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シナリオ詳細

<潮騒のヴェンタータ>海乱『義』衆を名乗る者

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 埃で詰め込んだような灰色の雲が時折ごろごろと音を立てている。
 時折の白くもあり、青くもある光は雲を這いまわり、一際大きな閃光と共に音を鳴らす。
 白くなった海面の波が船をお手玉の如く転がしていた。
「……嫌な匂いがするだろう? 臭い、臭いな。鬼の臭いだ」
 自ら出したその言葉にすら嫌悪を滲ませるのは、船角に立つ女である。
 女は自らの言葉に周囲の者が答えぬのを分かっていながら、静かに目を伏せていた。
 やがて、船は1つの小島を見て緩やかに速度を落とし始めた。
 先客の船が僅か沖合に止まっている。
 小島への距離が大体同じ頃、船が静かに止まり、錨が降りていく。
 一方、女は船角から微動だにしない。
 不意に女が手を振るった。
 船舶の方へ何の気兼ねも無く。
 ただ自らの着物の袖が邪魔であったから――ぐらいの。
 そのぐらいの気安さで手を払い、船が『割れた』。
 ぴしりと、何かに切り裂かれたようにして、船客たちが乗ってきた船は、海のガラクタと化して沈んでいく。
 動揺はなかった。
 意見もない。
「――死のみが鬼のあるべき姿だ。着いてこい」
 そう言うや、女はぴょん、と船角を跳んだ。
 まるで海の上を駆けるような身のこなしで、女はそのまま小島へと走り出す。
 その姿を暫しの間呆然と見つめていた者達が、一斉に小舟を降ろしてその後を追っていった。


 小島の砂浜にたどり着いてみれば、そこには大小さまざまな個体差のある角の生えた生物――鬼どもがいる。
 突如として姿を見せた誰かに、抵抗するように3人が刀を抜くが、既に遅い。
 あり得ざる角度から始まった連撃が瞬く間に3人を斬りおろす。
「――ひ、ひっ、お、おに――」
 別の物が声を引きつらせ――首が飛んだ。
「お前、一体何者だ!」
「囀るなよ、鬼ども」
 刹那、もう一つ首が飛んだ。
 そのままゆっくりと動き出して、女の蹂躙が始まる。
 始まったそれは、文字通りの鏖。
 圧倒的にもほどがある超絶技巧と、あり得ざる位置からの納抜刀。
 初見以外でも対処しきるには困難な超連撃に、鬼人種達は瞬く間に砂浜へ鮮血を散らしていく。
「鬼、鬼、鬼、鬼……全く、良い鬼は、死んだ鬼だけだ!」
 陶然と笑うと、女は足元を見る。
 砂浜に刻まれた足元が幾つか、小島の中に続いている。


 ――竜宮幣探索。
 いよいよ始まったサマーフェスティバル。
 その中で今年一番の目玉ともいえるものは、それであった。
 そもそもの前提の話を始めるなら、舞台はフェデリア諸島にある。
 地上の楽園とも呼ばれるシレンツィオリゾートはかつての冠位嫉妬と争い、竜種リヴァイアサンとの死闘の後にその島に築かれた文化の坩堝である。
 新種の魔物『深怪魔』によって本来は予定されていたクルーズに支障が出てきた中、深海の『都』なる場所より訪れたメッセンジャーの少女は、深怪魔への対抗策を提示した。
 しかしそのためには、竜宮幣なるコイン状のものが必要になる。
 竜宮幣を集め、それを用いて神器『玉匣(たまくしげ)』を修理すれば、深怪魔を追い払うことができるという。
 これを受け、シレンツィオリゾート各国代表者たちは愉快なマニフェシュトを掲げて競争をすることを考えたのだ。
 掲げられた公約はフェデリア諸島の利権を持つ4ヶ国それぞれが自らの利権とパワーバランスを踏まえて作られている。
 それら事情により、各国の要望はそれぞれがあまり大したことのないないようであった。

 そうして始まった竜宮幣探索。
 源 頼々(p3p008328)は、ダガヌ海域の中にある小島にてその気配があるという情報を得て、現場にたどり着いていた。
 だが、その小島の砂浜は――酷い血の臭いに満ちていた。
 数多の鬼人種の死体がゴロゴロと転がり、その中で精霊種の男女が立っている。
「死んでいるのは……鬼か。そしてお前達は……あぁ、海乱鬼衆といったか。
 海を乱すと言いながら、陸に登った殊勝な鬼ども」
 静かに殺意を滾らせる中――それを受けた海賊たちが警戒するままに武器を構えた。
「違う! 我らは海乱義衆、鬼などと一緒にするな!」
 そう言った海賊の声は、何故か酷く怯えている。
「何でもいいが……ここにある竜宮幣だけは貰っていく。
 貴様らには不要な物であろう?」
 静かに告げた頼々の背に、何やらぞわりと懐古と同時に迫る悪寒がした。

GMコメント

 こんばんは、春野紅葉です。
 <潮騒のヴェンタータ>では3本をお送りします。
 こちらでは何やら似て非なる名前?の海賊との交戦となるでしょう。

●オーダー
【1】竜宮幣の回収

●フィールドデータ
 血の海と化した砂浜です。
 そこかしこに海賊の遺体が転がっています。
 遺体には不自然な角度からの切り傷が見受けられます。

●エネミーデータ
・海乱義衆
 全員が八百万(精霊種)で構成された海賊です。かなりの数がいます。
 何故かは不明ですが、自分達が『鬼』と定義されることを異常に嫌い、また恐れている様子。
 イレギュラーズの乱入後、自分達の敵だと判断して交戦の構えを見せてきます。
 砂浜に倒れている者達とは微妙に装いが異なっているようなので、恐らくですが別組織なのでしょう。

●特殊ルール『耐久戦』
 当シナリオは18ターンを持って終了となります。
 終了後に何が起こるかは不明です……が。
 18ターン後、イレギュラーズが継戦可能な状態でフィールドにいることで
 依頼は達成となり、竜宮幣も手に入ります。

●特殊ルール『竜宮の波紋』
 この海域では乙姫メーア・ディーネ―による竜宮の加護をうけ、水着姿のPCは戦闘力を向上させることができます。
 また防具に何をつけていても、イラストかプレイングで指定されていれば水着姿であると判定するものとします。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 このアイテムは使用することで『海洋・鉄帝・ラサ・豊穣』のうちいずれかに投票でき、その後も手元にアイテムが残ります。
 投票結果が集計された後は当シリーズ内で使える携行品アイテムとの引換券となります。
 ※期限内に投票されなかった場合でも同じくアイテム引換券となります

●名声に関する備考
成功時に獲得できる名声が『海洋』と『豊穣』の二つに分割されて取得されます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 明らかに不自然な点がいくつか存在しています。
 不測の事態を警戒して下さい。

  • <潮騒のヴェンタータ>海乱『義』衆を名乗る者完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年08月06日 22時11分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
源 頼々(p3p008328)
虚刃流開祖
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者
アオゾラ・フルーフ・エーヴィヒカイト(p3p009438)
不死呪
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
雑賀 千代(p3p010694)
立派な姫騎士

リプレイ


「酷い状況だけど、この人達がやったっていう感じには見えないよね。
 かといって無関係ってわけでもなさそうだし、何とか話を聞ければいいんだけど……難しいかな?」
 降り立った『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)を筆頭に、到着したイレギュラーズはまずは対話を試みる予定だった。
「しかし、水着で来てあれだけどリゾートに似つかわしくない現状だなあ…
 あ、あれが海乱鬼……おに? う~ん?」
 パーカーで際どい水着をそっと隠して『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)は首を傾げる。
 こちらに敵意を剥きだす彼らは冷静ではなさそうだ。
「どうにも嫌な感じだな。コイツラのビビリ方、戦闘の後。きな臭ぇったらありゃしねえ」
 愛剣を握りながら『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)も疑惑の視線を向ける。
「出来りゃあ事情を聞いてみてぇところだが……そんな余裕はなさそうだな。
 なら仕方ねえ、一当てして聞き出すとしようじゃねえか」
 ぴょんと跳躍、そのまま剣を振るう準備をすれば、びくつきながら間合いを開ける。
「お、鬼……!」
 震える声で誰かが言った。
 ちょっと本気で切れかけた気持ちを抑えつつ、『虚刃流開祖』源 頼々(p3p008328)は落ち着くように深呼吸をして。
「士道に則り名乗っておこう。我が名は源頼々! 鬼殺したる源家の末裔である。
 海乱鬼衆とやらは一度叩きのめしたが、今回賊の討滅は依頼されておらん。ましてや別組織の『義』衆とやらも知らん。
 竜宮弊の回収を邪魔せぬなら特に関わる予定はないが、邪魔するのであれば……貴様らを『鬼』とみなすぞ」
 堂々と名乗りを上げた頼々に海乱義衆は短い間に2つの反応を見せる。
 源姓へと見せた反応と――鬼とみなすことへの反応。
 その両者は、共通した畏れを滲ませる。
「鬼、鬼は殺す……殺さなくては、姐御に殺される……」
 ぶつぶつと言いながら、海乱義衆が戦意を見せる。
(幻想の勇者がらみのお祭り騒ぎを思い出しますが、気楽なお宝探しと思ってたらこれですか……
 どこいっても大騒ぎなのは混沌故、といったところでしょうかね)
 竜宮幣の回収に関するマニフェストを思い起こす『悲嘆の呪いを知りし者』蓮杖 綾姫(p3p008658)は改めて視線を下ろすと。
「彼の言う通り、私たちの目的は竜宮幣。
 邪魔建てしないのであれば無理に争うつもりはありません。
 しかし、もし戦うのというのならば……命の保証はしかねますよ」
(宝探しに来たら人が死んでたデス。なぜ? 状況から海乱義衆が怪しいデスが、
 このオドオドした人達が無傷で全員を殺したとは思えないデスからまだ他に強い人がいるかもしれないので注意が必要かもデス)
 こちらが戦意を見せるだけでこうもビビり散らかしてるようでは、とても海賊同士の戦いなぞできまい。
 首を傾げつつも『不死呪』アオゾラ・フルーフ・エーヴィヒカイト(p3p009438)はそう判断をつける。
 夥しい血痕を見れば戦闘はつい先ほどか、そう判断すればアオゾラは直ぐに霊魂疎通を試みる――が。
 周囲には鬼人種の霊魂は見受けられなかった。
「ひぇぇぇ!? 宝探しと聞いていたのに既に人死にが出てるんですが!?」
 状況に声をあげたのは『立派な姫騎士』雑賀 千代(p3p010694)である。
(でもこの海乱義衆って人達、私の任侠魂に『助けて』ってビンビン来てるような……?
 ともあれ、これ以上無駄な血を流させない為にも早急にこの場を治めませんと!)
 同時に、ビビり散らかす海乱義衆の様子に首を傾げながらも。


「俺達としては、竜宮幣が回収できれば皆さんと戦う気はない。
 むしろ、これ以上の被害が出ないように手を打ちたい! 頼む、話をさせてくれ!」
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が発した制止の声は、海乱義衆には届かない。
 寧ろ、身を晒すように立ちふさがり問うたイズマへと海乱義衆たちの意識が向き、敵意を示して近づいていく。
「ここに来た目的はキミたちを捕まえるためじゃない。
 でも、どうしてこんな状態になってるのか知ってたら教えて欲しいな」
 その返答は敵の槍だった。
「まずは落ち着いて話を聞いてもらうためにも……仕方ないね」
 ひとまず溜め息を吐くと、焔は直線上により多くの海乱義衆を収めるようにしつつ、槍に力を籠めた。
 踏み込みと同時に放たれた神の炎が戦場を走り抜け、真っすぐに複数の海乱義衆を纏めて貫いた。
 空へと舞い上がった千代は二丁の狙撃銃を構えると、そのまま一気に引き金を引いた。
 放たれたるは蹂躙の砲撃。恐るべき鋼鉄の雨が降り注ぐ。
 それらは千代のコントロールもあって死に至るような位置には当たらない。
「警告はしましたからね」
 綾姫は静かに告げれば霊力を握り締めた。
 剣の巫女、鍛冶神の権能は手にするその魔術を剣の形に再構築する。
 生み出されるは蛇のようにのたうつ蛇腹剣。迸る霊力は宛ら雷の如く。
 払われた剣閃はしなり、鎖のように海乱義を締め上げて行く。
「何が起きてるのかあとで教えてもらうためにも、手加減はしないとね」
 アリアは細剣に魔力を籠めて宙に詩を描く。
 放たれた魔力は線を描き、海乱義衆の一人を包み込んだ。
 苦悶の声をあげて、箱から吐き出された海乱義衆が砂浜にぽてりと落ちる。
 ルカは黒犬のレプリカを担ぐようにして持つと腰を落とす。
「俺としちゃあ竜宮幣を回収出来りゃ良い。お前さんらを積極的にぶっ倒す理由はねえんだがな……」
 そのまま海乱義衆めがけて剣を振り上げ吶喊すれば、そのまま地面目掛けて振り下ろした。
 壮絶な斬撃は衝撃を生み、周囲の海乱義衆に纏めて叩きつけられた。
「――とっとと逃げても構わねえし、降参したくなったらいつでも言うんだな」
 壮絶すぎる攻撃に腰を抜かした海乱義衆へと静かにそう告げれば、唖然とした彼らの顔が見える。
「姐御……か」
 海乱義衆の零した言葉を反芻しながら、紫闢を抜いた。
 起点を定め、そこには『何も無い』のだと認識を改める。
 刹那、そこに合った空間をごっそりと斬り捨てた。
(鬼共を殺した者が『義』衆の頭目というのであれば、奴らの怯えようから鬼を狙って殺しているという推測が成り立つ。
 鬼殺しの類か? とすればワレの角が敵対のきっかけになりうるか、まったく奴も面倒な置き土産を……)
 あの日以来、にょきりと生えた二本角を思いながら頼々は溜め息を吐いた。
 あの女の角を握る手にも力が入ろうというものだ。
 アオゾラはふらふらと自らの身体をさらけ出すようにして海乱義衆の方へ近づく。
 呪いの影響で青色に変じたその肌がちりちりと太陽の光に焼かれて日焼けしそうな気もする。
「貴方の憎い相手は誰デスカ?」
 小首を傾げながら、その肢体を見せれば、動揺したように海乱義衆が各々の武器を構え、発狂したように突っ込んでくる。
 不死の身体へといくつもの刃が振り抜かれた。
「お願いだ! この死体は皆さんがやったわけではないんだろう!
 なら話し合いの余地があるはずだ!」
 イズマが改めて告げた声は、更に遠くまで響き渡るもの。
 決して攻撃は取らず、海乱義衆の身動きを封じる事のみを狙うのは、血を流さずに矛を収めたいが故である。


 交戦が始まってから幾らかの時間が経った。
 圧倒的は兵力差のままに耐久戦を強いられていたイレギュラーズだったが、素の実力差もあり海乱義衆の中から倒れる者が増えて行きつつあった。
「私達の力は見たでしょ! これ以上の血を流す事は双方の望みではないはず!
 どうか投降して事情を話して頂けませんか? ……貴方達は助けを求めている……そうでしょう?
 なら、私達なら貴方達を助ける事が出来ます! どうか信じて頂けませんか?」
 千代は後光に照らされながらも声を張り上げた。
 空にあり、そうして告げた和解への説得は、さながら天からのお告げのようにも見えたらしい。
 海乱義衆の数人が武器を取りこぼす。
 焔は士気が下がり、戦意を失いつつある海乱義衆に声をかける。
「もうこのまま続けても全滅しちゃうよ!
 戦いを止めてくれるならこれ以上は攻撃しないから大人しくして!」
 槍を振るう準備を整えれば、焔はそう宣告の声をあげた。
「もう一度聞くよ、どうしてこんな状況になってるの?」
 焔が改めての問いかけると海乱義衆達がおずおずと答え始める。
「そりゃあ、あいつらは姐御にやられたんだ。俺達はカムイグラに居場所を失った連中の集まりだ。
 姐御の保護を受けながら過ごしてた。でも姐御は『鬼』が嫌いだから」
「鬼が嫌い……そうなんだ。
 そういえば、ボク達は探し物があって来たんだけど、
 もし見かけてたらどこにあったかも教えてくれると嬉しいな」
「さっきから言ってた竜宮幣ってやつか? それのことは知らねえよ……」
 そう言ってふるふると力無く首を振る。
 綾姫は治癒の力を籠めた剣を錬成すると傷ついた海乱義衆達へ光を下ろしていく。
「『鬼』嫌いですか……そうなりますと角がある源さんも狙われる可能性があるかもしれませんね……」
 綾姫の懸念を肯定したのは海乱義衆の方だ。
「あぁ、だから速く逃げなって! 姐御が帰ってきちまったらどうなるか……!」」
「えっと……みんな私と同じ精霊種だよね?」
 アリアは念のための確認で問いかけた。
「そりゃあそうだ。姐御は鬼人種がなんて大嫌いだ。
 見かけたら直ぐにたたっ斬っちまう。あんた達も帰るなら直ぐ帰んな! あの人は……あの人は……」
 がくがくと震えるその様は明確な畏怖を感じる。
 姐御と言って慕う様と畏怖に揺れる様が同一人物への反応とは考えにくいほどに。
「その姐御って奴から守って欲しいっつーんなら前向きに考えてやるぜ?」
 ルカが声をかける。
 どうにも彼らは好きで海賊をしているようには見えない。
 落ちぶれに落ちぶれどうしようもなくなって海賊をやってる――そんな感じに見えるのだ。
「ありがとう、ありがとう……でも、俺達の事は言い! 姐御だって鬼が相手じゃなければまともなんだ。
 今ここにいないのは、きっとこの島の奥に鬼人種の連中が向かったっぽい足跡を見たからだ。
 姐御が来る前に早く逃げた方がいい!」
「貴殿らと『鬼』衆との関係は? なぜここにいる?」
 頼々からの問いかけに、海乱義衆は顔を見合わせる。
「海乱義衆ってのは姐御の勝手な名乗りさ。自分たちを鬼なんかと一緒にすんなって……。
 俺らがここに来たのは、海乱鬼衆の中でも鬼人種で構成された連中がこの島を根城にしてるって話だったからだよ。
 それで、船を見つけた姐御が先行して……俺らが追いついた時にはもう片が付いてた」
 この砂浜を見れば問答無用――確実にその手合いの鬼殺しだ。
 ぞわりと再びの懐古心が背筋をかける。
「じゃあ、貴方達は鬼だと思われたらその姐御って人に殺されるのか……?」
 部下なのに? そう問いかけたイズマに海乱義衆は首を振る。
「鬼を相手に手心を加えたって思われるのが駄目なんだ……殺されちまう……」
 そう答える海乱義衆はふるふると力無く首を振った。


 その瞬間、思わず頼々は首元に触れていた。
 一瞬だった。ほんの一瞬、本気でそれが『落ちた』と思ったのだ。
「何か――」
 アリアのテスタメントを受けた綾姫のエネミーサーチに触れるのと果たしてどちらが速かったか。
 退避を選んだ頼々の身体を、斬傷が滲む。
「仕留めきれないか。貴様らも何をしている? 鬼は殺せ。
 他の者などどうでもいいが、鬼は殺――せ――ぇ?」
 姿を見せたのは女。
 鬼――のようにも見えるが、その頭頂部の二本角を思わせるものは刀の柄であった。
「頼々――いいや、そんなはずはないか。お前が鬼になっているはずがなかろう。
 つまり、頼々によく似た鬼か。反吐が出る――はは、はははは!」
「空柊――!」
「すみません! 今この場には貴方方言う『鬼』はいません!
 なのでどうかお引き取りを……これ以上この場で血を流すのはいけないことです!」
「そうだよ、ここに鬼はいないよ。なのに戦るのかな?」
「鬼がいない? ――寝ぼけたことを。そこの男、角が生えているな? あぁ、鬼だ。鬼――死ね」
 千代の言葉と威嚇狙撃を意にも介さず、その視線は頼々から微動だにしない。
 アリアはそれに続けるように肉薄してフルルーンブラスターを叩き込み、押し付けた刃のその隣、『女の身体から生えた白刃に斬り裂かれた』。
「待て、俺達は貴方と戦いたいわけじゃない。ただ、竜宮幣を渡してほしいだけなんだ」
「そうか、ワタシも貴殿らには興味がない。鬼の首を頂こう」
 イズマも続けれどしかし。女――頼々曰くの空柊はまるで意に介さない。
 神気閃光を放ち、目くらましを兼ねた封殺――その刹那、伸びて来た剣がイズマを貫いた。
「黒蓮――」
 全身が目の前の敵への警報を鳴り響かせる中、綾姫はすぐさま解放した黒蓮を振り抜いていた。
 極大斬撃が空柊を斬る――その手ごたえの軽さに目を見開いた刹那、綾姫の身に斬撃の痕がじんわりと滲んだ。
 護身剣界が展開されていなければどうなっていたか。
「てめぇ、何モンだ。タダの海賊には見えねえ」
「――源 空柊。ただの鬼殺しだ」
 ルカが剣を構えて問えば、静かな答えが返ってくる。
 けれど、やはりその視線はルカすらも映していない。
 確殺を狙って振るった斬撃が鮮やかに黒き一閃を見舞う。
 その太刀筋の真下、隠れるようにして伸びた剣がルカの身体に傷をつけた。
 アオゾラは死霊をけしかけた勢いで女の前へ。
「何で切ったデスカ? 貴女は海賊として同じ海賊から金品強奪するために襲った訳てはないデスヨネ」
「邪魔だ、死にぞこない。鬼に生きていい資格などないだろう。ほかの連中もこれ以上邪魔立てするなら――殺すことを厭わぬ」
 しかし空柊はアオゾラを刹那の挙動で振りほどき――
「やはりこうなるか……!」
 狙うは雷切。雷『で』切る有り得ざる斬撃。
「――死ね」
 ――頼々が動くのと同時だった。いや、頼々の方が僅かに速かったはずだ。
 けれど。軌道を読むことすら許さぬ超高速の斬撃が頼々の身体に傷を生み、鮮血が舞い上がった。
 くらりと身体が倒れ行く。
 あれのおかげで、その傷は直ぐに癒えるはず――だからひとまずは死んだことにした方がいい。
 咄嗟に思考しながら、頼々は砂浜へと倒れこんだ。
「死んだか……あぁ、そういえば、竜宮幣だったな。
 これの事か? くれてやる。ワタシ達には価値がない」
 竜宮幣をぽいと投げ捨て、空柊は悠々とその場を立ち去って行った。
「ま、待ってください、姐御!」
「勝手にしろ」
 呆然とそれを見ていた海乱義衆が空柊を追って走っていく。

成否

成功

MVP

雑賀 千代(p3p010694)
立派な姫騎士

状態異常

源 頼々(p3p008328)[重傷]
虚刃流開祖

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。
海乱鬼であって海乱鬼に非ざる者。
鬼殺しに率いられた者たちは如何なる事件を生み出すやら……

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