ウェスタお昼寝スポット小作戦

オープニング

●覇竜領域にて
　覇竜領域デザストルは大陸南方の山脈に拠点を置く竜種の領域だ。
　国というよりは棲家といった方が適切でしょう。住民である人種『亜竜種』たちは領域（くに）と呼んでいる。
　竜種の住処であるという危険性から人類未踏の地ともされ、地理に関してはほとんど分かっていない。
　人間（人類）とは土台存在の異なる上位竜種の存在が多数観測されており、亜竜種と呼ばれる人種以外の混沌生命体は進んで此の山脈には近付きもしない。
　竜は自身の認めた勇者にのみ力を貸すとされているが、実際の所その観測例は殆どなかった。
　伝説や記録には極々稀に『竜を従えた勇者』の存在は記録されているのだが、実際の所それが可能であるかどうかは定かではなく夢物語であった。
　だが、絶望の青にて観測されイレギュラーズと敵対した『滅海竜』リヴァイアサン、練達で観測された『怪竜』ジャバーウォック等、その存在は夢物語ではない。
　そして……そのデザストルの亜竜集落フリアノンから地下通路を通ると、亜竜集落ウェスタと呼ばれる場所に到着する。
　ピュニシオンの森と呼ばれる深き森の近くに存在する地底湖周辺に集落を築いた水竜が始祖である集落です。
　地底湖に繋がる湖には獣よけの魔法が施されており、許可なき者を決して通さないという、その場所だが……。
　何故かフリアノンに、そのウェスタからほぼ動かないという少女の姿が見受けられる。
「眠くなっちゃった……」
　ならば寝ればいいと思うのだが、その表情がなんだか不満そうなのは何故だろうか？
　いや、想像はつく。
『覇竜領域トライアル』。この少女もまた、それを利用しに来たということなのだ。

●亜竜集落ウェスタへ
「お願いをしようと思ってるのよ」
　棕梠（しゅろ）と名乗った亜竜種の少女は、まずは近くを通りかかった【可能性を連れたなら】 笹木 花丸 （p3p008689）を、そしてその周囲にいた何人かのイレギュラーズを、その眠そうな様子からは想像もつかないほど俊敏な動きで捕まえると、そう切り出した。
　お願いとはなんなのか。
　このデザストルを闊歩する強大なモンスターを相手取るのか、はたまた何処か未知の場所へ行くのか。
　どうであるにせよ、未知しかないこのデザストルでの活動に否などあるはずもない。
「花丸ちゃんたちは何をすればいいの？」
　花丸がそう聞けば、棕梠はしばらく無言。
　そんなに言いにくいような……あるいは難しい何かなのか。
　考えこむように黙り込んでいた棕梠は、やがてコテンと首を傾ける。
「……ん、皆でお昼寝しましょ」
　お昼寝。随分と平和に聞こえるが……まさか本当にお昼寝仲間を探しに来たわけでもないだろう。
　僅かな場の沈黙のあと、棕梠は思い出したように付け加える。
「折角のお昼寝日和なのに……お邪魔虫モンスターがいるみたいなの。あれ、追っ払って欲しいわ」
　なるほど、それであれば非常に分かりやすいと誰もがホッとする。
　棕梠のお気に入りのお昼寝スポットにいるモンスターを排除し、皆でお昼寝をする。
　これはつまり、そういう依頼なのだ。

参加者 : 8 人

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参加者一覧（8人）

リプレイ

●お昼寝スポットへ
　フリアノンからウェスタへ。
　ウェスタから棕梠の秘密のお昼寝スポットへ。
『可能性を連れたなら』笹木 花丸（p3p008689）は棕梠の案内に従いながら、仲間たちと歩いていた。
「確かに自分のお気に入りのお昼寝スポットにお邪魔虫が居たら困るよね。花丸ちゃんだって美味しいご飯を食べる時は誰にも邪魔されず、自由でなんというか救われてなきゃいけないって思うし……つまり、そういう事だよね？　うんうん、とってもわかるよっ！　って事で棕梠さんからの依頼、花丸ちゃん達にマルっとお任せ、だよっ！」
「うん、そういうことよ」
　孤独なグルメを楽しんでいそうな顔をしている花丸に、棕梠も静かに頷く。
　夢の世界では１人であるように、食事もまた自由でなくてはいけない。
　仕事の後にフラッと立ち寄って、フィーリングで選んだ店で自由気ままに注文して完食するような、そんな自由が必要だ。
　さておいて。
「お昼寝スポットかぁ。まぁ、隠れ家的なたまり場になるならそれはそれで悪くはなさそうだ」
「うんうん。食事をした後にするお昼寝の場所は大切だよね」
『横紙破り』サンディ・カルタ（p3p000438）と『赤い頭巾の断罪狼』Я・Ｅ・Ｄ（p3p009532）が頷きあうが、このデザストルでそういった場所は酷く貴重だ。何しろ、一歩道を外れれば死ぬような……そんな場所なのだから。
「皆でお昼寝しようってお誘いか―……何だかすごく平和的な依頼でびっくりなのだ。まあでもお邪魔虫モンスターを追っ払うくらいなら……」
「今回の相手はデミワイバーンだったな。幾らか覇竜の依頼も増えて来て、我々に何かを任せても見ても良いかと前向きになって貰っている証拠なら嬉しいのだが……」
『特異運命座標』ベネディクト＝レベンディス＝マナガルム（p3p008160）がそう言えば、『呑まれない才能』ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム（p3p010212）がギョッとしたような顔になる。
「って、相手ワイバーンなのだ！？　流石覇竜……規模が違うのだ……まあ、怪竜達との戦いで生き残ったヘルちゃん達なら何とでもなるのだ！　お昼寝の為にいっちょやってやるのだ！」
「話を聞くに数は多いか。とはいえ、このメンバーなら心配は要るまい」
「……昼寝をするのにも……こんな邪魔が入るんだね……ここは……少し外に出るだけでもこんな感じだと……相当強くないとやっていけなさそうだね……」
「……そう、此処は生きるのが大変。寝るのも大変なのよ」
『青混じる氷狼』グレイル・テンペスタ（p3p001964）に棕梠も頷くが、ちょっとズレているような気がしないでもない。
「……幻想とかだったら……ワイバーンに襲撃されることなく……休めそうなスポットなんてすぐ見つけられそうなものだけど……折角だし……新しく作った獣式……アセナがどれだけやれるか……試させてもらおうかな……」
　作り出した魔術のことを思い出しながらグレイルは言うが、確かに幻想であればそうだろう。
　しかし覇竜では……デザストルでは違う。
「すみ分けは共生の基本って本で読んだよ。そういうのが出来ればいいんだけど」
『竜剣』シラス（p3p004421）もそう言うが、今回の仕事はある意味で、その住み分けをする仕事ではある。
（互いの生活範囲が重ならなくなれば問題無いわけだ。それならば確かに殺さなくてもいい。どこまで通用する相手なのか分からないけど）
　そう、今回の仕事は「殺し尽くさない」ことが重要だ。
　それはある意味でシラスの言う通りの状況を作り出す事になるだろう。
「お、あの場所か」
『竜撃』ルカ・ガンビーノ（p3p007268）が指し示したのは、岩山の亀裂。
　そこを通り抜けると、現れたのは……そこだけ空を切り取ったかのような空間のある、広い草地だった。

●お昼寝スポットを守って
「フリアノンにこんなとこがあるたぁな。なるほど、こりゃあ代えがたい昼寝に最適な場所だ。ワイバーンも惹かれてやってくるってもんだ」
　ルカはその場を見上げながら、そう呟く。
　周囲は柔らかい草の生えた地面と硬い岩の壁。
　空は岩山をくり抜いたような小さな穴が開いており、通常種のワイバーンは勿論、他の巨大なモンスターも入ってこれそうにはない。
　ヘルミーネも近くで亡くなった亜竜の幽霊達に協力要請をしようとしていたが……何とこの場所、死んだ亜竜の数がゼロである。
　棕梠のお昼寝スポットを見極める目は確かだということだろう。
　つまり……小型種のデミワイバーンだからこそ、こんな場所に入ってこれるのだろう。
「此処が俺達の縄張りと示すなら、武力を示すのが一番手っ取り早いか。もし他にも何かいい方法があるなら……」
「ん、あるかもしれないけど。知らないわ」
　ベネディクトに棕梠は首を横に振って答えるが、ベネディクトは「まあ、それもそうか」と返す。
　事実、そんな凄い手段があればとっくに実施してはいるだろう。
　……いや、どうだろう。「眠くなってきちゃった……」と言い始めている棕梠を見るに、あまり考えていない可能性も高い。
　しかしこの辺りの地域についてほぼ知らないという点を考えれば、聞いてみるということそれ自体は最適な手段であったと言えるだろう。
「あの穴から来るんだよね？」
「そうよ」
「なら、此処で上の穴からモンスターが現れるのを待つよっ！」
「とりあえず、戦いで荒らされないように保護結界をしておこうか」
　花丸に頷きながら、Я・Ｅ・Ｄが保護結界を発動する。戦いの余波でせっかくのお昼寝スポットが荒らされないようにするためには、こうしたことも重要だと思ったのだ。
　それは棕梠も同じ気持ちだったようで、感心したように頷いているのが見える。
「基本方針は殴って実力を見せて追い返す、だよな」
「……そうなる……ね。ワイバーンは……絶対に殺さないように……留意しないと」
　サンディにグレイルも頷く。
　こんな綺麗な場所にデミワイバーンの死体が積んであっては、お昼寝どころではないだろう。
　それはこうして現場を見ればよく理解できた。
「……よろしくね」
「任せろよ、いい感じにぶっ飛ばしてやるぜ」
「花丸ちゃんたちにお任せっ！」
　棕梠にシラスと花丸も応え、花丸は広域俯瞰でデミワイバーンの襲来を見逃さないように監視を始める。
「おそらく半分くらいをボコボコにすれば向こうも喪失して逃げるはずだよね」
「ヘルちゃんもそう思うのだ」
　Я・Ｅ・Ｄにヘルミーネも頷き、２人で空の穴を見上げる。
「奴さんにもちっと悪いが、取り返させて貰うぜ」
「悪くない。此処は私のよ」
「いや、言葉のアヤっつーか例えっつーか」
「私のよ」
「……おう」
「意外と頑固なのだ」
　ルカが棕梠の圧に負けたのを見てヘルミーネが軽く戦慄するが……それはさておいて。
「来るよっ、皆！　迎撃準備！」
　花丸の声に全員が意識を切り替え、それぞれの武器を握る。
　然程の時間もたたないうちに現れたのは、空の穴の周囲を旋回するデミワイバーンたち。
　まとめて入ってはこれないようで、少しずつ入ってくるが……それは逆にこちらの思うつぼ、というものだ。
「花丸ちゃん、ベネディクトちゃん、いくのだ！」
「うん！」
「ああ！」
　ワイバーンに向かって飛行し鬼哭啾々を発動するヘルミーネに合わせ、花丸とベネディクトが行動を起こす。
「さあ、戦いだ。殺すとまでは言わんが加減をする心算はない、勝負と行こう！」
「いっくよー！」
　ワイバーンに向かって、ベネディクトと花丸の堂々たる名乗り口上が響く。
「よく狙って……今！」
　Я・Ｅ・Ｄの破式魔砲が炸裂し、サンディがソードオフショットガンをぶっ放す。
「コイツでゆっくりとあいつらを追い詰めていくぜ！」
（殺さねえように……相手に「ジリ貧だ」と思わせるのも逃げさせるのが一番だ。それにはコイツだ！）
　サンディとしては、あとは個人的には、このスポットそのものを「罠」のように見せたいとも思っていた。
　そうすれば、今後、強そうな人が見えない普段の時でも、「罠」だと思えば寄ってこないはずと考えていたが……その為に、撤退するときにちょっと飛行して追う素振りを見せるのもアリだろうか？
「……さあ……獣式アセナの……お披露目だ……」
　学園で教わった投影魔術を改良した結果、生み出された魔術であり、 複数の術式を重ねて自身の分身のような神狼を創り出し、力を借りて氷雪の嵐を生み出すという獣式アセナはグレイルの期待通りの効果を発揮し、デミワイバーンたちが傷ついていくのが分かる。
「空に浮いてりゃ安心だなんて思うなよ！」
　ルカの闘気炸裂技「吹き飛べ！」がデミワイバーンたちに命中する中、棕梠もなんらかの水魔法と思わしきものをデミワイバーンへと撃ち出している。
「さーて！　そろそろ花丸ちゃんも……って、ええ!?」
　何度かの攻防の後、いよいよ花丸も攻撃に参加しようとした矢先。
　デミワイバーンたちが、先を争うように空の穴から逃げていくのが見えた。
「このまま、ここに居座るなら食べちゃうぞーー！！　…………いや、本気で一匹くらいなら丸焼きにしてもよいかな？」
　ここぞとばかりにЯ・Ｅ・Ｄがスピーカーボムで一喝すれば、もうデミワイバーンたちは総崩れだ。
　我先に逃げていくせいで、空の穴がギュウギュウ詰めである。
「逃げていく……か」
　ベネディクトが金色竜爪を下ろすと、花丸は「ええー！」と声をあげる。
「花丸ちゃんの活躍！　今まさにこれからなのに!?」
「この場を死体で汚したくないとの事だったからな」
「ん、大丈夫よ、はなまろは頑張ってたわ。ちゃんとわたし、見てたわ」
「ありがとう！　でも花丸ちゃんだよっ！」
　はなまる、と名前をしっかり教え込む花丸だが、その間にもデミワイバーンたちはその全てが居なくなっていく。
「手当してやるつもりだったんだがなあ……」
「手当？」
「別に昼寝の邪魔さえされなきゃ良いだろ棕梠？」
「うん」
　ルカは棕梠に即答するが……まあ、あるいはそういう未来もあった……かもしれない。
　大人しくするならここで昼寝ぐらいさせてやっても問題ねえだろ、と。
　ルカとしてはそんなことも考えていたのだ。
　まあ、いつかそんな未来も来るかもしれない。
「実力行使完了！　ここは危険だと植え付けてやったのだ！」
　ヘルミーネは笑いながらヴォードリエ・ワインを取り出す。ひと眠りするには酒を呑むのもいい。
「けどまあ……」
　言いながら周囲を見回すヘルミーネにシラスも「ああ」と頷く。
「戦いが済んだら掃除から。不殺で通せはしたが……流石に無血とはいかなかったからな」
　保護結界は大正解だったが、やはり掃除は必要だ。
　血濡れた地面は埋めて、散らばった色々なものも片づけていく。
　全員で協力していけば、すぐにそれも完了する。デミワイバーンの諦めが早かったのも幸いしただろう。
　満足のいく仕上がりになったのを確認すると、花丸が「お邪魔虫が居なくなったら皆でお昼寝タイムっ！」と宣言して。
　シラスは大の字に寝転んでひと眠り。
　気持ちの良い草はシラスを包み込み、すぐに寝息が聞こえてくる。
「あぁ、こりゃあ草もふかふかで日差しは温けえ。空が見えるのも良い」
　ルカも寝っ転がり、小さな空を見上げる。確かにこれは素晴らしい。
　このデザストルという厳しい場所で、得難い昼寝スポットだろう。
「どれ、俺も有難く昼寝のご相伴に預かろうかな」
　ベネディクトも寝転がるが……ふわっと柔らかい空と、切り取られた何処までも青い空。
　ああ、なんと素晴らしい場所だろう。こんな危険性の低い場所は、そうはない。
「今度は他の友人達も連れて遊びに来てみたい物だ」
　そう呟くと、ベネディクトも静かな寝息をたてて寝てしまう。
「いっぱい運動したんだから、このまま寝ちゃっても良いよね。お弁当も持ってくれば良かったかな……ぐぅ」
「お弁当……その考えはなかったわ」
　Я・Ｅ・Ｄに棕梠は頷いて。ヘルミーネも花丸も、スヤスヤと寝始めている。
「これで、今後も含めて、何とかなってりゃいいんだけど」
「ん。また何かあったらお願いね」
　任せとけ、とサンディも場所を見つけて寝転がって。
「……この姿で……音楽を聴きながら横になるのも……悪くないね……」
　フックフォンを装着し、音楽を聴きながらお昼寝を始めたグレイルは、自分のギフト「ヒーリングテリトリー」の範囲に棕梠が入るように気を遣いながら眠りにつく。
　スヤスヤと眠る花丸たちは……「ありがと」と、うっすら笑う棕梠を見た気がしたが……夢だったかどうかは、判別がつかなかったのだ。

成否

成功

ＭＶＰ

状態異常

なし

あとがき

棕梠の好感度がちょっと上がったようです！