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シナリオ詳細

<13th retaliation>愛しき倖いにさよならを

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●しあわせ
 柔らかで、暖かくて。
 幸せで、満ち足りて。
 そうありたいと願った。
 そうあればいいなと希った。

 愛しい人が微笑んでくれている。
 ――もう会えない、あなた。

 大きな両手が僕の手を握って一緒に歩いてくれている。
 ――そんな過去はなかったけれど。

 大好きで愛してるからこそ、一緒に死にたいと願った。
 ――ちゃんと告げれば、君は受け入れてくれただろうか?

 確かにあった幸せ。
 手を伸ばしても届かなかった倖せ。
 きっと赦して貰えない死合わせも、そこにはあった。
 幸せで、しあわせで、シあわせで、シアワセで……不幸なんて一欠片もそこには存在しない。『存在し得ない』。
 ぐずぐずに煮崩れたいちごジャムよりも甘くて、砂糖菓子のように柔らかで心は包まれる。何の不自由も、何の違和感もない、倖いの揺籃。
 とぷんと落ちた夢の中、あなたの片隅に残る僅かな理性はこう思うのだ。

『――ずっと、目覚めなければいいのに』

 ああ、此処に居たいな。
 あなたと、
 君と、
 ひとりで――。

 ここは倖いの揺籃にして、安寧の坩堝だ。
 揺れて、揺れて、堕ちていこう。
 だって外は、辛いでしょう?

●みちゆき
 アンテローゼ大聖堂から大樹ファルカウへと続く道をイレギュラーズたちは急いでいた。びゅうびゅうと吹き荒ぶ吹雪は凄まじく、常春の大聖堂付近だとは到底信じがたい。
 視界が不明瞭で本当に深緑内にいるのかと不安になる。――が、だからこそ『此処が深緑内だ』と思えるのだ。常ならばありえないことが、深緑に何らかの危機が齎されていることを告げているのだから。
 急いでいた。解決の糸口を掴みたくて。
 吹雪に負けじと、仲間とともに足を前へ前へと動かしていた。

 ――はず、だったのだ。


●ゆめならさめないで
 ふかりと柔らく温かな何かが頬に触れた。
 何か、だなんて。
 浮かんだ言葉に、知らず笑みが浮かんだ。
 何かだなんて、思うはずがない。
 これは僕の好きなもので、僕の倖い。

 そう、ねこだ。

 柔らかくて、温かくて、顔を埋めると最高に気持ちいい。
 何故だが僕のことをよく引っ掻いてくるけれど、それも愛情表現だと思うし可愛らしい。こんな生き物がいるだなんて、世の中捨てたものではないと思う。
 猫と寝転がって、日向で眠る。温かくて幸せだ。
 働きたくないなと口にすれば、猫がにゃーと鳴いた。ずっと一緒に寝ていようと告げているに違いない。
 そういえば僕の親族は犬派が多いんだよね。猫はこんなにも可愛いのに信じられない。家の敷地内だってさ、何だかんだと犬が居て――。
 何か思考が浮かびかけ、シャボンみたいにパチンと消える。
 家族なんて関係ない。家を出たから関係ない。
 猫と、俺だけあればいい。
 この腕に収まる温もりと柔らかさを感じていられれば、それ以外何も必要ない。
 ――猫と横になる前は何をしていた……?
 猫がすりと顎に頭を押し付けてきて、自然と笑みが零れる。
 まあいいかという気持ちで溢れて、幸せな眠気にゆるゆると瞼が降りていく。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 先日は怖い夢(<spinning wheel>茨の夢)を見せてしまったので、いけないいけないと反省し、今回は幸せな夢を見てもらうことにしました。

●成功条件
 眠りの世界を打ち破る

●同行者
 劉・雨泽(p3n000218)が同行しています。
 が、起きません!!! 起きる側の頭数に入りません。
 OPにある通りです。惰眠を貪るタイプです。
 猫とすやすやする夢を見て、すやすやしています。

●夢
 ひとりひとり、見えている場所が違います。好きに思い描いてください。
 そこはあなたが『ずっとここに居たい』と心から思う場所です。
 記憶や理想、希望、あなたにとって都合がよくとても自由な空間です。
 夢は自由なので、シリアスでもギャグでもご自由に。

 夜に見る夢と同じように、夢に落ちていることにあなたは気付いていません。
 その空間が不思議だとも思いません。
 けれど夢の途中で「あれ?」となる時があるように、過ごしている中でそうなっても良いですし、ずっと気付かなくても良いでしょう。
 ずっと幸せな夢を見ていてもいいんですよ。

 あなたの現実の体は『眠りの世界』と言うフィールドに入り、眠りについています。
 この眠りは『幸せに別れを告げる』ことで目覚めることが出来ます。
 同行者の半数以上(5名)が目覚めた段階で打ち破れます。
 夜に見る夢がそうであるように、ずっと眠っていたくとも夢はいつか終わるものです。自力で起きれなかった人たちは唐突に目が覚め、現実に戻ってきます。

 覚えていてもいいし、覚えていなくても良いでしょう。
 夢は、夢なので。

 さあ、あなたのさいわいをおしえてください。
 そしてさいわいに、さよならをつげましょう。

  • <13th retaliation>愛しき倖いにさよならを完了
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年04月28日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
月夜の魔法使い
雷霧(p3p010562)
奇剣

サポートNPC一覧(1人)

劉・雨泽(p3n000218)
浮草

リプレイ

●まひるのゆめ
 ごうごうと吹雪いていた。
 身体に叩きつけてくるような雪は、冷たいと言うよりも痛く。
 仲間の姿だけを見失わないように歩いて、歩いて。
 白が、視界を覆い尽くしていく――……。

 ――チチ、チチチ。
 窓の外から聞こえる鳥の声。
(朝が来るよと歌っているのでしょうか)
 ふと浮き上がった意識で、私――『永訣を奏で』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)はそう思った。
 目が覚めたのなら、朝のお祈りの支度をして……お祈り、って何だっけ?
 時計を見ればまだ早い時間で、浮かんだ疑問も微睡みの中へと落ちていく。
「おはよう、お父様、お母様。お兄様!」
 次に意識が浮上したのは、朝ごはんのいい匂いがする頃。とっくに食卓についている両親がおはようと笑って、寝癖がついたままの私に渋面を向けてくるのはお兄様だけ。
 あたたかな食卓についたら手を組んでお祈りをして――。
(あれ? いつもなら冷えた教会で……)
『どうしたの?』
 心配そうなお母様の声。お兄様もどこか悪いのかと眉を寄せている。何でもないと笑みを返し、家族と口にする温かなスープとパンは心もお腹も満たしてくれた。
 朝食を終えたら学校へ通う。級友たちと学び、帰り道に寄るお店の話や素敵な上級生の話に花を咲かせれば、あっという間に楽しい時間が過ぎていく。
 きっと明日もこうして平和に過ぎていく。
 でもそのためには、お祈りをしなくちゃ。
「あ、そろそろお祈りの時間」
『お祈りってなに?』
「なにって。私は修道――……」
 思い出し、家に向かって駆ける。
 この幸せがまがいものだなんて信じたくないと心が否定するままに駆け、て――ああ。気付いてしまった私の足が、ゆっくりと止まる。
 そんなもの、どこにもない。
 これは、夢。帰るべき家と、迎えてくれる家族のいる幸せな夢。

「……ん」
 慣れ親しんだい草の香りが鼻をくすぐり、目を覚ます。
 持ち上げた視界に映るのは、『剣技開眼』の掛け軸。
 どこかぼんやりと頭が重いのはいつの間にかうたた寝をしていたからだろう。欠伸を噛み殺しながら起き上がったウチ――『奇剣』雷霧(p3p010562)はそのまま室内を見渡した。
(いつも座っとる位置とちゃうからわからんかったけど、ここ……)
 家の茶室や。
 起き上がったこの場所は、いつも師匠の座っている場所。
 だからかやろうか、師匠がいつも淹れてくれとる緑茶が湯気をたてとる。
(師匠、さっきまでおったんやろか)
 淹れたてと思われる緑茶は、きっと目覚めの一杯にいれてくれたんやろ。茶請けのたこせんまで用意してくれて……ウチは嬉しくて口の端が上がってまう。
 一口、緑茶を啜る。幾つかの茶葉を合組したやつや。
(それにしても、何でウチここにおるんや?)
 ペイトを出て、外の世界へ旅に出たはずや。
 いつの間にか帰ってきとったんやろか。
(……それにしても師匠たち、帰ってこんな)
 好物の師匠のお茶とたこせんやけど、なんや一人でここにおってもしゃあないしな。食べ終えたらお暇しよか。
 それじゃ、また。また来るなぁ、師匠。

『おはよう、スティア』
 朝の挨拶を返すと、今日の始まりへの喜びが私――『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)の胸を満たしていく。
 今日はピクニックがしたいと言う私の提案に、美味しいものを沢山詰めたバスケットを使用人たちが用意してくれた。向かうのは、蝶々が舞い踊り、美しい花々が咲き誇る、『亡き淑女の花畑』。
 幻想種である私が寂しくないようにって両親が贈ってくれて、名前の由来は……名前の由来は、確かお母様の名前――。
『お姉様、早く!』
「そんなに急がなくても大丈夫だよ」
 だって花はいつでも咲いていて、喪われたりなんてしないのだから。
(……あれ?)
 花冠を作る指を止める。花の命は、摘んだら喪われるのだろうか。
 明るい家族の声に、すぐに気持ちが切り替わる。美味しいねって笑い合って、ささやかな幸せを拾い集めるように花を摘んで――これは叔母様へのお土産。
(こんな風に揃って家族で過ごせるのはとても久しぶり)
 ――久しぶり?
 いつもこんな風に幸せに過ごしているのに、どうしてそう思ったのだろう。
(それに、どうして花畑の名前が)
 お母様の名前と同じはずなのに……亡き? どういうこと? お母様はこうして側に――。
 手にした花が、はらりと零れ落ちていく。
 どうして忘れていたのだろう。あの時――天義で別れを告げたのに。
(そうだった)
 私は笑う。どうしたのと案じる両親と弟へ。
 元気に暮らしているよって胸を張るために、笑ってさよならを告げるのだ。

 ……ふあ。
 溢れた欠伸に涙が滲むのを指先で払っている間も、俺――『黒鋼二刀』クロバ・フユツキ(p3p000145)の視線はフライパンの中から離れない。もう5分寝たいと毎日思うけれど、朝食作りは俺の分担だ。おはようと、両親と妹が匂いにつられて現れるまで、キッチンは俺の城。
 朝食を終え、学校へ向かう。登校する生徒たちの波に乗り、「今日小テストがあるらしいぜ」「げえ」なんて、クラスメートと取り留めもない会話をして。
 昼休憩時、家族の話が出た。不満ばかりを漏らす友達が、お前はそーいうのないの? と振ってくる。
「不思議と不満には思っていないさ。たまには刺激があってもいいのかもしれないけどな」
 父親とは意見の食い違いで衝突することもしょっちゅうだが、妹は「喧嘩するほど仲がいい」と笑って眺めている。だからそう、悪いものではない、はずだ。
(――……あぁ、そうか)
 コレは、夢だ。
 俺が、”あの男”を『父』等と思う訳がない。
 仲が良いと言われて悪い気もしなくて、穏やかに家族と過ごす日常に、独りという孤独の無い日々。
 希う幸せのかたちは、ああ、なんて――なんて悪夢なのだろうか。
「幸せを享受してはならない。俺は、”死神”だから」
 腰へと手を滑らせれば、慣れ親しんだ柄に触れた。これは、あの男に復讐するための剣。
『家を出るの?』
 妹の形をした幸せ(あくむ)が問う。ずっと一緒に日常を送ろうと告げている顔に、俺は短く是を唱える。俺にはやらなければいけないことがあるから、この幸せには浸れない。
『お前の晩飯食べ損ねたな』
 何も知らなかった昔みたいに、あの男が笑う。
(やめてくれよ)
 この男は父ではない。復讐相手だ。
 ――さようならだ、あり得てほしかった倖い。
 俺は太刀の感触を確かめるように握りしめながら、倖いに背を向けた。

 いつものベッドの上で目が覚める。
 お医者様から治せないと告げられた病に蝕まれた私――『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)には、この家だけが全て。私だけの、小さな世界。
 すぐ側の窓からは別の世界が広がっているのが見えるけれど、行くことも触れることも出来ない。
 けれども私は幸せだ。此処には両親が買ってくれた様々なものがあって、『兄さん』も冒険をしては私に冒険譚を聞かせに来てくれる。最初に冷たくしてたのが嘘みたいねってお母さんが笑っていたけれど、仕方ないじゃない。兄さんが話すお話がとっても魅力的なのだから。本に記されている冒険譚や英雄譚よりも、兄さんの話はいつだって煌めいていた。
「兄さん、次はいつ来てくれるのかな」
 会いに来てくれる日が待ち遠しくて、その日は色彩に溢れて輝いていて、過ぎると寂しくなってしまうくらいとても幸せな時間。でもすぐに次が楽しみになって、いつか自分も兄さんみたいに……なんて、色彩に欠けていた世界を違う色で見られるようになった。
 ドアがコンコンと鳴って、父さんじゃない男の人が顔を出す。兄さんだ。私は嬉しくて嬉しくて、いつも兄さんを笑顔で迎えてしまう。
 ここには大好きなものが全部あって、世界には優しさがあふれている。
 救いたいと思ったものを救えないことも、手に掛けたくない相手を殺さないといけないことも――絶望なんてひとつもない。
 ずっとこのまま、幸せの中にいたい。
「ねえ、兄さん……」
 兄さんに願いを口にしようとして、何故だかハッとした。
 ――違う。
 心の中の違和感。
(違う、私は)
 兄さんのようになりたかったはずだ。
(……相容れず手から零してきた人達のためにも、魔種とだって手を取り合える未来を作ってみせるって……誓ったんだ……!)
 兄さんはいくつもの事を教えてくれた。
 誓いを貫くこと、前を向くこと、諦めてはいけないこと。
(だから、私は!)
 さよならを告げる。
 兄さん、いつかまた会ったら、今度は私の冒険譚を聞いて欲しいな。

 人々が行き交う雑踏の中。
 がやがやと遠く近くに聞こえる声の中で、ふと我に返った。
『ねえ、鏡禍ってば』
「あ、すみません。ぼーっとしてました」
 名前を呼ばれて反射的に謝りながら、もう置いてくよっと軽く頬を膨らませる彼女の後を僕――『割れぬ鏡』水月・鏡禍(p3p008354)は追いかける。
 赤い髪と青い瞳が綺麗な、僕の恋人。少し前までは一方的に慕っていると思っていたけれど、高嶺の花と諦めずに勇気を出して告白して――。
(あれ?)
 おかしいな。この気持ちは飲み込もうとしていたはずなのに。
『鏡禍。これ、似合うかな』
 ふたりでお揃いにしようと見せられるアクセサリー。頬を軽く染めている彼女が可愛らしくて、疑問はすぐにどこかへ消えてしまった。
 服を選び合って、美味しそうなものをふたりで分けあって一緒に並んで歩く、幸せなデート。彼女の頬についたアイスをぺろりと舐めれば、赤くなった彼女の瞳に映る僕も真っ赤だった。
『夜ご飯、どうしようか?』
「あ。今日は……レストランの予約をしておきました」
 彼女には内緒で、ちょっといいところの。
 きっと『   』も気に入ってくれると思いますと言おうとして――気がついた。
 僕は彼女の名前を一度も呼んでいない。
 目の前にいるのは、僕の恋人だ。ずっと好きで居た、僕の。
 なのにどうして、どうしてだろう。
(……これは夢、なんですね)
 なんて幸せで、罪深い夢なのでしょう。
 隠そうと、忘れようとしていた望みが、全て叶っている。
 ずっと幸せに溺れていたいけど、起きないと。
「ありがとう。これが現実でなくてもあなたを愛してます。さようなら」
 頬に口づけた僕を見る、泣きそうな顔。
 いかないでの言葉を現実で口にするのは、きっと僕のほう。
 夢なのだなという確信が一層強くなった。

『ニル、ニル。起きて、朝よ』
 ふわふわと頬を撫でるような優しい声はお母様の声。
 いつまでもふかふかのお布団に頬をくっつけていたいけれど、『おかえりを言う為に』ニル(p3p009185)はお布団よりもお母様とお父様が大好きです。
「おはようございます、お父様、お母様!」
 ニルの大好きな家族が、ニルにおはようをくれる。
『ねぼすけさん、早く顔を洗ってきなさい』
『ニルの好きなフレンチトーストが待ってるよ』
 きつね色の焦げ目をつけたふかふかのフレンチトースト、カリカリベーコン、野菜のサラダ。料理上手なお母様のごはんは毎日違うけれど、毎日美味しい。
(美味しいって……)
 お父様とお母様『との』ごはんは、美味しい。
 しっかりとおかわりもして朝ごはんを終えたら、今日はみんなでお買い物。
『ニルの背が伸びたから、新しいお洋服を買いましょうね』
 お母様が微笑んで、ニルのお洋服を選んでくれます。
「きっとすぐにお父様よりも……」
『どうしました、ニル?』
「ニルは……」
 成長、しません。ニルは、めざめたときからずっと同じかたち。
 家族も、いません。いたのかさえ、知りません。
「お父様……お母様……」
 二人の顔を見上げると、心がぎゅうっとしたようなお顔をしています。
 もっと『悲しい』顔にするのは、とてもとても苦しい、です。
 けれど、ここがニルの居るべき場所ではないって気付いてしまったから。
「お父様とお母様は、ニルの本当、では……ない、のですね」
 お二人のお顔と、ニルはきっと同じお顔をしているのでしょう。
 ――本当の家族だったら、良かったのに。

『ジョシュ君。お菓子、どれがいいかな?』
 町外れの小さな家の中で、コケモモの精霊の彼女が僕――『千紫万考』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)に明るく笑いかけてくる。
 先生と話し合って作った、あの赤い花の薬が効いたのだろうことが解り、僕は良かったと心から喜んでいた。
 毒の精霊の僕は、何処かひとところに落ち着けない。本来なら仕事を終えれば立ち去るべきなのに、彼女はここにいていいと赦してくれている。
 優しい誰かとの会話。好きなものを話し合う時間。
 それはひとりでは出来ないことだから、僕は嬉しくて――……。
「今、誰かが……」
『どうしたの?』
 ふと誰かに呼ばれた気がした。――誰かと約束をしていたような気がする。
『大丈夫?』
「うん。……手紙って、来ていませんでしたか?」
『手紙? どうして?』
 彼女以外に友人なんていないのに、どうして僕はそう思ったのだろう。
 手紙をくれる人に、僕は出会って……そうだ、出会ったのです。
 この家を出て、人に出会い、友人が出来た。
 本当は花を咲かせることなんて出来なくて――都合のいい夢を見ているのだと貴女のえみに思ってしまう。
(夢は終わらせなければ)
 夢は、夢で。現実ではない。
 俯く僕を心配そうに見詰める彼女へと視線を向け、真っ直ぐに告げる。
「もう心配しなくていいですよ。……行って来ます、ね」
 僕を大切にしてくれた人にさよならを。
 扉に手をかけて、振り返る。最後に見た彼女は『いってらっしゃい、ジョシュ君』と笑っていた。

●さよなら告げて
 あたたかな眠りから引き戻したのは、頬を伝った冷たさだった。
 いつの間にか涙袋の窪みに溜まっていた雫が冷め、浮かびかけた意識に震えた睫毛によって頬を伝っていったのだ。
(ここは……?)
 何だか幸せな夢を見た気がするのに、思い出せない。何をしていたのかと記憶を辿るように視線を巡らせた鏡禍は、視界に同じように起き上がり始めた仲間たちの姿をとらえた。
 祈りの形に手を組むクラリーチェ。
 顎を撫でる雷霧。
 瞳を伏せて胸元をぎゅっと掴むスティア。
 腰に佩いた太刀を撫でるクロバ。
 彼等は夢の内容を覚えているのかもしれない。仲間たちの表情からは、覚えていたほうが良い夢なのか悪い夢なのか、どちらが良いのだろうか。……憂いなく進むのなら、後者かもしれない。けれど己の目標や夢を再確認して前を向けるのなら、前者のはずだ。
「ニルは……眠っていました」
 眠る必要はないのに、眠ってしまうだなんて。
 どうしてだろうと首を傾げたニルは仲間たちを見る。困惑していたり、ぼんやりしていたりして、何か変わった夢を見たのだろうかと傾げた首を反対側へと傾げた。
(夢とはどんなものなのでしょう)
 ニルは、それを『知らない』。
「雨泽様、起きてください」
 皆起きていますよと起き上がろうともしない男へと声を掛ければ、眠たげな声が「起きたくないなぁ」と告げてくる。
「猫に囲まれて寝ている夢を見たんだ」
「それは『しあわせ』な夢ですね」
 成長も家族もわからないニルだけれど、あたたかな何かが、優しいともだちが、ともに居てくれる『しあわせ』ならニルは知っている。
 ジョシュアが立ち上がり、アレクシアが自身の片腕を引っ張って伸びをする。
「さあ皆、行こう!」
 お昼寝の時間は、もうお終い。
 ゆっくりと休憩したのなら、後は前へ進むだけ。
 行こう、新緑の未来を切り開くために。

成否

成功

MVP

アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊

状態異常

なし

あとがき

今回はそれぞれが見ている夢、というシチュエーションでしたので、それぞれの視点からの描写となりました。
誰ひとりとして惰眠を貪る人が居ない!? あれだけいいですよって言ったのに……。
……流石はイレギュラーズと言ったところですね、ひとり気にせずすやすやしていた誰かさんは爪の垢を煎じて飲ませてもらうべきです。
MVPは大変前向きだったあなたへ。

ひとときの幸せな夢は見られたでしょうか?
幸せだったからこそ現実がつらい場合も、幸せだったからこそ目標を再確認する場合も、きっと人それぞれだと思います。
お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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