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シナリオ詳細

<咎の鉄条>薄革の如き現実へ

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●難を逃れたハーモニア達
 練達から退いた『怪竜』ジャバーウォックは、ラサ傭兵商会連合や覇竜領域デザストルを越え、深緑アルティオ=エルムへ向かっていったという。
 各国がその話を知り、ジャバーウォックら竜種による襲撃をローレットさえも計りかねていた頃、ラサの商人達よりある情報がもたらされていた。
 深緑国土、ファルカウや迷宮森林のほぼ全土が茨に覆いつくされている――と。
 空中神殿を経由するワープ移動さえも受け付けず、内部にいるであろうリュミエ達とも連絡が取れず、謎の茨を強引に越えようとすれば急速に眠りについてしまう者、絶命の危機に陥ってしまう者などが発生しているという。
 その状況は一部こそ違えど、ROO内部での深緑に比定される勢力、翡翠にて遭遇した状況とも酷似していた。
 より一層とそれを思わせるのは、一部で姿が確認されたという存在――『大樹の嘆き』の存在だった。
「こんにちは、ベネディクトさん」
 ローレットにて、次の依頼への参加を考えていたベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は、不意に背中越しに声を掛けられた。
「ん? 君は……ラフィーネだったか。無事なようで何よりだ」
 軽く手を振りながら声をかけてきたのは青髪の幻想種。
 冒険者を思わせる装いをした彼女は柔らかく笑って。
「ええ、運が良かったわ。ちょうど幻想からラサに入って、
 これから深緑に行こう、ってところで封鎖されたことを知ったの」
「どうしてここへ? もしかして、今回の件について知っているのか?」
「今回の件っていうのは多分、深緑が封鎖されたって話よね。残念だけど、そっちについては私もよくわかってないかな」
 隣まで歩いてきたラフィーネが一枚の紙を取り出した。
「これは……依頼書か」
「私が追ってた敵が深緑で姿を見せた……かもしれないって話が、数ヶ月前にあったみたいなのよ。
 貴方が参加していない依頼だし、知らなくともおかしくないわ」
「そうか。それでこっちの依頼内容は……集落の探索、か」
「うん。私が追ってる敵が今回の深緑封鎖に関わってるのか、別件で動き出してたのが偶々重なったのかは分からないよ。
 どっちにしろ深緑が攻撃を受けてることはたしかなこと……だから、調査に行きたい。
 どう? 一枚噛んでくれるかしら?」
 ラフィーネの表情は微笑んでありながらも、どこか真剣な雰囲気をしていた。

「ねえ、お姉さん……お姉さんは、怖くないの?」
 リチェを抱きかかえたキルシェ=キルシュ(p3p009805)は、隣の席に座る幻想種の少女――ユニスに問うた。
「え、えぇ……大丈夫、大丈夫よ」
 そう言ってはにかむユニスの手が、小さく震えているのをキルシェは見てしまった。
「そうよね、きっと大丈夫よね……」
 目の前の彼女とて、キルシェ同様に深緑のうちに住まう者。
 離れ離れに暮らしていると言えど、向こう側にいるであろう両親の無事を祈らずにはいられようか。
「ユニスお姉さん、こんな状況だけど……ううん、こんな状況だからこそ、やっぱりご両親に会いに行く方がいいと思うのよ」
 寄り添ってくれるリチェのもふふわ毛並みを撫でて気持ちを落ち着かせながら、キルシェは言う。
「何が起こってるか分からないし、無事かどうかだけでも見に行こう!」
 炎堂 焔 (p3p004727)が同意すれば、ユニスは目を伏せる。
 その表情は何かを恐れているようにも見える。
 ここ、ローレットにユニスが来ている理由はそれ。
 ある依頼でユニスと出会ったキルシェは、彼女の母親に話を聞きに行く必要があると思っていた。
 その手筈を整えるためにユニスがローレットに数日ほど滞在していた間に、深緑が封鎖された。
「そのためにはまず、ユニスのご両親の住んでいる集落が分からないと……奥の方にあるのなら、茨の向こう側だろうから」
 そう言ったのはウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ (p3p006562)である。
「それは、もしかすると大丈夫かもしれない。少し前に国境線近くの集落へ移ったって言ってたから」
「行ってみる価値はありそうだね」
 そういうと、ウィリアムは手元に用意しておいたメモを見る。
 中身は箇条書きで記された幾つかの対話。
「焔ちゃん!」
 ウィリアムがメモを開こうとしたところで、焔を呼ぶ声がして、振り返る。
 ふわりと優しい花のような香りに、焔は振り返りながらも後ろにいる人物が誰か理解した。
「え、エルリアちゃん! 久しぶり! 無事だったんだね!」
「うん、ちょうどラサの研究室にいたんだ。
 でも、一緒に研究してる子たちがまだ森の中にいるんだ。
 お願い、あの子たちを助けて」
 縋るように言ったエルリアは、顔を上げて状況を把握したらしい。
「あっ、ごめんなさい。いきなり……」
「うぅん、大丈夫。でも、そうだよねエルリアちゃんところの子達もいるかもしれないよね」
「多分、あの子たちがいるならここだと思うから……」
「ここならいけるかも。探してみるね!」
 それは、ユニスの両親が住んでいるはずの集落のほど近くだった。
「あれ? 貴女は……あぁ、いえ、ごめんなさい。別人ね」
 ユニスを見たエルリアは直ぐに顔を振った。
「そうだ、焔ちゃん、今からどこか行くの?」
「うん、あのユニスちゃんって子のお母さん達が住んでる集落に行くんだ!」
「ユニスちゃん? そう、あの子がユニスちゃんなんだね。
 ちょうど良かった。焔ちゃんが行こうとしてる集落にも、私が借りてるログハウスがあるの。
 もしよかったら、そこを見てきてくれないかな」
「それなら任せてよ!」
 焔が笑って言えば、エルリアはホッとしたように表情をほころばせた。

●隠蔽され、改竄されし言の葉
「……貴方は、ユニス様を迎えにいらっしゃったのですか」
 そう、女司祭がノエルに語り掛けた。
「今回の再会は偶然だ。僕達は彼女と出会う気はなかった。
 ……出会えたのは、君があの時の花を忘れなかったから……かな?」
 そんな言葉は、ある改竄点がある。
「――今回の再会は偶然だ。『師匠は』彼との再会を望んでいない。
 ……出会えたのは、君があの時の花を忘れなかったから……かな?」
 それにユニスが言い淀んだ時、ノエルはこう答えた。
「だよね――この花は僕達が最後に会った時のあの花だ。
 これを覚えていれば、話を聞いてしまえば飛び出してくるしかない……」
 だが、その台詞には一言を欠落している。
「だよね――この花は僕達が最後に会った時のあの花だ。
 『君がこれのことを覚えているなんて思わなかったけど』
 これを覚えていれば、話を聞いてしまえば飛び出してくるしかない……」

 それは、一面に広がる白百合の花を手折った幻想種の少年へと、ノエルが告げた警告。
「あぁ。気を付けて。無理に手折ったら、あまり良いことは起きないだろうから」
 だが、それもまた重要な言葉を言い淀むように組み替えたものだ。
『あぁ。気を付けて。無理に手折ったら、『浸食が早まるだけだ』から』

「始めまして、ボクは炎堂焔だよ、キミは?
 凄く綺麗なお花畑だけど、ここで何をしてるの?」
 そう、焔が問いかけた時、ノエルは静かに自分が花畑を手入れしているのだと告げた。
 続けて焔が問うたのはそこに広がる花畑を作ったのがノエルかという物。
 その問いかけには、ノエルは否定した。
「正確には、師匠かな……僕は師匠が作った花畑が、根を張るのを見守るだけ」
 ――だが、それは幻想種の少年が為した問いかけに等しく、重要な点を塗り替えた。
「正確には、師匠かな……僕は師匠が作った花畑が、『根を張り、この地を塗り替えるまで時間を稼ぐだけ』」

「ユニスを連れていく? ああ、なるほど。そっちはそう思っているわけか。
 今回はただの偶然だったんだけど。まさか、そこまで警戒されるなんて」
 ルシェがユニスを庇うように告げた言葉に、ノエルはそう告げた。
 だが、その台詞はまるで感じ取り方の違う改竄が施されていた。
「ユニスを連れていく? ああ、なるほど。そっちはそう思っているわけか。
 『できるなら、彼女をこの場から離してくれる方がうれしいよ』」

 ある小さき少女がこれまで何をしていたのかとノエルに告げた時、ノエルはこう答えた。
「何をしてた……何を……うーん……いろいろなところを、見て回ってた?」
 ――だが、それは丸々と改竄された言葉であった。
『それはちょっと、応えにくいかな。僕はあの人がする旅に同行させられていただけだから』

 続け、小さき少女がノエルの連れている蛇のことを問い、ルシェが推測を告げた時もまた、同じように大規模な改竄があったものだ。
「かもしれないね。正確なところは覚えてないけど、多分、僕が師匠と出会って直ぐに与えられたから……それこそ5年だろうね」
『君は幼いのになんて賢いんだろう。うん、そうだよ、この子たちは師匠と共にあった。
 僕を監視し、師匠と僕の間にある契約。――と言っても、君達にはこれも別の台詞になってるんだろうね』

「これは師匠の実験だよ。どういうものかは知らない。僕は、これを育てるように命じられてるだけだから」
 ウィリアムが一面に広がる花畑の白百合のことを問うた時、たしかにノエルはそう言っていた。

 その後、イレギュラーズが師匠とは誰なのかと問うた時の答えは、ほぼ全てが嘘と言っていい。
『――ちょっと、言うことはできないかな』
 そう言って、彼は花畑の中央に咲く一際と大きな花に手をかざす。
『君達がこの言葉を聞こえないのであっても、契約の根幹を話すことはできないんだ、ごめんね』
 言い終えるや、彼の隣に合った漆黒の百合の花が爆発を起こす。
 吹き荒れる漆黒の百合の花の向こう側に消えていきながら、ノエルは更に言った。
『ユニス、出来れば君は関わってほしくないんだ。
 君にはもうこれ以上、不幸な目になってほしくないから。
 あぁでも――イレギュラーズ。きっと、君達とはまた会うことになるだろう。
 ……どうか、――を止めてほしい』
 儚げにそう言って笑ったノエルは身を翻して姿をくらましたのだという。

●薄っぺらい現実
 茨に覆われた集落の中、沈黙が支配したその地にて、特徴的な2つの人影があった。
 静寂に包まれた集落――眠りに落ちた住人達のことをまるで構わず、2人は平然とそこにいた。

 ――なんて、面倒くさいんだろう。
 零れ落ちそうになった言葉を、ノエルは飲み込んだ。
 不愉快な声がずっと脳裏に響いている。
 面倒くさい、面倒くさい、この声に耐えながら、あの女に尽くすのは本当に面倒くさい。
 でも、駄目だ。僕は、負けられない。負けられないんだ。
「……ユニス」
 あぁ――命よりも大切な、あの子の名前。
 薄っぺらい現実の後ろ側。
 見られたくない闇色の光景を、あの子に見せたくないのに。
 僕は、あとどれくらい持つのだろう。
「はぁ、はぁ……」
 荒く、息を漏らす。
「どうしたの、ノエル」
 けだるげな声がする。ずるずると、無限の堕落に引きずりおろされそうな声がする。
「師匠……大丈夫だよ」
 振り返ればそこに人はおらず。
 厳重に茨に覆いつくされ、とても中に入ることのできぬログハウスは、声の主が言うには、相性の悪い研究者の物だという。
 視線を建物の屋根の上にあげれば、そこには黄緑色の髪を揺らす幻想種の女がいる。
「そう? ならいいのよぉ」
「で、師匠、僕は何をすればいいんだっけ」
「ん~とりあえず、ここにある霊樹を滅茶滅茶に傷つければいいんじゃない?
 多分、そしたら大樹の嘆きだっけ、あれがでるわよ。ふわぁ……あふぅ」
 屋根の上でだらけながら、そのままだるそうに手を伸ばした。
「分かった」
 視線を上げ、魔術を行使する。
 ――刹那、白煙が蛇のように霊樹にとりつくと、ミシミシと軋み始めた。
 同時、手を払うように動かせば、地上を這った白煙が霊樹の根元を食む。
 姿を見せたのは大型のイタチのような何か。
 怒り、嘆くように、あるいは自らを傷つけた何かへと抵抗を示すように。
 姿を見せたソレは、白煙を斬りつけ、振り払う。
「はぁ……終わったよ、師匠」
「ならお暇するわよ」
 気づけば隣にいた女が、背中にもたれかかってくる。
 溜め息を吐いて、黒い種をぱらぱらと地面にまき散らせば、瞬く間に白百合が咲き誇り、炸裂して黒百合に変じた。
 百合の花が地面に落ちた頃、既にそこに2人の影はなく――白煙を払い、次いで狙うべきものを失った大樹の嘆きが叫ぶ。
 それに応じるように、傷ついた霊樹から無数の小さな鳥のような魔物が飛び立ち、集落の中を飛び回る。

GMコメント

 めちゃめちゃ長いオープニングになってますね。
 よくわからんし長くて読んでられないよ!! という皆様、ご安心ください。
 まずは以下に軽くまとめた内容を載せておきます。

1:皆さんご存知の通り、深緑が封鎖されました。
2:両親と離れ離れに暮らすユニスという幻想種の少女はローレットにいたことで難を逃れました。
3:彼女は両親が暮らしている国境線上の集落へローレットのイレギュラーズと一緒に赴く予定だったのです。
4:今回の件で彼女の両親が住まう集落も茨に覆われている可能性が高いので、その集落を探索して大樹の嘆きと魔物を退けましょう!
5:別件でベネディクトさんは知己の幻想種、ラフィーネから同一の集落へ一緒に行って欲しいとの依頼を受けました。
  どうやら、この集落にはラフィーネが警戒していた『別件の深緑に対する敵』が関係する何かがある可能性が高いとのこと。
6:同時、焔さんは運よくラサにある自分の研究室にいたために難を逃れたエルリアさんから、どうにか弟子がいる集落に行けないか見てきてほしいと依頼を受けました。

※当シナリオは、『追いついてきた過去(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/6854)』の続編にあたります。
 過去の内容を参照せずとも当シナリオのみでお楽しみいただけますが、
 参照したり当オープニングの章題『●改竄された言の葉の答え』の内容などを読むと考察が進んだり謎やら疑問やらが解決したりするかもしれません。

●オーダー
【1】魔物の討伐
【2】大樹の嘆きの討伐
【3】集落の調査

●フィールド
 深緑ラサの国境線上に存在する、郊外の田舎町的集落です。
 集落の内部には多数の家屋が存在していますが、人が動いている気配は一切ありません。
 家屋の多くは中に入ることができますが、唯一エルリアさんの研究室代わりのログハウスのみ厳重に覆いつくされています。


 フィールドのそこかしこに有刺鉄線のように鋭い茨が生え、当たるとダメージを受けます。
 また、国境線側を除き、集落の周囲にも同様の茨が存在しています。
 この茨は乗り越えることが出来ず、現時点では奥へ侵入できません。

●エネミーデータ
・『大樹の嘆き』フォシーユ
 前足部分が巨大な鎌になった鼬型の大樹の嘆きです。
 戦場にいる全ての存在に攻撃を試みます。
 全長3~4m、性質としては精霊の系列であり、常に低空飛行状態です。
 弱点となる核部分が胸元あたりに存在しています。
 そこそこ強力な個体です。

 HP、物攻、EXA、反応、命中が高め。
 鎌による攻撃は【毒】系列、【凍結】系列、【出血】系列、【呪い】が付与される恐れがあります。

・鳥型魔物×20
 鷲や鷹、梟のような猛禽類を思わせる中型の魔物です。
 フォシーユに比べると遥かに弱いです。
 周囲を探索し、人を見つけ次第攻撃を加えます。
 家屋の中でもドアなり窓なりを壊して攻撃します。

●NPCデータ
・『高潔なる探求者』ラフィーネ
 ベネディクトさんの関係者。
 様々な大事件が縦続きに起こる現代、深緑で起きない理由はないと様々な情報を集めていました。
 とある『組織ないし敵』からの攻撃を追っていたために眠らずに済みました。
 皆さんと同等程度の実力を有する冒険者であり、水にまつわる魔術を用いる魔術師です。
 ヒーラーとするかアタッカーとするかは皆さん次第です。

・ユニス
 深緑のある集落でレンジャーを務める少女。
 今回の舞台の集落に離れ離れで暮らしている両親がおり、今回はその両親に会いに来た形となります。
 集落まで同行します。皆さんよりはやや格下ですが、自分の身を守り、鳥型を撃つぐらいでは問題なくできます。

・集落の住人×複数
 集落に住まう住人達。家屋の中
 多くの案件同様、全員が眠りについており、動かそうとすると苦悶の表情を浮かべる等、死の危険を感じます。
 集落内部の路上や家屋の内部などに転々と存在しています。

・エルリア・ウィルバーソン
 焔さんの関係者。
 植物学者にして樹木医。ラサにある研究室にいたために難を逃れました。
 未だ深緑内部にいるであろう自分の弟子兼助手的な幻想種を助けてほしいと依頼してきました。
 集落には同行しません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <咎の鉄条>薄革の如き現実へ完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月15日 23時50分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女
玖・瑞希(p3p010409)
深き森の冒険者

リプレイ


 陽光が地上を照らし、幹の太い木々の間、開かれた場所にその集落はあった。
 空には大型の猛禽類が飛び交い、そこかしこに有刺鉄線のような生えた有刺鉄線のような茨は穏やかな空間には似つかわしくない。
 それらの大型の魔物は、ここにたどり着いたイレギュラーズ達を見るや、一気に飛び掛かった。
「やっぱり他の場所と同じように皆眠っちゃってる。
 何が起こっているのかわからないし気になることも多いけど……」
 周囲の様子をみとめた『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は、一つ息を入れて、小型の火球を掌に生み出した。
「ユニスちゃんのご両親にエルリアちゃんのお弟子さん、
 もちろん他の集落の人達を守るためにもまずは敵をなんとかしないと!」
 言うや、それを飛び交う猛禽類めがけて投擲する。
 火球はダメージを与えるには及ばないが、焔の姿を魔物に印象付けるには十分だ。
 鳴き声を上げながら、鳥たちが一斉に焔へと飛び降りていく。
 それに合わせ、焔は掌に集めた火球を集束、大型の爆弾に変えて放り投げた。
 ある一匹へとぶつかった火炎弾は炸裂し、周囲を巻き込んで燃え上がる。
「手荒な歓迎だね」
 続け、マルク・シリング(p3p001309)は掌に浮かべた魔方陣から、一斉に小さな魔弾を放つ。
 屈折する魔弾が焔を躱して鳥型の魔物へ炸裂し、まばゆい光を放つ。
 突如の閃光は猛禽類の視界を白く潰し、混乱をもたらしていく。
 ついでとばかりに巻き込んだ茨はあわや反撃をせんとマルクを狙ったことで巻き込まないよう努力する方へ切り替えた。

「この巡り合わせが偶然かは判らぬが、3つの別々の依頼の目的地が同じ時期に重なるとは不思議な事も合ったものでござるな」
 集落の中に入り、別方向へ散開した『闇討人』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は思わずそう言った。
 別々の案件――偶然なのか、或いは何らかの必然が紛れ込んでいるのか――その辺りはまだ分からない。
 しかし、静謐な空間に時折響く、鳥の羽ばたく音は何とも不気味だった。
「何とも静かで不穏な空気でござるが……むっ! 見つけたでござる! 手早く参ろうか、ウィリアム殿」
 咲耶は、手甲の絡繰より幾つもの手裏剣を取り出すや、それらを猛禽類へ放り投げた。
 呪いの込められた手裏剣は、素早く手裏剣へと炸裂し、とすりと突き立った手裏剣を受け、鳥が叫ぶ。
 それは1度には収まらず、トス、トス、と合計3匹に突き立ち、それぞれが鳴き声を上げて咲耶めがけて飛ぶ。
「うん、ひと先ずは飛んでる魔物から何とかしようか」
 頷いた『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)は愛杖より魔力を束ねていく。
 それは稲光へと姿を変え、蛇のように蛇行しながら走り、咲耶へ殺到する猛禽類らを絡めとる。
 絡めとった直後、稲光が爆ぜ、雷光が猛禽類を焼きつけていく。

 飛翔する鳥たちが、道に転がる幻想種を見つけ、それめがけて降りていく。
「人の寝込みを襲うなんざ、礼儀がなってねえな!」
 鳥めがけて『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は一気に走り出す。
「ユニスお姉さんも手伝って欲しいわ!」
 それを見ながらも、『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)は振り返り、ユニスに声をかけた。
 周囲へ驚いている様子を見せたユニスはキルシェの言葉に我に返ったのか頷いて。
「……うん、任せて」
 いうや、矢を番えて放つ。
 それは倒れている幻想種に一番近かった魔物を一瞬怯ませる。
「あてにしてるぜキルシェ」
 ほぼ同時、ルカは黒犬(偽)を携え、空を飛び交う鳥たちへめがけて飛びあがった。
 ある1匹を斬り伏せ、その勢いに任せてもう一匹を斬り伏せる。
 その間に空いている拳である一匹を殴りつけて着地すれば、その視界にルカへ向かって突っ込んでくる複数の猛禽類の姿。
「任せてください!」
 鳥たちの爪が、くちばしがルカの身体に傷を入れていく。
 それが終わるのとほぼ同時、美しき輝きが降り注ぐ。
 それはキルシェがもたらす幻想福音。
 幻の鐘の音がルカの傷を癒していく。

 猛禽類たちの羽ばたきが、イレギュラーズによる攻撃の音が、集落の中を切り裂きつつある。
「どうやら、他の皆も戦い始めたみたいだな……」
 金色に輝く竜の爪、自らが勇者となった証左であるそれを手に、『竜撃の』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は真っすぐに飛び交う魔物を見上げていた。
「ラフィーネ、攻撃に回ってくれるか?」
「幻想の勇者の一人のお力、見せて貰えるのね。分かったわ」
 ベネディクトの問いかけに肯定するように、ラフィーネが魔術書を開く。
 どこからか姿を見せた水色の精霊が、ラフィーネの周囲を回っている。
「嘆き。つまり、霊樹は怒ってるんだね。
 どうにかしてあげたいけど、人を傷つけるなら、先に止めてからだね!」
 そういうのは『深き森の冒険者』玖・瑞希(p3p010409)だ。
 亜竜種たる瑞希はまるで竜の骨のような尻尾と翼を揺らしている。
 深き森、よく知るようでいてそうではない森の様子に、どこか好奇心も抱いているようだ。
「あぁ、先ずは集落の人々の安全の確保からだ。油断せず行こう」
「よーし! 頑張るぞ!」
 ベネディクトの言葉に瑞希が言ってやる気を溢れさせた頃、3人の前にも猛禽類の姿が見える。
 それを見止めるや、ベネディクトは一歩前に出て、槍を頭上で人回しすると、真っすぐにそれらを見据えた。
「我が名は幻想の騎士、ベネディクト=レベンディス=マナガルム!
 眠りし幻想種を害なす者共よ、相手となろう!」
 堂々たる名乗り声に気づいたらしい猛禽類たちが、ベネディクトめがけて近づいてくる。
「――撃ち抜いて」
 ラフィーネの魔導書が淡く輝き、翳された掌に魔方陣が描かれた。
 ふわふわと飛ぶ精霊がその魔法陣へ溶け込み、鋭くとがった水の弾丸が走った。
「よーし! 一気に行くよ!」
 殺到する鳥たちをベネディクトが危なげなく退避を繰り返す中、瑞希はそこへ飛び込んだ。
 竜骨の被り物の下、目ざとく見通した敵の数にあわせて、己が爪を振るう。
 強靭なる爪の軌跡は複数の鳥を切り裂き、複数の羽根を空に散らせていく。
 持ち前の身軽さを利用し、着地すると同時、尻尾で思いっきり追撃を叩きつける。
 尻尾の薙ぎ払いが鋭く走り、猛禽類の身体に赤い流血を刻む。



「ううむ……大樹の嘆きの影響範囲が広いですね。
 それに、先程から飛んでいる……鳥? の鳴き声以外、音もありません。
 ここでもやはり、眠りが発生しているということですか」
 広がる光景をみて、『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)が言えば。
「あちこちに茨が……何が原因でこうなっているのか調べないといけないね」
 地面に生える茨を避けながら、『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)はドラマの方へ近づいていく。
『シャォォ』
 不意に聞こえてきたのは動物の鳴き声のようなもの。
「今の! もしかして!」
 スティアがそちらを向いたその時だ。
 家屋の向こう側から、跳ぶように姿を見せたのは、鼬を思わせるナニカ。
 見る限り、尋常な生物ではない。
「大樹の嘆きだ!」
『シャァァア!!』
 フォシーユが叫びながら風のように走り、2人めがけて突っ込んでくる。
「まずは人気のないところまで誘導しましょう!」
「うん、分かった!」
 ドラマの言葉に頷き、スティアが続く。そんな2人を、フォシーユが追走する。
 それはまるで自らの怒りの源を2人だと思っているかのように。
「なんだかすごく狙われてないかな、私達!」
「そうですね……理由は分かりませんが、手間が省けるので良しとしましょう!」
 人気のない場所まで移動しながら、スティアはセラフィムを起動する。
 舞い散る魔力の残滓を引きながら、充実した魔力で掌に氷結の花を咲かせ――そっとそれを地面へ手向けた。
 ふわりと浮かび、地面へ落ちた花の上を敵が突っ切るその瞬間、花が炸裂し、舞い散る花弁がフォシーユの命を縛り付ける。
 フォシーユの短い叫び声を聞きながら振り返る。
 既に人気はない。後は――猛禽類を討伐する仲間達が来るまで持ちこたえるだけ。
「――私の教わった蒼剣が標榜とするのは、負けない剣。
 持久戦は得意分野です」
 こっそりとフォシーユの背後へ回り込んでいたドラマが剣を振り抜いた。
 剣術と魔術を織り交ぜ、魔力の奔流を読み取り穿つ蒼き閃光がフォシーユを切り裂き、その精神力と体力を奪っていく。


 放物線を描き、キルシェとルカの頭上を飛んだ幾つもの矢が飴のように振り注ぎ、鳥たちの動きを阻害する。
「この辺のは粗方落としたか?」
 跳躍と同時に振り抜いた黒犬を以って猛禽類を斬り伏せ、ルカは一息ついた。
 キルシェによる治療を加味してもその身体に傷は多い。
「キルシェとユニスはベネディクトたちに合流しな」
「分かったわ! 行きましょ、ユニスお姉さん!」
 黒犬を担ぎなおしたルカに言えば、ルカはそのまま走り出した。
 その様子を見つつ、キルシェもユニスを連れて走り出した。

 スティアはセラフィムの出力を上げていく。
 ふわふわと魔力の残滓が羽根となって落ちていく。
「止まって!」
 鋭く告げた言葉と共に、閃光が瞬いた。
 一条の輝きとなった閃光はフォシーユの腹部にある核へと炸裂する。
 そのまま、光はフォシーユの身体を包み込んでいく。
 それはさながら、天使が翼を広げ、その翼で抱きしめるように。
「すばしっこいですね……その分、手数の多い貴女には不利なはずですが……」
 使い慣れている術式への理解力を高め、より効率よく振り舞えるように。
 愛剣に再び魔力を籠めながら、ドラマは思わずごちる。
 風のように素早く、風のように鋭きフォシーユの連撃は、注意を引き付けているスティアの方へ怒れるように降り注ぐ。
 それほどの魔力消費に加えて魔力を断つドラマの剣は相性が悪い――はずだ。
 それでも――或いはそうだからこそ、負けない剣としてあり続ける。
「このまま押され続けるのは蒼剣の弟子の名が廃ります」
 意識的にギアを入れなおして、十全の理解の下に振り払った禍断。
 鮮やかな魔力の斬撃が、断ち斬らんと走り――その視界の向こう、ドラマは捕らえた。
「遅いですよ! 勝つのは任せましたよ、ルカ君!」
 ドラマの声にこたえるように、ルカが姿を見せる。
「森を荒らす気はねえよ。ちっとばかし……おとなしくして貰うぜ!」
 ルカはフォシーユの眼前に立ちふさがるや開口一番、その身に邪剣の理を抱き踏み込む。
 黒犬の刃が青白く輝きを放ち、穿つは雷をも切り裂く閃光の人達。
 一拍と共に振り抜かれた無双の一太刀が2度に渡ってフォシーユの身体に刻まれる。
 鮮やかな太刀筋にフォシーユが悲鳴にも似た鳴き声を発した。

「あと数匹ぐらい?」
 焔は空を見上げ、その手に火球をもう一度生み出した。
 煌々と輝く火の光は焔の髪の色にも似た神秘的な紅を描く。
 打ち出された炎の弾丸が数匹の鳥たちへと炸裂し、ふらり、ふらりと地上へ落ちていく。
 その向こう側、体勢を立て直した残りの1匹めがけ、くるりと紅蓮の炎で出来た槍を握り跳躍。
 自身を砲弾のようにして突撃し、鳥の心臓を貫く。
「後は任せて!」
 続け、マルクは魔法陣を描いて地に伏しながらも再び飛び立たんとした鳥たちへ視線を向けた。
 無数の魔弾が放たれ、炸裂の度に鮮やかな閃光を瞬いていく。
 神聖なる閃光の輝きに撃ち抜かれた魔物達が、痺れを起こして崩れ落ちた。
「もうこの辺りにはいないみたいだ。焔さん、フォシーユの方へ行こう!」
 そう声を掛ければ、焔の方も頷いて2人は走り出す。

「あと2匹……」
 ウィリアムは魔力を循環させて魔方陣を構築する。
 それは鮮やかな輝きを放ち、咲耶へと術式補助を開始する。
 続け、魔力を愛杖に束ねていく。
「締め上げるよ」
 稲妻を束ね、連ねて2匹の猛禽類へと走らせる。
 放たれた稲妻は蛇行しながら飛んで、猛禽類を締め上げる。
「後は任せるでござる。霊樹の生霊よ、鎮まり給え。お主等の怒りは拙者等が受けよう!」
 それを受けた咲耶は絡繰手甲から苦無を出すと同時、一気に跳躍。
 片方へと飛び掛かるとともに斬撃を撃ち込む。
 縫い付ける外し三光を以って一匹目を殺し、着地と同時、その苦無を射出。
 飛翔した苦無は鳥の首を貫いた。

 猛禽類が羽ばたき、ベネディクトめがけて急速降下を開始する。
 さながら弾丸のように突っ込んできたそれに対応するように、槍を構えた。
 胸元への突撃を持ち前の防御技術で撃ち返すと同時、槍を振るって斬撃を撃ち込む。
 美しき軌跡を描く攻勢防御はその魔物を一突きで撃ち落とす。
 そのまま、身体をぐるりと回転させ、勢いよく回れば、背中にいた1匹を斬り伏せた。
 更に殺到する魔物へとラフィーネの水弾が撃ち込まれていく。
「これでおしまいだよ!」
 そこへ再び瑞希が飛び掛かり、己の爪を闘志でもって強化し、周囲の猛禽類を連続で撃ち抜いていく。
 苛烈に、鮮やかに撃ち込む爪の乱打が猛禽類を撃ち落とせば、空を舞う猛禽類の数は残り僅かといったところか。
 竜骨の翼が魔力を帯び、体勢を取り直すと、その場で残った鳥へ尻尾を走らせる。
 弧を描き放たれた尻尾の先が、鳥を貫いて、その勢いのまま次も貫いた頃、瑞希は地上へ戻った。


 そこへたどり着いたのはキルシェだ。
「おまたせしました!」
 到着と同時にキルシェは聖歌を歌う。
 静かに美しき音色で奏でられる歌声がところで、キルシェは魔術を続ける。
 杖を立てるようにして持ち、魔力を充実させれば、祈りが雨となって降り注ぐ。
 あらゆる傷を癒す雨は触れても濡れることはない。


 ドラマは自らの周囲を漂う魔力に触れた。
 実戦訓練で味わった己が師匠の力、その剣捌きに耐えられる身体を魔力を以って構築。
 静かに呼吸を整え、視線を合わせた。
 鞘に納めた小蒼剣に手を取って、鞘の内側に充実した魔力を刀身の修復からより攻撃的に組み替えていく。
 放たれた蒼き閃光が一帯の景色を蒼く染め上げた。
「ルカさん、頼りにしてるよ!」
 スティアはセラフィムの出力を上げた。
 淡く輝く魔力の羽根が、ふわり、ふわりと舞い散っては空気に溶けてほぐれていく。
 咲き乱れる花のように、充実した魔力を力に変える。
 福音は合流したばかりのルカへと降り注がれる。
 天使の祝福のようにも見える美しき幻想に導かれ、浮かぶ傷が癒えていく。
「安心して眠りな。この森を害す奴らは全員俺がぶっ飛ばしてやる。
 なにせ俺は深緑とは盟友のラサの男だ。ダチにこれ以上なめた真似はさせねえよ」
 黒犬を構えなおして、ルカはフォシーユに向けて告げた。
 睨むようにスティアを見るフォシーユの懐へと一気に跳び込んだ。
 肉薄するのと同時に斬り結ぶ斬撃は三連撃。
 全霊を以って撃ち込まれた斬撃の軌跡は黒く景色を塗りつぶし、鮮やかに生える。
 最後の一振りの勢いを利用し、そのまま再びの三連撃を叩きつけた。
 怯んだように叫んだフォシーユが身体を起こす――その時だった。
 戦場を劈き、スティアの、ルカの頭上を駆け抜けたのは、黒き流星。
 狼の遠吠えのような音を立て、フォシーユへと叩きつけられたそれが、黒き戦意を失い姿を露わにする。
 それはベネディクトが投擲した黒狼の咆哮。
「済まない、遅れたな。此処からは俺も参戦するぞ」
 突き立つ金色の槍を引き抜いて、ベネディクトは間合いを整える。
 傷を受けたフォシーユが大きく身体を揺らす。
「竜の毒は、とっても強いから。耐性がなかったら、抗えないよ!」
 続けて跳び込んでいくのは瑞希の姿。
 竜骨に竜の毒をしみ込ませた物を射出する。
 放たれた竜の毒は真っすぐにフォシーユの身体へと叩きつけられ、その身に致死毒を染み込ませていく。
 苦しむフォシーユが空へ吼えた。
「ルカお兄さんも、スティアお姉さんも、傷が……!」
 同じく追いついたキルシェは、それまでの抑えであったスティアと、先にスティアとドラマに合流していたルカを見て、そちらに走り寄る。
「任せて! ルシェもお手伝いします!」
 聖歌と福音の合わせ技。
 ここが戦場であることを忘れさせる美しき福音の一時が2人の傷を瞬く間に癒していく。
 そこへ、赤い影が走った。スティアを、キルシェを越えて、影は真っすぐにフォシーユの懐へ。
 それは神々の加護に彩られた深い緋色の影。
「間に合ったみたいだね!」
 焔はカグツチ天火を構えるや、身体を低くして一気に跳躍。
 それは宛ら赤い竜が天に昇るような軌跡を描き、大きく揺れるフォシーユの核部分へと炸裂する。
 強かに撃ち込むと同時、一般的に石突きと言われるであろう部分で地面へ叩き跳ねるようにしてもう一度刺突を撃ち込んだ。
 流れる連撃にフォシーユが崩れる。
「――魔光閃熱波!!」
 複数の魔弾を一つに束ね、生み出すは極大の魔弾。
 流れるような動きでマルクはそれを生み出すや、焔に続けて射出――否、投擲する。
 放物線を描いて打ち出された魔力塊は、回転を描いて熱を帯び、落下する隕石の如くフォシーユへ注がれた。
 それはまさに破壊的なまでの砲弾。
 苛烈なる砲弾が炸裂と同時に眩く輝き、フォシーユの身体を締め上げていく。
 その大きな隙に飛び込むように、ふらりとフォシーユの前に立ったのはウィリアムである。
 愛杖の切っ先、宝玉へと魔力を集束させ、極限まで圧縮を繰り返していく。
「行くよ――フルルーンブラスター」
 踏み込むと同時、真っすぐに突き出した杖の宝玉でフォシーユの核を軽く叩き、圧縮していた魔力を解放する。
 刹那、爆発と言って過言ではない魔力の塊が、核を撃った。
 ドン、という空気が破裂する音がして、無音が辺りを包んだ。
 やや遅れて衝撃波と爆風がウィリアムを、フォシーユを煽り、壮絶なる破壊の魔力がフォシーユをその身体の芯まで撃ち抜く。
「その似姿、豊穣にて伝え聞く鎌鼬の如し。とはいえ傷に塗る薬はなさそうでござるな」
 続けて咲耶が跳び込んだ。
 そのまま絡繰手甲から飛び出した苦無を以って切り開く。
 縫い付ける刃がフォシーユの身体を切り裂くのと同時、絡繰が動き、その手に短刀が光る。
 流れるように撃ち抜く斬撃は変幻の太刀。
 首を追い、フォシーユの核を抉らんと襲い掛かっていく。


 戦いは順調に進んでいた。
 フォシーユは途中から高度な戦闘行動をとらなくなったものの、基本的な鎌での斬撃を繰り出してくる。
 キラリと刃先が陽光を反射して白い流星を描く。
 それに合わせるように、ベネディクトは動く。
「悪いが、このまま放置と言うわけには行かん」
 その言葉と同時、金色の穂先が伸びる。
 鎌が肩口を切り裂くが、それを物ともせず、槍を払う。
 しなりながら進んだ槍が強かに核を貫く。
 ウィリアムがトン、と杖の先端を地面へと触れれば、反撃に打って出たベネディクトの受けた切り傷が瞬く間に癒えた。
 聖歌の音色は穏やかながらも元気を取り戻させる不思議な魅力があった。
 それを見届けるや、ウィリアムは一気に踏み込んでいく。
 再び充足させた魔力を、核へと叩きつけると同時、再び爆発が戦場を包み込んだ。
 旋律の高魔力砲撃に、フォシーユが揺れる。
「その怒り、正当なものなれど向ける相手はここに非ず。その無念、拙者達が必ずや晴らしてみせよう!」
 全霊を込めた落首山茶花を見舞った後、咲耶はそう告げるとともに、音も無く着地する。
 それは闇に生きる忍びの心得、変幻自在の一太刀。
 滑るように走り出した太刀筋がフォシーユの身体に刻み込まれうめき声を上げる。
 慈悲の無き日陰者の太刀筋は容赦なく切り刻んでいく。
 それに続けて動いたのが瑞希である。
「ここからは手数で勝負だよ!」
 走り込んだままに、核の方へ飛び込んで、自慢の爪をもって切り刻んでいく。
 闘志の籠った爪の斬撃はあまりにも圧が強い。
 それはさながら残像さえも質量が乗った、怒涛の如き連続攻撃である。
 炸裂する連撃は2度目を迎え、残像の数はあまたに増えた。
 それが終わりを迎える頃、瑞希は着地する。
 マルクはそれらを見つめながら、掌に浮かべた魔方陣に再び魔力を集めていく。
 よく見れば、フォシーユの胸元辺りに相当する部分の核は、既に罅がいっている。
「これで――決める」
 手を天へ翳す。魔方陣より生み出された極大の魔力。
 激しいスパークを立てながら、分裂と集束、膨張と圧縮を繰り返し、それを文字通り振り下ろした。
 隕石の如き質量を持った魔力の塊は、ゆっくりと、それでいて決して逃がすべくもない迫力を以ってフォシーユを包み込む。
 その奥側で断末魔が響き渡り、フォシーユの身体が溶けて消えていった。


 フォシーユの消滅により、ひとまずは脅威を退けたイレギュラーズは、集落の調査を始めていた。
「うーん、特に水が汚れてたりもしないし、これと言って不自然なところはないね……」
 集落の様子は茨や人々の眠りという共通事項を除き、ざっと見た限りの違和感はない。
「茨と大樹の嘆きの発生は何か因果関係があったりするのかな?
 何かを守ろうとしているような気はするんだけど」
 スティアは首をかしげるばかりだ。
「そうですね、大樹の嘆きが霊樹の防衛機構である以上、そうであるのは間違いないはずですが」
 首を傾げるスティアに頷いたのはドラマだ。
 通常の視界に加え、広域を俯瞰するように空からの視野も確保すれば、この集落の様子が手に取るようにわかる。
 外で眠らされている同胞たちの近くにある茨を払っておきながら、精霊たちへ声をかける。
「ふむ……見慣れない幻想種、ですか」
 何度か精霊からその言葉を聞いている。
 なんでも、見慣れぬ2人組の幻想種が姿を現し、霊樹フォシーユへ攻撃を加えたのだとか。
 ドラマやウィリアム同様の話を聞けたのは何も精霊からだけではない。
 咲耶と瑞希は霊魂との意思疎通を試みていた。
 結果として得られたのは、見られない2人組の幻想種と、その2人が白百合を巻いて行方をくらましたことだけだった。
 瑞希は続けて集落が眠りについた原因を問うてみたものの、そちらの方は返答を貰えなかった。

「ここがエルリアの研究室か。すげえな……露骨なもんだ」
 ルカはログハウスを見上げてそう言った。
 幾重にも茨で包まれたログハウスは、まるで封印でもされているかのように思われた。
「よし、お前らは下がってろ――」
 仲間に下がってもらうと、ルカは闘志を溢れださせ、黒犬を振るった。
 普段であれば片手で振るう黒犬のレプリカ――それを両手で握りしめ、全霊を以って斬り伏せた。
 闘気が雷光となり、爆ぜた斬撃が多重に覆いつくした茨を斬り伏せ、出入口を露わにする。
「これで――」
 そのまま、片手で扉を握り締め、力づくで押し開く。
 開いた扉の向こう側、そこは静まり返っている。
 しかしすぐに茨が開いた場所を覆いつくさんと伸びていく。
 ルカはそれも斬り伏せながら、仲間達へ声をかけた。
「俺にここは任せて中を調べてくれ!」
 頷いて焔とキルシェが、続けてマルクが中へ入っていく。
「誰か、返事をして」
 室内の灯りを照らしながら焔が問えども、当然のように返答はない。
 よく見ればリビング相当の空間では2人の幻想種がいる。
 近づき見れば、眠っているようだった。
「お弟子さんかな? やっぱり眠ってるみたいだね……」
 ひとまずはほっと一息ついて、2人に毛布を掛けた後、焔は周囲を見た。
「荒らされたり盗まれてそうなところとかないかな?」
 外の様子を見るに、相当に意図的に封鎖していた。
 もし何かあればと、そういうわけだ。
 マルクの方は部屋の奥の方へ歩いていた。
 目指すのは事前にエルリアから聞いておいた実験室だ。
(人と植物の共存共栄、茨の効果に似た『眠り花』。
 彼女の研究には、現状に対応する手がかりがあるかもしれない)
 思考する。かつて彼女が――正確に言うならば、彼女の中にあるもう一つの人格がその効果を増大させた睡眠作用のある花。
 その効果はたしかに茨に似ている。
 とはいえ、茨の本質が植物の類ではないようにも思える情報が寄せられている以上、その2つは必ずしも重なるものではないのかもしれない。
(それらが似て非なる物だとしても、彼女の研究は何かの手掛かりになるかもしれない)
 実験室の扉を開け――マルクは思わず息を飲んだ。
「これは」
 実験室にある引き出しと言う引き出しは開け放たれ、研究成果であろうものの多くはそこには存在していない。
「そんな……ひどすぎるよ……!」
 遅れて入ってきた焔もその光景を見るや目を見開いた。
「……ひとまず、残ってる物だけでも回収しよう」
 マルクが言うのに焔は頷くだけだ。
「……でも、ここまで徹底的にやるってことは、相手は実権をされたくないってことのはず」
「じゃあ、何もなくなってる場所の実験内容が分かれば……」
「うん……盗まれて、壊された実験そのものが僕達にとってのヒントだ」
「何が壊されてるのか、盗まれてるのか、あとでエルリアちゃんに聞いてみよう!」
 マルクが言えば、焔も強く頷いた。
「フォシーユを倒すことで人々が目覚めれば良かったんだが……そう上手くもいかんか」
 撃退に成功したあと、そのまま空気に消えるように消滅したフォシーユの事を思い出しながら、ベネディクトは町を見守るようにして立つ霊樹のところまで来ていた。
「ラフィーネ、君の言っていた敵とやらの情報は何か掴めそうか?」
 振り返り、問いかけてみれば、ラフィーネの方は静かに霊樹を見上げている。
「ラフィーネ?」
「……あぁ、ごめんなさい、少しぼう、っとしてたわ。
 えぇっと、なんだっけ? 私が追ってる敵の話だったかしら?」
「あぁ、この際だ。ついでにどういった相手を追っているのかも教えてもらえるとありがたいんだが。
 その方が俺も何か君に渡せるときもあるかもしれないからな」
「あれ? 言ってなかったっけ? あーそっか、そういえば言ってないっけ。
 追ってるものはいくつかあるけど、今回のは多分、君達にとっての大物が関わってるんじゃないかしら?」
 そう言って静かに目を伏せ、霊樹へ弔うように手を合わせ、少しばかり黙祷をささげてから改めてベネディクトの方を向いた。
「この茨はずいぶんと大仰な……植物じゃなさそうだし、国ひとつを丸呑みなんてとんでもない。
 私が追ってるやつらは逆にここまでの事は難しいわ。とはいえ、国がピンチだし、当分は君達と一緒に行動したいわ」
「そうか。助かるよ」
 少しばかり肩をすくめて告げたラフィーネにベネディクトは笑って、その後は自分も霊樹に黙祷を捧げる。

 キルシェは戦いが終わった後、ログハウスに行く面々についていった。
 大樹の嘆きについて知りたかったものの、その辺りのことは専門外なのか見た限り分からなかった。
 ただ、他の人やROOなるこの世界と瓜二つの場所では、霊樹の持つ防衛機構のような存在であるという。
 難しいことはよくわからないが、要するに霊樹が危険になった時――ひいては深緑と言う国が危険になった時に生み出される存在であるのだという。
 この先戦わないようにする方法は手っ取り早いものが1つある。
 それは根本的な解決にならないが――要は大樹の嘆きが生まれる原因を断つのがいいのだと。
 それだけ聞いて、キルシェは集落のやや奥に存在する霊樹の下へ足を運んでいた。
 そこには何らかの外的要因を受け、大きく傷ついた大樹が一本、静かにたたずんでいた。
「この傷、普通じゃ有り得ない……ねえ、大樹さん。何があったのか教えて?」
 キルシェは霊樹へと幻想福音と共にギフトで作り出した聖水をかけてやる。
 そのまま植物会話を試みれば、物を言わぬはずの霊樹から何かが伝わってくる。
「……百合と蛇? それって、もしかして……ノエルお兄さんがいたの?」
 そう言われてみれば、静かにたたずむ霊樹の枝は、蛇に巻き付かれて潰されたように。
 その根元は蛇に食いつかれたように見えなくもない。
「あと1人、別の人がいたの? ……もしかして、それって」
 キルシェは顔を上げた。
「もしかして、ノエルお兄さんが言っていた……師匠って人……?」
 ぽつりと呟く。それはノエルが度々口にしていた正体不明の人物だ。
(……だとしたら、ノエルお兄さんは、その人に言われてここに?)

 スティアは依頼人の1人であるユニスと一緒に彼女の両親がいる家に訪れていた。
「鑑賞用の花がある……けど、あれ?」
 その白百合に近づいて、スティアは首を傾げた。
「この花、会話ができない……?」
 しんと静まり返ったそれは、確かに花であるはずなのに、まるで不自然に静まり返っている。
 それは――そう、茨と同じように、『形状が花であるというだけ』のように思えた。
「スティアさん、それに触れちゃだめだよ」
 ウィリアムは不思議そうに白百合に近づいたスティアを制止する。
「……でも、どうしてこれがここに?」
 ウィリアムはこの花を知っている。
 その花に触れれば、それが黒く変色して爆ぜることも。
(やっぱり、この花、ノエルがいた場所に生えていた物だね)
 それがどうして、こんな場所にあるのか。
「ユニスにこれ以上関わってほしくない、不幸な目になってほしくない……」
 以前にイレギュラーズとノエルが戦った際、彼がそう言っていたことを何となく思い出す。
(……まさか、そういうこと?)
 彼の言葉は、どうしてか確信めいていた。
 何より、不幸な目に『なってほしくない』というのは、不思議な表現ではないか。
 『遭う』ではなく、『為る』というのは、まるで。
「ユニスが知らない、知ったらが最後、不幸になることがある……とか?」
 それは推測の域を出ない何となくそう思っただけのことだった。

成否

成功

MVP

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女

状態異常

なし

あとがき

大変お待たせしました、イレギュラーズ。

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