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シナリオ詳細

<13th retaliation>炎と夢と選択肢

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●炎に耽る
 夢である。
 それは間違いなく、確定していた。
 例えば――彼が相対した軍勢は、この様な寡兵ではない。
 もっと多く、もっと大く。そうだとも、彼が敵に回したのは、深緑に住まう幻想種たちすべてなのだからだ。
 世界が炎に包まれている。彼が生み出した炎だ。それは間違いない。そして彼の後ろには大樹があって、目の前にはヒトの軍勢がいる。
 彼はこうして生まれ、こうして深緑のあちこちを焼いた。これに危機感を覚えた当時の幻想種たちは、その刹那、多くのわだかまりや反目を乗り越え、一つの群れとなった。
 ファルカウより生まれた炎の嘆き、シェームを討伐する、勇者たちの群。
 それがたまらなく嬉しかったのを覚えている。
 翻って――今のものはなんだ。
 左右に分割する、二つの軍勢。どちらもおよそ、12名ほどにて構成された軍隊、いや中隊とでもいうべきその軍は、今お互いににらみ合いを続けている。
 おそらく、これは彼の記憶の再現なのだろう。反目し、いがみ合っていた時の、あの幻想種たち。
 今伝わる伝承によれば――悪徳に侵された者たちが、彼の出現のトリガになっていた、と語られているよぅだ。
 そんなシンプルなものではない、と彼は思い出す。
 話はもっと――いや、シンプルではあった。意見対立。良くある話だ。例えばあの時は、幻想種はもっと内にこもるべきだとか、外に出るべきだとかで、意見がぶつかり合い、すっかり二分されていたのだ。
 それがいつの時代のことだったかを語るのはナンセンスだ。もうどうしようもない事なので、知る必要もない。重要なのは、結果である。二つの相反する思想のぶつかり合いは、やがて暴力的なそれに変貌し、その結果ファルカウは深く傷ついた。
 そして――彼が生まれたのである。生まれた彼は、とりあえず、辺りを焼いた。焼いたのである。どちらに味方をしたわけではない。とにかく目についたものを、焼いた。
 それは、嘆きであり、怒りであり、炎であったから。
 そうするしかなかったので。
 彼はその時、世界(しんりょく)を焼いた。
 これは夢である。その時の、再現である。
「けったくそわるい夢じゃ」
 彼は――シェームはそう呟いた。化身たる姿は、偉丈夫の青年のように見えた。
「ワシも巻き込まれるとは、つくづく、鬱陶しいものじゃな。
 じゃが、貴様(きさん)らが来るならそれはそれ。
 いや、むしろ――来るなら貴様らじゃったろうな。
 なんじゃ、わしは、貴様らにつくづく、何か縁があるように感じる。
 特に――貴様ら、女子二人じゃ」
 そう言ってにぃ、と笑うシェームの目の前に――。
 イレギュラーズの姿が、アリア・テリア(p3p007129)と、アリシス・シーアルジア(p3p000397)達の姿があった。

 時間を少し戻そう。
 アンテローゼ大聖堂を奪還したイレギュラーズ達はそこを拠点とした作戦を開始。少しの時間が経過し、多くの戦果を得るに至っていた。
 その最中、イレギュラーズ達が遭遇したのは、『眠りの世界』である。
 ファルカウに近づくにつれ、深くなる吹雪。それに触れることで、侵入できるその異世界は、さながらヘイムダリオンのそれのように、侵入するたびに様々な姿を見せていた。
「不可思議な眠りの世界、ですか」
 アリシスがそういうのへ、アンテローゼ大聖堂所属の幻想種の女性が、頷いた。
「はい。戦えるものが何人か向かったのですが、皆追い出されるように……。
 どうも、世界を構築する、何か現象や物品のような鍵があって、それを破壊か解決しなければ、突破をできないようです」
「なんとかこの眠りの世界を突破しなきゃ、ファルカウには近寄れない、か……」
 アリアが言うのへ、女性が頷く。
「正体は不明。ですが、中に入って調査をしなければならない、という事なのですね。
 ええ、そういう事でしたら、私達ローレットのイレギュラーズが適任でしょう」
 そういうアリシスに、女性が頷く。
「はい。援軍も望めない、危険な任務ですが……」
「大丈夫だよ。危険な任務は慣れっこ!
 それに、誰かが危ない橋を渡らないといけないなら、そういう時こそ、私達の出番だよね」
 アリアが笑う。
「それに」
 と、僅かに目を細めた。
「何か……呼ばれてるような、気もするんだ。あの、眠りの中に」
「まぁ、アリア様も」
 アリシスが頷く。
「ええ、ええ。恐らく、ここに集まった皆様全員が――そうなのでしょう。
 何か、あの眠りの中でから呼ばれている、そんな気がする。
 それはもしかしたら――縁、なのかもしれませんね」
「縁?」
「ええ。それは、良しにしろ悪しきにしろ。
 私は感じます。強い、炎の意志を」
「シェーム、だね」
 アリアが、頷いた。感じたものは、同じ。紡いだ縁は、こうしてあの眠りの中から、私達を呼んでいる。
「ならばなおの事、私達が行かなきゃいけないんだ。
 シェームには、ちょっと縁があるからね。ならばその招待、受けてあげないと」

 かくして、時間を今に戻そう。イレギュラーズ達が侵入した時、目の前に広がっていたのは、炎に燃える深緑の景色だ。その最中には、二つの軍勢が大樹を目の前ににらみ合いを続けており、大樹の前には、一人の男が立っている。
「ワシも巻き込まれるとは、つくづく、鬱陶しいものじゃな。
 じゃが、貴様(きさん)らが来るならそれはそれ。
 いや、むしろ――来るなら貴様らじゃったろうな。
 なんじゃ、わしは、貴様らにつくづく、何か縁があるように感じる。
 特に――貴様ら、女子二人じゃ」
 そういう男。その声に、聞き覚えがあったものもいるだろう。
「シェーム様、ですね」
「そうじゃ。直接会うのは初めてになるか。ま、これも夢に構築された幻影じゃ。直接じゃあないか」
 くく、とシェームは笑う。
「もうわかっとるじゃろうが、これはわしの夢じゃ。正確には、わしの存在に影響されて生まれた夢。
 故に、わかる。この夢を突破したければ、『この問題をどうにかしろ』」
「問題?」
 アリアが小首をかしげるのへ、シェームは頷く。
「応。問題じゃ。今深緑は、二つの意見が対立し、お互いに傷つけあっている。
 そうじゃな、貴様らから見て右側の奴らは、『幻想種は森に籠り、他者との接触を断つべき』と主張している。
 左側の奴らは、『幻想種も広く外と交流し、森を開くべきだ』と主張している。
 その正誤は問わん。どちらも正しいし、メリットとデメリットがある。問題は、その議論が過熱し、お互いに物理的に傷つけあうようになった点じゃ」
「それで、貴方が生まれたのですね?」
 アリシスが言うのへ、シェームは頷いた。
「やはり聡いの。そういう事じゃ。それで、わしはこの問題を解決するために、どうしたと思う?」
「……まさか、その為に森を、人を焼き払ったの?」
 アリアが尋ねるのへ、シェームは笑った。
「正解じゃ! くだらん対立に現を抜かすアホどもには、わからせてやらねばならん!
 それに、生き残った方が強い奴らじゃ。強い奴の言う事に従えば、それで解決じゃろ」
 かか、と笑うシェームに、アリシスは、ふふ、と笑った。
「あなたの言葉の審議は、ここでは問いません」
「そうだね。今はひとまず、そういう事として聞いておくよ。
 で、私たちに求められているのは、その対立をどうにかする、何だね?」
「そうじゃ」
 シェームが言う。
「片方に肩入れして、もう片方を皆殺しにしても構わん。
 わしのやったように、両方を滅ぼしても構わん。
 ま、これは夢じゃ。罪悪感なんぞ感じる必要はないぞ?
 或いは……力を合わせて、わしを滅ぼす、事もできるかもしれん。
 まぁ、難しいと思うがな。両軍は、本当にいがみ合っている!」
 楽し気に、シェームは笑う。
「わしが見たいのは、お前達勇者がなにを選んで何を捨てるかじゃ。
 強き者にとって、取捨選択は時に降りかかる。
 それを受け入れ、切り捨てることができるものこそ真の強者。
 ああ、これはそうじゃな、『試し』じゃ。貴様らが、本当に強者足り得るかな!」
 ははは、と笑うシェーム。イレギュラーズ達は、そんな彼を睨みつけた。
 彼の思惑がどうであるにしても……この世界のルールにのっとらなければ、おそらく、この世界を突破することはできないだろう。
 さて、イレギュラーズは、どうするか。
 どちらかを切り捨てるか。或いは、束ねてより強大な敵を倒す力とするか。
 眠りの世界の戦いが、始まろうとしていた。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 皆さんがおとずれた『眠りの世界』は、シェームの記憶を再現したような世界でした。
 ここで皆さんは、なにを選び、なにを捨てるのか。
 それともすべてを拾うのか。

●成功条件
 『対立する二つの軍勢が存在する』という問題を解決する

●状況
 ファルカウに向かうルートに吹き荒れる、猛吹雪。そこに触れると、『眠りの世界』という奇妙な空間に囚われてしまいます。
 ヘイムダリオンを彷彿とされる、繋がりも関係も滅茶苦茶な無数のフロア。その中の一つに、呼びこまれるようにやってきた皆さんは、『シェームの記憶』から再現された、燃える深緑の世界に到着します。
 そこでは、『大樹』、『シェーム』、『対立する二つの陣営の幻想種』達からなり、この世界を突破するための条件として、『対立する二つの陣営が存在する』という問題を解決することが必要となるのです。
 シンプルに、どちらかに肩入れして、片方を滅ぼしても構いません。問題は解決します。
 両方を滅ぼしても構いません。問題は解決します。
 或いは――両者を共闘させ、この深緑を滅ぼそうとする存在であるシェームを倒す、事でも構いません。問題は解決します。
 ひとまず、指標として三つのパターンを提示しました。他にも何かあるかもしれません。ないかもしれません。
 なんにしても、問題を解決する事。それだけが、この世界を突破する方法なのです。
 作戦エリアは、炎にまかれた大樹の傍の広場です。
 大樹を眺めて、右手に『保守派』左手に『改革派』の軍勢がおり、最奥には大樹と、シェームが存在します。
 戦闘ペナルティなどは発生しません。

●エネミーデータ
 二つの派閥が存在します。戦闘能力としては同程度で、剣で武装した前衛兵が5,弓や魔法で武装した後衛兵が7,という婦人です。
 防御性能の高い前衛でこちらを足止めしつつ、威力の高い後衛が攻撃を行う、という戦法を得意とします。前衛はシンプルな能力ですが、後衛は様々なBS、例えば『火炎系列』や『毒系列』、『凍結系列』などでこちらのステータスやHPを減じてくるでしょう。
 これは夢の世界という事で、敵兵士も皆さんレベルに強化されています。油断めされぬよう。

 『保守派』×12
  『幻想種は森に籠り、他者との接触を断つべき』との主張を持ち、改革派と対立しています。
  幻想種が森に籠り、他者との接触を断てば、少なくとも内部の文化や生活は確実に守れます。現状でも、幻想種が困るようなことはないので、今の安定が続きます。
  が、デメリットとしては、やはり世界の変容に対応することが非常に難しく、同時に何らかの危機に自国が陥った場合、交流のない他国が助けてくれるかと言えば怪しい所です。うちに籠りすぎるのは、緩やかな自死と同義かもしれません。

 『改革派』 ×12
  『幻想種も広く外と交流し、森を開くべき』、と主張する派閥です。
  幻想種も外との交流を開けば、他国の文化や外貨、食糧が人流があり、雇用や経済が発展します。より高度に、森は発展する可能性があります。
  が、デメリットとしては、現在の文化が古いものとして排斥される可能性や、安定してた幻想種の生活が、急激な発展に伴い格差などが生じる可能性がある点です。牧歌的な生活は、過去のものと消えてしまう可能性もあります。

 炎の嘆き、シェーム ×1
  眠りの世界によって再現されたシェーム。外見はオリジナルと同様ですが、戦闘能力は当然ながら著しく落ちます。
  意図的に手を出すつもりではありませんが、もし問題が解決できなければ、この階層を滅ぼして、イレギュラーズ達を外に放り出すでしょう。
  目下、両陣営にとって共通の災厄ではあります。うまい事をそのあたりを刺激すれば、両陣営を協力させる足掛かりになるかもしれません。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <13th retaliation>炎と夢と選択肢完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年05月16日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
サイズ(p3p000319)
妖精■■として
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス
サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)
砂漠の蛇
ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)
ドラゴンライダー

リプレイ

●むかし、むかし
「すこし、昔話をしてやるか。
 ――それが生まれたのは、母なるファルカウを傷つけるという禁を侵した者がいたからじゃ。
 愛するものに傷つけられたファルカウは、酷く困惑したに違いない。
 だからこそ――一種の防衛反応として、それを生み出してしまったのじゃろうな。
 それが生まれて初めて世界を見た時に、目の前にあったのはいがみ合い、時に傷つけあう幻想種(あいするもの)たちの姿じゃ。
 そして……自分の手には、破壊するための力しか、炎しかないことに気づいて困惑した。
 ファルカウは、それに何も答えてくれない。
 自分は何をすべきなのか、何を為すべきなのか。誰も何も答えてくれなかった」
「それが、キミ?」
 『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)がそう尋ねるのへ、炎の男は――シェームは、くく、と笑った。
「なぁに、昔話じゃ。貴様(きさん)らが見ているのは、その昔話の光景、という事になる」
 目の前には、凍り付いたように動かない、二つの陣営がある。お互いが武器を持ち、一触即発のごとくにらみ合うのは、『保守派』と『改革派』に別れてしまった幻想種たちだ。
 動かないのは、まだこの夢が『試練を開始していないから』だろう。或いは、シェームが意図的に、まだ対話の時間を続けているからなのかもしれない。いずれにせよ、今はまだ猶予時間という事だ。
「キミはここを、正確にはここの元となった場所を焼き尽くしたんだよね 」
「そうじゃな。結局、炎には燃やす事しかできん。焔王……フェニックスのような力があれば、或いは再生を司ることもできるじゃろうが。儂はあくまで嘆きじゃ。破壊することでしか、アプローチができん、と言えるじゃろ」
「貴方はそれを『選んだ』、というわけですね。
 そして貴方としては、それを選ばざるを得なかった。
 古典的な手です。いがみ合う、二つの勢力を一次的に共闘させるにはどうするか。
 敵の敵は、自らの敵。そう、『共通の敵を作る』――貴方のような」
 『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)がそういうのへ、シェームは頷く。
「聡いな」
「古典的な手、ですよ。今となっては。
 貴方は――ファルカウが、そのために貴方を生み出したのだと理解した」
「他に理解しようがなかったからな」
「ふふ。やはり直情的な方のようですね」
 『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)が笑った。
「そして、不器用なこと」
「貴様はまっこと、何かを見透かすような目をしておるな。裸にされるような気分になる」
 くくく、とシェームは笑った。コャー 、と『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)が声をあげてから、
「なるほどなの。そなたはやっぱり、わたしに近いものなのね」
 納得するように言った。
「そなたが、わたしに興味がなさそうなのも理解できるの。わたしは、そなたの同類だから」
「誤解を解くために言うが、儂が貴様に興味がないと考えているなら間違いじゃ。貴様は既に、可能性を紡ぐもの。故に、勇者足り得る存在じゃ」
 問題は、とシェームは続けた。
「可能性……それは、如何ほどの力を持つものなのか。
 勇なき力はただの暴力であり、力なき勇はただの虚勢じゃ。
 可能性とは、どちらなのか……どう導くのでもいい。何を選ぶのでもいい。貴様らが勇者足り得るかを、儂は知りたい」
「しって、どうするの?」
「試し、じゃ。
 さぁて、儂との楽しいお話はここまでじゃ。ここからは相談タイムにしてやろう。
 儂はあの大樹のふもとにおる。選んだら、迷わずそれを実行するんじゃな」
 ぼう、と炎を巻き上げて、それは消えた。遠く、大樹のふもとで、イレギュラーズ達の『選択』を待つのだろう。
「うーん、ここから相談タイムですね! どうすればいいのか!」
 『ドラゴンライダー』ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)が、むむむむ、と唸りながら小首をかしげた。
「対立は……難しい問題!ㅤうちのご近所さんも同じこと言ってた気がします。
 まぁうちはこの30年間ずっと退屈だったから、外に出て良かったですけどねっ」
「そうですね。一概に、どちらが正しいか、とは言えません。彼らの主張、想い……夢であるからか、脳裏にしっかりと描かれています」
 『永訣を奏で』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)が、静かにそう言った。
「拗れてしまった両者の関係を、外部から来た私達の言葉でどうにか出来るとは思っておりません。
 ですが『出来るとは思わない』と諦めてしまえばその先はないのです」
「それはそうなんだけど」
 『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)が、うーん、と唸った。
「どうすればいいかな。俺は確かに、折衷案を出して両陣営を仲直りさせたい所だけど……そうすれば、ひとまず夢からは醒める、のかな?」
「シェームお兄さんは、自分がやったのとは違う形で、この問題を解決してほしいのだと思うの」
 『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)が言った。確かに、シェームの言葉の端々から、何か此方への期待のようなニュアンスを感じられる。
「それに、試し……試す、ってよく言っています。何を試しているのか、って考えたの……力、心、選択……或いは、困難を最良の形で越えようとする意志、力、そういうものを持って居るか、だと思うの」
「つまり、フルール様の言う通り……彼は、自分が選択した全てを滅ぼす結果を覆す、より良きものを求めている。言ってしまえば、シェーム様を越えて欲しい、と」
 アリシスがいうのへ、寛治は肩をすくめた。
「自分を越えろ、とは。些か強気な発言ではありますね。
 しかし、私も相手の思惑を越えてやるのは望むところです。
 そして……古典的な手を、私たちも使いましょう。つまり、共通の敵を作るわけです」
「その場合は、二種類が考えられますね。シェーム様を共通の敵とするか、私たち自身が、共通の敵となるか」
 静かに、『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)がいう。
「基本的な考えとして、仮令夢の中とは言え、あくまで罪を犯したわけではない現象種の人々の命を奪う……という事はしたくはありません。それに、自らの暴力で以ってそれを為したのであれば、それはシェーム様の行ったことと変わりはないでしょう。
 苛烈な炎。それとしてのシェーム様。で、あるならば、私たちは苛烈なる炎であってはいけないのです」
「つまり、私たちは可能性を持つものとして、その在り様を見せねばならないのですね」
 『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)が言った。
「私たちは、可能性の光を見せなければならない……それが、一時の夢の中であったとして。
 過去にあった既に確定した事実を、私たちの持つ可能性で、より最良のそれへと変えなければならない」
「なるほど、試練、だね」
 アリアが言った。
「シェームだって、言葉を尽くさなかったわけじゃないと思う。でも、そうするには規模も声も足りなかった……この場はミニマムだから、彼が対峙したそれと同等とは言えないけれど、でもそれだからこそ、私たちはそれを軽く超えないといけないんだ。
 この程度の問題を解決できないなら、きっと私達は、深緑を救う可能性だって見いだせない」
 そもそもとして――イレギュラーズ達の最大目標は、深緑を解放することだ。もしも、この小さな問題を解決できないのだとしたら――彼らの持つ可能性がその程度なのだとしたら。深緑を解放する可能性とは、すなわち水泡に帰すようなものでしかないのではないか。
「シェームさんの試し、というものがそういう性質のもであれば」
 クラリーチェが言った。
「私たちは示さねばなりません。私たちの力を……世界を救えるのだという可能性を」
「決まったか?」
 サイズが言った。
「じゃー、ここからはどうやって相手を説得するか、だ」
「シンプルに、共通の敵がいる……だけでは、共闘はしないと思います」
 アリシスが言った。
「であるならば、既にこの状況は解決しているはずです。共通の敵がいて、しかしその上で利害が相反するが故に、そう簡単に人はまとまれないのです」
「或いは、シェームに取り入ろうとし、味方につけようとするものも居たのかもしれませんね。当時は」
 サルヴェナーズがいう。或いは保守派などは、自身たちの正当性を誇示し、シェームを味方につけようとしたかもしれない。
「うーん、じゃあ、まずは、お互いの利害を整理して、妥協点を見つける、ってやつ!?」
 ウテナが、ひげをぷにぷに触りながら言う。
「えーっと、うちにも、夢の中だからかお互いの状況とか利害とかがわかるよ!
 保守派は、とにかく今の生活のまま、外とは関係しないで、平穏な深緑を維持したい!
 でも、それは中に籠りすぎることで、発展とか、他所の国との交流がなくなるからよくない!」
 保守派の理屈ももっともな所はある。だが、それは同時にデメリットも多く含んでいるのだ。文化や技術などは他所との交流の上で発展することもあるだろうし、何らかの国内トラブルが発生した際に、他国からの援助や救助などが見込めなくなってしまう可能性は大きい。
「反対に、改革派は、より外に、深緑を開きたいのね」
 胡桃が言った。
「確かに、外と交流して、技術や文化が発展することもあるの。とても良い事になる。
 でも、文化が変わっていく中で、伝統や本来の姿が失われてしまうかもしれないし、他所から悪い人や、他国のトラブルに巻き込まれる可能性もある。
 今ある深緑の姿は、確実に変わってしまうのね」
 コャー、と鳴いて、言葉を締める。
 深緑を外に開けば、確かに深緑の発展速度はあがるかもしれない。他国との交流、友好的な関係、それは理想だ。だが、良い人間ばかりではないのは事実。現実でも、ザントマン事件などでラサとのいざこざも発生している。ザントマン事件は、永く長く尾を引いているのだ。
 そして、休息に外からの文化が入り込み、変革していく中で、本来あるべき深緑の文化が怪我される可能性がある。古きものを否定し……その衝動は、改革派の一員がファルカウを傷つけるという結果にもなった。
「今の状況を考えると……現実だと、保守派が残った、かしら」
「或いは、大樹の嘆き、というファルカウの怒りを目に、改革派も矛を収めるしかなかったのかもしれません」
 リュティスが言う。
「そうですね。ファルカウを守る、という名目も持つ保守派と、時に捨てることも必要だという改革派。怒りを買った、と想像するならば、間違いなく改革派が責められますね」
 フルールが、ふむ、と唸りつつ、言った。
「ならば、シェームお兄さん自身としても、それは望んだ結末ではないのかもしれないわ。
 結局は、保守派に肩入れしたようなものですから……」
「シェームは、つまり双方手を取り合ってほしかった、のか?」
 サイズが言った。
「でもあいつは、強いものが残ればいい、って言ってたんだろ?」
「私はそれこそ、『共通の敵を作るための方便』ではないかとは思いますけれどね」
 寛治が言った。
「彼は些か……いいえ、わかりやすく露悪的に過ぎる。直情的、ですか。こう言っては何ですが莫迦なのでしょう」
 へっくし、と遠くの方からくしゃみが聞こえた。
「とは言え……私も加減をする気は一切ありませんが。
 相手の思惑に乗る、というのも面白くありません。どうせとるなら最良の結果。
 我々『34人』の勇者たち、シェームの首をとります」
 寛治の宣言に、仲間達は頷いた――。
「なるほど、全員を取りこぼさず、協調の上で倒すべくを倒す、と」
 アリシスが言った。
「ええ、最も困難な道でしょう。
 ですが、それをしてこそ、彼を真に打ち倒す、という事になるのでしょうね」
「じゃあ、早速詰めるか」
 サイズが言う。
「どうやって、両者を協力させるか、だよな」
「うん……そこはシンプルに、お互いのメリットとデメリット、そして妥協点をしっかりと提示させるべきだと思う」
 アリアが言った。
「ええ。この問題は、厳密にはどちらが正しくどちらが間違っているというものではないのです。
 何を得て、何を捨てるか。選択肢……それは、深緑の未来もかけた選択肢だったのかもしれませんね」
 クラリーチェが言う。
「ここで選ぶのは、或いは……私たちが導く深緑の未来、なのかもしれないのです。
 すこし、大げさな言なのですが」
「うーん、確かにうちらが深緑の未来を決めるわけじゃないですからね! でも、その可能性をもたらすってのは、イレギュラーズとしての仕事なのかも、です!」
 ウテナが言う。
「私はやはり、言葉を尽くしたいと」
 サルヴェナーズが言った。
「まずは、何より話し合いの場を設けなければなりません。傷をつけ合えば、必ず禍根が、傷痕が残ります」
「それにはどうやって、話し合いの場につけさせるべきか、なのね」
 胡桃が頷く。
「はい。シンプルに話し合いを呼び掛ける……程度では、きっと争いは止まらないでしょう」
「それで聞くくらい冷静だったら、シェームも困んなかったかも。コャー」
 サルヴェナーズの言葉に、胡桃がふむふむと頷く。
「あんまり好きではないけど、命を懸ける……必要は、あるかも」
「此方の意思を示すためにも、たとえ傷ついても対話を呼びかける……」
 フルールが唸った。
「仕方のないことかもしれないです。傷つかなければならないのなら、痛みを伴うのならば、それは私たち……勇者と呼ばれるべき人が、やるべきことなのならば――」
「決まりましたね」
 アリシスがいう。
「では、それで行きましょう。先陣は――」
「私がやるね」
 アリアが言った。
「うん。絶対に、話を聞かせて見せる」
「お願いします、アリアさん」
 寛治が答えた。
「では――見せてあげましょうか。私たちの、選択を」
 その言葉に、仲間達は頷いた。ゆっくりと歩みを進めると、凍っていたように動かなかった幻想種たちに、僅かに生気が宿るように見えた。同時、その眼は憎悪に曇り、舌は悪罵を紡いで語る。
 憎悪の渦中。人の持つ醜き排外的な攻撃衝動が、この時、世界に渦巻いていた。
「これを、止めるのか……」
 サイズが眉をしかめた。その怒号は、狂気は、些か誇張されたものであったとしても、人の心から出た生の感情に違いはないのだ。それを止め、対話に持ち込む……可能なのか?
「まぁ、やるしかないけどな……非戦闘員の力を見せてやるさ……」
 ゆっくりと、歩みを進める。
 憎悪の中に。
 英雄たちは、進んでいく。

●言葉
 一歩一歩、身を進めるほどにわかる。
 憎悪。憎悪。憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪。
 これほどまでに、憎めるのか。
 これほどまでに、怒れるのか。
 かつて隣に住んでいたものを。
 かつて手を取り合っていたものを。
 いや、これはいわば、当時の幻想種たちのそれを、たったの代表十二人に凝縮したそれに過ぎない。
 だがそれにしたところで――。
 あまりにも。恐ろしい。
「……たかが意見がすれ違っただけだってのに……」
 サイズが言うのへ、寛治が頭を振った。
「いいえ、人は……時に、信頼できるものと道をたがえた時にこそ、強烈な怒りを抱くこともあるのです。皆が同じ方を向いていたと思っていた時に、隣人が違う言葉を述べたのだとしたら……それは容易く、失望と怒り、憎悪へと転化する……」
「それを、12人ずつ、24人に凝縮したわけですね……! それはもう、怖いってものじゃないですね!」
 さすがのウテナも、その憎悪の空気には眉をひそめていた。一触即発。何かきっかけがあれば、壮絶な暴動に発展するだろう。
「明らかに、狂気に一歩を踏み込んでいますね」
 サルヴェナーズが言った。
「下手をすれば、一気に戦闘になだれ込みかねません――どう動きますか?」
「だとしても。まずは声をかけるしか、ありません」
 クラリーチェがそう言って、息を吸い込んだ。
「皆様、ほんの少し私達の話に耳を傾けてくださいませんか?」
 しん、と張り詰めた空気。同時、強烈な敵意のようなものが、己のみに突き刺さるのを、クラリーチェは感じていた。熱狂の内に沈んだ暴徒とは、こうまでも排外的になるものか……。
『話?』
 誰かのようで、誰のものでもない声が響いた。
『ここにきて何を言う。もはやお互いに尽くす言葉などはない』
「それで……どうするのですか。お互いに、傷つけあうというのですか」
『奴らは/奴らは、ファルカウの怒りを買ったのだ』
 声が言った。
「お互いに、それすら相手のせいにしているのですね……」
 フルールがいう両者の断絶は決定的なように思えた。ここからどう、話を展開すべきか――。
 す、と、アリアが一歩を踏み出した。フルールに視線を送る。
「いがみ合うのは結構。だけどここで血を流すなら……まず私の命を奪うことだよ」
 きっ、と。アリアが、双方に視線を送る。
『口だけならば何とでも――』
「口だけだと思う?」
 アリアは、試しに保守派の一人に近づくと、その刃をゆっくりと触った。びくり、と保守派の幻想種が驚いたようなそぶりを見せる。アリアは、その刃をゆっくりと持ち上げて、自分の首筋にあてがった。
「殺せばいい。それでキミたちの気がはれるなら。でも、そうじゃないはず。殺し合いのは、最後の手段。でしょう?」
 真摯な様子で、アリアは言う。保守派はその圧に気をされて、剣をゆっくりと除いた。それからアリアは改革はの方へと向かうと、同様に、一人の剣先を以って、ゆっくりと自分の喉元に突きつけた。
「血を流すのは簡単だよ。そのまま力を込めれば、それで終わる。
 けれど、本当にみんなが進まなきゃいけないのは、もっと困難で、険しい道のはずなんだ」
 剣から力が抜けたのを確認して、アリアはゆっくりと、両者の間に立った。殺せ、と言われれば、それが訓練されたものでない限り、存外と躊躇するものだ。ましてや、話をきけというものならば、猶更。
「落ち着かせて、フルールちゃん」
「はい」
 フルールの目が、優しく輝いた。魔眼。それで思考を奪うほどのことはできなかったが、しかし僅かにその気持ちを落ち着ける程度の力は、この時発揮できていた。
「では、お話を」
 寛治が声をあげた。
「ええ、これは説教や説得の類ではありません。未来志向のビジネス、より良き明日を掴むための提案なのです。
 そもそも――皆さんは今、二つの陣営に分裂しています。しかし、それは本当に、『たった二つに分けられるようなものなのでしょうか』?」
『というと……』
「そもそも、皆さな個人個人の間で、妥協点や思想は違うはず。しかし今は、まるでそれ二つしか存在しないように、視野狭窄に陥っている……ああ、別に否定や説教ではない、と申しあげたとおりです。
 現状認識。それは良き関係を構築するためにも必要となる」
「思想が違うとはいえ、同族同士で争うことほど無意味なことはないと思いませんか?」
 リュティスが、そう静かに告げた。その視線の先には、『両陣営に存在する、リュティスの友人』の役割をおったものがいる。その二人に視線を向けながら、リュティスは続ける
「貴方なら……私の言葉も、通じるはずです。
 そもそも今回の件、極端に極端を重ねてしまっているのが問題。
 デメリットばかりに目を向け、お互いの主張するメリットを頭から否定する……そこにある、と理解しています」
『だが、それはどうしても捨てられないものなのだ』
 声が言った。
『それ故に、我々は憎しみあい、分裂をした……』
「でも、考えて欲しいの」
 胡桃が声をあげる。
「新しいものを受け入れるのは、すなわち古いものを捨てる事ではない。
 古いものを否定することが、すなわち新しいものを肯定する事ではない。
 古きものを守るために、新しいものが必要になるかもしれないし、
 新しいものを得るために、古いものが必要になるかもしれない。
 極端ではいけないの」
「今ここで、結論を出せ、とは言いません」
 サルヴェナーズが言った。
「ここで私たちが結論を出すことも、それは違うと思います。
 これは、永遠に……終わることのない話し合いを、永遠に続けなくてはならないのです」
『それは――』
 声は言った。
『あまりにも、辛い戦いになるのではないのか』
「そうです」
 サルヴェナーズが頷く。
「ですが、相反する相手を力を使い、排除する……それは、時に多くの場合に間違いを生み出し、また、その力に対抗するための力も生み出します。
 もちろん、力が必要な場面はあるでしょう。
 時に絶対的な敵対者に対して、力で対抗しなければならないときは、必ずあります。
 ですが……今はまだ、皆さんは、その段階ではないと信じています」
「どちらかの主張を全部受け入れるのではなく、受け入れられるところを先ずは1つ見つけて。
 次にまた1つ……と。少しずつ、お互いにとっていい関係になれるよう、歩み寄りませんか?」
 クラリーチェの言葉に、幻想種たちは押し黙った。
 命を懸けて、止めたものがいる。言葉を尽くして、止めようとしている者たちがいる。
「どうか、相手が悪である、という考えを捨てて欲しいのです」
 フルールが言う。
「同じく、森を愛するものとして……相手の言葉に、耳を傾けてほしい。
 譲れない所はあるでしょうが、でも歩み寄る心は捨てないのでほしいのです……」
「……森を閉ざせば、確かに『今の安寧』が得られましょう。ですが世界は変転してゆくものです。
 森を閉ざしてもそれは変えられない。外で生まれた何某かが森を侵さんとする時に如何するか。真に護るべきものは何か、見誤ってはなりません」
 アリシスが、保守派に向けて、そういう。
「外の世界はまさに混沌。悪戯に交われば、それ自体が災いを呼び込む事さえもありましょう
急いて未来を切り開かんとした結果、森の在り様を失っては本末転倒というものでしょう。真に得るべきものは何か、見誤ってはなりません」
 改革派に向けては、そう告げる。
「何れも森の未来を案じてのものでしょう。ならばこそ、重ねるのは言葉のみになさい。
 お互い傷つけあう行いを、貴方方を母なる大樹は見ておられます。
 その行いに傷つき、悲しみ嘆いておられましょう。それが、貴方方の本意でしょうか?
 大樹が嘆いたというのならば――己のみを傷つけられたからではありません。愛するあなた達が、お互いにいがみ合う様に、心を痛めたのです。
 見てください」
 そう言って、アリシスがゆっくりと、指し示す。大樹のふもと。そこに立つ一人の炎。
「――あれなる炎を御覧なさい。あれこそは炎の嘆き。母なる大樹の悲しみ、嘆き……怒りの具現。貴方方の罪の証です。
 なればこそ、示すべきではないでしょうか。傷つけ合うのではなく、共に歩んで未来を歩む事を」
「大樹が燃えちゃったら元も子もないですよ!ㅤみんなで力を合わせてシェームさんを倒しましょう!!」
 ウテナが、うんうんと頷きながら言った。
「それに、一度一緒にいろいろやったら、風通しがよくなって話し合いもうまく言うというものです! それもあります! というわけで、では行きましょう!ㅤ災厄を振り払ってみんなの大樹を守りますよ!!」
「あれは、明確に敵だ。敵になってしまった」
 サイズが言う。
「アイツは……キミ達を滅ぼすのに、きっと躊躇しないぞ。炎の化身、嘆きと怒りの化身だからだ。
 どっちの陣営を、じゃない。キミ達、両方を、だ。
 アリシスの言葉を借りれば、それがキミたちの罪だ……立ち向かわなければならない。力を合わせて」
『力を?』
「ええ。あれはオルド種と呼ばれるもの。ファルカウを守る『大樹の嘆き』が、何者かによって狂わされた姿なのです。
 あの炎は森を焼き、そして貴方達の生活も焼き尽くす。保守派だ改革派だなどという区別に意味はなく、全てを焼き尽くす災厄の炎なのです」
 寛治が頷いた。
「それ故に――目下、我々共通の敵である、と言えるでしょう。きわめて強力な、です。
 我々すべてが一丸とならなければ――滅ばされるのは、必定」
『それが、我々の罪だと――』
「そうだね。でも、それは贖える罪……ううん、罰を受けるほどじゃない。
 今から手を取り合って……分かち合えれば。乗り越えられることだから」
 アリアがゆっくりと、そう言った。
「後の世に、何度も深緑は危機を迎える。
 ある時は内なる脅威に晒され、ある時は外からの敵に襲われ。
 だけど、大樹の名の元に皆が集い、その難題は全て打ち払われん!
 ——未来を語るのは大事だけど、その根っこにある「共通項」を忘れたらこの国の未来はないんじゃないかなあ。
 何より愛するこの深緑の未来が、ね。
 皆、この国を愛してるのは事実。だから、今はその愛を束ねて。
 打ち克とう。一緒に、ね」
 ぼう、と、幻想種たちの身体が、光に包まれた。24の光は一つになって、巨大な一つの光の弾へと変貌した。
『今は、この力一つとして、共に厄災に立ち向かわん!
 我らのすべては、ファルカウと共にあり――』
 光は、まるでシャワーのように、イレギュラーズ達に降り注ぐ。その光はイレギュラーズ達の身体を包み、その隣に、幻想種の『友』を具現化させる。
 つないだ手。繋いだ心。それは脆く、儚く、少しの間に崩れるものかもしれない。
 されど、今この瞬間は――。
「なるほど、のう」
 シェームが、笑った。
「いやいや……最初にそこの女子が自分を殺せと言い出した時ははらはらしたもんじゃ。
 結果は良かったが……自己犠牲ちゅうんは儂は好まん。覚えておけ、アリア・テリア」
「ああ、そこは減点だったね?」
 かちゃり、と、アリアは武器を構える。合わせるように、仲間達も武器を構えた。
「さて、私たちは約束しました。共に力を合わせ、厄災へと立ち向かうと」
 アリシスがそういうのへ、シェームは頷いた。
「そして今、彼らの力は、私たちともに。
 挑戦を、受けてくださいますね?」
「おお、いいじゃろう」
 にぃ、とシェームは笑った。
「儂は機嫌がいい。ああ、とても良い。
 それに敬意を表して、今出せる全力で、貴様等の相手をしよう」
「ふざけるなよ。キミの試しとかそういうのが、他の……妖精たちにまで及ぶとしたら、俺はここで、キミを斬滅させる!」
 サイズが吠える。
「おう、威勢がいいの妖精鎌。妖精共は管轄外じゃが、立ち向かってくるとしたら話は別じゃ」
 轟、とその身に炎が燃え盛る。四肢に宿る炎はさらに激しく燃え盛り、苛烈な炎は、それが真の力ではないとしても、こちらの身を焼くには充分に思える。
「強烈ですね……でも! うちは貴方も捨てません! 全部拾って次へ進むのが“物語”ですからねっ!! 」
「上等じゃ、娘子よ! その身の炎で、儂を止めてみせい!」
 強烈な焔が、辺りを走った! かくて想いを束ねた勇者たちの激闘が、ここに開幕する――。

●そして夢の終わり
 強烈な炎が大地を奔る! イレギュラーズ達の猛攻が、光となった幻想種たちの力と共に解き放たれる!
 これは夢。一夜の夢。なればこそ、全ての人の思いが一つとなった、奇跡のような光景が繰り広げられていた。
 クラリーチェの放つ聖なる光。掲げ鳴らした鐘の音に、合わせるように杖を掲げる、クラリーチェの隣に侍る幻想種を描いた光。それはクラリーチェの放った聖光をさらに増幅し、死せるものすら呼び起こすような神聖なる光となって、仲間達の傷を瞬く間に癒していく!
「すごい……こんなにも、強い力を……!」
 クラリーチェが飛びずさると、そこに薙ぎ払うように炎が走った。
「おう、そうじゃ、娘子! よいのう、そういうのは。燃えるじゃろう!?」
「ええ、ええ……たしかに!」
 クラリーチェが鐘を鳴らすと、聖なる光は攻撃のそれへと転じる。放たれた聖光は、強烈なレーザー光線のように、シェームの炎と衝突、強烈な爆発を巻き起こした!
「力を合わせれば、どんな困難でも乗り越えられる……陳腐で道徳的じゃが、しかしそれは一端の真理じゃ。
 じゃが、時に人は、それすらできずに、脆くも崩れ去る」
 シェームが放った拳。それが炎巻き上げ、巨大なロケットパンチとなって飛び込んできた。狙われたサイズが、血の色の鎌で、そのロケットパンチを切り払った。
「説教はやめろよな!」
「事実じゃ! 現実の儂は、結局はまとまらぬ奴らを焼いた!」
 次なる拳を打ち込もうとするシェームへ、寛治が銃撃をくわえる。クラシカルな傘の先端(じゅうこう)が、ほのかに硝煙をあげている。
「なのでしょうね。だからこその、これは『貴方の夢』だった」
 寛治が続ける。
「この夢はおそらく、貴方の権能ではないのでしょう。言わば巻き込まれたような形だ。だが、それを利用した。私たちが、貴方の望む勇者であるかどうかを確かめるために」
「そうじゃな。もう、つまらん意地を張ってもしょうがあるまい」
 にぃ、とシェームは笑う。
「儂は、あの時、貴様と同じことを考えた。儂はどうしようもなく、破壊しかできん男じゃ。そんな奴が争いを止めるためには……脅威になるしかなかった」
 シェームが足を振り上げた。そのまま、大地を踏みしめるようにかかとを落とす。ずだん、と強烈な音が成り、破砕された土くれと炎が混ざり合った、炎の砲弾が辺りに飛び散る!
「ですが、当時の幻想種たちにとって、あなた様は強すぎた。
 結局は、あなた様が討伐されるまで、森を焼き続けるしかなかったのですね……」
 リュティスが呟きつつ、跳躍。仕込みナイフを手に取ると、次々と投擲! 炎の砲弾のウィークポイントに突き刺さったそれが、次々と破砕、そして爆散させ、あらぬ方向へ射線を捻じ曲げる。
「儂は悩んだよ。柄にもなくな。何のために生まれたんじゃろうと。
 ファルカウは何も答えてはくれんかった。
 癒しではなく、禁忌とされた炎を取り込んだ儂は――何だったんじゃろう、とな!」
 ずだん、とシェームは大地を踏みしめ、飛び込――めずに、大地を蹴って飛びずさった。胡桃の放った蒼き焔雷が、大地を撫でシェームを狙ったからだ。
「自分探しがしたかったの?」
「すこし……いや、だいぶ悩んだわ! 『莫迦』なりにな。だがすぐにケリがついたぞ、同類。
 儂が生まれたことに意味なんぞはない。
 身体を傷つけたら血が流れる。それと同じじゃ。傷ついたから、儂は流れでた。零れ落ちた血はどうなる?
 答えは一つ。好きにしろ、じゃ。
 儂は好きにした。愛する幻想種を守るため、儂は幻想種の敵になることを選んだ」
「なるほど、なの」
 ばぢり、と蒼焔雷が走る! シェームは今度こそ、それをまともに食らった。ばぢり、と走り雷と炎が、赤き炎を吹き飛ばすように燃え上がる。
「ふふ――ああ、失礼。やはり直情的で、お可愛らしい事」
 アリシスがその手を掲げる。巻き起こる、光の柱。それは浄罪の剣。剣は真っすぐにシェームをポイントし、
「では、今回の理由も、そうなのでしょうね、炎の嘆き」
 うち放たれた浄罪の剣が、シェームの左腕に突き刺さり、そのまま切り裂いた! ぼう、と左腕が炎にまかれて消える。にぃ、とシェームが笑う。
「貴様らの、本来の敵は、儂じゃあないだろう。
 だが、儂にすら勝てぬような奴らが、あの恐ろしい竜に……冠位に、勝てるとは思わん」
「だから、私達に力試しを?」
 サルヴェナーズが静かに言う。
「応――最悪は、冠位めに加担し……いっそ、世界が滅ぶその時まで、幻想種をこの地で眠らせても良いとすら思っていたよ」
「……苛烈なる破滅が待っているなら、せめて気づかぬまま、夢の中で……という事ですか」
「じゃが……そうじゃな、貴様らは、面白い!」
 シェームが、切り裂かれた左腕に、己が炎を集めて形作った。急ごしらえの腕に、力が込められた。
「これは本音じゃが……貴様らと戦うのは、本当に、胸が躍る!
 ああ、正直に言うぞ……半分は、趣味じゃ!」
「わぁ、それはそれはってかんじです!」
 ウテナが驚いたように声をあげた。腕の再生が終わる間に、この戦いを終わらせる! ウテナはワイバーン・ロスカと共に、シェームへと迫った!
「なら、趣味の方も満足させてあげます! うちらの炎、食らってみてください――ロスカ!」
 ロスカと共に、火炎の術式を打ち放つウテナ! ロスカは炎のブレスを吐き出し、ウテナと共にある幻想種の幻影たちが、同様に炎魔術を撃ちだした! いくつもの炎は混ざり合い、溶け合い、巨大な火球となった。それが動けぬシェームの下に、叩きつけられる! 炎が、炎を飲み込み、砕き、爆散させる!
「見事――じゃが!」
 シェームは飲み込まれる内に、無理矢理その火球を真っすぐ『突っ切った』。突破によりダメージを抑えたシェームが、素での炎で焼かれた炎の身体、という矛盾する物体となってなお、苛烈なまでの戦闘意思を見せつける。
「おにーさん、色々理屈つけてるけれど……きっと、根底は……戦うのが、楽しいんですよね」
 フルールが、くすりと笑った。
「それがお望みでしたら、望み通りに。
 楽しみましょう、今この夢を」
 ウテナの炎から逃れたばかりのシェームを、この時フルールのさらなる炎が襲った。フルールの姿もまた、焔の精霊がごとし。強烈な放たれた焔、紅蓮閃燬は、シェームの身体を今度こそ飲み込んだ。強烈な火炎が奔り、閃光が奔り、空間も空気も焼くような熱が、シェームの身体を切り裂いたぼぐおん、と炎の身体が爆ぜる。下半身を吹き飛ばされてなお、しかしシェームは己が身体を飛翔させた。
「ほんに、ほんに――貴様らは、イイな!」
「ありがとう、でも、今夜の夢はここまでだよ!」
 アリアがその手を突き出した。その手に、幻想種たちの幻影が次々に手を重ねる。人の心を束ねた可能性。その一撃。
 彼が本当に見たかったもの。
「見せてあげる。そして誓うよ。これを夢で終わらせない」
 アリアが放った術式が、強烈な光を伴って、シェームの身体を飲み込んだ。
「ははは! 見事! 見事じゃ!」
 シェームが、光に包まれながら、笑う。
「じゃが……次は本気で行くぞ。最後の試し、越えてみせい!」
 シェームの身体が、光に包まれ――爆散した! 光は世界を飲み込み、まるで朝を告げる陽光のように、まぶしく、まぶしく――世界を照らす。
 次に気づいたとき、イレギュラーズ達がいたのは、ファルカウへと向かう道の真ん中であった。
 夢の世界。それが、消えたのだと。
 シェームの試練を乗り越えたのだと――その時、皆は確信し、そしてそれは、事実であった。

成否

成功

MVP

新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 選択はなされました。
 この先、皆様が、最も良き道を選べますことを。

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