シナリオ詳細
デルポイの門番
オープニング
●共生するジャなるモノ
亜竜集落ヘイト近郊に存在する地下空洞――そのひとつをうんと奥の方まで進んだ所に、その場所はある。
地表にやや近いのか、地上の光が上から零れるように差して、その建物を照らしている。
神殿か、あるいは豪奢な邸宅かと思わせるその建築物のなお、旧デルポイ神殿と呼ぶ。
一部は風化も進んでこそいるが、大理石か何かで出来た壁面は美しく、空間は静謐さに加えて神秘的な雰囲気を持っていた。
「ピュトン様! ピュトン様! 今日のお食事はいかがかしら!」
下半身が蛇となった女が、声を上げる。
デルピュネーなどと呼ばれるその存在は、このデルポイ神殿をいつの頃からか住処とした魔物である。
下半身が蛇と言うだけであれば、どことなくラミア系の亜竜種のように見えなくもないが、その表情は悪徳に歪み、醜悪に笑っている。
『うるさいなぁ』
答えたのは、デルポイ神殿の外にてけだるげに横たわる存在だ。
蜥蜴を思わせるずんぐりとした身体に竜の頭部、鼻先に1本の角を生やしたこの存在。
10m弱の巨体を持つこの存在の名を、ピュトンと言う。
だるそうにデルピュネーを見た亜竜はぬっと起き上がると、顔を陽光に照らす。
『……近くに魔物が5頭、それでも狩ってくれば?
あとは……うーん? 亜竜種は今日はいなさそうだし』
面倒くさそうにそう告げてやれば、デルピュネーが少しばかり気落ちした様子でどこかへ去っていった。
『ん~だるい……お腹すいた……』
そう言って、ピュトンは再び顔を降ろし、丸くなって眠り始めた。
いくほど時間が経ったか。その鼻が、ぴくりと何かを感じ取り、ピュトンが顔を上げれば、ぺろりと舌なめずりする。
『……亜竜種の匂い、しかも前に食べ損ねたやつの!』
顔を上げ、身体を上げた亜竜ピュトンの目は、もしかすると輝いていたのかもしれない。
●攻勢作戦
「よく応じてくれた、イレギュラーズ」
そう言ったのは下半身が蛇のようになった亜竜種である。
鎧に身を包み、手には槍を持つ隆々とした筋肉の戦士だった。
「貴方は、あの時の戦士団の団長……我々を呼んだという事は、いよいよその時が来たという事でしょうか?」
そう言ったのはリースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)だ。
「そうですね、この4人と言うと、幾つかは覚えはあれど、貴方が呼んだとあれば1つしかないでしょう」
同じく頷いた新田 寛治(p3p005073)がちらりと横を見やれば、そこにはベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)の姿もある。
「亜竜ピュトンの討伐、か」
そういうベネディクトは集まった人数を見て頷く。
4人とも、事前に討伐あるいは調査についてを進言していたが、それ以外に集合している人数は6人。
総勢10人はそこそこ大掛かりな作戦でイレギュラーズが起用される時の平均的な人数と言える。
「いいんじゃねえの? あんときの娘も無事に過ごしてんだろ?」
そう言ったのはルナ・ファ・ディール(p3p009526)だ。
リースリットたち4人は、かつてデルピュネスという魔物に攫われてしまった亜竜種の少女を救出する依頼を受けた。
実力者も多く、連携も取れたイレギュラーズは難なく魔物から少女たちを救い出したのだが――その時に亜竜種の戦士から告げられていた亜竜の存在がある。
それが亜竜ピュトン、件の魔物と共生し、彼らの根城の門番のような存在であるというが。
「あぁ、櫻も香凛も無事だ」
頷いた戦士団長はそのまま真剣な表情でイレギュラーズの方を向いた。
「実は、あの時には言わなかったが、1つ、亜竜ピュトンを討伐する作戦がある。
ずっと前から考えていた作戦だ」
「そんなものがあるのか?」
「ずっと考えていたのにしなかったということは……できない理由があるのですね?」
ベネディクトが問えば、付け加えるように寛治が言う。
戦士団長はそれに肯定するように静かにうなずいて。
「以前にも言っておいたが、我々は2度に渡って亜竜ピュトン討伐に動いた。
1度目は誰一人帰ってくることはなく、2度目は2人を残して全滅した」
「それは前の時も聞いたがよ。んで、それとこれと何の関係があるんだ?」
ルナの言葉に、戦士団長は静かに視線を別の方へ向けた。
視線の先には疎らな戦士たちの姿。
「我々は2度の失敗によって大きすぎる損害を被った。
結果として、単純に戦力の損耗が激しく、立て直しに時間がかかっている。
あの者達は、ピュトン討伐作戦後に鍛錬し、ようやっと一人前になった者達ばかりだ」
そう言われてみれば、彼らの年齢は相当に若いようにも見受けられた。
「つまりは攻勢にかける余力がなかったのですね?
そこに来て私達イレギュラーズが現れたために、人員が確保できた、と」
リースリットが言えば戦士団長は静かに頷いて、少しばかり考えた様子を見せ、覚悟を決めた目を向けてくる。
その眼は、死を覚悟した者の目だった。
「最悪を想定して守る人員を確保しつつ、ピュトン討伐に出るには、我々では戦力不足だった。
だが、お前達イレギュラーズがいればその問題も解消される。
それゆえ、俺も覚悟を決めたのだ」
「んだよ、じれってえなあ……で? 結局、作戦ってのは何だよ」
「ああ、亜竜ピュトンは、非常に鼻が良い生き物だと説明しただろう。だから、それを逆手に取る。
奴が一番好きな獲物を用意し、誘い出してデルポイの手先共と引き剥がしてから討伐するのだ」
「……囮作戦か、良いかもしれない。それで、何を囮にする?」
ベネディクトが問えば、戦士団長はその瞳を真っすぐに合わせてきた。
「俺だ。俺が、囮をする。あんた等は自分達でやればいいというかもしれないが……
この作戦は当然ながらあいつが『味と匂いを知っていて』、なおかつ『好みの味でなければ』意味がない。
その点、俺は奴にとっては一度、食い損ねた獲物だ。適任と言う他ないだろう」
「やはり、貴方はピュトン討伐隊の生き残りでしたか」
寛治が言えば、戦士団長はこくりと頷いた。
「俺としても食われてやるつもりはないから安心してくれ。
……俺まで食われたら、あの時に食われちまった同胞に顔向けできない。
生きてあんたらのところまで誘い出す。だから……後のことは頼む」
そう言って彼は頭を下げた。その表情はあまりにも壮烈だった。
「こちらとしても、亜竜を討伐しない手はありませんし……分かりました。
それで、ピュトンの特徴をお聞きしても?」
「あぁ、奴の環境把握能力はどちらかというと蛇に近い。
視力がほとんどない代わり、非常に鋭い聴覚、嗅覚、角には熱源感知能力を持っている。
総合的に見て、異常にタフなうえ、攻めの数々も重い。
だが、一番気を付けた方が良いのは、奴のブレスだろうな。
炎を吐く物と冷気を吐くものがある」
リースリットの問いかけに始まり、戦士長はピュトンの特徴について説明を開始した。
- デルポイの門番完了
- GM名春野紅葉
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年03月25日 23時25分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(10人)
リプレイ
●
依頼人から指定された戦場は何らかの光源に照らされていた。
ペイトへと至る空洞の1つ、その中でもかなり広くとられたその場所は、以前に休息スペースのような役目をしていたらしい。
その時の名残か、周囲を照らす鉱石か何かの姿があった。
それでも多少は明るい、と言ったところであり、『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)や『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)の用意した光源は大きな意味があった。
「一回食べた獲物を執拗に追っちゃう系の竜ですか!
分かりますよ、しにゃも一回食べた美味しいスイーツのお店通っちゃいますしね!」
うんうんと頷くしにゃこはピュトンに対して少しばかり親近感を覚えているらしい。
「限定スイーツはしにゃ達がバッチリ守りきりますよ! まぁしにゃに盾役は無理ですが!
盾役の皆さんは宜しくお願いします! ファイ!」
そう言って視線を盾役の面々へ向けるのだった。
「亜竜ピュトン……聞いた限りだとかなり危険な相手みたいだね」
アレクシアは隴と名乗った依頼人からの話を思い出していた。
敵は何でも、2度に渡って亜竜種戦士団による討伐隊を全滅させているのだとか。
ただそれだけでも恐るべきだが、討たれた亜竜種戦士団は彼女に食われたのだという。
「人の味を覚えた魔物を放置しておく訳にはいかないよね。
きっと何度でも襲ってくるに違いないから!」
繋いだのは『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)だ。
「散っていった人達の無念を晴らす為、そしてここに住まう人達の未来を守る為にも私達が討ち取ってみせる!」
静かに集中力を高め、視線は敵が向かってくるという方向へ。
「そうだね、これ以上犠牲を出させないためにも、ここで必ず倒すよ!」
頷いたアレクシアもクロランサスに魔力を通せば、淡く輝きを放つ。
「朧お兄さん、自分を囮にするなんて凄く責任感強いのね……
犠牲になった人達のためにも、この先もう二度とピュトンさんに食べられる人を出さないのよ!」
『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)は今はここにいない依頼人の事を思い出す。
「生きるために食うことは自然の摂理。
かの亜竜が悪だということでは決して無いのですが……運が悪かったと言うほかは無いですね。
さらに言えば、相手も悪かった」
集った面々を見る『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)の立てた戦術に抜かりはない。
集ったイレギュラーズはローレットの中でもトップクラスの実力者ばかり。
万全と言って過言ではないほどに優れた面々が揃っていた。
「遂に時が来たのですね……」
魔晶剣『緋炎』を手に『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)はかつての事を振り返る。
「亜竜ピュトンと共生する種族グループがペイトに手を出し始めていた以上、何れ望まずとも再び衝突する機会が訪れるのは必定というもの。
本当に遠く関わりが無ければ、お互いにこのような事にもならなかったのかもしれませんけれど……まあ、詮無いこと。
新たな友人達の為にも、この一戦で討ち果たしてみせましょう」
魔力を充填して、緋炎の輝きが鮮やかに増していく。
「幾人もの同胞が奴に殺されたとなれば、この戦いに賭ける思いは決して無視は出来ん。
ましてや、戦う事が出来る戦士であるというなれば」
敵を待つ『竜撃の』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)の瞳にも気迫がある。
嘗ての世界、そこでは何人もの同胞が死んだ。
それを思えば、いま敵を引っ張ってきているであろう男の思いも理解できた。
「思ったよりはえぇ討伐だと思って見りゃ、作戦はてめぇを餌にして倒すのはこっち任せかよ。
ない袖はふれねぇっつーのは分かるが……つまんねぇな」
そういうのは『探す月影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)だ。
「まぁ、依頼は依頼だ。やるこたやるがよ。
オオトカゲとの縄張り争いを片付けとかねぇと、またこの間みてぇに女子どもがくいもんにされかねねぇんだろ」
ルナのいう事も正しいが、2度むざむざと全滅させられたことを3度やるのはただの無策、というのが依頼人の結論であるらしい。
「遺跡に巣食う魔物の頭目、巨大な亜竜……なるほど、実に覇竜らしい敵なのです。
ひとの住まう地に少しでも安寧を齎せるのであれば、
例えばイルーナクのような惨劇の可能性を少しでも減らせるのであれば、それは私にとっても喜ばしい事。
全力で討ち果たすのです!」
亜竜集落イルナーク――アダマンアントによって滅ぼされた三大集落に迫らん勢いだったあの集落のことを思い起こす『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)は、ゆらゆらと燃えている。
「覇竜で生きていくってことは生半じゃあないんだな。
分かっちゃいたけど改めて認識したよ」
『竜剣』シラス(p3p004421)とて、あの町の調査に赴いていた。
ここで討ち漏らせば、最悪あの町のようなことが起こるかもしれない。
「今回の討伐は失敗するわけにはいかない」
視線のを暗がりへ向ければ、微かな地響きがあった。
徐々に大きくなっていく地響きの向こう側、そいつは亜竜種の後ろを追いながら走ってきていた。
「あいつか……」
握りしめる拳には自然と力が入るものだ。
「しゃあねぇ、行くぜ、ついてきな」
ルナは言うや自慢の反応速度を以って駆ける。
「遅くなったか!」
そういう隴の言葉に返答する間もなく、風をもって風を置きざる高速による突進はそれだけで亜竜への武器となる。
黒き鬣を揺らして彗星となれど、亜竜は此方のことなど気にしない。
「限定スイーツ、しにゃたちがばっちり守り切りますよ!」
しにゃこはさっそく一発銃弾を撃ち込んだ。
可愛らしくデコレーションされたライフルから放たれた銃弾は風を切って真っすぐに。
優れた精密狙撃は亜竜の額に生える角へと命中する――が。
そのまま硬い音がして弾かれ、どこかへ飛んでいった。
「ちょっ、やばいくらい硬いんですけど!?」
既に装填した次の銃弾は死の凶手。
美しく放たれた弾丸は今度こそ角へと食い込んで見せる。
「無事で良かった! 絶対に私が……私達が守るから! ギリギリまで引き付けて!」
間を置かずに隴の前へ飛び込んだアレクシアに頷いた隴が振り返って槍を構えた。
「朧お兄さんのことはルシェたち頑張って守るから、みんなで亜竜種食べちゃう子倒しましょう!
危険だけど、絶対守るから! 手伝ってください!」
続くようにしてキルシェは愛杖を握り締めて声をかければ、愛杖に魔力を籠めていく。
キルシェの魔力を注ぎ込まれた杖の先端、鎖で繋がれた聖水が光を帯びる。
「分かった。ここまで来たら後は君達に託すことも考えたが……手伝わせてくれるなら感謝する」
「隴さんも合わせて皆で勝とう!」
その返答を聞いたアレクシアが笑って魔力を籠めれば、その周囲を桃の花が咲き誇る。
美しき桃色の魔力は戦場に鮮やかな彩りを生み出している。
『やっと止まったなぁ……諦めた?』
じゅるりとごつい顔をした亜竜が舌なめずりしてから首を傾げれば。
『少しだけ焼いた方が美味しいよね……』
口元から炎を零しだす。
けれどそれが放射されるよりも速く、動く影がある。
「本当に、こちらの事は見向きもしないのですね」
リースリットは炎を口元から溢れさせる亜竜の側面へと走り抜けながら、イレギュラーズへ一瞥もくれぬ敵を見る。
そのまま風の精霊より齎される祝福を剣身へ籠める。
次いで練り上げた魔力は鮮やかな真紅を抱く。
旋風が緋色の剣身へ纏われれば、鮮やかな真紅は深緋へ至る。
「雷光一閃――」
深緋の閃光は雷の如くスパークを迸り、刺突は緋色の閃光を叩きつけた。
眩く輝く深緋の閃光に紛れるように、クーアは既に動いている。
「その巨体、一撃で吹き飛ばすまでに至らずとも、足元くらいはすくってやりましょう!」
刹那の一歩、速度を跳ね上げたクーアは亜竜の足元へもぐりこむ。
その全身は焔熱の雷光に彩られる。
片手には雷光を、もう一方には灼熱を。
術式を起動するのと同時に跳躍し、腹部めがけてゼロ距離で術式を叩きつけた。
比較的柔らかいであろう腹部へと叩きつけられた二つの術式は交じり合って炸裂する。
神速の居合打ちの勢いのまま、クーアは一気に後方へ戻っていく。
「生きて俺達の場所まで誘い出す……か。
任せろよ、三度目の正直って言うだろう?」
小さく笑ってシラスは亜竜の横腹めがけて走り抜ける。
(匂いは遠くからでも感知できる一方で素早い動きは捉えられないだろう。
熱はあいつが吐く炎で正確に掴むのは難しくなるだろう。
……となると、戦闘で重要視されるのはやはり音になるはず)
そのまま息を殺して、タイミングを待つべく気配を打ち消していく。
「それでは、盤石に勝ちを貰いましょうか」
寛治は戦闘準備を整えながら、亜竜の様子を見る。
口腔から炎熱を溢れさせた亜竜は、顔を上げると振り回すようにしてブレスを吐いた。
扇状に広がりを見せるブレスは、戦場の気温を大きく上昇させる。
「なるほど、なるほど……」
静かに次の次を見据えながら、冷静に分析する姿はまさにプロというに他なるまい。
そんな寛治の視線の先で、ピュトンは二度目となるブレスを放っていた。
直線上を焼く灼熱は戦場を焼きながら突き進む。
「共に戦った者達の為に戦う気持ちは、俺にも解る心算だ。ピュトンを倒す為、共に戦おう。隴殿」
槍を構えたベネディクトは、アレクシアの後ろ矢を射かけてピュトンの注意を引きつけた隴へ声を掛ければ。
「そうか……うむ、そちらも色々と背負っているのだな。ありがとう」
次の矢を構える隴へと頷いてから、側面へと走り出す。
一息入れて、心情を持ちなおし、巨体を見上げた。
その身は淡く華やかながらに爛々とした闘志が漲り、気となって全身を包み込む。
「お姉さん、ルシェに任せて!」
キルシェは杖を軽く地面へとん、とつけた。
地面より伝わった振動は杖の先から聖水へと伝わり、振動を受けた聖水が球の中で波紋を生む。
優しい波紋は幻想の音色を奏で、ブレスを真正面から受けたアレクシアへと癒しの福音となって浸透する。
「この調子なら、耐えられそうだね!」
美しき蒼き光を湛える聖杖を握り、スティアは静かに魔導書を開く。
輝きを抱くネフシュタンとセラフィムが互いに力を溢れさせれば、セラフィムから溢れだした羽の色が蒼く彩られた。
蒼光はそのままに、願うように、祈るように杖を構えた。
出力を上げたセラフィムが羽根を舞い散らし、祝福の音色は響く。
2人の支援はアレクシアへと魔力となって循環し、罅の入った障壁を瞬く間に修復していく。
「がら空きだぜ」
言葉を残してシラスは亜竜の横腹へと跳び込んだ。
握りしめた拳に魔力を籠めて。
ただの殴打さえ栄光を掴む一手であり、鮮烈に撃ち抜く乱打である。
無音をもって薙ぎ、突き、そうして果てには砕くのだ。
●
『お前、いつの間にそんなに強くなったの?』
ピュトンが首を傾げる。
『ん~でも……まぁいいかぁ……強い奴の方が筋肉ついてるし美味しいもんねぇ』
ぺろりと舌なめずりしてから、ふるふると頭を振った。
それはあるいは、シラスの読んでいた通りである。
亜竜ピュトンは、視覚がほとんどない。
主に聴覚や熱源、嗅覚を空間把握に利用しているが、熱源は亜竜のブレスによって混乱をきたしている。
どうやら敵は『イレギュラーズによる連打を隴1人の手による物』と誤認してくれているらしい。
(ならば僥倖といえますね)
寛治はその様子を確かめて銃弾を籠める。
『凍てついちゃえ――!!』
見れば、ピュトンの口元から冷気が零れている。
白い靄が零れだし、気温が下がり始めていた。
やがてスパークを帯びた冷気が、扇状に広がる。
パキパキ、パキパキと桃花が凍てつき、スパークを立てて眩く輝く。
桃花を思わせる防御術式に罅が割れていく。
終息に向かったブレスに加えて、亜竜が一歩前に出た。
力強く前に出た刹那、終わりかけたブレスが勢いを増し、砕けた魔力片が空気に溶ける。
「何があろうと、必ず隴さんは身を挺してでも守る!
無理をしてでも、そのための魔法なんだ!」
あらん限りの魔力を籠めなおしてアレクシアが叫べば、壊れかけた障壁が一時的に修復し、出力を上げた桃色の魔力が空洞を照らす。
扇状に広がる冷気は障壁を壊さんと迫っているが、徐々に勢いが収まっていく。
あと一秒でも長ければ、障壁が壊れていただろう。
今度こそ終息する冷気、その瞬間を寛治が待っていた。
「この一瞬、寸分の狂いなく……ただ撃つのみですね」
放たれたる2発の銃弾。死を描く魔弾に続くは不可避の魔弾。
僅かに残った冷気を突っ切り、弾丸は口内を蹂躙する。
守りを抜き、次いで炸裂した狙撃は痛烈な一撃を描く。
着弾の直後、ちらりと時計を見て、ラグを計算して構えなおす。
『あぁぁ!? うぐぐぐ……』
思わぬ反撃だったのか、ふるふると顔を揺らして亜竜が呻く。
そうして、蒼き光が空洞を照らし付けた。
桃色の輝きを塗り替えたのはスティアだ。
「アレクシアさん、後は任せて! 少し休んでて!」
「スティア君、よろしくね! 次は私が支える番!」
蒼々たる輝きはスティアの歩に続いて尾を引いて、同時に携える魔導書からは天使の羽根にも似た魔力の残滓が舞い散った。
静かに立つスティアに、どこか怯えたように亜竜がもう一歩下がった。
見えてなどいるはずもなく、獲物への執着のみしか、向かい合っても感じないにもかかわらず。
「行くよ! 簡単に倒れてあげるつもりなんかないからね!」
「……成程、この攻撃でお前は戦士団の皆を葬って来たという事か」
ベネディクトは一歩前へ。
立ち上がる闘気が熱さえ帯びて、その身を黒く包み込む。
それは宛ら、彼が抱けぬ黒狼を思わせるように。
「この程度の痛み、これまで殺されて来た者達に比べるべくもないだろう、だが──因果は廻る物だ。
これまでの所業、死して償うが良い」
身を低く、深く呼吸を整える。
眼前の亜竜は、ベネディクトの事を見てすらいない。
だが――そんなことはどうでもいい。
「ただ俺は、お前に届く牙を研げばいい――」
漆黒の闘気に包まれた突撃は宛ら黒き狼が疾走するかのようで。
伸びた槍は黒狼が喉笛を噛みきるかの如く。
「どうか、みんなを守って。
みんなが前に向けますように――
みんなのことを蝕むものが癒えますように――」
キルシェは祈りを告げる。
杖の先端にある球体、その内側に満ちた聖水が、何をせずとも波紋を打った。
波紋は魔力となって周囲に漂い、桜色の雨となる。
祈りの欠片はキルシェの周囲に満ちていく。
それは魔力を、気力を取り戻させる慈しみの雨。
続けるように願いを福音に変えて、キルシェは頌歌を奏でる。
心身を癒す聖なる歌は疲労感を打ち消していく。
「流石に硬いな……けど」
シラスは拳を握りなおしながら敵を見た。
愛も変わらずがら空きの横っ腹にはシラスが叩き込んだ幾つもの拳の痕跡が残っていた。
「それもいつまで続くかな――」
再び速度を上げて突撃し、思いっきり殴りつける。
頑丈な鎧のような鱗と皮を削り落とし、破って食らいつくように。
栄光への一筋より始まる連撃、それは遂には鱗を抉り、肉を撃つ。
「いや、硬いですね、ほんと!」
しにゃこは思わず感嘆の息を漏らす。
狙いを定めたしにゃこの集中砲火は、確実に角の耐久力を下げている。
幾つもの弾丸が食い込んだ角は一種のデコレーションっぽくさえ見えるが、ぽっきりと折れるには芯に通っていないのか。
「いい加減に次に行きたいんですけど!」
それだけ言って、もう一度。
死を望む弾丸は真っすぐに角めがけて飛んでいく。
優秀なるハンターでもあるブチハイエナに違わぬ精密なる狙撃を受けた角へ、また1発が食い込んだ。
そして、幾つもの弾丸が食い込んだ角へ、一気に亀裂が入ったかと思えば、ぽろり。
『んだぁぁああああ!?!?』
叫び声が上がる。
他の誰でもない。亜竜のそれだ。文字通りのたうち回り、叫び声を上げた。
熱源感知の器官でもあったそこは、どうやら神経も多く通っていたのか、イレギュラーズが今まで与えたダメージのどれよりも、その反応は大きい。
(その馬鹿でけぇ声でデルピュネーの連中が気づかなけりゃいいが……)
ルナはその様子を観察しながら、一つ息を吐く。
(あとは……感覚器の類か。いや、駄目か……あいつが蛇だってなら、その辺の器官は皮膚ん中だな。
ってなると、次の仕事は……やっぱりこれか)
昏き彗星は一気に戦場を疾駆する。
誰にも止めること能わず、眼に留めることも許さず。
突撃を叩き込む。
(効き目がいささか悪いように見えるのは、流石は亜竜……という感ですが、この手の形状の生物は、感覚器官が凡そ頭部に集中している事が多いもの)
リースリットは亜竜の頭部を見る。特徴的な角はもちろんの事、他の器官も恐らくはあの辺り。
(熱したり冷やしたりして温度と空気を乱す事で、戦闘中の繊細な動きの妨害が出来るかもしれません……)
そう判断してからは早かった。
霧氷の輝きを抱き、薄く白い魔力を帯びた魔晶の剣身を振り払う。
美しき閃光を走らせ、刃を立てる。
続けるように緋色に輝く魔晶に美しき精霊の加護を抱けば、踏み込みと共に鮮烈の風を叩き込んだ。
『むぅ、面倒くさい……面倒くさい……』
「獣(ねこ)の本気、みせてあげるのです!」
苛立つように地団太を踏む亜竜めがけ、クーアが跳び込んでいく。
片手に炎熱の剣を、片手に雷光の剣を握ると、両手のそれを合わせ、束ねて一本の長剣となす。
神速の超加速より放たれるただの一閃は眩く輝き、さながら地から空へ舞い上がるような軌道を描く。
音と光を立てて振り抜かれた太刀筋は亜竜に浮かぶ傷口へと追撃となって叩きこまれた。
『うぅん……おかしい、なぁ……なんで、僕がこんなに……?』
首を傾げ、亜竜が唸る。
●
戦いは激戦だった。
アレクシアとスティアの防衛線と2人の支援魔術、それにキルシェも加えた支援体制は伊達ではない。
執拗に隴を狙うピュトンの攻撃は高範囲に及び、イレギュラーズへと齎されている。
先行して守りを担当したアレクシアはもちろん、役目を代わったスティアも多数の傷を受けている。
堅牢な2人が削れ続けているが、逆に言うと『それだけで済んでいる』のだ。
そしてそれ以上にピュトンの傷は多い。
『うぅぅ……なんだか、つかれたなぁ……』
けだるげに、亜竜が1歩、2歩と後ずさる。
見るに、その身体はイレギュラーズによる猛攻を受けて傷だらけだ。
『うぅ……お腹すいたぁ――――!!』
けだるげに叫び、直後の咆哮。
独特な、不気味な声が脳髄を揺らす。
「その声はルシェが消して見せるわ……!」
キルシェは再び魔力を注ぎ込めば、降り注ぐは桜色の雨、それに続くは頌歌の連続。
傷を癒し、齎された呪いを取り除く癒しの連鎖が、不気味に奏でる亜竜の咆哮を打ち消し、穏やかなりし平穏の光景を映し出す。
「ルシェはまだ強いって言えないけど、みんなを守るために出来ること頑張るの!」
けれど、実際のところ、その成長速度はかなりのものだ。
ここにいるイレギュラーズの殆どと年単位で活動期間の違えども、着いていけているのだから。
「みんなで、帰るんだから!」
魔力を籠め、出力を上げていく。
『ァァァ――――』
そんなキルシェの奮闘を知ってか知らずか、亜竜は次の一撃を見舞わんと口を開き。
刹那のうちに冷気が集束し、雷電を纏って放たれた。
「効かないよ……!」
スティアはそれを正面から受けていく。
空洞を揺らす咆哮はスティアにとっては影響もない。
ネフシュタンを支えに身を屈めれば、蒼の光が帳となってスティアと隴を包み込む。
周囲を凍てつかせる冷気のブレスを受け切って顔を上げ――その視界を赫が塗り潰す。
だがそれもまた、スティアの守りを完全に崩すには至らなかった。
炎が途切れ行く中、スティアは立ち上がる。
「この調子なら、支え切れるはず……!」
灼熱に紛れ込むようにして、一つ呼吸を入れた。
『うぅぅぅ……おかしい、おかしいなぁ……どうしてそんなにもつの……?
うぅん……なにか、変だなぁ……』
首を傾げる亜竜は、どうやら獲物への執着を失いつつあるように見える。
(流石に気付き始めたか? 気付かれるのは拙いぞ……)
ルナはその様子を見ながら、ちらりと周囲を見渡す。
崩落の危険性は無さそうだ。
「しゃあねぇ、気付かれる暇を与えられるかよ……!」
亜竜がこちらのことを正確に把握し始めても、勝てはするだろう。
それでも気づかれないのが一番だ。
即座に判断するや、ルナは一気に走り抜けた。
強烈な速度での突撃が亜竜の横頬辺りを殴りつければ、凄まじい速度で反対側へ振り抜かれた顔。
跳躍して撤退すると同時、ふるふると顔を振る亜竜を見た。
ルナが引きつけたのに合わせ、しにゃこも照準を合わせた。
耳がどこにあるのかよくわからなかったけれど、代わって狙い撃つのは亜竜の角があった場所。
そこはある種、露出した弱点に他ならない。
真っすぐに放った2つの弾丸は避ける暇さえ与えず、亜竜の角に食い込んでいく。
「もうそろそろ誤魔化しきれないかもな……」
アレクシアは亜竜の様子の変化を見上げて、小さく呟いた。
(スティア君は……まだ大丈夫そう)
スティアの様子を確かめたアレクシアが深呼吸すると、その足元を中心に色とりどりの花が咲き誇り、戦場を花畑へと作り変えた。
清らかなりし純粋なる花は大気中の魔力を循環させ、アレクシアへと回帰する。
「うん、準備はいいかな……これならもう少しもつはず!」
自分の身体にある魔力量を確かめてから、アレクシアは魔術を行使する。
美しき薄紅色の魔力が花弁を構成して最前線に立つスティアの身体を包み込む。
鮮やかに輝く癒しは堅牢なるスティアの姿を更に美しく包み込む。
「生存本能かなにかでしょうか……」
ピュトンの動きが後退に移行しつつあるのをみて、リースリットは呟く。
「とはいえ、判断が遅すぎましたね……退かせません」
即座、リースリットは前へと突貫する。
気づき始めた以上、いかに手を尽くそうがじきに隴を使っての囮は困難になろう。
握りしめた緋炎に全霊の魔力を籠めながら、正面へ躍り出た。
自身へ自分を重ねなおして、ピュトンの動きに注意しながら刺突を放つ。
風まとう霊撃の極致は凄絶なる一撃を為し、ピュトンの喉元辺りに突き立った。
リースリットの行動に呼応するように飛び出したクーアは亜竜の足元、自身が削りに削ったその足元めがけて突撃していく。
「これで決めるのです!」
自らを灼熱の雷光と化して突撃したクーアの掌底がピュトンの足に術式ごと叩きつけられれば、亜竜の声が響く。
そのまま、撃ち抜いた足ががくりと落ちた。
あわや下敷きになりかけたクーアは、落ちてきた亜竜の膝に向けて跳ねれば、そのままくるりと身を翻して亜竜の背中へ。
「っと、っと……ほっ、危なかったのです」
ホッと一息する間もなく、しなりながら迫った尻尾から逃れるようにもう一度跳んで後退する。
寛治もまた、状況変化は敏感に受け取っていた。
(食事より生存欲求の方が勝りましたか……ですが、手負いの獣を逃がすのはよろしくない)
「……ならば、退くよりも押し通す」
炎を零すピュトンが口を開いた瞬間、寛治は再び2発の弾丸を放つ。
連続する2発の銃弾は放射せんとした刹那に食い込んだ弾丸に亜竜が口を噤み、滞留した炎が爆発を起こした。
「一度狙いを定めた黒狼は決してその獲物を逃がさん、直死の一撃を今此処で為さん!」
ベネディクトは槍を握り締めると、静かに構えを取る。
それは宛ら、狼が獲物を狙い定めるように。
傷を負った亜竜の一部を見据え、黒狼を纏って走り出す。
首筋めがけて駆け抜けた黒き狼は開いた傷口に食らいついて肉を抉る。
絶刺撃つ黒き狼は、着地と共に人に還る。
状況の変化を目ざとく受け取ったシラスは、一気に亜竜めがけて跳んだ。
顔を上げた亜竜がシラスの方を向いてくるのに合わせて、拳に魔力を籠めた。
開いた口、そこへ向けて拳を叩き込んでから、閉まるよりも前に跳躍、鼻頭めがけて手刀を叩きつける。
そのまま幾重もの痛撃を叩きつけてから後退すれば、唸り声をあげる亜竜はふるふると顔を振って。
『やっぱり変だと思った。誰だか知らないけど、たくさんいるんだ……
面倒くさいなぁ……面倒くさいなぁ!』
亜竜が吼える。
既に足を1つ、角もも砕けて――鱗が剥げ露出した肉体も多く、それでもなお、勝てると確信しているかのように。
「今更気づいたのかよ、食い助が。まぁ、でも……もう遅いぜ」
不敵に笑ったシラスの言葉は、果たして亜竜に届いただろうか。
●
手負いの獣を相手取るイレギュラーズの戦いは、終盤に至った。
堅牢な防御力と豊富な体力も尽きかけている。
『うぅん……お腹すいてなかったらこんな奴らに……むぅ……』
言葉こそ自信に満ちているが、その声からはあまりにも濃い疲弊が感じられた。
ルナはその様子を見ながら走り出す。
苛烈に、後に続く仲間達の連撃へと叩きつけるための疾走。
相手の挙動を見据え、敵が動き出すその寸前。
それを上書きするように駆け、黒き流星となって蹴りつける。
そこへ続くのはしにゃこだ。
「やばやばでしたけど、これで終わりですね!」
放たれたしにゃこの弾丸はそう動くのを読み切ったが如く、亜竜の首の動きに合わせて見えた傷口へと炸裂する。
死を為す2つの弾丸はあまりにも強烈だった。
優れたコントロールで打ち出された弾丸は、手負いの亜竜が受けるにはあまりにも酷であったことだろう。
「私達が支えるよ、皆、決めて!」
アレクシアは残る魔力を振り絞って色とりどりの花弁を戦場に散りばめる。
「ルシェも支えます……!」
それにキルシェが続き、美しき桜色の雨が降り注ぐ。
2人の幻想種によりもたらされた理想郷の如き光景は多くのイレギュラーズに溜まっていた疲労感を打ち消し、魔力を、気力を振り絞らせる。
戦場を塗り替える美しき理想郷に魅せられた仲間達へ、後を託して。
「これが、私の、獣(ねこ)の意地なのです!!」
クーアは爆ぜるように飛び出した。
文字通り振り絞った全力、天へ昇り咲き誇る雷花の果て、身を翻して撃ち抜くは灼雷の光弾が鮮やかに亜竜を貫いた。
『うぐぐぐぐ……餌如きが、いい加減に――しろぉぉ!』
ピュトンは激昂と共に地団太を踏み、空洞が微かに揺れる。
『死んじゃえ、死んじゃえ、死んじゃえ――』
怒り狂う――否、当たり散らすようなブレスが放たれる。
スティアはそれを静かに受けるのみだ。
その身を蒼い光が包み込み、天使の羽根が舞い散らす。
神秘に満ちた光景は、パンドラの光。
「――負けないよ」
静か似告げれば、顔を上げる。
景色を塗り潰す紅蓮の炎に合わせ、まばゆい光が包み込んだ。
幻想の福音を耳にして、スティアは一歩、前に出た。
「我々を相手にここまでしたことは称賛に値しますが、ここまでです」
寛治は静かに告げて弾丸を撃ち込んだ。
寸分違わず狙いすまされた2つの弾丸は亜竜の口の中を蹂躙し、内側から食い破る。
「これが貴様が多くの人々へ与えたもの。廻り廻った因果だ――償うものは重いぞ」
膝を屈したピュトン目掛け、ベネディクトが走り出す。
その身に宿した数多の傷、充実した闘気。
復讐を誓った黒狼は疾走し、風を切る音は唸り声にも聞こえた。
飛び掛かった黒狼が亜竜を貫いて、漆黒の闘気がピュトンを飲み干したように見えた。
●
「いやーやばかったですねこの竜! 限定スイーツを前にしたしにゃより凶悪でした!
足はすくいやすかったですけど! しにゃも今度朝早くスイーツ店へ並びに行く時は足元注意しますね!」
倒れた亜竜を見て、気を抜いた声を上げたのはしにゃこである。
言葉こそ軽いが、実際のところ、しにゃことて傷は受けている。
「……まぁ、ちゃんと死んでるみてぇだな」
ルナは倒れた亜竜めがけて突撃をかまし、死んでいることを確かめた。
生き物によれば仮死状態になるやつもいる。それを考えての行動だった。
「隴殿」
ベネディクトは亜竜とは別に、しにゃこの手で撃ち落とされた角の様子を確かめると、隴へと声をかけた。
「む? どうかしたか?」
安堵した様子を見せる隴はイレギュラーズと比べれば明らかに軽傷だ。
ほぼ無傷と言っていいだろう。
治りかけているところを見るに寧ろイレギュラーズが亜竜と交戦する前、引き付けの最中に受けたものであろう。
「強力な亜竜や竜の身体の一部は時に他の魔物を寄せ付けぬ様な効果があるらしいな。
討伐の証にこの特徴的な角でも持ち帰ったらどうだ?
それに……戦士の勲しだ、戻ったら仲間達にも報告ついでに見せてやれば良いと思うのだが」
「なるほどな……だが、これは君達の手柄であろう。俺が持って帰っていい物だろうか」
「いいんじゃないか? アンタが俺達に依頼してきたんだろ? アンタも参加したわけだし」
シラスがそう続ければ、隴は小さく頷いて角を拾い上げた。
「これを持ち帰ったら、その後はあんたらのおかげで討伐できたことを伝えておこう。本当に、感謝する」
そういう隴の声が、少しばかり震えているように思えたのは間違いではないのだろう。
「これにてひとまずは終わりですが、デルポイ神殿の方はいかがなさるのです?」
寛治が問う。亜竜ピュトンはデルポイ神殿の門番だ。
まだデルポイ神殿にはデルピュネーやデルピュネスが残っている。
彼らもまた、敵性存在に違いはない。
「あぁ……奴らも倒さなくてはな。そちらは……あんたらに余裕がなければこっちで倒しておく。
時間はかかるが、亜竜ピュトンなきデルポイであれば、戦士団を動員すれば討伐も難しくはないはずだ」
そう言って、男は静かに視線を降ろす。
半ばで折れた角は、不思議な雰囲気を保っていた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
大変お待たせいたしまして申し訳ございません。
お疲れさまでしたイレギュラーズ。
その威名はペイト辺境、隴が住まう一帯にて轟いたことでしょう。
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
当シナリオはOPに登場された4名のアフターアクションを纏め、発生いたしました。
●オーダー
【1】『デルポイの門番』ピュトンの討伐
【2】囮の亜竜種生存
【2】は努力条件です。
●フィールド
ペイト近郊に存在する遺跡へと続く地下空洞です。
更に奥に進むと旧デルポイ神殿と呼ばれる遺跡へとたどり着きます。
敵にとっては若干狭く、イレギュラーズにとっては充分広いだけの空間が存在しています。
●エネミーデータ
・『デルポイの門番』ピュトン
全長10m弱、一応雌。ずんぐりとした蜥蜴のような身体に竜を思わせる頭部、鼻の先には一本角を生やしています。
かつて2度に渡って亜竜種の戦士団と争い、1度は全滅させ、2度目は壊滅させた経験があります。
囮となる亜竜戦士はピュトンにとっては『かつて喰い損ねた獲物』であり、『美味であると味を知っている獲物』でもあります。
囮を使っての誘引をする場合、非常に危険ではありますが、
『囮を追っている時はそれだけに集中してしまう』ため、アドバンテージが取れるでしょう。
視力がほとんどない代わり、非常に鋭い聴覚、嗅覚、角には熱源感知能力を持ちます。
また、恐らくですがエコロケーション的な反響音で周辺の探知も行っている模様です。
豊富なHPに頑丈な防技と各攻撃力、EXF、EXAを持ちます。
その巨体ゆえにブロック・マークには2人以上を必要とします。
その咆哮は【混乱】や【狂気】を呼び、【停滞】し、【呪縛】されたように身動きを取れなくなる場合もあります。
彼女の放つブレスは2種類あります。
片方は1つは極めて高位の【火炎】系BSをもたらすと共に、【致死毒】が混ざった炎のブレス。
もう1つは高位の【凍結】系、【感電】を同時に与える雷電を纏う冷気のブレス。
射程は一直線上を【貫通】する【超遠】、距離の代わりに範囲を広げた【中扇】の2種。
その他、巨体を生かした踏みつぶしによる【乱れ】系BS付与、尻尾の薙ぎ払い、強靭な顎による噛みつきによる物攻をもちいます。
また、失敗する可能性が高くはありますが、未来視能力を持ち、その際はCTが上昇しているでしょう。
また、パッシブとして【BS緩和1】を持ちます。
●NPCデータ
・『烈士』隴
ラミア系亜竜種の戦士団長です。
囮としてイレギュラーズの下までピュトンを誘い出してくれます。
ピュトンにとってはかつて喰い損ねた獲物です。
イレギュラーズの下までピュトンを釣り出した後については、
作戦に参加させるかどうか皆さんの側で決めることができます。
参加させる場合、ピュトンのヘイトは隴が食われるまで彼に向かう永続【怒り】付与的な状態となります。
当然、大変に危険なため、普通に退却させても構いません。
機動と反応、防技が高い機動タンク型です。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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