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シナリオ詳細

<咎の鉄条>冬尽きぬ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 練達で発生していたR.O.Oの一件、そしてジャバーウォックたちの襲撃。これらを凌いだイレギュラーズたちに、しかし未だ平和を享受する暇はなく。ラサの商人達からもたらされたのは『ファルカウ全土が茨に覆われ、入ることができない』という一報であった。
 これは一般人のみならず、イレギュラーズもまた然り。空中庭園からのワープ機能も閉ざされ、内部にいるリュミエたちとも連絡の取れない状況が続いている。故に、偶然ながら茨を逃れた迷宮森林警備隊長ルドラ・ヘスはローレットへと依頼を持ち込んだ。

 ――深緑の同胞を助けて欲しい、と。

「これは……まるで、檻のようですね」
「雪雫、気を付けて。近づきすぎると攻撃されるらしい」
 進むことを禁じるように張り巡らされた茨に冬月 雪雫は素直な感嘆を漏らし、『Blue Rose』シャルル(p3n000032)は辺りを見回しながら警告する。雪雫は頷くとシャルルと同様に、しかしその瞳は敵意を持つ何かではなく、手掛かりになりそうなものを探す。
 深緑でも国境近い場所を2人は進んでいたが、進めど見えるのは茨ばかり。少なくとも内部へ入れるような道は見つかっていない。時折、遠目にモンスターを見つけたシャルルが雪雫を手招きして会敵を避ける。
「ありがとうございます」
「……、役目だからね」
 ほっと息をつく雪雫にシャルルは虚を突かれたような顔をして――まるで、礼を言われるだなんて思っていなかったと言いたげに――小さく笑みをこぼす。
 彼女、雪雫はイレギュラーズであるが、戦いを苦手とし情報屋の道へ進んだ。しかし深緑の現状を鑑みて、護衛にシャルルが付くこととなったのである。そうしてでも雪雫が調査に来たのは力になりたいという彼女の想いと、調査慣れした土地であるという事実があったからだった。
「今のとこ、どう?」
「……最初は、茨が檻のように見えました。でもこうして歩いていると、閉じ込めるのとも少し違うような気がして」
 ファルカウの外と中で断絶されている状況なのは間違いない。しかし近づくと攻撃してくるということは、内部に進もうとするモノを退けているのではないかというのが雪雫の見解だった。
(それは、まるで……)
 シャルルの思考がほんの少し前、R.O.Oでの出来事に沈みそうになったその時である。
「――寒い?」
「本当……この辺りだけ気温が下がったように感じます」
 2人はぞわりとした冷気に顔を見合わせる。確かに冬ではあるが、このあたりだけ特に寒いというのも変な話だ。
「雪雫、前からこの辺りってこういう気候?」
「いいえ」
 首を振る彼女に、シャルルはより注意深く視線を移した。何が出てきてもおかしくない、そんな風に思いながら。
「……あれ、何だろう。氷かな」
「もう少し近づけますか?」
 ふと目に留まったものを呟けば、雪雫も目を凝らす。シャルルは周囲の安全を確かめて小さく頷いた。
 少し歩けばそれは確かに氷であると判別がつく。だがしかし――木の表面が凍っているとは、これいかに。
 それだけではない。近づいたことで周囲一面、冬に咲く花や草むら、地面でさえも凍っていることに気付く。雪雫は凍った茨の一部に目を丸くした。
 一方でシャルルはモンスターの姿を認め、雪雫の服の裾を引き手振りで戻る道を示す。2人は黙々とその場を離れ、空気が元の気温に戻った頃ようやく息を吐きだした。
「寒かった……」
「戻りましょうか。暖まらないと、かじかんでしまって」
 腕を擦るシャルルに雪雫も指先へ息を吹きかける。これ以上の調査は控えた方がいいだろう。
 とはいえ。
「……あそこさあ」
「はい」
 詳しく調べたいよね、と。
 2人は頷き合うとイレギュラーズへ事の次第を報告するため、また暖かい場所を求めて、ローレットへ戻るのだった。

GMコメント

●成功条件
 モンスターの全討伐

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。

●フィールド
 深緑の迷宮森林。その中でも国境付近に当たる場所です。
 その周辺だけ不思議と全てが凍っており、より気温が下がっています。足元が滑ったり手元が狂ったりしやすいです。
 少し離れた場所には茨がありますが、一部が凍っています。しかし、近づこうとすれば攻撃してきますので、離れておくのが無難でしょう。

●エネミー
・ホワイトイエティ×3
 大柄で毛むくじゃらな巨人。その体毛は真っ白です。人語は解しません。大きな棍棒を持っていますが、なくなったらそこらの木でも引っこ抜いて振り回すかもしれません。
 非常に強靭な肉体と、並外れた腕力を持ちます。また、氷の床にある程度の耐性があるようです。
 多少大雑把な所がありますが、その分範囲攻撃となるため、そこらの大木もまとめてなぎ倒します。二次災害に注意が必要です。
 また、攻撃の際に冷気を操ることもあります。しかし周囲を凍り付かせたものとは別のようです。

旋回:持っている棍棒を思いきり振り回します。【防無】【封殺30】
地震:その場で大きくジャンプすることで、小規模な地震を引き起こします。【ブレイク】【体勢不利】【足止】
吹雪:冷気を操り、吹きすさぶ雪を発生させます。【スプラッシュ3】【氷漬】【ショック】

●NPC
『Blue Rose』シャルル(p3n000032)
 旅人の少女。神秘系アタッカーで、そこそこ戦えます。
 この辺りだけ寒い事を不思議がっているようです。

●ご挨拶
 愁と申します。
 戦いが無事に終わったら、多少調査してみるのもいいかもしれませんね。
 それでは、よろしくお願い致します。

  • <咎の鉄条>冬尽きぬ完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月15日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
優しき咆哮
シラス(p3p004421)
超える者
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
クロエ・ブランシェット(p3p008486)
奉唱のウィスプ
クルル・クラッセン(p3p009235)
森ガール
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者

リプレイ


 冬から春へ。季節の移り替わろうというこの時期に、その一角だけは酷く冷たい。尽きぬ冬がそこへ座しているかのようであった。
(迷宮森林に……深緑に、何が起きているの……?)
 防寒具を身に纏った『森ガール』クルル・クラッセン(p3p009235)は尋常でない森の様子に眉を寄せる。茨もそうだが、果たしてこの真冬のような状態はこの一角だけなのだろうか。茨の内側は、そこに居るだろう仲間や友人は無事なのか。
(ううん、まずは怪物たちをやっつけなくちゃ。踏み出さないと、進めない)
 戸惑い、嘆くことは誰でもできる。けれどそれでは助けることなんてできないから。クルルは滑らないように靴へ縄を撒きつけ、凍り始めた地面を進む。手袋越しでも愛用の弓は手になじむようだ。
「寒いぜ」
 畜生、と思わず悪態をついてしまう。けれど『竜剣』シラス(p3p004421)の言葉に『炎の剣』朱華(p3p010458)は大きく頷いた。
「全くだわ。朱華以外にもそう思う人がいて安心よ」
 まだ終わりと言えど冬だから、なんてレベルじゃあない。真冬もかくやという寒さに朱華は震える。こんな場所まで敵を倒してでも調査するだなんて、イレギュラーズの仕事は過酷である。とはいえそこへ確りついてきているのだ、彼女もイレギュラーズとしての根性がある。
 敢えて言うなら『皆寒くて仕方が無いけど何も言わない』のだ。だって仕事だし。そうでなければ進んで訪れたいと思う者は少ないだろう。
「早いところ退治して、調査しよう」
「ええ、そうしましょう。さっさと終わらせて暖かい所へ戻るのよ」
 そうだそうだと頷き合うシラスと朱華。その前方を行く『茨姫と感情舞曲を』クロエ・ブランシェット(p3p008486)はちらりと遠方に見えた茨へ視線を向けた。
「近づくと危ないから、気をつけて」
「はい。……とはいえ、イエティたちがどうして陣取っているのでしょうね」
 『Blue Rose』シャルル(p3n000032)の言葉に首肯して、疑問を零す。茨はイエティたちを阻むために動いたのだろうか。
「謎はまだまだ多いね」
「ああ。だが、持ち帰ってくれた情報とこの冷気……」
 『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)も考え込む傍ら、『黒鋼二刀』クロバ・フユツキ(p3p000145)は何か思い当たる節があるようであったが緩く首を振る。調査できるようにならないと、まだ予想の域を出ないのだから。
「異常事態は、落ち着いて順番に紐解いていく事が大切だって、私達イレギュラーズは学んできたのだわ」
 頑張りましょうね、と『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)は気合を入れる。領地を心配する者、内部の同胞を気にする者、この状況を作り出した相手を考える者――イレギュラーズとて思考の内はそれぞれだが、その目的は同じだ。ならばきっと辿り着くことができるだろう。
「あれですか? 大きいと遠くからでもわかりやすいですね」
「うん、そう。もう少しだ」
 『不屈の障壁』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)が木々の間からちらりと見えた何かを指せば、シャルルはそちらを見て頷いた。滑らないよう気をつけながら進んでいけば、周囲はより氷一色の世界へと変わっていく。イエティのいる場所が最も周囲の凍り付いた、寒い場所となるだろう。
「まだ気づいてないのだわ」
「一気に畳みかけるか」
 木々の陰に隠れて様子を見てみれば、イエティたちは呑気なもので。のっしのっしとその辺りをうろついてみたり、体がなまるのか棍棒の素振りなどをしているようだ。
「いくか」
「うん。それじゃ、なるべく早く応援に来てね? 私たちが倒しちゃう前にっ!」
 クロバの言葉に弓を携えたクルルが、いの一番飛び出していく。数本の矢を番えた彼女は狙いを定め、内の1体へ牽制射撃を撃ち込んだ。次いで飛び出したクロバの魔眼が濃い色を帯び、鋭い一閃を飛ばす。イエティはぐるんと勢いよく2人の方を向くと、ものすごい勢いで突進を始めた。
「おわっ!?」
「クロバちゃん!」
 クルルの視界に転がったクロバが映る。間一髪横へと避けたようだ。イエティはそのまま巨木へぶち当たり、メリメリと嫌な音を響かせる。近くに隠れていたベークが思わずギョッとした。
「下敷きにされたら内臓出ちゃいますね」
「餡が出るのかい?」
「いや内臓ですが??」
 香ばしい匂いを嗅いだシキへ反射的に否定しながら、ベークはもう1体のイエティへと近づく。その甘い香りに気付いたか、ベークへその意識が向けられたようだ。
「僕を食べてもお腹はふくれないと思いますよ?」
 だから、どうか。その毛むくじゃらの下でニタァって笑わないで欲しい。どう考えても食べようとしているじゃないか!
「あとはあの1体ですね」
 低空飛行したクロエが勇壮のマーチを奏で、妖精たちをけしかける。瑞稀もまた宙へ浮かぶとその柔らかな声で優しく歌い始めた。頑張る仲間たちの背中をそっと、優しく押すように。それは天使の加護の如く周囲の仲間へ力を与える。
「さあ、行くのだわ! 恋する乙女の歌は強いのだわよ!」
 優しい歌声から一転、時に苛烈な恋の歌は力をみなぎらせる。それらの加護を受けながら、シラスは踏み込んだ勢いに全体重を乗せてイエティへ拳を叩き込んだ。氷で滑るのならば、それさえも勢いに乗せてしまえば良い。そこからさらにシラスは動き出す。
「まだだ」
 どんな体勢からだって技を放てるよう研鑽を積んできた。まだ極めるには道半ばであれども、叩きつけられる攻撃は軽くない。
「朱華もやるんだから! 出し惜しみはなしよ!」
 寒い、と口から飛び出しそうな言葉を呑み込んで、朱華は炎の剣を振るう。いつまでも愚痴っていたって始めない事には終わらない。できうる限りの防寒はしてきたのだから、あとは戦ってなるべく早く勝利をもぎ取るのみ!
 後に続くシキも瑞刀を構え、死の大鎌の如く斬撃の軌跡を残す。過酷な地で生を受け、育った彼女にはこの程度の寒さなど大した障害ではない。
(お師匠の役に立ちたい。そのためにはまず、深緑へ入れるようにするんだ!)
 彼(クロバ)がそれを望むのならば、シキはどこまでだってついて行こう。彼の目指し、至る場所へ向かいたいから。
 処刑剣とは異なれど、揺らがぬ刀身で狙うはただ1箇所――その首のみ。

(やっぱり、あいつは持ってるな)
 その戦いを見ながらも、クロバはイモータリティで自身の傷を癒す。勝手にお師匠と呼び始めた彼女だが、こそばゆくあれど悪い気はしない。磨けば光るだろうその才能はこれからが楽しみでもあり、あっという間に抜かされてしまいそうで焦りもする。
「クロバちゃん、倒木注意!」
 クルルの言葉にその場を跳躍すれば、いましがた木へ激突したイエティの目の前でバリバリバリ! と木が折れる。そこまで細い幹でもなかったはずだが、末恐ろしい。しかし彼らを支える癒し手たちが倒れさせるものかと奮闘する。
「今、回復しますね」
 クロエが酷くならないうちに、と天使の歌で2人の傷を癒し、瑞稀の呪縛がイエティを捉える。嫉妬の茨が食い込む様に、瑞稀は内心自嘲の笑みを浮かべた。
(こうして自分の心を利用できるのは……私も少しは大人になれているのかしら……)
 ――それならば、もう前を向かせてくれたって良いのに。
 けれどそうならないのは、きっと目の前にいる仲間たちが自分よりずっと輝いているから。羨ましい羨ましい羨ましい。どうして私はそうじゃないの?
 イエティがぶんと腕をぶんまわし、シキの体が吹き飛ばされる。シャルルがはっとその先を見やれば、彼女は木へ激突する寸前で空へと舞い上がり、体勢を立て直した。
「大丈夫?」
「いけるよ! かなり筋肉質みたいだね」
 それならばより急所を狙わなければ。シキは瑞刀を構え、一気に急降下する。そこへ朱華とシャルルは攻撃を合わせ、イエティの逃げる余裕を削っていった。
「うわっ」
「地震!?」
 地に足をついている者はその体を揺らし、時に足元をすくわれる。ベークの引き付けているイエティからだ。まだ同じものが2体待っていると考えれば、おちおち1体ばかりに構ってはいられない。
「でも、あと少しだ……!」
 シラスはより滑らぬようにと踏ん張り、確実に立ち上がる。そこへイエティが立ち向かってくるが、近づいて来るなら願ったり叶ったりだ。
(刺し違えてでも――!)
 何があっても倒すという意志。その想いがシラスの拳へ力を与え、かの敵を打ち負かす力となる。
「……あっち、終わったみたいだね!」
 ヤドリギの矢を放ったクルルは間に合ったねと呟いた。その攻撃力は細腕から放たれる矢とは思えないほどであったが、イエティもその巨体で散々翻弄してくれた。ベークは自前の驚異的な回復力で耐え凌いでいるようだだが。
「クルルだって随分足止めしてくれただろう。助かったぞ」
「ふふ、それは何より!」
「お師匠ー! バトンタッチだよ!」
 にっと笑い合うクロバ達へシキが声を上げながら突っ込んでくる。彼女の挑発に標的を変えたイエティは棍棒を思いきり振り下ろした。シキがそれを耐え忍ぶ間、仲間たちが猛攻を繰り出す。
(ひたすら耐えることだけ考えるんだ……!)
 格好良い守り方なんてシキにはまだわからない。その様はひどく不格好かもしれないけれど、身の内に秘めた守る願いは、誰にだって負けないと思っているから。
 不意に厳しい冷気が辺りを取り巻く。頬へ叩きつけるのは雪だ。吹雪を耐え、その止み間にシラスは基本の――防御する間もないほどの洗練された――突き技を繰り出す。朱華もまたガチガチに震えながら一閃を繰り出した。すぐさまクロエが動き出し、クェーサーアナライズで味方の不調を和らげる。
「もうあとは畳み込める! 行くぞ!」
 クロバの集中斬撃が荒れ狂う雷のようにイエティを襲う。ベークの抑えるイエティへ辿り着くまでもう長くはないだろう。
「大丈夫……微かな追い風は、私達を後押ししてくれているのだわ」
 言葉は言霊に、歌は魔力を帯びて痛みを掻き消す。瑞兆の一閃を放ったシキは、それを受けてにっと笑った。
 そう、大丈夫。どんなことがあったってへこたれない。負けてなんてなるものか!

(あちらもやっと終わりそう、ですかね)
 ベークは攻撃を受けつつも、その驚異的な回復力でしのぎ続ける。もっとも、それが追い付かないのだから相当な腕力で殴られているのだが。
 修復プロトコル再起動。夜の加護を自身につけ、もはや動かずに反撃ダメージでやりかえす。耐久戦は得意分野だが、この状況の何がつらいかって寒さである。
 滑ってしまわぬようにと立ち止まったはいいものの、動かなければ末端から冷えていく。あと結局殴られたりして多少の重心移動があるのは仕方ないか。
 そんな状況で戦っていたので、やはり加勢がくるとほっとする。顔色の悪いベークへクロエは天使の歌をかけた。クロバが先ほどまでと同じように握っていた片方の刀を地面へ刺し、それを視点にしながら攻撃を繰り出す。
「待たせたなベーク!」
「あとで暖かいもの食べさせてあげるのだわよ!」
「お願いします……」
 瑞稀の言葉が身に染みる。そこまでに冷凍鯛焼きと化していないことを願うばかりだ。
 シラスの拳がイエティへめり込み、朱華の黒顎魔王が被りつかんと顎を開ける。しかし棍棒を振りかぶったイエティは止まるところを知らない。
「ベークちゃん、まだいける?」
「いけるもなにも、やってやりますよ」
 クルルはその言葉に視線を移し、イエティへ接近して近接射撃術を見舞う。彼とて力は有限だ。ならばできるのは可能な限りイエティの動きを阻み、彼の負担を少なくすること。そして一刻も早く倒す事!
「きゃあっ!?」
「ちっ」
 しかしイエティの持つ棍棒が大きくぶん回され、その衝撃で周囲の木々が折れる。朱華は負けられない! と見事な跳躍を見せて倒木から逃れた。
「シキ、いけるな!」
「勿論だよお師匠!」
 クロバが研ぎ澄まされた連撃を浴びせ、シラスの拳や瑞稀の呪縛が、仲間たちの猛攻がイレギュラーズを圧倒していく。自身を起こそうとも空駆ける者はなんのその――シキは大きく飛び上がり、勢いよく降下しながらその首へ狙いを定めた。
「その首、もらい受ける!」
 切れ味の良い瑞刀がすぱんっと首を、命を狩り取る。彼女が着地すると同時に、イエティはその体を地面へ転がらせた。



 イエティが倒れた後も、そうすぐに氷が解けるというわけではない。しかし彼らがいたことで解けなかったのであれば、ここの環境も徐々に春へ近づいていくことだろう。
「は、早く調査して帰りましょう……!」
「帰ったら暖かい料理を振る舞うのだわ。もう少し頑張りましょ」
 朱華は瑞稀の言葉にぱぁっと表情を輝かせる。終わった後のご褒美があるならあとひと踏ん張りだ。
 茨の方を振り返ったクルルにベークは行ってみますか、と誘う。こちらの調査は他の仲間が行うだろうし、何人か茨の調査をしても良いだろう。
「そうだね、行ってみよう」
「まあ、いざとなったら僕が体を張りますよ」
 そもそもベークが試したいのは茨の棘へ触ってみることだ。ダメージ上等、其れで何かが分かるのなら試してみる価値はある。
 結果としては当然ながら、痛かった。しかも近づいたらひとりでにベシベシと叩いてくるのだ。棘による数多のひっかき傷を作りながらもベークは後退する。これ、一般人ならひとたまりもないのではなかろうか。
(茨の声は聞こえるのかな?)
 クルルはこの森の民だ。大自然と意思を交わす事など難しくもない――のだが、茨は硬く口を閉じているかのように黙り込んでしまっている。そこには言葉だけでなく、感情さえも存在しない。
 口を閉ざしているというより、まるで眠ってしまっているかのようだ。
 一方、氷の少ない場所まで歩いたシラスは、氷の端が僅かに溶けだしていることに気付く。ちょうど気温の交じり合う場所だ。ここなら寒さも多少マシである。
(ホワイトイエティがいなくなったから解け始めた、と見て良さそうだ)
 とはいえ、この寒さを引き起こしたのも彼らなのかというと、そこはまだわからない。この状態にモンスターたちが誘われた可能性だってある。
「この辺りは大分気温が戻ってきましたね」
 クロエも同じように歩いてきたようで、温まってきた空気に表情を緩める。とはいえ、まだ温かいと感じるほどの気温でもないが。
「そっちはどうだ?」
「冷たい空気が流れ込む場所を探しましたが、特になさそうです」
 本当にこの場所だけが冷たい空気を帯びていた。環境が変化するためには外部からの干渉がなければならないが、それが自然現象でないのなら第三者の存在を疑うべきか。
「あまり詳しくはありませんが……土地的には『冬の王』でしょうか」
「妖精郷でもそれ絡みのことがあったな」
 怪しむクロエとシラス。そして、クロバもまた凍り付いた茨を見上げながら思う。
 何かのメッセージが残されていたわけではない。けれど胸騒ぎがして、脳裏にあの背中が浮かんでしかたがない。

 ――クオン。アンタが、関わっているのか?

成否

成功

MVP

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
優しき咆哮

状態異常

クロバ・フユツキ(p3p000145)[重傷]
深緑の守護者
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)[重傷]
泳げベーク君

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 無事にイエティ討伐となりました。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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