PandoraPartyProject

シナリオ詳細

共に戦いし者

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●集落のひとつが消えた日
 仲の良い一族だった。些細なことで喧嘩はすれど、決定的なすれ違いなどはなく。にいちゃんと慕ってくれる下の子らの面倒を見たり、生活のために必要なものを作ったり、時には集落の外へ採取に行ったり。至って普通の集落だった。
 けれどその集落は、今はもう存在しない。

(今日は風が強いな)
 集落へ向かっての風がいささか強い日だった。どうしても必要な材料が足らなくなってしまったから、ペイルは率先して採取役を買って出た。集落の外は決して安全な場所ではないし、さりとて作業を止まるわけにもいかなかったから。
 そういった事――ペイルの行動も含めて――は珍しいことでもなく、いつものように集落の皆は見送った。

 出かけるのかい、気をつけてね。
 にーちゃん、帰ってきたらオレたちと遊んでよ。
 風が強いから冷え込むよ、これを持っておいき。

 そんな言葉を受けながら集落を出て、慣れた道を行く。採取する植物も特段難しい場所に群生するわけではなく、ペイルも何度か行ったことがある場所だ。だから道中の危険な場所、そうでない場所はわかっている。
 群生地は決して広い場所ではない。そこから少しずつ、根絶やしにしてしまわないように採取する。そうしていくつかの群生地を回ったペイルは、十分な量が集まった事を確認して袋の口を閉じた。
 ――その時。風が勢いよく渦巻いた。
「なんだ……!?」
 まるで風と風がぶつかり合ったようなうねり。同時に大きな影がペイルの頭上を勢いよく通り過ぎていく。風で目を開けていられず、その姿は定かでなかったが、ペイルは嫌な予感を覚えて駆けだした。
 その影が来た方向は、集落のある方角だった。何も無ければそれでいいと自身に言い聞かせ、今度は風に背中を押されて集落まで戻る。
 けれど。彼の足は、集落の入り口で止まった。亜竜たちから身を隠すための、地下へと続く洞窟は破壊され、一部の天井は落ちて集落へ光を落としている。みんな、とペイルの唇が動いて、それからようやくノロノロと足が動き出した。
 赤、赤、赤。夥しいまでの色が集落を染めている。首の飛んだ子供の身体。食い荒らされたらしい老婆。光を喪った目玉。
「にー、ちゃ?」
 その声にペイルは振り返った。全身を血まみれにした子供が、ぼんやりと片目を開けている。その姿は一目見れば助からないとわかる。
「何があった!? どうして、こんな……いや、」
 喋らなくていい、とペイルは駆けよって子供を抱きしめる。酷く冷たい。鼓動は辛うじて聞こえる程度だ。
 自分がもしも、外に出ていなければ。打ち倒すことはできないかもしれないが、追い返すことはできたかもしれない。そうでなくとも子供の1人くらいは逃がせたかもしれない。
 腕の中の子供が、吐息のようなか細い声でペイルを呼ぶ。顔を覗き込むと、にーちゃんはあったかいねえ、と笑って。

 その鼓動を、止めた。


●時流れ、覇竜領域トライアル
「お前たちがイレギュラーズか」
 その声にヴェルグリーズ(p3p008566)は振り返った。いかにもドラゴニアらしい青年が彼を見据えている。そのひややかな眼差しに、ヴェルグリーズは何かしただろうかと内心首を傾げた。
 が、それはそれとして青年の問いには答えなければなるまい。
「ああ、そうだよ。俺に……というか、イレギュラーズに用があるのかな」
「フリアノンや他の集落で、困りごとを解決していると聞いた。それなりの腕を持つのだとも」
 その腕を見込んで、共に亜竜の討伐をしてほしいのだと彼は言う。ここまで全く表情の変化がなかったので、恐らくこれが彼の常なのだろう。
「詳しく聞かせてもらいたいな。それと、キミの名前も」
 ヴェルグリーズが名を名乗れば、青年――ペイルもまた自身の名を告げる。別の集落出身だそうだが、訳あってフリアノンへ身を寄せているのだということも。その際に見せた表情が気になったが、ヴェルグリーズは先を促した。少なくとも今は初対面の身だ。何か事情があるとしても、教えてはくれないだろう。
「集落で必要になる植物があるんだが、それを食い荒らす亜竜がいる。群れで行動するから、多少の人数が必要だ」
「なるほど。それなら仲間たちを連れてこよう」
 ペイルとの合流地点を決め、ヴェルグリーズは頷く。これも覇竜領域トライアルの一環だ。

GMコメント

●成功条件
 エネミーの討伐

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。

●フィールド
 ごつごつとした岩の多い山岳地帯。見晴らしがよく、亜竜たちにも見つかりやすいです。
 植物のある場所はペイルに聞けば道案内してくれるでしょう。戦闘時に踏み潰さないよう気を付けてください。
 目的のエネミーを討伐後は速やかに集落へ帰還してください。他の危険生物と会敵する可能性があります。

●エネミー
・『暴食の鋼鉄』グーラ・シュテ
 鋼のようなボディを持った、成人男性より二回りほど大きな亜竜。群れのボスです。【飛行】を持ちます。
 ギィギィと古い扉を開け閉めするような、不快な鳴き声を上げます。グーラ・ノワと同じような鳴き声に聞こえますが、グーラ・シュテの場合はその鳴き声で群れを統率すると言われています。
 雑食ですが、グーラ・シュテの場合は肉や植物に限らず、地面や岩でさえも食料とします。非常に頑強な牙を持っています。また、その身は硬い金属で覆われているかのようです。
 グーラ・ノワに比べれば、図体も相まって反応はイマイチですが、それを補って尚余りあるステータスでしょう。群れのボスということはそう言う事なのです。

・グーラ・ノワ×10
 真っ黒なボディを持つ成人男性ほどの大きさをした亜竜。【飛行】を持ちます。
 ギィギィと古い扉を開け閉めするような、不快な鳴き声を上げます。言葉は解しません。
 雑食で、肉が無ければ植物も食べてしまいます。獲物を的確に仕留めるためか、牙や爪が鋭くなっています。また、身軽で反応と機動力に優れます。また、【出血系列】【乱れ系列】のBSが想定されます。
 グーラ・シュテが倒された場合、撤退しようとするでしょう。

●NPC
・ペイル
 ヴェルグリーズさんの関係者。フリアノン周辺にあった集落の出身ですが、訳あってフリアノンに身を寄せています。その訳は今現在、教えてはくれないでしょう。
 そこそこ戦える近接アタッカーです。指示があればそれに従います。亜竜と戦いながら、イレギュラーズの戦い方も観察しているようです。

●ご挨拶
 愁と申します。
 深緑でなにやら起こっているようですが、覇竜領域トライアルも続いています。一緒に戦ってあげましょう。
 それでは、よろしくお願い致します。

  • 共に戦いし者完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月06日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
風花(p3p010364)
双名弓手
玖・瑞希(p3p010409)
深き森の冒険者

リプレイ


 覇竜領域デザストル。この地域は基本的に危険地帯と言って良い。山岳が広がり、空の見える場所では亜竜の眼が餌を探している。集落があるのは数少ない安全地帯だ。
 故に、イレギュラーズがこの地で耐えられるかどうか試すという意味でも『覇竜領域トライアル』と呼ばれることはままあるが――、
(覇竜領域トライアル、などと名がつくと大仰な気がするな)
 『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)は転げ落ちてしまわぬよう、より安全な足場を進む。覇竜領域とイレギュラーズという大きな関係性に、影響を及ぼす者であるという自覚はある。しかし、それ以上に個を大切にしたい、目の前にいる人へ目を向けたいと思うのだ。
「ペイル、この度はよろしく頼む。ともに戦ってくれるのなら心強い」
「オレはイグナート。ヨロシクね! フリアノンの戦士の力見せてもらうよ!」
 足場が落ち着いたあたりでエーレンと『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)はペイルへ頭を下げた。対する相手は目礼で返してきたが、特に言葉を交わすことはない。比較的友好的な者が多い印象だったが、彼はそうでもないのだろうか?
 ともあれ、今回の作戦では共闘者だ。エーレンは彼に戦闘方針を説明する。
(ラサが砂漠で苦労するように、デザストルは亜竜に苦労するのか)
 環境がら、どちらもそう簡単に解決する問題ではないだろうと『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は察する。根本的な解決をするには、並みならぬ努力と幸運を掴むだけの力が必要になるはずだ。
 しかし砂漠と異なり亜竜は生き物だ。ここで討伐しても二度と来ない保証はないが、多少の間は楽になるはずである。
「声を掛けてくれてありがとう。改めてよろしく、ペイル殿」
 頑張らないとねと気合を入れる 『全てを断つ剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)の傍らで『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)がそれにしてもと呟いた。その瞳はいささか、ウットリしている……ような?
「全く、竜とは実に美しい獣だね。貪欲な姿も惚れ惚れしてしまう」
「……お前たちが思うような存在じゃあないさ」
 低く重いペイルの言葉が響く。しかしマルベートはそうかい、と軽くいなした。
「私は同じ捕食者として、敬意を持って相手をさせてもらうだけさ」
 何としても亜竜を倒し、喰らうことで食物連鎖の階を昇ること。それこそがマルベートの望みである。
(あの亜竜相手に、そんなことが言えてしまうなんて)
 ペイルの様子とは対照的に、目を輝かせる『深き森の冒険者』玖・瑞希(p3p010409)。
 集落から出たばかりの瑞希にとって、空を飛び回る亜竜は非常に危険な存在だ。イレギュラーズとしてもまだまだ雛のようなものだから、孤立しないように気をつけなくては。
「亜竜の狙う植物に見分けはつくのかな。少しでも踏み潰さないようにしたいのだけれど」
「あ、オレは他に出会うかもシレナイってキケン生物について聞きたいな」
「……そうだな」
 ヴェルグリーズとイグナートの問いにペイルは少し考える素振りを見せ、植物の特徴や周辺でよく見られる生物をイレギュラーズへ教える。イグナートは広域俯瞰して周辺に敵やその他の亜竜などがいないかなどを確認した。
「ナルホドね。今言われたことを気にしてみるよ。ありがとう!」
「……そうするといい。俺としても死なれては困るからな」
 多少威圧的なところはあるが、戦闘時のコミュニケーションに問題はなさそうだ。
 しかしこのような群れの退治なら、まず集めるべきは集落内の手練れではないのかと風花(p3p010364)は首を傾げる。
(何か事情がありそうですね)
 彼にあるのか、集落にあるのかはわからないが、どのような事情があれど依頼ならばこなせなければならない。イレギュラーズはそういうものなのだからと気合を入れてペイルへ声をかける。
「こちらは最近縄張りにされたのでしょうか?」
「ああ、そうだ。別の場所にあったヤツを食い尽くしたのだと」
 例の植物は他の場所にも群生しているのだが、その1箇所を食い潰して別の場所――今回向かっている場所――へ移ったというのが今回の経緯らしい。
 さて、そろそろ目的地へ辿り着く頃合いだ。イグナートが広域俯瞰で敵影を見つけるのとほぼ時を同じくして、ギィギィと特徴のある音、否、鳴き声が一同の耳に入る。
「随分と耳障りな鳴き声だ。聞くに堪えん」
  『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が思わず顔を顰める。このまま放置しておくのは集落の為だけでなくとも良くないだろう。
「さっさと片付けてしまうぞ」
 霊気を練り上げ、卦と紋を自らへ刻む汰磨羈。さあ、準備は万端だ。
「それじゃあ行こうか。饗宴の始まりだ」
 飛び出すマルベートにすぐさま亜竜たちは勘付き、嫌な鳴き声を重ねる。すぐさま飛び立って一同を爪で翻弄する中、マルベートはディナーナイフとディナーフォークを手に知ると赤々と燃える瞳で彼らの中にいる、一等硬そうなボディを持った亜竜を射抜いた。
「さあ、私と喰い合おうじゃないか! 最後に残っているのはどちらかな?」
 本能を掻き立てる誘い。マルベートの方へ向かおうとするグーラ・シュテと群れに、しかしイグナートが雄叫びを上げてグーラ・ノワたちを挑発する。
「VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!! お前らはコッチだ!」
 彼らの鳴き声に負けずとも劣らないそれに半分ほどがイグナートを向いた。しかし、残るはまだマルベートの方へと向かっているか。イグナートは執拗に彼らを自身へ引き付けるべく挑発の雄叫びを上げる。
「さて、ここからは俺達の頑張り所だね」
「ああ。油断出来る相手じゃあねえが、こっちはちっとばかし粒ぞろいのメンバーだ」
 ヴェルグリーズとルカの荒々しい乱撃がグーラ・ノワたちを翻弄する。その機動力もイグナートの挑発に乗ってしまえばなんてことはない。あとはひたすら攻撃をぶちこむのみだ。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。悪いが、狩らせてもらうぞ」
 エーレンの一太刀が雷神の力を宿し、鋭い肉薄と共に何もかもを置き去りにしていく。瑞希は超分析で最初にグーラ・ノワたちが暴れた際の不調を癒すと、自らの魔力を練り上げる。灰色の髪がふわりと靡いた。
「大丈夫、ボクもできる……ライトニング!」
 その魔力が雷を帯び、真っすぐにほとばしる。仲間たちの攻撃で動きが鈍くなっていたそこへ容赦なく貫いた。あとを追うように風花も魔導書の攻撃を行う。
「頭が死した群れが長く生き延びられるか、それすらも不明ですからね。共に送って差し上げましょう」
 殲滅戦と猛撃する仲間たちを片目に、黒きマナと獣としての力を引き出したマルベートは武器を振るう。漆黒の斬撃はグーラ・シュテに深い傷を負わせはしないものの、そこから削り取られたモノは確実に敵の力を削ぎ、自身の力として還元されていた。
「先ずはその魂を味見させてもらうとしよう。固い躰はあとからゆっくりと、ね?」
 ギィ、と古い扉が軋む様な呻き声を立てるグーラ・シュテ。その体が勢いよく地面へ着地し、大きな地響きを起こす。
 そこへグーラ・ノワを3体撃破したから、と標的を変えた風花が近づいてきていた。地響きをモロに受けた風花はよろめき、膝をつきながらも魔導書を構える。
「なかなか厄介ですね……! しかし、群れると強さも、悪知恵も働き始めるもの。その頭脳となるモノを殺せば、手下への躾にもなりましょう」
 向かった風花の背中をちらりと見たヴェルグリーズは、あちらへ早く加勢しなければと黒顎の如き斬撃を放つ。その周囲に植物はないと素早く目視確認し、ヴェルグリーズはペイルへ叫んだ。
「ペイル殿、今だ! 攻撃を叩き込んでくれ!」
「言われずとも」
 すかさずペイルが畳みかけ、次いで汰磨羈の刀身が陽の霊気を纏う。斬撃と共にそれは花弁となり、ほろりと零れた。
「ヴェルグリーズ、次は」
「汰磨羈殿が斬りつけたやつにしよう。弱っている敵を狙って、頭数を減らすんだ」
 その言葉にペイルは頷き、視線を巡らせる。そこでは汰磨羈が軽く刀を振り、付着していた血を落とした。
「ついでに喉笛も掻き切るか。いい加減、耳が痛くなりそうだ」
 多少数が減ったものの、耳障りな鳴き声は変わらず響く。うっかり手元が狂いそうになるくらいなら、さっさと鳴けなくしてしまった方が良さそうだ。
「そうしよう。翼も斬り落とせば飛べまいよ」
 エーレンの雷撃が飛ぼうと広げられていたそれに斬りこみ、ひときわ大きな鳴き声が上がる。踏み込んだペイルの斬撃がその喉笛を切り裂いた。
「チームワークは――俺達の方が上みたいだな!」
 にぃと笑みを浮かべ、残る敵へ肉薄していくルカ。イグナートも攻撃を受けつつ、渾身の力で竜撃の一手を放つ。よろめいたそこへ、瑞希は死霊たちの力を借りて呪いの一矢を放った。
 このデザストルで過去に命を散らした、戦士たちの嘆き。亜竜たちへの恨み。それらがイレギュラーズとして前へ進もうとする瑞希へ力を貸す。
(大丈夫。一歩ずつ、焦らず。成長して見せるから……!)
 喉笛に出来た傷へ命中し、その呪いが重く亜竜を苦しめる。やった、と呟くも束の間、残っている敵が翼をうつ音にびくりと肩を跳ねさせた。
 いけない、まだ敵はいるのだ。うっかりしていれば食べられてしまうかもしれない。
(食べられそうで怖いけど、簡単には倒れない。ボクだってイレギュラーズの1人。皆の仲間だから!)



 時間を経て、耳障りな鳴き声は明らかにその数を減らしていた。その頭数自体ももちろんであったが、イレギュラーズが喉笛を攻撃することでさらに少なくなり、群れの頭へ助けを求める声もまた減っていたのだ。
「いいチョウシだね! このまま畳みかけよう!」
 イグナートの手刀が容赦なく敵へめり込む。汰磨羈が白桜の如き霊気を零しながら汞手を放ち、文字通りに『大暴れ』するがその要となるのは瑞希だ。
「皆、あともう少しだよ!」
 瑞希の号令が味方の不調を跳ね飛ばし、立て直す。特に体勢を乱した仲間を積極的に鼓舞することで、それ以上の不調を呼び込まぬようにと奔走していた。
 そんな健闘もあり、比較的順調に討伐が進んでいる――と思ったそこで、ひときわ大きな鳴き声が上がった。
「チッ……!」
 うるさい、と深く眉を寄せた汰磨羈。ルカはそれがグーラ・ノワを統率しようとする動きだと察すると負けず劣らずの雄叫びを放つ。
 しかし、間一髪か。
「仕方ねぇな……!」
 イグナートの挑発を逃れ、上空へと舞い上がったグーラ・ノワにすかさずルカが斬撃を飛ばす。逃さじの殺人剣は的確にグーラ・ノワを捉えた。
「さあ、落ちて貰うぞ」
 力強く跳躍したエーレンは、雷の威力のままに敵を叩き落す。下から迫るはヴェルグリーズの黒顎魔王だ。
 一方のグーラ・シュテは、風花が攻撃を加えつつ、マルベートが合流しようとするその身を追いかける。その図体からして追いつくのはそう難しくない。
「ほら、私を後回しにしていいのかい? もし目が見えていないのなら潰してしまおうか」
 私を見ても本能が駆り立てられない目なら、必要はないだろう?
 迫るディナーフォーク。その切っ先が目に突き刺さる直前でグーラ・シュテが体の向きを変え、ガキンと表皮に刺さる。
「そうだよ、ようやく見てくれたね? 饗宴を再開しようじゃないか」
 せめて味方が来るまででも耐えなければ。狙うにも追うにも苦労はないが、あちらの攻撃や守りは的確だ。
「――待たせたね」
 ヴェルグリーズの声がするとともに、肉薄した彼が目にも留まらぬ三撃を展開する。応援が来たかと思うと同時にイグナートの雄叫びが響き渡った。
「アトは任せてよ」
「ああ、助かるね」
 引き付け役を後退してもらったマルベートは手にしたナイフとフォークで十字に切り裂く。その間にもエーレンを始めとする仲間達は敵を逃さぬよう、包囲する形で攻撃を始めた。
「随分と硬いみたいだな」
「関係ないさ。こちらも翼を折ってしまおう」
 ルカの猪鹿蝶と汰磨羈の放つ汞手が翼を執拗に狙う。翼までも硬かったが、攻撃が重なればヒビ割れて動きも緩慢になる。とどめと言わんばかりに瑞希の魔弾が翼の付け根へ命中し、大穴を開けた。
「いい調子だ、このまま畳みかけるぞ!」
 瑞希の攻撃に口端を上げたルカが魔剣を手に肉薄する。目にも留まらぬその斬撃はグーラ・シュテの硬さすらも上回り、体に大きな傷を穿った。
「これでトドメだっ!!」
 そこへ叩きつけられたイグナートの鋼覇斬城閃が内部まで到達し――グーラ・シュテはその巨大な身を派手に横転させたのだった。


「ふむ、中身は柔らかいのだね」
 それじゃあ頂きます、と調理も何もしていない亜竜の肉を食べ始めるマルベート。偉大なる捕食者、グーラ・シュテを覚えておくためにも、共に世界を喰らい続けるために自身の血肉へ変える。その様をさすがのペイルも若干引き気味で見ていた。
「……亜竜を喰らう者、なのか」
「亜竜だけじゃないさ。なんでも食べるよ。可愛らしい生き物の肉があれば是非とも食べてみたいね」
 そういうのがデザストルにいるのか聞いてみれば、ペイルはあまり気にしたことがないようで。これからは是非気にして欲しいと念押ししておく。
「みんな、大事ないか? ペイルも」
「これで全部なんだよな?」
 エーレンが皆の無事を確認し、汰磨羈は討伐完了をペイルへ確認する。彼はこれで全てだと告げた。暫くはこの辺りに亜竜が近づくこともないだろう。
「色々熱心に見ていたようだが、得るものはあったか?」
「ああ。あとは俺の身に覚え込ませるだけだ」
 それなら良かった、と汰磨羈は頷く。何かはわからないが、理由があって強さを求めているのだろう。それはどこか自身と共通するものを覚えさせた。
「これだけじゃなく、今後も困った事があればまたいつでも声をかけて欲しいな」
「そうだぜ。頼りてえ事があるならまた声をかけろよペイル」
 ヴェルグリーズとルカの言葉に機会があればとペイルは頷く。その実力を目の当たりにした以上、依頼できると思ったことは持ち込んでくれるだろう。
「それで、このあたりの植物はサイシュウしていくんだっけ?」
「その必要はない。また別の者が必要になった時に取りに来る」
 ならば早々に撤退しなければ、とイグナートは広域俯瞰で辺りの様子を見る。今のところ他の亜竜の様子はないが、グーラ・シュテたちを倒したことで別の敵性生物がイレギュラーズたちを狙わないとも限らない。
(キケン生物ってヤツはまた次の機会だね)
 武を収める者として、強さを求める者として――興味がないわけではないけれど。そういった敵と出会うのは、また別のお話。

成否

成功

MVP

玖・瑞希(p3p010409)
深き森の冒険者

状態異常

イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)[重傷]
黒撃

あとがき

 お疲れ様でした、イレギュラーズ。
 またペイルとはどこかで一緒になるかもしれません。その時はよろしくお願い致します。

 またのご縁をお待ちしております。

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