シナリオ詳細
<13th retaliation>知恵者の樹
オープニング
●知恵と高潔の霊樹
泉の中心で、その霊樹は静かに――何事もなかったかのように立っている。
周囲を取り囲む泉の水質も穏やかに、きらきらと水面を陽光に散らしている。
陽光のカーテンのように真っすぐに日差しを浴びてのびのびと立っているのは、真上の空間が開いているからだ。
迷宮の如き周囲の木々のうち、その泉と霊樹のみは遮るものを持たない。
「やっとたどり着いた」
ほっと一息を吐いたのは、青色の髪をした幻想種の女性。
「ラフィーネ、あれが君の言っていた霊樹クエイトか?」
「ええ、そうよ。あれが私達の信仰の対象にして、この集落の名前でもある霊樹クエイト。
智慧と高潔の霊樹と言われているわ」
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)の言葉に頷いた彼女はこの集落――クエイトを故郷とする冒険者である。
「不思議と人の姿がありませんね……理由は不明ですが」
「あぁ、意識を失っている者もいないな。ラフィーネ、何か分かるか?」
「分からない。……でも、多分。あの子は知ってるわ」
そういうラフィーネの顔が、ある一方向から動いていないことに気づいて、8人もそちらを向いた。
「……あれは、子供か? それも、まだ幼い。10代前半にもなっていなさそうだが?」
ベネディクトは思わずつぶやいて歩き出す。
「……ふむ、しかしおかしいですね。先程まであそこに人はいなかった。
お気を付けください、何か良からぬ存在かもしれません」
その少女は9人が辿り着くまで全く目覚める雰囲気がない。
淡い水色の髪をした少女だ。
水の流れを思わせる艶やかでさらりとした髪は長く、けれど触れれば掛かることなく梳くことができるだろう。
耳は幻想種のように尖り、霊樹へもたれ掛かるように座っている。
年齢の頃は10代も前半ばかりであろうか、顔はあどけないながらも、人間離れした異質さを帯びる。
よく見れば身体が上下しているところを見るに、眠っているのか。
「そういえば、『聖葉』と言うのを使えば茨の呪いが解呪されるようだな……使ってみよう」
ベネディクトは、その存在の事を思い出して1枚の葉を取り出した。
それはイレギュラーズが奪還した深緑の内部、ファルカウの麓に存在するアンテローゼ大聖堂の地下に存在する霊樹『灰の霊樹』に祈りを捧げて作られた加護の込められた葉です。
茨咎の呪いを解除して、身体に絡みついた茨から何の苦しみもなく救い出せる代物だ。
暫しの祈りの後、そっと少女に葉を向ければ、淡く輝く――が。
不思議なことに聖葉の効果は持続し続けている。
――――とその時だ。
「ん、んんん……眩しい……」
表情を歪めながら、眼を擦って顔を挙げた。
「ふぅ……ふわぁ、ふぅ……」
大きな欠伸をして、こてん、と少女が首を傾げる。
「懐かしい気配……」
そのまま、焦点の定まってない瞳がベネディクトを、寛治を通って、ラフィーネにたどり着く。
「……ラフィー、久しぶりですね」
幼子の口が震えた。発せられた声は外見から想像の着かぬ大人びた物であり、知性に満ちている。
「お久しぶりです、クエイト様。随分と、その……幼くなりましたね」
「えぇ、全く。ほとんどの力を持っていかれてしまいました。
この身体は私の残滓、クエイト(あの子)が要らないと斬り捨てた、ほんの少しの良心。
おかげで、身体を保ち続けるのも一苦労です」
「失礼だが、話を聞かせて貰ってもいいか?」
「そうですね、時間もありません……。
先程も申しましたが、クエイト(私)は霊樹クエイト――正確に言うと霊樹が持つ防衛機構。
貴方達は大樹の嘆きと呼ぶ物、その残滓です」
ベネディクトからの問いかけに頷いて幼子は事も無げに語る。
「オルド種……そう呼ばれる個体、ということですか」
「そうですね、私を示すのであればその言い方が正しいでしょう」
寛治に幼子が小さく頷いて見せる。
「外からの来訪者が訪れた時、私は抵抗を試み、そして負けました」
「オルド種は大なり小なり、魔種の影響を受けていました。
ですが、貴方からはそのような雰囲気がありません」
「私は知恵と高潔の霊樹。魔種の権能に抗いきれなかったとはいえ、
呑み込まれるだけでは名が廃るというものです」
更なる問いかけに幼子が誇らしげに笑う。
「あの子はこの村の民を連れてこの先にある森の奥へ向かいました。
きっと、そこで貴方達を待ち受けているでしょう。
……私はもうそろそろ自我が保てない。
そうなれば、私の分もあの子に回帰してしまう。
どうか、その前にあの子を鎮めてください」
幼子が指し示す方角へ視線を向けた9人は、頷きあって走り出す。
●狡知の霊樹
「……私ながらよくもやってくれましたね」
無数の茨に覆い潰される数多の幻想種を見下ろして、片手に杖を持つ女は嘆くように溜息を吐いた。
淡い水色の髪を腰ほどまで下ろし、すらりとした長身に女性的な肉感が宿り、そのスタイルの良さもあって幻想的な雰囲気を帯びていた。
「それに――お客様が多い事です」
くるりと女が振り返る。
緩やかに笑みをこぼしたその女――つい先ほどまでみていた大樹の嘆きが成長すればこうなるのではないか。
そんな印象を受ける、その姿は間違いなくクエイトであろうことを示している。
「問いましょう、英雄。問いましょう、特異点。問いましょう、安寧を妨げる者。
――貴方達に、この子たちが救えますか? 救えないのなら、ここで永遠に眠っていた方がこの子たちのためでしょう」
そう言ってクエイトは、両手を振り上げた。
「愚問かもしれないが……問おう。
その人達は誰で、おまえがやったのか?」
「この子たちはクエイトの里に住まう者達。いわば私の守護するべきもの」
そう告げたままに、クエイトが杖を天に掲げた。
その先端に水球が浮かび上がり、水球の中から、水で出来た動物のような何かが姿を見せた。
「愚問ですが答えましょう。この子たちの安寧の為に。
そう、私がやったことですよ」
- <13th retaliation>知恵者の樹完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年05月04日 23時30分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「いつも神様に護られている身だもの……護ってくださることには感謝したいのだわ」
『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)はその瞳には情熱の炎が灯る。
「私は私のやり方であの人たちを救うのだわ!」
手を伸ばした直後、鮮烈に輝く幻惑の光が走る。
宝石の如き輝きは眩くアナザーの身体を縛り付ける。
「なるほど……」
それを受けたアナザーは少しばかり驚いたように目を見張る。
(オルド種と化した大樹の嘆きは皆明確な自我を持っているようですが、概ねそのような結論に至る様子ですね。
まあ、オルド種が魔種の影響を受けた結果変質した存在……つまり反転に近い現象であるのなら、その変化も当然ではあるのでしょうが……
しかし……必ずしも、本来の役目を完全に忘れ逸脱してしまうという訳ではないらしい)
超然とした雰囲気さえ漂わせて語るクエイトアナザーとの対話を聞きながら、『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は興味深そうに見ていた。
速攻を仕掛けるアリシスは戦乙女の槍を縦に構えて呪文を紡ぐ。
燐光が散り、光の刃を形成し、真っすぐに走る。
スパークを放つ光刃が鳥型の水の塊に突き立ち、閃光を放つ。
「ちっちゃいクエイトさん可愛かったですね。ちょっと育成したいくらいには!
そしてお相手は中々の美人さんですね……ちょっと攻撃するのが躊躇われるくらいには!
でも静めないと大変な事になるっぽいですし、頑張りますよ!」
『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)の言葉にアナザーが小さく笑う。
「ああ見えても実際は貴女の祖父母よりも年上だったりしますよ?」
しれっとそう言ったアナザーがちょっとだけ恥ずかしそうにしているようにも見えた。
「永遠に眠るのが救済とかちょっと叡智さを感じないんだけど……まあ、魔種の影響を受けた存在の論理だし、仕方ないのかな」
『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)がアナザーを見て言えば、アナザーはただ微笑むばかり。
「まあ、いずれにしても戦うだけなんだけどね!
自分の領地のある国をこんな風にされると私も怒っちゃうよ!」
「……貴女の領地が無事であると良いですね」
静かに返答するアナザーを見てアリアは呼吸を整え自らの力を蓄えていく。
「行きなさい、私が子達――」
水で出来たシマエナガがぴょんと跳躍してパタパタと僅かながら飛翔してから落下する。
爆ぜた水流と衝撃波がイレギュラーズを吹き飛ばす。
それに続けるようにしてウォーターディアやウォーターフォックスが走り抜け、各々の攻撃を放つ。
「永遠に眠ってることが守護じゃないのよ!
そんなの守ることをただ放棄してるだけだわ。
人々の営みが美しいとか素敵だとか思ったことはなかったの?!」
「とても美しいものです。だからこそ、美しいもののままで止まっていてほしいのですよ」
『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)の言葉に落ち着いた様子でアナザーは答えるばかり。
「……いくわよ。水だろうがなんだろうが巻き込み飲み込んじゃう熱砂の力を貸してね」
静かに返すアナザーに視線を向けたまま、オデットは熱砂の精へ協力を願う。
呼びかけられた熱砂の精は真っすぐに走り抜けると、アナザーを巻き込むように砂嵐が巻き起こる。
「そちらにも思惑がある様に、俺達にも戦う理由はある。
力を示せというならば、そうしよう。守るだけの力を俺達が持っているという、その証明を」
槍を構えた『竜撃の』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)にアナザーが静かに笑う。
その全身に黒き魔力を待とうと、ベネディクトは一気に走り出す。
鋭い踏み込みと共に放たれた刺突がウォーターバードを貫くやその身体を黒が内側から埋め尽くし、炸裂する。
「守ってくれるものが敵になるなんて、凄く怖いことね。
でもね……ルシェたち、アナザーお姉さんが守ってくれた人たちを助けるために来たの。
……ううん、アナザーお姉さんも助けるわ。
だって、アナザーお姉さんはクエイトの人たちが怖い思いを、辛い思いをしないようにしてると思うもの」
愛杖をぎゅっと握る『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)は真っすぐにアナザーを見据えた。
「だからね、アナザーお姉さんがクエイトの人たち託しても良いって認めてくれるように頑張るのよ!」
真っすぐに前へ出れば、そのまま愛杖を揺らす。
周囲の閉ざされた深緑に願う思いが音色となって響き渡り、戦場へ浸透していく。
「貴女の言う救いが彼らにとって本当の救いとは私には思えない……悪いけれど、我を通すのだわ!」
華蓮は静かに祈りを捧げていく。
神に愛された巫女の祈りは調和の輝きを為す。
木漏れ日を抱く光は梯子のようになって降り注いでいく。
「そう思うのでしたら、是非とも私を倒していただきましょう」
酷く穏やかにアナザーが笑った。
「救われたかどうかを決めるのは当人でしょうに。
自由意志のある生き物なのですから。それを自分勝手に眠らせておいて救ったつもりでいらっしゃるとは。
気持ちの良さそうな自慰行為ですね」
『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は棒立ちのまま挑発する。
「それとも『人類は愚か』的な事をおっしゃるのでしょうか?
あまり大きな主語を使わないほうがいいですよ。弱く見えますから。頭が」
「まさか。人類ほど愛おしいものはありませんよ。
中にはどうしようもなく愚かな行為をするときもありますが……それもまた愛おしいというもの」
挑発に対してアナザーは超然と微笑みそう返してくる。
●
「風邪ひく前に倒します!」
しにゃこは生き残ったウォーターバードを見ながら、銃弾をぶっ放す。
空へと舞い上がった弾丸は、空中で分裂、ウォーターバードを中心として雨の如く降り注ぐ。
無限の如き鋼の驟雨が終わる頃には、シマエナガは破裂して水たまりに変わっていた。
「ルシェたちは、ここだけじゃなくて深緑中の皆を助けるつもりよ。
ルシェの家族も、きっと眠ってる。
クエイトお姉さんとアナザーお姉さんみたいに守ってくれる人がいるかも分からない。
でも、絶対助けて見せるの……だからクエイトの人たちも助けて見せるわ!」
キルシェは仲間達へ祝福を果たす音色を響かせながら、アナザーへと声をかけ続けていた。
「聖少女、貴女の願いと覚悟は受け取りました」
アナザーはその言葉に微笑むばかりだった。
「私のエスコートはお気に召しましたか? クエイト・アナザー」
狙いすました寛治の二種の弾丸は縫い付けるようにアナザーの身体へと吸い込まれていく。
弾丸を受けるアナザーは撃ち抜かれた身体を気にも留めていない。
「ええ、素敵なエスコートです」
そういうと、アナザーが自らの持つ杖の先端に水を湛えていく。
最高速度で走り出したアナザーが水流を刃にして叩きつけてくる。
華蓮はアナザーと寛治の間に立つようにして向かい合っている。
「これが私の戦い方なのだわ」
それは未来の自らへと捧ぐ祈りの歌。仲間達を後押しする温かい祈りの風。
癒風を呼ぶ祈りの歌が仲間達の状態異常を解きほぐす。
「良い歌ですね……貴女に仕えられている神が貴女を愛するのも頷ける話です」
その歌を聞きながら、穏やかにアナザーは杖を構えている。
「畳みかけましょう」
疾走する浄罪の剣を見ながら、アリシスは次を紡ぐ。
毒々しい紫炎の刃が戦場を走り抜ける。
紫炎の刃が炎を靡かせ尾を引いて真っすぐに飛んでいく。
炸裂した刃は燃え上がる神の毒。
断罪ののちに齎される神の毒がアナザーの身体を冒していく。
「時間がないんだ、悪く思わないでね!」
飛び込んでいったのはアリア。
握りしめたニョアの細剣に魔力を多重に籠めて思いっきり刺突を放つ。
剣身に纏う多重の魔力がアナザーへと触れると同時に炸裂し、多重に貯め込まれた分の魔力が爆発する。
必殺を期す零距離の極撃がアナザーの半身を抉り取る。
瞬く間に修復された代わり、アナザーのサイズが一回り小さくなっていく。
「それはこちらも同じことですね」
微笑むアナザーが杖を掲げると、その先端に大量の水が集まっていく。
「……流石はこの土地を守護する者、と言った所だな。だが、力を示すと啖呵を切った以上は──!」
急速に集まっていくそれがある種の大技であることを察したベネディクトは、一気に走り出した。
黒狼の槍が紅の魔力を帯びていく。
尾を引く紅の闘志は雷光のように走り、アナザーの身体を貫いた。
その動きの終わり、ベネディクトは無理矢理身体を起こす。
構えなおした槍に籠めた魔力が黒く層を為し、魔力の流れが唸り声のように鳴り響き、一閃が漆黒を描いた。
黒き閃光の終わる頃、アナザーの身体は更に一回り小さくなっていた。
「なんだか、だんだん小さくなってませんか!」
それはまるで、先程あったクエイトの方にも似た風貌へ近づいているような。
「ばれてしまいましたか」
アナザーが苦笑する。
「殆どを私に取られたクエイト(あの子)が私から奪い返してるのですよ」
「ってことはあっちのクエイトさんが大人になってるんですかね!?」
しにゃこの言葉にアナザーは答えない。
沈黙は肯定と判断しつつ、しにゃこは弾丸を放つ。
真っすぐに飛んだ死を呼ぶ二発の弾丸が戦場を駆け抜けた。
「ガス欠なんてこの私がしようがないけど、コスト度外視でバンバンいくわよ!」
オデットは呼び出した熱砂の精を向かわせながら、続けて魔術を行使する。
広域を巻き込む熱砂の砂嵐がアナザーと複数の嘆きを包み込む。
その直後、四種の魔術が砂嵐へと突入していく。
細かい砂の向こう側、四色の魔弾が閃光を放つ。
砂嵐が収まったあと、そこには最初の半分ほどの年頃にまで幼くなったアナザーがいた。
「おやすみなさい――」
それを見据えて、アリアは走り出す。
全霊を込め、魔力の塊となったナイフを、真っすぐに撃ち込んだ。
「……その力、確かに見定めました」
優しい声でアナザーが言って、解けていった。
●
「お疲れさまでした、運命に愛された子ら」
里へ戻ったイレギュラーズに声をかけたのは淡い水色の髪を腰ほどまで下ろした女性――クエイト・アナザーそっくりの存在だった。
その身体は少しずつだが霊樹に還りつつある。
「あの子が浄化された分の力が戻ってきたので、無事の勝利であることは分かっていました」
「元の大きさに戻っちゃったんですね! 小さい方が可愛いのに……」
その姿を見て、しにゃこが落胆したような声を出せば、女性が小さく笑う。
「それでは……あの姿でお話しましょうか?」
「出来るんですか!?」
「えぇ……あちらの方が身体に使う分が少ないので、多少は時間も増えるでしょうし」
しにゃこに頷いたクエイトの身体が光に包まれ、見る見るうちに小さくなっていった。
「これからアナタはどうするの?」
「実のところ、私の身体はじきに霊樹に戻るでしょう。
怠惰の呼び声の影響を受けた部分は貴女達に倒され
一時的にこの身体に回帰しましたが、そう長くは持ちません」
オデットの問いかけに事も無げにクエイトがそう返す。
「1つよろしいでしょうか。大樹の嘆きたる本分を失ってはいないのに、
何故、ファルカウや深緑を侵す魔種達を排除しようとは考えないのでしょう」
「……他の子達がどういうつもりなのか、そもそも考えがあるのかまでは知りません。
これはあくまでも私個人の判断だと考えてくださいね」
アリシスの問いに暫しの沈黙を経てクエイトは顔を上げた。
「あの眠りは停滞を呼ぶもの。例えば、憤怒にまみれて暴れることがあれば、傲慢に霊樹を穢すのなら考えものですが。
命の危険がないのならば、そこまでであれば受け入れてしまっても問題はありません」
そこまで言うと、クエイトは一歩後ろに下がり、木にもたれかかる。
よく見れば足元が光に変わっていきつつあった。
「下手に動いて霊樹や幻想種達に被害が出る方が危険です。それに全土を眠れば確実に外が気づくでしょうから」
ずるずるとへたりこむように根元へ座り、穏やかに笑ったかと思うと、何かに気づいたように目を見張る。
「そうでした。そちらの貴方。私に先程かざしていた葉を、頂けませんか?」
不意にベネディクトの方を向いて、首を傾げる。
「聖葉のことか?」
取り出した聖葉に頷いてそれを受け取ったクエイトが、眼を閉じて祈りを捧げ始める。
祝詞のような物を紡ぎ始めたクエイトの手元で聖葉が淡い光を放ち、ゆっくりを浮かび上がり――霊樹の中へと吸い込まれていった。
それと同時、霊樹がひときわ大きな光を放ち、光が里全体を包み込む。
眼が眩むほどの光が照らされると、各地から人々の眩しさに唸るような声がした。
光が収まると同時、クエイトの身体を構成していた粒子が爆ぜる。
「……これでひとまずは大丈夫でしょう。灰の霊樹へお礼を言っておいてください」
体全体が薄く透けつつある姿でクエイトがキルシェに視線を向け、そっと手招きする。
「小さき子……貴女の願い、聞き届けました。
それは我儘というにはあまりにも可愛らしいもの。
その心を大切に……忘れずにね」
杖を握って立ちあがったクエイトは、同じぐらいの身長のキルシェの頭を慈しむように撫でて微笑んだ。
「……俺達は、貴女の目に適う事は出来たか?」
ベネディクトの言葉にクエイトは少しばかり目を細めて零すように笑う。
「充分でしょう。貴方達の旅路と意志がより良い未来を描くのを見守っていますよ」
そう言ってそのまま視線をベネディクトの横、ラフィーネに向けた。
「ラフィー、この人が貴女の言っていた、異界の友人ですか?」
「……はい、私の見た中では一番でした」
「分かりました」
ゆっくりとベネディクトを見て、クエイトが手を翳す。
霊樹から一筋の光が伸びて、ベネディクトの目の前へ降りる。
それはそのままとけるように体の中へ入っていった。
「貴方の精神性が高潔にあれば、時が来ればそれが貴方を導くでしょう」
それ以上を言うことなく、クエイトの身体は完全に霊樹へ還り、霊樹の神聖さは鳴りを潜めていく。
残ったのは、目覚め始めた人々の小さな言葉と、神聖を失ったただ大きなだけの木が一つ。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
霊樹クエイトはその神聖の全てを皆さんに賭けたようです。
その神聖さを取り戻すには数年、あるいは数十、数百年かかるのかもしれませんが……さておき。
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
GMコメント
さて、そんなわけでこんばんは春野紅葉です。
ラフィーネと訪れた彼女の故郷、知恵と高潔の霊樹が見守るクエイトの森へ。
●オーダー
【1】『狡知の霊樹』クエイト・アナザーの撃破
【2】村人の救出
●フィールドデータ
ラフィーネの故郷、クエイトのすぐ近く、茨に覆われた迷宮森林の一角です。
視界は抜群、足場も良好ですが、そこら中に茨があります。
●エネミーデータ
・『狡知の霊樹』クエイト・アナザー
オルド種と呼ばれる高位の大樹の嘆きです。
正確に言えば霊樹クエイトの大樹の嘆きのうち、
九割以上を構成する『魔種の影響を受けた』部分。
淡い水色の長髪と新緑の瞳をした、20代の女性を思わせます。
手には杖のようなものがあります。
水を用いる魔術師を思わせます。
シンプルに水弾を放つほか、幾つかの範囲、貫通、列などの範囲攻撃スキルもあります。
また、至近距離の敵に杖の先に湛えた水の刃をぶっ放す至単は脅威となるでしょう。
また、HP,BS、AP回復手段にも長けています。
BSは凍結系、乱れ系、ブレイク、恍惚などが考えられます。
・ウォーターバード×2
水で出来たシマエナガですが、
平均的な成人男性と同じぐらいの大きさがあります。
クエイトの力の一部を分割して生み出した大樹の嘆きです。
空は飛べませんが、跳躍からの着地に伴い範囲相当へ衝撃波と水流を叩きつけます。
BSは乱れ系、飛、ブレイクが考えられます。
・ウォーターディア×2
水で出来た鹿です。
クエイトの力の一部を分割して生み出した大樹の嘆きです。
非常に俊敏で蹴り飛ばしたり角を用いての突撃などを仕掛けてきます。
BSは足止め系、乱れ系、追撃などが考えられます。
・ウォーターフォックス×2
水で出来た狐です。
クエイトの力の一部を分割して生み出した大樹の嘆きです。
非常に素早く、噛みつくことによる単体攻撃の他、
不協和音の遠吠えを放ち状態異常をもたらします。
BSは毒系、火炎系、麻痺、混乱などが考えられます。
●『茨咎の呪い』
大樹ファルカウを中心に広がっている何らかの呪いです。
イレギュラーズ軍勢はこの呪いの影響によりターン経過により解除不可の【麻痺系列】BS相応のバッドステータスが付与されます。
(【麻痺系列】BS『相応』のバッドステータスです。麻痺系列『そのもの』ではないですので、麻痺耐性などでは防げません。)
25ターンが経過した時点で急速に呪いが進行し【100%の確率でそのターンの能動行動が行えなくなる。(受動防御は可能)】となります。
●友軍NPC
・『高潔なる探求者』ラフィーネ
ベネディクトさんの関係者。
皆さんと同等程度の実力を有する冒険者であり、水にまつわる魔術を用いる魔術師です。
ヒーラーとするかアタッカーとするかは皆さん次第です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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