PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<光芒パルティーレ>※※※先着8名限定※※※リゾートホテル無料!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ゴーヨックの愉悦
 地上の喧騒とは対比的に、よどんだ空気があたりに満ちていた。ここは薄暗い地下の水槽。光が乏しいだけに波打つ黒い布を敷いているかに思えた。
 ばしゃん、ばしゃん。
 水面には深海に住む魚のように、光のない目を持ったサメめいた化け物がひしめいており、そいつが泳ぐたび。あるいはロープにぶら下がったならず者が真っ逆さまに水底へと落ちていくたびに水のドレープは波打ち、それが液体であることを知らせる。
「ひい、ひいい」
「どけーーっ、俺が先だ!」
 暗い水面の上、一本の細いロープが垂れ下がっていた。頼りないロープに、我先へと男たちが群がっている。サメのような化け物は、新たな獲物が落ちてくるのを今か、今かと待ち構えている。
 どこぞの異世界からの旅人であればさながら「蜘蛛の糸のようだ」とでも形容するだろうか?
 男たちはなんとか地上に這い上がろうとするが、彼らは一様に酔っぱらっていた。それに、細いロープ一本だけでは男たちをとうてい支えられるものではない。
「くそっこんなホテルに来なければ……っ! 来なければああああ!」
 みしみしとロープがきしみ、ついに決壊する。

 ああ、人の醜い様子というのは、なんと甘美なことだろう!
 争いあう男たちのを肴に、男はワイングラスをくゆらせる。

 彼の名前はドン・クラーク・ゴーヨック。
 いわゆる「悪い金持ち」である。そして、彼は己が抱く野望のため、「とある海王種」の復活の議をもくろんでいた。名を、破壊神暗黒オクトシャークという。
 しかし復活には8人の犠牲者が必要なため……。
 海運で財を成し、フェデリア島で「魔改造ホテル」の営業を開始した。
 現金が当たるだとか、飲食は無料だとか、「あなたの罪を知っています。5億G振り込んでください。もしくはホテルに来てください」だとか、きなくさい言葉を並べて人を釣り、だといってホテルに招き寄せては、古典的落とし穴だとかどんでん返しだとかウォータースライダーだとかで集めて最終的にドボンする作戦だった。
「ふは、ふはははは、うまくいった、うまくいったぞ!」
 ゴーヨックがけたたましい笑い声をあげながら、スイッチを押す。タービンが回りだして、地下牢からの排水が始まる。サメたちが檻から離れていき、あとには……あ、いっけない犠牲者をとらえるつもりが流してしまった。生贄は海水と一緒に外に排出されてしまったようである。
「……」
 まあいい、と彼は気を取り直す。破壊神暗黒オクトシャークに捧げるにしてはあれはちょっと下品すぎるというか、もうちょっとぴちぴちしてるほうが嬉しいだろう。オクトシャーク様とて。
「あと、8人……」
 世界の終わりは近い。そのはずだ。
 ホテルの地下に、ゴーヨックの高笑いが響きはじめた。

●ホテル・ゴーヨック
 さわやかな海風が、頬を撫でていった。どこまでも青い海は耳をすませば誰かの歌声が聞こえそうなほどであった。
 かつて、ここで大いなる戦いがあったと聞いたら誰が信じるだろう?

 シレンツィオ・リゾート。フェデリア総督府、そこは、三番街のはずれの高級リゾートである。あいにくとどこのホテルもいっぱいで……という状況のさなか、イレギュラーズたちは怪しさ満点の依頼書を握りしめていた。
 曰く、「※※※先着8名限定※※※新しくホテルを開くのだが、モニターとしてタダで寝泊まりしてアンケートに答えてほしい」みたいな内容……か、それに似たようなものか……あるいは酔っぱらったごろつきの「ほんとなんです! ホテルに泊まったらウォータースライダーでサメだったんです!」みたいな妄言に真実味を見出したのだろうか?
「あっ、お兄さん、お姉さん方、いかがですか?」
 ホテル・ゴーヨックの看板には、「酒、何杯でも無料」の文字列がおどっていた。
 なお未成年はジュースです。よろしくご検討くださいませ。

GMコメント

布川です。シャークトパスはいいぞ!

●目標
・ホテル・ゴーヨックで豪遊
・ホテル・ゴーヨックからの脱出(爆破可)

●場所
 シレンツィオ・リゾート三番街、高級リゾート地にあるホテル「ホテル・ゴーヨック」です。

・ホテル・ゴーヨック
 一見豪華なリゾートホテルに見えるところですが、魔改造されたホテルはトラップタワーと化しています。
 入り組んだ迷路のような廊下、階数の合わない階段、鏡の裏に抜け道、燭台を動かすと隠し通路、ウォータースライダー、落とし穴の先にはサメプール、といった具合に……。
 熟練したイレギュラーズなら逆に罠を利用したり、改造したりすることも可能でしょう。

・地下室(儀式場)
 ホテルに隠された儀式場です。地下にあります。
 とりあえずホテルでなんかあるとここに流されてくるようです。一方通行です。一方通行なんですあっ破壊しないで……!?
 サメが泳いでいて危険です。たぶん……?

 海に檻が吊り下げられていて、クレーンのボタン一つで水を抜いたり入れたりできます。8人犠牲になるとシャークトパス様が復活してしまうかもなので気を付けてください。

●スケジュール
・昼パート:ホテルを楽しむ(または、楽しむふりをしての調査)
 プールなどのレジャー設備も充実しており、表面上は割とまともです。なんかときどきサメがいる気がするけど……。
 おびき寄せるためにそれなりに酒やジュースと料理も用意しました。
・夜パート:儀式クラッシュパートです。

●登場
 支配人ドン・クラーク・ゴーヨック……ホテルを魔改造した人その人です。間違ってイレギュラーズ呼んでしまったのが運の尽き。いや頑張って儀式します。するんですって。
 彼の目的は破壊神暗黒オクトシャークの復活です。
 シルクハットにワイングラス、ペットは膝上の猫ならぬ床下のサメ。
 すがたは人に似ていますが、被り物をしていてどことなく磯くさい人物です。

 戦闘能力はほぼありませんが、ホテルは罠は豊富です。なんとなく逃げられてしまう予感がしますが、よほどうまくやったら捕獲もできるかもしれません。また、ほかの宿泊客はいません。存分にどうぞ。

 さめパンちゃん×10……支配人のサメのようなペット。愚かな犠牲者を鼻先でどつきまわすのが好きです。

●名声に関する備考
<光芒パルティーレ>では成功時に獲得できる名声が『海洋』と『豊穣』の二つに分割されて取得されます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はEです。
 無いよりはマシな情報です。グッドラック。

  • <光芒パルティーレ>※※※先着8名限定※※※リゾートホテル無料!完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年07月17日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉
金枝 繁茂(p3p008917)
善悪の彼岸
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星
ガイアドニス(p3p010327)
小さな命に大きな愛

リプレイ

●仮初の優雅な休日
 ざざん、ざざん。
 青い波が、白い砂浜に打ち寄せては返している。
 人々は海を見ず、また、息をすることも忘れ、楽園に舞い降りた美を眺めている……。
「夏で、海でー?
リゾートでしてーー!!」
『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)が大きくジャンプすると、ふわふわした髪が広がった。
「わぁい! 夏休み! リゾートホテル!」
『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)の南国の花が清楚にあしらわれているワンピースが揺れる。
『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)の姿を見た者は、海からやってきた人魚かとも錯覚するだろう。こちらはマーメイド型のスカートで、日傘から微笑みを見せている。
「いいわよねーリゾート。ホテルなんて実は初めてだわ! 楽しみ!!」
「最近こういうの多くてイレギュラーズって役得であるよな!」
「ルシアは覚えのないはずのくじに当たった? ので!
今日は疲れてぐっすり寝ちゃうぐらい思いっきり遊ぶのですよーー!!」
「それは幸運だったであるな! 日頃の行いが良いのであろうな!」
 まるでこの世のすべての幸いを集めたかのような『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)は南国のトロピカルジュースのグラスから唇を離すと静かにうなずき、きっと天使のささやくような声で「そうだね」と――。
「どう考えても詐欺だな」
 もっともなことを言った。美少年は現実を見ていた。
(仮にこんなうまい話があるにしても、シレンツィオが本格始動する前に始まる話だ。いくらなんでも遅すぎる)
 露骨に怪しすぎて儲け話があるかとも考えたが、見る限りは皆無である。
 手拭いを雑にかぶった従業員はやたらと魚っぽい匂いを発しており、ちらちらと目配せしているのであった。
「いや、いやいや! 従業員から支配人に至るまで人外! 隠しきれないくらい人外! 気付けよ! なんでお前らまで気が付かねえんだよ! 脳味噌にフカヒレでも詰まってんのかっ!?」
 わざとらしく首を傾げ、「?」という顔をする百合子とヴィリス。
「波がきもちいいですよー-!」
 はしゃぐルシア。
 みなの頭はすっかりリゾートなのであった。

●本当にこんなところにサメがでるんですか?
「……はあ……」
『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)の鼻は潮風の匂いを嗅ぎつけた。ここは申し分ないリゾートだ。けれども尻尾はしゅんと垂れ下がる。
(こんなに良い場所なのに、なんで息子がいないんだ……!)
 サプライズ親孝行とか。福引きで当たっての親子旅行とか……。楽しく遊んだ後はふかふかのお布団で川の字で寝落ちとか……。
『一緒にビーチバレーやりましょう!』
『父さん強すぎます! もう~! 利き手禁止!』
「あっこら騒霊さんは反則だぞ~!」
 みたいなことがあってもいいはずなのに……。
(くっ、息子ニウム不足のせいで思考が乱れる)
 ああ、ここに息子たちがいてくれたら……。
 いつか一緒に、こんなところにこれたら……。
 これは、下見と思うことにしよう。

「だからあ、リゾートホテルの支配人がサメで復活で大変なんだよ!」
「なんでサメ……?」
『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)は酔っ払いの言葉に首をかしげる。
「まあまあ! たいへんだったのだわね!」
『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)は泣きむせぶごろつきをぎゅうと抱きしめる。
「か弱いごろつきさん達には辛い経験ね!」
「お、おねーさん……へへ……ぐべっ」
「かはっ」
 世の中のか弱いものたちはほんとうに体が弱い。ガイアドニスにとっては頬をなでるようなことでも、彼らにとっては致命になってしまう。
 心からの同情を寄せながら、よしよし、と包み込んでやるのであった。
「だから、おねーさん、ぜったいに解決するのです!」
 きらんとグラサンを輝かせるガイアドニス。
「……。いやまぁ酔っ払いの証言でしたが……サメじゃないにしろ何か問題あった可能性はあるっすしね」
「あなたも一杯飲みますか?」
 水着を着た『夜妖<ヨル>を狩る者』金枝 繁茂(p3p008917)は慧にグラスを差し出した。
「どうもここのサービスらしく」
「あー……いや、デザートの方で」
「おや、真面目ですね。ではこちらをどうぞ」
「そういうわけでもないですけど……ありがとうございます」
 式神が、ちらりと白布の向こうから繁茂を気にしている気がした。どことなく、故郷の匂いがした。慧は海の向こうを見やる。

●ホテルの裏の顔
「もういい、お前らみたいな脳足りんと一緒にいられるか!
ボクは部屋に帰らせてもらうぞ!」
 いち早く部屋に引っ込んだセレマだったが、3歩目で床が思い切り抜けた。かろうじて窓枠にぶら下がったものの……警戒していなければどうなっていたことか。
 いや。
 壁の下の影。
 あの、特徴的なヒレは……。
「……まさか……そうか、そういうことだったか」
 セレマの瞳は、いち早くサメ真実を見抜いていた。
「これはボク一人の手に余る、早くあのフカヒレ共にも伝えn」
 その影が壁を突き破り、迫ってきたのは――。

 支配人の笑い声が響き渡る……。
 あと、7人。

「えーっと、ルシアの部屋はー、あの階でして! あれ?」
「あらあらあら! ごきげんよう」
 すべてをショートカットして飛び上がったルシアは窓越しにガイアドニスと出会った。脱出不可能な檻が落ちてきてもどうもどうも~とひねり潰していく超合金おねーさんはすべてを傷つけず柔らかく包み込んでいく。
「なんだ、このトゲは……息子がケガをしたらどうするんだ。ああ、でもこのせまいところはかくれんぼするのにいいかもな」
 同じく、ウェールはふんふんと辺りを探りながら、罠を無効化する。
 九死に一生を得ていることもつゆ知らず、ルシアはぱぱっと服を脱ぐと大胆な水着になりビーチへと向かう。
「今日は準備万端で来たルシアに死角は無いのでして!」

「なんか変な感じがするのであるよなこのホテル」
「そうなのよ。このホテル微妙に動きづらいわ……」
 百合子とヴィリスはぼやいた。
 階段の高さが段ごとに微妙に違ってて歩きにくい。廊下にも傾斜がついているし、気がつけばギギギと何か歯車が噛み合うような音がしてほぼ垂直まで傾いていく。ヴィリスは平然と車いすを操作するとランプをひねった。音の反響で抜け道があることはわかったのだ。
 訓練された美少女でなければ躓いてしまったかもしれない。後ろを転がっていく大岩に百合子はほほ笑み会釈を返した。
「こんにちは!」
「ああ、奇遇だな!」
 大岩の横からガイアドニスがどおんと壁をぶちやぶっていた。カキンと明らかにおかしな人体のノーダメージ音がして大岩はばらばら砕け散る。
「まあまあまあまあ!
アトラクションね!
知ってるわ、忍者屋敷ね!
楽しいのだわ~!」
「今何かおかしなことがあったわね」
「ああ」
「ここ、左右対称じゃないのよ」
 大切な何かがまつられていそうな祭壇にそっとスイッチを設置するヴィリス。
「うむ、これはあとで教えてやらねばな」
 パンフレットにマークをつける百合子。
 このホテルはおかしいが、イレギュラーズもまたおかしかった。

●だいぶ半壊
「この料理はおいしいですね。ソースは何を? 良いワインですね」
 プールサイドで寝そべる繁茂は、愛想良く微笑み次々と注文をつけていく。これは好都合だと、従業員は酒を運んできた。
「ほらあなたも飲んで、付き合ってくださいよ」
 繁茂の表情からは真意を読むことはできない。
 このペースで酔い潰せば……と支配人はご満悦である。
「支配人、大変です、罠が」
「なんだ?」
「そうなんです。なんだか調子が……ああっ!」
 監視カメラに一瞬だけ映った映像が途切れる。一体だれなのか見当もつかない……。
「故障か!?」
(っていう、ミスディレクションね!)
 カメラの死角でウインクするガイアドニスであった。

 慧は、音の反響で隠された部屋を探る。色の微妙に違うところは後から改造されたものだろう。百合子のパンフレットが役に立った。
(魔改造済みでなけりゃ、残したかったし楽しみたかった……)
 ホテルは仲間の活躍により、もはや作り替えられているというくらいにアリの巣と化している。しかし、そのおかげで、重要そうな部屋がある場所はわかってきた。頑丈に作られているのだ。監視ルームには隠し通路が映し出されている。
(みすみす脱出させるわけにはいかないっすね、南天さん)
 
 一方、そのころビーチでは…………。
「へえ、そうなんだ。元カノがお兄さんのことを好きになっちゃって自棄になってそれでリゾートホテルで……」
 酔い潰れる気配のない繁茂は酔い潰した従業員にふんふんと相槌を打っている。名前から赤裸々な事情まで聞き出していたのだった。
「飲み過ぎですよ。ちょっと頭を冷やしましょうか」
 ぱっとホテルの明かりが消えた……のを良いことに、プールに投げ込んだ。もちろんこれはもちろんこれは味方が色々やる時間を稼ぐためだがちょっと楽しそうなのは気のせいだろうか。
 暗闇に乗じて迫る影。
「おっとっと。敵意はないんですよ。そうですね、”強く”遊びましょうか?」

●ナイトメア(支配人の方の)
 一日目。夜。
 美少年が死体で発見されました。

「……こんな初歩的な罠で死ぬとは」
 美少年はむくりと起き上がる。本来であればそれを幸運にもなどと呼ぶのかもしれないが――美少年にとってはそれは必然でしかなかった。
 美少年は死なない。
「くっ、なかなか映像が見れん……まあ、いいだろう」
 そうとも知らず、支配人はイレギュラーズに対しての罠を発動させる。
 電気系統の様子がおかしい。……まあ、いいだろう。カメラにはすやすやと眠ったふりをするガイアドニスが映っていた。
「はははは! さすがのイレギュラーズも眠気には勝てなかったようだな!」
 スイッチを操作すると、巨大なサメが飛び上がってガイアドニスおねーさんにかみついた。バキッと音すらしたような気がする。バキ? なんで?
「あ~れ~!」
「あと……あと6人だ!」
「あーっ! 下着忘れてるのですよ……!」
 ルシアは悲鳴をあげる。これも支配人の卑劣な罠……ではない。違う。違うんだ。とりあえず簡単にバスタオルを巻いて、ルシアはごそごそと部屋を漁る。
「何もなし……、は何か色々良くないかもですし……このボタンはー、なになに何ですよ!?」
 カチ、と何かが音がする。
「あれ? これ何でして?
えっ!? 何か道が……!」
「あ、勝手に。いや計算通りだ!」
 違う。本当なら電撃が走るはずだったのだが超合金おねえさんが破壊してしまった穴なのだ。
「何か引っかかって――わぁぁー!」
 違う。それはウェールが「ここがぬれていたら息子が転ぶかもしれないから」とふさいでおいた罠なのだ。
「何か予定外な気がするが、まあいいだろう、あと5……っ!」
「ぐわあああああああ!」
「あの狼男もかかったか!」
 あの筋肉質の狼の悲鳴が響き渡った。後にはハンカチが落ちている。巨躯ににあわずマメなものだ。遺品を回収する。

 カメラを切り替える。

「うう……」
 車椅子から落ちてヴィリスが転がっている。辺りには鮮血が飛び散っていた。
「いやあああああっ!」
 床には、足が転がっている。ヴィリスが手を伸ばしてひもを引くと、すさまじい爆発音が響き渡った。
「支配人、これは!?」
「こっ、これは……いやなんだこれは」
 もこもこと煙がたちこめると、威光をもった黄金色の幻影が現れた。
「おお、おお、これはオクトシャークさま……! そうか、これはすべてオクトシャークの……?」
 うん? ……まだ生け贄捧げきってなくないか?
 いや、もしかすると美少年ならひとりで5人ぶんとかそういう贄なのかもしれない。だって美少年だし……。
「これがあなたのやりたい事ですか! ぐわぁ~! 南無三~!」
 繁茂の叫び声があたりにこだまする。
「サメ……いやマジでサメ?」
 慧はなりゆきを眺めながら額を抑えた。
「えっ酔っ払いの証言間違ってなかったってコトっすか?」
 いったいどういうことなのか……。
「……ワケわからん状況に流されてましたが、つまり殺人未遂犯では?」
 事態はかなり深刻なはずなのだが、どうにもアホみたいなチープな映像のせいで考えがまとまらない。とりあえず空気を読んで沈んでおくか、と水中に潜る。
 次々とイレギュラーズが消えていく。
「ね? 今、いいところなんですよ。分かりますよね。分からないなら……仕方ないですよね?」
 繁茂が演出の邪魔になりそうなペット鮫を画面外で締め上げていた。慧はそっと目をそらす。

「ちゃららら~っちゃららら~」
『恐怖! 黄金色オクトシャークVS人食いちりめんじゃこ』
 ガイアドニスの真に迫るナレーションの出来が良すぎて文字列をただ受け入れるしかなかった。美少年と見たなあ、と百合子は懐かしく思い出す。
「あっケーキですよ! 誰かの差し入れ……えっ!?」
 そこへルシアが流れてくるのであった。

●計算通りか?
「ありがとう、鼠さん。おかげで隙ができた!」
 ウェールの合図で、ネズミが配電盤をかじってくれたのだ。
「うわーん! 卑劣な罠でしてー!
ひきょうものー! ですよー!!」
 いつのまにかぐるぐるとコードやら謎の電飾やらまみれになりつられるルシアは涙目でポーンと排出された。
 ぱっ、とライトが一斉にルシアに向いた。

「さて、あとは支配人をとっちめるだけ!」
 ヴィリスは足を拾い上げる。もとより義足なのだ。突き出すトラップの棘を華麗にかわす。
「なんか落ちてお洋服、汚れちゃった……まだ一回しか着てないのに……」
 しょぼんとする百合子は美少女をやめず、楚々として美少年を回収するのだった。
「生きてたな!」
「死んでたよ」
「まずいわ! ダイナマイトよ!」
「美少年ガーーード!!!」
 美しさは砕けない。
「……死なないけどボクが死なないと分かった途端積極的に盾にしようとしてねえか?」
「気のせい気のせい」
「痛いもんは痛いんですけど? ハイ・ルール違反か?」
「た、助けてー! 助けてほしいのですよー!!
このままじゃ食べられちゃうのでしてー!!」
 勢いよく流れていくルシア。
「みんな何して……! 早く助け……えっ、あれ何ですよ!?」
「ふはははは貴様らは暗黒破壊神オクトシャークに食われるのだ!」
 目を丸くし、驚愕する百合子。
「吾のお気に入りのワンピースその位でダメにしたの!?」
「ワンピース? え?」
「許さぬ!! 絶望の中嬲り殺してくれる!」
「まあいいだろう。ここまで来れたらなあ!」
 ジェットスキーに乗り込んだゴーヨックはひらひらと手を振ったが、シャッターが閉まった。隠れ潜んでいた慧によるものだった。
 美少女は常識外れだった。
「見ろ! SSSガジェット3.0bの機動力を!」
 チートコードなんてなくったってすさまじい美少女力ではなかったのか。突き抜けて一周して、半歩ほど戻ってくる余裕すらあった。
 白百合清楚殺戮拳により背後に華を背負い、真っすぐに食らいつく百合子。それに合わせて迫るヴィリス。
「特に恨みとかないけどこれも仕事なの。せぇい!」
 すさまじい残像を伴った攻撃が、支配人をぶん殴る。
「……ま、仕事するっすかね……」
 慧はため息をつき、攻撃を受け止めた。その攻撃は相手の皮膚を切り裂く。夜叉呪血――その血をもって相手を足止めする。
「貴様ら――サメ丸はどこだ!?」
「かわいいわーかわいいわー」
「よく見たら愛嬌のある顔をしていますよね」
 繁茂とガイアドニスに下ったサメたちを責めることはできないだろう。だってペットになるくらいかしこいのだから。
「まあいい、私には『破壊神暗黒オクトシャーク』様がいらっしゃるのだからな!」

●知らない展開
「まさか、あの『破壊神暗黒オクトシャーク』でして!?」
「なんだとこの小娘…………知っていたのか!?」
 ルシアが叫ぶ。
 そこに現れたのは…………。
 超合金美シャーク――。
 ?
 手順というか根本から間違っている。きんきらきんのサメなのであった。
「なんだあれは!」
「8人食べなきゃ喚べないはず、まさか!  奇跡が起きたか設定のガバ露呈でして…!?」
「美少年といい感じに合わさったらしいな」
「うん。ボクのせいではない」
「そんな、そんな! あれが外に出てしまったら明日はどうなっちゃうのですよ……!?」
「支配人さんは何が狙いでして!? このままじゃみんな死んじゃうのですよ!?」
「死ぬのか!?」
「ひいいい、違う、あんなの破壊神暗黒オクトシャークじゃない!」
「自分で呼び出しておいて、責任感のないやつっすね」
「いや!?」
「どうせ呼ぶならファミリーチケットを寄越せ!!」
 空に浮いたウェールの激しい雷撃がホテルを直撃したのだった。
「まずい、どこいった?」
「……こっちだ」
 セレマはつかつかと気の向いた方に向かう。
「理由は?」
「美少年の運命だ」
 やれけったいな金持ちは、瞳を舐めたいとか踏んでくれとかもうそりゃあ生きていく上で無駄な遭遇は多いもので――。
「げえっ! なぜこの秘密の通路がわかった!?」
「よくも吾のウキウキ休暇を潰したな!」
「ぐあああっ」
「まてーっ」
 変形・灰銀狼宅配便が後を追いかける。よく食べる男所帯の買い出し量をまかなえるほどの機動力、そう、すべて息子のためにあるのだ。
 ウェールは息子のことを思った。一心に思った。
(りお、りお、りお……お父さん依頼を頑張るから
夏の暑さに負けず、トラウマを刺激した原因にお仕置きしてくるから)

●こんなはずではなかった
「おねーさん、発火しちゃいます!」
 無限に、無限に、輝いていくガイアドニス。獲物をどこまでも追い詰めるその構え。
「そんなハッタリは通用せんぞ! そんなことまでしたら」
「爆破って待ってルシアまだ捕まって動けな――」
 どっかん。
 派手な爆発があたりを包み込んだ。
「ひぃい……ひぃい!」
 息もしない。死も恐れない。正体がナニかもわからない。
 助けて、という声。支配人の心からの叫び。
「私達から逃げ切れるだなんて、思ってないですよね?」
 それは、しっかりと繁茂に届いていたのである。

「いやぁ、素敵な花火ですね。迫力があります」
 寝そべり、うちわをあおぐ繁茂だった。

「……はた迷惑だったっすね」
 慧の南天さんは、しっかりと支配人を捕まえてくれていた。
 支配人は、「あんなの暗黒破壊神じゃない」とうわごとのように繰り返しているという……。
「んー、そのうちまた行きたいわリゾートホテル。
出来ればサメが出ないところに」
 ヴィリスがぐいと背伸びをする。
「血糊がついてるぞ、お茶目さんめ」
 ははははは、と青空に笑い声が吸い込まれていった。

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)[重傷]
開幕を告げる星
ガイアドニス(p3p010327)[重傷]
小さな命に大きな愛

あとがき

『諸事情につきホテルは閉鎖させていただきます。
ホテル・ゴーヨック』

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