シナリオ詳細
<タレイアの心臓>理想と思想の暴発、迷妄と憎悪の落日
オープニング
●エーニュの鼓動
イレギュラーズ達が、深緑を奪還すべく世紀の大決戦へと臨んでいたころ――。
深緑の隅、留まった憎悪の濁り水は、今この時静かに、静かに流れだそうとしていた。
迷宮森林端から出発した彼ら、『アルティオ=エルム民族主義者同盟、略称AeNU(エーニュ)』の部隊は、決戦の準備にいそしみ、手薄となった森林内の防衛を、ひそかに突破し始めた。
簡潔に、エーニュについての説明をしよう。ザントマン事件を契機に、『外』に対して憎悪を持つ排外主義者が暗躍し始めた。そうだろう、ザントマン事件は、様々な要因こそあれど、ほとんどの深緑の幻想種にとっては、ラサの悪徳商人が、幻想種たちをさらい奴隷にして売り捌いた事件だ。必然、外の人間に憎悪を抱くものも出てくる。
そう言った『外に憎悪を持つもの』の中でも、特に極まった集団――本人たちは、それに気づかず、深緑の民を外部から守るという大義名分を謳っているが――こそが、エーニュだ。端的に言えば、国外の人間に対するテロリストであるとみてもらって、ひとまずは構わない。
話を戻そう。森に潜む、悪意。いや、それは悪意と自覚されたそれではない。純粋な、正しさという迷妄から生み出された唾棄すべき熱情。それを胸に抱きながら、エーニュ『シルマ部隊』の小隊長、ティーエ・ポルドレーは、くらい穴倉から這い出て久方ぶりの森の空気を楽しむように、大きく息を吸い込んだ。
「すばらしい……深緑のかおりだ。リッセの目指す、素晴らしい世界のかおりなんだ……」
陶酔するように言うティーエに、しかし部下たちは嫌悪感を示す様子はなかった。元より、シルマ部隊とは、エーニュの上層部に深く食いついた組織である。詰まる所、最も狂っている連中、と言っても過言ではないから、ティーエの狂気などは軽いものともいえる。
「……」
同時、アストラ・アスターは眉をひそめた。ティーエの言葉にではない。あまりにも、森が静かすぎることに対してだ。
「妙だ。今外は、茨による眠りの呪いが広がっているはず……」
そう呟くと同時に、ティーエは叫んだ。
「みろ、これを!」
ティーエが指さす方向を見てみれば、枯れ落ち、朽ちた『茨』の残骸が広がっていた。これは間違いなく、これまでこの辺りを覆っていた、茨に間違いなかったのだ。
――当然のことながら、これはイレギュラーズ達による『攻撃』の結果である。茨の呪いに対抗する手段を得たローレット・イレギュラーズ達は、その策を実行――見事ファルカウまでの道筋を得ることができたわけだが……同時に、この様な厄介な連中を、引き入れる結果ともなっていた。
「わかるか、これが?」
「何が言いたい?」
「これは奇跡なんだ! リッセが起こした……ああ、リッセの想いを、大樹ファルカウが汲んで、その力を解き放ってくれたんだ!
やっぱり、リッセは正しい……俺たちは、ぜったいに、正しいんだ……!」
陶酔するように言うティーエに、アストラは胸中でつばを吐き捨てたい思いだった。
そんなわけがあるか。これはローレットの仕業だ。
予定が狂っていた。本来ならば、エーニュたちの進撃などは、大半が茨に阻まれ戦力をいたずらに消耗し、運よく目的地であるアンテローゼ大聖堂に到着したとしても、防衛のイレギュラーズ達にあしらわれて終わる。そのように、アストラは理解していた。
だが……あまりのも運がよかった(わるかった)。決戦に臨むイレギュラーズ達はこの時、アンテローゼを離れ、ましてやある種害意ある存在からアンテローゼを守るという皮肉な役割を果たしていた茨を、自らの手で消滅させてしまった……。
「まずいな……」
アストラは静かに呟くと、掌にリスのような小動物を生み出した。長距離移動用のファミリアーである。それに、ティーエたちに気づかれぬように、用意した手紙を持たせると、そのままアンテローゼに向けて解き放った。
「さて、『慎重に進もう』。何があるかわからないからね……」
アストラがそういうのへ、ティーエは「ああ!」と無邪気に頷いた。
●アンテローゼ攻防
「あ、アトさん! 大変です!」
と、決戦への出発の時を待っていたアト・サイン(p3p001394)へと声をかけたのは、ラーシア・フェリル (p3n000012)だ。息を切らせて駆けてくるその手には、何やら紙片が握られている。
「ラーシア君か。どうしたんだい?」
アトの隣には、心配げな顔を見せるフラーゴラ・トラモント(p3p008825)の姿が見える。ラーシアは二人に視線を移すと、
「え、エーニュです。彼らが動いた様子なんです……!」
と、慌てた様子で言うので、さすがのアトも、僅かに動揺した様子を見せた。
「莫迦な、このタイミングでか。なぜ気づいたんだ?」
「ええと、アストラ・アスターって方から密告文が届いたんです。現在アンテローゼへ向けて進行中、と……」
「あの女が?」
そう声をあげたのは、イーリン・ジョーンズ(p3p000854)だ。
「……知ってる、の?」
フラーゴラが尋ねるのへ、イーリンが頭に手をやった。
「ええ、少しね……そいつは信用できないけど信用できるわよ」
「矛盾だ。だが君が言うのならそうなのだろう」
ふむ、とアトが唸る。
「どうしますか? このままでは、無防備なアンテローゼにエーニュがやってきますし、決戦に備えている今じゃ、沢山のイレギュラーズに助けをお願いするわけにも……」
ラーシアが言うのへ、アトが頷いた。
「二人とも、手伝ってほしい」
フラーゴラと、イーリンに、そう言った。
「可能な限り、少数精鋭でぶつかる。相手は相当の数で来るだろうが……すまない、これは僕の事件だ。皆を巻き込むことになってい締まったけれど……」
「大丈夫……」
フラーゴラが微笑んだ。
「ワタシは、アトさんの力になるよ……」
「私も、アストラが絡んでいるなら力を貸すわ」
イーリンが言う。
「決戦前のウォーミングアップと行きましょう。
なに、これから戦う竜だの冠位だのに比べたら、大したことのない連中だわ」
「違いない」
ふ、とアトは笑った。
「ラーシア、君も手伝ってほしい。少数でいい、動ける仲間を招集してくれ」
「分かりました。皆さん、お気をつけて……!」
そう言って、ラーシアは大聖堂へ向けて駆けだしていく。ともに防衛にあたる仲間を募るために。
「エーニュか。大規模にぶつかるのは初めてだけれど……さて、どうなるかな」
アトが呟き、空を見上げた。
迷宮森林の空は、その憎悪に震えるように、冬の色を見せていた。
- <タレイアの心臓>理想と思想の暴発、迷妄と憎悪の落日完了
- GM名洗井落雲
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年06月05日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●行軍
エーニュ……アルティオ=エルム民族主義者同盟。それは、幻想種の尊厳を守るという迷妄に踊らされた狂信者の群れ。
誤解を恐れず、しかし端的に告げるならば、彼らは間違いなく【テロリスト】であり、暴力と恐怖によって己が主張を通そうとする、平和とはおよそ真逆な連中であることに違いはない。
されど……暴力で以って平和を騙る矛盾を、彼らは考えない。頭が悪い、のではない。もはや崩せぬほどに積み上げられた理想と過ちがコンクリートよりも強固に、狂気の塔をくみ上げているのだ。
例えば……この男、ティーエ・ポルドレーは、足に使用感のある――おろしたての靴は得てしてけがをしやすいものだ。重要な作戦にはいていくべきではない――練達性のスニーカーを履いているが、もしエーニュの思想が達成されたならば、そのお気に入りの練達性のスニーカーは、二度と新しいものが手に入らなくなるのだ、という事に、ティーエは気づいていないのだ。
それを愚かだと断罪するのは簡単だ。だが、彼らがそれに至った経緯を考えるならば――それは、我らもまた、彼らと同じ狂気に堕ちるのは他人事ではない、と考えるべきだろう。人生という道は平たんではなく、簡単に【理想の道】からそれるのだ。
人生論を語るのはこの物語の主題ではない。問題は、彼らエーニュの兵隊が、部隊を率いてアンテローゼ大聖堂へと向かっている、という点にある。ティーエ率いるシルマ部隊は意気軒昂、ギラギラとした目でただ真っすぐに道の先を、もはや人の手に穢されてしまった大聖堂を目指して進む。
かたや、アストラ・アスターの率いるHNLFの面々は、歪んだ理想と思想に燃えていたとしても、シルマ部隊のメンバーに比べれば些か【冷えて】いた。それは指揮官たるアストラの指示が伝わっているからでもあり、同時に二つの部隊の指揮官、つまりアストラとティーエの熱の差を如実に表してもいた。
「アストラ。俺は嬉しいんだ」
ティーエが言う。
「ついにこの日が来た……何度も言うが、何度も言いたくなるのも仕方ないだろう?
俺たちは耐えて、忍んで……ようやくリッセの理想を成し遂げられるんだ……!」
恍惚した表情で言うそれは、親に褒められるのを期待してる子供のそれを思い起こさせた。ティーエもまた、複雑な人生を送ってきた身ではあるが、それを知ったうえで、しかしアストラはその背景を無視した。彼は彼女の【患者(しんじゃ)】ではなく、そして手の施しようがないほどに、純粋に壊れてしまっていることを、理解していた。
「そうか。それは結構」
適当に相槌を打ちつつ、アストラは胸中で思索を巡らせた。
(……彼女は来るだろう。間違いない。何か奇妙な……確信めいた気持がある。
彼女が大聖堂にいるのならば、私の意図を理解してくれるはずだ。
上手く動いてくれよ……)
そう巡らせながら、テロリストたちはひたすらに、森林を進み始めた。
「アストラ・アスター。彼女は間違いなくテロリストだけれど、彼女の言葉信用できるとみて良いわ」
アストラが言う【彼女】。つまり『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)の言葉に、大聖堂の防衛に招集されたイレギュラーズ達は頷いた。
「つまり、革命屋(テロリスト)は確実に来るって事スか」
頭に手をやりながら、『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)が相槌を打った。
「元の世界でも何度か、商売相手になった(たたかった)ことがあるので慣れたもんスけど……。
ああ、こういうタイミングで来るってのも、何とも空気の読めない所はどの世界でも共通なんスかね」
「まったくだぜ。こっちは冠位魔種だ竜だって大騒ぎしてる最中だってのになァ」
流石の『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)も、鬱陶し気に眉を曲げていた。レイチェルの言葉を借りるならば、まさに今回のエーニュの作戦とは火事場泥棒。此方がバタバタしている最中に本懐を遂げようとは、それが戦術として理にかなっていても、些か図々しいというもの。
「ただ……なんというかな。確かにタイミングとしては的確だ。しばらくしたら、ハウザー達ラサのメンバーが護衛に回るんだろう?
一番手すきのタイミングと言えば今だ。アストラってのが情報を流してきたのはさておき、この符号は妙だな」
「向こうにも、随分と気にきいた奴がいるんだろう」
そういうのは、『観光客』アト・サイン(p3p001394)である。
「エーニュってのは、お前さんがおってた組織だったな。ラサで暗殺委未遂をやったとかっていう」
尋ねる『悠遠の放浪者』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)。報告書(SS)が上がっているが、アトはエーニュとは因縁浅からぬ間柄であるらしい。
「ああ。どうも、彼らに資金提供しているスポンサーがいるらしくてね。もしかしたら、彼の入れ知恵かもしれない。
もちろん、偶然という線も考えられるが……」
「テロリストに金をやってる連中がいるってのか。世も末だな」
バクルドが肩をすくめるのへ、美咲が苦笑した。
「どの世界にも、金使って欲望をかなえたい連中はいるもんスよ」
「重みがあるな」
バクルドが笑う。
「さておき」
アトが言った。
「いずれにしても、敵は来る、と見ていいだろう。ならば、その間に防衛陣地でも作れるかな?」
「バクルドさん、罠の設置とかお願いするっすよ」
そういうのは、『蒸気迫撃』リサ・ディーラング(p3p008016)だ。
「私は改造の方が得意っすからね! まぁ、急場の改造なんで、どう出るかは神様の運しだい、見たいなところはあるっすけど」
「いや、充分だ。簡単な罠を設置していくから、お前さんのセンスでどんどん弄っていてくれ」
「了解っす!」
バクルドの言葉に、リサはにっこりと笑った。二人が駆けだしていくのへ続くように、おがくずと油を抱えて行くのは『自然を想う心』エルシア・クレンオータ(p3p008209)である。『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)は、その様子に目を丸くすると、
「……燃やすの?」
「はい。目立つでしょう?」
そうにっこりと笑うエルシア。そのピンク色の目は、何か思う所があるように、過去を見つめているように見えた。
「……幻想種民族主義、ですか。ふふ。お可愛らしい事を」
くすくすと笑い声をあげて見せるエルシアに、フラーゴラは小首をかしげた。
「……気をつけてね。火傷とか」
「ありがとうございます。ええ、大丈夫ですよ。慣れてますから。それでは」
エルシアが行くのを、フラーゴラは見送った。振り返ってみれば、アトとイーリンが何事かを話し合っている。エーニュについてか、作戦についてか、ここからは聞き取れなかったが、興味を抑えて、フラーゴラも自分の仕事をすることにした。
「フラーゴラさん、ちょっとそこの木の枝をとってくれない?」
そう声を聴いてフラーゴラが振り返ると、何やら穴を掘っている『狐です』長月・イナリ(p3p008096)の姿が見えた。足元にあった枝を拾って、渡してやると、イナリはそれを鋭くとがらせて、小さな落とし穴に埋め込んだ。
「こうすると、足止めになるでしょ?」
「……たしかに。でも、なんだか本当に、こういうの……人と、戦争してるみたいだね……」
フラーゴラが言うのへ、イナリは頷いた。
「……向こうはそういう気持でいるんじゃない? 理解しがたいけど。
確かに、変な話よね。こっちも深緑のために行動してるんだけど、向こうもそれを主張してるんでしょ?」
「そうだね……変な話、だよね」
フラーゴラがしゅん、とした様子を見せるのへ、イナリは元気づけるように肩を叩いた。
「気にしない方がいいわよ。絶対、向こうの方が間違ってるもの。
正義って言葉には色々あっても……仮令、向こうの想いに重いものがあったとしても。
私たちは、間違ってないわ。まだ、今はね」
「……ワタシたちも、間違えるって事?」
不思議そうに、フラーゴラは小首をかしげた。イナリは笑う。
「別に、絶対そうなるなんて言ってないわよ。
そういう気持を持っておいた方が、そうなりそうなときに踏みとどまれるって事。
人間って、時に間違えるものよ。そういう時にとめてくれたりしてくれそうな人……ちゃんといるでしょ?」
その言葉に、フラーゴラの脳裏に、幾人かの顔が浮かぶ。それは例えば、アトだったり、イーリンだったり、大切な友達だったり、仲間だったりした。
「……うん」
「なら大丈夫。
というか、ちょっとした雑談だから、あんまり深く考えないで。
あ、イーリンさんとも相談することあったんだ……」
そういうと、イナリは駆けだした。
「あ、フラーゴラさん! その辺、目印はあるけど気をつけてね! 踏んじゃうと痛いわよ!」
そういうイナリに、フラーゴラは頷いて見せた。
一方、レイチェルと『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は、アンテローゼ大聖堂の周囲を確認しつつ、警戒に当たっていた。
「やれやれ、よりにもよって大聖堂に火種を持ち込むとはね」
ゼフィラが呆れたように言うのへ、レイチェルは肩をすくめた。
「連中に学者サンみたいな情緒を持てってのも無理だろうサ」
「大義の前には多少の犠牲は、というのが常套句だからね」
ゼフィラも苦笑する。
「まぁ、彼らが暴発する気持ちもわからないではない。
ザントマン事件、か。あれは確かに……酷いものだった」
「あァ。あれを引き合いに出されちゃァな。だが、それでも奴らの活動を正当化はできないけどな」
「それはもちろんだ。とは言え、私たちは所詮外様の人間、旅人(ウォーカー)に過ぎない。
よそ様の世界の民族事情に口を出そうとは思わないが……」
「降りかかる火の粉は払うべきだ」
「違いない」
ゼフィラが頷く。
「そろそろ戻ろうか。防衛陣地も構築されていることだろう。
念のため、と周囲を回ってみたが、やはり手紙に記されていた進軍ルートは正しかったらしい」
「そうだな。向こうも一枚岩じゃなさそうだが……逆にそれを利用できそうだ」
ゼフィラの言葉に、レイチェルは頷いた。
二人が戻ってみれば、防衛陣地はあらかた完成していたようだ。
「どうも、そっちの方はどうだった?」
アトが尋ねるのへ、ゼフィラは頷く。
「問題ないだろうね。やはり、敵はこちら側から攻めて来るらしい」
「アストラの手紙は正しかったようね」
イーリンが言った。
「アストラって言うのは、革命屋の知り合いスか。複雑な事情がありそうスけど」
美咲が言うのへ、イーリンが頷いた。美咲は苦笑すると、
「まぁ、元の世界では私にも革命屋の知り合いがいたスからね。何かをきこうってわけじゃないッス」
「ありがとう。でも、そこまで複雑なアレこれじゃないわ」
苦笑するイーリン。
「ただ、うぬぼれるわけじゃないけど、アイツの戦術眼は私と同等以上よ。
そのアストラが、こうして情報をリークしてきた……アストラ自身は、この行動を止めて欲しい……ううん、違うわね。ほどほどの所で手打ちにしてほしい、が正解ね」
「つまり、向こうは最初から撤退する気って事か?」
バクルドがいう。
「手紙の方には、部隊の内訳も書いてあったんだろ? 直属のシルマ部隊ってのもいるはずだ」
「そちらはともかく、アストラさんの部隊は乗り気じゃない、ってことっすかね?」
リサが言うのへ、アトが頷く。
「おそらく。ただ、向こうも別に、此方の味方というわけじゃない。
僕たちが腑抜けて居たら、そのまま大聖堂は落としに来るだろうね」
「重要なのは、連中は撤退する気がある、って事か」
バクルドが、顎に手をやりながら、ふぅむ、と頷いた。
「ほどほどに反撃してやりゃあ、向こうにも逃げる面目が立つ、って事だ」
「後は、その意志が此方に伝わっているかどうかを、向こうに認識させることが必要ね」
イナリが言う。
「司書さん? その役目、私が請け負ってもいい?」
「むしろお願いしたい所だわ、イナリ」
イーリンが頷く。
「状況を整理しよう」
アトが口開いた。
「恐らく、シルマ部隊の方は意気軒昂、って感じだろうね。何せ直属部隊だ。
半面、アストラのHNLFは及び腰。こっちは、ある程度損害を与えれば撤退する可能性がある。
数の上では僕たちの不利だが、上手い事立ち回れば、充分に勝機があるはずだ。
それから……連中はイータ、というプラスチック爆薬のようなものを使う。形状を自由に変化できる爆薬だ。
本来は設置して使うのだけれど、多分手投げ爆薬のようにして使ってくるだろうね。
威力は……まぁ、小規模な魔術爆発と同一で大丈夫。混沌肯定で派手なことはできないからね。
一種の遠距離攻撃だと思ってもらって問題ない」
「深緑の幻想種が、銃と爆薬、スか。なんとも」
美咲が相槌を打つのへ、アトが頷いた。
「ああ、そこがなんとも。ただ、使い慣れてないというわけではなさそうだ。それなりの訓練は積んでいるといえるだろう」
「……ちょっとした軍隊、って思った方がいいって事だよね?」
フラーゴラが尋ねるのへ、アトは頷いた。
「ああ。くれぐれも油断は厳禁だ」
「近代的な武器は、或いはスポンサーの意向なのかもしれないね」
ゼフィラが言った。
「そう考えると、スポンサーは深緑外部の人間だとみるべきかい?」
「そんな所だね……まだ調査中だが、色々ときな臭い所はある」
アトの言葉に、仲間達は頷いた。敵の全容は未だ調査中であるが……いや、今は語るまい。それほどの時間は残されていまい。
「来ましたよ、皆さん」
エルシアの言葉に、仲間達は頷いた。確かな気配が、今アンテローゼ大聖堂へと迫りつつあるのを、イレギュラーズ達は確信していた。
●衝突
「……! どういうことだ、これは!」
エーニュ部隊がアンテローゼ大聖堂へ到達した時。彼らが遭遇したのは、迎撃態勢をとったイレギュラーズ達である。その光景を目にしたティーエが、悔し気に声をあげた。
「アンテローゼ大聖堂は要衝。防衛体制は当然だろう?」
アストラがいうのへ、ティーエはぐぐ、と唸った。もちろん、イレギュラーズ達の布陣は、ティーエたちがやってくる方向が分かっているが故の完全な迎撃態勢だったが、ティーエはどうやら気づかなかったようだ。もちろん、これがアストラによる内通の結果だという事も。
(……いるな、イーリン。やっぱり……貴方なら、この場にいると思っていた)
(アストラ……貴方なのね。
背中を、押されたのかしら。
貴方は――その覚悟を、私にぶつけてくれるかしら)
交差する、アストラとイーリンの視線。僅かな接触に、ティーエは気づかなかった。
「アストラ、これは試練だ。
リッセの意思は、ファルカウには受け入れられているはずだ。そうでなければ、あの茨の呪いがとけているはずがない……!」
イレギュラーズ達の功績も、彼らには自分たちの正しさを証明する証拠になってしまうのだろう。少なくともティーエは、それを信じ切っている様だ。
「不調和を持ち込むのは余所者ばかり。
そんな憤りは同じファルカウの民として私にもよく解ります。
……でも、一介の村娘からすれば、深緑中枢とてローレットの介入を招いた『外患』ではありませんか!」
エルシアが、注目を集めるように声をあげた。高々と掲げる松明は、深緑では禁忌とされる炎を煌々と輝かせていた。
「な、何をしてるんだアイツは!」
ティーエが叫ぶ。アストラは渋面をしつつ、イーリンを見た。
(挑発にしても……やりすぎだ、あれは。うちのバカはキレるだろうな)
(貴方たちの注目を集められるなら、適任でしょ?)
胸中で呟いたそれが伝わったかどうかはわからないが、お互いの表情から、思う気持くらいは伝わっただろう。エルシアは、それを知ってか知らずか、イーリンに刹那、目くばせをすると、
「貴方たちがこの国を憂うなら、その気持ちがあるのなら……。
何故母を、反転から救ってはくれなかったのですか!?」
「くそ、おかしいんじゃないのか、アイツは!?」
ティーエがわかりやすく狼狽する。その動揺は、配下のシルマ部隊にも広がっていた。狂人と思われることなどは、エルシアにとっては織り込み済みだ。むしろ話の通じない狂人だとでも思われた方が、相手の動揺を誘えていい。どうせ向こうも狂人だ、ならばこの場、狂人のダンスホールにしてやろう。
「皆様、準備はよろしいですか?」
エルシアが、にこりと笑った。高々と、松明を掲げる。仲間達が頷く。
「はじめましょう」
はらり、とそのたいまつを採り落とした。足元のおがくずに落着して、ぼう、と炎をあげる。もちろん、それはその場を少し燃やして消えるような炎だろう。だが、護るべき深緑の地で炎が燃えているなど、ティーエ、そしてシルマ部隊のメンバーにとっては、許しがいたことだった!
「やめろ! やめろ! リッセの愛する森に火をつけて!」
ティーエが絶叫した。
「許さない! 俺は優しいが、お前だけは苦しめて殺す!
行くぞ、シルマ部隊! あの異常者どもを深緑から追い出すんだ!」
叫び、シルマ部隊が動く!
「ちっ、喜ばしいが、相手の思惑に完全乗っているというのも……!」
アストラは舌打ち一つ、配下のHNLF兵士たちへ視線を送った。
「我々は後方で待機。突っ込んだシルマ部隊の援護に回れ!」
その声をかすかに聞いたイーリンが頷く。
「ええ、そうなるでしょうね、私たちなら。
さぁはじめましょう、アストラ。
『神がそれを望まれる』。」
一斉に――両者は動き出した! シルマ部隊は前線に飛び出て、その銃を構える。だが、足元に張り巡らされたワイヤーを踏んだ刹那、爆発音と閃光が、シルマ部隊の合間を飛び交う! バクルドの仕込んだ罠が、リサの改造によって変化を生んだものだ!
「ほう、やるじゃねぇか! 上出来上出来!」
バクルドが声をあげるのへ、リサが笑ってみせた。
「ま、相手も相応の馬鹿じゃないっすけど、全部は無理でもって奴っすよ」
そのままパワードスーツから蒸気を吹き出しながら、火砲を構える。
「前に出てきた奴から叩くっす! 作戦通りに!」
「了解、だよ……!」
フラーゴラが頷き、仲間達を導くべくその手を掲げる。風を操るように、流れるように導くそれは、連鎖行動を導く先導の手。絆と共に駆ける仲間達が、敵の正面へと駆けだす!
「霧を撒くわ! サポートお願い!」
イナリがその手を振るうと、ぶわりと空気が舞い上がり、すぐさまそこに【霧】が生まれる。それは、文字通りの迷霧。迷い、狂わせ、閉じ込めるための霧。目標を崩し、その目に映るはイナリの式神。
「……! お前も、リッセを汚す気だな!!」
ティーエが叫び、飛び出した。踏み出した先にあった、イナリの仕込んだ罠、その小さな木の槍を蹴り飛ばしながら、一気に前進する!
「あら、流石にリーダー格となるときかないものね!」
イナリが声をあげる――そこへ飛び込んできたのは、フラーゴラだ。手にしたシールドを掲げ、ティーエの渾身のストレートを受け止める。がんっ、と強烈な音がして、フラーゴラの身体に痛みが走った。盾越しに感じるほどの衝撃。なるほど、まともに受ければただではすむまい。
「なんだ……お前は……!」
ティーエがぎろり、とフラーゴラを見やる。その眼光に僅かにい竦みながら、しかしフラーゴラはきっ、とその目を睨み返した。
「ワタシが立ち続けるだけで勝てるのなら……ワタシは何度だって立ち上がる!
この盾は砕けない、ワタシの心はこんなんじゃ砕けないよ……!」
「何度も? あんしんしろ、俺は優しいからな! 一撃で殺してやる!」
ティーエの眼に、凶暴なそれがともる。他者を痛めつけることで感じるくらい喜び。ティーエはその歓喜に気づいてはいないのだろうか。いずれにせよ、重い一撃が振るわれる。フラーゴラは、今度は身をひねってそれを回避してみせた。ちっ、とティーエが舌打ちを一つ。
「ボクサーさん……KOにはまだ遠いね?」
不敵に笑ってみせるフラーゴラ。ティーエが苛立たし気に吠えた。
「邪魔するんじゃない! リッセの!」
再び振り上げたこぶし。だが、その前に再度立ちはだかったのは、アトだ。フラーゴラを守るように、銀色の剣を振るい、フード越しにティーエを見やる。
「悪いね、この子に話しかけるなら、まず僕を通してくれないか」
「……! お前、話は聞いてるぞ! ラサでの活動を妨害した……!」
「おや、知っていてもらえたなら光栄だね。
いやはや、君らと刃を交えるのは二度目ってことになるのかな!
そうさ、ラサで君らを止めた観光客ってのは僕のことさ!
そして哀れなケネドリルの孫娘に率いられた君らを止めるのも僕の仕事ってことでさあ!」
アトの斬撃が、ティーエを斬りつける。ナックルダスターによって武装したティーエが、その刃を拳で受け止めた。つむじ風が舞い、その風がティーエの頬を傷つけた。だが、ティーエは怒りに燃える瞳で、アトを睨みつける。
「リッセの邪魔をするのか! 俺たちの、理想の!」
「君の理想じゃないんだろう。目をそらすなよ」
「我々の理想のために! アンテローゼ大聖堂を奪還せよ!」
叫ぶシルマ部隊隊員たちが、銃撃を開始する。高らかになる銃撃音が雄叫びのように響き渡り、迷宮森林の地面を抉る。
「ちっ、流石に士気は高いみたいだな」
レイチェルは舌打ち一つ、掩体に身を隠した。土の壁に弾丸が突き刺さる。レイチェルがパチン、と指を鳴らすと、その先端から鮮血が吹き出した。
「まとめて薙ぎ払うぞ、続いてくれ」
鮮血が、中空に陣を描く。その陣が光り輝くや、陣より光槍が生まれた。レイチェルは掩体から飛び出すと、光槍を振るって投げ放つ! 空を裂く槍が、霧に惑うシルマ部隊の中心に突き刺さって、強烈な光の奔流となってなってシルマ部隊を打ち叩いた!
「な、なんだ、イータが暴発したのか!?」
「違う、敵の攻撃だ!」
強烈な爆発に、シルマ部隊が惑う。その刹那、隙をついて飛び出したのがバクルドだ。
「おらあっ!」
バクルドの振るう刀、その刀身から放たれた斬撃が、衝撃波となってシルマ部隊に飛び掛かる。跳ぶ刃、にて切り裂かれたシルマ部隊の隊員が、その腕から激しく出血。ぐう、と悲鳴を上げて銃をとり落とす。
「止めは刺さなくていい! 兎に角消耗させることだけを考えろ!」
バクルドの言葉に、リサは頷いた。
「了解っす! けどぉ! 味方が体張って守ってくれてんだ、それを信じて縮こまるような奴ぁいねぇよなぁ!」
強烈な銃撃が、まるで驟雨のごとく敵陣に降り注ぐ。強烈な銃雨がシルマ部隊の隊員たちの足を撃ち抜き、そして戦闘中のティーエの足を撃った。
「ちぃっ!」
辺り所は悪くない。だが、痛みをこらえるには相応の精神力を必要とする。
「おっと、ボクサーには致命的な一撃じゃないかい? パンチだけじゃなく、足腰も必要だろう?」
背後にフラーゴラを庇うアト。フラーゴラは、敵からの銃弾をイナリからその盾でかばっている。ティーエをフラーゴラに向かせないためのアトの動きだが、フラーゴラにはとても頼もしくうつっただろう。
「悪いが、他人を殴って喜ぶような奴に、うちの子を預けられなくてね」
「他人を殴って? よろこぶ? 俺が!?」
ティーエが目を丸くした。
「馬鹿な、馬鹿な! そんなはずはない! 俺は、リッセの理想のために、この手を汚しているんだ! あえて!」
「気づいていないのか……? お前、ずっと笑っているんだぞ?」
はっ、とティーエが、その手を口元にやった。
くらい喜びに、吊り上がった口元。
無抵抗の相手を殴ることで得られる喜び。
父親の顔。
フラッシュバック。
「うそだ、うそを言うな! お前はうそを言っているんだ……!」
ぶん、と力強く振るわれた拳を、後は刃の腹で打ち払った。
「おっと、地雷だったか……ま、そこまで気にしてやる義理は無くてね」
再び、アトがティーエへと斬りかかる。
戦闘は、激化していった。
●理想の行く先
(……予定通りの展開、か)
アストラが胸中でぼやく。イレギュラーズ達に情報をリークし、防衛陣地を構築させたわけだが、エーニュの部隊は予定通り、イレギュラーズ達に阻まれ深く傷つきつつあった。同時、HNLFのメンバーを上手く後衛に向けられたことで、自分の『患者』たちの危険性をある程度排除する。
アストラの策はうまくいった、と言っていいだろう。もちろん、アストラの意図を正確に読み取ったイーリンを始めとするイレギュラーズ達の能力を当てにしてのことであり、実際アストラの思惑通り……いや、それ以上の成果をあげつつある。
予定外のことがあったとしたならば、彼らはシルマ部隊にもある程度の加減をしていることだろうか。
(部隊全体が傷ついた方が、私も撤退の言い訳がつく……向こうにも切れ者が多いみたいだな)
「援護を続けろ。この叩きは我々にとっても分水嶺だぞ」
部下に形だけの指示を出しながら、アストラはタイミングを待つ。
それを理解しつつ、イレギュラーズ達は猛攻を続けていた。
「焼かれたくなければ、退きなさい」
エルシアが手を振るうと、まるで足元の炎がそれに巻き上げられるようにひときわ強く燃え上がった。刹那、その炎の光は聖光とかして、シルマ部隊のメンバーを穿つ。
「……向こうも流石に、士気が下がってきたようですね。気づかないのは、指揮官の男の方だけでしょうか?」
「ああ。程よく痛み分け、と言った状態に持ち込んでいるね」
ゼフィラが言う。イレギュラーズ達も相応に傷を負い、ゼフィラなどは回復に東奔西走しており、ゼフィラにも疲労の色が濃い。
「ティーエ、だったかな。敵の指揮官は、キミのいう通りに随分と元気なようだ。
狂気、か。人の身なれどあれほど狂えるとはな……」
ゼフィラが僅かに顔をしかめた。ティーエの身体を支えている精神は、まるでボタンを掛け違えたかのように僅かに狂っているのだろう。それは、魔種の呼び声とも違う、人が人の形のまま狂う、悲しい姿。
「だが、明日のアストラの方は、話が通じそうだな。
美咲君、状況はどうだい?」
「ああ、HNLFデスね。アイツらは変わらず……積極的な攻勢には出てこないス」
美咲が掩体から顔をのぞかせながらそういう。淡々とした彼らは、確かに狂気に満ちてはいるものの、しかし積極的な攻勢には出ない様だ。指揮官の指示が聴いているといえる。
「が、相応に疲弊はしてるはずっス。プレッシャーをかけるなら今っスよ。
というわけで、イーリン氏、そろそろ決められるスか?」
拳銃弾を牽制でうち放ちつつ美咲が言うのへ、イーリンは頷いた。
「了解。イナリ、アストラにテレパスお願い」
「オッケーよ! 文面は、【撤退するなら此方は追わない】でいいわよね?」
「流石ね、イナリ。それで充分。
ああ、念のため、こっちから脅しも入れておくわ」
「わかったわ、後よろしく」
イナリがテレパスを開始するのへ、イーリンは戦旗を振るう!
「さぁ、どうしたの。幻想に名高き騎戦の勇者を前に震えるばかりかしら!
皆、ここからが突撃のタイミングよ! 敵は疲弊している。戦場の勢いはこちらに、明らか。
ここより蹂躙を開始するわ!」
イーリンが叫ぶと同時、アストラは空に向かって銃弾を撃ち放った。
「撤退だ、全員、撤退!」
「馬鹿な!」
傷だらけになりながら、ティーエが叫ぶ。
「ここで引いたら、俺たちは間違ってるって事になる! 俺は親父とは違う! リッセのために戦ってるんだぞ!」
なかば狂乱状態のティーエに舌打ち一つ、アストラは叫んだ。
「敵の防衛は強固だ。元より、我々は奇襲のために最小限の部隊で臨んだのだ。
だが、敵の戦力の消耗は確認できた。
これは敗北ではない、意義のある撤退である。
部下の命を散らす必要もない!」
喝破するようなアストラの声に、ティーエは唸った。辺りを見れば、確かにシルマ部隊のメンバーはすでに這う這うの体であり、命を拾ったのは幸運と言える。これ以上の戦闘は、徒に彼らの命を失わせるだけとなるだろう。
「くそ、くそ、くそ! アトと言ったな! お前は殺す、必ず殺す!」
「……!」
フラーゴラが息をのんだ。飛び出し、アトの前に立ちはだかる。
「あなたなんかに……アトさんは、殺させない……!」
きっ、と見つめる、フラーゴラの瞳。それに、何を見たのか。ティーエはたじろいだ。
「やめろ、その目で俺を見るな。俺は、俺は親父とは違うんだ!」
ティーエが叫び、
「撤退だ! 退くぞ!」
号令をかけた。身体を引きずるように逃げ出すシルマ部隊、そしてHNLFのメンバーを、約束通りイレギュラーズ達は追わなかった。
(……見える、アストラ)
イーリンが、アストラに視線を送る。アストラが、それに気づいたのか、視線を交差させた。
(絶対に助ける)
声には出さず、唇はそう動かして。アストラに伝える。イーリンが伝える。アストラがそれを受け取ったのかは、わからない。アストラはふいに視線をそらすと、
「撤退開始! 無駄に死ぬことはない!
ここで生き延びることが、我々の大義につながると知れ!」
叫び、殿を務めて撤退する。
やがて、ざぁ、と波がひくかのように、敵意がアンテローゼ大聖堂から去っていくのを感じる。辺りが静かになったと同時に、別の方面から、多くの足音が聞こえてきた。ラサからの援軍だろう。
「ひとまず、後は引き継げば問題なさそうだな」
ふぅ、とレイチェルが嘆息した。これでようやく、決戦に注力できるだろう。
「革命屋、スか。また会う事になるんスかね」
美咲が言うのへ、イーリンが頭を振った。
「さぁ、ね。ま、しばらくはおとなしくしているでしょう」
「なんにしても、火事場泥棒とはこれでおさらばだ」
バクルドが笑う。
「そうっすよ! まったく、とんでもないタイミングで襲ってきたものっす」
リサの言葉に、イナリが頷いた。
「ええ、厄介な連中だったわ」
「しかし……彼らがああも先鋭化した気持ちもわからないではありません。
深緑は、些か傷つき過ぎました」
エルシアの言葉に、ゼフィラは頷く。
「だが……彼らの行いは間違っている。それは確かだ」
「……そうだね。きっと、間違ってる」
フラーゴラが呟く。最後に見たのは、ティーエの、怯えたような瞳だった。
(……アナタはなにを、恐れていたの……?)
胸中で呟く問いに、答えるものはいない。
かくして、決戦のさなかに起きた、理想と言うなの迷妄の爆発は、こうして幕を下ろすこととなる――。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
皆さんの活躍により、アンテローゼ大聖堂の防衛は成功しました。
アンテローゼ大聖堂の防衛は、このままラサのメンバーに引き継がれることとなります。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
アンテローゼに敵が接近しています! 速やかに迎撃を!
●成功条件
すべての敵の撃退
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●状況
エーニュ……それは、一部の幻想種たちが作り出したテロ組織です。
幻想種を、深緑を守るために外敵と戦う、という主張をしていますが、その性質は、先鋭的な民族主義と排外主義に凝り固まった危険な集団です。
現に、エーニュは『アンテローゼ大聖堂を幻想種の手に取り戻す』という名目の下、奪還と言うなの襲撃を仕掛けました。
アストラ・アスターによる密告により、その襲撃を察知した皆さんは、アンテローゼ大聖堂に留まり、迎撃を行う事となります。
作戦はシンプルです。すべての敵を撃退し、アンテローゼ大聖堂を防衛してください。
作戦決行タイミングは昼。エリアはアンテローゼ大聖堂近辺の迷宮森林となっています。森林であるため、些か視界、行動にペナルティが発生しそうです。対策をとっておくといいでしょう。
●エネミーデータ
ティーエ・ポルドレー ×1
エーニュという組織の、上層部直参の戦闘部隊『シルマ部隊』の小隊長です。
ボクサーのような戦闘方法を習得しており、素早く近づき、鋭い拳の一撃を叩きつけ、再び離脱する、というヒットアンドアウェイ戦法を得意とします。
指揮官に位置しますが、あまり頭はよろしくないようで、実質的には指揮などはとっていません。
シルマ部隊員 ×15
エーニュシルマ部隊の戦闘員です。主に銃器で武装している他、イータという爆薬を使用した範囲攻撃も行ってきます。
敵は、イレギュラーズに比べれば戦闘能力は低いですが、それでも弱兵というわけではなく、歪んだ理想による狂気によって高い士気を持ちます。数も多いため、充分な脅威となるでしょう。
アストラ・アスター ×1
エーニュに協力する『幻想種民族解放戦線HNLF』の総統で彼女も相当に『狂って』います。
が、今回の作戦に関しては時期尚早の愚策と考えており、抑止となるイレギュラーズに、襲撃を密告する手段に出ました。
本人は、HNLFの構成員の被害が可能な限り抑えられることを第一と考えています。また、実質的なこの場の指揮官であり、突き崩すなら彼女から、でしょう。
戦闘スタイルとしては、銃を利用した銃撃戦を得意としています。本来の得手は市街地戦闘なのですが、残念ながら今回は実力は発揮できなさそうです。まぁ、元より損害を理由に撤退を目論むようなそぶりを見せていますが……。
HNLF戦闘員 ×10
アストラの直属の部下にあたる、HNLF所属のテロリストたちです。アストラと同様、銃を利用した銃撃戦を得意とします。
基本的にアストラの命令には忠実です。シルマ部隊とは違い、組織立った行動を行ってきます。
士気は高いですが、アストラがどちらかと言えば及び腰ですので、あまり積極的な攻撃はしてきません。
上手く威圧すれば、アストラの指示の下撤退する可能性は充分あります。
●『夢檻』
当シナリオでは<タレイアの心臓>専用の特殊判定『夢檻』状態に陥る可能性が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
以上となります。
それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。
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