PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<黒曜の錬金術師>鮮血滴る黒曜石

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●大失態
 ――やられた!!
 あの『客』、中に入れた以上は生かして帰すつもりはなかったのに!!
 散々情報だけ喋らせた挙げ句、逃げただと? 四人も!?
 奴らへの態度は問題なかったはず……なのに何故。
 何かを知ったから? 何を?
 奴らがいた間の変化と言えば、この『失敗作』どもが起きたくらい。
 どうやって知った? 奴らがこれを見る時間は無かったはずなのに?
 そもそもどうやって迷宮森林を越えてここへ来た? 遣いを尾行しただと?
 幻想の貴族との取引に使ったあいつを、一体どこからつけて……――。

 幻想。超常の力。ローレット。特異運命座標。
 必ず見つけ出す。どのみち、放っておけば僕とて無事では済まないだろう。
 そんなところで二の舞になってたまるか。
 妖精郷のタータリクスの二の舞になど。

●『黒曜』と『鮮血公女』
 ローレットのイレギュラーズ達は、謎に包まれていた『黒曜』と接触し、その人となりを調べてくれた。
 『黒曜』の作る魔法薬の質が高いことは間違いない。それは認める。
 だが、「客の幸福以外は取り扱い範囲外」とはどういうことだ。そんなもの、錬金術師の風上にも置けない。錬金術師ならば尚更、『等価交換』は何よりも重んじるべきだろうに。
 若返りの魔法薬の材料を得るために、魔亀に仕込みをするだけならいい。その為に魔亀が暴れ、関係の無い人々の命を奪っても何もしないというのは、『等価交換』からかけ離れているのではないか。
 それだけではない。自分の秘密を守るために、遣いに使ったハーモニア達を実験台になど。
 次に珠緒達が来たら、少しばかり勿体ないが『黒曜』を――。
「……どちらさん?」
 工房の外に気配を感じる。
 客、――ではない!
「!!」
 荒々しく扉を破って侵入してきたのは、生気を感じられない男達。咄嗟に工房の裏口まで逃げ、そのままギルドへ駆け込もうとした時、正面の道を漆黒の男が塞いだ。
「取引相手の貴族から情報を辿って、お前を捜し当てるのに時間がかかったよ。半年もかかるとはね。
 僕の工房にローレットから偵察を寄越すなんて、僕がお前に何か不利益を与えたかね? 『鮮血公女』」
「……なんや、びっくりしたわぁ」
 聞いたことのない男の声が、その号を呼ぶ。
 悪い声ではないのだが、無性に腹が立って――何より、こうも隠す気のない殺気をぶつけられては。
「こない乱暴にせんでも、ちゃあんとノックして、名乗ってくれはったら。
 うちも丁寧におもてなししたんよ? 『黒曜』はん」
 ローレットから被害を受けて、自分に殺意を抱くような可能性のある錬金術師など限られている。面識が無くてもわかる。
 しかも、自分に追い付いて後ろから迫りつつある男達は皆ハーモニアだ。
 優れた魔法薬を造り出す彼ならば、実験台として殺したというハーモニア達を死霊術のように動かすことも可能なのかもしれない。
 それによって、自分が殺されるかもしれないならば――応戦するしかない!
「うちもなぁ、自分で素材の血集めたりするんやわ。神秘が強い生き物って、強い殻とか持っとったりするし……こじ開けて、穿ったり、綺麗に切断せえへんと、ええ血が採られへんの」
 後ろ手にナイフへ手を伸ばす。『抑えられなくなってしまう』ので本当は自分では戦いたくないが、そうも言っていられない。
「せやから、ちょおっと……皆の血も貰うけど。痛(いと)うても泣かんでね?」

(……頼むで、皆)

GMコメント

旭吉です。
この度はシナリオのリクエストをありがとうございました。
長らくお待たせ致しましたが、<黒曜の錬金術師>シリーズ後編をお送りします。

●目標
『黒曜の錬金術師』を撃破する

●状況
 幻想にあるリウェールの工房に到着した所からスタート。
 実はそろそろ『黒曜』に関して皆さんと連絡を取ろうと、リウェールからギルドへ工房へ来て欲しい旨は伝えてありました。
 工房表に到着すると扉が乱暴に破壊されているので、異変はすぐにわかります。

 裏口付近では、『黒曜』と彼が連れてきた『失敗作』複数相手にリウェールが応戦しています。
 刃物を手に血を浴びた彼女は嗜虐性の強い性格に豹変してしまっているため、ある意味守るのが難しいです。

●情報
 『黒曜』
  質の高い魔法薬を造り出す錬金術師。質の向上のためなら犠牲を厭わない。
  能力として、様々な錬金アイテムを使用した各種BS付与と、精霊の魂を歪めて作った水晶による【呪殺】(【必殺】つき)を使用します。
  一応この場にいる中では最も理性を保ってます。一応。
  裏口から一番離れてます。

 『失敗作』×7
  元はこれまでに『黒曜』が取引相手との遣い役に使っていたハーモニア男性達。
  既に一度殺されており生気は無く、皆胸部深くに黒い欠片を埋め込まれている。
  この欠片により大幅強化されているが、欠片を破壊すれば彼らは止まる。
  『黒曜』を先に倒しても止まらない。会話はできなくはない。
  近接物理戦特化タイプが3人、中~遠距離神秘戦特化タイプが4人。
  裏口の一番近くにいます。

 リウェール
  2本のナイフを手に、血を流し流されの血塗れ応戦中。
  斬ることも斬られることも愉しんでいるような状態なので色々やばいです。
  止めようとすると止めに入った相手の血をその場で求めます(戦闘)
  会話はできるけど理性が飛んでます。やばい。
  位置としては『黒曜』と『失敗作』に囲まれている状態。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <黒曜の錬金術師>鮮血滴る黒曜石完了
  • GM名夏あかね
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年04月19日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談10日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

リプレイ


 人道に反する行い――そう呼ぶしかあるまい。少なくとも『黒曜の錬金術師』の調査でイレギュラーズが確認したものは到底許せるものではなかっただろう。
『『黒曜』に関して連絡(いい)たい事があるんよ。よろしゅうね』
 ローレットへとリウェールが残した伝言に従い遣ってきた『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)は「扉が!?」と驚愕に目を見開いた。
 慎重に情報を収集し進めてきた一件だ。リウェールの工房に辿り着いた『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)は「どどどどどどういうことコレ!?」と身を竦めた。
「彼女を襲う相手など限られます(きっと)!」――少し、信頼がない。珠緒が後方を見詰めれば、小さく頷いたのは『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)。
「あの後ろ姿……何があったのかと思えば、見覚えのある方ですね。私達は裏口へと廻りましょう」
「おいおい、やべえことになってんなぁ。あの錬金術師、慎重というよりは臆病だったみたいだな。
 まあいい。こうなりゃ面倒ごとはここで一気にカタつけよう! これ以上犠牲者を出さないためにもな!」
 これは事件の収束を図る貴重な一歩と捉えるべきだろう。『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)は「アカツキ、リンディス、アリシスさん、こっちだ!」と走り出す。
「扉が破壊されていると思ったら……! 何と言いますか、……いえ、もう何も届かないのでしょうね。
 ひとまずこれ以上の被害を出すわけにはいきません、私たちは裏から抑えましょう」
 何故やどうして等と言ったクエスチョンを相手に投げかける必要性さえも感じさせないほどの凶行だ。荒々しい訪問を痛ましく見遣る『夜咲紡ぎ』リンディス=クァドラータ(p3p007979)の肩をぽん、と叩いたのは『焔雀護』アカツキ・アマギ(p3p008034)。
「リンちゃん、こっちじゃ! 何やら急を要する状況のようじゃ。
 事態を詮索するのは後にして、サッと突入してバシっと助けるとしよう。
 ……目的の為なら手段を選ばない錬金術師を放置しておくのもどうかと思うしのう。ケリはきっちりと付けさせてもらうのじゃ」
「ええ。古今東西、『そうした方』を見ることはありましたが倫理に反するものを見過ごすわけにはいきませんね」
 嘆息するリンディスにアリシスとアカツキが頷いた。後方へと回り込む仲間達を確認してから『特異運命座標』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は直ぐに『Dr.Crunk』を展開する。術式を展開すれば周辺に仄かに光るのは青年の黒き魔力か。
「状況を見るに迅速な対応が必要だな、行くぞ」
 此処までの強攻策に出ると言うことは悠長にしている時間は無いという判断なのか、それとも秘密を知った者は出来うる限り排除しておかねば分が悪いと踏んだのか。臆病な錬金術師はリウェール一人なら撃破できるとでも踏んだのだろうか。
「そろそろあの錬金術師について何か進展があったんだろうね。話したい事が……どうやらあるようだ……な! ホットスタートだ。やろう」
 地を踏み締め、『北辰の道標』伏見 行人(p3p000858)は勢いよく黒曜の元へと飛び込んだ。
 蔦草纏わせたかのような刀身を剥き出し旅装束を揺らがした行人は堂々と黒曜と失敗作の元へと踏み込んで行く。
「来てくれはったんね」
「も、勿論! 本当にどういう状況!? リウェールさんは血塗れだし、黒曜はいるし!
 ああ、でも招かれざる来客が会ったことは分かるわ! いきましょ、珠緒さん!」
「はい、足は止めずに生きましょう」
 リウェールを視界に収めていた珠緒が前方から踏み入ったことは地の利が理由であった。珠緒が工房内ルートを把握し、蛍とベネディクト行人が侵入経路より接敵して行く。
「――くそ、」
 毒吐いた黒曜は『4人』のイレギュラーズをその双眸に収めてから、目を眇めた。さて、イレギュラーズとは少人数で行動するものであったか。
「そこに頭は回るんだな? お邪魔しますご機嫌よう! さあ皆さん、労働時間は過ぎてるぜ。ゆっくり休む時だ!」
 がしゃん、と音を立て飛び込んだ風牙はその掌によく馴染んだ槍を振り回す。『失敗作』と称するほか無かった生気無いハーモニアを惹き付ける風牙の笑みは余裕が滲んでいた。


 ナイフを手にし、血塗れとなりながらも応戦するリウェールを一瞥し、アリシスの指先に光が灯される。先導する風牙が狙う『失敗作』達を包み込むのは断罪の秘蹟。眩くも突き刺さるのは浄罪の剣。逸脱した乙女は呻きを上げたハーモニアの無念を感じ取り嘆息を漏す。
「この死体……雇った幻想種を殺して実験台にでもしていたのですか?」
「だとしたら?」
 開き直ったかのように叫んだ黒曜は裏口から突入してきたイレギュラーズから己を護る盾になれと『失敗作』へと命じている。
 その内にリウェールは放置し逃げ出すことが出来ればと考えたのだろうが包囲網は完璧だ。睨め付けるアカツキは「幾つ『面白道具』を用意したかの?」と揶揄うように笑う。見透かす焔色の瞳は黒曜の居心地も悪く、荒れ狂う雷がのたうつ様を男は眺めることしか出来ない。
「だとしたら――だなんて。貴方は彼らを何と呼びましたか? 『失敗作』……殺して石を埋めて、ですか。
 この方たちのそれぞれの物語を奪い去ってまで……『同じ失敗を繰り返し意味のない』時間の犠牲にした、というのですか」
 唇を噛むリンディスのペンが綴るは数ある軍略の中より最も見合う戦略。励起されたそれは前行く風牙を包み込む。
「成果のために犠牲は必要だろう」
「成果だなんて……!」
 引き攣った声を漏した蛍は勝利の方程式を組み立てる桜技(おうぎ)の極意を食べ寝ては息を呑む。黒曜へと叩きつけた禍々しき闇の呪いは男の錬金アイテムの前に一度霧散する。それでも、撤退はさせぬと言う気概がその黒き瞳に宿される。
「その成果も真実が詳らかにされたら台無しやものね」
「……ええ、そうでしょう。だからこそリウェールさんを狙った。……思い切った手を打たれましたが……間一髪、でしょうか」
 珠緒はリウェールの生存を確定させるべく彼女の回復に尽力していた。其れだけではなく黒曜には斯うした手段に出る理由が存在していたのだろう。
 それを察するには容易く、理解に届いてしまう以上は珠緒は黒曜に掛ける言葉は存在しなかった。
 リンディスのように遣りきれぬ想いを告げる訳でもなく、悔恨の意志に目を伏せるわけでもない。ベネディクトは「やり過ぎたな」と黒曜を庇わんと動いた失敗作を薙ぎ払うのみだ。
「……何とか間に合ったか。此処までだ、黒曜の。これ以上そちらの好きにさせる心算は無い」
「元はと言えば勝手にそちらが手出ししてきただけだろう? 僕は僕の好きな研究をしていただけ。
 それ以上の理由は存在しては居ないし、そもそも『鮮血公女(あのおんな)』に不利益を与えてさえない」
 開き直るかのような言葉を発する男に反省の余地などない。
『狂っている』と言うのがまともな感性の人間の感想だろう。少なくとも蛍はそう感じ、珠緒は呆れるだけだ。
「聞いてる限りじゃあ、そうだ。『勝手』をしてるだけだ。なら俺たちだって『勝手』に押しつけがましく戦っても構わないだろ?」
「あら、同意見やないの」
「まあね。俺は邪魔をする気は無いぜ。好きにやろうぜ、お互いに!」
 こてん、と愛らしく首を傾いで見せるリウェールの眸に宿った好戦的な気配は酷く嗜虐性に偏った彼女の裏の顔そのもの。行人は「死なないように」と揶揄い声を上げ、地を蹴った。
 リウェールの補佐は万全だ。一時的な肉体再生の能力に含め珠緒のバックアップが存在している。ならば、行人は己が発した様に『好きにやる』だけなのだ。
「僕は許諾していない。押しつけがましい倫理観で、貴重な研究を台無しにしないでくれないか!」
「貴重な研究。成程……しかし、随分と焦った御様子ですね。
 錬金術師として見ても、『博士』やタータリクスに比べれば貴方による実害の規模は大したものでもなかったのですが」
 肩を竦めるアリシスに「黙れ」と男は叫んだ。上擦る声音からも感じられた焦燥に風牙は無言の儘に、槍を振り上げる。
 失敗作の『身体』を傷つけすぎぬように時を配った。風牙の行動に従うようにアカツキは『一発ダウン』を狙い続ける。
 彼らはいいように利用され殺害された挙げ句の果てに、死しても尚、個人の尊厳を傷つけられながら遣い潰されている。
「人を何だと思ってるんだ――!」
 風牙が唇を噛みしめ、アカツキは「風ちゃん、あんな小物に激昂するでないぞ。はやく弔ってやろう」とその方を叩く。
「死してなお遺体を酷使するとはのう。錬金術師は等価交換が原則……ではなかったか?
 とても釣り合っているようには見えぬが。まったく……お主のような手合がおるから妾達が忙しくなるのじゃ」
「ええ。等価交換の原則さえも守れぬ錬金術師が人の命を愚弄しただけ。
 確かに些かやり過ぎではあるものの、私達の知る限り言ってしまえばその程度の域は越えていない。酷く、情けのない結果ではありませんか」
 アリシスの魔性の囁きに黒曜は煽られるように手にしていた石を投げた。
 アカツキの目が追い、リンディスは「注意してください!」と蛍へと告げる。頷く蛍は後方に控える珠緒に被害が出ぬようにと己が決意を胸にした。
「煩い煩い煩い――! お前等に何が分かるんだ!」
 一歩後退したか。逃がさないと声を上げた蛍に続き行人はやれやれと肩を竦める。
「お前、引いたな? ここで引いたことはお前の心に澱として残った。ふとした時に、ここぞという時に。
 心の中で舞い上がる澱として、お前の心に残った。まぁ、逃がす気は更々ないんだが、ね!」
 さて、此処から集中狙いだ。『失敗作』達に安らぎ与えるように願うリンディスが視線で合図をする。
 暴れ狂うかの如く、『理性』と呼ぶべきストッパーが外れてしまっているリウェールは「次は何れを斬ろうか?」と首を傾げた。


 ――せめてどうか、彼らに安らぎを。戦いに巻き込んでしまって、ごめんなさい。
 祈るように囁いたリンディスは無数の骸の向こう側で尚も抵抗を続ける黒曜の姿を視認する。
「……生憎と逃がす心算はないのでな、覚悟を決めろ、黒曜」
 ベネディクトが地を蹴った。槍に乗せられたのは裂帛の気合。鋭い踏み込みと共に黒曜が『アイテム』で展開した盾に罅を作る。
「只の研究。何を攻められる必要が――!」
「只の、とお前にとっては口に出来る程度の事だったのだろうが……。
 等価交換という錬金術師にとっての不文律だ。お前の行いはお前の死によって償われるのかもしれないぞ」
 青年の青き瞳に宿された獣性ににいと唇を吊り上げたアカツキが「行くぞ!」と刻み込まれた刻印へと魔力を奔らせた。
 焔に魅入られたふたつの眸がぎらりと光を宿す。リンディスの補佐を受け、殲滅の魔術を放つアカツキの前を風牙が走った。
「号をもって呼ばれる程の方なれば、因果応報は弁えられませ」
 囁く珠緒は思念制御方の武装で桜花の刃を作り出した。それは自身の眼前で乱戦に揉まれながらも立ち続ける藤花の如き。決して赦さぬ敵を穿つための桜花にとっての力。
「さぁ、もう逃げられないわよ! あきらめて法の裁きを受けなさい!
 因果応報、自分の行ないはいつか必ず自分に返ってくるものなんだから!!」
 落ち着き払った珠緒とは対照的に。しかと黒曜をその双眸で捕らえて放さぬ蛍が叫ぶ。
 どうにかして逃げ果せんとする黒曜の仕草一つ、見過ごさぬようにと行人はその耳を欹てた。此処で逃がしてなるものか。呼吸や衣擦れ、脚の立てる音の一つから予備動作を全て判別し続ける。
「何故、邪魔を――!」
「簡単な話です。生かしておいても……取引先の問題等が後の面倒の種になります。此処で始末した方が楽だというだけ。
 それは私達の勝手な意見ですが、元はと言えばそちらも『勝手』をなさったのでしょうから問題は無いでしょう?」
 唇に乗せられた蠱惑的な笑みはアリシスの指先から断罪の軌跡の刃を放つだけだ。
 身を隠し続け、大人しくしていれば良かったものの、自らが出向いて襲撃を仕掛けてくるとは不安が過ぎる。
「言ったじゃない! 因果応報って!」
「はい。貴方が生き残ったのならば法の裁きに掛かることになる。更生の芽があればと思ったのですが……」
 この態度では法の裁きの下でも彼は更生しないだろう。『黒い石』に魅入られてしまった錬金術師は何度でも繰り返す。
 それが道を違えたものの在り方である事をリンディスは知っていた。コレまで目にした錬金術師達は道を違えた者は二度とは真っ当なる陽の下へと戻ることはなかった。
「償え」
 風牙の低い声音は地を這うように迫り行く。此処で命を奪うことはなくとも、彼は表向きには死んだ事にしておくべきだ。法の下で裁かれた後は名を変え、更生への道を探させなくてはならない。
「どうしてこの研究の偉大さが分からない! 『使って遣った』命も研究の糧に慣れた事を感謝しているだろうに!
 錬金術による等価交換はもう為されている。あれは只の『リサイクル』じゃあないか」
「……あまり離さない方が良い。手許が狂ってしまうかも知れないだろう」
 睨め付けるベネディクトの槍が苛烈であれど、慈悲の気配を帯びた。
 びくりと肩を跳ねさせる男に「『今』はおしまいにしましょうか」と珠緒の静かな声音が柔らかに降り注ぐ。
「ッ、止めろ!」
「うちも『丁重』におもてなししたりたかってんけどなあ」
 うっとりと笑う『鮮血』の乙女を留めるように身を滑り込ませた風牙に珠緒は小さく頷いた。
 暴走しているリウェールが止めを刺してしまわぬように。『黒曜』の凶行を断ち切る剣を振り下ろす。
 最後は、珠緒と蛍の二人でひとつの力であるように。桜花と藤花の気配が周囲に舞い踊り――そうして、男の意識は暗く狩り取られた。


 倒れ伏した黒曜を眺めやっても尚、リウェールの両腕からナイフは零れ落ちることはなかった。
「強硬手段に出ましょうか」と肩を竦める珠緒にリンディスは「リウェールさん!」と名を呼ぶ。
「血ならば私を切り刻んでも構いませんから。
 貴女の研究はここで終わるべきではありません、自身の研究のための手をこれ以上汚す必要はありません
 どうか、どうか自分を取り戻して。こんなことで止まってしまわないで」
「せやけど、ふふ……良いサンプルが沢山あるみたいやよ?」
 首を傾げる仕草は愛らしいが、その言動は狂気そのもの。
「リウェールちゃんもその辺にしておいてはどうかのう。血をよこせ? ……うーんこれは狂戦士……まあ妾ので良ければ?」
 アカツキの元にぐっと迫り来るリウェールにベネディクトは「強硬手段、了解した」と困り顔で頷くだけであった。
 ――屋内戦闘という遣り辛さを終えてからの事ではあるが、落ち着いたと深く息を吐いた蛍がへとへととその場に座り込む。
「珠緒さん、リウェールさんの様子はどう? なんかさっきはちょっといつもと違うように思えたんだけど……」
「リウェールさんはしばらく養生ですかね……ああなると、いつも死にかけられる印象なのですよ」
 血塗れになりながら笑みを浮かべていたリウェールを珠緒は困った様子で一瞥した。
「え、あれもある意味いつも通り? そ、そう……」
 嫌な汗を掻いてしまったが、ああやって暴走するからこそイレギュラーズに頼っていたのだと考えれば納得も行く。
「戦闘が終わったら後片付けのお手伝いかな。こりゃあ……」と肩を竦める行人の目の前では目を回して伸びたリウェールが無造作に転がっていた。
 一先ず彼女をソファーにでも運んでから『ナイフ』をそっと隠すところから始まりそうだ。
「拠点の所在や黒曜自身の行っている研究等、始末しておくべき事柄として色々と気になる事もありますけれど……」
「それはまたリウェールさんに調査して貰っても良いかも知れません。諸悪の根源は討ち取りましたから、ゆっくりとでも」
 アリシスは運ばれていくリウェールの傷の手当てをするために慣れた様子で救急箱を取りに行く珠緒に頷いた。
「よければ『失敗作(このひと)』達を弔いたいんだ。手伝ってくれないか? ほら……こういうさ、大切なものもあるみたいだし」
 風牙は失敗作と呼ばれていたハーモニアの衣服から身元が分かりそうなものが出てきたのだと取り上げた。
 ロケットペンダントの中には遺族と呼ぶべきだろうか、幸福そうに微笑む家族の姿がある。
「……ああ」
 息を呑むリンディスの腕をぎゅうと掴んで疲弊した表情のアカツキは「終わったのじゃな」と目を伏せる。
「そうだな、もうこれで、黒い石で狂わされるものも出なくなるだろう」
 風牙は死者の瞼をそっと閉じてから祈るように目を伏せた。非人道的な行いは、時に人を狂わして行く。
 アリシスが名を上げた者達のように、錬金術は未知と人の有り得ざる願望を鏡のように照らすのだから。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした。シナリオの代筆を担当させていただきました夏です。
 この度は弊社クリエイター都合によりお客様には執筆担当変更のご迷惑をおかけして誠に申し訳ございませんでした。

PAGETOPPAGEBOTTOM