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シナリオ詳細

水面揺蕩う色彩に

完了

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●あなた
 ──七彩の湖、と言うのだそうよ。

 ある日、用もなくローレットに赴いたあなたは、彼女に小さな頼み事をされた。
 曰く、向かって欲しい場所は『七彩の湖』。
 年に一度だけ、朝方から夜に駆けて、湖全体が場所毎に様々な色の光を発する、隠れた名所なのだという。
「其処に向かって何を?」そう問うたあなたに、彼女は至極残念そうな顔で答えた。「楽しんできて欲しい」と。
 首を傾げるあなたに、妙齢の情報屋は言う。年に一度、自然の、けれど不自然な色彩を見られる機会ながら、その日は仕事が入ってしまったのだと。

 ──だから、教えて欲しいの。
 ──その日の湖はどんな色だったか。誰と、或いは一人で、何をして過ごしてきたか。そして、どんな気持ちだったのかも。

 依頼と言うには易しすぎるそれに、あなたは然りと頷いた。
 その反応に、満足げな微笑みを浮かべた彼女は、小さく付け加えるように、それと、と呟く。

 ──誰かを誘うなら、素敵な方法があるのよ。
 ──あの湖でしか出来ない、少しだけロマンチックな方法。

 寧ろ、それを狙っていたのだろうという言葉をこらえて、苦笑しながらあなたは彼女に聞いた。
 誰かを誘う、『特別』な方法を。

●貴方
 目覚めは何時もと変わらなかった。
 食事をして、服と装備を調えて。外に出た貴方の視界には、ぽつんと小さな紙袋が。
 訝しむ貴方は、その紙袋の中身を見て──その表情を、更に深くする。
 入っていたのは、或る色彩に輝く水を閉じこめた小瓶。そして、何処かへの地図を記した紙片だけ。
 紙片の裏には、貴方の知る人物の名前と、時間だけが書かれていた。
 誘拐か、或いはお誘いか。怪訝な表情の貴方は、悩んだ結果、その場所へ向かうことを決意する。
 ……その日が、少しだけ特別な日になることなど、思いもせずに。

GMコメント

 GMの田辺です。
 以下、シナリオ詳細。

●場所
『幻想』の首都、メフ・メティートを近郊に置く巨大な湖です。
 年に一度だけ、場所ごとに様々な色の光を発する特異な性質を持ちます。(ある部分では桜色、ある部分では藍色と言ったように)
 周辺の町村ではそこそこに知られた名所であり、この時期になると光る湖を見ようと集まり、じっと鑑賞する、或いは仲間と宴を開くなど、各々の楽しみ方をしています。
 時間帯は夜。集まった人々の計らいによって、湖から少し離れた場所には虫除けの香や、持ち寄られた軽食等も用意されています。

 年に一度、この些細なイベントが行われる日は、待ち合わせなどに変わった手段が用いられます。
 具体的に言いますと、湖の大まかな場所を示した地図と、誘った人の名前、集まる時間を記したメモ。そして「自分が居る場所の色彩」の水を入れた小瓶を渡し、自分の居る場所を見つけて貰う、という方法。
 それは大切な想いを伝える相手にその気があるかを確かめる手段であったり、友人が湖の場所を探し求めて右往左往する様を楽しんだり、或いは応援したりと、その日だからこそできるやり方と言えるでしょう。
 勿論、この方法は強制ではありません。その場所に着いてから集まった人々で気に入った色の湖を選ぶ、というやり方もあります。

●書式
 プレイングの冒頭部に【(色の名前)】【(個人or誘う側or誘われた側or同行)】とお書き下さい。「その色に光る部分に面した場所と、集まった流れ」で描写いたします。
 可能でしたら、相談掲示板にて自分(達)が描写される場所(=色)を宣言していただけると、他の方と被ることが無く、スムーズに描写できると思います。
 複数名で参加される方などは、同時参加される方の名前やID等で文字数を取らないよう、上記の書式のみを共通させていただければ大丈夫です。



 それでは、参加をお待ちしております。

  • 水面揺蕩う色彩に完了
  • GM名田辺正彦
  • 種別イベントシナリオ
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2018年08月21日 21時50分
  • 参加人数30/30人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(30人)

リオネル=シュトロゼック(p3p000019)
拳力者
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
知識の蒐集者
クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)
讐焔宿す死神
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
罪のアントニウム
上谷・零(p3p000277)
出張パン屋さん
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
絶望を砕く者
ポテト=アークライト(p3p000294)
ハニーゴールドの温もり
マナ・ニール(p3p000350)
まほろばは隣に
レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
蒼の楔
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
銀城 黒羽(p3p000505)
エト・ケトラ(p3p000814)
「国の」盾を説く者
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
星追う青
マルク・シリング(p3p001309)
ティミ・リリナール(p3p002042)
フェアリーミード
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
玲瓏の壁
ヨルムンガンド(p3p002370)
暴食の守護竜
ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)
キールで乾杯
ヨシツネ・アズマスク(p3p004091)
剣鬼
ミーシャ(p3p004225)
夢棺
ルチアーノ・グレコ(p3p004260)
Calm Bringer
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
桜咲 珠緒(p3p004426)
二人でひとつ
リア・クォーツ(p3p004937)
旋律を知る者
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
美咲・マクスウェル(p3p005192)
紫緋の一撃
エリーナ(p3p005250)
フェアリィフレンド
クライム(p3p006190)

リプレイ

●独り見るのは月と湖
 色光を燻らす湖に、最初は眩しいものというイメージを抱いていた。
 実際に覗けばそれは燐光と言うほどに淡く、夜目が特に利かない者などは自身で用意した光源などを元に、隣人と談笑している。
 そんな、最中に。
「……何が悲しくて男寂しく独りで参加でこんなことをしてるのか」
 ボヤくクライムの片手には、手酌で注いだ酒の杯。
 見知った者、そうでない者が仲間や親類と話しながら湖を見つめる姿を横目に、「まあ、何もできないわけじゃない」と言って杯を傾けた。
 戦いの依頼、そうでない依頼、何れにしても働きづめの最近に於いては、こうして夜空と、その星月の灯りを浮かべたような湖は良い肴だった。
「……さて、今日は英気を養って、とも思ったが」
 近くには人も居らず、故に危険も無かろうと考えたクライムは、携えていた剣を抜いては静かに鍛錬を始めた。
 ──遠目に見た幾らかの一般人がそれを演武と勘違いして、後々彼に群がっていくのは、もう少し後の話。
「……ふーん、これって、待ち合わせ前提のイベントなのかな」
 誰ともなく呟いた美咲も同様に。
 眼前には黄金色の湖。くいと酒杯をあおる彼女は唯それを見つめて、しかし彼女自身に不思議と退屈と言った感情は生まれなかった。
 目にしているそれが、不思議とその目を引きつけていたから、というのはあるだろう。
 場所ごとに色彩を変える湖。私の瞳みたい、そう言った彼女は、少しだけ満足げに目を閉じた。
「春は桜、夏は星。秋の月に、冬の雪。
 ……うん、ここは 並べちゃってもいいんじゃないかな?」
 異世界への『長期留学』も、中々悪くないと、そう思いながら。
 独り、湖を見つめる者達は、その多くが周囲に『そぐわない』と考えている者であったが、少数ながらそうではない者も存在する。
「……ひとりはひとりで、この輝きを独り占めできるのですね」
 呟いた珠緒が、此方に来るまでに点けていたカンテラの灯りを消せば、後は闇夜に揺らぐ白金の光を目に映すのみ。
 夜の水面という顕実を否定するような異彩。現に在りながら夢に似たこの感覚を、コトバに例えることは難しく、珠緒は頬に手を当てながら静かに悩む。
 或いは、言葉に表す手段など幾らでも有ろうが、それを捉えようとしないことこそが彼女が彼女である所以とも言えるかも知れない。
 終わらない小さな悩みに区切りをつけた珠緒は、小さく頷いた後に唄と演舞を眼前の湖に捧げた。
 ……元は動けぬこの身体を以て、自らに歓びを与えた存在に感謝を伝えられること、それもまた、確かな喜びだと思いながら。
「夜でも分かる、闇色の光って、不思議だよね」
 リーシャもまた喧噪とは異なる場所に身を置き、有志が供した軽食をもくもくと口に運んでいる。
 その前に浮かぶ湖の色は、漆黒。それは夜の闇すら吸い込むように、明確に他の色の湖から輪郭を切り取っている。
 わざわざこのような場所を選ぶ者も居まいと考えたリーシャの思う通り、唯一人佇む其処には他よりも更に人気という者を感じない。
 それでも、ブルーブラッドは満足そうに──少しだけ、寂しそうに。
「誰かを捜して、迷ってる人を見てると、やっぱり、少し羨ましいけれど」
 湖から浮かぶ不可思議な闇色に、柔らかく抱きしめられる感覚を覚えながらも、リーシャは目を閉じて小さく願った。来年は、誰かと一緒にと。
 今ある孤独に寂しさを感じるものがいる中で、しかしマルクはそれを良い機会だと考えていた。
 眼前の無色の湖は、遠目から除けば水底までを容易に映してくれそうにも見えるが、実際に間近でそれを見ると陽炎じみた光がそれを遮り、視界を徒に溺れさせる。
 叶いそうで、叶わない。それはマルクが一度味わった過去でもあった。
 姉のように思っていた人。今ではもう、義姉となったひと。
 心惹かれ、それは叶わず、ゆえに……自身が故郷を離れる前、一度だけ、身体を重ねたこと。
「恋人同士とかで来ている人、多いんだろうな……」
 再び、マルクは視線を無色の湖に寄越す。
 そうして思い起こされた故郷の記憶を、彼は愛おしんだ。唯一人の夜。それもまた良いだろうと。
「なんというか、粋な呼び出しだな?」
 呟くリオネルもまた、軽食を片手に湖の前に座り込んでいる。
 なんとなく歩き、腰を落ち着け、見えたのは朱鷺色の泉だった。尤も――
「目当ての色以外も、離れたところに違う色も見える、か?」
 言ったとおりだ。視界に臨む色彩の泉は確かに大きな面積を誇るが、それでも視線を横にずらすだけで違う色彩が覗ける。遠目にすればそれは殊に。
 思えば暴れ回ることが多い日常で、こうして静かに過ごすことはあまりなかったかもしれない。
 覚えてれば、また来よう。次はファミリーも一緒に。
 とろとろと流れる時間を、リオネルはまぶたを閉じながら楽しんだ。その光を楽しみつくすまで。

●共に臨むことも、また
 小柄な身体が震えるのは、不安が故か、それとも――期待からか。
「……他の色も綺麗だが、やっぱり水はこういう色のが落ち着くねぇ」
「っ、はい。どの色を待ち合わせにするか悩んだんですけど、やっぱり……」
 言いかけたマナの言葉が、ふわりと浮かぶ縁の笑顔で止まる。嗚呼、やっぱりかと。
 懐から取り出したのは、二人が今目の前にした露草色の湖を閉じ込めたもの。
 それは、嘗て二人が共に入った朝の海の色にもよく似ていた。「だから、見つけるまでには迷わなかったよ」。そう語る縁に、マナの頬がかっと赤く染まる。
「ははっ、すまんすまん。からかったお詫びに、ほら」
 そう言って、縁が取り出したのは和紙に包んだ冷たい割り氷だった。
 差し出されるままにそれを口に含んだマナは、それでも止まぬ胸元の熱に微か、困惑したまま――己の求めるままに、傍らの彼へと小さく身を預けた。
「……十夜様? どうかなさいましたか」
「いやあ、何でもないさ」
 その視線が自分を向き続けることに、マナは疑問と、更なる鼓動の高鳴りを覚えて。
 だからこそ、縁は笑みを色濃くした。眼前の湖よりも、ころころ表情の変わるマナを見ている方が面白いとは、間違っても口に出せなかったが。
「あ! おじさまー!!」
 湖のイベントを機会に集まるのは、何も縁とマナのような淡い関係のものばかりではない。
「此処に居たか……似たような色が多く、ずいぶん探してしまったな」
 笑顔でぶんぶんと手を振るルアナに対して、一息をついて呼吸を漸く落ち着けたのはグレイシア。
 件の情報屋の言うとおりに、湖の水と小さな手紙と、序でにイベントのチラシを差し挟んだルアナの『待ち合わせ』に、グレイシアは「怪文書かと思った」と評を置きながらも、珍しい誘いに思わず身体を動かしていた。
(……否、そればかりではないか)
 思うグレイシアの脳裏には、常に傍に付いていたルアナの記憶ばかりが焼きついている。
 常に行動を共にし続けていた彼女が、自分の手を離れて行動しているという現実が、彼を妙に落ち着かなくさせていたのもまた、事実だ。
 そして、それはルアナも同様だったのだろう。グレイシアの姿を見つけた彼女の喜びようは、普段では見られないほどのものだったから。
「あのね。あちこち素敵な光景らしいから、いっしょにあるこ?」
「……あぁ、吾輩も此処に来るまで、なかなか面白い光景を見てきた」
 ぴたりと寄り添う彼女に、グレイシアも小さく笑んで、両者は小さな歩幅で歩き出した。
「あとね、おじさま」
「うん? どうかしたか」
「……ううん、なんでもないっ」
 言うまでもないことだったと、ルアナは再び笑顔を浮かべた。
 待ち合わせに選んだ蒲公英色の湖、それがあなたの瞳の色に似ていたからだ、なんて。
「こいつはまた変わった催しがあったもんだな……」
 呟き、湖畔を静かに歩くのはクロバだった。
 事情は何も分からなかった。見知った知り合いの『妖精』から渡されたのは、この湖の水を閉じ込めた小瓶、それと地図だけ。
 湖へと向かう朝方のうちは、唯の乳白色に似た水に疑問ばかりを浮かべたものだが、夜になった今、それを夜空にかざせばよく分かる。
「この色で誘われたのもなんだか縁ってやつだな」
「ええ。選んだのは偶然でしたが、今にして思えば無意識に思い出していたのかもしれません」
 誰ともなく呟いたクロバの言葉に、返されたのは知己の言葉。
 お使いを終えた妖精にお菓子を与えるエリーナが、其処にいた。
「よう、待たせたな」
「いいえ、来ていただいてありがとうございます。」
 エリーナの前にある湖は、嘗て二人が出会ったとき。月の真白さに似た色光を湛えたもの。
 似たもの同士、そんな単語が浮かんだクロバに、エリーナが語りかけた。
「こちらの色を見ていたらクロバさんのことが頭に浮かびまして。
 ……呼んでおいて今更言うのも何ですが、一緒に眺めませんか?」
「あぁ、勿論構わないぜ」
 問うエリーナへ、気さくに応えるクロバ。
 腰を落ち着けた彼へとエリーナがお菓子を供じ、悪戯好きな妖精がそんな二人を見てくつくつ笑う。
 二人と、それに交わる妖精達の談笑の時間は、出された茶菓子が無くなった後も、しばらく続いていた。
「……この世界には色々な景色があって毎度驚かされる」
 言って、瑠璃色の水が封じられた小瓶を手に歩くのはヨルムンガンドだった。
 湖を見て回る最中、色とりどりに変わる様を見ていた彼女は、それ故に驚嘆を禁じえなかった。ただ湖ひとつで、ここまで人の目を奪えるものなのかと。
「……ああ、来てくれたんだな」
 忘と歩みを進めるヨルムンガンドの足が、其処で止まった。
 声の先には彼女を誘った男、零の姿。来てくれてありがとうと言った彼は、自身の隣を指差して座るように案内する。
「今日は誘ってくれてありがとうな! 誰かが待っててくれるって考えると、すごく嬉しかった!」
「あー……まぁ、一人で見るにはもったいないと思ったから、な」
 喜色を浮かべて感謝を伝えるヨルムンガンドに、零は訥々と思いを口にする。
 実際のところ、誰かを誘うという経験が殆どなかった零は彼女が来るかどうか、落ち着かない気分のまま過ごしていたのだが、それを口にしない程度には彼にも矜持というものがあった。
 手にした小瓶をそのまま広げたような瑠璃色の湖に、小さく感嘆の声を漏らしたヨルムンガンドは、そうして零のほうへと向き直り、
「それと、景色を一緒に楽しむ前に、歩いて少し小腹が空いたな……」
 じっと見つめる彼女に苦笑を浮かべた零は、用意された飲料を彼女に渡しつつ、空いた片手をかざした。
「それじゃあ、夜食にフランスパンはどうだ?」
「ああ、いただきます!」
 喧騒と、静寂と。そのどれもを綯い交ぜにした光る湖の中で、しかし更に人の目を惹くものがあるとは誰が考えるものか。
 その日、現れたリゲルは正装を着て白馬に乗り込み、剣の代わりに青を閉じ込めた小瓶を手にして、愛しい人を捜し求めていた。
「……っ、ポテトー!」
「リゲル!」
 探し人を見つけ、喜びと共に白馬『アルタイル』を飛び降りたリゲルは、青いワンピースを着た彼女に駆け寄ると、その身を直ぐに抱きしめた。
 待たせたお詫びにと彼がポテトの額に口付ければ、対する彼女もくすぐったそうに、けれど嬉しそうな笑みを浮かべる。
「来てくれると思ってたよ」
「勿論だ。それと、その服は……」
 少しだけ、顔を赤らめたリゲルに、ポテトは寧ろ自信満々に答えを返した。青はリゲルの色だからな、と。
「緑とか他の色も考えたけど、やっぱり青にしたんだ」
「うん。青色もとても似合っているよ。それに……」
 ――まるで、俺色に染め上げたようだ、なんて。
 歯の浮くような台詞に、思わずはにかみながら笑った彼へ、ポテトはたまらず自身の唇を彼と重ね合わせた。
「……愛してる、リゲル。
 これからも、ずっと一緒に色んなものを見に行こう」
「俺も愛してるよ、ポテト」
 一番大切で、一番大好き。
 そんな人と一緒に、その人を表す色彩の湖を眺めるのは、とても幸せな気分だとポテトは言う。
 だから、リゲルもこう返すのだ。
「……その景色も、君と一緒だからこそ、より一層輝いて見えるんだ」
 見知った、親しい人々が会い、言葉を交わしている。
 それを──少しだけ、眩しそうに見つめながら。レイチェルは湖畔をとぼとぼと一人、歩いていた。
 自身が寝床としていた廃墟に、地図と小瓶が届いたのは今朝方のことだ。
 行かないことも出来たが、彼女はそれを選ばなかった。
 只の気まぐれ、そうも言えようが……贈られた小瓶に封じられた蒼が、亡き妹の瞳の色が、まるで自分を呼んでいるようにも思えて。
「……あの。私のこと、覚えているでしょうか」
 赴いた蒼の湖には、銀灰の髪と青い瞳をした、一人の少女が待っていた。
「……あの時のお嬢サンか。覚えてるぜ、息災で何より。」
「ティミ・リリナールです。あの時はありがとうございました」
 何時だったか。雑貨屋の前で落ち込んでいる彼女を見ていられず、飴を握らせ、些細にも励ましてくれた覚えがある。
「これ、あの時のお礼です。お菓子とか大丈夫でしたか?」
「焼き菓子とかの甘い菓子は好きだ。美味い。……にしたって、ちょっとばかり貰いすぎだな」
『お返し』には大きすぎるそれに、自分からも何かを返したいとポケットをまさぐれば。
「これって、あの時の……」
「……同じ味に飽きちゃいないなら、受け取ってくれ」
 ぶんぶんと首を振ったティミは、嬉しそうに差し出された飴を受け取って、レイチェルに視線を合わせる。
 初めて会ったときと同じ、美しい金と蒼の光彩を湛えた瞳。
 それが今、より一層輝いて見えたのは、この夜の所為か──或いは。
「……こんばんは、この度はご足労頂き感謝します」
「此方こそ。お誘い頂き、ありがとうございます」
 人々が様々な形で逢瀬を楽しむ中、其処にあった気配は、少しだけ趣を異にする。
 雪之丞とヨシツネ。夏夜の涼やかな空気に、ぴんと張った剣気が両者の中にのみ流れている。
「お誘いのお手紙、実にヨシツネ様らしく思いました」
「いやさ、こういう催しには慣れていないので、些か間違っているかと冷や汗を掻きましたが」
 雪之丞が懐から取り出した手紙には、達筆な行書体で、以下の一文が書かれていた。

 ──朱の畔にて 余花待たむ。

「遅咲きにしても、過ぎているとは思いますが……さて」
 呼び出した目的は、如何に。
 鍔に指を当て、何時でも鯉口を切れるよう言った雪之丞に、ヨシツネは努めて気の抜けた調子で言葉を返した。
「気構えなくて結構です。本日はただ休息を、と思いまして」
「──────。休息、ですか」
 毒気を抜かれるとは、正にこのことか。
 先ほどまで鞘を握っていた手から力が失せ、自然と足が地に横たえられる。
「まずは気を抜く練習です。今日の所は暫くこのままボーっとしませんか?」
「……そうですね。夕涼みには、とてもいい場所ですから」
 苦笑を浮かべた雪之丞に対して、恐らくは持ち寄られたものだろう、杯と茶器を用意していたヨシツネは、なみなみと玉露を注いだそれを雪之丞へと差し出した。
「それでは、先ず互いに一献」
「ええ。季節外れの花見と、参りましょうか?」
 ──正に、桜の色をした湖の前で、二人は自らの杯をついと傾けた。
「ルーク、ルークっ……!」
 待ち人を捜し続ける人たちの中で、きっと、最も相手を必死に探し続けたのは彼女だろうと言える。
 きょろきょろと周囲を伺うノースポールの手には、目的地にチョコ色の帽子が記された地図と、オレンジ色の水を閉じこめた小瓶。
 探し回るうちに見えた、湖の様々な色は美しかった。この小瓶に閉じこめられた、彼女自身の瞳の色にも。
 けれど、それよりもなお、今彼女の心を強く惹きつけるものは。
「……こっちだよ、ポー」
 聞こえた、もっとも愛しい人の声に、ノースポールが思い切り振り返れば、其処には彼の姿が。
「ルークっ」
 息を切らして、駆け足で走り寄ったノースポールは、そうしてルチアーノの身体を強く抱きしめた。
「来てくれて有難う。もう……誰にも、渡さないよ」
 それを抱きしめ返すルチアーノも、言葉に、態度に、今の自分から溢れる愛を全て注ぎ込もうと強く思う。
 もし今日の祭りのように、互いが引き離されたとき、そして一年に一度しか会えないとしたとき、自分はどうするのだろう。
 待ち続ける間、ルチアーノはずっとそれを考えていた。そして、それが無意味な問いだったと言うことを、何時もと変わらない彼女の姿を見て悟った。
「……うんっ。絶対に、離さないでね?」
 例え、何が自分達の邪魔をしようと。
 決して、自分達の絆を引き裂かせはしないと、二人はこの時、強く思ったのだ。

●より多くと、分かち合うことも
「……あら?」
「うん?」
「まあ!」
 其処に、見知った顔の者が三人も集まったのは、全くの偶然だった。
 クラリーチェ、エト、そしてウィリアム。
 皆が皆、待ち合わせた意図など無かったことを知ると、知らずと誰かが言った。それならば、この偶然を良い機会にしないかと。
 三人が集まった紫の湖を前に、最初は誰もが無言だった。やがて、最初にクラリーチェが、ぽつりと。
「……綺麗な紫。どこかの国では、紫は高貴な色だったとか」
「よく知ってるな」
 素直に感心したウィリアムは、そうしてクラリーチェに続いて眼前の色彩に浮かんだ思いを素直に口にする。
「俺にとっては……紫は、どこか夜明けを思わせる色、かな。
 夜が好きだったけど、近頃は明けの空も嫌いじゃない」
 ……それが「夜更かしのし過ぎて良く目の当たりにしているためでもある」などと言ったら、間違いなく二人にたしなめられるであろうと、内心では思いつつも。
「そうね。私にとっても紫色で考えるのは、黎明、あるいは夜に染まるあわい、かしら」
「……良かった。同じ色を素敵だなと思える方とご一緒出来て、私はとても嬉しいです」
 今日のイベントの趣旨とは、少しばかり違うかも知れませんが、そう言ったクラリーチェに、エトもにっこりと頷いて。
「ええ、同じものを見て綺麗だと思える……それってとっても素敵な事だわ」
「ああ。会ったときこそ驚きはしたが……ま、こういう出会いも悪くないもんだ」
 まったく、偶然大いに結構。
 談笑を続ける彼らは、今日の思い出にと湖の水をそっとくみ出して、閉じこめることを提案する。
 湖の光はこの一夜で消えるが、それがまた一年の後に輝くとき、今日という日をきっと思い出すだろうと、そう笑い合って。
「……あらぁ、最後の一人がご到着ねえ」
「勘は当たっていたようですが、この広範囲を香りだけで探すのは無理がありましたね」
 場所は変わって、菫色の湖の前で。
 恐るべきペースで酒杯を傾けるアーリアと、ミディーセラ。そして若干呼吸の荒いリアの三人を前に、苦笑混じりの寛治が足を運んだ。
 腰を落ち着けると同時、振る舞われた菫色のリキュールを口に運んだ彼は、その表情を綻ばせた。
「良い香りです。この湖の色も相まって、実に素晴らしい」
「ええ。ええ。何としてでもアーリアさんを見つけた甲斐もありましたわね」
 答えるミディーセラの方にとまったフクロウも、振る舞われた酒のツマミをこっそりと口に運んでいる。
「もう、こっちは二人の分のお酒まで手を付けないようにするの、大変だったんだからねぇ?」
「私はお茶だったから助かったけど、それでもまあ……ううん」
 リアは小さく笑いながら「何でもない」と口にした。
 最初、アーリアに呼び出された彼女は、同じ人を探しに来た寛治とミディーセラに気付いては、誰よりも早く辿り着こうと息巻いていた。
 その為に、普段は使いたがらないギフトまでを有効活用して……それが逆に、リアの心を落ち着かせた。
 探し求めるアーリアと、そして、アーリアを探す寛治やミディーセラの美しい旋律を聴くうち、その歩調は徐々に落ち着いていったのだ。
 ──こんな旋律に包まれるのなら、別に一番じゃなくてもいいのかしら。
 口にするのは面はゆい。それゆえ、彼女は心の裡だけで、皆に感謝を伝える。
「誘われたときは、素敵な湖だと思いましたわ。
 年に一度だけ、見るものによって変わる……雨上がりにかかる七色の道のような」
 ならばこれは、虹の上での待ち合わせのようではないか、と。
「今は、そうは思わないってこと?」
「いいえ。ところによって色を変える湖は、未だ私の目を惹きつけますが……」
 そう呟くミディーセラの視線は、今はアーリアの髪に向けられていた。
 種々様々な色の酒を嗜むアーリアの髪は、それと同じ色彩へと美しいグラデーションで変化していった。不思議で美しい、綺麗な髪色。
「そうまでじっと見つめられると、照れちゃうわよぉ」
 視線の意図に気づいたアーリアは、くすくすと笑いながら、未だにペースを崩さず酒杯を傾けた。
 そんな三人の仲睦まじい様を目の前にして、寛治は笑いながらアーリアに酌をする。
「それが酒でなくとも、杯を交えれば知己となり、友となる。
 ……世界を超えても変わらぬ、真理なのでしょうね」
 年かさの違う面々が、こうして唯一つの誘いを元に集まり、杯を交わして談笑するという、この事実こそが。
「尤も、可愛らしいお二人に、むさくるしい男が混じるのも幾分恐縮ですが」
「あら?」
 微笑んだアーリアは、寛治の言葉に視線を向けて、誰ともなく呟いた。
「私は、新田君も来てくれて、とっても嬉しかったわよぉ?」
 言葉の裏には、彼女自身の傷ついた来歴が裏打ちされていた。
 一人で居ると言うことは、追っ手に襲われると言うことと同義。
 だから、常に警戒し続けた。それが見知った人間でも、絶対に。
 ……それ故、そんな自分を『過去』にしてくれた彼らは、アーリアにとって疑いようもない大切な人達だった。
「みんな、見つけてくれて、ありがとぉ」
 微かに、酔いの醒めた表情で、アーリアは三人に微笑みかける。
 その表情に、笑顔を返さない者は居なかった。

●七彩が、また巡るまで
 やがて、夜が明ける。
 夜闇が朝焼けに変わるとき、様々な色に輝く湖も、元の透明なそれへと戻っていった。
 それを──惜しむように、黒羽は銀に光る湖を掬い、その場を後にする。
 最早失われたその輝きを、その手に閉じこめるようにしたまま。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ご参加、ありがとうございました。

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