PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<咎の鉄条>フレイム・ダンス

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●深緑の茨
 深緑との連絡が途絶えた――。
 ラサより飛来したそのニュースはローレットに激震を与えた。それはまるで、R.O.Oのイベントが、現実でも発生したかのような既視感を覚えさせたからだ。
 突如として、外界との連絡を絶った深緑。だが、R.O.Oのそれとは違い、深緑の壁を作ったのは、人の心ではなく、茨のそれであったのだ。
「……いつ見ても気持ち悪いな。茨、か」
 ラサの傭兵が、うんざりした様子で双眼鏡を覗いた。ここは、深緑にほど近い森だ。傭兵は調査団のベースキャンプに属しており、キャンプから離れたこの場所へ、斥候に訪れていた。
 ラサからも、深緑の様子を調べるための調査部隊が展開しており、彼らはその一つである。ローレットへの調査の依頼の他にも、自分達でもフィールドワークを行う彼らであったが、未だに異変の原因について、成果を上げられてはいない。
 やはり本命となるのは、イレギュラーズ達による調査だろうか。とはいえ、彼らに全てを投げてしまうわけにもいかない。何らかの情報を、少しでも得るためにも、と彼らはこうして、深緑での調査を続けているのだ。
「……分かってることは、例の『大樹の嘆き』ってのは、茨に対して攻撃的って事だ」
 傭兵の男が言うのへ、仲間が頷く。
「まぁ、伝承だと、アイツらは無差別にあたりを攻撃するともいうらしいけどな。生き残った森林警備隊の連中の話によれば、だが」
「だが、明確に敵対しているようにも見える。茨の方も、嘆きに攻撃を仕掛けてるみたいだ。何度か小競り合いをしているのを見かけた」
「訳が分からんな……くそ、情報が足りん。どう見ても一大事だってのに、俺たちは無力だな……」
 男が悔しげにうめく。傭兵は頷いた。
「……俺ぁ、森林警備隊の子に、泣きつかれたんだぜ? あの中には家族がいるんだ、心配だってな……くそ、俺も英雄(イレギュラーズ)だったらな、って思う時は確かにある。
 ……だが、腐ってるわけにもいかねぇからな。やれることをやるしかねぇのさ」
「……悪ぃな。愚痴っちまった」
「いいさ。……おい、双眼鏡、覗け」
 傭兵の言葉に、男は頷いて、覗き込んだ。同じ方向を見る。茨の壁のあたりだ。
 内部から染み出すように、光が漏れた。茨を隙間を縫うように現れたのは、小さな火種だ。
「火……火の精霊か?」
「茨の中から出てきたのか……?」
 火の精霊は、外に出た瞬間、あたりの空気を飲みこんで、一気に燃え上がった! 亡、と爆発するような炎が巻き起こり、2m大の巨大な火の獣となる。火種は茨から次々と染み出して、同様に炎の獣姿を取った。2m大の、それはオオカミやクマと言った、捕食獣の姿だった。
「なんだ!? あの連中!?」
「大樹の嘆きか精霊のように見えるが……茨は……反応しない? 味方扱いって事か!?」
「ヤバいぞ、こっちに来る!」
 傭兵と男は、双眼鏡をほうりだすと、その場から走り、飛び出した、僅かな間をおいて、巨大な炎と化した8匹の獣が、男たちの痕跡を燃やし尽くすように飛び込んできた、強烈な炎を巻き上げた。周囲の木々を燃やすが、その炎はそれ以上延焼せずに、目標だけを燃やして消えていく。それだけで、その炎が自然常識のそれとは違う事を解らされる。
「……敵だな。嘆きだとしても、アイツらは明確に、俺たちを敵だと認識してる」
「ヤバいぞ。この先にはキャンプがある。あいつらが気づくのも時間の問題だ……」
「すぐにローレットに連絡入れろ」
 傭兵が声をあげた。
「俺たちじゃ、多分勝てん……念のため、俺たちでキャンプの非戦闘員を避難させる。ローレットのメンバーに依頼して、奴らの排除を……!」
 轟轟と燃え盛る炎を前に、男たちはいったん身を引くのであった――。

●フレイム・ダンス
「ローレットのイレギュラーズ達だな? バタバタしててすまん」
 調査団のキャンプに訪れたあなた達イレギュラーズ達は、チームの防衛体調であるという傭兵に案内されて、テントの中に入る。
 男の言う通り、その道中でも、キャンプから重要書類や傷病者を連れて、キャンプから撤退する準備があちこちで行われているのが見える。
「話は聞いてると思うが、近くに『フレイム・ビースト』が現れた。これは、見た目から勝手に俺たちがつけたコードネームだ」
 その、炎の精霊とも、大樹の嘆きともつかぬ炎の怪物は、茨の内側からやってくるように見えたのだという。
「別のチームも、茨と共闘する炎の巨人、なんてのを見つけたってんで、名うてのイレギュラーズ達に討伐を願ったらしいが……此処は、俺たちもそれに習おうと思ってな。
 頼む。フレイム・ビーストたちを倒してほしい」
 男が言うのは、フレイム・ビーストたちはこのキャンプからやや離れた森林を、炎上させながらこちらに向かっているのだという。
「こちらは、念のため撤退の準備をしている。アンタたちを信頼してないわけじゃないが、けが人もいるんでな。せめてそいつらだけでも、安全なうちに移動させたいんだ。すまんな」
「いや、当然の判断だよ」
 あなたの仲間の一人が頷く。
「そう言ってくれると助かる……。
 ここんところ、訳の分からねぇこと続きだが、アンタたちローレットなら解決できると信じている。
 気休めかもしれんが、頑張ってくれ」
 男の言葉に、あなた達は頷いた。
 彼らを護るためにも、深緑に置きたい異変の謎を解くためにも。まずは、炎の怪物を仕留めなければならない――!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 茨に包まれた深緑。その内側から現れた炎の怪物。
 謎は尽きませんが、まずは怪物を討伐し、安全を確保しましょう。

●成功条件
 すべてのフレイム・ビーストの撃破。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 深緑を覆った茨の調査を行う、ラサの調査団。
 彼らが遭遇したのは、詳細不明の炎の怪物たちの群れでした。
 茨の中より現れたかのような彼らの正体は不明ですが、確実なのは、このまま放置しておいては、調査団のキャンプが壊滅するという事。
 あなたたちローレットのイレギュラーズは、この怪物と相対し、見事討伐し、キャンプの安全を確保してください。
 作戦決行時間は、昼。周囲は森ですが、フレイム・ビーストたちによって広範囲が焼かれており、充分開けているものとします。ペナルティなどは発生しません。

●エネミーデータ
 フレイム・ビースト ×8
  炎が、オオカミやヒグマ、オオトカゲなどの捕食獣の姿を取った存在です。精霊か、大樹の嘆きかと思われますが詳細は不明。
  全て、全長にして2mほどの大型の怪物であり、素早さを誇る3体のオオカミ、鋭い牙と硬い鱗の3体のオオトカゲ、強烈な膂力と体力を持つ2体のヒグマ、という構成でチームを組んでいます。
  彼らは知的であり、お互いをカバーし、協力する程度の知恵は持ち合わせています。オオカミが翻弄し、トカゲが守り、ヒグマが強烈な一撃でダメージを与えてくる、といった形です。
  彼らは炎の化身でもあり、その攻撃によってイレギュラーズ達に炎をまとわりつかせたり、或いは煙で窒息させたりなどをしてくるでしょう。
  総じて強力な相手です。くれぐれも油断めされぬよう。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加と、プレイングを、お待ちしております。

  • <咎の鉄条>フレイム・ダンス完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月16日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
ロゼット=テイ(p3p004150)
砂漠に燈る智恵
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
霞・美透(p3p010360)
霞流陣術士
アンバー・タイラント(p3p010470)
亜竜祓い

リプレイ

●炎の獣
 走る。奔る。迸る。
 獣が、炎が、熱が、走る――。
 炎上する大地を疾走するのは、炎の獣たちである。フレイム・ビースト。暫定的にそう呼ばれた炎の怪物たちは、今まさに森を焼きながら、ある一点を目指してひた走っていた。
 深緑の異変を調査する隊の、キャンプ地である。
 何故、怪物たちが底を目指すのか。それは不明のままだ。彼らは言葉を話さない。まるで何かの意志を体現するかのように、ただ苛烈に周囲を焼き、ただ苛烈にすべてを炎の内の飲み込むのみだ。
 このまま、この怪物たちを放っておけば、一直線に駆けるそれは、この辺りの惨状と同様に、調査隊のキャンプを焼くだろう。多くの人命を、その炎の内に飲み込むのだろう……。
「見つけた!」
 声が響いた。獣たちの前方より走りくる、八つの人影! 声の主、『霞流陣術士』霞・美透(p3p010360)を始めとする、ローレット・イレギュラーズたちだ!
「間違いない……まさに、炎の獣だね。
 強烈な熱だ。亜竜の火炎のブレスを思い出す」
 美透が言う通り、獣たちの身体を纏う炎は、強烈な熱を持っていた。じり、と陽炎のようなものが立ち上り、周囲の空気の揺らぎを感じさせる。
「……先日の、炎の巨人と同じ感じを覚えるな」
 『黒鋼二刀』クロバ・フユツキ(p3p000145)が言った。同時、イレギュラーズ達は脚を止め、散開する。獣たちも、それを認めたのだろう、脚を止め、ぐるる、と唸った。
「奇妙な感じだ……やはり、ただの精霊や、大樹の嘆きの類じゃない」
 クロバがゆっくりと、刃を抜き放つ。
「正体は不明だが……これ以上、侵攻させるわけにはいかない」
「この者は、深緑に関しては、特段の感情を抱いてはいないけれど」
 『言霊使い』ロゼット=テイ(p3p004150)が言った。
「されど、この状況は奇妙……耳長はさておき、かなりの大事だと考える」
「そうだな。降りかかる火の粉は払わねば――」
 『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)がそう言った刹那、轟、と狼が吠えた。その身体から飛び散る巨大な『火の粉』が、汰磨羈の足元に着弾する。ぼう、と強烈な炎が巻き起こった。ちり、と、皮膚を焼く炎。汰磨羈は、ふ、と笑ってみせた。
「おお、大したものだな?
 これほど盛大にこられると、払う手も相応に激しくせねば割に合わぬな?」
 にぃ、と笑う。退魔の霊猫としての矜持をかけた、それは戦うものの壮絶なる笑みである。ここに二つの獣アリ。炎の獣、退魔の霊猫。されど、獣は強大なる退魔獣と遭遇し、しかし喜びに打ち震えるように鳴いた。
「……なんだァ? まるで妨害されるのを喜んでるみてェだな……?」
 『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)が眉をひそめた。確かに……外から見た限りではあり、推察に過ぎないが、侵攻を妨害された獣たちが抱く雰囲気は、妨害への怒りや憤りではない。
 むしろ逆……まるで、英雄が自らに立ちはだかることを、歓迎するかのような――。
「ハ――ケダモノがバトルマニア気取りか?
 どうもキナくせぇ。そのわけのわからン性根も気になるがァ……」
「今は、退治を最優先としましょう」
 『永訣を奏で』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)が言う。
「森の中で炎系の者に暴れられては困ります。
 早々に退治せねばなりません」
「ええ……相手が何者かはわからないけれど、ひどすぎる」
 『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)が、ぎり、と奥歯をかみしめた。怪物たちが歩む後にも先にも、高熱の炎が道を作る。必然、辺りは炎にまかれ、邪魔者を駆逐するつもりであるかのように焼かれていった。奇妙なことに、大規模な延焼はない。ただそれでも、かなりの範囲が、炎によって焼かれたのは事実だ。
 クラリーチェも言った通り、この森の中で、炎をまき散らすものに暴れられては、大惨事になりかねない。前述したように、そもそもすでに被害は出ている。そして、森を焼くという事は、表層的な被害――ただ木が燃えた――というだけでは決してすまないのだ。
「この惨状……どういうことか、理解して――いないのだろうね?」
 ウィリアムが、怒りを隠さずにいった。あちこち方たちのぼる、香ばしく焼ける木々の香りは、焼かれた樹木たちの断末魔に他ならない。
「――よくも派手にやってくれたね。絶対に許さないぞ!」
 ウィリアムが術書を掲げる。怒りに応じるかのように、魔力の奔流が巻き起こった。それは、怒りによって炎をかき消すように、周囲の焔を巻き上げ、吹き飛ばした。
「焦りや油断は感じられません……むしろ闘争心のような……」
 右目の灼眼で敵を見やるは、『新たな可能性』アンバー・タイラント(p3p010470)である。アンバーのギフトは、しかし明確な答えを教えてはくれない。
「より格上の存在に使役されているのか……いえ、今は討伐を第一に考えなければなりませんね」
 大薙刀を構え、アンバーが言う。炎の獣たちは、歓喜に吠えるのみ。これから起こる戦いに。或いは、此方に立ちはだかる気概を持った存在の登場にか?
「あなた達の目的がどこにあろうと、その行く末に命の危機が関わっているのなら、やることは変わりません。
 その進軍、ここで止まってもらいます!」
 アンバーが大薙刀を構え、振り下ろした――それを合図にしたように、双方は一気、焼け落ちた荒原へと飛び出した――!

●フレイム・ダンス
 がぁ、と獣たちが吠えた。オオカミ。そしてオオトカゲ……これはトカゲというよりは、恐竜のようなそれに近い。そして、ヒグマのような巨体を持つ、炎の獣だ。それぞれのモチーフになったであろう獣の形を想像してもらえれば外観はその通りだが、しかしその全長は全て2mほど。一般的な成人男性よりも頭一つ分は大きいとみてもらって間違いはないだろう。加えて、炎の獣は、オリジナルのそれよりもより凶悪で、凶暴だ。近づいただけで、皮膚がひりつくような炎の熱。もはや、それは獣の形をした炎の塊でしかなく、その猛攻は、炎の雪崩も同様。しかもこの雪崩は、ただ流れ落ち蹂躙するだけではなく、明確に、連携をとっている。例えば――。
「アタッカーの役割はただ一つ、障害の早期排除だ。遠慮なく叩き斬らせて貰う!」
 汰磨羈が叫ぶ、振るうは妖刀。抜き放たれた刃が、炎のヒグマを狙い振り下ろされる――刹那、身体を丸めて飛び込んできたトカゲが、その刃を受け止めた! 炎の塊でありながら、まるでオリジナルの特徴を引き継いでいるかのように、硬い鱗を成型する炎のトカゲ。ほう、と汰磨羈は感心する声をあげた。
「ふん、ただ燃やすだけが能ではないな!?」
 再度の斬撃――トカゲがきぃ、と声をあげて、尻尾で妖刀を叩く。かぁん、と硬い音を立てて刃がトカゲのしっぽを滑る。さながら、尻尾と妖刀の切り結び。
「ふん、ならば――」
 汰磨羈が飛んだ。後方に跳躍し、一気に距離をあげる――。
「巻き込まれるなよ!? 花劉圏は斬撃烈破! その鱗、耐えて見せるなら耐えてみろ!」
 ばぢん、と音を立てて、妖刀に雷が走った。いや、それは陽の霊気だ! 汰磨羈が刃を構え、一足飛びで飛び出す! その動きはまさに雷鳴、走る雷のごとく解き放たれた剣走、その一撃が横一文字に世界を切り裂く! 斬! そして轟! トカゲのしっぽを切り裂き、同時、背後にいたヒグマの体躯をも抉る斬撃!
 ぎぃ、とトカゲが鳴く。同時、ヒグマが暴、と飛び出した。その炎の剛腕。振り下ろされただけで、強烈な衝撃が迸り、周囲のイレギュラーズ達を叩く――!
「やはり、奴が攻撃の本命か!」
 汰磨羈が叫ぶ。
「ヒグマから叩くぞ!」
 クロバが叫んだ。二匹にいる、ヒグマ型のビースト。それが、主に此方への大打撃を与える、向こうのメインアタッカーだといえる。
「奴らの戦法は、おおむねこうだ。オオカミが俺たちを翻弄し、ヒグマが本命の一撃を叩き込む! 俺たちの攻撃は、トカゲが受け止める――」
 レイチェルがそう言って、にぃ、と笑った。
「よくできてるじゃねぇか、脳みそ迄炎の分際でよく考えたと褒めてやりなァ」
 敵の連携攻撃に、しかしイレギュラーズ達も怯むことは無い。
「言い方を変えれば、敵は連携に恃んでいるともいえる」
 美透が言葉をつづけた。
「ならば、此方は、個の力も上回っているところを見せてあげよう。
 クロバ君の言う通り、攻撃手(ヒグマ)から潰せば、彼らはこちらへの決定打を失う!」
 美透の言葉は、他の仲間達も意思を同じくするところだった。防御手のトカゲは確かに厄介だ。現に、ヒグマを守る様に立ちはだかっている。が――。
「まとめて叩ききれば問題は無い!」
 クロバの髪が、銀髪のそれへと変わる。その眼が、紅のそれへと変わる。黒鋼二刀! 銀紅の死神!
「昏ノ太刀・滅影――受け止めきれぬものと知るんだな!」
 振り下ろされる刃と共に放たれる、黒炎と殺意。すべてを切り刻む、鬼気の刹斬! 刃がトカゲとヒグマをまとめて飲み込む! 斬! 巻き込まれたトカゲが、無残に斬り落ちる。同時、ヒグマもまた、その剛腕を切り落とされた!
 があ、とヒグマが吠えた。切り口から、血液のように吹き出す炎は、しかし同時に周囲にばらまかれた攻撃でもあった。黒煙が、イレギュラーズ達喉を傷めつける。呼吸を阻害するそれに、げほ、とクラリーチェがせき込んだ。
「……ただの煙ではありません。人体を毒する呪式の込められたものです……!」
 クラリーチェが、小さな鐘を鳴らした。それは、体勢を立て直す大号令の神声でもある。かぉん、かぉん、高鳴る清浄なる鈴が、すすをばらまく毒煙を、まるで浄化するように吹き飛ばした。
「相手の数が多いとそれだけで厄介ですね。皆様の回復をしつつ、手が空けば攻撃に回りましょう」
「助かる。この者も、君を守ろう」
 ロゼットが頷き、両手を破砕されたヒグマに飛び掛かった。幻と現の境界線上に存在する敵に対して、間違っても己の焼かれるイメージなど持つまいと気を引き締める。炎が迫る。が、それがロゼットを飲み込むことは無い。イメージしろ、彼の暴炎の中を切り抜ける自分を。そして、その現実をつかみ取れ。
「断つ」
 山刀が、大上段から振るわれた。本質。刃に乗って放たれる。孤独の毒。絶たれた炎が、悲鳴をあげる間もなく消滅する。絶たれて消える。一つ。孤独。
「さて、踊りたければ踊って上げるよ」
 山刀を掲げる。強敵の出現。獣たちは吠える。怒り? 恐怖? 違う。
「歓喜か……」
 レイチェルが舌打ちした。まるで、抵抗されることを、立ち向かう事を喜んでいるかのような獣たち。
「クロバ、巨人と遭遇したって言ったなァ? あんな感じだったか!?」
「……覚えはあるね」
 クロバが頷いた。
「そうだ、あの巨人も……戦う事を喜んでいた? いや、反抗されることを……?」
「なんだいそれは、何かの試練気取りかい?」
 ウィリアムが声をあげる。
「それで焼かれる森の実にもなって欲しいね……どんな理由があろうとも、彼らのやったことは許せない!」
 ウィリアムが、ヒグマへと肉薄する。手を掲げる。ゼロ距離で爆発する、魔力! 衝撃魔術が、ヒグマの身体を構成する火炎を吹き飛ばす! ぼう、とヒグマの体積がわずかに減った。それを確認しながら、ウィリアムが退避――入れ違うように、狼がその牙を中空へと突き立てた。ウィリアムの動きを阻害するように。
「その意図がどこにあろうとも――森を焼く炎はここで消すよ!」
 ウィリアムが再度、手を突き出した。開いた術書が、強烈な風を巻き起こす! 衝撃波! 再びのゼロ距離術式が、オオカミを吹き飛ばし、その衝撃の内に『消火』してみせる! 轟! 狼たちが吠える! 翻弄するように二体のオオカミが飛んだ!
「確かに素早い……ですが!」
 アンバーが飛ぶ! 手にした大薙刀を振るい、突撃するオオカミに一気に接敵! 大上段から振り下ろした斬撃が、オオカミを斬り飛ばす! ボウ、と炎が巻き起こり、爆発するようにその死体が消失する!
「私達は、覇竜の大地で生きた者。この程度の炎で、心折れるようでは、かの地にて防人を名乗るなどおこがましい」
「そういう事だ」
 美透が不敵に笑ってみせる。
「こう見えて、竜の文字を関する種族でね。その程度の炎、暖房にもならないさ。
 ……まぁ、私の属性は風で、アンバー君の属性は雷なのだけれど――」
 軽口に応じず、オオカミは再び吠えた。その身に纏う炎を強烈に燃え上がらせ、突撃!
「アンバー君、とどめを頼むよ。
 ――我らが意気を世に示せ、蓋世陣!」
 美透が大地にその両手を叩きつけた。同時、地に翠、風を思わせる色の光が奔り、描かれた幾何学模様が、魔術を増幅させ、アンバーを鼓舞する力となりそそいだ!
「承知しました! 見せてあげましょう! 覇竜の戦士、その力が外で通用することを!」
 アンバーの大薙刀が、暴風と雷を纏いて振りぬかれる。横一文字に咲いた剣閃が、オオカミを真っ二つに切り裂いた。ぼう、と炎を巻き上げて、オオカミが消滅する。二人の亜竜種。その力が、暴威の炎をここに下す。
 一方、残るはヒグマとトカゲだ。とはいえ、ヒグマはもう虫の息であり、トカゲ自体に決定打となる攻撃力は無い。イレギュラーズ達も相応に傷ついていたが、しかし戦局は確実に、イレギュラーズ達の勝利へと傾いていた。
「――我、死の運命を捻じ曲げん。死の運命を拒絶せよ」
 レイチェルがその片手を掲げる。右半身に刻まれた術式が、本来の色と重なり、鮮やかなる色を放った。まるで、違う何かの力を借りたかのように。
「禁術・運命歪曲」
 呟きと共に、その指先から光の槍が迸る! 直線を貫く槍が、ヒグマの腹を抉った! ぼん、と音を立てて、ヒグマが爆発する! 強烈な爆発があたりに炎をまき散らし、最後の抵抗とばかりの攻撃を行うが、しかしそれがレイチェルの――イレギュラーズ達の歩みを止めることは無い!
 ぎゃぎゃ、とトカゲは吠えた。その様は、さながら、強烈な力を持った者たちの活躍を讃えるかのように――。
 斬、と、妖刀が、トカゲを切り裂いた。ちりちりと炎がはぜて、やがて空へととけていく。
「……気に入らんな。まるで試しでもしているようなつもりか?」
 汰磨羈が、トカゲを切り裂いた妖刀を振るい、刀身に走る炎を吹き散らした。同時に、眉をひそめる。敵が、追い詰められていないのか、と言えば、NOである。イレギュラーズ達の攻勢は、確実に敵を追い詰めていった。余裕がある、とも思えない。周囲に増援の気配はない。
 だが……この、異常な歓迎感ともいえるようなこれは、何か――。
 残るトカゲが、きぃ、と叫び、突撃する。クラリーチェへと向けた、最後の一撃。ロゼットは飛び出すと、その一撃を受け止めた。
「ありがとうございます……人様を盾にするようなのは、忍びないですが……」
「問題は無いと。この者も、これが仕事」
 ロゼットが、山刀でトカゲを斬り飛ばす。火の粉を散らしながら、トカゲが後方に吹き飛ばされた。体勢を立て直す前に、クロバの刃が、それを阻止する。無造作に振り下ろされた斬撃は、トカゲを真っ二つに裂いた。ぎゅ、と断末魔の悲鳴をあげて、トカゲが消えていく。
 同時に、暖かな春の風が、辺りを駆け抜けた。炎の熱のなくなったこの場所を、急速に冷やすように、外気が傷痕を舐めるみたいに、柔らかな風が吹いている。
「……終わりか。増援はなさそうだが」
 レイチェルがそういうのへ、汰磨羈は頷いた。
「うむ……あたりには何もない。しいて言うならば、例の茨の壁だが……」
「反応は見受けられないか?」
 クロバが言うのへ、汰磨羈は頷いた。
「そうか……何か手掛かりがあれば、と思ったんだが」
「そうなると、やはり協力はしていても、高度な連携は保っていない、とみるべきなのだろうか?」
 美透が首をかしげた。
「……或いは、お互いが利用し合っている、とか」
「思惑が違う可能性があるか? 茨の主と、炎の嘆きや精霊を操っている奴とでは」
 レイチェルが言う。
「……そうかもしれません。
 ただ、その意図がどこにあろうとも……この森が元の姿を取り戻すには、長い年月がかかります……」
 クラリーチェが、辛そうにそう言った。
「……周囲を見てきます。この炎が、周りの森にすぐさま延焼することはないでしょうが、一旦火が付くと消すのは難しくなる。
 僅かな火の粉でも見落とさないようにしなければ……」
「手伝うよ」
 ウィリアムが言った。
「……森の事に関しては、僕も心を痛めている。こんなにひどく、森が傷つけられたのは、きっとそうそうない。
 ついでに、周りに精霊が居れば、話を聞きたい。あの炎の怪物たちは、なんだったのか……」
「この者も、疑問には思う」
 ロゼットが頷いた。
「……結局、ビースト達の意志を探ることはできませんでした。あれは何だったのか……」
 アンバーが言葉を紡ぐ。
「キャンプの方も気になりますね。皆さんに、作戦の完了を伝えなければなりません」
 その言葉に、仲間達は頷いた。
 異変に対しての情報は、まだまだ少ない。
 だが、解決のための一歩を踏み出したことは、間違いないのだ。
 それを希望に、イレギュラーズ達は再びの一歩を踏み出す――。

成否

成功

MVP

クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆さんの活躍により、キャンプ地は襲撃を免れました。
 また、森の延焼も防がれています。
 ……元の姿を取り戻すには時間はかかりますが、しかし最悪の事態は防げたようです。

PAGETOPPAGEBOTTOM