」
「……お茶とかあったら」
 つづりが続ける。
「私このオレンジジュース」
 とはそそぎ。
「烏龍茶をお願いします」
 それからヨゾラ。
「あーじゃあ私ハイボールで」
 ぼーっとしていたほむらが、ついついそう続け、「しまった!」という顔をする。
 ひょっとして自分が最年長だろうか。
 縋るようにゼファー(19歳!)へ視線を送るが、当然のようにソフトドリンクではないか。
 風牙が未成年なのは知っている。双子巫女もそうだ。
 メイは絶対未成年だし(実は103歳)、焔もそうかもしれない(22歳)、愛無は謎すぎる。
 ヨゾラは何か穢してはならないものを感じるし、ビスコッティはさらに謎となると。
「まあ、酔わない程度なら多少は」
「お付き合いしますよ」
 冬佳とマルタの申し出がありがたい。
 ビスコッティは『眺めている』らしいが。
「気にすることはない。むしろ味を詳細に教えよ。母上にも食わすからの」
 本当に何者なんだ、ビスコッティ。教えてクレマァダ(居ないし、たぶん分からない)。
「居酒屋のメシ、美味そうなの多いんだよなあ」
 風牙の言葉通り、双子は興味津々の様子だ。
「食べ慣れた物と、初めて食べる物。そのバランスをとってこその観光だと思うのよ」
 ゼファーがメニューに検討をつけている。
「ねぇ、ほむら? 聞いたこともない深海魚だけど屹度美味しいわ」
「え、え。あ、じゃあそれ頼んでみましょうか」

 ひとまずサラダを取り分けるが、やはり海藻は使われていない。
「ワカメとかほぼ毎日食べてますから……」
 マルタはそう苦笑したが、本日のお造り盛り合わせなら地元の魚が楽しめるようだ。
「んで、この活け造りにされてる見覚えのない魚はなんて奴なのかしら」
「それは最近鉄帝租界から流通しはじめたアントワネットマカロニ正純ですね」
「アントワネットマカロニ正純」
 ゼファーが復唱する。アントワネットマカロニ正純。広がりゆく世界にじんと胸を打つものがある。
「アントワネットマカロニ正純いけますね」
「アントワネットマカロニ正純おいしい」
 アントワネットマカロニ正純は、フェデリアで捕れ、甘みのある白身の上品なお魚だった。
「あ、唐揚げ来た。レモンかける?」
「おねがい」
「私はいらない」
 風牙に答えたつづりとそそぎの答えは対照的だ。
 それから謎の深海魚の鍋だが、ちょうどアンコウのような感じだ。肝の溶け込んだスープが美味しい。
 焼き鳥もずいぶんと種類が豊富で、これは豊穣の農園で雉を品種改良したものらしい。
 唐揚げと同じ品種だ。地鶏だが若鶏らしく、やや硬い分だけ旨味が強い。
 あとはご飯モノでも頂いたら――


「沢山歩いたから、さすがに疲れちゃったね」
 焔が背伸びした。もう中々に良い時間だ。
「夜は夜で興味深いものですが」
 冬佳としては夜の竜宮も見ては見たかったのだが、明るさといい街の気配といい、昼と然程変わらないとも思える。なるほど常夜の国だ。
「このお宿、温泉もあるんだ!」
「良い文化じゃない」
 焔の言葉にゼファーが乗った。
 宿に入った一行は、まず身体を清めることにする。

 男湯に入ったヨゾラが身体を洗い流し、湯船へ。
「……心地いいなぁ」
 仰げば満天の星空――という訳にはいかないが、温かなお湯に癒やされる。
 一方で女湯。
「皆で一緒に入ろう!」
「い、いや私はちょっと」
「いいからいいから」
 首を振るほむらの腕を抱えて、焔が脱衣場へ引っ張っていく。
「大丈夫よ。万が一、温泉に不埒な輩が現れようものならバニージャイアントスイング(仮称)で成敗してやるから安心しなさい」
「いやゼファーさん、そういう問題でなく、てか何て?」
「ほら、ほむらちゃんも早く! せっかくだから洗いっことかしよう!」
「あ、あーー……」
「はい、綺麗になったよ! 次はボクも洗ってよ!」
「あ、あーー……」
 あのほむらが、ずいぶん慣れてきたものである。
「良い子のそそぎ君の背中も流してあげるよ」
「い、いいってば」
 愛無にそそぎが首をぶんぶんと振る。
 そんなこんなで湯船へ。
 深海に温泉とはじめは不思議にも思えたが、やはり海底火山が由来なのだろうか。
 ゼファーはマルタ嬢を横目に。
 その向こうにはほむら、焔と居り――世の中には様々な景色がある。
 大きいことは良いことだ。
 けれどそればかりとは限らない。
 自身の肩をとんと叩いたゼファーに、マルタがすいと近寄った。
「ここ、お部屋に呼べるマッサージサービス、あるんです」
「マジですか」
 耳よりな情報に、ほむらが食いついた。

 お風呂にゆっくりと浸かった後は、各々浴衣にジャージに気楽な装いで仕事の後の夜更かしだ。
 眠たくなるまでおしゃべりと行こう。
「猫さん? どこから入り込んじゃったんだろう?」
 焔が指であやしてやると、猫はお腹を見せてくねくねしている。
「猫!」
 ヨゾラも興奮を抑えきれない。頭をくりくりと擦り付けてくる猫をなでてやると、喉を鳴らし始めた。
 ずいぶん人慣れしているらしい。
「……あれ? さらに数増えてる?」
 一匹の脇をかかえてにょーんと伸ばしてやったが、たぶんこの子はさっきまで見なかった新顔だ。
「って、メイちゃんのお友達?」
「ねこさんは、メイの仲間なの。危ないとこ以外は大抵一緒なのです!」
「ペット大丈夫なのかな、それなら追い出すのは可哀そうだし一緒に寝よう!」
 メイは焔も仲間だと思われそうなんて思いつつも。
「怒られるかも?」
 一応宿に確認してみると、「大丈夫ですよ」との事だった。
「あ、そうなんですここ、お部屋に猫が入ってくるんですよ。お宿で飼ってて。可愛いですよね」
 部屋に入ってきたマルタが補足する。なるほど。だったら安心だ。
「……風牙、私達も」
「まだ眠くないし、駄目?」
「今日くらいは悪い子でも許される! 頑張ったもんな!」
 畳の上のローテーブルにお菓子を並べて、ちょっとしたパジャマパーティーだ。
「もうみんな着替えたの?」
「全裸ですまん」
 ビスコッティがキメ顔(無表情)でそう言った。
「一緒に寝れなくてすまん」
 ビスコッティがキメ顔(無表情)で更に続けた。
 メカボディで寝食不要というのも中々大変なのだろうか。
「おぉぉビスコさんからプレッシャーが……あれ? 違う?」
「プレッシャーを感じる……? この愛されモスカボディがか!?」
 本当に何者なんだ、ビスコッティ。

「失礼します」
 お菓子を食べながら談笑していると、一人のバニーさんが部屋に入ってきた。
 案内されたゼファーが隅の方に行き、布団の上にうつ伏せになった。
 何だ何だ。
「此れは他意はない唯の事実だけれど、肩が結構凝るのよ」
「めっちゃ分かります」
「そうですよねえ」
「私のことは気にせず、普通におしゃべりをしてて頂戴な?」
「あ、そうだ忘れてた。すいません私もお願い出来ますか」
「三名様ですね、かしこまりました」
「どうしてそんなに肩なんて凝るのかな?」
 焔の疑問を他所にマルタとほむらも名乗りを上げる。冬佳もいかにも必要そうだが、さておき。
(――嗚呼、愉快じゃ)
 ビスコッティは思う。願わくばこの双子と、友達になれたら良いと。
 きっとその願いは、既に叶っているのだけれど。
 夜も更け双子が船をこぎ始めた頃、各々は布団へ、あるいは別の部屋へと戻っていく。


 ――そして数日がすぎた頃だった。
 真昼のシレンツィオ、そのローレット支部へ飛び込んできたのはそそぎだ。
「風牙、愛無。つづりのこと知らない?」
 肩で息するそそぎは、ずいぶん急いだ様子だ。
 一体どうしたのだろう。
 よく見れば顔色も良くない。
「大丈夫か?」
「私は違くて。昨日から、あの、どこにも居なくって……」

成否

成功

MVP

水瀬 冬佳(p3p006383)
水天の巫女

状態異常

なし

あとがき

 依頼お疲れ様でした。

 すぎゆく夏の想い出を彩ることが出来たなら幸いです。
 MVPは歴史の真相へ近付いた方へ。

 それではまた皆さんとのご縁を願って。pipiでした。

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