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シナリオ詳細

<Stahl Gebrull>レビカナンの精霊

完了

参加者 : 10 人

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オープニング


 空気が震えている。
 暗雲の隙間から落ちてくる雷とは違う、不吉な予感。
 精霊都市レビカナン上空を見上げた『精霊』マイヤ・セニアは近寄ってくる怖気に身を震わせた。

「何か、変だわ」
「マイヤ……?」
 フローライトアミーカに肩車をしてもらっていたマイヤは、ゴーレムの固い装甲に抱きつく。
「怖いの……何か来る」
 マイヤを守るように周囲を警戒するクロスクランチ。
「――――――!」
 瞬間、ゴーレムの中に自分の意思とは異なる命令が弾けた。
 ぶるぶると震えるマイヤは二体のゴーレムが直立した事に気付く。
「どうしたの? フローライトアーミカ? クロスクランチ?」
 フローライトアミーカの支えを失ったマイヤは肩の上から転がり落ちた。
「うわ!? 痛っぁ! どうしたの? 二人とも……ねぇ!」
 意識を失ったように前へ進むゴーレムに追い縋るマイヤ。
 瓦礫に足を取られマイヤは地面を転がる。
「どこいくの? ねぇ、二人とも……あ、あれ? 動かない。何で動かないの?」
 マイヤは自分の意思とは関係の無い、威圧的な命令が自分の中に入り込んでいると自覚した。
「いや、嫌よ! そんな命令聞けないわ!」
 マイヤの中に流れるのは、ゴーレム達に下されたものと同じ。
 アーカーシュの最高権限(システム・メタトロン)からの命令だ。
 ――イレギュラーズの排斥と帝都への進軍。
 精霊都市レビカナンを司るマイヤ・セニアには絶対逆らえない最高権限からの勅命。

「やめて、やめてよお!」
 マイヤの感情とは裏腹に、身体は最高権限(システム・メタトロン)魔種パトリック・アネルの意のままに地を駆け出す。

 ――――
 ――

「はぁ……何、これ。気持ち悪い」
 魔王城五階層マーズキャッスルで『都市管理機構集積回路』を宿す精霊モアサナイトは膝を着いた。
 身体の中に這いずり回る『命令』に全身が拒絶を示しているのだ。
「ルーファウス、怖いよ。また、ボクの中に、違うものが入ってくる」
 ぽろぽろと涙を流すモアサナイトは『マーズキャッスルの王』ルーファウスにしがみ付いた。
「モアサナイト!?」
 以前はモアサナイトに一方的な愛を押しつけていたルーファウスだが、イレギュラーズのお陰で二人は正しい道を歩み始めていた。今もこうして一緒に居たのが功を奏した。
「やだ、ルーファウスじゃなきゃやだ! こんな命令聞けない! ヤダ!」
 一人であれば、モアサナイトは最高権限(システム・メタトロン)の命令のままに、攻撃を仕掛けていたに違いない。抗っているのはルーファウスと育んだ愛と、イレギュラーズが居てくれる安心感があったから。
「大丈夫だ! しっかりしろ! 私がついてる。イレギュラーズもいる!」
「ルーファウス……」
 確りとルーファウスに抱きしめて貰ったモアサナイトは、最高権限命令をはね除け顔を上げる。

「うん、大丈夫。もう大丈夫。……でも、マイヤはどこ?」
 モアサナイトはルーファウスに縋りつきながら友人であるマイヤの名を呼んだ。
「ボクがこんなにも苦しいなら、都市機能を司るマイヤはもっと苦しいよ。探さなきゃ」
 モアサナイトはマーズキャッスルから駆け出し、レビカナンの街へ降りてくる。
「マイヤ! マイヤ! どこなの!?」
 大声で友人の名を呼ぶモアサナイト。

「……も、サナイト」
「マイヤ! よかった! 無事だったんだね」
 涙を流しながら震えて蹲っているマイヤを見つけたモアサナイトは、よかったと近づいた。
 そのモアサナイトの手を掴んで止めたのはルーファウスだ。
「モアサナイト下がれ! 危ない!!」
 少年の髪を割いて光の砲弾が頬の直ぐ傍を横切る。
 ルーファウスが腕を掴んでいなかったら、モアサナイトは大怪我を負っていただろう。
「マイヤ?」
「ぅ、う……ごめんなさい。うー……!」
 次の砲弾を放つ為、マイヤが手をモアサナイトに向けた。
「やだ、攻撃したくない。モアサナイト、逃げて……嫌」
 歯を食いしばり、砲弾を撃つまいと抗っているマイヤを見つめ、ルーファウスはモアサナイトを抱きかかえ後方へ飛び退く。
「ここは、いったん退くぞ!」
 ルーファウスは苦渋の決断でマイヤをその場に残し、魔王城へ帰還する。

「いや……壊したくない。友達を傷つけたくない。やだよぉ……っ!」
 レビカナンはマイヤの大切な街。
 この都市を守る事がマイヤの存在意義。生まれた意味。
 此処で戦闘を行えば、壊れてしまうのは避けられないだろう。
 心優しい友人をこの手で傷つけるなんて出来ないのに。
 レビカナンの上空に浮かんでいるマイヤの虚ろな瞳から涙がぼろぼろと零れていた。


 鉄帝国南部の街ノイスハウゼン上空に現れた、伝説の浮遊島『アーカーシュ』を攻略するため鉄帝国は鋼の進撃(Stahl Eroberung)作戦を行い、魔王城『エピトゥシ城』を入手していた。
 その戦いの最中憤怒の魔種となったパトリック・アネルは、アーカーシュの最高権限(システム・メタトロン)を手に入れ、『ラトラナジュの火』を放ち、ノイスハウゼンを爆発炎上させていた。

 宙空に出現した幻影のスクリーンには、パトリックの姿があった。
「私はパトリック・アネル、鉄帝国の次期皇帝となる男だ!」
 彼の次の目的は――鉄帝国帝都スチールグラードへの進軍。
 それに伴い無数の古代決戦兵器達が大空に舞い上がる。
 一瞬でノイスハウゼンを爆発させた程の威力を持つ超高温のエネルギー砲を打ち込まれれば、帝都スチールグラードとて無事ではすまないだろう。
 イレギュラーズであり帝国軍の大佐でもあるエッダ・フロールリジ(p3p006270)は鉄帝国皇帝から命を受け魔種の討伐の作戦指揮を執る。
 エッダの希望により、この戦いはパトリックの討伐作戦ではなくなった。
 パトリックは公的には殉職した扱いとなり、彼の魂を歪めた存在(魔種)の討伐は、鉄帝国の同胞パトリックへ手向ける弔い合戦となっていた。パトリックは強引で自慢屋でうぬぼれやで嫌われ者のひどく胡散臭い男だったが、エッダ等は様々な調査から、パトリックが国益を重んじる有能な軍人であると確信していた。
 そんな折に放たれた『ラトラナジュの火』は鏑矢となっただろう。

「――『鋼の咆哮(Stahl gebrull)』作戦、開始!」



 魔王城『エピトゥシ城』へ集まったイレギュラーズは、前回戦った星の王ルーファウスに顔を上げた。
 彼の隣には精霊であるモアサナイトが震えている。
「私達はマイヤを救いに行きたいと思っている。だが、私とモアサナイトの力ではレビカナンの制御を司るマイヤには及ばないのだ。地の理は向こうにあるからな……だから、お前達に助けてほしいのだ」
 作戦としては難しくないものなのだろうと『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)は予測を立てる。レビカナンとその上空での総力戦だ。
「マイヤ様の他にも戦力があるのですよね?」
「ああ、お供のゴーレム。フローライトアミーカとクロスクランチが傍に居る」
 二体のゴーレムはマイヤを守るように上空へ浮かんで居るらしい。
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)はフローライトアミーカにも最高権限命令が下されたのだろうと眉を寄せた。

「他には……アームズ達か。セレストアームズ(天空機兵)とハイアームズ(天空闘騎)は報告書に上がってるがこのアルトラアームズ(天空機将)ってのは初めてみるな」
 部屋の中に浮かんだホログラムを指差した『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)は、情報をくれとルーファウスに視線を向けた。
「これはアーカーシュ遺跡深部に眠っていた古代の防衛兵器だ。パトリックが起動したのだろう。エンジンは人の魂であり、特務派の軍人オーラフ・アンゲラーとフォルクマー・ハーニッシュが中に取り込まれているらしい」
「中に人がいるのか! 助けなければ」
 身を乗り出した『黒顎闘士』アンドリュー・アームストロング(p3n000213)にルーファウスは首を振る。
「無理だな。エンジンとは魂と言っただろう。アルトラアームズ(天空機将)に取り込まれた者はもう戻って来ない。だから、殺してやらねばならないのだ」
 ルーファウスの声にアンドリューは視線を落し「そうか」と呟いた。

「だが、マイヤとゴーレムは救える可能性がある」
「本当か!? ルーファウス!」
 勢い良く顔を上げたアンドリューにルーファウスは確りと頷く。
「同じ都市精霊であるモアサナイトは、最高権限をはね除けている。それは私達が育んだ愛の力と、お前達が与えてくれた安心感のお陰だ。イレギュラーズなら絶対に助けてくれるとモアサナイトは信じたのだ」
 前回イレギュラーズがルーファウスを止めてくれ、自分達を正しい道へ導いてくれた事でモアサナイトの中に強い意思が生まれた。だから、命令をはね除けたのだろう。
「でもね、マイヤはルーファウスの愛を受けたボクより、純粋な都市精霊なんだ。ゴーレム達と同じようにシステム・メタトロンのコントロール下に置かれてる」
「……お前達が呼びかければ元に戻ってくるかもしれぬ。だから、最後まで諦めるな」
「はい。諦めません。ゴーレムさんもマイヤさんも救います。まだ友達になったばかりなのに。こんな所で終わりにしてしまって良いはずがありませんから!」
『ドラネコ配達便の恩返し』ユーフォニー(p3p010323)は青い瞳に強い眼差しを抱く。

「行きましょう! マイヤさんとゴーレムさんを救うために!」

GMコメント

 もみじです。マイヤを助けに行きましょう。

●目的
・マイヤを鎮める
・アルトラアームズを破壊する
・敵の撃退

●ロケーション
 精霊都市レビカナンとその上空が戦場となります。
 元々は美しい町並みの都市でした。
 現在はボロボロになり、都市機能が麻痺した状態です。
 少しずつ修復されてきたレビカナンがこのままでは壊れてしまいます。

●敵
○精霊マイヤ・セニア
 アーカーシュの精霊都市レビカナンを管理する精霊です。
 現在は魔種パトリックの力によって制御権を奪われ、限界を超えた出力をさせられています。
 ゴーレムに乗って上空に居ます。
 本当はイレギュラーズと戦いたくないです。

 見た目は可憐な少女です。
 酷い有様になったレビカナンに心を痛めています。
 眠って居た間の事は分かりません。
 ゴーレムやアームズ達を指示しますが、攻撃の指示をする度に心が壊れていきます。
 泣きながら攻撃してきます。

○ゴーレム×2
 クロスクランチとフローライトアミーカという名が与えられたゴーレムです。
 修理が終わり、イレギュラーズ達に友好的でした。
 現在は魔種パトリックの力によって制御権を奪われ、限界を超えた出力をさせられています。
 飛行能力を引き出されマイヤと共に上空に居ます。マイヤはどちらかに乗っています。
 強力な近接格闘攻撃を行います。
 イレギュラーズが呼びかければ、正気に戻る可能性があります。

○セレストアームズ(天空機兵)×18
 各6体ずつ連携して襲って来ます。地上に居ます。
・斧:近接戦闘全般に長け、力強い斬撃を行います。
・槍:近接戦闘全般に長け、素早い突撃を行います。
・機関銃:遠距離闘全般に長け、恐ろしい銃撃を行います。

○ハイアームズ(天空闘騎)×10
 上空を飛び回っています。
 格闘戦闘に長け、パワフルでタフです。
 また超高熱の細いビーム(神秘攻撃)を放ちます。飛行能力を持っています。

○アルトラアームズ(天空機将)×2
 アーカーシュ遺跡深部に眠る古代の防衛兵器です。
 上空を飛び回っています。
 ハイアームズ(天空闘騎)よりもさらに強力な機体です。
 魔種パトリックが機動させました。
 エンジンは人の魂であり、特務派の軍人(オーラフ・アンゲラーとフォルクマー・ハーニッシュ)が犠牲になっています。
 オーラフとフォルクマーの断末魔や、助けてほしいといった声などが聞こえることもあるでしょう。
 身体共に融合してしまっており、破壊して終わらせてあげる(殺してあげる)しかありません。

 非常にパワフルでタフです。
 超高熱の細いビーム(神秘攻撃)を放つドローンビットを多数展開し、無数の誘導ミサイルも持ちます。
 飛行能力を持っています。アームズ系の敵に対する指揮能力も持っています。

●NPC
○『黒顎拳士』アンドリュー・アームストロング(p3n000213)
 ラド・バウのC級拳闘士。
 筋肉を見せつけてくる気さくな青年です。
 一応、軍の指揮下に入り探索をしているようです。
 笑顔と持ち前の明るさで、パーティを盛り上げてくれるでしょう。
 なぜか右大胸筋ダウジングで強い罠を見つける習性があります。
 拳で戦います。

○『マーズキャッスルの王』ルーファウス
 煌びやかな装飾と、刺々しい王冠。美しい見た目の王です。
 火輪のシールドがルーファウスとモアサナイトを守ります。
 モアサナイトを愛しており、命に代えても守ろうとします。
 友人のマイヤを助けたいと願っています。
 遠距離神秘攻撃と剣で戦います。

○モアサナイト
『都市管理機構集積回路』をその身に宿す精霊です。
 美しい見た目をしています。眩しく輝きを放ちます。
 一時はパトリックの命令で制御権を奪われそうになりましたが、ルーファウスの愛とイレギュラーズが居てくれる安心感で正気に戻っています。
 友人のマイヤを助けたいと願っています。
 ルーファウスに守られながら仲間の援護と砲撃を行います。
 モアサナイトの力でレビカナン上空に光の階段を走らせる事が出来ます。
 光の階段があれば、空の上でも戦えますので安心です。

○『マーズキャッスル』の兵士×20
 煌びやかな装飾を身に纏った、美しい見た目の男たちです。
 ルーファウスとモアサナイトを全力で守ります。
 弓矢や魔法で攻撃をします。近接は剣で戦います。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●重要な備考
 本シナリオは運営都合上の理由により、通常よりも納品日が延期される場合が御座います。

  • <Stahl Gebrull>レビカナンの精霊完了
  • GM名もみじ
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年09月02日 22時23分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ウォリア(p3p001789)
生命に焦がれて
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)
真打
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
リースヒース(p3p009207)
黒のステイルメイト
アルヤン 不連続面(p3p009220)
未来を結ぶ
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

リプレイ


 蒼穹の空を何体もの『鳥』が横切った。
 弧線を描く鳥の軌跡は突然垂直に上昇して縦横無尽に飛び回る。
 おおよそ推力を無視したその鳥はアーカーシュに内蔵されていた『アームズ』たちだ。
 皮膜を張った腕を広げ、背中の炉心から排出されるエネルギーで飛んでいるのだろう。
 精霊都市レビカナン上空。
 この朽ちた都市を虚ろな瞳で見つめる『精霊』マイヤ・セニアはお供のゴーレムに顔を埋めた。

「モアサナイトさんルーファウスさん、マイヤさんたちに今一番伝えたい言葉は何ですか」
『誰かと手をつなぐための温度』ユーフォニー(p3p010323)は傍らに居る二人に視線を上げる。
「……負けるな、かな」
 上空に浮かんでいるマイヤを見上げ、目を瞑るモアサナイト。
「だって、パトリックだか何だか知らないヤツに言う事聞かされてるんでしょ? ボク達の友情よりそいつの命令の方が強かったってことだもん。腹立つじゃない。そんなヤツに負けてんじゃねーって思う!」
 以前会った時の印象より、随分とやんちゃな雰囲気を纏っているモアサナイトにユーフォニーはくすりと笑みを零した。
「ふふ、そうですね。……ルーファウスさんはこの前『命を賭して守り抜く』って言ってましたけど、命を賭すなら『全員で生き抜く』がいいです」
 ユーフォニーに言葉にルーファウスは「ああ」と頷く。
「お前達のお陰で命が惜しくなってしまった。モアサナイトとマイヤと共に過ごす時間が掛け替えの無いものだと感じる様になってしまったのだ。全員で生き抜く。強き者の意思だな」
「モアサナイトさんも兵士さんたちも……約束です」
 ユーフォニーはモアサナイトとルーファウスの手を握り誓いを交す。
『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)はユーフォニーと二人の約束を見つめ元凶である特務大佐パトリック・アネルと、かつて己が命を奪ったイヴァーノの顔を思い出す。
 人が魔に転じる。それがこのアーカーシュでも起ったのだと。
「ユーフォニーさん……無茶はしないでくださいね」
「マリエッタさん、ありがとうございます。一緒に頑張りましょう」
 真っ直ぐな瞳を自分に向けるユーフォニーの声を、届ける場を整えるのがこの戦場での役目だとマリエッタは胸に留める。そして、マリエッタ自身の……血の魔女の役割を果たすのだと。
 ――魂が苦しむ前に、その輝きを奪います。待っていてください。
 マリエッタの視線は上空を飛ぶ天空機将へ向けられた。

「パトリックめ……中で魔種に反転してないだけマシだが……ッ」
 舌打ちをせんばかりに眉を顰めた『戦神護剣』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)はアルトラアームズの中に入れられたという『燃料』に胸を掻きむしられる。
「クソッ」
 天空機将(アルトラアームズ)は人間の魂を燃料に動く、古代文明の兵器である。
「ロクなもん作らねえな!」
 拳を握り締めた紫電は大きく息を吐いた。
 これでは四肢を切断し生体CPUとして組み込まれるような生物兵器と同等。
「……いや、魂そのものを燃やすからよりタチが悪い」
 憤る紫電は己の心を落ち着かせるように一度目を伏せ、再び空色の双眸を上げる。
「待っていろ、今、助けてやる!」
 紫電の声に『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)もバイザーの奥で面白く無さそうな表情を浮かべた。
 特務派のこれまでの行動には顔を顰めたけれど、これは面白くない『台本』だと。
 己が『悪趣味』を突き詰めて楽しんでいた頃ならば笑っていただろう。
 されど、カイトは『今はそうではない』のだと隣に居る『黒顎拳士』アンドリュー・アームストロング(p3n000213)を見遣る。
 カイトの胸の暗雲を感じ取ったのかアンドリューは友人の背を勢い良く叩いた。
「また難しいことを考えているのだろうカイト」
「ああ、それが性分なんでな」
 ――この身を賭けてでも。俺は、最善を掴み取りに行くだけだ。
 カイトの赤い瞳が青へと色彩を変える。それは『オリジナル』へと近づく証。
『葬送の剣と共に』リースヒース(p3p009207)は黒剣の紅玉に手を置いて憂う瞳を揺らす。
 己自身も心と意思を知るまで長い時のかかった『精霊種』なのだと。
 否、それは正しくはないなとリースヒースは首を緩く振った。
 まだ知り続けている途中で、実際の所は童子とおなじようなものであろう。
「ゆえに、都市精霊達は他者とは思えぬ」
 リースヒースはルーファウスとモアサナイトに視線を流す。
 自分は愛の全てを知っているわけではない。されど、意思の強さが時として宿命をねじ曲げる瞬間は幾度となく見てきた。だから。
「此度、私が行うべきは、奇跡の如き偶然を手繰り寄せるための、糸となること」
 リースヒースの黒剣から青白い焔が揺らめく。
『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)は上空に浮かぶゴーレムを見つめ眉を寄せた。
 マイヤとゴーレムは現在絶対権限を持つパトリックに無理矢理に操られているのだ。
 許せないと呟くリュティスは小さく息を吐き首を振る。
「今すぐにでも元凶を仕留めたい所ですが……まずはマイヤ様達を助けるのが先決ですね」
 必ず助けてみせる。リュティスは赤い瞳を蒼穹の空へ上げた。

「大丈夫だよ、イレギュラーズはしぶといんだ」
 きっとマイヤは今でも必死に攻撃命令へ抵抗してるのだと『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は胸に手を当てる。
 けれど『大丈夫だ』ともう一度心の中で呟いた。
 この程度で排除されるようなイレギュラーズではないし、マイヤ達を救う為なら傷付いても構わない。
「出会えた縁を、仲良くなれた友を失ってたまるか! 必ず助けるからな!!」
 イズマの声が崩れた石壁に反響する。
 ……少し強引な助け方になるかもしれないから、痛かったらごめんな。
 けれどこれは命を奪わない為の戦いだからとイズマは視線を『逆式風水』アルヤン 不連続面(p3p009220)へと向けた。
「自分、操られてるからって割り切れるほど『人間』出来てないっすから」
 ぐるぐるとフィンを回したアルヤンは、こんな見た目でも『人』の枠に入る。扇風機だとしても。
 アルヤンは首をカチカチと上げて浮き上がる。
 足止め、時間稼ぎ。全ては、ユーフォニーが言うように生き残る為のもの。
「アルヤン不連続面、推して参るっす」
 そのかけ声と共に紫電とアルヤンは最前線へと一気に駆け抜ける。


 アルヤンの顔から生み出される風の奔流は大きなうねりとなって、最前線のセレストアームズ達を上空へと巻き上げた。躯体を浮かせ地面に叩きつけられたアームズ達は衝撃で動けなくなる。
 視線を横に流せばアルヤンと同じくアームズの動きを封じる紫電が居た。
「いくら相手が数で圧してこようが、どんな攻撃をしようが……ッ!」
 動きを封じてしまえばただのブリキでしかないと紫電は口の端を上げる。
「そっちはどうだカイト!」
「ああ、任せろ」
 紫電とアルヤンの後を追従するカイトは二人が動きを止められていない個体を狙い攻撃を叩き込んだ。
 三人の見事な封殺に『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)は小さな声を上げる。
 彼らが押さえ込んでくれたお陰で華蓮の役目も上手く回るからだ。
「皆……私が敵を拘束するから、好き放題にやっちゃって欲しいのだわよ!!」
 華蓮の鼓舞がレビカナンの石畳に反響する。
 彼女の後ろにはモアサナイトとルーファウスが控えていた。
 アームズ達の遠距離攻撃に警戒してのことだ。華蓮は光の階段を掛けるモアサナイトへの前に立ち、その身を以て盾となると決意しているのだ。
 そんな華蓮の意思を共にするのは『戮神・第四席』ウォリア(p3p001789)だ。
「盾も刃も多い方がいい」
 華蓮が後衛の守護となるならば、自分がもう一つの盾となるべく最前線へと黒き躯体が駆ける。
 己のこの黒い身体と赤い瞳は戦場で『倒すべき相手』なのだと敵に知らしめるだろう。
「どうした、掛かってこないのか? ならば此方から行かせてもらおう」
 ウォリアはセレストアームズへ焔宿りし神滅剣を走らせた。
 荒れ狂う黒き大蛇の幻影を飛びすさり避けた紫電の目の前を一瞬遅れて剣閃が割く。
 間近に感じるウォリアの剣技は頼もしいこと、この上ないと紫電は口角を上げた。

「もちろんレビカナンも壊させないから、安心して」
 イズマは歌と共に結界を張り巡らせる。そして、くるりと振り返りモアサナイトの前に立った。
「モアサナイトさん、光の階段を頼めるか?」
「うん、任せて」
 目の前にホログラムを広げたモアサナイトはレビカナンの地図の上に指先を滑らせる。
 それに呼応するようにイズマの足下から光の階段が空へと伸びた。
 イズマは光を放つ階段へ臆さず飛び乗る。
 それは柔らかな地面を踏んだときのような確かな感触があった。
 真っ先にマイヤの元へと向かいたい所ではある、されどその行く手を阻むハイアームズがイズマへと襲いかかってくる。
 本当は殺してやるのが最善というのは好きでは無いのだとイズマはアルトラアームズを見遣る。
 無力さを思い知らされてしまうからだ。されど、そんな己の甘さを許して此処で倒れる訳にはいかない。
 光の階段を駆け上がるイズマはハイアームズの攻撃を飛び上がり、身体を捻ってかわす。
 敵の数が多いこの戦場で優先すべきは数を減らすこと。
 先に空へ上がったイズマがハイアームズへ当たってくれるのは有り難いとリュティスは気を引き締める。
 リュティスは戦場を見渡し最も効率的に敵を巻き込める場所へと手を翳した。
 本当ならば今すぐにでもマイヤやゴーレムの元に駆けたい思いを飲み込んで己の役目を全うする。それが主に仕えるメイドの矜持でもあった。
「ある程度の安全確保は必要ですからね」
 彼女の影から揺らめく魔力が迸る。収束する漆黒の魔力は戦場を一直線に駆けぬけた。
 セレストアームズだけを絡め取る黒き影は膨張し一瞬にして弾ける。躯体の傷から滲むのは幾重にも重なった呪いだ。
 少しでもこちら側の被害を抑えることも重要だからだ。

 戦場が広がる。
 リースヒースは黒現のアバンロラージュに乗り、視野を広く取っていた。
 同じ癒し手の華蓮が少しずつ戦況を見ながら前進するのであれば、己は戦場を駆け回りその手を担うとリースヒースは自分の役目を定めていた。
 前線で身体を張るウォリアとイズマの傷がやはり深いだろうか。
 されど、彼らが集中的に敵視を集めてくれるお陰で、後衛には攻撃の手が及んでいない。
「流石といった所だな」
 戦い慣れているとリースヒースは目を細めた。
 リースヒースはウォリアに回復を施し、視線を上空に上げる。
「華蓮、イズマの方を頼む」
「わかったのだわ!」
 幾重にも折り重なった光の階段の中腹でイズマは膝を着いていた。
 口に溜った血を吐き捨てて掌で拭うイズマの背に柔らかな陽光が降り注ぐ。
 それは神に愛されし巫女の祈りだ。
 華蓮の癒やしを受けたイズマは「ありがとう」と手を上げ、迫り来るアームズの腕を反転して躱す。
 ユーフォニーは光の階段を駆けながらアームズ達へ光の粒を弾けさせた。
 七色に光る輝きがアームズの頭上に散り破損した部分へと入り込む。
 その背を押すのはマリエッタだ。
 ユーフォニーが届けるべき思いを邪魔させないために。
「ここで確実に倒します。言葉というものは強いんです。それを届けさせる邪魔はさせませんよ」

 ――――
 ――

 ウォリアは最前線に立ち戦場を見極める。
 此処までの戦況は順当――否、優位に進んでいると見ていいだろう。
 アルヤン、カイト、紫電が一丸となって敵の攻撃を封じているお陰で、ウォリアや華蓮が受ける傷も少なく済んでいるからだ。
「頼もしい仲間だ」
 ウォリアは彼らがいるならばと、最も深くまで敵陣の中へ乗り込む。
 華蓮やリュティスが掛けたバッドステータスの上に、収奪の獣を解き放つのだ。
 うねりを伴って暴れ狂うウォリアが受けた傷はリースヒースが素早く癒す。

 アルトラアームズは人間の魂を燃料としている。その知識も取り入れているのだろう。
 空からの攻撃に味方後衛が狙われるのは想定内だと華蓮は口の端を上げた。
 刻一刻と変わる戦況。それをサポートするのも華蓮の役目。
 そして、光の階段を掛けるモアサナイトへの攻撃を防ぐことも重要な戦術だと華蓮は知っている。
 其れを人の知識を得ているアルトラアームズが狙ってくることも。
「でも、私がいるから大丈夫なのだわ! モアサナイトさん下がって! 来るのだわ!」
「うん! 任せたよ!」
 モアサナイトもそれが分かっているから、自分より強い華蓮にこの場を託す。
 光が戦場を走り、華蓮の背を焼いた。
「っ……流石に痛いのだわ?」
 されど、この攻撃を自分が引き受ける事で仲間が傷付かずにすむのだ。
「華蓮大丈夫?」
「平気なのだわ。さあ、集中するのだわ。一手たりとも、無駄にはしていられないのだわ」
 モアサナイトと華蓮は紫電達の動きを注視する。

 紫電は刀を走らせ戦場を駆け抜ける。
 粗方片づいたセレストアームズから空へと視線を上げた。
「そろそろ上がれるか?」
「あとは兵士達に任せて問題無いだろう」
 紫電の声にカイトが応える。アルヤンも問題無さそうだと首をキコキコさせた。
「じゃあ、いくぞ!」
 飛び上がった紫電はハイアームズへと剣尖を閃かせ、空間を裂く。
 反動でくるりと回転した紫電は別のハイアームズを足場にして跳躍。
 再度破損した部分へ刃を突き入れた。
 ビシリと電装が弾けた音と共に、ハイアームズが制御を失い落下する。
 赤き血の魔女の姿を宿したマリエッタは、己の役目を果たすべく戦場を見つめた。
 血の魔力で編まれた糸は戦場に張り巡らされる。
 ハイアームズを絡め取った糸に魔力が走った。


「貴方達も、こんなことしたくはないんすよね」
 アルトラアームズへと嵐を叩きつけるアルヤンは彼らの『燃料』へと語りかける。
 きっと彼らにも家族がいて、帰るべき場所があったはずなのだ。
 軍人が戦場で散るのは名誉なことなれど、己の意思も無いまま只の道具として扱われる。
「無理やり戦わされるなんて、嫌っすよね。救えないなら、せめて誰も傷つけさせないっすよ」
 もうきっと人格なんて残っていないのだろう。
 否、残っていないと思いたいのかもしれないとユーフォニーは唇を噛んだ。
「オーラフさんフォルクマーさん、これしか方法がなくてごめんなさい」
 ユーフォニーは燃料となった二人の軍人の名を呼ぶ。
 苦しみと嗚咽のような残響が戦場に響き渡った。
 ――死にたくない。殺して。死にたくない。助けてくれ。
 そんな声がユーフォニーとマリエッタの耳に届いた。
 全部聞き逃さないようにユーフォニーは彼らの声に耳を傾ける。
 ――傷つけ命を奪うこと……自分の行動によるその重み、その色は、ちゃんとみます。
 ぐっと胸元で拳を握るユーフォニー。

 自分にはマイヤとゴーレムに掛ける言葉が見つからないと紫電は悲しげな瞳を揺らす。
 けれど、一つだけ言える事があった。
「……諦めるな。こっちは任せろ。精一杯、行軍を止めてみせるだから!」
 絶対に、諦めてはならないと紫電はマイヤに叫んだ。
 その紫電の肩を閃光が掠める。
 振り向けば『燃料』を搭載さしたアルトラアームズが主砲を構えていた。
 彼らの声は悲しみと慟哭に満ちていて。
「オーラフ、フォルクマー……その苦しみの『時』を断ち斬り、救ってやる。
 迸れ、紫電の太刀よ! 魂食らう空騎を討ち、囚われの魂に、悠久の時を!」
 戦場を迸る閃光。紫電の刃がアルトラアームズの躯体に突き刺さる。

 イズマはマイヤの攻撃を受け止め、大丈夫だと笑った。
 閃光を解き放つイズマは泣いているマイヤに心を痛める。
「俺だって攻撃したくない。だからせめて、そんな時間が短くなるように……」
 怪我をしないように。イズマは誰も殺さないと溢れんばかりの光を散らす。
 リースヒースはマイヤに声を届ける者達への攻撃を警戒していた。
 未だ残って居るアームズ達が彼らを狙うかもしれないからだ。特に誰かに言葉を届けようとするものは意識がそちらに向いてしまう。それは仕方の無いことだ。
 だからリースヒースは彼らを守る。
 回復の癒やしをイズマへと降り注ぐリースヒース。

「マイヤさんゴーレムさん聞こえますか!」
 ユーフォニーはマイヤへと声を張り上げる。
「みんなで来ました。一緒にこの街と3人を守るために……!」
 光の階段を駆け上がったユーフォニーはマイヤの両手をぎゅっと握り締めた。
「……ずっとこの街を守ってきた優しい手。その手で街を、友だちを攻撃なんてさせません!」
 マイヤの瞳に無数の文字列が浮かぶ。
 ぶるぶると震え涙を流す精霊は必死に『攻撃命令』に抗っているのだ。
「は、なして……だめ。ユーフォニー……はなして」
「いいえ! 離しません!」
 繋いだ手の温かさを、もう絶対に離さないと決めたから。
「モアサナイトさんもルーファウスさんも兵士さんも、私たちだっていますから。
 ――きっと絶対、大丈夫です」
 ユーフォニーの後からリュティスが二人ごと包むように腕を伸ばす。
「マイヤ様、例え抗うことに失敗しても必ずや止めてみせますので安心して下さい。ですから何も恐れる必要はありません」
 友達を攻撃してしまうことも全て受け止めるからとリュティスは微笑んだ。
 マイヤの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。
「……マイヤ様はお優しいですね。今は私達のことは気にせずに攻撃してもいいですよ」
 手が勝手に魔法陣を描き、短い詠唱がマイヤの口から零れた。
 それでもリュティスとユーフォニーは彼女の傍から離れない。
「大丈夫です」
「私達の強さはご存知ですよね? これくらいで傷つくほどやわではありません。
 ですから今は気を強く持って支配に抗って欲しいのです。
 その為に時間が必要であれば私達が稼ぎましょう」
 マイヤが悲しんでいる姿をみたくないから。
「どうか笑顔を見せて下さい。そして私達の強さを信じて下さい」
 こんな事で壊れやしない。
 だから。だから。
 イレギュラーズを信じて――


「アルトラアームズ。魂を動力にする存在だなんて……」
 なんて面白そうなものだとマリエッタの心の内側から声がする。
 それを一蹴してマリエッタは前を向いた。
「今、私のやるべきことは彼らの魂を奪い……そして未来へと導く事」
 内側から湧き上がる血の魔女の声を振り払い、マリエッタは『ヘリオドール』の双眸を上げる。
「その苦しみも、悪夢も……全部奪ってあげますから。
 血の魔女……いえそれが『私』の役目ですから」
 残虐に命を奪うだけの魔女ではない。――救う為の、命奪。
 マリエッタはアルトラアームズへ糸を巻き付ける。
「全て鎮めてやる、安らかに眠れ」
 雁字搦めになった糸に藻掻くアルトラアームズへイズマの夜空を抱く鋼の細剣が閃いた。
「魂を使うゴーレムなど、死霊術もどきでしかない」
 リースヒースはアルトラアームズを見つめ眉を寄せた。
「もう助からぬならば、速やかに、人としての死を」
 淡き冥焔を纏いし黒剣を振り上げ、リースヒースは刃を向ける。
「呪われよ、パトリック。更に呪われよ、彼奴を唆した魔種よ」
 燃料タンクへと到達したリースヒースの剣は、中の生命諸共躯体を断ち切った。

「――裁定の時は今」
 ウォリアはアルトラアームズへと焔剣を振り上げる。
「囚われた哀れなる魂達へ介錯の刃を。正しき輪廻にオレが導こう。
 ――吼えよ、焔荒魂――我が身に宿りて、混沌の地に命を還す送り火を灯せ!」
 魔種の醜い思惑に染められ、あるべき美しさが穢されているとウォリアは嘆いた。
 この戦に導かれた事もまた運命なのだろう。
「不死鳥の魂が叫んでいる。あれも、操られて望まぬ力を振るわされていた」
 そして此処にも。
「嘆きが谺する。精霊も、ゴーレムも、輪廻に還れぬ魂たちですら、一様に嘆き、苦しんでいる」
 ウォリアの身体から赤き焔が迸る。
 彼の意思に呼応するように揺らめいた。
 マイヤの悲痛な叫びがウォリアの耳に届く。
 ――壊したくない、傷つけたくない。
「その涙と苦しみ――オレが受け止めてみせる。
 三人揃って、笑顔で向き合えるように オマエを救おう」
 ウォリアの剣がアルトラアームズの灯火を奪う。
 救いの光が戦場を包んだ。

 ――――
 ――

「逆式風水──吉兆返し」
 突風がマイヤの隣に居たゴーレムの頭上に吹いた。
 クロスクランチの頭の上に乗ったアルヤンが最大風速の風を巻き起こす。
「貴方達には傷一つ付けさせないっすよ」
 光の階段に膝を着いたクロスクランチはその場で身動きが取れずにいた。
「心を強く持つっす。攻撃は、全部自分が止めるっすから」

 自分達のすることは、全てを救えないと割り切ることじゃない。
 カイトは階段を駆け上がりながら眉を寄せる。
 助けられる先に手を伸ばせと、心の内側から叫ぶ声がする。
「お前達は隣にいる友達を害する為に産まれてきた訳じゃないんだろ。
 その手は破壊の為でも、振り払う為の物でもない」
 クロスクランチの前に立ったカイトはゴーレムの両肩を握った。
「俺が見てきたものはお前達が眠っていた時間よりも短い物かも知れない。
 けれど、お前達に確かに心があって、道具じゃないってのは知っている。
 だから――お前達の心を否定する、その『命令(オーダー)』を、俺は否定しに来た!!」
 絶対命令なぞ、ぶっ壊してしまえとカイトはクロスクランチへと叫ぶ。

 カイトはバイザーの奥でかつての自分を垣間見た。
 他人の心配しておいて、いざとなったら自分を『守るもの』へと勘定しない『オリジナル』の悪癖。
『霧島戒斗』という人間の在り方であり、その複製であるカイトもその精神性からは逃れられなかった。
 結局の所同じ存在であるのだろう。
 されど。
 カイトは後から着いてくるアンドリューを一瞥する。
「でも、俺は俺として『友達の為に』動いて此処まで来て。友達と一緒に、大切な友達を助けに行くことが出来ているんだ。……だから、今の在り方を後悔とか、するわけ、ないだろ?」
 カイトが何か重要な事を言っているような気がするけれど、アンドリューには難しい話しはわからない。
 けれどこれだけは言える。
「詳しい話しは分からんが、カイトはカイトだろう? 俺の友達のカイトだ。別のお前は知らんし。会った事も無いからな。俺と友達なのは別のお前じゃなく、俺の前に居るカイトだ。それで十分じゃないか?」
 どこに居たってポジティブな笑顔を見せてくれるアンドリューにカイトは頬を掻く。
「俺みてーのはこういう時でもないと言えないんだよ、悪いか。アンドリュー」
「良いんじゃないか! カイトはカイトだしな! 俺の友達のカイトだ!」

 二人の言葉にクロスクランチが顔を上げた。
 ――ともだち。なかよし。たたかない。ダメ。たたかない。
 己を支配する命令に抗い、首を振ったクロスクランチ。
「しっかりしろ! クロスクランチ!」
 カイトとアンドリューはクロスクランチを両側から張り倒して目を覚まさせる。
「……たた、いた? カイト、アンドリュー?」
「違う! これはそう、目覚まし!」
「そうだ。アンドリュー式目覚ましだ。だが、俺達以外にはやるな。んで、どうだ起きたか?」
 カイトは攻撃の意思を示さないクロスクランチに安堵の表情を浮かべた。
「大丈夫。もう、へいき! でも、フローライトアミーカとマイヤまだ……」
 クロスクランチはもう一人のゴーレムとマイヤを見つめる。

「目を覚ませ、フローライトアミーカ!」
 イズマは名付けたゴーレムにしがみ付き、空に響き渡る声で叫んだ。
「俺がどんな願いでこの名を付けたか、忘れたとは言わせないぞ!!
 友となってマイヤさんを助けるんだろう!?」
 ずっと眠っていたマイヤの傍にいてほしい。友達になって思い出を紡いでほしい。
 都市を守る精霊。その役割を持つ小さな少女に手を貸してやってほしい。
 イズマはそんな思いを込めて、マイヤを抱いていた石の名前を、ゴーレムにつけた。
「それなのに、彼女が壊れるのを放っておく気か!?」
「……ま、いヤ。いズま……めいれい。イヤ。命令、いや!」
 命令を聞かなければならない。けれど友達を攻撃するのは嫌だ。
 二律背反の思考にフローライトアミーカが暴れる。
「今こそ、君には彼女の一番近くで寄り添っててほしいんだよ……!」
 イズマはフローライトアミーカの攻撃が当たるのを承知でゴーレムを抱きしめた。
 バチリと電気がイズマの身体を走り抜ける。
 それでも、イズマはフローライトアミーカを離さない。
「――――頼む、戻って来い!!」
 フローライトアミーカの赤い瞳が優しい薄荷色に変わる。
「イズマ……、イズマ、イズマ! まもる。マイヤ守る!」
「ああ、そうだ。フローライトアミーカ!」
 フローライトアミーカを抱きしめるイズマ。命令には逆らえないはずのゴーレムに宿った『心』に嬉しさがこみ上げる。

「無理やり操られて戦わされるだなんて、自分だったら嫌っす」
 アルヤンは嫌悪感を表すようにフィンを左右に旋回させた。
 救いをもとめている人に差し伸べられるものなんて自分には無いけれど、せめて言葉だけでも届けてあげたいとアルヤンは声を張り上げる。
「貴方達の事も、アームズ達の事も自分達が止めるから安心して欲しいっす」
 アルヤンの風嵐はマイヤの『攻撃』を封じていた。
 それは、マイヤが友達を傷つけたくないと叫んだ願いの成就。
 攻撃をさせないことは誰も傷付けさせないことと同義。
「だから、もう泣かないで。悲しそうな顔をしないで欲しいっす」
 もう誰も傷付かないから。
 例え傷付いたとしても、死んだりしない。
 大丈夫なのだとアルヤンはコードをマイヤの手に巻き付けた。

 マイヤの目の前にモアサナイトとルーファウスが現れる。
 ユーフォニーが作り出した幻影だ。二人は必死に何かを訴えている。
 これは幻で二人の声は出せないけれど、きっと思いは伝わるはずだとユーフォニーは願った。
 ――どうか届きますように。
「本物のおふたりは向こうにいます。マイヤさんたちを待ってます! だから……」
「マイヤ――――ッ!!!!」
 ユーフォニーの声を遮る叫びが空を割る。
 リュティスとユーフォニーが声のする方を振り返ればモアサナイトとルーファウスが光の階段を駆け上がってきていた。
「ちょっと、危ないのだわ!?」
「ごめん華蓮!」
 モアサナイトを追いかける華蓮は困ったように声を上げる。けれど決して止めはしない。
 伝えたい言葉は、きっと今じゃないと意味が無いから。
 だから、華蓮はモアサナイトに危険が及ばぬよう共に光の階段を駆け上がる。

「何やってんのマイヤ! ユーフォニーもリュティスもアルヤンも他の皆もこんなに命張ってるのに、マイヤが今此処で折れたら意味無いでしょ! 絶対命令なんて、はじき返せ!」
 泣きながら訴えかけるモアサナイトにマイヤも涙を零した。
「あ、あ……モアサナイト」
「そうですよ。一緒に帰りましょうマイヤさん」
 ユーフォニーの温かさはマイヤに安心を与える。
 命令よりも大切なものがあるとマイヤの心を奮い立たせる。
「約束を致しましょう。前みたいに探索をして、時には遊びましょう?」
 リュティスの言葉は未来への希望だ。
 こんなに皆を傷つけた自分とのこれからを考えてくれている。
「この戦いが落ち着いたらまたレビカナンの復興をしないといけませんからね。
 今度は私の御主人様やそのペットをご紹介できるといいなと思っています」
「ユーフォニー、リュティス……ッ!」

 不安な心が、安堵へと変わっていく。
 立ち向かう勇気が溢れ出す――
 バリンと何かが弾ける音がした。
 それは、アーカーシュの最高権限(システム・メタトロン)からの解放。
 マイヤ・セニアがパトリックの制御をはじき返したのだ。

成否

成功

MVP

アルヤン 不連続面(p3p009220)
未来を結ぶ

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 マイヤとゴーレムたちは無事に戻って来ました。
 MVPはマイヤの傷つけたくないという心を守り、味方の損害を大きく減らした方へ。
 ご参加ありがとうございました。

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