木人修行と道場破り

オープニング

●フリアノンの少女
「むー……」
　亜竜集落フリアノン。ラサへと繋がる『竜骨の道』を辿ることで辿り着く亜竜種達の集落だ。
　竜が住まうとされる地であり、基本的には岩山が多いのだが……その中には、翼持たぬ者でも登りやすいような山というものは、当然存在する。
　そうした場所には名前がついていたりいなかったりするが、名前を付けて愛着を持つのは危険でもある。
　なぜなら、僅かな安全地ではないのだ。
　いつでも強大なる脅威に晒されやすく、それはいつでも踏み込む者の命を奪い得る。
　恐ろしい……とても恐ろしい話だ。
　だが、それでも好奇心を止められない者は居る。
　彼等なり、彼女等なりの理由を胸に秘め、集落から「冒険」に出る者も、僅かながら存在するのだ。
　彼女もまた、そんな１人であったのだが……そのお気に入りの地が今、危険地帯になりつつあった。
　木人。
　そう呼ばれる人型モンスターがいるのだが……たまに繁殖期を迎える事で知られている。
　こまめに駆除しないと増えるのだが、駆除しても繁殖期がくるともうどうしようもない。
「繁殖期かあ……どうしようかなあ……」
　視線の先で広がっているのは、何かの武術の修行風景じみた光景だ。
　手の中の武器を握るが、襲い掛かったところで勝てるはずもない。
　むしろ、見つかった時点で命の危機が訪れる。
　どうしたものか。
　どうしようもない、が答えになる。
　なるが……少女は知っている。
『覇竜領域トライアル』と、来訪者たち……イレギュラーズを。

●木人（生きてる）
　珱・琉珂の提案である『覇竜領域トライアル』。
　それは簡単に言ってしまえば覇竜領域での雑用仕事の始まりだ。
　前人未踏とされた危険領域だ。亜竜種達もその危険性を重々承知の上でイレギュラーズ達との友誼を図るための手立てとして提案したのだろう。
　仲良くなれようとも、この領域で生き残れなくては友誼を結ぶことは難しい。それは自身等の戦力強化でもある。
　竜種の脅威を目前とするこの覇竜領域でイレギュラーズと出会った『数奇な運命を宿した』亜竜種達は共に冒険を始めようとしていたが……彼女もまた、その１人であった。
「こんにちは！　ボクは黒鉄・奏音！　知ってる人も知らない人もよろしくね！」
　くろがね・かのん。そう名乗った亜竜種の少女は、ニパッと友好的な笑顔を向けてくる。
「実はね、木人……っていうのがいるんだ」
　木人。
　昔の武術の修行の光景として知られているものの中に木人修行がある。
　人に見立てた木人相手に修行し、技などを会得する修行法であったりするが……実は、この覇竜にも木人がある。
　あるというか、居るというか。
「武術に似た技を使うから、修行相手には最適なんだけど……繁殖期を迎えちゃって。ボク１人じゃ対処できなくなっちゃったんだ」
　奏音は幾つか修行場所をもっているが、今回はそのうちの１つ。
　木人道場と名付けたその場所で、木の身体を持つ不思議なモンスター「木人」の大量発生が起こってしまったのだ。
　ただ増えるだけでも問題だが、木人は成長するとデザストルを闊歩する化け物級のモンスターたちと何ら変わらない実力を持つモンスターに成長してしまう。
　そうなる前に、破壊していかないといけないのだ。
「皆の修行にもいいと思うんだけど……どうかな？」

参加者 : 8 人

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参加者一覧（8人）

リプレイ

●繁殖期はえっちじゃない
「は、繁殖期……それは見に行っていいものなのですか？　い、いえ！　興味からじゃないですよ！　これは依頼、依頼ですから！！」
「何言ってるの？」
「うわーっ、イノセントアイ！」
『医術士』ココロ＝Bliss＝Solitude（p3p000323）が、ただ純粋に疑問を呈する黒鉄・奏音の瞳に焼かれる。エロは滅びた。
「……とりあえず木人道場に行きましょう、ワクワクはしてませんからね」
　木人。地面から生えてきて勝手に増えるモンスター。
　たぶん地面の中に何かがあるのだろう、一切不明な謎の生態をしている。
　……なのだが。木人といえば一定のモノをイメージする面々にとっては、何とも不可思議なものに映ってしまう。
「自生する木人など、流石に初耳だぞ。まぁ、私のように修行に明け暮れるタイプにはうってつけの代物だが……これも、ある種の共生か？」
「そういうこと！　修行にはバッチリなんだよ！」
『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈（p3p002831）に奏音も嬉しそうに頷くが、成長しきる前にぶっ飛ばされる木人側としてはたまったものではないだろう。
「木人……っていうのがいるんですね！ㅤうちの故郷にも変な植物いっぱいいたしその類でしょう！！ㅤ完全に理解しました！！」
『泥沼ハーモニア』ウテナ・ナナ・ナイン（p3p010033）もそんなことを言うが、一体ウテナの故郷には何がいたというのか？
「よその世界の修行で使うやつに似てるって聞いたが……どう使うんだ？　それも戦って見ればわかるかね。放って置いてめちゃくちゃ強くなった木人ってのもちょっと興味あったけどな！」
「やー……ヤバいよー。サイクロプスとか吹っ飛ばすらしいから」
『竜撃』ルカ・ガンビーノ（p3p007268）はそう聞いて「なるほどな」と頷いてしまう。
　師範代がいるなら当然師範もいる。そういうものが出てくるまで放置すると、命の危機レベルになってしまう。
「そうなる前に木人道場を打ち破るのは理にかなっておるのじゃ」
『殿』一条 夢心地（p3p008344）は納得したように頷くと、フッと笑う。
「なーーーはっはっは！　久方ぶりの道場破りじゃ、腕がなるのう」
（しかし今回は何と言うても覇竜のトライアルじゃからの。ただノルマをクリアすれば良いというものではない。華麗に木人どもを打ち倒し、黒鉄の嬢ちゃんに我等が頼りになるところを見せる！　うむ、うむ。実にこの麿向きの仕事じゃの）
「何か考えてる顔してる……」
　白塗りなせいで表情が面白過ぎて判別しにくい夢心地ではあるが、そんな夢心地をじっと見ている奏音に、『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル（p3p003529）はふと浮かんだ疑問を投げかける。
「先日に引き続いて本日も修行場、ですか。……奏音さん、一体いくつの修行場を渡り歩いてるのです？」
「えーと……たくさん？　此処って、そういう場所に困らないし」
「まあ、確かに……」
　覇竜ほど、そういった場所に困らない地域もないだろう。
　……まあ、修行場として使える場所となると、かなり限定されはするのだろうが。
「そういえば今回の相手は木人。きっとよく燃えますね？　……燃やしても、構わないのですよね？？？」
「いいよ！」
　燃やしたいという「圧」があるクーアに奏音はぺかっと笑う。
「燃やしてもまた生えてくるし。どういう理屈なんだろね」
　それは分からない。
　分からないが、派手にやっても問題ないということは確かだ。
「道場破りかぁ。元居た世界でも空手の道場には通ってたけど、「たのもー！！」みたいなのは見たこと無いな」
『正義の味方』皿倉 咲良（p3p009816）もそう頷くが、まあ文明社会ではあまり見ない類のものであるには違いない。
「いや、あこがれてはいたんだけどね？　師範が許してくれなくて」
「修行……道場破り……はっ！！　これはきっと間違いなく魔砲の出番でして！！！！！」
「うん、今回は間違ってないかな」
「でしてー！」
『魔砲トレーナー』ルシア・アイリス・アップルトン（p3p009869）がテンション上がったような声をあげるが、まあ仕方ないだろう。
「そういえば……なんか繁殖期らしいけど、修行と繁殖期、どう関係があるのかな？　分かんないけどまぁやってみたかったことが出来るし、やってやろう！　面白そうだし！」
　言っている間にも、何やら武術の鍛錬をしているような音のする場所に辿り着く。
　というか、なんか手書きの看板がかかっている。奏音だろうか。
「てことではい！ㅤうち行っていいですか！ㅤ行きたい人みんなでいきましょう！！ㅤではせーので！！」

「たのもー！！！！！　道場破りだぁぁぁぁ！！」」
　ウテナと咲良がテンション高く飛び込んで……そうして、道場破りは始まったのだ。

●道場破りと修行
「格闘技もびしっと決まってかっこいいのですけども！　魔砲はさらにその上をいくのですよ！！　何で守ろうとも全部ぶち抜いてやるのでしてー！！」
　そんな叫び声と共にルシアの破式魔砲が放たれて。
「看板持ち帰りますよ！ㅤどれが看板ですか！！」
「はいこれ看板！」
「奏音さんの手書きですよねそれ！」
「うん！」
　ウテナのショウ・ザ・インパクトと奏音の攻撃が木人を吹っ飛ばして。
「冥途の土産を差し上げるのです！」
　クーアの放火が木人たちを焼く。
「焼き討ちはメイドの基本、全力全壊で焼くのです！！」
　趣味と実益が合理的に兼ねられるのです、とか言っていたクーアだが、久々に堂々と火を放てる状況であるということで、かなりテンションが上がっているようだった。
「この一戦こそが私にとって最高の修練、出し惜しみはしないのです！！」
　なるほど、先程の圧もクーアが自分を解放するための前準備のようなものだったのだろう。
　何しろ、どれだけ焼いても怒られないし褒められるのだ。味方との連携を取る気も充分だし、今日のクーアは完璧で最高にわるいねこだった。
「それがしはぁ！　皿倉咲良ぁっ！　遠く聞こえし覇竜の妙技！　一手御教授願いたいぃっ！」
　そんな見栄を切るのは咲良だ。
　勿論、この行動の意味を木人が理解しているとは微塵も思わない。
　思わないが……この辺りはクーアの心情に似たものがある。
（せっかくだから型にはめて見栄を切りながらやってみたいよね！　だって、ねぇ。せっかくの道場破りだもん）
　そう、せっかくだからやってみるしかない。
　こんなチャンス、中々ないのだ。やるなら今である。
「修行とか鍛錬とか楽しそうじゃん。アタシも混ぜてよー！！」
　エネミースキャンをかけながら、咲良はバーンアウトライトを放つ。
（相手との間合いや息遣い、そして一切の隙を見逃さないように師範代には言われてたからね！）
「木ってだけあってよく燃えるのかな？　よーし、やっちゃうぞ☆」
　そんな３人の少女たちの楽しそうな姿をそのままに、夢心地も東村山を振るう。
　使い手が変なおじさんであればあるほど切れ味を増すという謂れのある妖刀を振るう夢心地だが、その戦い方は真面目そのものだ。劇場版だろうか？
（木人連中はその見た目に反して、単なる雑魚ではないと見ておる。何を考えているかは読みとれぬが、それなりに功夫を積み上げている事が、放つ技に出ておるわ）
　そう、夢心地の言う通り。木人たちの動きには一定の「理」が透けて見えていた。
　そういう生き物だからと言う他ないが、そのまま人の動きに取り込めそうな、そういったものが見えている。
　木人の攻撃を受けながら、夢心地は薄く笑う。
「うむ、うむ。そうじゃな、この程度はやってもらわねば手応えが無い」
「木人の数が多いから一対一たぁいかねえよな。突っ込んで木人修行ってのを試させて貰おうじゃねえか！」
　そんな夢心地をフォローしながら、ルカも木人へ突っ込んでいく。
「あぁ、確か避けながら攻撃するんだっけか？　こうやって……こう……いや痛ぇよ！　全然避けらんねえ！　異世界の武道家はこれ避けれるのか！　すげえな！」
　木人の攻撃は一流ではないかもしれないが一端の武術家のようであり、その攻撃は鋭い。
　これを避けられるのであれば、確かに達人になれるだろうが、どうにも埒が明かない。
　我慢できなくなったルカは、H・ブランディッシュで薙ぎ払う道を選ぶ。
「考えてみりゃ、スタイリッシュに…なんて俺のスタイルじゃねえ！俺は俺のやり方でやらせて貰うぜ！　泥臭く、真っ直ぐに、力で突き進む！　それが俺のやり方だ！」
　そんなルカを幻想福音で回復しながらも、ココロは木人たちを観察していた。
（木人は生きているかのように動く、となると、木は生木なのかな？　燃えるには燃えるみたいですけど）
　生木は燃えにくいが、燃えないわけではない。その辺りは何とも判断し辛いものがあった。
「クーアが燃やしたがっているからな。良く燃えるよう、細切れにしてやろうか！」
　そう、今日一番燃やしたがっているクーアをサポートするように汰磨羈は花劉圏・斬撃烈破『舞刃白桜』で木人たちを斬り進む。
　それなりに動ける木人たちが２０。多いが……その数は確実に減っている。
「そろそろ私も出ます！」
　だからこそココロも前に出て、木人へと襲い掛かる。
「格闘術式『斬海脚』、わたしの好きな人が使っている「活人拳」という武術の動きを術式でコピーしたものです！」
　ボクシングなる武術を基にした技を使いながら、１体１の戦闘をココロは仕掛けていく。
　相手の攻撃を腰を低くして顔を覆うように腕を立てて受け止め、隙を伺う。
　蹴りをガードしたら片足が地面につく前に踏み込んで正拳突き。
　踏み込みの浅いパンチはスウェーで逸らして裏拳で殴り。掌底は掌を膝で蹴り上げる。
　タックルもある。これこそ格闘術式『斬海脚』の術理というわけだ。
「ではいきましょう！ㅤ師範代の元へと！」
　ウテナが叫び、全員が師範代の元へと突っ込んでいく。
　当然「師範」の域に達していない師範代が抗しきれるはずもなく。
　最後は咲良のスーパーノヴァで、ド派手に粉砕されて散ったのだった。
「無事倒したら看板を持ち帰らないとですね！ㅤ看板あるんですかね！ㅤまぁ無いならその辺の木の板で我慢しましょう！！」
「はい、看板！」
「あ、さっきの手書きの！」
「はっはっはぁっ！　この看板はぁっ！！　いただいていくぞぉっ！！」
「あ、いいんですね!?」
　ウテナと奏音、そして咲良がワチャワチャとやっているが……とりあえず看板は貰ったようである。
　そう、木人の脅威はひとまず消えた。ならばあとは修行だ。
「奏音、ちっとやりあってみねえか？」
「いいよ！」
（やりすぎねえようにはするが、変に手加減はせず真剣に向き合うぜ。１人の戦士相手に手抜きは失礼ってもんだからな！）
　そうしてルカは奏音と手合わせをするが……覇竜での独特の動きなのか、中々楽しい手合わせであった。
「そういや黒鉄って相賀のジーサンと同じ家名だよな。奏音はじーさんの孫か何かか？」
　あのジーサンともやりあってみてえんだがなあ、と呟くルカに奏音は笑う。
「んー、娘だよ！」
「あの爺さん何歳だっけか……？」
「じーちゃん、プレイボーイだったらしいから……」
　最近落ち着いたらしいよ、という奏音に最近かよ、と思わざるを得ないルカではあるが……奏音はココロに呼ばれてトテトテと走っていく。
「回復術はあるから、その青龍刀で遠慮なく来てください。よろしくおねがいします！」
「おっけー！　いっくよー！」
　そうしてココロと模擬戦をする奏音を見ながら、咲良は「次はアタシもやろう！」と気合を入れている。
　そして道場の隅では……ルシアが中腰で何かに話しかけている。
「さぁ！　一緒に修行をするのですよ！　入る時も言ったけども新しい修行の方法を教えにきたのでして！　ルシアの教えたいものは……もちろん魔砲なのですよ！」
　何に話しかけているのだろうか？
　道場を一回りしていた夢心地は、ルシアに近づいていく。
「格闘技と魔砲は一見すると関係性は薄いように思えるのは確かに分かるのです……ルシアはこれ（銃）を介して放つのが一番相性がよかっただけで、気を溜めて手から放つ魔砲もあるのですよ！　そう！　これこそが魔砲拳法でして！」
　夢心地は、ルシアの後ろからそっと覗く。
「戦いながら拳に力を込めて……十分に溜まったら一歩下がって溜めた力を一気に放出するのですよ！　格闘技と合わせることで相手の体勢を崩して魔砲でずどーん！　お互いの得意なことで戦えるから、格闘技と魔砲は相性がいいのです！」
　なんか木人の頭っぽいのが微妙に生えていて、それに話しかけている。
　夢心地はニコリと笑うと、クーアを手招きで呼ぶ。
「という訳でルシアの魔砲トレーニングで「魔砲拳法」と、さらにそれを進化させた「破式魔砲拳法」を是非覚えてほしいのですよ！　そして次来た人をあっと言わせてほしいのでして！」
「焼き討ち！」
「あっー！」
　ルシアが「あっ」と言わされて木人の生えかけも焼いて平和は訪れた。
「……いやしかし、とんでもないモノだな。万が一に覇竜領域から外へと出てしまったら、侵略的外来種どころでは済まないのでは？」
　汰磨羈はそう呟くが……そんなものが覇竜領域デザストルには闊歩している。
　そんな恐ろしい場所であるということを……思い出さざるを得なかった。
　得なかった、が。少なくとも今は、この場は平和を取り戻した。
　とりあえずは、それで充分なのだろう。

成否

成功

ＭＶＰ

状態異常

なし

あとがき

コングラチュレーション！
黒鉄・奏音からの好感度がちょっと上がりました！