シナリオ詳細
花蝶天女譚:あなたの魅惑へ
オープニング
●願い捩れて
あの娘は花のように笑う。
多分、前世は花だったのではないか? そんなことをいつも考え、そのたびに冗談めかした夢想だと頭を振った。
あの娘の傍にいられる私は幸せだと、そういう自覚は確かにあった。
あの娘を見なくなって久しくなっても、幸せはいささかもブレがなかった。あの娘に貰った愛は根付いていて、あの娘が花であったなら、私は蝶であるのだろう……などと夢想したことはあった。
花の蜜を吸う生き物は蝶だけではない。蜂や、ハチドリや、アブなんてものもそうだ。
でもハチドリは生きるために止まれない。蜂やアブは攻撃的すぎる。私が想うのはやはり蝶なのだろう。優雅に花にとまり、翅を休める。共生関係とはそういうもので……。
そんなときに声をかけてきた男に、私は心を奪われた。
その提案に、私は魅了された。『されてしまった』。
……然るに、私は蝶として飛び回ろうと想った。軽やかに、美しく、しなやかに。どんなに軽い花に乗っても押しつぶさぬ様に優しい蝶に。
ある日、私は素晴らしい花を見た。
大輪の花は確かに異形ではあったが、造形自体は頗る美しく心を打った。人を魅了する、という確信があった。
そしてその花の蜜は天上の美味であり、私の心を一発で掴んでしまった。
花の根元に転がる骨と骨と骨と皮。それだけで、私は何をすべきか知ってしまった。
そして、天上の味の秘密を知ってしまった私は。
●天女の戯れ
「皆さんは、『天女』という存在についてはご存知でしょうか。豊穣に現れる肉腫(ガイアキャンサー)の一種で、『衆合地獄』華盆屋 善衛門により改造された少女達を指します。原則として救済不可能――そう思って頂いて結構です」
『ナーバス・フィルムズ』日高 三弦(p3n000097)はイレギュラーズ達に(特に豊穣に渡るのが初めての者にも分かるように)段階を踏んでの説明を始めた。
肉腫は、基本的に『複製肉腫』と呼ばれる一般種族から変異したものは救済可能だ。これが更に反転するなどした場合、別物となって救えなくなってしまう。今回の場合は、肉腫化に加えて肉体改造や変異が不可逆性を伴うために救済不可能となったもの、『天女』と称されるものが敵となる。ここまでは、『神逐』を経たイレギュラーズなら多くが知る話である。
「今回は、別々の地点に現れた2体の天女をそれぞれ隔離し、各個撃破するのが目的です。これは、この2体が非常に強い共生関係にあり、しかも強い精神的繋がりを窺わせる素振りを見せているためです。片一方だけ先んじて倒せば、間違いなく後々の称障害となるでしょう。だから、同時がいい」
彼女はそう言うと、眼鏡を通して豊穣のいち地域、2つの村の中間地点と、そのうち東側の村へマーキングをつける。髑髏の、だ。
「この村々ではここ数日、多数の行方不明者が出ています。あまりに急激だったため原因究明の依頼が来ていましたが、不明者をリストアップしたところで疑念がうまれました。東西それぞれの村で日を置かずして少女が一人ずつ行方不明になり、その後暫くして西の村で徐々に人が減り始めたあと、東の村で人が減るようになりました。別働隊が対応する『蝶の天女』の介入で加速度的に被害が増加してるようですね」
つまりは当初の二人が『天女』となった時期に若干のズレがあり、『蝶の天女』こと東の村の少女が活動を始めたことで、危機感が激増したといえる。
「蝶型の天女は当初は人を襲ったりはしていなかった……というか花の天女周辺で存在は確認できてましたが、そこから大きく離れようとしませんでした。天女の花の蜜で満足していたようにも見えます。ですが、ほどなくして東の村に出現。花の天女の香気を身に纏って人々を引き付け、花の天女の元へ誘導するようになります。更には、自身で能動的に人々を襲うようになりました。口吻部分で人の体液を吸い上げ、骨と皮だけにしてまうようなものですね」
「蝶っていうかもう完全に蜘蛛の類縁じゃねーか。そいつが花のヤツに人を誘い込んだり人を食い荒らしたりして被害が増えたんなら、そいつを倒せば被害が大きく減るんじゃねえか?」
「間違っちゃいないけど、そう単純でもなさそうね。花を取り逃がせば恒常的にこの村々には危険が残る、蝶を取り逃がせば村を全滅させて他を襲うようになる……と。そういうことでしょ?」
天之空・ミーナ(p3p005003)が不愉快そうな表情とともに告げると、レイリー=シュタイン(p3p007270)が補足する。可能な限り同時撃破が望ましく、何れかを取り逃がせば被害の拡大は目に見えている。最悪の形のダブルバインドともいえようか。
「危険性としては当然、皆さんに対応をお願いする『蝶の天女』の方がやや高いと思っています。基本的に低空飛行を行っている彼女は、花から得た香気を翅で拡散させ広範囲を魅了してきます。皆さんが向かった時点で既に東の村に侵入を果たしていることを考えると、村人は少なからず彼女の盾に、または食料になるでしょう。被害を拡大させないためにも、足止めと避難誘導は要ると思います。それ以外にも、伸びる口吻によって武装や鎧の隙間を貫いてきたり、それなりの殺意を以て攻撃してくると見て間違いありません。近接戦で足止めしたとして、恐らく攻撃範囲が広い技能を持ち合わせているでしょうから、一人が足止めできれば万事解決とはとてもいきません。迅速な一般人対応、連携を重視した足止め、敵の実力に対し全力で対処する覚悟が求められます」
愚かな助言ではある。ミーナとレイリーを呼んでおいてそれを指示するというのは、彼女らを甘く見ていると言われても仕方あるまい。
だが、複数の状況を並行して行うことの難しさは誰が見ても明らかだ。発生間もない天女であること、花の天女との関与も示唆されるため、なんらかの秘められた能力が生まれることがあり得る。
『衆合地獄』と呼ばれる存在が、少女達を篭絡した際に何も吹き込んでいないわけもなし。本能を甘く見れば、確実に後手に回る。……今この状況が、後手だと思いたくないために。
- 花蝶天女譚:あなたの魅惑へ完了
- GM名ふみの
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年08月23日 23時55分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「花のために栄養を誘導する蝶ですか」
「とんだ天女がいたもんだ。戻れぬ肉腫の侵食と改造が為した異常か、捧げられた命の尊さを錯覚したか、はたまた……」
『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)は情報屋から与えられた情報を反芻し、少し苦い顔をした。『花のため』が利益のためか、感情主体かは分からない。が、碌でもない話なのはわかる。『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)の口から漏れた類推を聞きながら、『大切な者が生きるための糧であれば?』という思考がちらついたのを、かぶりを振って振り払った。
もし、蝶にそのような感情があれば、それを理解してしまったら――天女は『相容れぬ怪物』ではなく『哀れな人間の果て』として認識してしまう。それは神使として致命的であると、思考が警鐘を鳴らしていた。
「蝶々って実はそんなに好きじゃないの」
「蝶と花……水魚の交わりってやつかしら? 綺麗なものじゃない、人を襲わなければ、だけど」
『トリック・アンド・トリート!』マリカ・ハウ(p3p009233)の奇矯な、しかし薄暗いトーンを乗せた声に対し、『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)は僅かに首をひねった。蝶と花人の関係は相互利益に基づくものだ。蜜を得て、反映に寄与する。その糧が人でさえなければ、救えたのか、保護できたのか……レイリーは情に厚いが故に、もしもの可能性を思考の隅に残してしまう。
「蝶々は蜂蜜を作ってくれないもの」
「ああ、そうかい。つっても、肉腫に蜂が留まってても蜜は作ってくれなさそうだがな。しかし、なんだってこんな仕事が私んとこに舞い込んできたかねぇ……?」
マリカの身も蓋もない回答に、『天駆ける神算鬼謀』天之空・ミーナ(p3p005003)はげんなりした顔で彼女を見て、視線を切ってから疑問を吐き出す。『神逐』成功後も、幾度か豊穣での依頼はこなしていた。その際の『次の危機の類推』が、巡り巡って今に至ったのだろうか? だとしたら、遅効性にもほどがある。
「ただでさえ厄介な相手だってのに、見た目が少女の姿ときた。やり辛ぇったらありゃしねーよ、本当に……」
「ン。アルヴァ 気持チ 理解。デモ 天女 少女 チガウ。天女 倒ス 供養」
「……分かってるけどよ……」
『青樹護』フリークライ(p3p008595)のように、情緒を理論的に解き、割り切ることができたならどれだけよかったか。『航空猟兵』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)は並走するその姿を見て、羨ましいとさえ感じた。花の天女の居場所を迂回する形で急行する彼等は、間もなく東の村を、そして極楽蝶を視界に収める位置まで近づいている。だが、村人の保全にはどれほどの猶予があろうか。
「フリック、ついてこれるな?」
「勿論。アルヴァモ 無理セズ」
アルヴァは一同のなかで最も足が速く、そして身軽だ。そんな彼が森の中を本気で走れば、並のイレギュラーズでは追いつけない。『無理をしなければ』。
フリークライは加速装置に火を灯すと、字義通り天までカッ飛ぶほどの加速を背に受け、走る。純粋な速力で視界のあらゆる障害をブチ壊し、アルヴァの軽業に並走する姿を真似できるのは、秘宝種達でもそう多くはあるまい。
「まずは、被害を最小限に抑えるっきゅ。レーさん達の前で、絶対に犠牲は出させないっきゅ」
『希うアザラシ』レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)は彼等ほどの馬鹿げた機動力は持ち合わせていないが、されど
●
「こちらは神使! 村落内にいるこの村の少女の振りをした肉腫を退治しに来た!
肉腫は20m近くの人を魅了することができる! 戦闘音がする方には近づかないよう避難を!
魅了された人はレーさん達が助けるのを頑張るから! この声が聞こえた人は慌てず騒がず迅速に避難を!
死者を出さない為にご協力をお願いします! 西の村の方の森でも仲間が肉腫と戦闘中だからそちら以外へ避難を!」
「こっちは行き止まりよ♡ マリカちゃんの『お友達』は生きているあなた達が苦手なの」
レーゲンは未だ正気な人々に向けて声を張り上げ、いち早く村から、せめて極楽蝶の周囲から離れるようにと誘導する。他方、マリカは極楽蝶から離れた位置に『お友達』を配置することで接近を阻止し、その忌避感をあおっていく。何れも、正気で且つ自分で動ける者へは覿面に効果がある。なにしろレーゲンの声は必死だ。上滑りする言葉ではなく、真に迫るものがある。
「ちょっと、アンタどこ行くんだい!」
「止めてくれ、俺はいかなきゃ……」
誘導されるまま、ミーナが待機させたチャリオットへ向かう人々の流れから、ふらりと抜け出た男がいた。否、ひとりふたりと増えていく。夢遊病患者のごとき足取りは、そのまま極楽蝶へと向けられている。
極楽蝶の口吻がそれに反応し伸びあがり、手近な一人へと襲い掛かるかに思われた。が、そうはならなかった。口吻が向かったのは、村人より手前で宙を歩むアルヴァに向けられたものだったからだ。
「俺を見ろ。お前の獲物はこっちだ」
「……間に合いましたね」
「今ノウチニ 魅了 解ク」
アルヴァの挑発にあわせ首を巡らせた極楽蝶をよそに、鏡禍は深く息を吐く。進行を食い止めたのに合わせ、フリークライの術式が通らなければどうなっていたことか。後退の意思と正気を失った相手にはブレーキがない。傷つけず止める手段が、きわめて少ないのだ。
「正気に戻ったか? 戻ったなら、あの馬車まで走って乗り込め! 私達は神使、あんた達を助けに来たんだ!」
ミーナは正気に戻った者もろとも、村人達に再度避難を促す。人々は拍車をかけられた馬の如くに、我先にと避難を続けた。その間も互いに声を掛け合う姿から、情の厚いことを思わせる。
「その程度か? まだまだ遅――」
アルヴァはその足を頼りに、極楽蝶の視界を駆け回りその動きを制しようとする。距離さえ取れば、十分に勝ち目はある。『分かっている情報に限れば』、あの蝶の口吻から適切に距離をとることも、避けることも造作ではない……が、おもむろに撒き散らした鱗粉を彼が視認し、更に距離をとろうとしたところで状況は変わった。
何かが、彼の足元から伸び上がってきたのだ。
「な、」
「……っの!」
アルヴァがその強襲に意識を割かれ、正面から伸びる口吻との距離に目を剥いた次の瞬間、錬の相克斧が振るわれ、口吻の先端を引き裂いた。瞬時に後退した、極楽蝶のその判断力や見事。
「こいつら、意外と……硬い……!」
「今助けるぞ、アルヴァ!」
強襲の主は、アルヴァの両足にがっちりと食い込んだ蔦だった。いつ発生したのか、何の意思があって襲ってきたのか。それはもう、愚問だ。
「極楽蝶から離れても、鱗粉が撒かれた場所から何か生えてくるっきゅ! 鱗粉を撒く前に妨害、生えてきたら蹴散らしつつ前進! もしかしたら村に現れた時点でもう……」
『ふふふ。元気がいいんだね、お兄ちゃん。あざらしさんかな?』
「……人の意識が……」
「ミーナ! あれはもう『人』なんて呼んでいい相手じゃないわよ!」
レーゲンが最悪の想定に踏み込んだところで、あらぬ所から声が聞こえた。極楽蝶の胴体部分、口吻より下。顎の下に見え隠れする牙の生え揃った第二の口からだ。その言葉に合わせてあちこちから生えた蔦は、村人の行方を阻み、うち幾人かを締め上げ、一瞬のうちに命を奪った。その所業をして子供の喋り方だから、などと情が湧くのは、ミーナの割り切れぬ心ゆえか。
彼女を庇うように前進したレイリーは、その悪辣さに改めて決意を固めた。
「私はヴァイスドラッヘ! これ以上被害者は出させないわ!」
「……やっぱり、蝶は嫌い」
レイリーは飛びかかる蔦を打ち払いながら高らかに宣言する。マリカは、村人に襲いかかった蔦へと『友達』を差し向け、その組織を次々と引き剥がしにかかる。村人が無茶をせぬように伏せていた札を、村人を守るために使うとは、分からぬものだ。
「マリカさんが抑えている辺りの蔦を全滅させれば、村の皆さんの方へは行けないはずです!」
「……っきゅ」
鏡禍が手近な蔦を蹴散らしつつ、いきおい極楽蝶に飛びかかる傍らで、レーゲンは死者を担いだままの蔦を根本から術歌で焼き払った。そのまま放たれた『アンコール』は、一撃目で生き残った蔦に容赦なく襲いかかる。
「フリック 最後マデ 立ツ。皆モ 立タセル。……殺シタ村人 罪 無念 晴ラス」
「人の命なんて重いもの吸っておいて、蝶のように軽々しく舞えるものかよ!」
錬は極楽蝶に追いすがると、鱗粉の舞った地面を荒々しく踏みしめながら攻勢をかける。或いは地面から現われるであろう蔦ごと、彼女を両断しようとする意思が強く感じられた。そしてその猛攻は、目眩ましでもあり。
「世話になったぜ、厄介な蔦を撒き散らしやがって……!」
アルヴァの苛立ち混じりの声は、しかし極楽蝶が痛撃にのたうった後に響き渡った。
ついで連撃を叩き込んだ彼は、アクアヴィタエを一息に飲み干し再び飛びかかる。
蔦、口吻、蔦、蔦、蔦、口吻……攻勢の激しさは時間経過によって悪化をたどり、アルヴァですら凌ぐのがやっとだった。だからこそ、土壇場で伸び上がった蔦を弾いたレイリーの動きが輝きを増す。
「愉しみましょう! 貴女の最期、幸せにしてあげる……私は貴女の花以上に魅惑的?」
『死なせる』
レイリーのその言葉は間違いようもない逆鱗だった。一瞬の間を置いて激化すると思われた蔦の動きは、しかし徐々にその勢いを落としている。劇的でこそあれ、圧倒的多数であれ。
死を経てなお最後まで、その生命への敬意を忘れぬように、彼女は振る舞った。
然るに。
「フリック レイリー 助ケル。ミーナ アルヴァ 助ケテ ソレカラ 相手 入レ替エ」
「仕方ねえな、乗ってやるよ!」
レイリーとアルヴァの二人が倒れかけても、フリークライとミーナが治療に回る。鱗粉の暴挙は、しかし錬と鏡禍が素早く察知し動きを止める。
あと少し、もう少し。張り巡らされた罠が効かぬ。殺した村人を口に出来ぬ。己の方策は上首尾であったが、ほころびが徐々に見えていた。
だからこそ、『その輪唱』を耳にしたときはなにかの冗談だと思いたかった。遊び足りない……肉腫として悪夢を振りまいた娘は、しかし最後に己の巻いた種で周りが見えなくなり、死角に回られたイレギュラーズの渾身の一撃の前にその儚い命を散らしたのだ。
●
「悪いね、綺麗な顔潰しちまって……」
「……ミーナ」
ミーナは入念に天女の顔を潰し、その素性を知られぬように腐心した。跡形もなくズタズタにされたそれから、身の上を判ずる者など居はすまい。あまりの手口の鮮やかさ、そしてそれを成した恋人の表情の暗さには、思わずレイリーも声を書けてしまったほどだ。
「いいんだ。こいつはしっかりと供養しよう。できるなら花と一緒に」
「それは承伏できないっきゅ」
「ええ、確実に処理しなければならないと思います」
埋葬しよう。もしくは何らかの形で供養しよう。そう考えていた二人の考えはしかし、レーゲンと鏡禍によって遮られた。彼等は二人の想いを理解していて、それでも首を振る。
「ここまで身分が分からねえようにしてやったのにか?」
「供養することも駄目、なのね?」
「フリック 墓守。素体 少女 味方デモ 割リ切レナイ 遺体抹消拒否 埋葬シタガル 理解可能。デモ。今回 埋葬デハナク 抹消 必要」
「蜂蜜の取り分を奪うような蝶々はぁ、『お友達』にもしてあげなぁい♪ パンケーキが食べられなくなっちゃうわ」
フリークライは墓守として、二人の意見は重々承知している。が、それと求められている事は違うと知っている。そしてマリカは、独自の理屈を述べながらもこの状況、この意見の相違は宜しくないと理解していた。完膚なきまでに消さなければ、それこそ魂すらも。
「こいつを倒したんなら、花と西の村の状況確認だ。俺も出来ればここで抹消したほうがいいと――」
「残念ながら、花への対処は失敗だ。行った連中がすぐにどうにかはならねえだろうが、撤退してる。俺達はやることやって去った方がいい」
錬が言葉を探しつつ述べようとしたのを、アルヴァが遮る。彼は使い魔を向けて森の中の戦いに意識を割いていたが、どうやら望ましい結末は得られなかったらしい。
「じゃあこの娘はどうするんだよ!? 一人だけ抹消って、どう処理するつもりだよ!」
「抹消は抹消っきゅ。体を残しておくわけにはいかないっきゅ」
神使が意見の相違を理由に荒れている――どころか、某かの不定要素によって状況が変化しているという事実が村人に知れれば、恐らくは混乱を招く。そして、彼等にとって幸いだったのは、花の天女は移動する能力が無いことだ。村への侵攻を開始するとなれば目も当てられなかった。
「少なくとも、顔や身なりからは正体はバレてないっきゅ。それと、レーさんはこの死体から髪一本でも持ち出せばわかるっきゅ。抹消するっきゅ」
「少女 死亡済。極楽鳥 少女 違ウ。極楽鳥 少女トシテ埋葬 少女カラ死 奪ウ」
レーゲンは仲間達を、遠巻きに見守る人々を見た。その目は、衣類などに隠した天女の肉体の一部を見逃さないだろう。髪留めひとつ、髪一本ですらも。レーゲンに同意したフリークライの言葉は、その死に意味を与えようとしていたミーナにこそ深々と突き刺さる言葉だった。魂を救う気なら、ここで抹消せねばならぬ。天女の死で少女の死を糊塗すべきではないのだ。
少女達の魂に、真の安寧と救済は訪れない。……少なくとも、今はまだ。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
今回の連動シナリオでは、「双方あわせて一定レベルの」「どちらかひとつでも過半数を超えれば」などの、クリティカルな判定ポイントが存在しました。そうでなくともHARD相応の難易度ではあります。そういう意味で、この依頼もギリギリのところにありました。
MVPの方は「本シナリオで発生した連動諸共吹っ飛ぶクリティカルポイント」を尽く潰していたことが要因です。
2本トータルで「まずい」と感じるところが多かったら状況は変わっていたでしょうが、最終的に見れば最悪よか2段階ほどマシな着地点かと思います。
ひとまず、極楽蝶討伐および事後処理は成功しています。お疲れ様でした。
GMコメント
「8月3日ははちみつの日かなあ(未確認)? ミツバチ絡みの戦闘+レクレーションでも出そうかな」からこういう連動シナリオに持っていった私は本当に頭がどうかしている。
多分与太やりすぎてシリアス成分欠乏症になってるんだよ。
●成功条件
『極楽蝶』の撃破
└撃破後に死体を確実に抹消すること。その際起きるトラブルへの対処も成功条件とする。
●失敗条件
村人の一定以上の犠牲
●注意
このシナリオは『花蝶天女譚:花はあなたを求めてる』と時間軸を共有しています。
そのため、同時参加不可能となっております。
●極楽蝶
『衆合地獄』華盆屋 善衛門によって作られた『天女』の一体。東の村の少女が素体となっております。
どうでもいい話ですが排他対象の天女『無限香花』の素体とは幼馴染でした。本人は覚えていません。
攻撃力はHARD比較でそこまで高くはありませんが、【防無】などを積極的に使用するため、相対的にHARD相応の攻撃力を誇ります。
『口吻棘(物中扇:【万能】【防無】【出血系列】)』がメイン攻撃であり、【怒り】などでおさえても不用意にブロッカー以外が近づけば被害が拡大します。
また、ランダム発生となりますがターン開始時、パッシブで『香花香(自分を中心に2レンジ、【魅了】【呪い】)』を発生させます。これは一般人にも作用し、また、一般人もBS解除により解除可能です。
魅了状態にある村人は極楽蝶を守ろうとし、また、積極的に餌になろうとします(捕食時HA大幅回復)。
攻撃手段には口吻以外にも刺激性のある鱗粉によるダメージ系BSの多重付与、BS無効に対して【呪殺】によるダメージディールなどを使用します。
ぶっちゃけダメージディーラーとしてかなり高性能であるという認識でよく、【怒り】ブロックなども有効ではありますが一人で支えるのはかなり困難といえるでしょう、
なお、『無限香花との接触が長かった』ため、戦闘中または戦闘後に不測の事態を招く可能性を十全に考慮してください。
●戦場
東の村、村落内。
到着時、すでに魅了されている村人が4~5人おり、また、状況に理解が追いつかない村人たちも散見されます。
彼等の避難誘導を始めとし、迅速に対処しましょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はC-です。
信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
不測の事態を警戒して下さい。
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